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明細書 :キュウリモザイクウイルス(CMV)の感染による植物の病気をサテライトRNAにより治療する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3030362号 (P3030362)
公開番号 特開平11-279013 (P1999-279013A)
登録日 平成12年2月10日(2000.2.10)
発行日 平成12年4月10日(2000.4.10)
公開日 平成11年10月12日(1999.10.12)
発明の名称または考案の名称 キュウリモザイクウイルス(CMV)の感染による植物の病気をサテライトRNAにより治療する方法
国際特許分類 A01N 63/00      
C12N 15/09      
FI A01N 63/00 F
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 7
出願番号 特願平10-100651 (P1998-100651)
出願日 平成10年3月27日(1998.3.27)
審査請求日 平成10年3月27日(1998.3.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591075364
【氏名又は名称】農林水産省北海道農業試験場長
【識別番号】598048761
【氏名又は名称】岩崎 真人
発明者または考案者 【氏名】岩崎 真人
【氏名】齋藤 由里子
【氏名】河辺 邦正
個別代理人の代理人 【識別番号】100063565、【弁理士】、【氏名又は名称】小橋 信淳
審査官 【審査官】安藤 達也
参考文献・文献 特開 昭61-177985(JP,A)
特開 平5-3789(JP,A)
調査した分野 A01N 63/00
特許請求の範囲 【請求項1】
キュウリモザイクウイルス(CMV)の感染による植物の病気を治療する方法であって、CMVに感染した植物に対して、サテライトRNA、それを含む弱毒ウイルス、または細胞内でサテライトRNAを作る人工物を接種または投与することによって、病徴の軽減化または病気の治療を行うことを特徴とする植物の病気の治療方法。

【請求項2】
上記サテライトRNAは、キュウリモザイクウイルス(CMV)粒子中に存在してCMVの感染・増殖に必要なRNA以外のRNAであることを特徴とする請求項1記載の植物の病気の治療方法。

【請求項3】
上記サテライトRNAは、およそ300~400塩基のRNA分子であることを特徴とする請求項1記載の植物の病気の治療方法。

【請求項4】
上記サテライトRNAは、キュウリモザイクウイルス(CMV)の増殖を抑制し、病徴を軽減することを特徴とする請求項1記載の植物の病気の治療方法。

【請求項5】
上記した弱毒ウイルスは、弱毒性のサテライトRNAとキュウリモザイクウイルス(CMV)の軽症株とを組み合わせて作り出されていることを特徴とする請求項1記載の植物の病気の治療方法。

【請求項6】
細胞内でサテライトRNAを作る人工物は、サテライトRNAのcDNAを組み込んだプラスミドであることを特徴とする請求項1記載の植物の病気の治療方法。

【請求項7】
細胞内でサテライトRNAを作る人工物は、サテライトRNAのcDNAにプロモーターを連結したものであることを特徴とする請求項1記載の植物の病気の治療方法。

【請求項8】
細胞内でサテライトRNAを作る人工物は、サテライトRNAのcDNAを含むDNAから人工的に作製したRNAであることを特徴とする請求項7記載の植物の病気の治療方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、キュウリモザイクウイルス(以下、CMVと略称)に感染した植物に対して、病徴の軽減化または病気の治療を行う治療法に関する。

【0002】
【従来の技術】植物の幼苗に弱毒ウイルスを予防的に接種する技術や媒介虫の防除のために行われる殺虫剤散布が知られている。弱毒ウイルスを接種しない場合、CMV感染による発病株は圃場から除去または放置している。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】植物の幼苗に弱毒ウイルスを接種しない場合、CMV感染による病気の発生は収量・品質に損害を与えるので、病気の蔓延を防止するため発病株を圃場から除去する作業が必要となる。

【0004】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、既に開発されていたサテライトRNAを利用した弱毒ウイルスを、CMVによるトマトの病気の治療に用いた。詳しくは、強毒性CMVの接種によって発病したトマトに、この弱毒株を汁液接種し、病徴の軽減化の程度、CMVの病原性の定量、草丈および生重量を計測した。また、弱毒株に含まれているサテライトRNAを精製して発病トマトに接種し、病徴の軽減化を調査した。

【0005】
その結果、CMVに感染した植物に対して、サテライトRNA、またはそれを含む弱毒ウイルスを接種または投与することによって、病徴の軽減化または病気の治療が可能であることを見出した。

【0006】
本発明の特徴とするところは、CMVに感染した植物に対して、サテライトRNA、それを含む弱毒ウイルス、または細胞内でサテライトRNAを作る人工物を接種または投与することによって、病徴の軽減化または病気の治療を行うことにある。

【0007】
また本発明は、上記サテライトRNAは、CMV粒子中に存在してCMVの感染・増殖に必要なRNA以外のRNAであることを他の特徴とする。

【0008】
更に本発明は、上記サテライトRNAは、およそ300~400塩基のRNA分子であることをもう一つの特徴とする。

【0009】
また本発明は、上記サテライトRNAは、CMVの増殖を抑制し、病徴を軽減することを他の特徴とする。

【0010】
更に本発明は、上記サテライトRNAは、分離株sat55-1を用いることをもう一つの特徴とする。

【0011】
また本発明は、上記した弱毒ウイルスは、弱毒性のサテライトRNAとCMVの軽症株とを組み合わせて作り出されていることを他の特徴とする。

【0012】
更に本発明は、上記した軽症株のCMVは、分離株CMV-No.7を用いることをもう一つの特徴とする。

【0013】
また本発明は、細胞内でサテライトRNAを作る人工物は、サテライトRNAのcDNAを組み込んだプラスミドであることを他の特徴とする。

【0014】
更に本発明は、細胞内でサテライトRNAを作る人工物は、サテライトRNAのcDNAにプロモーターを連結したものであることをもう一つの特徴とする。

【0015】
また本発明は、細胞内でサテライトRNAを作る人工物は、サテライトRNAのcDNAを含むDNAから人工的に作製したRNAであることを他の特徴とする。

【0016】
なお、本願明細書に使用されている用語の意味は以下の通りである。
キュウリモザイクウイルス(CMV)
キュウリ、トマト、ダイコン、ユリなどの野菜類、花き類によく発生するウイルス病の病原ウイルスであり、多くの種類のアブラムシによって伝染し、汁液によっても簡単に伝染する。宿主範囲は非常に広く、感染植物は黄化、萎縮、葉のモザイク・奇形などの症状を呈する。ウイルス粒子は直径約30nmの球形であり、感染・増殖に必須のRNAゲノムは3分節されている。

【0017】
サテライトRNA
CMVには感染・増殖に必要なRNA以外に、余分なRNAが存在する場合があり、これをサテライトRNAと呼ぶ。このサテライトRNAは300~400塩基の小さなRNA分子であり、それ自体は増殖能がなく、CMVが増殖している植物細胞でのみ増殖可能である。サテライトRNAがあると、ウイルスの増殖が抑制されることが多く、いわばウイルスに寄生している分子ともみなすことができる。また、サテライトRNAの種類によっては病徴が激化したり、弱まったりする。

【0018】
弱毒ウイルス
ウイルスには多くの系統・株がある。同種のウイルス株にも、激しく病気を引き起こす強毒性のウイルス株、感染はするが症状を出さないウイルス株が存在する。植物のウイルス病は、一旦感染すると治療することができないことから、人間で用いているある種のワクチンによる予防接種と同様に、植物ウイルスでも弱毒ウイルスを事前に接種することによって防除する方法がある。これに用いるのが弱毒ウイルスであり、例えば本出願人に係る特公昭62-37956号公報により、CMVの弱毒ウイルスが知られている。

【0019】
サテライトRNAを利用したCMV弱毒ウイルス
本出願人は特公昭62-37956号公報において、弱毒性のサテライトRNAとCMVの軽症株とを組み合わせて弱毒ウイルスを作出した技術を開示している。サテライトRNAはCMVがないと増殖しないので、このウイルスをサテライトRNAに対して「ヘルパーウイルス(介助ウイルス)」と呼んでいる。

【0020】
cDNA
RNAの塩基に対応する(相補的)一本鎖DNAをcDNAと呼んでいる。実験上は二本鎖として取り扱い、RNAに転写することが可能である。植物汁液や人間の汗にはRNA分解酵素が存在し、この酵素によって一本鎖RNAは分解され、容易にその活性を消失する性質がある。サテライトRNAも一本鎖であるので、単独では不安定で長期保存しにくい。一方、二本鎖DNAは分解されにくい性質を持っている。そこで、サテライトRNAを安定して合成、保存する技法として、cDNAを鋳型とする方法がある。

【0021】
【作用】強毒性CMVの接種により発病したトマトに、サテライトRNAを含む弱毒ウイルスを接種したところ、およそ2~3週間後の上位葉の病徴が軽くなり、以後展開する葉の病徴も軽くなった。また、弱毒ウイルス処理株の草丈及び生重量は、無処理株と比較して高くなった。更に、弱毒ウイルスから精製したサテライトRNAも同様の病徴軽減効果があった。

【0022】
なお、ヘルパーウイルスの接種には上記のような病徴軽減効果がなかった。弱毒ウイルスはサテライトRNAとヘルパーウイルスで構成されているので、弱毒ウイルスの病徴軽減効果はサテライトRNAによるものと考えられる。

【0023】
【実施例】サテライトRNAを含む弱毒ウイルスにより、キュウリモザイクウイルス発病株の治療または病徴軽減を実験してみたが、実験材料、実験方法および実験結果について以下のように詳しく説明する。

【0024】
実験に用いる材料
トマト品種:桃太郎
強毒ウイルス:CMV-42CM(サテライトRNAを持っていない分離株);感染タバコ汁液を供試。
弱毒ウイルス:CMV-No.7+sat55-1;感染タバコ汁液を供試。
ヘルパ-ウイルス:CMV-No.7
サテライトRNA:sat55-1

【0025】
実験に用いる方法
接種法:0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.5)で磨砕したウイルス感染葉汁液を用いて、カーボランダムを振りかけた葉に摩擦接種した。当該接種方法は詳しくは、ウイルスを維持している感染タバコ葉を用意することと、上記感染タバコ葉を0.1Mのリン酸緩衝液(pH7.5)中で磨砕して病葉汁液を作ることと、上記病葉汁液を用いて、カーボランダムを振りかけた植物の葉に摩擦接種することとを含む。
トマトの育苗・栽培方法:野菜用三共培土に種子を播種し、約8~10日目の幼苗を径12cmの素焼き鉢に2株ずつ移植した。7~9葉期に到達した時点で、径15cmの素焼き鉢に1株ずつ移植した。幼苗時には、400~600倍のハイポネックス野菜液を7~10日間で施用し、4~5葉期以降は緩効性肥料を適宜施用した。実験は、20~32℃の長日条件下の温室で実施した。

【0026】
実験例1
[病徴軽減効果]
[方法]
播種:1997年4月29日
強毒株接種:5月25日、第2~3葉に第一次接種
弱毒株接種:6月10日、第5~7葉に第二次接種(強毒株接種後16日)
調査:病徴観察(最終調査日:7月25日)
[結果]強毒ウイルスの感染により重症のモザイク症状を現したトマト幼苗に弱毒株を二次接種したところ、2~3週間後に展開した新葉(第10~12葉)のモザイク症状はやや軽減し、その後に展開した新葉の病徴は更に軽減した(第1表)。弱毒株接種トマトの草丈は強毒株接種トマトより顕著に高くなったが、健全株よりは低かった。なお、病徴の軽減は、新しく展開する新葉だけで起こり、軽減化の起こる前に展開した葉は、重症株と同じ病徴のままであった。
【表1】
JP0003030362B2_000002t.gif[病原性の定量]
[方法]弱毒ウイルス接種35日後、強毒ウイルスのみの接種株(重症株)と弱毒ウイルスを二次接種した株(病徴軽減株)について、各6株の上位葉からコルボーラーで2個ずつ計12個のディスクを採取し、まとめて乳鉢で磨砕して10倍液と100倍液をササゲの子葉に接種した。なお、強毒株接種トマト(重症症)汁液をササゲの片方の子葉に接種し、他方の子葉に弱毒株接種トマト(病徴軽減株)汁液を接種し、局部病班数を調査した。6反復した。
[結果]病徴軽減株では重症と比較して病原性が約1/3程度に低下していることが判明した(第2表)。二次接種した弱毒株には弱毒性のサテライトRNAであるsat55-1が含まれており、このためにウイルス増殖量が低減したものと考えられる。
【表2】
JP0003030362B2_000003t.gif【0027】実験例2
[病徴軽減効果]
[方法]
播種:1997年6月3日
強毒ウイルス接種:6月16日、子葉に一次接種
弱毒ウイルス接種:
1回目:7月4日、第2~4葉に二次接種(強毒株接種後18日)
2回目:7月14日、第6~8葉に二次接種(強毒株接種後28日)
3回目:7月28日、第10~13葉に二次接種(強毒株接種後42日)
調査:病徴観察(最終調査日:8月25日)
[結果]前記の実験例1と同様に、弱毒株の二次接種株はモザイク症状が軽減し、強毒株の一次接種と弱毒ウイルスの二次接種との間隔が短いほど病徴軽減の程度が高かった(第3表)。
【表3】
JP0003030362B2_000004t.gifなお、強毒ウイルス接種株の症状と弱毒ウイルス二次接種による病徴軽減株の症状とを図1に示している。図1に示すように、強毒ウイルスのみの接種株は重症株となるが、弱毒ウイルスの二次接種株は症状が大きく軽減している。また、図2に示すように、弱毒ウイルスの二次接種株は病徴が軽減しているが、強毒ウイルス接種と弱毒ウイルス二次接種との間隔が短いほど病徴軽減の程度が大きくなっている。

【0028】
実験例3
[病徴軽減効果]
[方法]
播種:1997年6月23日
強毒ウイルス接種:7月9日、子葉に一次接種
弱毒ウイルス接種:
1回目:7月14日、第2葉に二次接種(強毒株接種後5日)
2回目:7月21日、第3~5葉に二次接種(強毒株接種後12日)
3回目:7月28日、第6~8葉に二次接種(強毒株接種後19日)
調査:病徴観察(最終調査日:9月4日)
[結果]上記の実験と同様に、弱毒ウイルスの接種はCMVのモザイク症状を軽減させた(第4表)。病徴の軽減程度は、強毒株の接種後に弱毒株を早く接種するほど高く、草丈および茎葉生重量の回復程度も大きかった。
【表4】
JP0003030362B2_000005t.gif【0029】実験例4
[病徴軽減効果]
[方法]
播種:1997年7月30日
強毒ウイルス接種:8月8日、子葉に一次接種
弱毒ウイルス接種:
1回目:8月15日、第1~2葉に二次接種(強毒株接種後7日)
2回目:8月25日、第3~4葉に二次接種(強毒株接種後17日)
3回目:9月4日、第6~7葉に二次接種(強毒株接種後27日)
調査:病徴観察(最終調査日:10月9日)
[結果]上記の実験と同様に、弱毒ウイルスの接種はCMVのモザイク症状を軽減させた(第5表)。病徴の軽減程度は、強毒株の接種後に弱毒株を早く接種するほど高く、茎葉生重量の回復程度も大きかった。
[病原性の定量]
[方法]強毒株のみの接種株、弱毒株接種の1回目の株、弱毒株接種の3回目の株について、9月30日に展開直後の新葉(各6株)を各0.2gずつ採取し、100倍磨砕汁液をササゲ子葉に接種してCMVの病原性を定量した。1試料について6株のササゲを供試した。常に片方の子葉に強毒株接種トマト汁液を接種し、他方の子葉に弱毒株接種トマト汁液を接種し、子葉上の局部病班数を調査した。
[結果]弱毒株接種トマト(病徴軽減株)では、強毒株接種トマト(重症株)と比較して全ての株で病原性は顕著に低下していた(第6表)。
【表5】
JP0003030362B2_000006t.gif【表6】
JP0003030362B2_000007t.gif【0030】実験例5
[病徴軽減効果]
[方法]
播種:1997年9月10日
一次接種:9月21日、子葉に強毒ウイルスを接種
二次接種:10月15日、5~6葉期の上位2葉に下記のa,b,cを二次接種
(強毒株接種後24日)
a.弱毒ウイルス(CMV-No.7+sat55-1):タバコ感染葉汁液(5倍液)を供試
b.ヘルパーウイルス(CMV-No.7):ペポカボチャ感染葉汁液(5倍液)を供試
c.サテライトRNA(sat55-1):鈍化した弱毒ウイルスを電気泳動によってサテライトRNAを精製し、1.5μg/mlの溶液1mlを14株のトマトに接種。
調査日:11月21日、11月30日、12月11日
[結果]弱毒株(CMV-No.7+sat55-1)およびsat55-1を二次接種したモザイク症状のトマトは、共に病徴が軽減したが、ヘルパーウイルス(CMV-No.7)を二次接種した株では病徴が全く軽減しなかった(第7表)。また、弱毒株およびsat55-1の二次接種株では、草丈と生重量は健全株と強毒ウイルス接種株(重症株)の中間的な値となり、CMV-No.7の二次接種では重症株と同じ値を示した。以上のことから、弱毒株による病徴軽減効果は、satRNAによるものと認められた。
【表7】
JP0003030362B2_000008t.gif【表8】
JP0003030362B2_000009t.gif【0031】
【発明の効果】以上説明したように、キュウリモザイクウイルス(CMV)の感染植物に対してサテライトRNAにより治療する本発明の方法によれば、CMVの感染植物に対して、サテライトRNA、それを含む弱毒ウイルス、または細胞内でサテライトRNAを作る人工物を、接種または投与することによって、病徴の軽減化または病気が治療されるので、CMV感染により発病した植物の病徴を軽減化または病気の治療をすることができるようになる。

【0032】
また、これまで植物ウイルス病の実用的な治療薬は全くなかったが、本発明の方法は新薬開発の手がかりとなる。
図面
【図1】
0
【図2】
1