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明細書 :パラジウムの選択的抽出剤、およびこれを用いたパラジウムの選択的抽出・回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3081920号 (P3081920)
登録日 平成12年6月30日(2000.6.30)
発行日 平成12年8月28日(2000.8.28)
発明の名称または考案の名称 パラジウムの選択的抽出剤、およびこれを用いたパラジウムの選択的抽出・回収方法
国際特許分類 C01G 55/00      
B01D 11/04      
C09K  3/00      
C07D473/08      
C07D473/10      
C07F 15/00      
FI C01G 55/00
B01D 11/04
C09K 3/00
C07D 473/08
C07D 473/10
C07F 15/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願平11-282924 (P1999-282924)
出願日 平成11年10月4日(1999.10.4)
審査請求日 平成11年10月4日(1999.10.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391055276
【氏名又は名称】宮崎大学長
発明者または考案者 【氏名】貝掛 勝也
【氏名】馬場 由成
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦 (外5名)
審査官 【審査官】大工原 大二
参考文献・文献 特開 平6-227813(JP,A)
特開 平4-166236(JP,A)
特開 平3-253524(JP,A)
特許297886(JP,B2)
調査した分野 C01G 55/00
B01D 11/04
C09K 3/00 108
要約 【課題】 パラジウムに加えて卑金属および/または他の貴金属が共存する系であっても、当該系からパラジウムを高い選択性をもって効率的に抽出し得るパラジウムの選択的抽出剤およびこの抽出剤を用いたパラジウムの抽出・回収方法を提供する。
【解決手段】 金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液からパラジウムを選択的に抽出するための核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤。
特許請求の範囲 【請求項1】
金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液からパラジウムを選択的に抽出するための核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤。

【請求項2】
請求項1に記載のパラジウムの選択的抽出剤であって、前記核酸塩基は下式で表されるテオフィリン誘導体またはテオブロミン誘導体であることを特徴とする選択的抽出剤。
【化1】
JP0003081920B1_000002t.gif但し、RおよびRは炭素数2以上の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基、若しくはベンジル基である。

【請求項3】
金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液に核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤を含有する抽出溶媒を液-液接触させ、パラジウムを当該抽出溶媒中に抽出することを特徴とするパラジウムの選択的抽出方法。

【請求項4】
請求項3に記載のパラジウムの選択的抽出方法であって、前記核酸塩基は、下式で表されるテオフィリン誘導体またはテオブロミン誘導体であることを特徴とする選択的抽出方法。
【化2】
JP0003081920B1_000003t.gif但し、RおよびRは炭素数2以上の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基、若しくはベンジル基である。

【請求項5】
金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液に核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤を含有する抽出溶媒を液-液接触させ、パラジウムを当該抽出溶媒中に抽出し、この抽出したパラジウムを含有する前記抽出溶媒に水性の逆抽出溶媒を液-液接触させ、前記パラジウムを当該逆抽出溶媒中に逆抽出することを特徴とするパラジウムの回収方法。

【請求項6】
請求項5に記載のパラジウムの回収方法において、前記核酸塩基が下式で表されるテオフィリン誘導体またはテオブロミン誘導体であることを特徴とする回収方法。
【化3】
JP0003081920B1_000004t.gif但し、RおよびRは炭素数2以上の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基、若しくはベンジル基である。

【請求項7】
前記抽出溶媒はクロロホルム又はトルエンに2-エチルヘキシルアルコールをクロロホルム又はトルエンの重量に対して5~30重量%添加したものであることを特徴とする請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤、およびこの抽出剤を用いたパラジウムの選択的抽出・回収方法に関する。

【0002】
【従来の技術】パラジウムは、金、白金、ロジウム等の他の貴金属と同様、工業的に触媒として利用され、この他装飾品として我々の身の回りに存在している。パラジウムはこれらの需要がありながら天然資源として採掘される量が少ないため、貴重な天然資源となっている。

【0003】
このため、鉱石中に多量に含まれる鉄、銅、ニッケル等の卑金属からのパラジウムの分離、さらに例えば自動車の排気ガス処理用触媒として用いられたパラジウムが他の同様の触媒として用いられた金、白金、ロジウムなどの貴金属触媒と一緒に回収された場合にこれら性質の似た他の貴金属からのパラジウムの分離が不可欠である。そこで選択的にパラジウムを分離、回収するためにさまざまなパラジウム抽出剤の開発が成されている。

【0004】
従来、パラジウムの抽出に用いられる溶媒抽出剤としては、ジヘキシルスルフィド(SFI-6)やLIX系のオキシム類などの工業的抽出剤が用いられている。これらは卑金属から貴金属のみを回収するための選択性は高いが、抽出率が不十分であり、抽出速度も遅い。さらに、有機相に抽出した後の逆抽出が困難であるなどの欠点がある。これら抽出剤を使用した場合、パラジウムの抽出は平衡達成に長時間を要するため、白金等の貴金属との分離をする際には、操業可能な時間内にはほとんど抽出できないという難点がある。

【0005】
一方、環境ホルモンにいわれるように、環境保全にも配慮したパラジウム抽出剤の分子設計が必要となる。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、パラジウムに加えて卑金属および/または他の貴金属が共存する系であっても、当該系からパラジウムを高い選択性をもって効率的に抽出し得、それ自体環境的に悪影響をもたらさないパラジウムの選択的抽出剤およびこの抽出剤を用いたパラジウムの抽出・回収方法を提供することを目的とする。

【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前述のごとき現状に鑑み、パラジウムの回収に用いられる抽出剤として従来から知られている工業的抽出剤とはまったく異なる抽出剤として、核酸塩基に着目し、種々の実験を行った結果、テオフィリン、テオブロミン、チミン、アデニン等の核酸塩基がパラジウムの選択的抽出剤として極めて有効であることを見出した。特に、天然に存在し、カフェインと同様の骨格を有するテオフィリンおよびテオブロミンの誘導体がパラジウムの選択的抽出剤として極めて有効であることを見出した。

【0008】
すなわち、水相への溶解損失を防ぐ目的で疎水基を導入したテオフィリンおよびテオブロミン誘導体がパラジウムの抽出に優れた選択性を有し、従来の抽出剤に比べて遥かに高い抽出率で、かつ高い抽出速度でパラジウムを抽出することができる。さらに、本発明者らは、これらの核酸塩基を有効成分とする抽出剤を用いてパラジウムを抽出した場合には、抽出されたパラジウムを含有する抽出溶媒から100%の逆抽出率でパラジウムを回収することが容易且つ安価に行えることもまた見出したものである。

【0009】
本発明は、かかる知見に基づきなされたものであり、以下の特徴を有する。

【0010】
すなわち、本発明は、金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液からパラジウムを選択的に抽出するための核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤を提供する。

【0011】
また、本発明は、金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液に核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤を含有する抽出溶媒を液-液接触させ、パラジウムを当該抽出溶媒中に抽出することを特徴とするパラジウムの選択的抽出方法を提供する。

【0012】
さらに、本発明は、金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する塩酸酸性水溶液に核酸塩基(カフェインを除く)を有効成分とするパラジウムの選択的抽出剤を含有する抽出溶媒を液-液接触させ、パラジウムを当該抽出溶媒中に抽出し、この抽出したパラジウムを含有する前記抽出溶媒に水性の逆抽出溶媒を液-液接触させ、前記パラジウムを当該逆抽出溶媒中に逆抽出することを特徴とするパラジウムの回収方法を提供する。

【0013】
本発明においては、前記核酸塩基は下式で表されるテオフィリン誘導体またはテオブロミン誘導体であることが好ましい。

【0014】
【化4】
JP0003081920B1_000005t.gif【0015】但し、RおよびRは炭素数2以上の直鎖、分枝鎖または環状のアルキル基、若しくはベンジル基である。

【0016】
また、本発明においては、前記抽出溶媒はクロロホルム又はトルエンに2-エチルヘキシルアルコールをクロロホルム又はトルエンの重量に対して5~30重量%添加したものであることが好ましい。

【0017】
【発明の実施の形態】本発明のパラジウムの選択的抽出剤は、核酸塩基を有効成分とするものであり、核酸塩基の具体例としては、テオフィリン誘導体、テオブロミン誘導体、アデニン誘導体およびグアニン誘導体等を挙げることができる。本発明においては、特に、テオフィリンまたはテオブロミンに疎水基を導入したテオフィリン誘導体およびテオブロミン誘導体を有効成分とするものが好ましい。

【0018】
ここで、テオフィリンおよびテオブロミンは、共に分子式C、分子量180.17の白色結晶であり、下記の構造式で表される。これら物質はクロロホルム、トルエンなどの有機溶媒に不溶であり、水、アルコールに微溶である。テオフィリンは天然には主として茶葉、テオブロミンは主としてカカオの種子などに含まれ、共に医薬品として利用されているキサンチン誘導体であり、環境的に安全である。

【0019】
【化5】
JP0003081920B1_000006t.gif【0020】本発明では、上記テオフィリンの7位、またはテオブロミンの1位に化学修飾が可能であることから、水相への溶解損失を防ぐ目的で疎水基を導入する。該テオフィリン誘導体およびテオブロミン誘導体は以下の式で表される。

【0021】
【化6】
JP0003081920B1_000007t.gif【0022】式中、RおよびRは疎水基であればよく、具体的には、炭素数2以上の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基(例えば、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基等)、ベンジル基等を挙げることができる。本発明においては、有機溶媒(抽出溶媒)に対する溶解度の高さ、および水溶液に対する溶解度の低さの観点からオクチル基を導入したものがより好ましい。

【0023】
これらテオフィリン誘導体およびテオブロミン誘導体は、テオフィリンあるいはテオブロミンを、アルキル触媒存在下において、アルキルブロマイド、ベンジルクロライドまたはシクロヘキセンオキサイトと還流し反応させることにより合成することができる。

【0024】
本発明によりパラジウムを抽出するためには、まず、パラジウムを通常、銅、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛等の少なくとも1種の卑金属および/または白金、金等の少なくとも1種のパラジウム以外の貴金属とともに含有する水溶液を本発明の抽出剤と液-液接触させる。抽出対象であるパラジウムを含有する水溶液は、例えば銅を含有する鉱石を銅鉱石の湿式精錬により銅を回収した後の水溶液を、あるいは、自動車に使われているハニカム型の廃触媒などを溶解した水溶液を用いることができる。

【0025】
これらの水溶液は、通常、塩酸酸性となっている。パラジウム含有水溶液中に塩化物イオンが高濃度で存在すると、通常は抽出されるパラジウム塩化物錯体の存在分率が減少するためパラジウムの抽出率は低下するが、本発明の抽出剤を用いた場合はかかる塩化物イオン濃度による抽出率への影響は少ない。但し、塩化物イオン濃度が高いと抽出平衡到達時間に達するのが遅くなるため、パラジウム含有水溶液中の塩化物イオン濃度は、好ましくは3mol/dm以下である。また、塩酸濃度としては、好ましくは0.01~3mol/dmである。塩酸濃度が3mol/cmを超えると抽出に関与する塩化物錯イオンの減少により抽出率が低下する。さらにpHは酸性側であればよい。

【0026】
本発明の核酸塩基を有効成分とする抽出剤は、通常、有機溶媒(抽出溶媒)に溶解させて使用する。抽出溶媒としては、核酸塩基を溶解し水に実質的に不溶の有機溶媒が好ましい。具体的には、クロロホルム、トルエン、エーテル、ベンゼン等を例示することができ、核酸塩基の有機溶媒への溶解性の高さ、および有機溶媒の有機相から水相への溶解度の低さの観点からクロロホルムおよびトルエンが好ましく、なかでもトルエンがより好ましい。

【0027】
本発明においては、必要により、クロロホルムまたはトルエンと2-エチルヘキシルアルコールとの混合溶液を抽出溶媒として使用するができる。2-エチルヘキシルアルコールをクロロホルムまたはトルエンに添加することにより、パラジウム抽出後の有機相に生ずる沈澱の発生を防止することができる。2-エチルヘキシルアルコールの好適な添加量は、クロロホルム、トルエン等の有機溶媒の重量に対して5~30重量%、より好ましくは10重量%である。2-エチルヘキシルアルコールの添加量が30重量%を超えると有機相が水相へ溶解し抽出剤のロスが多くなり、5重量%未満では有機相に生ずる沈澱抑制効果が不充分となる。

【0028】
また、抽出剤として用いる有機溶媒相中の核酸塩基の濃度は、好ましくは、例えばパラジウム濃度が1mmol/dmの場合、2~100mmol/dmで十分である。100mmol/dmを超えると誘導体の溶解性が悪くなるため好ましくない。また、2mmol/dm未満であるとパラジウムを100%抽出することが困難となる。

【0029】
本発明によるパラジウムの選択的抽出は、バッチ法により行うことができる。但し、バッチ法以外の連続抽出法等公知の方法を用いることも可能である。パラジウムの選択的抽出は、金属イオンとして少なくともパラジウムを含有する上記塩酸酸性水溶液と上記有機溶媒をほぼ等量の割合で液-液接触させ、室温において少なくとも好ましくは6時間、より好ましくは少なくとも24時間振とうすることにより行う。

【0030】
このようにして抽出されたパラジウムを含有する抽出溶媒からパラジウムを逆抽出するためには、抽出後の有機相を水性の逆抽出溶媒と液-液接触させる。この逆抽出においても前記抽出の場合と同様バッチ法により行うことができるが、バッチ法以外の連続抽出法等公知の方法により行うことも可能である。

【0031】
本発明における水性の逆抽出溶媒としては、アンモニア水、チオ尿素水溶液、チオ尿素水溶液と塩酸の混合水溶液等を好適に用いることができ、なかでもアンモニア水が最も好ましい。本発明に係る抽出剤を用いてパラジウムを抽出した場合には、逆抽出溶媒としてアンモニア水を用いることにより100%の逆抽出率でパラジウムを回収することができる。抽出されたパラジウムを含有する抽出溶媒から、アンモニア水で100%逆抽出できるパラジウムの選択的抽出剤はなく、その点で本発明に係る抽出剤は逆抽出溶媒としてアンモニア水を用いることにより100%の逆抽出率で、しかも簡易かつ安価にパラジウムを回収できることを特徴の1つとしている。

【0032】
バッチ法によるパラジウムの逆抽出は、上記方法により抽出されたパラジウムを含有する抽出溶媒と前記逆抽出溶媒とをほぼ等量の割合で液-液接触させ、室温において好ましくは少なくとも2時間振とうすることにより、高抽出率で逆抽出されたパラジウムを得ることができる。

【0033】
【実施例】以下、本発明の核酸塩基としてテオフィリン誘導体およびテオブロミン誘導体を用いたパラジウムの選択的抽出剤およびこの抽出剤を用いたパラジウムの選択的抽出・回収方法に関し、本発明の実施例を順次説明する。

【0034】
(合成例1)テオフィリン誘導体の合成
下式に示すように、本合成例ではパラジウムの選択的抽出剤として6種類のテオフィリン誘導体(R=エチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシルおよびドデシルのアルキルテオフィリン)を合成した。該合成は、テオフィリンを、メタノールもしくは1,4-ジオキサンを溶媒に用い、触媒としてアルカリ存在下(炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなど)、アルキルブロマイド(R-Br)と80~100℃で6~24時間還流し反応させることにより行った。

【0035】
【化7】
JP0003081920B1_000008t.gif【0036】上記方法により合成したテオフィリン誘導体は、置換基Rが炭素数8のオクチルである誘導体が透明オイル状、これ以外は白色の結晶であった。それぞれの化学構造はH-NMRおよび13C-NMRにより同定を行った。

【0037】
(合成例2)テオブロミン誘導体の合成
本合成例ではパラジウムの選択的抽出剤として6種類のテオブロミン誘導体(R=エチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシルおよびドデシルのアルキルテオフィリン)を合成した。合成方法並びに化学構造の同定方法は合成例1のテオフィリン誘導体の場合と同様である。置換基Rが炭素数8のオクチルである誘導体が透明オイル状、これ以外は白色の結晶であった。

【0038】
次に、本発明の核酸塩基が有するパラジウム抽出性能について実施例の中で詳細に説明す る。なお、以下の実施例では合成例1で製造したテオフィリン誘導体について説明するが、合成例2で製造したテオブロミン誘導体についてもこれと同様の結果が得られた。

【0039】
(実施例1)各テオフィリン誘導体のパラジウム抽出性能の比較
本実施例では、合成例1で合成した6種類のアルキルテオフィリンを抽出剤として用い、塩化パラジウムを抽出対象金属に用いてアルキル鎖の長さの違いによる抽出挙動を比較検討した。

【0040】
実験はすべてバッチ法で行った。水相はパラジウムの初濃度を1mmol/dmとし、0.1mol/dmの塩酸を用いてpHを調製した。また、塩化物濃度を一定とするために塩化リチウムを1mol/dmとなるように加えた。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、各テオフィリン誘導体の濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、恒温振とう機(yamato社製 Water Bath Incubator BT25)を用い30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0041】
各アルキルテオフィリンによるパラジウムの抽出結果を、横軸に接触時間、縦軸にパラジウムの抽出百分率Eを表し図1に示した。ここで、抽出百分率Eは次式より求めた。他の実施例においても同様である。

【0042】
E=(Co-Ce)×100/Co[%]
Co:パラジウムの初濃度
Ce:パラジウムの平行濃度
図1より、合成例1において合成したアルキルテオフィリンのアルキル鎖の長さが長くなるにつれ、抽出に時間を要することがわかった。また、炭素数2と4のアルキル鎖を導入したものは抽出後の有機相に沈澱を生じ、これは水に若干溶解することを示唆している。しかしながら、2-エチル-1-ヘキサノールをトルエンの10重量%になるように有機相に混合すると沈澱は生じないことがわかった。

【0043】
以後の実験は、テオフィリン誘導体が水相に溶解しない炭素数6のテオフィリン誘導体(7-ヘキシルテオフィリン)および炭素数8のテオフィリン誘導体(7-オクチルテオフィリン)を用い、また、水相と有機相の接触面積を増やすために、振とう機をTAITECH社製MONOSHIN-IIAに変えて実験を行った。

【0044】
(実施例2)金属イオン選択性
抽出剤として7-ヘキシルテオフィリンを用いた。また、金属イオンとしては、貴金属および卑金属の中からパラジウム、金、銅、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、カドミウムおよび水銀を設定した。なお、本実施例で用いた金属はすべて塩化物塩である。

【0045】
実験はすべてバッチ法で行った。水相は各金属の初濃度を1mmol/dmとし、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを調整した。また、塩化物濃度を一定とするために塩化リチウムを1mol/dmとなるように加えた。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-ヘキシルテオフィリンの濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、恒温振とう機で30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0046】
各金属イオンの抽出結果を、横軸に平衡pH、縦軸に各金属の抽出百分率Eを表し図2に示した。図2より、パラジウムに選択的な抽出が見られ、その抽出率は約100%と極めて高かった。金も抽出するが低pH側で約50~70%の抽出を示し、pHが高くなると抽出率は減少した。卑金属に対してはほとんど抽出しないことがわかった。これらの結果から、卑金属はほとんど抽出せず、パラジウムを抽出するという結果が得られた。

【0047】
(実施例3)テオフィリン誘導体濃度依存性
実施例2よりテオフィリン誘導体はパラジウムを選択的に抽出することが判明したことから、本実施例では、パラジウムをいくつの抽出剤分子で抽出しているかを検討するため、抽出剤濃度の変化がパラジウムの抽出率に及ぼす影響を考察した。

【0048】
抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、実験はすべてバッチ法で行った。水相はパラジウムの初濃度を1mmol/dmとし、0.1mol/dmの塩酸を用いてpHを調製した。また、塩化物濃度を一定とするため塩化リチウムを1mol/dmとなるように加えた。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.01mol/dmから0.1mol/dmに変化させて調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0049】
パラジウムの抽出結果を、横軸に7-オクチルテオフィリン濃度、縦軸にパラジウムの抽出百分率Eを表し図3に示した。図3より、抽出剤濃度が高くなるに連れ抽出率は上昇した。これより、オクチルテオフィリン2分子で1つのパラジウムを抽出していると推察される。

【0050】
(実施例4)抽出平衡時間
本実施例では、パラジウム抽出における抽出平衡到達時間について検討した。抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、実験はすべてバッチ法で行った。水相はパラジウムの初濃度を1mmol/dmとし、0.1mol/dmの塩酸を用いてpHを調製した。また、塩化物濃度を一定とするために塩化リチウムを加え、その際塩化物イオン濃度が平衡到達時間に及ぼす影響を確認するために塩化リチウム濃度が0.1mol/dmと2mol/dmの水相を調整した。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で30分から96時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0051】
各金属イオンの抽出結果を、横軸に抽出時間を、縦軸にパラジウムの抽出百分率Eを表し図4に示した。図4より、パラジウムの7-オクチルテオフィリンによる抽出時間は、本実施例における実験装置の条件下では塩化物イオン濃度が0.1mol/dmでは約5時間で、塩化物イオン濃度が2.0mol/dmでは約50時間で抽出平衡に達し、完全にパラジウムが抽出されることが確認された。塩化物イオン濃度の相違により抽出平衡到達時間に差が出るのは、パラジウムの塩化物錯体の存在分率が異なるためであると考えられる。

【0052】
次に、パラジウム抽出率に及ぼす塩化物イオン濃度の依存性について実施例5として説明するが、本実施例により塩化物イオン濃度により抽出平衡到達時間が異なることが判明したため、振とう時間を72時間に延長して実験を行った。

【0053】
(実施例5)塩化物イオン濃度依存性
本実施例では、抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、実験はすべてバッチ法で行った。水相はパラジウムの初濃度を1mmol/dmとし、0.1mol/dmの塩酸を用いてpHを調製した。また塩化物イオン濃度は塩化リチウムを用いて0.1mol/dmから3.0mol/dmとなるように調製した。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で72時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属イオン濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0054】
パラジウムの抽出結果を、横軸に塩化物イオン濃度、縦軸にパラジウムの抽出百分率Eを表し図5に示した。図5より、塩化物イオン濃度が高くなると抽出率は若干減少した。しかしながら、その減少率は小さく、本実施例の塩化物イオン濃度範囲においては98%以上の抽出が可能であることが明らかとなった。なお、この現象は抽出されるパラジウム塩化物錯体の存在分率の減少によるものと考えられる。

【0055】
(実施例6)塩酸濃度依性
本実施例では、工業的に重要とされる塩酸溶液からの抽出を検討するため、パラジウム抽出に対する塩酸濃度依存性を考察した。

【0056】
実験は抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、すべてバッチ法で行った。水相はパラジウムの初濃度を1mmol/dmとし、塩酸濃度は2N、1N、0.5N、0.1N、0.05N、0.01Nに設定した。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0057】
各金属の抽出結果を、横軸に平衡塩酸濃度の対数を、縦軸にパラジウムの抽出百分率Eを表し図6に示した。図6より、高塩酸濃度において抽出率が減少することがわかった。この減少は、抽出に関与する塩化物錯イオンの減少によるものと考えられるが、本実施例における塩酸濃度範囲においては95%以上の抽出性能があることがわかった。

【0058】
(実施例7)水素イオン濃度依存性
本実施例では、パラジウムの抽出に及ぼす水素イオン濃度依存性を調べた。実験は、抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、すべてバッチ法で行った。水相は金属の初濃度を1m mol/dmとし、塩酸を用いて水素イオン濃度を調製した。また、塩化物イオン濃度を一定とするために塩化リチウムを1mol/dmとなるように加えた。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0059】
抽出結果を、横軸に水素イオン濃度の対数を、縦軸にパラジウムの抽出百分率Eを表し図7に示した。図7より、パラジウムの抽出率は、水素イオン濃度には依存しないことが明らかとなった。

【0060】
(実施例8)貴金属間におけるパラジウムの選択的抽出
従来、パラジウムの抽出に用いられている工業的抽出剤は、一般に、性質の似通った貴金属を抽出する傾向にあり、貴金属間におけるパラジウムの分離は困難であった。そこで、本実施例では、本発明の抽出剤が貴金属(パラジウム、金、白金)の中から選択的にパラジウムだけを抽出できるかを検討した。

【0061】
実験は、抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、すべてバッチ法で行った。水相は各金属の初濃度を1mmol/dmとし、塩酸および水酸化ナトリウムを用いてpHを調製した。また、塩化物イオン濃度を一定とするために塩化リチウムを1mol/dmとなるように加えた。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0062】
各貴金属イオンの抽出結果を、横軸に平衡pHを、縦軸に各貴金属の抽出百分率Eを表し図8に示した。図8より、パラジウムに高い抽出選択性がみられた。pH6から7付近で金とパラジウムの分離が、またpHの低い領域で白金とパラジウムの分離が可能であることを示唆している。

【0063】
(実施例9)パラジウムと他の金属の相対濃度依存性
本発明の抽出剤が、パラジウムと他の金属が等濃度で水相中に含有されている場合にパラジウムの選択的抽出に極めて有効であることは上述の実施例により明らかとなった。そこで、本実施例では、パラジウムと他の金属の相対濃度を変えて本発明のパラジウム抽出性能を検討した。

【0064】
実験は、工業的に分離の難しいとされる貴金属間での分離を想定して白金とパラジウムの分離を、また鉱石中に存在する金属間での分離を想定して銅とパラジウムの分離を行った。抽出剤として7-オクチルテオフィリンを用い、すべてバッチ法で行った。水相はパラジウムの初濃度を1m mol/dmとし、白金および銅の初濃度を1m mol/dmから25m mol/dmまで変化させ2液を混合したものを調製した。0.1mol/dmの塩酸を用いてpHを調製し、また塩化物濃度を一定にするために塩化リチウムを1mol/dmになるように添加した。有機相は抽出溶媒としてトルエンを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。

【0065】
パラジウムと白金の混合溶液からの抽出結果を、横軸に相対濃度[Pt]/[Pd]を、縦軸にパラジウムと白金の抽出百分率Eを表し図9に示した。図9より、パラジウムの25倍の白金が含有されている混合溶液からも、選択的にパラジウムのみを抽出していることが明らかとなった。

【0066】
同様にパラジウムと銅の混合溶液からの抽出結果を、横軸に相対濃度[Cu]/[Pd]を、縦軸にパラジウムと銅の抽出百分率Eを表し図10に示した。図10より、パラジウムの25倍の銅が含有されている混合溶液からも、選択的にパラジウムのみを抽出していることが明らかとなった。

【0067】
(実施例10)パラジウムの逆抽出
本実施例では、抽出溶媒である有機相中に抽出されたパラジウムを逆抽出し、パラジウムを含有する水溶液を得ることによるパラジウムの逆抽出方法について検討した。

【0068】
実験は、抽出剤として7-オクチルテオフィリンを、また逆抽出溶媒として表1に示すアンモニア水、塩酸、チオ尿素水溶液を用い、すべてバッチ法により行った。水相はパラジウムイオンの初濃度を1.0mmol/dmとし、0.1mol/dmの塩酸を用いた。また、塩化物イオン濃度は1.0mol/dmとした。有機相は抽出溶媒としてクロロホルムを用い、7-オクチルテオフィリン濃度を0.1mol/dmに調製した。その後各相を10mlづつL字管に取り、30℃で24時間振とうした。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。次いで有機相9mlを分取し、表1に示す逆抽出溶媒を等量用いて3時間振とうさせた。振とう後水相を分取し、各金属濃度は原子吸光光度計により求めた。結果を表1に示す。

【0069】
【表1】
JP0003081920B1_000009t.gif【0070】表1に示す結果から、逆抽出剤としてアンモニア水、チオ尿素水溶液、またはチオ尿素水溶液と塩酸の混合水溶液を用いた場合にパラジウムを逆抽出することができ、特にアンモニア水を用いた場合は100%の逆抽出率が得られた。以上の結果より、本発明の抽出剤を用いて有機相に抽出したパラジウムの逆抽出においては、アンモニア水が極めて有効なパラジウムの逆抽出溶媒であることがわかった。

【0071】
【発明の効果】以上説明したように、本発明により、パラジウムを高い選択性を持って効率的に抽出し得、その逆抽出も簡易且つ安価である、画期的なパラジウムの抽出剤、およびこの抽出剤を用いたパラジウムの抽出・回収方法が提供された。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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