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明細書 :天然植物油の脱ガム法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3350695号 (P3350695)
公開番号 特開2001-011484 (P2001-011484A)
登録日 平成14年9月20日(2002.9.20)
発行日 平成14年11月25日(2002.11.25)
公開日 平成13年1月16日(2001.1.16)
発明の名称または考案の名称 天然植物油の脱ガム法
国際特許分類 C11B  3/00      
C11B  3/16      
C11B  5/00      
FI C11B 3/00
C11B 3/16
C11B 5/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願平11-179582 (P1999-179582)
出願日 平成11年6月25日(1999.6.25)
審査請求日 平成11年6月25日(1999.6.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人 食品総合研究所
発明者または考案者 【氏名】中嶋 光敏
【氏名】鍋谷 浩志
【氏名】スブラマニアン ランガスワミ
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
審査官 【審査官】原 健司
参考文献・文献 特開 昭53-35709(JP,A)
特開 平2-255896(JP,A)
特開 昭58-93798(JP,A)
調査した分野 C11B 3/00
C11B 3/16
C11B 5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
膜を介して天然植物油をガム成分を含む濃縮油とガム成分を除去された透過油に分離する脱ガム法において、前記天然植物油にホスファチジルコリン(PC)にてエンリッチされたレシチンと水を添加することを特徴とする天然油脂の脱ガム法。

【請求項2】
請求項1に記載の脱ガム法において、記膜は疎水性のポリエチレン(PE)または疎水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でああり、ポアサイズが30~100nmであることを特徴とする天然油脂の脱ガム法。

【請求項3】
請求項1に記載の脱ガム法において、前記天然植物油は、大豆油、菜種油、パーム油またはヒマワリ油の何れかであることを特徴とする天然油脂の脱ガム法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、天然植物油からリン脂質や粘液質のガムを膜を用いて除去する脱ガム法に関する。

【0002】
【従来の技術】大豆油や菜種油等の天然植物油は、油糧種子を機械的に圧搾したり、ヘキサン等の有機溶媒を用いて油を抽出し、この後、一連の精製操作を経て食用に適したものにされる。

【0003】
この一連の精製操作のうちの最初の工程が脱ガムである。この脱ガム工程で油の色を黒っぽくしたり香り消失の原因物質となるリン脂質等のガム成分を除去している。

【0004】
ここで、天然の植物油中には異なるタイプのリン脂質が含まれている。即ち、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジル酸(PA)及びフィトスフィンゴ脂質等である。また、リン脂質は水和性リン脂質と非水和性(親油性)リン脂質とに分けられる。水和性リン脂質は主としてホスファチジルコリン(PC)からなり、非水和性リン脂質は主としてホスファチジル酸(PA)あるいはホスファチジルエタノールアミン(PE)のカルシウム塩やマグネシウム塩からなっている。

【0005】
工業的に利用されている従来の脱ガム法としては、水-脱ガム法および酸-脱ガム法がある。水-脱ガム法では、高温(60~75℃)の水または蒸気を用いた処理によって水和性リン脂質が簡単に油中から取り除かれる。この処理ではリン脂質は水和性リン脂質となり、油に混ざらなくなる。そして、水和性リン脂質とガムは沈殿、フィルタリング、遠心分離によって油から分離される。

【0006】
一方、酸-脱ガム法では、リン酸またはクエン酸を添加することで、非水和性リン脂質を構成するホスファチジル酸(PA)あるいはホスファチジルエタノールアミン(PE)のカルシウム塩やマグネシウム塩の水和性を増加する。しかしながら、この方法で得られるレシチンは低品質である。

【0007】
上記以外の脱ガム法として、膜法、逆電流圧搾法、超臨界CO2法、超音波法等が報告されているが、膜法は他の方法に比較してかなりシンプルであり、本発明も膜法を改良したものである。

【0008】
限外濾過膜を用いたヘキサン-油のミセラからの脱ガム法について報告が多数なされている。Lin et.al.は、ヘキサン耐性を有する膜を用いてヘキサン-油のミセラからの脱ガム法をベンチスケールで最適化している(Journal of Membrane Science:1997)。

【0009】
また、以前我々が行った非多孔質の高分子複合膜を用いた実験では、リン脂質の阻止率は97.4~99.9%に達することが示された。この場合、希釈等の予備処理を行っておらず、透過油中のリン脂質含有量は240mg/kg以下であった。上記の膜法によれば、水和性リン脂質のみでなく非水和性リン脂質もほぼ完全に阻止された。(Proceedings of 4th International Congress on Membranes and Membrane processes:1996)

【0010】
これらの膜法によって、油中にα-トコフェロール(ビタミンE)を残したまま、色素やリン脂質に付随する酸化物を効果的に阻止できることも我々は確認した。

【0011】
【発明が解決しようとする課題】膜法を除いた他の脱ガム法はいずれも装置が大掛りとなり、消費エネルギー、環境への温度影響、化学物質の添加、栄養成分や有用物質の保持等において問題がある。

【0012】
一方、非多孔質疎水性膜を用いた方法は他の方法に比較してシンプルで、リン脂質の選択的阻止率も高いのであるが、工業的に利用するには透過流束が小さいという致命的な欠陥がある。しかるに、限外濾過膜や精密濾過膜を用いた方法は、ヘキサン・ミセラの利用に限られており、溶媒で希釈しない無溶媒系でのリン脂質の阻止性能は低いという欠点がある。

【0013】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため本発明に係る天然植物油の脱ガム法は、膜法を前提とし、バッチ式の場合には天然植物油にレシチンと水を添加するようにし、また濃縮油を循環させる連続式の場合には、天然植物油または再分離前の濃縮油にレシチンと水を添加する構成としてもよい。

【0014】
前記レシチンはホスファチジルコリン(PC)でエンリッチされたものを用いることが可能である。このようなレシチンを用いることで、膜によりリン脂質の阻止も効果的に行うことができる。

【0015】
また、前記天然植物油の例としては、大豆油、菜種油、パーム油、ヒマワリ油が挙げられ、前記膜としては、例えばポアサイズが30~1000nmの精密濾過膜を用い、更に膜の材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンディフロライド(PVDF)等の疎水性膜の何れかが適当である。

【0016】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を説明する。
(用意した膜)ポリエチレン精密濾過膜(ポアサイズ30nm)は東燃化学から得た。疎水性ポリテトラフルオロエチレン(ポアサイズ100nm、1000nm(FAWP))、ポリビニリデンディフロライド(PVDF)(ポアサイズ450nm(HVHP))及び親水性ポリテトラフルオロエチレン(ポアサイズ100nm、(JVWP)の精密濾過膜は日本ミリポアから提供された。膜はセルに適合するように、直径7.5cm、有効エリア32cm2の円板状に切断した。

【0017】
(膜ユニットの構成)実験は、平膜を組み込んだテストセル(C40-B:日東電工)を用いて窒素雰囲気にて行った。テストセルは磁気撹拌装置上にセットし、撹拌用の磁気バーをセル内に投入した。セルと磁気撹拌装置は温度コントロールされた培養器内にセットし、実験の細かな設定とスキームダイアグラムについては別に決定した。窒素シリンダからなるレギュレータを調整することで、テストセルに所定の圧が供給され、膜ユニットはセルに100gの天然油を供給するバッチモードで操作される。圧力、温度及び撹拌バーの回転速度はそれぞれ、0.3MPa、40℃及び400rpmとした。透過油は膜サポートの下にあるポートを通して集められ、集めた透過油が約50gになった時点で実験を停止する。

【0018】
(材料)天然大豆油と菜種油は日本リーバから提供された。大豆レシチンは和光純薬(カタログナンバー:124-00835)から得た。適量のレシチンを100gの天然油に溶解させた。この油には予め決められた量の水が加えられ、膜を装填したセルに供給される前に磁気撹拌装置を用いて1時間撹拌した。

【0019】
(分析方法)リンとカルシウムについての検出は、誘導型プラズマ原子-エミッション スペクトロホトメータを用いて行った。ホスファチド及びリン脂質当量はリン含有物の30ものファクターを計算することで得た。マグネシウム含有物についての検出は、原子吸収スペクトロホトメータを用いて行った。油中の個別のリン脂質の決定は、AOCS法(Ja 7b-91)を用いたHPLC(高速液体クロマトグラフ)にて行った。

【0020】
(パラメータの特性)脱ガムの特性は処理された油中のリンまたはリン脂質がどれだけ除去されたかによって表される。評価は膜技術についてなされるため、見掛け上の阻止率と透過流束も脱ガムの特性を表す。トータル除去率(TR)は精製油にするために供給された物質のそれぞれの除去率を含む。有効除去率(ER)は実際の天然油から精製油になる際の天然油を構成する各物質の除去率を指す。TRとERは以下の式にて算出される。
TR(%)=100(CF-CP)/CF・・・・・・・・・・・・・・(1)
ER(%)=100(CC-CP)/CC・・・・・・・・・・・・・・(2)
ここで、CC、CFおよびCPはそれぞれ、天然植物油、膜を透過しなかった植物油(以下、濃縮油とする)および膜を透過した植物油(以下、透過油とする)の容量である。バッチプロセスでは濃縮油の濃度は操作中常に変化し、除去率は見掛け上の除去率である。各透過物を集めた見掛け上の除去率(RO)は、以下の等式を用いて決定される。
RO(%)=100[ln(CRf/CRi)]/ln(Wi/Wf)・・・・・・・・(3)
ここで、CRiとCRfは、保持物(残留物)を構成する各物質の最初と最後の容量(mg/kg-oil)であり、WiとWfは保持物(残留物)を構成する各物質の最初と最後の重量(kg-oil)である。

【0021】
(実験結果と考察)大豆から油をヘキサン抽出し、ヘキサンを除いた大豆粗油を対象にして、精密濾過膜を用いて濾過した場合のリン脂質の阻止率は、精密濾過膜のポアサイズが10,20,30nmの場合、それぞれ、12.1、9.8及び8.7%であった。リン脂質のミセルは膜のポアサイズよりも小さく、リン脂質の阻止率は低かった。本実験において、天然の大豆油に水を0.5%及び1.0%添加し、これをポリエチレン膜に通したところ、それぞれ、85.9%と87.2%の阻止率を示した。対応する透過油のリン含有量は、それぞれ、56mg/kg及び51mg/kgであった。従来の遠心分離法の場合、処理油のリン含有量は60mg/kgと200mg/kgの間である。

【0022】
特性値を更に高めるため、レシチンの添加を試みた。実験は、少量のレシチンを天然の大豆粗油に添加した。レシチンと水の割合が異なる4種類の添加物を用いた場合の、天然の大豆油中、濃縮油及び透過油中のリン含有量、リン脂質の合計除去率(TR)、リン脂質の有効除去率(ER)、リン脂質の見かけの除去率(RO)を(表1)に示す。

【0023】
【表1】
JP0003350695B2_000002t.gif【0024】全てのケースにおいて、リン脂質の有効除去率(ER)はかなり高い(84.5~94.5%)。水の添加量を一定(1%)にし、レシチンの添加量を2.1%から4.0%にすると、リン脂質の有効除去率(ER)は84.5%から94.5%に上昇し、透過油のリン含有量は57mg/kgから20mg/kgに減少した。

【0025】
しかしながら、レシチンの添加量を6.2%に増やすと、リン脂質の有効除去率(ER)が94.5%から92.5%に僅かに減少し、これに伴って、透過油のリン含有量が20mg/kgから28mg/kgへ僅かに増加した。

【0026】
レシチンの一定量添加(4%)では、リン脂質の除去率と透過油のリン含有量の減少量は、水の添加量を1%としても2%としてもそれほど変わらない。そこで、レシチン4%、水1%を固定し、天然油の品質と異なる膜の評価を行った。

【0027】
(脱ガムに対する天然油の質の影響)リン、カルシウム及びマグネシウム含有量と、各含有量の除去率を以下の(表2)に示す。本実験で使用した天然大豆粗油と菜種粗油のリン脂質の含有量は、それぞれ、0.84~2.0%及び0.79~1.13%であった。この値は、一般的な大豆粗油の含有範囲1.5~2.1%と菜種粗油の含有範囲1.0~1.5%に近い。

【0028】
【表2】
JP0003350695B2_000003t.gif【0029】本膜法において、リン脂質の阻止率は、大豆粗油と菜種粗油においてそれぞれ95.9~98.2%及び91.3~95.3%であった。大豆粗油においては、リン脂質の有効除去率(ER)も殆ど同じで、菜種粗油においては、リン脂質の有効除去率(ER)はリン脂質の量と天然油の品質によって変化した。これを上記の(表2)に示した。

【0030】
透過油のリン含有量については、大豆粗油の場合は20~58mg/kgの範囲で変化し、 菜種粗油の場合は63~94mg/kgの範囲で変化した。添加したレシチンは水和が早く進行するリン脂質を含んでおり、膜はそれらリン脂質をを直ちに阻止する。このことは、実験が精製された大豆粗油について行われた際に添加されたレシチンがすべて阻止されるという事実から明らかである。

【0031】
天然油中の水和性が低いか若しくは水和がゆっくり進行するリン脂質の濃度はリン脂質の有効除去率(ER)と透過油のリン含有量に影響を及ぼす可能性がある。ここで、水和性が低いか若しくは水和がゆっくり進行するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジル酸(PA)及びフィトスフィンゴ脂質、PEまたはPAのカルシウム塩またはマグネシウム塩などがある。

【0032】
マグネシウムはカルシウムよりも除去される割合が比較的大きい。このことはリン脂質のうちマグネシウム塩はカルシウム塩よりも容易に水和されることを意味する。

【0033】
菜種粗油においては、大豆粗油に比べてリン脂質の除去率が低い。これは菜種粗油中のカルシウムとマグネシウムの割合が高いため、非水和性塩の割合が多くなっているからと思われる。脱ガム特性は、リン脂質の総量だけでなく天然の植物油中に最初から含まれる非水和性リン脂質の割合によっても左右される。

【0034】
(工業的に脱ガムされた油の膜処理特性)従来の方法で脱ガムされた大豆粗油で、リン脂質の含有量が異なる2種類のグレードのものについて本発明の膜による脱ガム処理を行った。リンの除去率、カルシウムとマグネシウムの含有量を(表3)に示す。

【0035】
【表3】
JP0003350695B2_000004t.gif【0036】レシチンの添加量を4.3%とし水の添加量を1.0%としたときのリン脂質の有効除去率(ER)は70.9%であった。添加量を倍にした場合も、リン脂質のカルシウム塩とマグネシウム塩の割合が高い脱ガムされた油に対してはリン脂質の有効除去率(ER)は56.0%と低くなることが分る。

【0037】
しかも、この場合の透過油中のリン脂質濃度は、大豆粗油を膜処理した場合の透過油に比べて若干高くなっている。これは、従来法で脱ガムされた油中では水和の速度が遅いリン脂質が殆どを占めているからと考えられる。従来の脱ガムプロセスにおいては、水和性リン脂質は除去されており、脱ガムされた油中には非水和性リン脂質が主として含まれる。

【0038】
モル分率(Mg+Ca)/Pは従来の工業的な脱ガム処理の前よりも後の方が大きくなったとの報告がなされている。従来法で脱ガム処理された2種類の油のモル分率(Mg+Ca)/Pの値は、それぞれ0.5と0.9であり、(表2)に示した4種類の大豆油のモル分率(Mg+Ca)/Pの値は約0.3であった。カルシウムとマグネシウムのリン含有物に対する高い割合は、工業的に脱ガムされた油中に非水和性リン脂質の量が多いことを示し、脱ガム特性に影響を及ぼす。そこで、プロセスの経済的な観点からは、本膜法は直接天然粗油に適用する方が、従来法で脱ガム処理された油に適用するよりも好ましいといえる。

【0039】
(水和されやすいリン脂質の役割)天然粗油中、濃縮油および透過油のそれぞれのリン脂質の量、ホスファチジルコリン(PC)とリン脂質の除去量を(表4)に示す。

【0040】
【表4】
JP0003350695B2_000005t.gif【0041】異なるリン脂質、即ち、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジル酸(PA)の水和率は任意のスケールを100として、それぞれ100,44,16および8.5との報告がある。PEとPAのカルシウム塩の水和性は上記のスケールに基づくと、極めて小さく、1よりも小さい。また、水和したリン脂質は他の水和していないリン脂質を包み込む性質があるとの報告もある。

【0042】
HPLC(高速液体クロマトグラフ)の分析では、透過油中のホスファチジルコリン(PC)の含有量は、大豆油中のトータルのリン脂質量に対して極めて低く5.7%、同じく菜種油中のトータルのリン脂質量に対しても極めて低く1.3%であった(表4)。そのため、トータルのリン脂質を完全に除去するには不十分であると考えられる。

【0043】
ホスファチジルエタノールアミン(PE)やホスファチジル酸(PA)のような水和の遅いリン脂質はトータルのリン脂質の35~38%であった。ホスファチジルイノシトール(PI)の割合は実験的には求められていないが、PEとPAの間と予想される。他のリゾ化合物の割合はトータルのリン脂質の34~46%になる。

【0044】
PAとPEは、PCとの相互作用によってそれ自身のみの場合と比べて油中においてより水和性が増す。この膜プロセスにあっては、水和の前にレシチンを添加することによって水和されやすいリン脂質の量を増加し、その結果、一連の膜処理にて電解質を使用することなくリン脂質の除去率を高め得るようにした。水和されたリン脂質は膜で阻止され簡単に除去される。

【0045】
濃縮油側でのホスファチジルコリン(PC)を増加せしめるべく、レシチンの代りにPCでエンリッチされたレシチンを用いる。PCでエンリッチされたレシチンは、大豆油レシチンのアセトン不溶解画分の中のエタノール溶解画分からエタノールを蒸発させて得られる。

【0046】
PCでエンリッチされたレシチンを膜プロセスで使用すると、トータルのレシチンの要求量を下げることができる。菜種粗油の場合、PCでエンリッチされたレシチンの添加量は2.1%であり、これと同等のリン脂質の有効除去率(ER)と透過油側でのリン含有量を得るには4.1%のレシチンを加える必要がある。

【0047】
結果的に、本膜法によればホスファチジルコリン(PC)の殆どを阻止することができ、トータルのリン脂質除去率は98.5%以上となった。

【0048】
(異なる膜の特性)天然粗油中、濃縮油中及び透過油中のリン、カルシウム、マグネシウムの含有割合を(表5)に示す。

【0049】
【表5】
JP0003350695B2_000006t.gif【0050】使用した各精密濾過膜は異なる材料からできている。即ち、PE、PTFE及びPVDFは濃縮油の粒子に対して異なるサイズのポアを有しているが、リン脂質の阻止に関しては極めて類似した振舞いを見せた。

【0051】
疎水性膜は一般的に油のような水を含まないものの処理に適している。しかしながら、親水性のPTFE膜(ポアサイズ:100nm)は、同ポアサイズの疎水性膜と同程度のリン脂質の阻止率を示すとともに、同程度の透過流束を示す。膜のポアサイズを30nmから100nmにすると、大豆油の透過流束は3~4倍上昇する。ポアサイズが100nmを超えると、大豆油の透過流束には顕著な変化は見られなくなる。

【0052】
菜種油は大豆油に比較すると透過流束が大きく、膜のポアサイズが30nmのときで1.2倍程大きく、ポアサイズが450nmのときで1.9倍程大きい。透過流束の値は工業的に採用できるレベルにある。リン脂質の阻止率は天然粗油の品質とタイプ、同様に濃縮油中でのリン脂質の構成に依存することが分る。

【0053】
(大豆粗油に対する半連続の膜式脱ガムの実験)膜プロセスにおいて要求される特性を発揮するために必要とされる水和性リン脂質の除去について半連続の実験をいくつか行った。要求される特性とは即ちリン脂質の有効除去率(ER)と阻止率であり、これらを(表6)に示す。

【0054】
【表6】
JP0003350695B2_000007t.gif【0055】実験においては、50gの油が膜を透過した後に、セルを減圧し、膜ユニットの運転再開前に50gの新たな天然油を残りの部分に追加した。このステップは3回連続して行うとともに1回毎に透過油を回収した。最初の3回の透過油中のリン含有量はそれぞれ20,71及び206mg/kgであり、リン脂質の有効除去率(ER)はそれぞれ92.8%、74.4%及び26.2%であった。リン脂質の有効除去率(ER)の漸減は、追加した新たな天然粗油中に存在するリン脂質の水和に有効な水の量が不足していたからと推察される。

【0056】
一方、他の実験では、1回目の透過油が回収された後に、新たに追加する50gの天然油に1.1gのレシチンと0.5gの水を加えた。最初の3回目までに回収した透過油中のリン含有量はそれぞれ28,30及び40mg/kgであり、リン脂質の有効除去率(ER)はそれぞれ90.0%、89.1%及び85.8%であった。

【0057】
更に別の実験では、1回目の透過油を回収した後に、新たに追加する50gの天然油に1.0gの水を加えた。最初の3回目までに回収した透過油中のリン含有量はそれぞれ43,40及び42mg/kgであり、リン脂質の有効除去率(ER)はそれぞれ84.6%、85.6%及び84.8%であった。

【0058】
水の添加は濃縮油中のリン脂質の水和に有効であり、連続処理におけるリン脂質の除去が可能になった。濃縮油中のリン脂質が水和性リン脂質になることで、電解質の添加なくして濃縮能力を高め、膜プロセスにおける脱ガム効率を向上できる。この試みは、プロセス中で得られるレシチンの質と量の向上を導き出す。

【0059】
【発明の効果】本発明によれば、天然の大豆粗油や菜種粗油等の植物油を精密濾過膜を用いて脱ガムするにあたり、レシチンと水を添加することで、電解質を添加することなく、リン脂質の阻止率を高め、且つ透過流束を大きくし、工業的利用を可能とした。