TOP > 国内特許検索 > ワムシの冷蔵保存法 > 明細書

明細書 :ワムシの冷蔵保存法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3412016号 (P3412016)
公開番号 特開2002-306089 (P2002-306089A)
登録日 平成15年3月28日(2003.3.28)
発行日 平成15年6月3日(2003.6.3)
公開日 平成14年10月22日(2002.10.22)
発明の名称または考案の名称 ワムシの冷蔵保存法
国際特許分類 A23K  1/18      
A23K  1/10      
FI A23K 1/18 102A
A23K 1/10
請求項の数または発明の数 7
全頁数 6
出願番号 特願2001-111123 (P2001-111123)
出願日 平成13年4月10日(2001.4.10)
審査請求日 平成13年4月10日(2001.4.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145000
【氏名又は名称】長崎大学長
発明者または考案者 【氏名】萩原 篤志
【氏名】マビット アッサワアリー
【氏名】井出 健太郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作 (外1名)
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 Gallardo W.G.et al.,Journal of Experimental Marine Biology and Ecology,vol.240,pp.179-191(1999)
萩原篤志、栽培技研,vol.24,pp.109-120(1996)
調査した分野 A23K 1/00 - 1/20
特許請求の範囲 【請求項1】
ワムシを冷蔵保存するのに有効的な量のγ-アミノ酪酸、又はブタ成長ホルモンの存在下で保存することを特徴とするワムシの冷蔵保存法。

【請求項2】
前記γ-アミノ酪酸の濃度が、50μg/ml以下である請求項1記載の方法。

【請求項3】
前記ブタ成長ホルモンの濃度が、0.0025~0.25I. U. /mlである請求項1記載の方法。

【請求項4】
前記冷蔵を、12℃以下で行う請求項1又は2に記載の方法。

【請求項5】
前記γ-アミノ酪酸、又は前記成長ホルモンの投与を、冷蔵保存開始後の6時間以内に行う請求項1~4項に記載の方法。

【請求項6】
前記γ-アミノ酪酸、又は前記成長ホルモンの投与を、冷蔵保存終了前の6時間以内に行う請求項1~4項に記載の方法。

【請求項7】
前記ワムシが、L型、又はS型である請求項1~4項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ワムシの冷蔵保存法に関し、特に、γ-アミノ酪酸の存在下でワムシを冷蔵保存する方法に関する。

【0002】
【従来の技術】ワムシは、体長100~300ミクロン程の、海や河口にすむ小型の動物性プランクトンで、主に水産養殖の現場で卵から孵化したばかりの仔稚魚に欠かせない大切な餌として利用されている。ワムシは、多くの種類の魚介類の幼生、プランクトン食の生物の本来の食べ物である。

【0003】
したがって、このようなワムシは、有用魚貝類の種苗生産業において、孵化したばかりの仔魚に与える餌生物として汎用されている。かかる観点から、ワムシを餌料用に積極的に培養することが行われている。

【0004】
ワムシの培養は、基本的に、(1)ワムシの個体数の計数(毎日)、(2)クロレラの給餌(毎日)、(3)定期的な換水(3~4日毎)、(4)収穫と新たな培養開始密度の調製の作業の繰り返しとなる。

【0005】
ワムシの個体数の計数は、培養条件を判断するためのものである。計数からワムシの増殖率が高ければ良好であることを示す。増殖率が低ければ、ワムシの餌であるクロレラの給餌量が少ない、培養水が汚れている(換水を行う。)、水温が低い、溶存酸素が少ない(エアレーションを強くする)、及び培養密度が高すぎる(間引きを行う。)等の原因が考えられるので、原因をつきとめ対処する。

【0006】
このようなワムシの培養には、豊富な経験と知識を必要とするため、ワムシ培養の好調時に、余剰のワムシを冷蔵庫内で保存しておく方法が、知られている。この方法は、20℃ぐらいの培養温度より低温で行うものである。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ワムシを冷蔵庫内で保存する方法においては、低温移行前に15℃以下で馴化したり、保存途中に水換えを行ったりする必要がある。これらの煩雑な処理を施さないと、保存後の生残率が安定的に高い値を示さない。

【0008】
現在、有用魚介類の種苗生産業において、仔魚に与える初期餌料であるワムシが計画通り培養できるかどうかが、有用魚介類の種苗生産の成否を左右している。しかし、ワムシを終始安定的に培養することは困難であり、ワムシの保存技術の確立、及び該開発技術に基づくワムシの供給体制の確立が懸案となっている。

【0009】
そこで、本発明の目的は、煩雑な処理を必要とせず、安定してワムシを供給することが可能なワムシの冷蔵保存方法を提供することにある。

【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、発明者らは、ワムシの生体、特にストレス環境下におけるワムシの生体について鋭意観察研究を積み重ねた結果、ワムシにとって大きなストレス環境下の低水温下で、γアミノ酪酸の水中添加が、ワムシの活力を昇進させ、生残率を高めることを見出した。

【0011】
本発明のワムシの保存方法は、ワムシを冷蔵保存するのに有効的な量のγ-アミノ酪酸、又はブタ成長ホルモンの存在下、ワムシを冷蔵保存することを特徴とする。

【0012】
また、本発明のワムシの保存方法の好ましい実施態様において、前記γ-アミノ酪酸の濃度が、50μg/ml以下であることを特徴とする。

【0013】
また、本発明のワムシの保存方法の好ましい実施態様において、前記ブタ成長ホルモンの濃度が、0.0025~0.25μg/mlであることを特徴とする。

【0014】
また、本発明のワムシの保存方法の好ましい実施態様において、前記冷蔵を、12℃以下で行うことを特徴とする。

【0015】
また、本発明のワムシの保存方法の好ましい実施態様において、前記γ-アミノ酪酸、又は前記成長ホルモンの投与を、前記冷蔵開始後の6時間以内に行うことを特徴とする。

【0016】
また、本発明のワムシの保存方法の好ましい実施態様において、前記γ-アミノ酪酸、又は前記ブタ成長ホルモンの投与を、前記冷蔵終了前の6時間以内に行うことを特徴とする。

【0017】
また、本発明のワムシの保存方法の好ましい実施態様において、前記ワムシが、L型、又はS型であることを特徴とする。

【0018】
【発明の実施の形態】本発明のワムシの保存方法は、γ-アミノ酪酸、又はブタ成長ホルモンの存在下、ワムシを冷蔵保存する。ワムシの冷蔵保存は、ワムシの種類により異なるが、γ-アミノ酪酸又は成長ホルモンを使用することを除き、従来の冷蔵保存法を適用することができる。ワムシは、 Brachionus plicatilis(L型)、及びB.rotundiformis(S型及びSS型)などの種類がある。

【0019】
一般に、L型の冷蔵保存は、4℃で行う。S型、SS型は、それぞれ10℃、12℃で冷蔵保存する。本発明においても、これら従来の保存温度をそのまま適用することができる。

【0020】
γ-アミノ酪酸は、神経細胞の興奮や抑制を伝達したり、あるいは神経伝達を調節したりする神経活性アミノ酸として知られている。また、成長ホルモンは、好酸性細胞で合成・分泌される下垂体前葉ホルモンの一つで、体全体とくに長骨の成長を促す。成長ホルモンの作用は、一様でなく、発生段階や組織によっていろいろ変化する。単に成長を促すだけでなくいろいろな組織でのタンパク質性合成を促進し、また貯蔵脂肪の移動も刺激する。

【0021】
本発明においては、このようなγ-アミノ酪酸及び成長ホルモンを、ワムシの冷蔵保存期間中の活力剤として用いる。γ—アミノ酪酸及び成長ホルモンの量としては、ワムシを冷蔵保存するのに有効的な量である。有効的な量は、ワムシの状態、培養温度等により異なり、適宜決定することができる。一般的には、γ-アミノ酪酸の濃度は、50 μg/mlである。γ-アミノ酪酸の濃度は、好ましくは50±10μg/mlである。50μg/ml以上とすると、水質の悪化を招いてワムシの斃死に至る場合が有り、5μg/ml以下とすると、ワムシの活力剤としての効果が減少するからである。

【0022】
成長ホルモンの濃度は、ワムシの状態、培養温度等の諸条件により異なるが、一般的には、0.0025~0.25μg/mlである。成長ホルモンの濃度は、好ましくは、0.025μg/mlである。0.25μg/ml以上とすると、 水質の悪化を招く場合が有り、0.0025μg/ml以下とすると、ワムシの活力剤としての効果が減少するからである。

【0023】
γ-アミノ酪酸又は前記成長ホルモンの投与時期については、ワムシの状態によって適宜変更可能である。好ましくは、ワムシの冷蔵開始後6時間以内に行う。投与時期を冷蔵開始後6時間以内とするのは、ワムシを長期にわたって冷蔵保存し、ワムシの活力が低減している場合には、ワムシがγ-アミノ酪酸及び成長ホルモンを、積極的に吸収し、利用することができず、代わりに水中の細菌に分解,利用されるおそれが有るからである。

【0024】
また、前記γ-アミノ酪酸、又は前記成長ホルモンの投与を、前記冷蔵保存終了前の6時間以内に行うことができる。投与時期を冷蔵保存終了前の6時間以内とするのは、冷蔵保存後の温度上昇,仔魚に給餌する際の栄養強化培養時等に生じるストレスを軽減させるためである。 また、本発明のワムシの保存方法において、冷蔵を、12℃以下で行うことができる。温度の調節は、例えば、20℃で馴化等して、段階的に行っても良く、直接12℃以下に行ってもよい。なお、L型ワムシに関しては、更に低温において冷蔵することができる。L型ワムシの適正保存温度としては、4℃前後である。

【0025】
【実施例】以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。

【0026】
L型及びS型を実験に使用した。これらの株を、異なる塩濃度で予め培養した。L型及びS型株を、それぞれ海水22及び35ppt中で予め培養した。各ワムシを500mlビーカーにおいて3~4日間培養し、その後、1000mlビーカーに移し3~4日間培養した。爆気なしに、暗所下において、25℃で予備培養中、毎日、ワムシに餌(7×10細胞/mlの Nannochloropsisi oculata Droop)を与えた。7~8日間の予備培養後、ワムシを実験に使用した。以前の研究に基づき、保存温度を、L型及びS型に対して、それぞれ、4℃及び10℃とした。

【0027】
低温保存したワムシの生残率における2つの化学薬品、γ-アミノ酪酸(GABA)及びブタ成長ホルモン(GH)の効果を決定した。両方の化学薬品を、シグマ社(Siguma Chemical Co.)から入手した。この実験に使用したGABA及びGHの投与量を、それぞれ、50μg/ml及び0.025I.U./mlとした。これらの濃度は、ワムシの培養において最も良い生残率を示した。

【0028】
実施例1
まず、L型について、本発明の効果を調べた。上述のように予備培養したストックからL型ワムシを採取し、500個/mlに調節した。その後、それらを25ml培地付き50ml容器に入れた。実験の最初の日に餌(N.oculataを7×10)を与えた。6つの容器を用意し、2つの処理をした。処理1(T1)において、3つのボトル(1,2,3)をGABAなしに、直接的に25℃~4℃へ移行した(対照例)。処理2(T2)において、他の3つのボトル(4,5,6)を、25℃~4℃へ移行6時間後に、GABAを加えた。水換えなくワムシを4℃で30日間培養して、暗所下を維持した。生残率を3~4日毎に記録した。保存中、記録後、濃縮した7×10細胞/mlのN.oculataをワムシに与えた。

【0029】
保存14日及び30日に、各容器からワムシを取り出し、25℃に回復した。サンプルしたワムシを、10mlの22pptのN.oculata(7×106細胞/ml)を含む新しい容器に20個/mlの密度で貯蔵した。

【0030】
4℃で保存し、培地に回復した成長ホルモンの効果を見るために、GABA試験において行ったような同様の方法を使用した。0.025IU/mlのGHを使用した。

【0031】
GABA6h、GH6h、GABA7d、GH7d及び対照例について、7日、10日、14日、21日及び30日目のL型の生残率(平均値)を、表1及び図1に示す。図1(A)が、GABAを添加した場合であり、図1(B)が、GHを添加した場合である。

【0032】
【表1】
JP0003412016B2_000002t.gif【0033】図1から明らかなように、GABA、及びGHの存在下での冷蔵保存中において、ワムシの生残率が高いことが分かる。途中で生残率が低くなることも見られたが、これは、細菌による影響と考えられる。即ち、GABA及びGHは、ワムシの活力剤であると同時に、細菌の栄養源または活力剤となる可能性もあるからである。したがって、ワムシの状態によっては、GABA及びGHなどが細菌に利用される可能性もあり、かかる場合には、ワムシの生残率が減少する。無細菌下での冷蔵保存により、よりワムシの生残率を上げることができる。

【0034】
実施例2
ワムシを10℃で保存する以外、実施例1と同様の方法を用いて、S型について、本発明の効果を調べた。結果を表2及び図2に示す。

【0035】
【表2】
JP0003412016B2_000003t.gif【0036】図2から明らかなように、10日及び14日後にはGABA6hの処理をしたものが対照例より高い生残率を示した。

【0037】
実施例3
次に、GABAの投与を冷蔵保存終了前6時間のときに行った場合の本発明の効果を調べた。ワムシとしてS型を用いた。結果を図3に示す。図3は、14日間の10℃低温保存後の25℃での回復試験を行った結果を示す図である。即ち、10℃~25℃に移行8日後のワムシの密度を示す。

【0038】
実施例1と同様の方法により、対照例、GABA6hを処理した。即ち、対照例は、GABAを含まないで冷蔵保存したものである。GABA6hは、25℃~10℃へ低温移行後、6時間のときに、50mg/LのGABAを投与したものである。GABAD14は、10℃から25℃に移行する6時間前に50mg/lのGABAを添加したものである。

【0039】
図3から明らかなように、冷蔵保存中にGABAを投与したものは、対照例と比較して高いワムシ密度を示した。

【0040】
【発明の効果】本発明のワムシの冷蔵保存法によれば、高い生残率でワムシを終始安定的に培養することができるという有利な効果を奏する。

【0041】
また、本発明のワムシの冷蔵保存法によれば、低温移行前に馴化すること、保存途中に水換えをすることなく、したがって、煩雑な手続きをすることなく、高い生残率でワムシを供給することができるという有利な効果を奏する。
図面
【図2】
0
【図1】
1
【図3】
2