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明細書 :氷核活性細菌およびその使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3060010号 (P3060010)
公開番号 特開2000-106868 (P2000-106868A)
登録日 平成12年4月28日(2000.4.28)
発行日 平成12年7月4日(2000.7.4)
公開日 平成12年4月18日(2000.4.18)
発明の名称または考案の名称 氷核活性細菌およびその使用
国際特許分類 C12N  1/20      
C07K  1/14      
C09K  3/24      
C12R  1:38      
C12R  1:18      
FI C12N 1/20 A
C12N 1/20
C07K 1/14
C09K 3/24
請求項の数または発明の数 10
全頁数 13
出願番号 特願平10-284230 (P1998-284230)
出願日 平成10年10月6日(1998.10.6)
審査請求日 平成10年10月6日(1998.10.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】佐藤 守
【氏名】渡部 賢司
【氏名】塚田 益裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外1名)
審査官 【審査官】新見 浩一
参考文献・文献 特開 平7-322876(JP,A)
特開 平3-160986(JP,A)
特開 平6-181729(JP,A)
調査した分野 C12N 1/00
C07K 1/14
C09K 3/24
特許請求の範囲 【請求項1】
シュウドモナス・シリンガエSEI-1株、シュウドモナス・シリンガエNi23株、シュウドモナス・シリンガエMei40株、エルウィニィア・アナナスTM2株、およびエルウィニィア・アナナスMei7株、ならびに前記菌株を糖類またはグリセロールの存在下で培養して得られる氷核活性が増強された菌株からなる群から選択される氷核活性細菌。

【請求項2】
氷核機能を有するが死菌であることを特徴とする請求項1に記載の氷核活性細菌。

【請求項3】
紫外線またはガンマ線照射によって死菌とされていることを特徴とする請求項2に記載の氷核活性細菌。

【請求項4】
凍結速度制御物質としての、請求項1~3のいずれかに記載の氷核活性細菌の使用。

【請求項5】
芯物質として請求項1~3のいずれかに記載の氷核活性細菌を内包する高分子物質よりなる氷核形成物質。

【請求項6】
高分子物質マトリックスに請求項1~3のいずれかに記載の氷核活性細菌を含む膜状、多孔質状、ゲル状、ブロック状または粉末状の物質。

【請求項7】
有用蛋白質を含む水溶液に請求項1~3のいずれかに記載の氷核活性細菌を加え、凍結させ、その後解凍することにより有用蛋白質と水分とを分離させ、該蛋白質を回収することを含む、蛋白質の濃縮・回収方法。

【請求項8】
絹蛋白質、ケラチン、ビニル系重合体、アクリル系重合体、アミド系重合体およびセルロース誘導体からなる群から選択される高分子物質の水溶液に、請求項1~3のいずれかに記載の氷核活性細菌を加え、必要に応じて支持体上に適用し、次いで水分を蒸発させることを含む、膜状、粉末状、多孔質またはブロック状形態をもつ物質の製造方法。

【請求項9】
絹蛋白質、ケラチン、ビニル系重合体、アクリル系重合体、アミド系重合体およびセルロース誘導体からなる群から選択される高分子物質の水溶液に、請求項1~3のいずれかに記載の氷核活性細菌を加え、該高分子物質の水溶液を一旦凍結させた後、減圧下で凍結乾燥することを含む、多孔質または粉末状形態をもつ物質の製造方法。

【請求項10】
絹蛋白質またはケラチンからなる生体高分子物質の水溶液に、請求項1~3のいずれかに記載氷核活性細菌を加え、凍結させた後、減圧下で乾燥することを含む、多孔質形態の物質の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、-6℃~0℃の比較的高温度領域で氷核機能を有することが可能な氷核活性細菌、ならびにその使用、特に生体高分子物質からの該氷核活性細菌を利用したゲル状、多孔質等の形態の物質の製造方法に関する。

【0002】
【従来の技術】水溶液は、溶液中に氷結を起こす核があると0℃以下付近の比較的高温度で凍結する。凍結の核となる氷晶核としては、従来沃化銀(AgI)結晶が知られており、これは-8℃で凍結を開始させる。一方、氷結の核となる物質を含まない水は、1気圧下において0℃では凍ることはなく、純粋な微水滴は-39℃でも凍結しない程である。

【0003】
ところで、農作物の凍霜害を誘起する有害な微生物として氷核活性細菌が知られているが、この細胞の表層には強い氷核があるため水を凍結させてしまうという性質がある。たとえばエルウィニィア(以下Erwiniaと記述する)属またはシュードモナス(以下Pseudomonasと記述する)属由来の細菌のなかには、氷核活性機能をもつものが知られている(Lindow,S.E.,AnnualReviewofPlantPathology,21巻,363-384頁,1982年;佐藤守,遺伝42巻,30-34頁,1988年)。

【0004】
このため、近年、氷核活性細菌のもつ優れた氷核活性機能を有効に利活用しようという研究が進められつつある。たとえば、特開昭61-187756号公報には、氷核活性細菌を食品に用いて特殊な組織構造をもつ素材の製造法が開示されている。具体的には、蛋白質および/または多糖類を主要成分とする水分ゾル、ゲルまたはペースト状物質に氷核活性細菌を加えて凍結することで、方向性に優れた繊維状構造を有する食品を製造するというものである。また、氷核細菌は、凍結による食品の保存にも利用することができ、食品を凍結することで食品中の氷を析出させ食品組織を変えたり、貯蔵中の食品を安定化させることができる(特開昭61-187756号公報;S.AraiandM.Watanabe,Agric.Biol.Chem.,50巻,169頁,1986年)。たとえば、卵白、分離大豆タンパク質、豆腐に氷核細菌を混ぜ凍結させて凍結組織化するとフレーク状の組織が得られる。一方氷核細菌を用いないとスポンジ状の組織となる。

【0005】
さらに、氷核活性細菌をアルギン酸ナトリウムなどの天然高分子に内包させることで生体に与える害を少しでも取り除こうとする技術が特開平01-266185号公報に開示されている。この方法では、アルギン酸ナトリウム水溶液に氷核活性細菌の懸濁液を加えて混合し、凝固作用のある溶液中に滴下することで氷核活性細菌を内包するマイクロカプセルを製造することができる。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記のとおり、氷核活性細菌の氷核機能を利用した応用例は主に食品分野に限られているため、今後、食品素材だけでなく工業資材にまで氷核活性細菌の広い利用技術の開発が望まれている。また、産業上利用可能な氷核活性細菌の菌種が限られており、細菌の機能を広く利活用するためには、氷核活性細菌が低濃度で十分な氷核活性を示すもので且つ0℃付近の高温度域で水の凍結(氷結とも言う)を可能にする氷核活性細菌を探索して、氷核活性細菌の種類を増やしておく必要がある。

【0007】
このような状況において、本発明の目的は、低濃度で十分な氷核活性を示すもので且つ0℃付近の高温度域で氷核機能を有する新規の氷核活性細菌を提供することである。本発明の別の目的は、そのような氷核活性細菌を用いて高分子物質を利用性の高い形態に変換することである。本発明のさらに別の目的は、氷核活性細菌の氷核活性を増強する方法を提供することである。

【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、氷核活性細菌を培養する際に氷核活性を増強する方法、氷核活性機能をもつ新菌種の同定・分離方法、ならびに氷核活性細菌を用いた新しい利用法に関して鋭意検討した結果、クワ等の葉面から分離された優れた氷核活性を有する新菌種を含む氷核活性細菌が氷点下の極近傍で水を容易に凍らせてしまうことを見出し、さらに、これらの氷核活性細菌の懸濁液を生体高分子物質水溶液に加え、これを減圧下で凍結乾燥することで元の高分子物質と異なる形態の物質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0009】
すなわち、本発明は、-6℃~0℃の温度域で氷核機能を有することが可能なPseudomonas syringaeまたはErwinia ananasから選択される氷核活性細菌を提供する。ここで、「可能な」という表現は、本発明の氷核活性細菌が-6℃~0℃の温度範囲に限定されずに-6℃より低い温度であっても氷核機能をもち得ることを意味している。したがって、本細菌を利用する方法においては、凍結温度は特に限定されないものとする。また、「氷核機能」とは、水を凍結または氷結させる機能を意味する。

【0010】
本発明の実施態様において、該細菌にはPseudomonas syringaeSEI-1株、Ni23株またはMei40株、あるいはErwiniaananasTM2株またはMei7株が含まれる。また、該細菌は氷核機能を有する死菌であってもよく、この場合、紫外線またはガンマ線照射で菌を死滅させることが好ましい。本発明はまた、高分子物質の水溶液に上記の氷核活性細菌またはそれと同等の氷核機能を有する他の氷核活性細菌を加え、高分子物質の水溶液を一旦凍結させた後、減圧下で凍結乾燥することを含む、多孔質または粉末状形態をもつ物質の製造方法を提供する。

【0011】
本発明はさらに、高分子物質の水溶液に請求項1~4のいずれかに記載の氷核活性細菌を加え、必要に応じて支持体上に適用し、次いで水分を蒸発させることを含む、膜状、粉末状またはブロック状形態をもつ物質の製造方法を提供する。本明細書中、支持体は、天然若しくは合成ポリマー(樹脂含む)、金属、木材、紙などの適する全ての材質から選択可能であり、また目的に応じて任意の形状のものを使用できるものとする。

【0012】
上記の2つの方法において、高分子物質は、天然蛋白質、ビニル系重合体、アクリル系重合体、アミド系重合体、セルロース誘導体などから選択され、本発明の実施態様において、高分子物質は絹蛋白質(例えば、絹フィブロイン)またはケラチン(例えば、羊毛ケラチン)である。すなわち、絹蛋白質またはケラチン等の生体高分子物質の水溶液に上記の氷核活性細菌を加え、凍結させた後、減圧下で乾燥することを含む、多孔質形態の物質の製造方法も本発明に包含される。

【0013】
本発明はさらに、凍結速度制御物質としての上記の氷核活性細菌の使用を提供する。本発明はまた、芯物質として上記の氷核活性細菌を内包する高分子物質よりなる氷核形成物質を提供する。本発明はさらに、高分子物質(例えば、絹フィブロイン)マトリックスに上記の氷核活性細菌を含む膜状、多孔質状、ゲル状、ブロック状または粉末状の物質を提供する。

【0014】
本発明はさらにまた、上記の氷核活性細菌またはそれと同等の氷核機能を有する他の氷核活性細菌を含む培地に、糖類またはグリセロールを含ませることにより、氷核活性を増強する方法を提供する。本発明の実施態様において、糖類はシュークロースまたはガラクトースである。本発明はまた、有用蛋白質を含む水溶液に上記の氷核活性細菌を加え、凍結させ、その後解凍することにより有用蛋白質と水分とを分離させ、該蛋白質を回収することを含む、蛋白質の濃縮・回収方法を提供する。

【0015】
なお、本明細書中、「氷核活性細菌」とは、その表層に氷晶核が存在することにより氷核機能を有する細菌を意味する。また、「それと同等の氷核機能を有する他の氷核活性細菌」とは、本発明のPseudomonas syringaeまたはErwinia ananas氷核活性細菌と同等の前記氷核機能をもつ任意の他の属若しくは種からなる氷核活性細菌(公知の細菌を包含する)を指す。

【0016】
【発明の実施の形態】クワ葉面から今回新たに分離した氷核活性細菌としては、Pseudomonas syringae Ni23株およびErwinia ananas TM2株、また昆虫のクワノメイガ体内から分離したPseudomonas syringae Mei40株およびErwinia ananas Mei7株、セイタカアワダチソウの新病原細菌Pseudomonas syringae SEI-1株が例示できる。なお、これらの菌株はいずれも植物に対して病原性を有する細菌であるため、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県、つくば市)への寄託は受け入れらず、その代わり自己寄託が認められた。

【0017】
Pseudomonas syringaeには、約50の亜種に相当する病原型(pathovar)がある。病原型は、植物に対する寄生性の差異で分けることができる。例えばクワに病原性のあるものはpv. mori,タバコの病原細菌はpv. tabaciという具合である。このうち特定の病原型(例えばpv. mori)が氷核活性機能を持つことが知られている。

【0018】
Pseudomonas syringaeについては、基本的な菌学的性質のほか、5つの主要性質で同定するLOPAT法(Lelliottら,J.Appl.Bact.,29巻,470-489頁,1966年)、Erwinia ananasについては、腸内細菌同定キットAPI20E(フランス国、BioMerieux社製)および主要糖類分解能検定(Dye,D.W.(1983):Erwinia:The“Amylovora" and“Herbicola" groups.PlantBacterialDiseases(Fahy,P.C.andPersley,G.J.Ed.)AcademicPress,67-86頁)等により同定が可能である。

【0019】
セイタカアワダチソウから分離した新規細菌SEI-1株はグラム陰性菌であり、極べん毛をもつ桿菌で運動性のあるのが特徴である。キングB培地(栄研化学製、商品名)で黄緑色蛍光色素を産生するのでPseudomonas属に所属することが容易に確かめられる。さらに、植物病原細菌の簡易同定LOPAT法では、レバン産生(-),オキシダーゼ活性(-),ジャガイモ塊茎腐敗(-),アルギニン加水分解(-),タバコ過敏反応(+)を示し、LOPAT;Ib群に属する。ここで、例えばレバン産生(-)とはレバン活性をもたないことを意味する。従って、本菌株は、Pseudomonas syringaeと同定される。本菌株は、セイタカアワダチソウに病原性を有する。同植物に病原性を示すPseudomonas syringaeはこれまで全く発見されていなかったため、新しい病原型と見なすことができる。菌学的性質のうち、特徴的な性質は、本菌株がLOPAT法に対する極めて特異的反応を示す点である。なお、Pseudomonassyringaeの50近くの病原型間では細菌学的性質では区別できないが特定の植物に対する病原性の有無のみで区別できるという点を特記するに値する。該細菌はこれまで未報告のセイタカアワダチソウに対して病原性をもつという特徴を有する。

【0020】
新規細菌SEI-1株は、過冷却点(SCP(Super coolingpoint),氷核開始温度)は-1.8℃であり、従来の氷核活性細菌の中にあって氷核活性が最も優れていることが判明した。こうした優れた氷核活性細菌の氷核活性は、培地および培養温度などの特定の培養条件下で細菌を培養するときには、特異的に増強できる。すなわち、最適な培養条件で培養した氷核活性細菌の氷核活性は、通常の培地で培養したときの10倍以上も増強できる。SEI-1株では、凍結可能最低濃度は103/mlという低濃度であっても優れた氷核活性を発現する。氷核活性細菌の活性を増強するのに好都合の培地としては、ペプトン20g,K72HPO741.5g,MgSO74・7H72O1.5g,グリセリン10g,寒天15g,蒸留水1Lの混合組成物から構成するキングB培地が好ましく用いられる。また、シュークロース添加LB培地(ペプトン10g,酵母エキス5g,食塩10g,寒天15g,シュークロース50g,蒸留水1L)も同様に氷核活性を増強するのに好都合の培地である。氷核活性を増強するには培養温度も重要であり、培養温度として好ましくは18~22℃である。培養温度が低いと目的とする細菌量を得るのに長時間を要するという問題点があり、また高すぎると細菌表層の氷核活性蛋白が変性し氷核能力が低下する。なお、このような氷核活性を増強するための条件は、本発明の氷核活性細菌のいずれにも適用可能である。

【0021】
また、本発明の他の特定の氷核活性細菌であるPseusomonas syringae Ni23株、Erwinia ananas TM2株、Pseudomonas syringae Mei40株およびErwinia ananas Mei7株の特徴的な菌学的性質は以下のとおりである。Pseusomonas syringae Ni23株は、グラム陰性細菌で、極鞭毛を有する桿菌で運動性がある。キングB培地で黄緑色蛍光色素を産生する。また、レバン産生(-)、オキシダーゼ活性(-)、ジャガイモ塊茎腐敗(-)、アルギニン加水分解(-)、タバコ過敏感反応(+)の特性を有する。

【0022】
Erwinia ananas TM2株は、グラム陰性細菌で、周毛を有する桿菌で運動性がある。多くの増殖用培地で黄色の集落を形成する。内生胞子、気中菌糸を形成しない。硝酸塩を還元しない。イノシトール、ラフィノース、セルビオース、メリビオース、グリセロールを利用する。Pseudomonas syringae Mei40株は、グラム陰性細菌で、極鞭毛を有する桿菌で運動性がある。キングB培地で黄緑色蛍光色素を産生する。また、レバン産生(-)、オキシダーゼ活性(-)、ジャガイモ塊茎腐敗(-)、アルギニン加水分解(-)、タバコ過敏感反応(+)の特性を有する。

【0023】
Erwinia ananas Mei7株は、グラム陰性細菌で、周毛を有する桿菌で運動性がある。多くの増殖用培地で黄色の集落を形成する。キングB培地で黄緑色蛍光色素を産生しない。好気的、嫌気的生育をする。内生胞子、気中菌糸を形成しない。硝酸塩を還元しない。イノシトール、ラフィノース、セルビオース、メリビオース、グリセロールを利用する。

【0024】
本発明においては、水溶性高分子物質と氷核活性細菌を水媒体中で混合し、これを一旦凍結させることでハイドロゲル状物質、多孔質体等の種々の形態とすることができる。すなわち、水溶性高分子物質と氷核活性細菌とからなる混合液を氷核活性細菌の氷結温度付近で凍結させることでゲル化させたり、あるいは、凍結させた後、これを真空下で乾燥(すなわち、凍結乾燥)したり、あるいは、該混合液から水分を蒸発させることで、膜状、多孔質、ブロック状、粉末状、ゲル状等のような種々の形態を有する高分子物質を得ることができる。凍結は本細菌が氷核機能を発揮できるいずれの温度であってもよく、言うまでもなく、本細菌の特徴により-6℃~0℃の温度範囲であっても凍結が可能である。蒸発は自然乾燥、加熱、減圧等のいずれの手段でも行ない得る。上記の種々の形態とする際に、水溶性高分子物質の濃度が高いときには多孔質体又はブロック状、あるいは高分子物質の濃度が低いときには粉末状となる。また、高分子物質の水溶液を支持体の上に広げ室温付近で静かに蒸発すると膜状物質になる。さらに、高分子物質と氷核活性細菌の水媒体中の混合液に有機酸(例えば、酢酸)等の酸を加えて酸性化することにより凝固させるとゲル状物質が得られる。

【0025】
本発明で用いられる水溶性高分子物質としては、従来公知のものはいずれも使用できる。例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびその変性物またはその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸またはその塩、ポリ酢酸ビニル等、ならびに絹蛋白質(絹セリシン、絹フィブロイン)、ケラチン蛋白質等が挙げられ、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、絹蛋白質、およびケラチン蛋白質、さらに好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、絹フィブロイン、およびケラチン蛋白質が挙げられる。これらの水溶性高分子物質は単独で用いてもまたは組み合わせて用いてもよい。なお、天然蛋白質の羊毛ケラチン、絹フィブロイン等は、下記に述べるように、水溶性高分子物質として特に好ましい。

【0026】
絹蛋白質繊維から絹フィブロイン水溶液を調製するための原料としては、家蚕または野蚕由来の絹糸が用いられる。組成の均一な抗菌性ブレンド塊状物を製造するには家蚕由来の蛋白質が好ましい。例えば、家蚕生糸を炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液で煮沸し、絹糸表面にある膠状の接着物質セリシンを除去して調製できる絹フィブロイン繊維を中性塩で溶解し、セルロース製の透析膜で十分に透析することにより純粋な絹フィブロイン水溶液を調製できる。このとき、絹フィブロイン繊維を溶解するには、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチウムなど一般的に知られた中性塩が利用できる。絹糸の溶解性を高め、未変性状態に近い高分子状態の絹フィブロインを製造するためには、溶解性の高いリチウムイオンを含む中性塩が望ましく、臭化リチウムなどが特に好ましく用いられる。

【0027】
天然生体高分子物質である絹フィブロインは、手術用縫合絹糸の例からも明らかなように、生体内に埋め込んでも抗原抗体反応に基くアレルギー反応の起こり方が軽微である点において生体組織との生体適合性が良いため、本発明で得られる高分子物質の多孔質、膜状、ブロック状、ゲル状物は優れた生体適合性を持ち、このブレンド塊状物は体内埋め込み用材料として利用することができるだろう。また、絹フィブロイン水溶液と氷核活性細菌を組合わせて用いることによって、該細菌を含む絹フィブロイン膜、粉末、ゲルおよび多孔質体を調製することができる。

【0028】
本発明は絹フィブロイン等の高分子物質マトリックスに氷核活性細菌を含む膜状、ゲル状、ブロック状または粉末状の物質も提供する。この場合、高分子物質マトリックスに生菌若しくは死菌の氷核活性細菌が物理的または化学的な結合を介して混入する形で含まれることが可能である。このような物質は、例えば以下のようにして調製することができる。氷核活性細菌の懸濁液を含んだ高分子物質溶液を所定の支持体表面にスプレーし、乾燥固化することにより氷核活性細菌を含んだ高分子膜を形成することができる。また、支持体表面上に水溶性高分子物質と氷核活性細菌とからなる混合懸濁水を広げ、水分を蒸発させ、乾燥固化させると氷核活性細菌を含んだ皮膜状の高分子塊状物を形成することができる。さらに、氷核活性細菌と高濃度の高分子物質を含む混合懸濁液を用いれば抗菌性を持つ厚い板状若しくはブロック状のブレンド塊状物を製造できる。このように成型性のよいのが本発明の特徴である。

【0029】
また、本発明においては、氷核活性細菌を芯物質として高分子物質に内包した氷核形成物質も包含する。高分子物質としては、ポリアクリルアミド、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。このような内包体または固定化物は例えば通常の微生物固定化法、例えば福井三郎ら共著、酵素工学(1984年)東京化学同人に記載の方法によって製造しうる。

【0030】
本発明の氷核活性細菌は凍結速度制御物質として使用することも可能である。凍結により食品を保存する際には、食品の組織が変わることがあるが、このとき氷の結晶の大きさや分布、氷の結晶の量が問題となる。氷晶の大きさは凍結の速度により大きく影響を受ける。本発明の氷核活性細菌はそのような凍結速度を制御するのに有効に使用することができる。凍結の速度が緩慢であると氷は大きく成長する。

【0031】
本発明の方法および使用には、本発明で同定した新菌種の氷核活性細菌はもとより、同様の効果が得られるならば他の属または種の細菌、例えば、Pseudomanas属に属するP.fluorescens,P.viridiflava,P.viridiflavaなど、Erwinia属に属するE.herbicola,E.stewartii,E.uredovora,Xanthomonas属に属するX.campestrisなども利用できる。本発明のSEI-1のようにシュードモナス属の新菌種の氷核活性細菌は、水溶性高分子物質の極めて低濃度の領域においても、優れた氷結機能を示すため、高分子物質水溶液を効率的に凍結させる能力を有する。

【0032】
本発明で使用できる氷核活性細菌は、加熱やアルコール添加により変性し氷結能力を失ったものでなければ、滅菌しても氷核細菌の氷核形成能力は保持できる。また、一旦低温度で凍結した細菌を解凍させ室温に戻しても氷結能力は保持している。氷核活性細菌を食品業界で利用するには無毒化した物を使用することが好ましいが、このときガンマー線、紫外線などのエネルギー線を照射して氷核細菌を死滅させても、氷核活性が消滅することはない。

【0033】
氷核能力を増強した活性細菌を培養するには、従来の培地中に2%~10%、たとえば5%程度の糖類またはグリセロールを加えるとよい。糖類の添加量が2%未満であると、培養できる氷核活性細菌の氷核活性の増強は現れないし、糖類を高濃度(10%超)添加するとかえって細菌の増殖を阻害するという問題がある。糖類としては、シュークロース、グリセロール、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトースが例示できる。これらの物質は、糖類の添加が細胞膜上の氷核蛋白の形成量を増加させるものと考えられる。培養温度は18~26℃が望ましく、20~23℃が特に好ましい。培養温度が低いと短時間で目的とする量の細菌を得ることが難しく、高すぎると氷核蛋白の構造が変化し、安定的な氷核能力の発現ができなくなる欠点が生ずる。

【0034】
本発明で使用する凍結機能を持つ氷核形成能力を考える上で、氷核活性を発現させる有効な氷核活性細菌濃度がある。通常の条件下で氷核活性を示す氷核細菌濃度は氷核細菌種によっても異なるが、一般には104~105/mL以上、好ましくは106/mL以上である。104/mL以下の時は、優れた氷核細菌を用いても氷結機能が発揮できないが、上記の糖類、多糖類またはグリセロールを添加することにより103/mLの濃度であっても氷核活性が得られることがある。108/mLを超えても氷核活性が得られるが、より高濃度になるほど取り扱いが不便となり、また効率的でない欠点が生じる。

【0035】
本発明の氷核活性細菌はまた、有用蛋白質の濃縮・回収に使用することができる。具体的には、有用蛋白質と氷核活性細菌の水媒体中の混合液を氷晶核形成温度付近で凍結させ、その後、温度を高めて解凍することにより蛋白質と水分を分離し、これにより有用蛋白質を濃縮することができる(例えば、後記の実施例15参照)。また、食品工場からは、動物性蛋白質などの資源が廃水に混じって廃棄されている。この中に含まれる有用蛋白質を含んだ産業廃水から有用蛋白質を回収するには本発明の氷核活性細菌が用いることができる。すなわち、蛋白質を多量に含んだ産業廃水に石炭や高分子凝集剤などの脱水助剤を加えて、遠心脱水する。次に氷核活性細菌を加え、例えば-6~0℃の温度で氷結させる。これを常温に戻すと固形物と汚泥に含まれていた水分とが分離するため含水率の少ないケーキが得られる。通常、生活廃水からケーキ状固形物を得る過程では熱エネルギーを消費するが、氷核活性細菌を用いることで汚泥の水分除去が効率的に行えるのでエネルギーの大幅減少に役立つ。

【0036】
【実施例】次に本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
<実施例1> クワおよびクワノメイガからの氷核活性細菌の分離
クワ植物の葉または昆虫クワノメイガを乳鉢に入れ、適当量の殺菌水を加え十分に摩砕し、それを希釈平板法により、LB培地を用いて28℃で培養する。3日間培養して得られる単一のコロニーを、更に純粋培養して分離菌株とする。これらの菌株の氷核活性の有無は次の方法で検定する。すなわち、菌株をLB平板培地法で22℃で1~2日間培養して、菌体を殺菌水に108/mL程度に懸濁して、供試液とする。その約1mLを栄研製の試験管(減菌Fスピッツ、10mL容)に取り、-5℃の不凍液中に30分程度浸漬して、細菌懸濁液の凍結の有無により氷核活性の有無を目視で判定する。氷核活性を示した菌株は、スキムミルク培地(スキムミルク10g, グルタミン酸ソーダ 1.5g, 100mL)に混ぜ、-30℃で保存する。再度使用する時は、それを溶解してLB培地で培養する。

【0037】
上記の方法により、クワ葉面から分離された氷核活性細菌をPseusomonas syringae Ni23、Erwinia ananas TM2と命名し、またクワノメイガ体内から分離された氷核活性細菌をPseudomonas syringae Mei40、Erwinia ananas Mei7と命名した。

【0038】
<実施例2> セイダカアワダチソウからの氷核活性細菌の分離
セイダカワダチソウから氷核活性細菌を次の方法で分離した。1998年5月、茨城県つくば市の農道に繁茂するセイダカアワダチソウの葉身に細菌病と判定できる黒褐色の病斑を見付けた。同植物の細菌病の発生の記載は全くなく新菌種の可能性があるため、細菌を分離することにした。分離細菌は、健全なセイダカアワダチソウに有傷、無傷接種法のいずれでも、明瞭な病原性を示し新病原細菌であることが確定した。

【0039】
分離細菌は、グラム陰性であり、極べん毛を持つ桿菌で運動性を示す。キングB培地(栄研化学製)で黄緑色蛍光色素が産生するので、Pseudomonas属に属することが確認できた。更に、植物病原細菌の簡易同定LOPAT法では、レバン産生(-),オキシダーゼ活性(-),ジャガイモ塊茎腐敗(-),アルギニン加水分解(-),タバコ過敏感反応(+)を示し、LOPAT;Ib群に属するものと断定できるため、本菌株は、Pseudomonas syringaeと同定された。本菌株は、セイタカアワダチソウに病原性を有する。同植物に病原性を示すPseudomonas syringaeは全く知られていないため、新病原型すなわち新菌種であると同定しPseudomonassyringaeSEI-1と命名した。

【0040】
<実施例3> 新規氷核活性細菌の氷核活性
本発明の菌株Pseudomonas syringaeSEI-1、Ni23、およびMei40株、ErwiniaananasTM2およびMei7株と、公知の非氷核活性細菌との氷核活性を比較した。108/mL程度の細菌懸濁液における過冷却温度(氷核活性開始温度)および、-5℃~-6℃における氷核形成最小濃度の2つの要因について評価することにした。すなわち、過冷却温度が高いほど、また、氷核形成最小濃度が低いほど、氷核能力が高いと判定できる。前者は、試作装置としてデザインした過冷却温度測定器により測定した。サンプル量20μl,冷却速度、1℃/分の条件下であった。後者は測定しようとする細菌懸濁液を通常10倍段階希釈により、段階的な細菌濃度検定液を1mLの量で試験管内に作製する。これを上述の温度により30分程度空冷あるいは不凍液中に保ち、どの濃度の懸濁液まで氷結したかを調査する。ここにおいて、または後記において、空冷による方法とは、一定の温度(-6℃~0℃)の恒温度室内に氷核活性細菌の入った試験管を置いて30分後に試料の氷核形成状態を調べる方法を意味する。また、不凍液中での方法とはエチレングリコールを冷媒として一定温度に保冷した冷媒中に氷核活性細菌の入った試験管を入れて経時変化を調べる方法を意味する。同時に各希釈液中の細菌数(生菌数)を調べる。細菌濃度は、1mL当たりの生菌数で表示する。各種氷核活性細菌の氷核能力を氷核形成温度(過冷却点)と氷核形成最小濃度(CFU/mL)の特性を調べた。結果を表1にまとめた。

【0041】
【表1】
JP0003060010B2_000002t.gif【0042】表から明らかなように、本発明で用いた5菌株はいずれも強い氷核活性を示した。とりわけ新菌種SEI-1株は氷核形成温度-1.8℃、氷核を誘導するための最小濃度104/mLと最も優れた氷核能力を示し、かつ安定していた。一方、Ni23, Mei40,TM2は最小濃度が104~106/mLとなり、SEI-1株よりは氷核活性が幾分低い。

【0043】
<実施例4> 氷核形成能力を増強する方法
シュークロース(SUC)、ガラクトース(GAL)、グリセロール(GLY)をそれぞれ5wt%含有する従来公知のLB培地あるいはグリセロール液(1%)を含むキングB培地(KingBと略記)で培養したときの各種氷核活性細菌の氷核活性能力の変化を評価した。供試菌株は、SEI-1株を用いた。各種氷核活性細菌の懸濁液の水溶液を-6℃で凍結させ、氷結状態を目視で評価した。なお、氷核形成能力の増強因子を加えない対照区をLB区とした。結果を表2に示す。

【0044】
【表2】
JP0003060010B2_000003t.gif【0045】培地中にシュークロース、グリセロール、ガラクトースを含有させることで氷核活性細菌の氷核活性を10倍以上増強させることができるため、シュークロース、グリセロール、ガラクトースが氷核活性を増強する因子であることが明らかとなった。

【0046】
<実施例5>絹フィブロイン水溶液の温度と空冷処理時の経過時間
0.4%絹フィブロイン水溶液0.6mlを1mlの試験管に入れ、これを-6℃に調節した恒温室に放置する。放置直後から、経時的に試料水溶液の温度を(株)カスタム製デジタルサーモメーター(CT-1200)により測定した。なお用いたセンサプローブはLK-700型式のものであった。また氷核活性細菌Ni23を107/ml加えた絹フィブロイン水溶液の温度変化も併せて検討した。得られた結果を図1に示す。

【0047】
Ni23懸濁液を含まない絹フィブロイン水溶液の温度は、放置後、経過時間4~5分まではNi23含有の絹フィブロイン水溶液温度の変化と同様、経過時間につれて低下するが、5分以降は、Ni23を含有する試料水溶液の温度低下の割合よりもやや増加し-6℃に収斂する。しかし、Ni23懸濁液を含む絹フィブロイン水溶液の温度は、次第に低下割合が緩慢となり、経過時間20分で-3℃に達してから突然0.5℃に跳ね上がった。氷核活性細菌の有無が絹フィブロイン液の温度の変化にも現れていることが確かめられた。これは、氷結が-3℃で起こったことを示している。

【0048】
<実施例6> 氷核活性細菌の絹フィブロインおよびポリビニルアルコールの凍結誘導能力
エッペンドルフ社製チューブ(1.5mL容)に45μLの絹フィブロイン(SF)またはポリビニルアルコール(PVA)水溶液を入れ、それに5μLの各濃度の細菌懸濁液を加え、空冷法(-6℃)で氷結の有無を調べた。結果を表3に示す。

【0049】
【表3】
JP0003060010B2_000004t.gif【0050】SEI-1株、Ni23株で濃度別に詳細に調べた結果、SF水溶液中106/mLの最低細菌濃度まで、PVA水溶液中では105/mLの最低細菌濃度まで凍結した。それ以外の菌株でも同様にSF、PVA水溶液を凍結誘導した。なお、細菌懸濁液を含まないSF、PVA水溶液は全く凍結しなかった。

【0051】
<実施例7> 氷核活性細菌の殺菌と活性の維持
紫外線ランプ(松下電工(株)、GL-15)による照射を用い、ランプより30cm下方の距離に、109/mLの細菌懸濁液1mlを入れた直径9cmのプラスチック製シャーレを置き15分間照射した。熱処理については、トミー製オートクレーブSF-240型を用い細菌を殺菌した。なお、気圧は2気圧、120℃で20分の熱処理条件下であった。2種類の殺菌処理後、氷核形成細菌(P. syringae Ni23, E. ananas Mei7)の生存と氷核活性の有無を調べた。結果を表4に示す。

【0052】
【表4】
JP0003060010B2_000005t.gif【0053】氷核活性細菌は紫外線照射処理のみで完全に殺菌できるが氷核活性機能は消滅しない。しかし、熱処理で殺菌すると細菌は死滅し、氷核活性機能は完全に消滅する。UV照射処理により、氷核活性を保持したまま氷核活性細菌を死滅させることができる。UV照射に代えて、ガンマ線照射の場合にも、氷核活性機能を維持したまま細菌を死滅させることができる。

【0054】
<実施例8> 培養温度と氷核活性の有無
氷核活性細菌(Ni27)を各種の温度で培養した際の氷核活性を変化を調べた。得られた結果を表5に示す。ただし、氷核活性の評価は目視により次の三段階で評価した。

【0055】
【表5】
JP0003060010B2_000006t.gif【0056】但し、Xは、一旦30℃で培養し氷核活性が消滅した細菌を23℃に戻した実験区を意味する。培養温度が23℃では安定に氷核活性が発現するが、26℃を超えると不安定な結果となる。

【0057】
<実施例9>氷核活性細菌の氷結濃度
(1) 2gの絹フィブロイン(SF)繊維を60℃の8M臭化リチウム水溶液5mlに溶解し、セルロース系の透析膜中で純水と5日間置換しながら透析することで0.5%絹フィブロイン水溶液を調製した。
(2) 和光純薬工業製のポリビニルアルコール(PVA)(カタログ番号167-03065、Lot No、TJ0964)2.1gを40mLの水に入れ、湯せん鍋に入れて時間をかけて濃度0.5wt%の均一なPVA水溶液を調製する。

【0058】
(3) 次に、絹フィブロイン水溶液1部とPVA水溶液1部とを当量宛混合して混合水溶液を調製した。これら3種類の水溶液に濃度の異なる氷核活性細菌水溶液を加え、富士医科社製の氷核活性検定装置を用い,ナイブライン(日曹丸善ケミカル社製)を不凍液にして、-5℃で各サンプルの凍結状態を調べ、Ni23の懸濁液の濃度と氷核能力との関係を調べた。使用した氷核活性細菌,Ni23は、22℃48時間LB培養し、殺菌水で希釈したものである。

【0059】
0.5mL用のエッペンドルフチューブに20μlのSF,PVA,SF/PVAの各サンプル水溶液に2μLの氷核活性細菌液(109~107/ml)を加え良く混ぜ、それを不凍液(-5℃)に30分あるいは1時間浸漬し、氷結の有無から氷核活性細菌による氷結濃度を調べた。氷晶核形成の実験をした後、20℃の室温に各サンプルをもどして同温度で12時間放置しサンプルの形状を調べた。最後に氷晶核形成微生物の生存の有無を確かめるために再度-5℃にもどしてサンプル性状を評価した。得られた結果を表6に示す。

【0060】
【表6】
JP0003060010B2_000007t.gif【0061】<実施例10> -15℃での氷核活性細菌の氷核活性
5wt% のポリビニルアルコール(PVA)水溶液に異なる濃度の氷核活性細菌、Ni23株の懸濁液を入れ-15℃で氷結能力の有無を評価した。結果を表7に示す。

【0062】
【表7】
JP0003060010B2_000008t.gif【0063】-15℃処理では、-5℃処理(表6)とは異なる反応を示した。PVAのみでも30分処理で凍結したが、氷核活性細菌処理区では、10分間で凍結が誘導された。また、一端融解後の反応は極めて特異的であった。

【0064】
<実施例11>高分子物質の調製条件
4%絹フィブロイン水溶液1部と4%PVA水溶液1部とからなる等量混合水溶液に氷核活性細胞懸濁液を入れて-5℃と-15℃とで氷結させた。サンプルの調製条件を表8にまとめた。なお用いた氷核活性細菌はNi23であり、懸濁液濃度は108/mlであった。

【0065】
【表8】
JP0003060010B2_000009t.gif【0066】表8に示した一部のサンプルを用いて次の方法で多孔質体を調製した。凍結状態にあるサンプルを凍結状態のまま、減圧雰囲気下で乾燥させ水分を除去することでスポンジ状で葉が積み重なったような積層構造の多孔質体が製造できた。多孔質体の形状、物性、断面形態を調べた。得られた結果を表9に示す。

【0067】
【表9】
JP0003060010B2_000010t.gif【0068】<実施例12>絹フィブロイン膜およびゲルの調製
柞蚕絹糸の表面にはタンニンが付着し、蛋白質を強く不溶化させているので、これを除去するには、柞蚕繭糸を繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃で1時間処理してセリシンを予め除去しておく必要がある。セリシンを除去した柞蚕絹フィブロイン繊維をチオシアン酸リチウム等の溶解性の高い中性塩で溶解し、さらにセルロース製透析膜に入れて純水で透析することで柞蚕絹フィブロイン水溶液が調製できる。これをビーカーに入れ送風乾燥することで濃度0.5wt%の柞蚕絹フィブロイン水溶液を調製した。3mLの柞蚕絹フィブロイン水溶液にNi23を107/mL加え、ガラス棒で静かに攪拌し、これをポリエチレン膜上に広げ12時間かけて水溶液を蒸発乾燥固化させてNi23氷核活性細菌を含む厚さ30μmの柞蚕絹フィブロイン膜を調製した。この柞蚕フィブロン膜は氷核活性を持つことが確認できた。

【0069】
上記の方法で調製しNi23細菌懸濁液を含む柞蚕絹フィブロイン水溶液をセルロースチューブに入れ,酢酸水溶液でpH3.0に調整した水溶液でpHを調整することで酢酸絹フィブロインをゲル化させることで、Ni23を含む柞蚕絹フィブロインゲルを調製した。

【0070】
<実施例13>氷核活性細菌を含む羊毛ケラチンの調製
氷核活性細菌を含む羊毛ケラチンを次のようにして調製した。羊毛繊維を溶解するには、まず、分子間のCys結合を窒素雰囲気下、メルカプトエタノールまたはチオグリコール酸等の還元剤を用いて切断し、ケラチン分子を還元して可溶化する必要がある。メルカプトエタノールを用いる場合には、尿素溶液中で還元処理を行うとよい。尿素の濃度は一般に7.5~8.8M、好ましくは7.8~8Mである。チオグリコール酸を用いる場合には、1~4%のNaClを添加するとよい。

【0071】
還元剤として、例えば、メルカプトエタノールを用いる場合、羊毛繊維を上記濃度の尿素水溶液に浸漬し、脱気後、窒素雰囲気下、45℃以下、望ましくは20~25℃の温度で、メルカプトエタノールを10gの羊毛繊維に対し3~5ml加え、さらに約3時間攪拌する。こうしてケラチン分子が還元されて、分子間のジスルフィド結合(-S-S-結合)が還元され、SHとなったケラテインが得られる。純水を用いて透析し、尿素、過剰のメルカプトエタノールを除去するとケラチン水溶液が得られる。これは、本発明における水溶性高分子として利用できる。このようにして還元したSH基を有するケラテインをさらにアルキル化剤、例えば(置換)アルキルハライドと反応させてS-(置換)アルキルケラテインとしても使用することができる。アルキル化は公知の方法に従って行えばよい。一例としてアルキル化剤としてヨード酢酸を用いた場合について説明する。上記の還元ケラテインは、窒素雰囲気下、20~25℃の温度で、攪拌しながら、10gの羊毛繊維に対して10~17gのヨード酢酸(分子量185.95)を加え、反応させる。1~2時間後、pHを8.5に調整し、純水を用いて透析することによって過剰のヨード酢酸を除いてS-カルボキシメチルケラテイン水溶液を得る。この水溶液が、本発明における水溶性高分子物質として使用される。

【0072】
こうして得られたS-カルボキシメチルケラテイン水溶液濃度を0.5%に調整し、これを1mlの試験管に入れ、更にNi23株の細菌懸濁液を107/ml加え、-5℃の不凍液中に30分浸漬することで氷核活性細菌を含むゲル状の羊毛ケラチンを得た。また、これを凍結乾燥することで氷核活性細菌を包括する粉末状の羊毛ケラチンを得た。

【0073】
<実施例14> 氷核活性細菌を固定化した絹フィブロイン膜
2gの絹フィブロイン繊維を60℃の8M臭化リチウム水溶液5mlに溶解し、セルロース系の透析膜中で純水と5日間置換しながら透析することで0.5%絹フィブロイン水溶液を調製した。0.5wt%の絹フィブロイン水溶液2mlに108/mlの氷核活性細菌Ni23の懸濁液を2mlを加えた。この混合溶液をポリエチレン膜上に広げ、20時間かけて水溶液を蒸発させることで氷核活性細菌を含有し、透明性の絹フィブロイン膜を調製した。

【0074】
また、Ni23 の懸濁液を含む絹フィブロイン水溶液を-20℃で凍結させ、さらに減圧下で凍結乾燥することにより氷結活性細菌を含んだ絹フィブロイン粉末を調製した。更に、またNi23の懸濁液を含む絹フィブロイン水溶液を-20℃で一旦凍結させた後、減圧下で凍結乾燥させることで氷核活性細菌を含む家蚕絹フィブロインの粉末を調製した。

【0075】
<実施例15> タンパク質の濃縮
0.4%絹フィブロイン水溶液に氷核活性細菌(Ni23)を107/mlを加え、-6℃で一昼夜保存し、溶液全体を氷結させゲル状の白濁したサンプルを調製した。25℃の室温にもどし一昼夜経過させることで絹フィブロインゲルから水が弾き出された。具体的には、0.4%絹フィブロイン水溶液を0.6209gを秤量した後、Ni23を添加しエッペンドルフの遠心管に入れ-5℃で凍結する。完全に凍結した後、25℃の室温に戻して解凍する。Ni23を全く含まないものを対照区として用いた。Ni23氷核活性細菌を含んだ絹フィブロインでは、絹フィブロインゲルと0.37gの水とが既にこの際に分離し、絹フィブロインの回収利用に有効であった。このように、絹フィブロインゲルから水が弾き出されるため、ゲル濃度を高めることが可能となった。ゲル化後の対象区の重量:1.8727gであり、ゲル化後のNi23:放出水量0.37g、ゲル物1.5835g、全体で1.9535gである。

【0076】
【発明の効果】本発明におけるPsedomonas属の新菌種SEI-1株は-1.8℃という極めて高温度で氷結する機能をもっているので食品分野を始め各種の産業分野で利用可能な氷核活性細菌である。従来の氷核活性細菌及び新菌種の氷核活性細菌の氷核活性機能を増強するには該細菌の培養時に従来の培地を用いる場合において、培地に糖類を添加し、通常の方法で培養するだけで氷核活性細菌の氷核機能は10~100倍に増強できる。しかも、氷核機能を増強した細菌は、103/mLの極めて低濃度であっても氷結する機能を十分に持ち合わせており、氷核機能を増強する前に比べて10倍以上の機能増強が可能となった。

【0077】
本発明によれば、氷核形成能力に優れた氷核活性細菌を用いているので、高分子物質水溶液に添加し、氷核形成温度付近で処理するだけで高分子物質水溶液がゲル化したり、あるいはその水溶液を一旦凍結させた後、凍結乾燥したり、あるいは、混合水溶液から水分を蒸発させることなどにより、膜状、多孔質状、ブロック状、粉末状、ゲル状等のようなもとの高分子物質とは異なる形態をもつ物質が提供できる。

【0078】
また、昆虫生体高分子物質(例えば絹蛋白質)の水溶液またはケラチン(例えば羊毛ケラチン)水溶液に氷核活性細菌の懸濁液を加えた場合、調製できる氷核活性細菌を固定化した蛋白質膜が製造できる。このような蛋白質の塊状物は、透明性に優れ、機械的強度も特に良好となる。また、透明で強度的にも優れ、生体適合性も良好であるので、医療分野を中心とした生体用材料として利用できる。さらに、本発明の氷核細菌を固定化した高分子膜は、所望により水に対する溶解性を簡単に制御することが可能であり、膜状、多孔質状、ブロック状、粉末状、ゲル状等の形態で形成することができる。所望により、氷核細菌の懸濁液と水溶性高分子との混合液を支持体の表面上にスプレーし、乾燥固化してできる薄膜を不溶化させれば、耐久性に富んだ素材が製造できる。
図面
【図1】
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