TOP > 国内特許検索 > 磁気記録媒体の評価装置及び方法並びにコンピュータによって実行されるプログラム > 明細書

明細書 :磁気記録媒体の評価装置及び方法並びにコンピュータによって実行されるプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3477519号 (P3477519)
公開番号 特開2003-006847 (P2003-006847A)
登録日 平成15年10月3日(2003.10.3)
発行日 平成15年12月10日(2003.12.10)
公開日 平成15年1月10日(2003.1.10)
発明の名称または考案の名称 磁気記録媒体の評価装置及び方法並びにコンピュータによって実行されるプログラム
国際特許分類 G11B  5/84      
G01N 27/72      
G06T  1/00      
G06T  7/60      
FI G11B 5/84 C
G01N 27/72
G06T 1/00
G06T 7/60
請求項の数または発明の数 6
全頁数 9
出願番号 特願2001-190855 (P2001-190855)
出願日 平成13年6月25日(2001.6.25)
審査請求日 平成13年6月25日(2001.6.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391016923
【氏名又は名称】北海道大学長
発明者または考案者 【氏名】長谷山 美紀
【氏名】武笠 幸一
【氏名】武隈 育子
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】日下 善之
参考文献・文献 特開 平10-198902(JP,A)
特開2002-269541(JP,A)
特開 平11-175966(JP,A)
特開 平9-22527(JP,A)
特開 平6-195602(JP,A)
特開2000-322580(JP,A)
田中知子、竹尾昭彦、田中陽一郎,MFMによる磁化転移性ノイズおよびパーシャルイレージャーの定量評価,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人 電子情報通信学会,1998年 7月17日,Vol.98,No.182,1-6
Tomoko Komai Taguchi,Akihiko Takeo and Yoichiro Tanaka,Quantitative MFM Study on Partial Erasure Behavior,IEEE TRANSACTION ON MAGNETICS,米国,1998年 7月,Vol.34,No.4,1973-1975
調査した分野 G11B 5/84
特許請求の範囲 【請求項1】
磁気記録媒体の観察像の磁極領域を抽出する手段と、
その磁性領域の磁化状態を解析する手段と、
その磁化状態に基づいて、前記磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なう手段とを具え、
前記磁極領域を抽出する手段が、
前記観察像を2値化して、正又は負の磁極領域を抽出する手段と、
その正又は負の磁極領域の細線化を行なう手段とを有することを特徴とする磁気記録媒体の評価装置。

【請求項2】
前記磁化状態を解析する手段が、
前記磁極領域の磁極分布の方向性を解析する手段を有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の評価装置。

【請求項3】
磁気記録媒体の観察像の磁極領域を抽出するステップと、
その磁性領域の磁化状態を解析するステップと、
その磁化状態に基づいて、前記磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なうステップとを具え、
前記磁極領域を抽出するステップが、
前記観察像を2値化して、正又は負の磁極領域を抽出するステップと、
その正又は負の磁極領域の細線化を行なうステップとを有することを特徴とする磁気記録媒体の評価方法。

【請求項4】
前記磁化状態を解析するステップが、
前記磁極領域の磁極分布の方向性を解析するステップを有することを特徴とする請求項3記載の磁気記録媒体の評価方法。

【請求項5】
磁気記録媒体の観察像の磁極領域を抽出するステップと、
その磁性領域の磁化状態を解析するステップと、
その磁化状態に基づいて、前記磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なうステップとを具え、
前記磁極領域を抽出するステップが、
前記観察像を2値化して、正又は負の磁極領域を抽出するステップと、
その正又は負の磁極領域の細線化を行なうステップとを有することを特徴とするコンピュータによって実行される磁気記録媒体の評価プログラム。

【請求項6】
前記磁化状態を解析するステップが、
前記磁極領域の磁極分布の方向性を解析するステップを有することを特徴とする請求項5記載のコンピュータによって実行される磁気記録媒体の評価プログラム。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気記録媒体(以下、「媒体」という。)の観察像を用いて媒体の記録密度を評価する磁気記録媒体の評価装置及び方法並びにコンピュータによって実行されるプログラムに関するものである。

【0002】
【従来の技術】従来、媒体の記録密度を評価するに当たり、例えば、武隈育子、安井、雅彦、奥村善信、秋田憲、末岡和久、長谷山美紀及び武笠幸一による日本応用磁気学会誌,22,No.9,1251(1998)で提案されているように、ビット領域に与える磁化の揺らぎの度合いを評価するパラメータL/Wの値を用いている。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】このようなパラメータL/Wを用いた評価は、比較的低い密度の磁化領域においては適切ではあるものの、比較的高い密度の磁化領域では、トランジション領域における磁化状態の揺らぎとPE(Partial Erasure)などの非線形現象の双方が反映されるため、値の判断が困難になる。

【0004】
本発明の目的は、比較的高い密度の記録領域において適切に評価を行なうことができる磁気記録媒体の評価装置及び方法並びにコンピュータによって実行されるプログラムを提供することである。

【0005】
【課題を解決するための手段】本発明による磁気記録媒体の評価装置は、磁気記録媒体の観察像の磁極領域を抽出する手段と、その磁性領域の磁化状態を解析する手段と、その磁化状態に基づいて、前記磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なう手段とを具え、前記磁極領域を抽出する手段が、前記観察像を2値化して、正又は負の磁極領域を抽出する手段と、その正又は負の磁極領域の細線化を行なう手段とを有することを特徴とする。

【0006】
高密度領域においては、隣接トランジション間の相互作用が生じ、孤立トランジションの線形重ね合わせでは説明することができない非線形現象が起こる。その非線形現象の一つであるPEは、高密度領域における媒体ノイズと密接な関係がある。本発明によれば、磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なうので、高密度領域における媒体ノイズと密接な関係を知ることができ、その結果、比較的高い密度の記録領域において適切に評価を行なうことができる。

【0007】
なお、本明細書中、高密度領域とは、非線形現象が生じている記録密度の領域を意味し、低密度領域とは、非線形減少が生じていない記録密度の領域を意味する。

【0008】
前記磁化状態を解析する手段は、例えば、前記磁極領域の磁極分布の方向性を解析する手段を有する。

【0009】
本発明による磁気記録媒体の評価方法は、磁気記録媒体の観察像の磁極領域を抽出するステップと、その磁性領域の磁化状態を解析するステップと、その磁化状態に基づいて、前記磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なうステップとを具え、前記磁極領域を抽出するステップが、前記観察像を2値化して、正又は負の磁極領域を抽出するステップと、その正又は負の磁極領域の細線化を行なうステップとを有することを特徴とする。

【0010】
本発明によれば、比較的高い密度の記録領域において適切に評価を行なうことができる。

【0011】
前記磁化状態を解析するステップは、例えば、前記磁極領域の磁極分布の方向性を解析するステップを有する。

【0012】
本発明によるコンピュータによって実行される磁気記録媒体の評価プログラムは、磁気記録媒体の観察像の磁極領域を抽出するステップと、その磁性領域の磁化状態を解析するステップと、その磁化状態に基づいて、前記磁気記録媒体の比較的高い密度の領域のPE生成確率の評価を行なうステップとを具え、前記磁極領域を抽出するステップが、前記観察像を2値化して、正又は負の磁極領域を抽出するステップと、その正又は負の磁極領域の細線化を行なうステップとを有することを特徴とする。

【0013】
本発明によれば、比較的高い密度の記録領域における適切な評価をコンピュータによって実行することができる。

【0014】
前記磁化状態を解析するステップは、例えば、前記磁極領域の磁極分布の方向性を解析するステップを有する。

【0015】
【発明の実施の形態】本発明による磁気記録媒体の評価装置及び方法並びにコンピュータによって実行されるプログラムの実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明による磁気記録媒体の評価装置のブロック図である。

【0016】
この評価装置は、媒体の観察像の信号S1が入力される2値化部1と、その出力が入力される細線化部2と、その出力が入力される変換部3と、その出力が入力される特性取得部4と、その出力が入力される評価部5とを具える。評価部5は、その結果の信号S2を出力する。評価装置の動作は、図示しないメモリに格納されたプログラムを図示しないCPUが実行することによって行われる。

【0017】
トランジションノイズは、媒体の記録密度を制限する大きな要因となっている。したがって、媒体の高密度化のためには、トランジションノイズの原因となる現象を把握し、記録再生特性との関係を明らかにする必要がある。

【0018】
トランジション領域における記録磁化状態は、DC消去状態における媒体の磁気クラスタ構造に依存すると考えられており、DC消去状態では、媒体の局所的な磁化の揺動を反映した磁化リップルと呼ばれる構造をとることが知られている。

【0019】
従来、主に磁化の揺動の波長を反映するクラスタサイズに着目した解析が行われてきたが、磁化リップルのブランチに着目した磁気クラスタ構造の解析はほとんど行われておらず、その特性についてもほとんど知られていない。

【0020】
磁化リップルのブランチは、磁気クラスタの境界部分に存在する磁極領域に相当し、媒体の磁化方向の分布やクラスタ形状の特徴が反映される。したがって、これらの特徴に着目してトランジション領域の磁化状態の関係を調べると、トランジションノイズの生成メカニズムを解明するための新たな知見が得られる可能性がある。

【0021】
本実施の形態では、媒体のMFM(Magnetic Force Microscopy)観察像を使用し、磁化リップルのブランチに相当する磁極領域の分布に着目した特徴解析を行う。また、得られた結果から、DC消去状態における磁気クラスタ構造と、トランジション領域における磁化状態や記録再生特性との関係を調べる。

【0022】
そのような関係を調べた結果、後に説明するように、DC消去状態において磁化の局所的な分散が大きく、かつ、磁極分布に特定の方向依存性が強く現れる媒体においてトランジション領域の磁化状態の揺らぎやPE(Partial Erasure)生成確率が大きくなることが明らかになった。また、PE生成確率が大きくなるに従って規格化媒体ノイズも大きくなることが確認される。

【0023】
磁化状態の解析に用いる媒体の特性を以下の表に示す。
【表1】
JP0003477519B2_000002t.gifMedium A, Medium B及びMedium Cは全てテクスチャのないCoCrPtTa/CrMo媒体である。記録ヘッドの書込みギャップ長を0.3μmとし、書込みトラック幅を1.5μmとし、浮上量を約50nmとする。なお、本実施の形態では、Medium A, Medium B及びMedium Cにおいて、150kFCI以下の記録密度領域が低密度領域に対応し、250kFCI以上の記録密度領域が低密度領域に対応する。

【0024】
媒体の観察のためにMFM(Digital Instrument社製:Nano Scope III)を使用し、測定を、Tapping Mode,リフトバイト15nmを用いて行った。探針としては、AFM専用Si探針上にCoCr系磁性膜を蒸着したものを使用し、測定に先立ち試料に対して垂直方向に蒸着した。また、共振周波数を約80kHzとした。表1には、文献M.Takahashi, A.Kikuchi, H.Hata and H.Shoji: IEEE Trans. Magn., 34, 1573(1998)に記載された手法を用いて求めたDC消去状態におけるクラスタサイズの値も示す。

【0025】
本実施の形態では、磁化方向の分布などの媒体の2次元クラスタ構造の特徴が反映されるブランチの方向性に着目した解析を試みる。このような解析を行うためには、磁化リップルのブランチに相当する磁性領域を抽出し、その分布を解析すればよい。なお、磁性領域は、磁気クラスタの境界部分に存在する。具体的には、以下説明する磁性領域を抽出する手順及び分布の方向性を解析する手順により解析を行う。

【0026】
先ず、磁性領域の抽出について説明する。2値化部1は、MFM観察像を、しきい値thを用いて2値化し、正又は負の磁極存在領域を抽出する。本実施の形態では、最適なしきい値を決定するために、予めGA(genetic algorithm)による手法を用いて磁極領域を抽出し、その領域の平均画素値によってしきい値を決定する。

【0027】
その後、線形化部2において、磁性領域の方向性の特徴を抽出しやすくするために領域の細線化を行う。細線化は、芯線化とも呼ばれ、線図形の認識のために用いられる一般的な手法である。

【0028】
次に、分布の方向性の解析について説明する。変換部3は、磁極分布の方向性について定量的な解析を行うために、細線化された領域に対してハフ変換を行なう。ハフ変換では、細線化によって認識された線要素から主要な直線成分を検出することができ、線状に分布する傾向の度合いや、分布の方向性を定量的に評価することができる。また、ハフ変換は、直線などのパラメトリックな図形のパターン抽出法として最も有力な手法である。

【0029】
ここで、ハフ変換の一例を、図2を用いて説明する。図2(a)のx-y空間上の画素(xi,yi)(i=1,2,3)をそれぞれ、以下の式に従って変換すると曲線C(xi,yi)(i=1,2,3)が得られる(図2(b))。
【数1】ρ=xicosθ+yisinθ(i=1,...,N)
ここで、Nは、細線化によって検出された画素数を示す。x-y空間上において(xi,yi)(i=1,2,3)は直線K上に並んでいるので、変換されたθ-ρ空間の曲線C(xi,yi)(i=1,2,3)は1点P(θKK)で交差している。このP(θKK)を数1に代入すると、対応するx-y空間上の直線Kが得られる。

【0030】
分布の方向性の解析の具体的な手順は以下のとおりである。1.細線化により抽出された画素のx-y座標(xi,yi)に対し、数1に従ってθ-ρ空間上に曲線を描く。2.N個の(xi,yi)に対して1の手順を繰り返す。3.最終的に得られるθ-ρ空間において、比較的多数の曲線が交差している(θ,ρ)から、対応するx-y空間における主要な直線成分を検出する。

【0031】
本実施の形態において、DC消去領域として10kFCIで記録したビット領域を解析の対象とする。実際に負の磁極領域に対して細線化を行なった例を図3に示す。なお、図3(a),(c),(e)はそれぞれ、DC消去状態におけるMedium A,Medium B及びMedium CのMFMイメージを示し、図3(b),(d),(f)はそれぞれ、図3(a),(c),(e)に対する細線化の結果を示す。

【0032】
Medium Aの場合、図3(b)に示すように、Medium B及びMedium Cに比べてクラスタサイズが大きいことを反映し、長い線成分が確認できる。但し、検出されている線成分の長さは、クラスタ境界に存在する磁極存在領域の長さを表しており、上記文献M.Takahashi, A.Kikuchi, H.Hata and H.Shoji: IEEE Trans. Magn., 34, 1573(1998)の手法を用いて求めたクラスタサイズの値(表1)との相関があると考えられるが、厳密には異なる量である。

【0033】
特性取得部4は、細線化された複数の領域(画像)に対してハフ変換を行なった後に抽出された線成分の傾きθの分布(ヒストグラム)を求める。それぞれの媒体について得られた結果を図4に示す。図4(a),(b),(c)はそれぞれMedium A, Medium B及びMedium Cに対するθの分布を示し、θとトラック方向との間の関係も同時に示す。

【0034】
図4(a)及び4(b)に示すように、Medium A及びMedium Bでは、トラック方向に対してほぼ対称な方向に強いピークが出現しており、クラスタ境界部に存在する磁極領域の分布に特定の方向依存性が見られる。一方、図4(c)に示すように、Medium Cのヒストグラムは、Medium A及びMedium Bに比べて偏平な形をしていることが確認できる。

【0035】
従来、トラック方向に対して垂直な方向にブランチが分布する縦波モードのリップル構造が観察されているが、いずれの媒体においてもトラック方向(磁化方向:θ=π/2)に平行なθ成分が比較的多く検出されており、縦波モードのリップル構造と異なる傾向を示している。この点についての詳細な説明を後に行なう。

【0036】
次に、表1に示した媒体と同一媒体について、150kFCI及び250kFCIの二つの記録密度におけるトランジション領域の磁化状態の解析を行なうとともに、それぞれの記録密度における評価方法について説明する。

【0037】
低密度領域における磁化状態の揺らぎの解析によれば、150kFCLにおいて比較的低密度な記録を行なった際における遷移領域の磁化の揺らぎを評価する。評価には、ビット領域に与える磁化の揺らぎの度合いを評価するパラメータL/Wの値を用いる。但し、パラメータL/Wの値が小さいほどトランジション領域における磁化状態の揺らぎが大きいことに対応する。なお、パラメータL/Wについては、例えば、武隈育子、安井、雅彦、奥村善信、秋田憲、末岡和久、長谷山美紀及び武笠幸一による日本応用磁気学会誌,22,No.9,1251(1998)で詳細に説明されている。

【0038】
高密度領域におけるPEの解析によれば、高密度領域において隣接トランジション間の相互作用が生じ、孤立トランジションの線形重ね合わせでは説明することができない非線形現象が生じる。その非線形現象の一つであるPEは、高密度領域における媒体ノイズと密接な関係がある。

【0039】
PEが生成していない低密度領域においては、トランジション領域の磁化状態の評価値としてパラメータL/Wが適切であるが、高密度領域におけるパラメータL/Wの値には、トランジション領域における磁化状態の揺らぎとPEなどの非線形現象の双方が反映されるため、値の解釈が困難になる。したがって、高密度領域においては、パラメータL/Wを用いずにPEの評価のみを行なう。

【0040】
PEは、記録トランジションの一部で磁化の転移が消失する現象である。PEが生じると、記録トランジション以外の不規則な領域が存在する。本実施の形態では、2値化部1、細線化部2、変換部3及び特性取得部4で行なった解析を高密度記録磁化状態のMFM観察像に適用した後、評価部5において、PEが生成している領域を検出する。

【0041】
250kFCIにおけるMedium AのMFM観察像を使用し、負の磁極存在領域に対して細線化を行なった例を図5に示す。なお、図5(a)は、250kFCIにおけるMediumAのMFMイメージを示し、図5(b)は、図5(a)に対する細線化の結果を示す。

【0042】
図5(b)の円で囲んだ部分に示すように、記録されたトランジションの線成分の他にPEが起こっている領域で線成分が検出される。本実施の形態では、この線成分の出現する頻度を用いてPE生成確率の評価を行なう。

【0043】
Medium A, Medium B及びMedium CのMFM観察像を用いてそれぞれ求めたパラメータL/W(150kFCI),PE生成確率(250kFCI)の値を図6に示す。図6において、250kFCIにおける規格化媒体ノイズの値もプロットした。PE生成確率が大きい媒体では、規格化媒体ノイズも大きな値を示していることがわかる。

【0044】
また、図6から、比較的低い記録密度(150kFCI)において遷移領域の揺らぎが大きい(L/Wの値が小さい)媒体では、高密度記録(250kFCI)を行なった際のPE生成確率や媒体ノイズの値が大きくなる傾向が確認できる。

【0045】
ここで、磁極分布の傾向と媒体の磁気クラスタ構造の関係について説明する。これまで知られているDC消去状態におけるリップル構造は、図7(a)に示すような縦波モードと呼ばれる構造である。このような構造をとる場合、図7(b)に示すように、媒体における磁極はトラック方向(平均の磁化方向)に対し垂直に沿った分布を示す。

【0046】
しかしながら、解析の対象とした媒体の磁極分布は、図4に示すように、いずれもトラック方向に沿った方向(θ=π/2)の分布が顕著であり、縦波モードのリップル構造を反映した方向の分布(θ=0,2π)はほとんど確認できない。

【0047】
解析に用いた媒体が平坦(Rmax値=5-10nm)であるため、表面磁極の存在が無視できると仮定した場合、これらの媒体が縦波モードのリップル構造をとっている可能性は低いと考えられる。

【0048】
したがって、磁化が平均の磁化方向に対して内面でランダムに分布している構造について考える。この構造では、全ての位置における磁化は独立であり、平均磁化方向に垂直な方向の磁化が揃う傾向を示す縦波モードのリップル構造に比べ、各クラスタが独立している。

【0049】
図5(c)に示すように、局所的な磁化MLを平均の磁化Maveからのずれθで表現し、磁化が面内のある角度内でランダムな方向を持つと仮定する。但し、|ML|を一定とし、θLは特定の範囲内で一様分布すなわち確率密度関数が一定値である分布に従う。

【0050】
磁極密度分布ρ(r)は以下の式によって計算することができる。
【数2】ρ(r)=-▽ML(r)
L|≦5°の場合の磁極密度分布の計算例を図7(d)に示す。ここでは、白が負の磁性を示し、黒が正の磁性を示す。

【0051】
計算によって得られた磁極密度分布から得られた磁極領域の方向性の解析結果を図8に示す。図6(a)及び6(b)はそれぞれ|θL|≦5°の場合及び|θL|≦22.5°の場合の結果を示す。図6(a)及び6(b)のいずれの場合も、平均の磁化方向(θ=π/2)に沿った分布が多く見られ、図4に類似した傾向を確認することができる。

【0052】
したがって、解析の対象とした媒体は、縦波モードのリップル構造に比べて各クラスタが孤立した構造をとっていることが推測される。これは、いずれもS*が小さい、すなわち、粒間相互作用が小さい媒体であることからも妥当と考えられる。

【0053】
但し、これまで知られている縦波モードのリップル構造は、いずれもローレンツTEMによって観察されたものであるため、TEM観察によって得られた傾向(図4参照)との差異には、観察手段や試料の状態(TEM試料は前処理が必要)の違いなどの影響も反映されている可能性がある。したがって、より厳密な解釈を行なうためには、同一媒体についてMFMとローレンツTEMによる観察像の比較を行う必要がある。

【0054】
次に、上記のように評価を行なったトランジション領域の磁化状態とDC消去状態における磁化状態との関係について説明する。表1に示すように、Medium Bは、平均クラスタサイズが最も小さいにもかかわらず、高密度記録状態におけるPE生成確率が高い値を示す。これは、クラスタサイズだけでは高密度記録状態における媒体ノイズの傾向を予測できないことを示している。以下、既に説明したようなDC消去状態における磁極分布の解析結果から、トランジション領域における磁化状態の揺らぎやEPについて考察を行なう。

【0055】
図4に示すように、Medium Cの磁極分布(図4(c))は、Medium A, MediumBに比べて偏平な形状をしているので、局所的な磁化方向の分布の偏りが小さく、均一な磁気クラスタ構造をしていると考えられる。このようなDC消去状態を反映し、Medium Cでは、トランジション領域における磁化状態の揺らぎの度合いやPE生成確率が小さい値を示したと考えられる。

【0056】
一方、Medium A及びMedium Bでは、磁極分布に特定の方向依存性が確認でき、いずれも高いPE生成確率を示す。図4(a)及び図4(b)からMedium A及びMedium Bの最も強いピーク間の角度Δθp-pを見積もると、それぞれ約33°及び19°である。

【0057】
ここで、図9に示すように、磁極分布に特定の方向性が現れることがその方向に静磁気的相互作用又は交換相互作用が強く働くことを反映していると仮定し(図9(b))、ピークが現れる角度とトランジション領域の磁化状態の関係について考察する。

【0058】
図9(a)に示すように、トラック方向に対して、θt方向に相互作用が強く働く場合、隣接トランジション間におけるθt方向に沿った相互作用距離y*は、以下の式で表すことができる。
【数3】y*=xbit/cosθt
xbitを、隣接トランジション間の距離とすることができる。図4においてピークがトラック方向に対してほぼ対称に出現しているので、θtの値は、Δθp-pの約半分の値として見積もることができる。

【0059】
ここで、数3で表される隣接トランジション間におけるθt方向の相互作用距離y*の値は、同一記録密度(xbit一定)ではθtの値が小さくなるに従って小さくなる。

【0060】
したがって、トラック方向に対して最も浅い角度のピークが出現している(θtの値が小さい)Medium Bにおいて、同一記録密度におけるθt方向の相互作用距離y*の値が最も小さいと考えられる。その結果、隣接トランジション間の相互作用が起こりやすくなり、トランジション領域の揺らぎやPE生成確率が大きくなったと考えられる。

【0061】
また、図8(a)及び図8(b)を比較すると、θLの分布の範囲が大きくなるに従ってθの分布が広がることが確認できる。すなわち、磁化方向の分散が大きくなるに従って、θの分布が広がることを示す。

【0062】
図4(b)に示すように、Medium Bでは、Medium A及びMedium Cに比べてトラック幅方向(0≦θ≦π/4,3π/4≦θ≦π)の磁極分布が多く検出されており、平均磁化方向に対して大きな|θL|の値を有する磁化が比較的多く存在していると推定される。したがって、DC消去状態における磁化方向の局所的な分散が大きいことも、高密度記録磁化状態の劣化要因の一つであると考えられる。

【0063】
既に説明したように、ブランチに相当する磁気クラスタ境界部の磁極領域をMFM観察像から抽出し、その分布の方向性について解析を行なった結果、解析の対象とした媒体が縦波モードのリップル構造ではなく個々のクラスタが独立した構造を有する可能性が示され、DC消去状態の磁極領域の分布に特定の方向依存性が見られる媒体において、トランジション領域における記録磁化状態の揺らぎやPE生成確率が大きくなる傾向が確認される。

【0064】
さらに、磁極領域の抽出手法を用いて高密度記録磁化状態のPE生成確率を評価した結果、PE生成確率は、規格化媒体ノイズの値と同様な傾向を示し、いずれも低密度記録状態における遷移領域の揺らぎとの相関が確認される。

【0065】
これらの結果は、従来の解析には反映されなかった傾向であり、本発明によって得られる磁極分布の方向性の傾向を、従来のクラスタサイズなどの特徴と合わせて考えると、高密度記録磁化状態における媒体ノイズ生成メカニズムが更に明確になると考えられる。

【0066】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、細線化によって認識された線要素から主要な直線成分を検出するためにハフ変換を用いたが、方向性を持ったテンプレートを回転させることによって様々な方向の線を検出する方式(局所オペレータ処理)を用いることもできる。

【0067】
また、磁性領域の磁化状態を解析する際に、分布の方向性の解析以外の解析を行なうことができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図9】
4
【図4】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8