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明細書 :金属酸化物構造体、その製造方法及び製造装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3530936号 (P3530936)
公開番号 特開2002-241200 (P2002-241200A)
登録日 平成16年3月12日(2004.3.12)
発行日 平成16年5月24日(2004.5.24)
公開日 平成14年8月28日(2002.8.28)
発明の名称または考案の名称 金属酸化物構造体、その製造方法及び製造装置
国際特許分類 C30B 29/62      
D01F  9/08      
FI C30B 29/62 A
D01F 9/08
請求項の数または発明の数 12
全頁数 8
出願番号 特願2001-031833 (P2001-031833)
出願日 平成13年2月8日(2001.2.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 2000年10月11日 社団法人日本セラミックス協会発行の「第13回秋季シンポジウム講演予稿集」第223頁に発表
審査請求日 平成13年2月8日(2001.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012280
【氏名又は名称】長岡技術科学大学長
発明者または考案者 【氏名】斎藤 秀俊
【氏名】大塩 茂夫
【氏名】波岡 義哲
個別代理人の代理人 【識別番号】100102299、【弁理士】、【氏名又は名称】芳村 武彦
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開2000-58365(JP,A)
特開 平2-60988(JP,A)
特開2001-114600(JP,A)
特開2002-167300(JP,A)
国際公開99/057345(WO,A1)
調査した分野 C30B 1/00 - 35/00
D01F 9/08
特許請求の範囲 【請求項1】
円近似断面径が0.01~100μmで、円近似断面径に対する長さの比が1以上である金属酸化物のウイスカーを有する金属酸化物構造体において、ウイスカーがウイスカー内部にウイスカーの長軸方向に沿ってウイスカーを構成する母材とは異なる元素添加によって得られる母材組成とは異なる組成の強化層を有することを特徴とする金属酸化物構造体。

【請求項2】
異種元素の割合が母材を構成する元素に対して0.1~10原子%であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物構造体。

【請求項3】
ウイスカーが基板表面上の10μm×10μm の面積当たり0.1~10000個の密度で存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の金属酸化物構造体。

【請求項4】
ウイスカーがウイスカーの長軸方向に沿って一貫した性状を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属酸化物構造体。

【請求項5】
ウイスカーを構成する母材と強化層が化学的に結合していることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の金属酸化物構造体。

【請求項6】
ウイスカーを構成する母材と強化層の結晶関係がエピタキシャルであることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の金属酸化物構造体。

【請求項7】
ウイスカーを構成する母材元素および異種元素が、周期律表において水素を除く1族、2族、ホウ素を除く13族、炭素を除く14族、窒素とリンと砒素を除く15族及び3,4,5,6,7,8,9,10,11,12族から選ばれる少なくとも一種の金属を含むものであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の金属酸化物構造体。

【請求項8】
金属がZn、Si、Al、Sn、Ti、Zr及びPbから選ばれたものであることを特徴とする請求項7に記載の金属酸化物構造体。

【請求項9】
有機物質、無機物質、金属から選ばれる材料でウイスカーの間を充填したことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の金属酸化物構造体。

【請求項10】
気化させた金属酸化物ウイスカー母材構成元素を含むガスと気化させた母材とは異なる元素を含むガスを、キャリアガスとともに均一に混合した後に、大気圧開放下に加熱された基材表面に吹き付けて基材表面に円近似断面径が0.01~100μmで、円近似断面径に対する長さの比が1以上である金属酸化物のウイスカーを有する金属酸化物構造体を堆積することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法。

【請求項11】
さらに、得られた金属酸化物構造体のウイスカーの間を有機物質、無機物質、金属から選ばれる材料で充填することを特徴とする請求項10に記載の金属酸化物構造体の製造方法。

【請求項12】
金属酸化物ウイスカーを構成する母材の気化器、該母材とは異なる元素の気化器、気化させた母材及び母材とは異なる元素をキャリアガスとともに均一に混合する原料混合器、混合原料ガスを噴出するノズル及び基材加熱台を有することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造装置。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は機械的強度の改善されたウイスカーを有する金属酸化物構造体、その製造方法及び製造装置に関する。

【0002】
【従来の技術】金属酸化物は、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、光波長変換素子、レーザー発振素子、冷陰極素子等の電子材料や光材料、抗菌、防汚効果等を目的とする表面改質剤、気相や液相やその両方の相における触媒やその担体等幅広い用途に使用されている。そして、これらの用途に使用する金酸化物としては、容積当たりの表面積が大きいものが求められている。本発明者らは、加熱された基材表面に気化された金属化合物をキャリアガスとともに大気圧開放下で吹き付けることによって、狭い面積に多数のウイスカーを有する金属酸化物構造体が得られることを見出し、先に提案した。(特開2000-58365号公報等)

【0003】
【発明が解決しようとする課題】これらの金属酸化物ウイスカー密集構造体は、きわめて大きい表面積を有し導電性、圧電性等種々の性状に優れるが、ウイスカーの機械的強度が弱いために、ウイスカーが加工時に折れたり、例えば電界放出素子として使用する際に放電によりウイスカーが破壊される等の問題点があった。本発明は、これらの従来技術の問題点を解消して、金属酸化物ウイスカー母材の機能特性を低下させることなく、機械的強度と耐久性が大幅に改善されたウイスカーを有する金属酸化物構造体、及びその製造方法ならびに製造装置を提供することを目的とする。

【0004】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記課題を解決するために、次のような構成をとるものである。
1.円近似断面径が0.01~100μmで、円近似断面径に対する長さの比が1以上である金属酸化物のウイスカーを有する金属酸化物構造体において、ウイスカーがウイスカー内部にウイスカーの長軸方向に沿ってウイスカーを構成する母材とは異なる元素添加によって得られる母材組成とは異なる組成の強化層を有することを特徴とする金属酸化物構造体。
2.異種元素の割合が母材を構成する元素に対して0.1~10原子%であることを特徴とする1に記載の金属酸化物構造体。
3.ウイスカーが基板表面上の10μm×10μm 面積当たり0.1~10000個の密度で存在することを特徴とする1又は2に記載の金属酸化物構造体。
4.ウイスカーがウイスカーの長軸方向に沿って一貫した性状を有することを特徴とする1~3のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
5.ウイスカーを構成する母材と強化層が化学的に結合していることを特徴とする1~4のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
6.ウイスカーを構成する母材と強化層の結晶関係がエピタキシャルであることを特徴とする1~5のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
7.ウイスカーを構成する母材元素および異種元素が、周期律表において水素を除く1族、2族、ホウ素を除く13族、炭素を除く14族、窒素とリンと砒素を除く15族及び3,4,5,6,7,8,9,10,11,12族から選ばれる少なくとも一種の金属を含むものであることを特徴とする1~6のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
8.金属がZn、Si、Al、Sn、Ti、Zr及びPbから選ばれたものであることを特徴とする7に記載の金属酸化物構造体。
9.有機物質、無機物質、金属から選ばれる材料でウイスカーの間を充填したことを特徴とする1~8のいずれかに記載の金属酸化物構造体。
10.気化させた金属酸化物ウイスカー母材構成元素を含むガスと気化させた母材とは異なる元素を含むガスを、キャリアガスとともに均一に混合した後に、大気圧開放下に加熱された基材表面に吹き付けて基材表面に円近似断面径が0.01~100μmで、円近似断面径に対する長さの比が1以上である金属酸化物のウイスカーを有する金属酸化物構造体を堆積することを特徴とする1~9のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造方法。
11.さらに、得られた金属酸化物構造体のウイスカーの間を有機物質、無機物質、金属から選ばれる材料で充填することを特徴とする10に記載の金属酸化物構造体の製造方法。
12.金属酸化物ウイスカーを構成する母材の気化器、該母材とは異なる元素の気化器、気化させた母材及び母材とは異なる元素をキャリアガスとともに均一に混合する原料混合器、混合原料ガスを噴出するノズル及び基材加熱台を有することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の金属酸化物構造体の製造装置。

【0005】
【発明の実施の形態】本発明におけるウイスカーとは、円近似断面径が0.01~100μm(平均値:以下同様)で、円近似断面径に対する長さの比(アスペクト比)が1以上である略棒状の構造を有する物を意味する。また、ウイスカーの長さとは、ウイスカーが面上から実質的に突起する位置(基部)から先端部までの長さを意味し、円近似断面径はウイスカーの長さの1/2の位置において測定する。この円近似断面径は、例えば画像解析等による従来公知の方法で断面積を求め、得られた面積を円周率πで除したものの平方根の2倍の値で表される。

【0006】
ウイスカーの円近似断面径が0.01未満の場合には、成長したウイスカーを得ることが困難であり、100μmを超えた場合には、表面積増加による所望の特性を得ることが難しくなる。この円近似断面径は、0.05~50μm、特に0.1~10μmとすることが好ましい。ウイスカーの長さは、使用する用途により任意に選択されるが、通常は0.1~1000μm(平均値)、好ましは1~500μmである。また、アスペクト比は1以上、好ましくは5以上であり、アスペクト比が小さすぎるとウイスカーによる表面積増加の効果が現れない。

【0007】
ウイスカーは、10μm×10μmの面積当たり0.1~10000個、特に1~1000個の割合で密集状に存在することが好ましい。この割合が小さい場合には、ウイスカーにより表面積増加の効果が乏しく、大きすぎる場合には成長したウイスカーを得ることが困難となる。ウイスカーの形状としては、根元部分から先端部分まで径が変わらないもの、根元部分からある距離まで径が変わらないもの、ウイスカーの根元部分の径が小さく先端部に行くにつれ一度径が大きくなった後再度径が少しずつ減少していくもの、ウイスカーの根元部分から先端部に行くにつれ径が少しずつ減少していくもの、先端近くのある距離から角錐又は角錐台や円錐または円錐台や半球のような形状を取っているもの等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは角柱状、あるいは、ウイスカーの根元部分の径が小さく一旦径が大きくなった後角柱状の形状を取るものである。角柱状の場合、具体的な形状は結晶構造により異なるが、例えば、金属酸化物が酸化亜鉛の場合は六角柱、酸化アルミニウムの場合は四角柱あるいは六角柱、酸化チタンの場合は四角柱となることが多い。また、それ以外の多角形を断面の形状を持つ角柱であっても差し支えない。これらの中でも特に好ましくは一本の角柱の中で、向かい合った面同士が相互に平行な部分を持つものである。またこの場合、相互に平行な面を有していれば、ウイスカーがそれ以外の形状を取っていても差し支えない。

【0008】
本発明のウイスカーを有する金属酸化物構造体は、ウイスカーがウイスカーを構成する母材とは異なる元素添加によって得られる強化構造を有することを特徴とする。このような強化構造を有するウイスカーは、例えば図1に示す装置を使用して、気化させた金属酸化物ウイスカー母材構成元素を含むガスと気化させた母材とは異なる元素を含むガスを、キャリアガスとともに均一に混合した後に、大気圧開放下に加熱された基材表面に吹き付けて基材表面に金属酸化物構造体を堆積することによって得ることが出来る。

【0009】
図1は、本発明の金属酸化物構造体を製造する装置の1例を示す模式図である。この製造装置1は、キャリアガスとなる窒素ガス供給源2,2、金属酸化物ウイスカーを構成する母材の気化器3、該母材とは異なる元素の気化器4、気化させた母材及び異種元素をキャリアガスとともに均一に混合する原料混合器5、混合原料ガスを噴出するノズル9及び基材10の加熱台11を具備する。金属酸化物ウイスカーを構成する母材及び該母材とは異なる元素は、それぞれ気化器3及び4で加熱気化され、窒素ガスとともに原料混合器5内の原料混合溜6に送られ、ヒーター7の外周に設けられたコイル状加熱混合器8によりキャリアガスとともに均一に混合される。均一に混合された原料ガスは、ノズル9から大気圧開放下にヒーター12を有する加熱台11上で加熱された基材10の表面に吹き付けられて、基材表面に金属酸化物ウイスカーを有する金属酸化物構造体を形成する。

【0010】
本発明でウイスカー母材及び該母材とは異なる元素からなる強化構造を構成する金属酸化物としては、金属種が、周期律表において水素を除く1族、2族、ホウ素を除く13族、炭素を除く14族、窒素とリンと砒素を除く15族及び3、4、5、6、7、8、9、10、11、12族に属する各元素の強化物が挙げられる。金属種としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Po、Sc、Y、La、Th、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg等が挙げられ、これらのなかでも、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Ti、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi,Sc、Y、La、Ce、Th、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hgであり、さらに好ましくは、Li、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、In、Si、Sn、Pb、Th、Y、Ce、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、Cdが挙げられる。最も好ましい金属種としては、Zn、Si、Al、Sn、Ti、Zr、及びPbが例示される。

【0011】
金属酸化物としては、例えば、MgO、Al 、In 、SiO 、SnO 、TiO 、ZnO、BaTiO、SrTiO 、LiNiO、PZT[Pb(Zr×Ti1-× )O ]、YBCO(YBaCu7-× )、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、YAG(YAl12または3Y・5Al)、ITO(In/SnO)等が挙げられる。また、アルカリ金属と他の金属を組み合わせて使用することもできる。例えば、Ta、Nbとアルカリ金属等を組み合わせてKTaOや、NbLiO のような複合化合物を形成させて、金属酸化物とすることができる。

【0012】
本発明の金属酸化物構造体において、ウイスカー母材及び該母材とは異種元素からなる強化構造を構成する原料となる金属化合物は、目的とする構造体の金属酸化物中の金属を有し、酸素、水等の大気中に含まれる化合物と反応して酸化物を形成するものが好ましい。しかしながら、金属化合物を吹き付ける雰囲気に、例えばオゾン等の通常大気中に存在しない物質を供給・存在させ、これらと反応して酸化物を形成するものであっても良い。

【0013】
この様な金属化合物として、例えば、金属または金属類似元素の原子にアルコールの水酸基の水素が金属で置換されたアルコキシド類、金属または金属類似元素の原子にアセチルアセトン、エチレンジアミン、ビピペリジン、ビピラジン、シクロヘキサンジアミン、テトラアザシクロテトラデカン、エチレンジアミンテトラ酢酸、エチレンビス(グアニド)、エチレンビス(サリチルアミン)、テトラエチレングリコール、アミノエタノール、グリシン、トリグリシン、ナフチリジン、フェナントロニン、ペンタンジアミン、ピリジン、サリチルアルデヒド、サリチリデンアミン、ポルフィリン、チオ尿素などから選ばれる配位子を1種あるいは2種以上有する各種の錯体、配位子としてカルボニル基を有するFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、V、W、Ruなどの各種金属カルボニル、更に、カルボニル基、アルキル基、アルケニル基、フェニルあるいはアルキルフェニル基、オレフィン基、アリール基、シクロブタジエン基をはじめとする共役ジエン基、シクロペンタジエニル基をはじめとするジエニル基、トリエン基、アレーン基、シクロヘプタトリエニル基をはじめとするトリエル基などから選ばれる配位子を1種あるいは2種以上有する各種の金属化合物、ハロゲン化金属化合物を使用することができる。また、その他の金属錯体も使用することができる。この中でも、金属アセチルアセトナート化合物、金属アルコキシド化合物等がより好ましく用いられる。

【0014】
本発明における錯体としては、金属にβ-ジケトン類、ケトエステル類、ヒドロキシカルボン酸類またはその塩類、各種のシッフ塩基類、ケトアルコール類、多価アミン類、アルカノールアミン類、エノール性活性水素化合物類、ジカルボン酸類、グリコール類、フェロセン類などの配位子が1種あるいは2種以上結合した化合物が挙げられる。

【0015】
本発明において、ウイスカーの母材を構成する元素とウイスカーの強化構造を構成する異種元素との割合は任意であるが、通常は母材を構成する元素に対して少量(0.1~10原子%程度)の異種元素を存在させる。本発明のウイスカーにおいては、異種元素が母材を構成する金属酸化物に対する固溶限界以上の量で存在するときに、ウイスカー結晶中の特定の場所に折出し、機械強度の高い母材とは異なる組成の強化構造を形成するものと考えられる。したがって、ウイスカー中の異種元素の量は、ウイスカーを構成する金属酸化物に対する固溶限界以上の量とすることが好ましい。

【0016】
本発明において、ウイスカー中の強化構造は、ウイスカーの長軸方向に沿って形成された、母材とは異なる組成の強化層として存在する。図2は、本発明のウイスカー中の強化構造の1例を示す模式図であり、図2(A)はウイスカーの側断面図(図2(B)のXX線における断面図)、また図2(B)はウイスカーの横断面図である。このウイスカー20は、根元部分から先端部にかけて徐々に径が減少する6角柱状の形状を有し、酸化亜鉛からなる母材21の中心部に酸化アルミニウムからなる強化構造22が、ウイスカー20の長軸方向に沿って層状に形成されたものである。

【0017】
図3及び図4は、それぞれウイスカー中の強化構造の他の例を示す図であり、各図の(A)はウイスカーの側断面図(各図(B)のXX線における断面図)、また(B)はウイスカーの横断面図である。これらのウイスカー30及び40は図2のウイスカーと同様に6角柱状の形状を有し、図3のウイスカー30では酸化亜鉛からなる母材31中に、6角柱の対向する各稜を結んだ対角線状に形成された酸化アルミニウムからなる層状の強化構造32を有する(図3(B)参照)。また、図4のウイスカー40は、図3のウイスカー30の中央部に、さらに中心部に空洞43を有する強化構造42が形成されたものである(図4(B)参照)。

【0018】
ウイスカー中に形成される強化構造は、上記各例に見られるようにウイスカーを完全に横断するように形成されたもののほかに、ウイスカーの横断面において部分的に形成されたものでもよい。本発明のウイスカーは、上記のように長軸方向に沿った強化層を有することにより横方向の歪に対して強くなり、またウイスカーの長軸方向に沿って、導電性、強度、圧電性等の物性が一貫したウイスカーとなる。ウイスカーを構成する母材と強化構造は、イオン結合、共有結合等により、化学的に結合していることが好ましい。また、母材と強化構造の結晶関係がエピタキシャルである場合には、導電性、圧電性等の特性にすぐれた金属酸化物構造体が得られるので好ましい。

【0019】
本発明のウイスカーを有する金属酸化物構造体を製造する際の基材としては、例えば、酸化アルミニウムのような金属酸化物単結晶、半導体単結晶、セラミック、シリコン、Fe、Ni等の金属、ガラス、プラスチック等が挙がられる。本発明のウイスカーを有する金属酸化物構造体は、そのウイスカーが基板上にエピタキシャル成長をしていることがより好ましい。金属酸化物が基板上でエピタキシャル成長しているかどうかは、通常のX線回折法により確認することができる。特に、φスキャン法により基板、及び金属酸化物の面内方位関係を観察することにより確認する方法が好ましく用いられる。

【0020】
本発明の基板として特に好ましく用いられるものは、具体的には、シリコン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、SrTiO等の金属酸化物単結晶である。この場合の結晶は一種以上の単結晶であっても、多結晶であっても、非晶部と結晶部を同時に有する一種以上の半結晶性物質であっても、また、これらの混合物であってもよい。最も好ましくは単結晶である。この場合、基板表面は単結晶の特定の面になっていることが好ましい。

【0021】
本発明では、ウイスカー母材を構成する原料化合物と、該母材とは異種元素のウイスカーの強化構造を構成する原料化合物をそれぞれ加熱気化させたガスをキャリアガスとともに均一に混合した後に、大気圧開放下に加熱された基材表面に吹き付けて目的とするウイスカーを有する金属酸化物構造体を製造する。キャリアガスとしては、使用する金属化合物と反応するものでなければ、特に限定はされない。具体例として、窒素ガスやヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス、炭酸ガス、有機弗素ガス、あるいはヘプタン、ヘキサン等の有機物質等が挙げられる。これらのうちで安全性、経済性の上から不活性ガスが好ましい。特に、窒素ガスが経済性の面より最も好ましい。

【0022】
また、金属酸化物構造体が形成される基材の温度は、基材近傍及び表面で金属酸化物が形成される温度であれば特に限定されないが、基材表面に吹き付ける原料ガスの温度よりも高い温度に設定することが好ましく、通常は100~700℃に設定される。本発明で、ウイスカーを有する金属酸化物構造体を形成するのに必要な反応時間は、原料の種類や反応条件、目的とする構造体の用途等に応じて適宜選択される。

【0023】
本発明では、通常ウイスカーが密集状に形成された金属酸化物構造体が得られるが、各々のウイスカーの間には空隙が存在する。したがって、その構造体は、使用する形態等によっては使用時に変形が起こる可能性がある。すなわち物理的応力により、多くのウイスカーがなぎ倒されたような状況になる可能性がある。これを防ぐために、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマー、シアノアクリレートのような瞬間接着剤等の有機物質、ガラス、セラミック等の無機物質、金属等でウイスカーの間を充填固定することもできる。

【0024】
ウイスカーの間を充填固定する為に用いられる熱可塑性樹脂としては、低、中、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(以下「SAN樹脂」と略記する)、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体(以下「ABS樹脂」と略記する)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタアクリレート、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエステルイミド、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイト、スチレンーブタジエン共重合体及びその水素添加組成物等、及びこれら2種類以上の組み合わせのポリマーブレンド及び共重合体、例えば、ポリカーボネートとアクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体、ポリフェニレンエーテルとポリスチレン等が挙げられる。

【0025】
また、ウイスカーの間を充填固定する為に用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、DFK樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリ(p-ヒドロキシ安息香酸)、ポリウレタン、マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などが挙げられる。ウイスカーを固定する為に用いられるエラストマーとしては、天然ゴムやブタジエンゴム、シリコーンゴム、ポリイソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴム、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、塩酸ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、多硫化ゴム等の合成ゴム、等が挙げられる。その他ポリテトラフルオロエチレン、石油樹脂、アルキド樹脂等も用いることができる。

【0026】
本発明で得られるウイスカーを有する金属酸化物構造体は、絶縁体、導電体、固定電解質、蛍光表示管、EL素子、セラミックコンデンサー、アクチュエーター、レーザー発振素子、冷陰極素子、強誘電体メモリー、圧電体、サーミスター、バリス、超伝導体、プリント基板等の電子材料、電磁波シールド材、光誘電体、光スイッチ、光センサー、太陽電池、光波長変換素子、光吸収フィルター等の光素子、温度センサー、ガスセンサー等のセンサー材料、気相や液相やその両方の相における触媒や担体等に使用することができる。

【0027】
【実施例】つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)図1の大気開放型CVD装置を使用し、以下の手順によりサファイア単結晶基板(0001)面上に、Al:ZnOウイスカー密集構造体を作製した。金属酸化物ウイスカーを構成する母材の気化器3内にアセチルアセトナトZnを、また異種元素の気化器4内にアセチルアセトナトAlを仕込んだ。母材の気化器3を115℃に、また異種元素の気化器4を100~125℃に加熱し、それぞれ流量1.5l/min及び流量0.5~1.5l/minの窒素ガスにより原料混合器5に輸送した。原料混合器5内のコイル状加熱混合器8により125℃に加熱された原料ガスは、ノズル9から加熱台11上で550℃に加熱された厚さ0.5mmのサファイア単結晶(0001)面に、大気圧開放下に吹き付けた。スリット9と基板10の距離は2cmであった。原料ガスは大気中で熱分解し、Al:ZnOウイスカーとしてサファイア単結晶基板上に堆積した。この例におけるウイスカーの長さは25μm、ウイスカーの円近似断面径は1.5μmで、ウイスカー中のAlの含有量は1.8原子%であった。一般に知られているZnOに対するAlの固溶限界は1原子%であるため、固溶限界を超えたAlはウイスカー内部の長軸方向に沿って析出し、機械強度の高い酸化アルミニウム層からなる強化構造を形成した。生成したAl:ZnOウイスカーの優先配向方向は(0001)方位であった。

【0028】
(比較例1)異種元素の気化器4内にアセチルアセトナトAlを仕込まなかったほかは、実施例1と同様にしてサファイア単結晶基板上に、実施例1と同様の寸法を有するZnOウイスカーを堆積した。

【0029】
(押込み座屈試験)実施例1及び比較例1で得られたウイスカーを有する金属酸化物構造体に対して、200×200mmのダイヤモンド平担圧子を装着したナノインデンターを使用して押込み座屈試験を行った。実施例1のウイスカーを有する金属構造体の破壊強度は450mNであり、一方、比較例1の構造体の破壊強度は350mNであった。

【0030】
(樹脂埋めこみ試験)実施例1及び比較例1で得られたウイスカーを有する金属酸化物構造体のウイスカー間の空隙にエポキシ樹脂を注入し、ウイスカーにより強化された厚さ25μmのエポキシ樹脂膜を作製した。得られたウイスカー強化エポキシ樹脂膜の垂直方向における圧縮強度を常法により測定したところ、実施例1から得られたものの50mNにおける圧縮率は3%であった。これに対して比較例1から得られたものの50mNにおける圧縮率は7%であり、本発明により寸法変化の小さい薄膜回路基板等として有用な材料が得られることが判明した。

【0031】
(実施例2)異種元素の気化器4の加熱温度を130℃、気化器4に供給する窒素ガスの流量を1.0l/minとしたほかは、実施例1と同様にして厚さ0.5mmのサファイア単結晶(0001)面上に、Al:ZnOウイスカーを堆積させた。この例では、原料の仕込量及び吹き付け時間を調整することによって、長さ20μm、円近似断面積径が1.5μmで、ウイスカー中のAlの含有量が2.8原子%のウイスカーを得た。このウイスカーは実施例1と同様に、機械強度の高い酸化アルミニウム層からなる強化構造を有していた。

【0032】
(比較例2)異種元素の気化器4内にアセチルアセトナトAlを仕込まなかったほかは、実施例2と同様にしてサファイア単結晶基板上に、実施例2と同様の寸法を有するZnOウイスカーを堆積した。

【0033】
(圧電素子試験)実施例2及び比較例2で得られたウイスカーを有する金属酸化物構造体のウイスカー間の空隙にエポキシ樹脂を注入し、ウイスカーにより強化された厚さ20μmのエポキシ樹脂膜を作製した。得られたウイスカー強化エポキシ樹脂膜の垂直方向における圧電特性を常法により評価したところ、実施例2から得られたものは、650mNでの圧縮が限界でそのときの最大電圧は65Vであった。一方、比較例2から得られたものは、450mNでの圧縮が限界でそのときの最大電圧は45Vであり、本発明によってより大きい歪みを感知できるセンサー材料を得ることができる。

【0034】
(実施例3)異種元素の気化器4の加熱温度を118℃、気化器4に供給する窒素ガスの流量を1.2l/minとし、基板として厚さ0.5mmのSUS316基板を使用したほかは、実施例1と同様にして基板上にAl:ZnOウイスカーを堆積させた。この例では、長さ10μm、円近似断面積が1.0μmで、ウイスカー中のAlの含有量が1.3原子%のウイスカーが得られた。このウイスカーは実施例1と同様に、機械強度の高い酸化アルミニウム層からなる強化構造を有していた。

【0035】
(比較例3)異種元素の気化器4内にアセチルアセトナトAlを仕込まなかったほかは、実施例3と同様にしてサファイア単結晶基板上に、実施例3と同様の寸法を有するZnOウイスカーを堆積した。

【0036】
(電子放出試験)実施例3及び比較例3で得られた、長さ10μmのウイスカー密集構造体から電子放出素子を形成して、電子放出電流の測定を行なった。ウイスカー先端から陽極までの距離を200μm にして陽極に5kVの正の電圧を印加したところ、実施例3から得られた電子放出素子は、放出電流が0.1mA/cmで300時間電流を放出し続けた。一方、比較例3から得られた電子放出素子は、放出電流が0.1mA/cmで3時間電流を放出した。本発明によれば、ウイスカー中のAlの強化構造により放電の際にもウイスカーの形状が崩れずに維持されるので、より長時間動作の可能な電子放出素子を得ることができる。
図面
【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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