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明細書 :抗菌ペプチド及びこれを有効成分とする抗菌剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3273314号 (P3273314)
公開番号 特開2000-063400 (P2000-063400A)
登録日 平成14年2月1日(2002.2.1)
発行日 平成14年4月8日(2002.4.8)
公開日 平成12年2月29日(2000.2.29)
発明の名称または考案の名称 抗菌ペプチド及びこれを有効成分とする抗菌剤
国際特許分類 C07K 14/435     
A01N 63/00      
A23L  3/3526    
C12N 15/09      
FI C07K 14/435 ZNA
A01N 63/00
A23L 3/3526
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 9
出願番号 特願平10-239435 (P1998-239435)
出願日 平成10年8月12日(1998.8.12)
審査請求日 平成11年8月30日(1999.8.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】山川 稔
【氏名】石橋 純
【氏名】坂中 寿子
個別代理人の代理人 【識別番号】100103805、【弁理士】、【氏名又は名称】白崎 真二
審査官 【審査官】高堀 栄二
調査した分野 C07K 14/435
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式(I)
X-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2 (I)
〔式中、Xは、Ala-Xaa1-Xaa2-Leu (Xaa1及びXaa2は、同一でも異なってもよい酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基である)で表されるペプチドであり、Arg-NH2 は、このArg のカルボキシル基がアミド化していることを示す〕で表される抗菌ペプチド。

【請求項2】
Xが、Ala-Leu-Arg-Leu 、Ala-Leu-Leu-Leu 、Ala-Trp-Leu-Leu 、Ala-Leu-Tyr-Leu 及びAla-Leu-Trp-Leu からなる群から選ばれる、いずれかのアミノ酸配列のペプチドである、請求項1記載の抗菌ペプチド。

【請求項3】
請求項1又は2記載の抗菌ペプチドを有効成分とする抗菌剤。

【請求項4】
抗菌剤が、可食性抗菌剤である、請求項3記載の抗菌剤。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、抗菌性ペプチド乃至抗菌性物質を有効成分とする抗菌剤に関する技術分野の発明である。

【0002】
【従来の技術】「清潔で快適な生活を送りたい」という、生活者の清潔・快適志向は、最近の病原性大腸菌O-157等の影響により、さらに拡大しつつある。その一方で、MRSA等の薬剤耐性菌が、抗生物質の大量使用等により発生し、今後の動向が危惧されている。

【0003】
現在までに、抗生物質を含め、様々な抗菌剤が提供されており、医療用のみならず、様々な「抗菌グッズ」において用いられている。これらの抗菌剤開発の流れの一つとして、「抗菌ペプチド」が着目されきている。この抗菌ペプチドは、哺乳動物等の精液や血清中に存在し、幅広い抗菌スペクトルを有するペプチドであり、安全性が高く、かつ、その使用によっても薬剤耐性菌が出現しにくいことが想定される等の点から、現在、最も着目されている抗菌成分の一つである。

【0004】
そして、このような抗菌ペプチドの一種として、昆虫の体液に由来する抗菌ペプチドの存在が知られている。すなわち、昆虫に、細菌や異種の血球を接種したり、昆虫の体表に、傷をつける等の刺激を与えると、これらの昆虫の体液中に、様々な抗菌ペプチドが誘導されることが知られている。

【0005】
例えば、ゴミムシダマシ科の一種(Zophobas atratus)幼虫体液中に誘導される活性ペプチドとして、抗菌活性をもつペプチド(J.Biol.Chem.266巻、2455-24525頁、1991年)などが同定されている。また、コレオプテリシン(Coleoptericin )と命名された抗菌ペプチドも、その理化学的性質が明らかにされている。さらに、鱗翅目の一種(Hyalophora cecropia )の幼虫体液から得られ、セクロピングループに属する抗菌ペプチドが、その理化学的性質と共に、知られている。これらの昆虫における抗菌ペプチドは、幅広い抗菌スペクトルを有することからも、抗体産性能をもたない昆虫の生体防御にとって重要な関わりがあるものと考えられている。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記の抗菌ペプチドに関する問題点の一つとして、「免疫原性」が挙げられる。すなわち、上記の抗菌ペプチドは、いずれもその分子量が小さくないために、これを抗菌剤として血中に投与した場合に、体内の免疫システムに捕獲されてしまうために、その抗菌作用が早期に失われてしまう傾向が強い。

【0007】
また、抗菌スペクトルが比較的広いといっても、ある程度の偏りがあることは否めず、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の双方に対して、十分に広く有効な抗菌ペプチドが提供されているとはいいがたい。さらに、昆虫における抗菌ペプチドに関しては、これを哺乳動物に適用すると、何らかの細胞毒性を伴う可能性を全く否定することはできない。

【0008】
そこで、本発明が解決すべき課題は、上記の問題点を克服した、抗菌ペプチドを用いた抗菌手段を提供することにある。

【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、この課題を解決するために、上述の昆虫由来の抗菌ペプチドとして、コガネムシ科、ゴミダマシムシ科等の鞘翅目に属する昆虫、特にコガネムシ科のコカブトムシの一種であるタイワンカブトムシ(Oryctesrhinoceros)における抗菌ペプチドの構造と機能に着目し、鋭意検討を重ねた。

【0010】
すなわち、傷害等の刺激を与えることにより、体液中に抗菌ペプチドを生ずることが知られているタイワンカブトムシの幼虫の遺伝子から、タイワンカブトムシの幼虫における抗菌ペプチドをコードする遺伝子(以下、天然型抗菌ペプチド遺伝子という)の塩基配列を決定した。ここで決定した抗菌ペプチド遺伝子の塩基配列から、タイワンカブトムシに由来する抗菌ペプチド(以下、特に断わらない限り、天然型抗菌ペプチドという)のアミノ酸配列を推定し、このアミノ酸配列についての情報を基にして、新たな抗菌ペプチドの創製を目指した。

【0011】
(1)天然型抗菌ペプチド遺伝子の塩基配列の決定について
天然型抗菌ペプチド遺伝子の塩基配列の決定は、通常公知の遺伝子の塩基配列の決定法に従って行った。

【0012】
つまり、タイワンカブトムシの幼虫から天然型抗菌ペプチドを抽出・精製し、この天然型抗菌ペプチドのN末端のアミノ酸配列を決定し、さらにすでにそのアミノ酸配列が公知である、タイワンカブトムシ以外の他の昆虫に由来する抗菌ペプチドのC末端のアミノ酸配列を基にして、これらのN末端とC末端のアミノ酸配列をコードし得るヌクレオチド鎖を調製し、
これらのヌクレオチド鎖を遺伝子増幅用のプライマーとして、タイワンカブトムシの遺伝子における抗菌ペプチドをコードしていると考えられる部分の遺伝子増幅操作(PCR法)を行い、
得られた遺伝子の増幅産物における塩基配列を決定した。

【0013】
上記の操作において、天然型抗菌ペプチドのN末端を決定するために行う、タイワンカブトムシの幼虫からの天然型抗菌ペプチドの分離・精製は以下のようにして行った。

【0014】
すなわち、10匹のタイワンカブトムシの三令幼虫を、氷上に数分間置いて、その動きを鈍くしてから、皮下針を貫通させて、傷害を与えた。次いで、この傷害を与えたタイワンカブトムシの幼虫を、腐葉土の入った25℃に保った容器中で、24~48時間飼育した。その後、幼虫の脚部を切断し、腹部を押さえてしぼり出しを行うことで、氷上のチューブ中に、傷害を与えたタイワンカブトムシの幼虫の体液滴を採取した。

【0015】
その結果、一匹のタイワンカブトムシの幼虫当り、約1.5mLの体液が得られた。このようにして、得られた体液を、遠心分離(39000×g)に50分間付して、血球成分を除き、得られた上清を-20℃で保存した。次いで、この上清15mLを、溶媒A(20%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸)で平衡化しておいた、Sep-Pak C18カートリッジ(Waters Associates 社製)にアプライし、溶媒Aでカラムを洗浄後、30%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸で、抗菌活性物質(活性画分)を溶出させた。

【0016】
この活性画分から、アセトニトリルを除去するために凍結乾燥を行い、得られた乾燥粉末を、0.05%トリフルオロ酢酸に溶解し、0.05%ヘプタフルオロ酪酸(HFBA)で平衡化した、Resource RPCカラム(Pharmacia 社製、1mL)にアプライした。

【0017】
0.05%HFBAでカラムを洗浄後、0%→20%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(1.25分間)、同溶液20%→40%(10分間)及び40%→100%(1.25分間)の条件で、グラジエント溶出を行った。

【0018】
その結果、アセトニトリル38~40%画分に、抗菌活性が認められた。ここで、抗菌活性は、次の手法で確かめた。すなわち、ブイヨン培地:0.99mL 〔牛肉エキス: 1g (Difco 社製) 、Bacto-ペプトン:2g (Difco 社製) 、Nacl:1gを200mL の水に溶かす〕に細菌懸濁液:10μL 〔黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)をブイヨン培地に一晩培養したもの〕を加え、対数増殖期まで培養する。その培養液:200μL をブイヨン寒天培地( ブイヨン培地に寒天を1.5重量%加えたもの) に加えてシャーレに注いで固める。その後、固めたブイヨン寒天培地にゲルパンチャー(Pharmacia 社製 )で直径2mmの穴をあける。その穴に5μL の水に溶解したアセトニトリル38~40%画分(試料)を注入し、37℃で一晩培養した。そして生じた阻止円の形成を観察した。以下、同様である。

【0019】
この活性画分から、アセトニトリルを除去するために、再び凍結乾燥を行い、得られた乾燥粉末を、上記の溶媒Aに溶解し、μRPC C2/C18 PC3.2/3カラム(Pharmacia 社製、3.2×30mm)にアプライした。次いで、溶媒Aでカラムを洗浄後、20%→40%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(40分間)という緩やかなグラジエント条件で溶出を行った。その結果、アセトニトリル23~24%画分に、抗菌活性が認められた。

【0020】
このようにして得られた天然型抗菌ペプチド画分を、上記の溶媒Aで平衡化しておいた逆相カラム(2.1×100mm、Pharmacia 社製 μRPC C2/C18 SC2.1/10)にアプライした。

【0021】
この逆相カラムをファルマシア社製SMARTシステムに連結させて、溶媒Aでカラムを洗浄後、緩やかなグラジエント条件〔0%→20%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(5分間)、20%→40%(40分間)及び40%→100%(5分間)〕で溶出を行った。

【0022】
200μL ずつ分画し、アセトニトリルを除去するために、凍結乾燥を行ない、各々の画分について抗菌活性を測定した。その結果、抗菌活性は、第1図に示すように、蛋白のピークに一致する単一なピークとして溶出した。

【0023】
そして、この抗菌活性画分を、質量分析(MALDI-TOF-MS)した結果、単一の分子量4489(M+Na)+ を示した(第2図)。

【0024】
このようにして得られた天然型抗菌ペプチドと考えられる画分をエドマン分解して、天然型抗菌ペプチドのN末端に相当すると考えられる、PTH-アミノ酸
残基15個の配列(配列番号1):
Leu Thr Cys Asp Leu Leu Ser Phe Glu Ala Lys Gly Phe Ala Ala
1 5 10 15
が判明した。

【0025】
なお、この天然型抗菌ペプチドの抗菌活性を、被験液50μl中のタンパク量を、0~0.8μg/mLと変化させて測定した結果を、第3図に示す。

【0026】
第3図により、上記のように得られた天然型抗菌ペプチドの抗菌活性が、確かに黄色ブドウ球菌に対して認められることが判明した。また、この天然型抗菌ペプチドを、100℃で5~10分間熱処理したが、この熱処理後も、もとの抗菌活性を保持していた。

【0027】
また、上記の操作において、天然型抗菌ペプチドのN末端をコードし得るヌクレオチド鎖を、上記の配列番号1に記載されたアミノ酸配列から推定される塩基配列のヌクレオチド鎖を合成して得て、これを以下の工程において、一方のPCRプライマーとして用いた。

【0028】
さらに、天然型抗菌ペプチドのC末端をコードし得るヌクレオチド鎖を、他の昆虫に由来する公知の抗菌ペプチドのC末端の保存領域(他の昆虫の体液において、すでにそのアミノ酸配列が知られている抗菌ペプチドのC末端は、極めて種間における保存性が高いことが知られている)のアミノ酸配列を基にしたヌクレオチド鎖を合成して得て、これを以下の工程において、他方のPCRプライマーとして用いた。

【0029】
大腸菌を感作させたタイワンカブトムシの三令幼虫の脂肪体のmRNAを鋳型として、制限酵素NotIサイトが付加されたプライマーを用いて合成したファーストストランドcDNAに対して、上記のようにして調製したPCRプライマーを用いたPCR法による遺伝子増幅を行った。

【0030】
その結果、約120bpの長さの遺伝子の増幅産物が得られた。この遺伝子の増幅産物の塩基配列を決定し、この塩基配列を基にして、新たにプライマーを合成し、上記のファーストストランドcDNAの合成時に付加した、制限酵素NotIサイトに対して相補的なプライマーとの間で、さらにPCR法による遺伝子増幅を行い、この遺伝子増幅産物の3’末端側の塩基配列を明らかにした。さらに、この明らかになった塩基配列を基にして合成したプライマーを用いて、上記の大腸菌を感作させたタイワンカブトムシの三令幼虫の脂肪体のmRNAを鋳型として、ファーストストランドcDNAを合成した。

【0031】
次いで、このcDNAの5’末端にpolyC配列を付加し、これを鋳型として、polyG配列を有するプライマーと上記の明らかになった塩基配列を基にして合成したプライマーとをPCRプライマーとして用いて、PCR法による遺伝子増幅を行った。これにより得られた遺伝子増幅産物の5’側の塩基配列を決定した。

【0032】
これらの操作により、順次明らかになった塩基配列についての情報を組み合わせて、タイワンカブトムシに由来する天然型抗菌ペプチドをコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列を明らかにした(配列番号2)。なお、この配列番号2に示す塩基配列から推定されるアミノ酸配列を、同じく配列番号2において示す。

【0033】
このようにして得た配列番号2に記載した塩基配列を有するDNAを、遺伝子導入用ベクター(pCR2・1:Invitrogen社製)に組み込み、これを大腸菌JM109に導入して形質転換を行った。この形質転換体は、pCROAD(受託番号FERM P-16800)として、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。

【0034】
配列番号2において表される推定アミノ酸配列を、上記の配列番号1における天然型抗菌ペプチドのN末端側のアミノ酸配列と比較すると、この配列番号2において推定されているアミノ酸配列のうち、1番目のアミノ酸残基(Met )から36番目のアミノ酸残基(Arg )までが、細胞外への分泌用のシグナルペプチド及びプロペプチドであり、37番目のアミノ酸残基(Leu )から、終止コドン前のアミノ酸残基(Arg)までが、実際に抗菌活性を有する、成熟型の天然型抗菌ペプチドであることが判明した。

【0035】
このようにして、アミノ酸配列が判明した天然型抗菌ペプチドは、43アミノ酸残基からなる、上述のように、優れた抗菌活性を有する抗菌ペプチドである。

【0036】
(2)新たな抗菌ペプチドの創製について
しかしながら、この43アミノ酸残基というアミノ酸残基数のペプチドは、生体内の免疫システムにおいて免疫原となるのに十分な大きさを有している。

【0037】
すなわち、天然型抗菌ペプチドを生体に投与しても、生体内の免疫システムにより、早期に不活化されてしまう可能性が強いという欠点が想定される。また、この天然型抗菌ペプチドは、グラム陽性細菌にのみ抗菌スペクトルを有し、グラム陰性菌に対しては、殆ど抗菌活性を発揮しないという面がある。

【0038】
そこで、本発明者は、上記の天然型抗菌ペプチドのアミノ酸配列の内容について鋭意検討を行い、その結果、上記のアミノ酸配列の第62番目のアミノ酸残基(Ala )から第69番目のアミノ酸残基(Ala )までが、天然型抗菌ペプチドの抗菌活性を司っている部分であることを突き止めた。そして、かかる活性中心部分のみを抗菌ペプチドとすることにより、これを体内に投与しても体内の免疫システムによる失活を、小分子故に免れることが可能であると考えた。

【0039】
また、本発明者は、この活性中心部分のアミノ酸配列を改変することにより、グラム陽性菌のみならず、グラム陰性菌にも抗菌スペクトルを広げることが可能であるのではないかと考えた。

【0040】
本発明者は、このような方針のもと、さらに検討を重ねた結果、C末端がアミド化している特定のアミノ酸配列をコア部分とするペプチドは、小分子であっても、グラム陽性菌と、グラム陰性菌の双方に対して優れた抗菌活性を有することを突き止め、本発明を完成した。

【0041】
すなわち、本発明者は、下記式(I)
X-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2 (I)
(式中、Xは1個のアミノ酸残基又は2個以上のアミノ酸残基がペプチド結合してなるペプチドであり、Arg-NH2 は、このArg のカルボキシル基がアミド化していることを示す)で表される、抗菌ペプチドを、本願において提供する。また、この抗菌ペプチドを有効成分とする抗菌剤、特に消化管摂取が可能な可食性抗菌剤を提供する。

【0042】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明に係わる抗菌ペプチド(以下、本発明抗菌ペプチドという)は、上述のように、下記式(I)
X-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2 (I)
(式中、Xは1個のアミノ酸残基又は2個以上のアミノ酸残基がペプチド結合してなるペプチドであり、Arg-NH2 は、このArg のカルボキシル基がアミド化していることを示す)で表される、抗菌ペプチドである。なお、この抗菌ペプチドは、L型及びD型の光学異性体を含むものである。

【0043】
本発明抗菌ペプチドの、「Ala-Ile-Arg-Lys-Arg 」の部分は、本発明抗菌ペプチドが抗菌活性を発揮するための必須の構成であり、この部分を除外した場合は、本発明抗菌ペプチドは、所望する抗菌活性を発揮することが困難である。

【0044】
また、上記の定義のように、Arg-NH2 は、このArg のカルボキシル基がアミド化していることを示す。このアミド化の要件も、本発明抗菌ペプチドが所望する抗菌活性を十分に発揮するために必須の要素であり、仮に、上記の「Ala-Ile-Arg-Lys-Arg 」を、そのC末端に有するペプチドであっても、所望する抗菌活性を発揮することは困難である。

【0045】
Xは、上記の定義のように、1個のアミノ酸残基又は2個以上のアミノ酸残基がペプチド結合してなるペプチドであり、このXの構成は、本発明抗菌ペプチドが、所望する抗菌活性を発揮し得る限り、特に限定されるものではない。

【0046】
6この「抗菌活性」という要素に着目すると、Xにおけるアミノ酸残基数は3個以上であることが好ましく、特に3個又は4個であることが好ましく、さらに4個であることが極めて好ましい。このXにおけるアミノ酸残基数が2個以下であると、本発明抗菌タンパク質の抗菌活性が低下する傾向が現れる。

【0047】
このように、本発明で好適であるXにおけるアミノ酸残基数は、3個又は4個であり、特定機能を有するペプチドとしては極めて低分子である。かかる低分子のペプチドは、生体の免疫システムの作用を受けにくいので、上述した「免疫原性」という観点からも、本発明抗菌ペプチドは好適である。

【0048】
さらに、Xのアミノ酸残基数が4個である場合には、Xの配列は、
Ala-Xaa1-Xaa2-Leu (II)
(式中、Xaa1及び Xaa2 は、同一でも異なってもよい、酸性アミノ酸以外のアミノ酸残基である)であることが、幅広く、かつ、優れた抗菌活性を発揮させ得るという点において好ましい。なお、上記のアミノ酸残基(Xaa1及び Xaa2 )から除外される酸性アミノ酸のアミノ酸残基としては、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基を例示することができる。

【0049】
かかる式(II)の具体的組み合わせとしては、例えば、Ala-Leu-Arg-Leu 、Ala-Leu-Leu-Leu 、Ala-Trp-Leu-Leu 、Ala-Leu-Tyr-Leu 又はAla-Leu-Trp-Leu 等を例示することができる。

【0050】
本発明抗菌ペプチドは、通常公知のペプチド合成法等を用いて製造することができる。すなわち、固相合成法、液相合成法等の通常公知の方法を用いて、本発明抗菌ペプチドを合成することができる。市販のペプチド合成自動装置を用いて合成することも勿論可能である。

【0051】
また、本発明抗菌ペプチドのC末端に位置するアルギニン(Arg) のカルボキシル基のアミド化も、通常公知のアミド化法を用いて行うことができる。すなわち、例えば、上記の固相合成法によるペプチド合成において用いる固相担体として、担体樹脂にアミノ基を導入した固相担体を選択すること等により、上記のArg のカルボキシル基をアミド化することができる。

【0052】
このようにして、本発明抗菌ペプチドを製造することが可能である。本発明抗菌ペプチドは、短鎖の修飾ペプチドであり、その製造工程として、例えば、所望するペプチドをコードする遺伝子を製造して、これを適切な宿主において発現させることにより生産する等の、遺伝子工学的な手法を用いることなく、化学合成を全面的に用いることが可能できる。このように、その製造方法が、相対的に極めて容易であるにもかかわらず(遺伝子工学的手法により生産させることも勿論可能であり、かかる遺伝子工学的な手法による本発明抗菌ペプチドの製造について、本発明者は認識している)、本発明抗菌ペプチドは、グラム陽性菌とグラム陰性菌双方に対して広い範囲で抗菌活性を有するという、驚くべき特徴を有している。

【0053】
本発明抗菌ペプチドは、これを有効成分として医薬用途に有用な医薬製剤にすることができる(以下、本発明抗菌剤ともいう)。本発明抗菌剤は、本発明抗菌ペプチドと共に、適当な医薬製剤担体を配合して製剤組成物の形態に調製され得る。この製剤担体としては、製剤の具体的な形態に応じて、公知の製剤担体を適宜選択して用いることができる。かかる製剤担体としては、例えば、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、界面活性剤等の賦形剤や希釈剤等を例示することができる。

【0054】
本発明抗菌剤の具体的形態は、本発明の所期の効果である、抗菌作用を発揮し得る形態であれば特に限定されず、例えば、錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤等の固形剤であってもよいが、液剤、懸濁剤、乳剤等の注射剤形態であってもよい。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品とすることも可能である。

【0055】
本発明抗菌剤による、本発明抗菌ペプチドの投与量は、本発明抗菌剤の具体的な剤形、対象となる疾患の種類、症状等を勘案して、適宜選択すべきものであり、特に限定されるべきものではない。

【0056】
本発明抗菌ペプチドは、必須アミノ酸からなるので、経口摂取しても、ヒトに対する毒性は殆ど認められないと考えられる。従って、本発明抗菌ペプチドは、ヒト乃至動物用の食品や飼料等としても利用することが可能である。すなわち、本発明抗菌ペプチドは、食品や飼料添加物としての抗菌剤、すなわち、可食性抗菌剤としても有用である。

【0057】
【実施例】次に本発明を実施例に挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。

【0058】
本発明抗菌ペプチドの製造
本実施例において用いた、下記の本発明抗菌ペプチド~は、市販のペプチド合成機、具体的には、"Peptide Synthesizer 9050 plus"(PerSeptive Biosystems 製)を用いて製造した。また、C末端をアミド化するために、固相担体として、"Fmoc-PAL-Polyethylen(PEG-PS) 樹脂" を用いた(このアミド化のために用いたアミノ酸は、Fmoc-L-アミノ酸である)。

【0059】
本発明抗菌ペプチド:Ala-Leu-Arg-Leu-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2
(配列番号3)

【0060】
本発明抗菌ペプチド:Ala-Leu-Leu-Leu-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2
(配列番号4)

【0061】
本発明抗菌ペプチド:Ala-Trp-Leu-Leu-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2
(配列番号5)

【0062】
本発明抗菌ペプチド:Ala-Leu-Tyr-Leu-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2
(配列番号6)

【0063】
本発明抗菌ペプチド:Ala-Leu-Trp-Leu-Ala-Ile-Arg-Lys-Arg-NH2
(配列番号7)

【0064】
試験例(有効性試験)
上記の本発明抗菌ペプチド~の各々について、黄色ブドウ球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、大腸菌及び緑膿菌に対して、最小阻止濃度(MIC)を求めた。その結果を、第1表に示す。

【0065】
第 1 表
────────────────────────────────────
抗菌ペプチド 黄色ブドウ球菌 MRSA 大腸菌 緑膿菌
────────────────────────────────────
抗菌ペプチド 5 - 4 >15
抗菌ペプチド 4 40 6 4
抗菌ペプチド 3 25 5 4
抗菌ペプチド 2 30 4 4
抗菌ペプチド 4 40 10 10
────────────────────────────────────
(表中、MICの単位は、μg /mLである)

【0066】
この結果より、本発明抗菌ペプチドは、優れた抗菌活性を有し、かつ、広い抗菌スペクトルを有することが明らかになった。

【0067】
試験例(安全性試験)
上記の本発明抗菌ペプチド~について、マウスに対する腹腔内注射毒性のLD50値を求めた。その結果、これらの抗菌ペプチドのLD50は、150mg/Kg より大きく、本発明抗菌ペプチドの温血動物に対する毒性は極めて低いことが明らかになった。

【0068】
製剤例
以下、本発明抗菌剤の製剤例を記載する。
(1)注射剤
本発明抗菌ペプチド~を、それぞれ100mg秤量して、生理食塩水100mLに溶解し、得られた溶液を無菌的に2.5 ml容のアンプルに充填、封入し、注射液製剤とした。

【0069】
(2)顆粒剤
本発明抗菌ペプチド~を、それぞれ500mg秤量して、結晶セルロース50mg及び乳糖450mg からなる混合物に、エタノールと水の混液1mLを加え練合した。この練合物を常法に従って造粒して、顆粒剤とした。

【0070】
【発明の効果】本発明により、安全性に優れると共に、優れた抗菌活性と広い抗菌スペクトルを有し、かつ、分子量が小さく、これを投与した場合に、体内の免疫システムの作用の影響が少ない抗菌ペプチド、及び、この抗菌ペプチドを有効成分とする抗菌剤が提供される。

【0071】
【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:15
配列の型:アミノ酸
トポロジー:不明
配列の種類:ペプチド
フラグメント型:N末端フラグメント
起源:タイワンカブトムシ(Oryctes rhinoceros)
配列
Leu Thr Cys Asp Leu Leu Ser Phe Glu Ala Lys Gly Phe Ala Ala 15

【0072】
配列番号:2
配列の長さ:316
配列の型:核酸
鎖の数:二本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:Complementary DNA (cDNA)
配列
TGACTCATAC AACAAATCGC AGAGCTTACG ACAAG ATG TCG AGG TTT ATC GTA 53
Met Ser Arg Phe Ile Val 6
TTT GCT TTC ATC GTA GCC ATG TGC ATT GCA CAC AGT TTA GCT GCG CCA 101
Phe Ala Phe Ile Val Ala Met Cys Ile Ala His Ser Leu Ala Ala Pro 22
GCA CCA GAA GCG CTT GAA GCT AGC GTC ATA AGA CAA AAG AGA CTG ACG 149
Ala Pro Glu Ala Leu Glu Ala Ser Val Ile Arg Gln Lys Arg Leu Thr 38
TGC GAT CTT CTG AGT TTC GAA GCT AAG GGT TTT GCT GCC AAT CAC AGC 197
Cys Asp Leu Leu Ser Phe Glu Ala Lys Gly Phe Ala Ala Asn His Ser 54
CTG TGC GCT GCT CAT TGC CTA GCT ATT GGA CGC AAA GGT GGT GCT TGT 245
Leu Cys Ala Ala His Cys Leu Ala Ile Gly Arg Lys Gly Gly Ala Cys 70
CAA AAT GGG GTT TGT GTG TGC AGA AGA TAG ATCTGTTATA GTTTTTTTTT 295
Gln Asn Gly Val Cys Val Cys Arg Arg 79
AATAGATCAT TTTTTTTATT T 316

【0073】
配列番号:3
配列の長さ:9
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列
Ala Leu Arg Leu Ala Ile Arg Lys Arg

【0074】
配列番号:4
配列の長さ:9
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列
Ala Leu Leu Leu Ala Ile Arg Lys Arg

【0075】
配列番号:5
配列の長さ:9
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列
Ala Trp Leu Leu Ala Ile Arg Lys Arg

【0076】
配列番号:6
配列の長さ:9
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列
Ala Leu Tyr Leu Ala Ile Arg Lys Arg

【0077】
配列番号:7
配列の長さ:9
配列の型:アミノ酸
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
配列
Ala Leu Trp Leu Ala Ile Arg Lys Arg
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2