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明細書 :電場を用いた被処理水からのリンの除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3536092号 (P3536092)
公開番号 特開2002-361258 (P2002-361258A)
登録日 平成16年3月26日(2004.3.26)
発行日 平成16年6月7日(2004.6.7)
公開日 平成14年12月17日(2002.12.17)
発明の名称または考案の名称 電場を用いた被処理水からのリンの除去方法
国際特許分類 C02F  1/46      
C02F  1/28      
C02F  1/58      
FI C02F 1/46 ZABZ
C02F 1/28
C02F 1/58
請求項の数または発明の数 6
全頁数 5
出願番号 特願2001-175192 (P2001-175192)
出願日 平成13年6月11日(2001.6.11)
審査請求日 平成13年6月11日(2001.6.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012349
【氏名又は名称】群馬大学長
発明者または考案者 【氏名】榊原 豊
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】加藤 幹
参考文献・文献 特開 平10-225691(JP,A)
特開2000-233189(JP,A)
特開 平7-163814(JP,A)
特開 昭59-87093(JP,A)
特開 昭55-3812(JP,A)
調査した分野 C02F 1/46
C02F 1/28
C02F 1/58
特許請求の範囲 【請求項1】
被処理水を入れた槽内に多重電極を浸漬し、該多重電極に直流電圧を印加して該被処理水中の陽イオンの泳動及び/又は電気分解により水酸化物イオンを発生させ、該被処理水中のリン酸イオンを水に難溶性の塩にして沈殿させるリンの除去方法であって、
前記多重電極が、陽極1枚に対して陰極を複数枚設置して操作するものであり、
前記多重電極が、多孔質状又はメッシュ状であることを特徴とするリンの除去方法。

【請求項2】
前記槽内に粒状固体を充填することを特徴とする請求項1に記載のリンの除去方法。

【請求項3】
前記槽に被処理水を流通させつつ、陽イオンの泳動、蓄積及び/又は電気分解を行うことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のリンの除去方法。

【請求項4】
前記粒状固体が、砂、ガラスビーズ又は貝であることを特徴とする請求項2に記載のリンの除去方法。

【請求項5】
前記被処理水がカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のリンの除去方法。

【請求項6】
前記被処理水から除去されたリン化合物を、逆洗により回収することを特徴とする請求項2又は4に記載のリンの除去方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、被処理水からのリンの除去方法に関する。より具体的には、本発明は、被処理水に電場を形成させ水酸化物イオンを蓄積させるか、電気分解することにより水酸化物イオンを発生させ、被処理水中のリン酸イオンを水に難溶性の塩にして沈殿させることを特徴とするリンの除去方法に関する。

【0002】
【従来の技術】従来の被処理水からのリンの除去方法としては、消石灰、鉄塩、アルミニウム塩等の凝集剤を添加する方法、粘土鉱物やアルミナ等の吸着剤を添加する方法、又は増殖中の微生物に吸収させる方法等があった。しかしながら、これらの方法は操作が煩雑で、汚泥発生量も多いため、実規模の水処理装置への適用例は少ない。一方、汚泥発生が少ないリンの除去方法としては、若干のカルシウム種晶を添加して、ヒドロキシアパタイトを析出させる方法があるが、実排水に対する処理安定性の問題等により実用化には至っていない。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点を解決するため、処理操作がきわめて簡単で、化学薬品を添加せず、かつ高効率でリンの除去が可能な、新しい被処理水からのリンの除去方法を提供することを目的とする。

【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの課題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明のリンの除去方法は、被処理水を入れた槽内に多重電極を浸漬し、該多重電極に直流電圧を印加して該被処理水中の陽イオン泳動及び/又は電気分解により水酸化物イオンを発生させ、該被処理水中のリン酸イオンを水に難溶性の塩にして沈殿させるリンの除去方法であって、前記多重電極が、陽極1枚に対して陰極を複数枚設置して個々の陰極を操作するものであり、前記多重電極が、多孔質状又はメッシュ状であることを特徴とする。本発明に係るリンの除去方法の好ましい態様には以下のものがある。
(1)前記槽内に粒状固体を充填する。
(2)前記槽に被処理水を流通させつつ、陽イオンの泳動、蓄積及び/又は電気分解を行う。
(3)前記粒状固体が、砂、ガラスビーズ又は貝である。
(4)前記被処理水がカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有する。
(5)前記被処理水から除去されたリン化合物を、逆洗により回収する。なお、特に矛盾しない限り、上記(1)から(5)の任意の組み合わせもまた本発明の好ましい態様である。

【0005】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の方法について詳細に説明する。本発明ではイオンの泳動及び/又は電気化学反応を利用するため、電極を使用する。電極の材料としては、陰極にはチタン、鉄等が、陽極には白金、鉄等が使用できる。電極の形状は、多孔質状又はメッシュ状である。多孔質状又はメッシュ状は、電極と被処理水の接触面積を大きくすることができるので、反応効率を上げる観点から好ましい。本発明では、陽極と陰極の間に水透過性の隔膜を設けることができる。水透過性の隔膜としては、スポンジ等が例示できる。水透過性の隔膜を設けることによって、陰極周辺のアルカリ性水と陽極周辺の酸性水の混合を阻害でき好ましい。電圧を印加した場合に陰極から水素及び陽極から酸素が発生する場合は、少なくとも気相部分には隔壁を設けることが好ましい。気相部分に設ける隔壁としては、プラスチックシート、プラスチック板等が挙げられる。

【0006】
本発明で使用する電極は多重電極である。本発明において多重電極とは、陽極と陰極をペアーで用いる従来の電極系とは異なり、陽極1枚に対して陰極を複数枚設置して操作するものをいう。この場合に、それぞれの電極を独立して操作できるようにしたものもある。陽極に隣接する陰極は陽極の影響を受け易いが、多重電極の場合は陽極に隣接する陰極以外の陰極は陽極の影響を受け難く、陰極周辺にアルカリ性領域を好適に形成することができる。従って、電極の配置は、できるだけ同じ極性の電極が隣接するような配置が好ましく、例えば、陰極3枚と陽極1枚を槽内に配置する場合は、陰極-陰極-陰極-陽極の順の配置が好ましい。本発明では、陽極に対する陰極の数は特に限定されず、例えば、本発明の方法は、陽極1枚に対し陰極3乃至5枚の範囲で好適に実施できる。

【0007】
本発明で使用する多重電極は、イオン及び被処理水が通過できる穴が開いており、多孔質状又はメッシュ状である。より具体的な電極の形状としては、金網やエクスパンドメッシュ等が挙げられる。陽極に対して陰極を複数化すると陰極周辺はアルカリ性領域となり、リン酸イオンがアパタイトやCa塩、Mg塩として晶析及び沈殿しやすくなる。

【0008】
本発明では、陰極周辺は以下の三つの現象によりアルカリ性となる。第一には、陰極を多重化しているため、自然界の地表水あるいは地下水の主要構成イオンであるCa2+、Mg2+等が泳動により引き寄せられ、電気的中和を保つため、これらのアルカリ土類金属イオンと等価のOHが生成しアルカリ性となる。第二には、被処理水中の溶存酸素が陰極で還元されOHが生成し、陰極近傍がアルカリ性となる。
1/2O+HO+2e→2OH
第三には、水の電気分解反応により陰極でOHが生成し、陰極近傍がアルカリ性となる。
2HO+2e→H+2OH
一方、陽極周辺は、水の電気分解によりHが生成して酸性となり、処理槽からはHの中和作用により中性の処理水が排出される。
O→O+H+2e

【0009】
本発明では、リン酸イオンは陰極の周辺領域において、Ca2+、Mg2+等の陽イオン及びOHと反応し、例えばCa(PO(OH)を生成し、該生成物が水に難溶性であるため沈殿し除去される。また、本発明では、リン酸イオンは陰極の周辺領域において、Ca2+、Mg2+等の陽イオンと反応し、例えばCa(PO、Mg(POを生成し、該生成物がアルカリ性の水に難溶性であるため沈殿し除去される。更に、本発明では、Ca2+、Mg2+等の陽イオンとOHとが反応してCa(OH)、Mg(OH)が生成し、Ca(OH)、Mg(OH)がリン化合物を吸着する性質を有することから、種々の難溶性リン化合物を吸着し除去することも考えられる。

【0010】
本発明で使用する槽の大きさは、特に限定されず、被処理水の処理量に応じて適宜選定される。本発明は用水路、河川、湖沼、貯水池、内湾等に直接電極を浸漬して電圧を印加しても達成され、その場合は、用水路、河川、湖沼、貯水池、内湾等自体が槽に相当する。

【0011】
本発明では、多重電極を備えた槽に粒状固体を充填することができる。本発明で使用する粒状固体としては、リンの凝集沈殿及び/又は析出反応を促進する性質を有するものを使用することが好ましい。粒状固体を充填しない場合は、水に難溶性のリン化合物が電極表面にスケールとして析出し、電流が流れ難くなる。一方、粒状固体を充填した場合は、リン化合物の粒状固体上での凝集沈殿及び/又は析出反応が促進されるため電極表面上でのスケール析出量が減少し、電流を安定的に流すことが可能になる。本発明で使用する粒状固体としては、砂、礫、リン鉱石、ガラスビーズ、貝、活性炭、金属粒子等が例示できるが、これらに限定されるものではない。粒状固体の大きさは、特に限定されるものではないが、直径数mmから数cmが好ましい。

【0012】
本発明において被処理水とは、リンを除去される水であり、用排水、河川水、地下水、海洋水等が例示できる。通常の用排水、河川水、地下水、海洋水等の被処理水は、Ca2+、Mg2+を数10mg/L含有しており、これらの陽イオンとリン酸イオンが水酸化物イオンの存在下で水に難溶性の化合物を生成して沈殿し、リンが除去される。従って、本発明の被処理水はCa2+、Mg2+を含有していることが好ましい。また、本発明の被処理水は、汚泥などを有していてもよく、特に濾過等の前処理を必要とはしない。

【0013】
本発明では、被処理水の入った槽に多重電を浸漬し、該電極に直流電圧を印加して、直流電流を流す。電極に流す直流電流の電流値は、数mAから数100kAの範囲である。一方、電極に印加する直流電圧の電圧値は、前記電流値に従い適宜選択される。

【0014】
本発明では、被処理水の処理時間は数分から数時間の範囲である。処理時間は目標とするリンの除去量に応じて適宜選択され、除去量が多い場合は処理時間を長く、除去量が少ない場合は処理時間を短くすることが好ましい。リンの除去量が少ないにも関わらず、処理時間が長い場合は、単位時間あたりの被処理水の処理量が減り、経済的に好ましくない。

【0015】
本発明では、被処理水の処理温度は特に限定されず、通常の用排水、河川水、地下水、海洋水等の温度であり、10から30℃の範囲である。特に処理温度を制御する必要はなく、実際の用排水、河川水、地下水、海洋水等の温度で処理することにより、温度調節に要するエネルギーコストを省くことができる。

【0016】
本発明では、粒状固体上に析出したリン化合物を逆洗により回収することができる。逆洗により回収できるリン化合物としては、Ca(PO(OH)、Ca(PO、Mg(PO等が挙げられる。回収されたリン化合物は、肥料やその中間原料と使用でき、環境保全、資源循環に大きく寄与する。リン化合物以外に回収できる化合物としては、CaCO、MgCO、Ca(OH)、Mg(OH)等が挙げられる。逆洗に使用する液体としては、被処理水若しくは処理後の被処理水、陽極部周辺の酸性水又はこれらの混合液が挙げられる。被処理水又は処理後の被処理水を用いた場合は、前記粒状固体を流動化させ、粒状固体上に析出したリン化合物を該粒状固体から物理的に分離させるのが好ましい。一方、陽極周辺の酸性水を用いた場合は、析出したリン化合物が酸性水に溶解して回収される。

【0017】
本発明では、回分方式で被処理水からリンを除去することも流通方式で被処理水からリンを除去することも可能である。回分方式では、リンの除去後に被処理水を入れ替える操作を必要とするが、流通方式では連続処理が可能なため、用排水、河川水、地下水、海洋水等の大量の被処理水からリンを除去するに好適である。また、流通方式を採用した場合、被処理水により粒状固体が流動化し、電極上に析出するスケールが物理的に剥がれ好ましい。流通方式における被処理水の流通方向としては、電極に直流電圧を印加することにより形成される電場の向きと平行に流すflow-through方式、該電場の向きに垂直に流すflow-by方式等があるが、特に限定されない。

【0018】
本発明でのリンの濃度分析としては、例えば、モリブデン青吸光光度法等が挙げられる。リン酸イオンは、モリブデン酸アンモニウム溶液を加えるとモリブドリン酸イオンが生成し、このモリブドリン酸イオンを酸性溶液中で塩化スズ(II)により還元するとモリブデンブルーが生成する。このモリブデンブルーを吸光光度計で比色定量することにより、水溶液中のリン濃度を定めることができる。

【0019】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。

【0020】
実施例1
Na221mg/L、K8.0mg/L、Ca2+28mg/L、Mg24mg/L、Cl372mg/L、NO3-4.0mg-N/L、SO2-32mg-S/L、PO3-3.0mg-P/L、HCO12mg/Lを含有する被処理水を、粒状固体としてガラスビーズが充填され、陽極1枚と陰極3枚からなる多重電極を備えた、図1に示す内容積0.5Lの水槽に、陰極側から陽極側に流通させる。ここで使用した多重電極は、陰極-陰極-陰極-陽極の順番で配置され、間隔は2cmである。電極の形状は、陽極、陰極ともに金網状であり、電極の材質は、陰極はチタン、陽極は白金であった。また、陰極と陽極の間にはスポンジを水透過性の隔膜として使用した。被処理水の処理時間は1時間とし、1時間で水槽内の被処理水が置換されるようにした。被処理水を流通させてから60時間後に、9mAの電流を前記多重電極に流した。9mAの電流を流してから160時間後に、水槽から排出された被処理水のリン濃度を分析したところ、リン濃度は1.7mg-P/Lであった。なお、リンの濃度分析はモリブデン青吸光光度法で行った。次に、9mAの電流を流し始めてから200時間後に、電流値を18mAに上昇させた。18mAの電流を流してから240時間後に、水槽から排出された被処理水のリン濃度を分析したところ、リン濃度は1.3mg-P/Lであった。次に、18mAの電流を流し始めてから280時間後に、電流値を36mAに上昇させた。36mAの電流を流してから160時間後に、水槽から排出された被処理水のリン濃度を分析したところ、リン濃度は1.1mg-P/Lであった。上記の結果を、図2に示す。なお、図2には上記以外の測定時点におけるリン濃度も記載してある。

【0021】
実施例2
粒状固体として貝を用いた以外は実施例1と同様に行った。9mAの電流を流してから160時間後の水槽から排出された被処理水のリン濃度は1.3mg-P/L、18mAの電流を流してから240時間後の水槽から排出された被処理水のリン濃度は1.3mg-P/L、36mAの電流を流してか160時間後の水槽から排出された被処理水のリン濃度は1.3mg-P/Lであった。上記の結果を、図2に示す。なお、図2には上記以外の測定時点におけるリン濃度も記載してある。

【0022】
実施例3
実施例1で使用した被処理水を、粒状固体として砂が充填され、実施例1と同じ多重電極を備えた内容積0.5Lの水槽に、陰極側から陽極側に流通させる。なお、被処理水が水槽を流通する時間は1時間とした。被処理水を流通させてから60時間後に、9mAの電流を前記多重電極に流した。9mAの電流を流してから160時間後に、水槽から排出された被処理水のリン濃度を分析したところ、リン濃度は0.2mg-P/Lであり、リンの除去率は94%であった。上記の結果を図3に示す。なお、図3には、ガラスビーズ及び貝を用いた場合も、併せて記載してある。

【0023】
【発明の効果】本発明により、処理操作が極めて簡単で、化学薬品を添加せず、高効率でリンを除去又は/及び回収する方法が提供される。また、回収されたリン化合物は、肥料やその中間原料と使用できるため、本発明は、環境保全、資源循環に大きく寄与する。また、風車、太陽光パネル等を用いることにより、電源として自然エネルギーを利用できる。

【0024】
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2