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明細書 :高分子樹脂の結晶化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3026209号 (P3026209)
登録日 平成12年1月28日(2000.1.28)
発行日 平成12年3月27日(2000.3.27)
発明の名称または考案の名称 高分子樹脂の結晶化方法
国際特許分類 C08J  3/00      
C08J  3/20      
C08L 23:04      
C08L 23:12      
FI C08J 3/00 CES
C08J 3/20
請求項の数または発明の数 3
全頁数 6
出願番号 特願平10-305169 (P1998-305169)
出願日 平成10年10月27日(1998.10.27)
審査請求日 平成10年10月27日(1998.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012442
【氏名又は名称】京都大学長
発明者または考案者 【氏名】大嶋 正裕
【氏名】橋本 伊織
【氏名】谷垣 昌敬
個別代理人の代理人 【識別番号】100059258、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外8名)
審査官 【審査官】▲吉▼澤 英一
参考文献・文献 特開 平7-300530(JP,A)
特開 昭61-246230(JP,A)
調査した分野 C08J 3/00 - 3/28
C08L 1/00 - 101/14
要約 【課題】 結晶化度ならびに耐熱性に優れた結晶性高分子樹脂の結晶化方法を提供する。
【解決手段】 結晶性樹脂としてペレット状のハインパクトポリプロピレン試料Sをオートクレーブ1中に配置し、1atm・180℃(オイルバス3の設定温度)で加熱溶融して今までの熱履歴を消す。続いて、バルブV1,V2を介してボンベ2より二酸化炭素ガスをオートクレーブ内に満たし、15~60atmの加圧下で気体を樹脂中に溶解させ、その後、オートクレーブをオイルバスから取り出し、自然放熱により試料を冷却・再結晶化させた。得られた結晶構造はいずれもα相であり、圧力の増加と共に結晶性が向上し、融点の上昇が認められた。
特許請求の範囲 【請求項1】
結晶性高分子樹脂を溶融状態で該高分子樹脂に対して溶解性を有する気体の加圧雰囲気に曝し、気体を樹脂中に溶解させ、加圧気体雰囲気中で冷却することによって樹脂を固化させることを特徴とする、高分子樹脂の結晶化方法。

【請求項2】
前記気体は、二酸化炭素あるいは窒素であることを特徴とする請求項1に記載の高分子樹脂の結晶化方法。

【請求項3】
前記高分子樹脂は、ポリエチレン系重合体またはプロピレン重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子樹脂の結晶化方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、結晶化度、耐熱性等の改良された高分子材料および成形体の結晶化方法に関する。

【0002】
【従来の技術】結晶性樹脂、そのなかでもポリオレフイン樹脂は、汎用樹脂として広い分野で利用されている高分子樹脂である。通常、そのような樹脂から電気製品部材や自動車用部材を作る際、樹脂を溶融して、金型に流し込んだり、押し出したりした後、冷却することにより樹脂を固化して製品を得る。その際、冷却の仕方(速度・温度履歴)により、出来あがった成形体の結晶特性、融点特性が大きく異なる。現在では樹脂の結晶性を調節するために、冷却速度を変更することしか利用されておらず、成形体の結晶性を上げようとすると、冷却速度を抑え、ゆっくりと冷却せざるを得ない。このような冷却速度を抑える方法は生産性の向上を著しく阻害してきた。したがって現実には、樹脂の結晶性の向上をすることを放棄し、外観の形状のひけ(冷却したことにより起こる樹脂の縮み)を防止する観点のみから冷却速度を決定しているに過ぎない。

【0003】
学術的には、結晶性樹脂の結晶性を向上させる結晶化方法として、高圧下で冷却し結晶化させる手法が報告されている。しかし、この手法では、たとえば融点を1℃上げるためには40気圧上で加圧することが必要となり、より結晶性の高い製品や融点のより高い製品を得るためには、操作圧力が数百気圧と高くなり装置設計上の問題がある。

【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、数十気圧程度の加圧下で、高い結晶性を有しかつ融点を例えば5~10℃の範囲で向上した結晶化樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。

【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するために、結晶性高分子樹脂をその樹脂に溶解性を持つ気体の雰囲気下で冷却し結晶化させることによって、樹脂の結晶性を向上させ、樹脂の融点を上昇させることができる高分子樹脂の結晶化方法に関する。

【0006】
より詳しく述べると、本発明の高分子樹脂の結晶化方法は、結晶性高分子樹脂を溶融状態で該高分子樹脂に対して溶解性を有する気体の加圧雰囲気に曝し、気体を樹脂中に溶解させ、加圧気体雰囲気中で冷却することによって樹脂を固化させることを特徴とする、高分子樹脂の結晶化方法。

【0007】
上記結晶化法でなぜ結晶化高分子樹脂の結晶性が向上するのかの理由は、学術的にはまだ明確にはなっていないが、以下のように考えられる。二酸化炭素や窒素ガスのような低分子が高分子鎖で構成される樹脂に溶け込むことにより、高分子鎖間の相互作用は弱まり、高分子鎖の移動度(動きやすさ)が増す。高分子鎖が動きやすい状態下で、樹脂を冷却・固化することにより、より高分子鎖の配列がより高い秩序構造をもったエネルギーポテンシャルの低い状態に至りやすくなるため、より結晶性の高い固体樹脂が得られる。

【0008】
【発明の実施の態様】以下に、本発明について説明する。
(1)結晶性高分子樹脂
本発明にいう結晶性高分子樹脂とは、分子配列がかなりの秩序をもち、明瞭な結晶性X線回折が認められる高分子樹脂をいう。一般には、高分子鎖のサイドグループが嵩高くなる樹脂ほど、その配列が無秩序になるほど結晶性が低下する。市販のポリエチレン、ポリプロピレンは、すべて結晶性高分子である。その他、サイドグループであるベンゼン基の配列方向性が揃った、アイソタクテックポリスチレン、清涼飲料水の容器に使われるポリエチレンテレフタレート(PET)も、結晶性高分子樹脂である。具体的には、ポリエチレン系重合体、ポリプロピレン重合体等のポリオレフィン樹脂等を挙げることができ、より具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、アイソタクテックポリスチレンを挙げることができる。

【0009】
(2)溶解性気体
溶解性気体について『溶解』とは、高分子樹脂にガスが溶解するか否かは、学術的には、混合前後の自由エネルギー差ΔGが負であるか否かによって定義される。現実には、溶融した樹脂を密閉系でガスに曝し、樹脂の重量変化あるいはガスの圧力変化を計測することにより、単位重量あたりの樹脂に対して樹脂中に存在するガスのモル数を求め、その値を溶解度(SolubiSolubility)と定義する。樹脂に対して溶解度がゼロでないガスをここでは溶解性気体という。樹脂に対するガスの溶解性の高さとは、同温度・同圧力下での溶解度の高さのことをいう。本発見の対象となるポリエチレン、ポリプロピレン樹脂に対しては、二酸化炭素ならびに窒素は、ガス加圧圧力に比例して溶解度がほぼ直線的に増加することが分かっている。二酸化炭素の溶解性は樹脂に対しては、ポリプロピレンに対する方がポリエチレンに対するより大きい。また、同じポリプロピレンでは、二酸化炭素の方が窒素よりどの温度・圧力下でも溶解性は高い。結晶性高分子樹脂に溶解性を有する気体であれば、原則として本発明の結晶化方法に使用することができる。気体の溶解性が高いほど、本発明の狙いとする結晶化の効果が大きい。従来、溶解性の高い気体としてフロンガスが知られているが、環境問題の観点から、フロンガスは全廃の方向にあり、好ましくない。フロンガスより溶解性は落ちるが、環境問題の観点から二酸化炭素・窒素が好ましい。

【0010】
結晶性高分子樹脂の結晶相には、気体は溶解できないため、溶融状態で樹脂に溶けこんだ気体は、結晶化した樹脂部分には残らない。特に、ポリオレフィンと二酸化炭素あるいは窒素ガス系では、ポリオレフィン樹脂が常圧・常温にあるときは、結晶相並びにアモルファス相とも殆ど気体は溶けこまない。

【0011】
(3)結晶化工程
本発明の高分子樹脂の結晶化方法は、結晶性高分子樹脂を加熱<HAN>・</HAN>溶融し、樹脂に溶解性の加圧気体雰囲気に溶融樹脂に曝し、再度冷却することによって結晶化する。冷却・結晶化工程は樹脂に溶解性を有する気体の存在下に行う。

【0012】
溶融条件
樹脂を溶解するためには加熱して、温度を上げることが不可欠となるが、通常温度を上げると気体が樹脂に溶解する量が減少する。従って、樹脂の加熱温度は原料樹脂の融点よりも多少高めに設定する。例えば、ポリプロピレンの場合には170℃前後、ポリエチレンの場合は160℃前後とする。

【0013】
冷却条件
オートクレーブをオイルバスから空気中に取り出し、例えば、4時間自然放冷する。これは、冷却速度に換算すると0.52℃/分で冷却することに相当する。

【0014】
加圧条件
気体の加圧条件の設定は、樹脂への気体の溶解度を制御する観点と、装置設計上の問題から行われる。溶解度は、二酸化炭素・窒素ともにポリエチレン、ポリプロピレンに対しては、加圧圧力の増加とともに増大する。ちなみに、160℃~180℃の設定温度範囲で、二酸化炭素のプロピレンに対する溶解度は0気圧で0から100気圧で1.8~2.0[mol-gas/kg-polymer]まで、直線的に上昇すると報告されている。したがって、本発明の狙いとする結晶化の効果も加圧圧力を大きくすればするほど効果が大きいと考えられるが、装置上の問題からここでは、2-60atmとしmとした。

【0015】
より詳しく述べると、溶融状態の樹脂に溶解した気体の量に応じて、冷却<HAN>・</HAN>固化した樹脂の融点の上昇度は異なる。即ち、加圧圧力を高くすれば気体の樹脂への溶解量は増加し、得られた結晶化樹脂の融点は上昇する。通常二酸化炭素ガスボンベは最大60atmに設定されており、このような二酸化炭素ガスボンベを用いて、溶融樹脂に二酸化炭素ガスを溶融させれば本発明の効果は十分得られる。

【0016】
【実施例】以下に、具体例をもって発明をさらに説明する。
対象樹脂
ハインパクトポリプロピレン(別名:ブロックポリプロピレン)を用いた。ハインパクトポリプロピレンは、ホモポリマーを一段日の重合反応器で重合させ、一段目の反応容器で得られたホモポリマーに対し2段目の重合反応器でエチレンプロピレンゴムを混ぜ合わせながら重合して製造したものである。

【0017】
樹脂の物性
実験に使用したポリプロピレンの物性は、MI(ASTM-D12138に準拠して測定したメルトインデクス)が18g/10分、EPR成分は18%、エチレン成分は約8%である。ハインパクトポリプロピレンの初期形状はベレット状であった。

【0018】
実験装置
図1に示す装置で実験をおこなった。実験装置は、バルブV1、V2を介してオートクレーブ型加圧セル1に二酸化炭素ボンベ2(純度99.9%以上)が連結され、加圧セル1には安全バルブV3と気体逃がしバルブV4と圧力ゲージGが連結されている。オートクレープ1は加熱するオイルバス中のオイルに浸漬してある。試験サンプルSは、オートクレーブ1中に配置されている。

【0019】
実験手順
i)オートクレープ中に、直径1cm程度の円柱状または2cm四方のシート上に成形した試料を宙吊りにし、1atm・180℃(オイルバスの設定温度)の圧力・温度で15分間加熱する。加熱により試料を溶融状態に戻し、今までの熱履歴を消す。加熱後、オートクレープ内を加庄した気体で4時間満たし、気体を樹脂中に溶解させる。その後、オートクレープをオイルバスから取り出し、自然放熱により試料を冷却・再結晶化(固化)させる。

【0020】
ii) 温度処理の仕方は変えず、二酸化炭素による加圧圧力を変え、再結晶した樹脂の結晶性に及ぼす影響を解析した。二酸化炭素は、同一温度においては、圧力の上昇と共に溶解度が増す。従って、加圧圧力の変化は、樹脂への溶解度の変化と等価となる。

【0021】
iii)比較のために、温度処理の仕方は変えず、窒素ガス50atmで加圧した実験も行った。窒素ガスは、二酸化炭素に比べ、同一温度・圧力では、試料への溶解度は低い。

【0022】
iv)さらに比較のため、温度処理の仕方は同じで、空気1atmのままで、冷却・際結晶化させる実験も行った。

【0023】
評価方法
i)融点
再結晶した試料の融点を、示差走査熱量分析装置(DSC)により、35℃より10℃/分の加熱速度で吸収熱量を測定し求めた。

【0024】
ii)結晶構造1
再結晶した試料の結晶構造を、CuEα型の波長が1.54Åの線回折(WÅ)装置で測定しピーク位置ならびに半値幅を計測した。

【0025】
iii)結晶構造2
再結晶した試料の結晶構造を、透過型電子顆微鏡(TEM)でも観測した。

【0026】
結果
i)二酸化炭素15、30、60atmの加圧下で再結晶させて得られたサンプルのDSC測定結果を図2に示す。圧力の上昇に伴い、カーブが高温側にずれている。

【0027】
ii)DSCの吸収熱曲線のピーク値を融点として求め、二酸化炭素加圧圧力値に対してプロットしたのが図3である。加圧圧力の増加に伴い、融点が上昇していることがわかる。

【0028】
iii)窒素50atmで結晶化させた試料の融点を図3に●印でプロットした。二酸化炭素を溶解させた試料は、窒素を溶解させたものよりも融点が高いことがわかる。これから、加圧圧力が直接的に結晶性に影響を与えるのではなく、気体の溶解性が直接の要因であることがわかる。図3の中で、1atmの◆印で示される融点は、空気中で再結晶化させた試料のものである。この結果から、明らかに溶解気体の存在ができた再結晶の試料の融点上昇に影響を与えていることがわかる。

【0029】
iv)二酸化炭素15atmで再結晶化させた試料と30atmで再結晶化させた試料ならびに60atmで再結晶化した試料の線回折図を図4に示す。線の2βのピーク値は、いずれも13.8,16.7、18.4、20.9、21.60に現れており、二酸化炭素の存在の有無に関わらず、得られた結晶構造はいずれもα相である。一方で、各ピークの半値幅は圧力を高くすれば次第に小さくなっている。すなわち、加圧圧力の増加と共に、結晶性が高くなっているといえる。

【0030】
v)結晶性が向上していることを確認するために、二酸化炭素60atmで再結晶化させた試料の結晶構造を染色TEMで観測した。その写真を図5に示す。通常の数十Åの結晶ラメラ厚さが数百Åとなっているのが写真よりわかる。

【0031】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の結晶化手法を用いれば、結晶性高分子樹脂の結晶性をより向上させた成形品を得ることができ、かつ融点を上昇させた耐熱性に優れた成形品が得られる。

【0032】
二酸化炭素を利用することができることから、環境の観点からも有効である。

【0033】
圧力による結晶化の促進ではなく、気体の溶解性による結晶化の促進であるため、溶解性の高い気体を使えば、低圧で設備が実現でき製造コストの点でも有利である。