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明細書 :金属錯体、抗菌材、抗菌性物品、及び該物品の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3015879号 (P3015879)
登録日 平成11年12月24日(1999.12.24)
発行日 平成12年3月6日(2000.3.6)
発明の名称または考案の名称 金属錯体、抗菌材、抗菌性物品、及び該物品の製造方法
国際特許分類 C07F  1/08      
A01N 59/16      
A01N 59/20      
A61L  2/16      
C07F 15/02      
FI C07F 1/08 C
A01N 59/16
A01N 59/20
A61L 2/16
C07F 15/02
請求項の数または発明の数 8
全頁数 15
出願番号 特願平10-260267 (P1998-260267)
出願日 平成10年9月14日(1998.9.14)
審査請求日 平成10年9月14日(1998.9.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】塚田 益裕
【氏名】新居 孝之
【氏名】白田 昭
個別代理人の代理人 【識別番号】100060025、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 欣一 (外3名)
審査官 【審査官】唐木 以知良
参考文献・文献 特開 昭48-88287(JP,A)
特開 昭54-63089(JP,A)
特開 昭60-6698(JP,A)
特開 昭58-116497(JP,A)
Tetrahedron Letters,32[47](1991),6869-6872.
Can.J.Chem.,76[3](1998),260-264.
調査した分野 C07F 1/08
A01N 59/16
A01N 59/20
C07F 15/02
要約 【課題】 抗菌性金属の含有量が少量であっても抗菌性に優れている抗菌材、耐久性に優れた抗菌性物品、及び抗菌性物品の製造法を提供すること。
【解決手段】 次の一般式(I):
【化22】
JP0003015879B1_000027t.gif(上式中、Mは、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、銀イオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、又はルテニウムイオンであり、Rは、カルバモイル基、C1~C6の低級アルキル基置換カルバモイル基、C1~C6の低級アルキル基、又はアミノ基である。)で表される、分子内に金属イオンと配位可能な配位基を有する配位化合物である金属錯体からなる抗菌材、この抗菌材で各種物品の表面を処理することによって抗菌性物品が得られる。
特許請求の範囲 【請求項1】
次の一般式(I):
【化1】
JP0003015879B1_000002t.gif(上式中、Mは、鉄イオン、銅イオン、又はコバルトイオンであり、Rは、C1~C6の低級アルキル基置換カルバモイル基、又はアミノ基である。)で表される、分子内に金属イオンと配位可能な配位基を有する配位化合物である金属錯体。

【請求項2】
次の一般式(I):
【化2】
JP0003015879B1_000003t.gif(上式中、Mは、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、銀イオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、又はルテニウムイオンであり、Rは、カルバモイル基、C1~C6の低級アルキル基置換カルバモイル基、又はアミノ基である。)で表される、分子内に金属イオンと配位可能な配位基を有する配位化合物である金属錯体からなる抗菌材。

【請求項3】
次の一般式(I):
【化3】
JP0003015879B1_000004t.gif(上式中、Mは、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、銀イオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、又はルテニウムイオンであり、Rは、カルバモイル基、C1~C3の低級アルキル基置換カルバモイル基、又はアミノ基である。)で表される、分子内に金属イオンと配位可能な配位基を有する配位化合物である金属錯体からなる抗菌性薄膜を表面に有することを特徴とする抗菌性物品。

【請求項4】
前記物品が繊維、プラスチック、木材、紙、金属、ガラス、又はセラミックである請求項3記載抗菌性物品。

【請求項5】
次の一般式(II):
【化4】
JP0003015879B1_000005t.gif(上式中、Rは、カルバモイル基、C1~C6の低級アルキル基置換カルバモイル基、又はアミノ基である。)で表される化合物を錯化剤で処理して、次の一般式(I):
【化5】
JP0003015879B1_000006t.gif(上式中、Mは、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、銀イオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、又はルテニウムイオンであり、Rは上記定義の通りである。)で表される、分子内に金属イオンと配位可能な配位基を有する配位化合物である金属錯体を得、次いでこの金属錯体の水溶液を調製し、その際必要に応じてpHを5-10に調整して水溶液を調製し、この水溶液中に被処理物品を浸漬し、又はこの水溶液を被処理物品に対してスプレーし、該物品を金属錯体の薄膜で被覆せしめて抗菌性物品を得ることを特徴とする抗菌性の付与された物品の製造方法。

【請求項6】
前記一般式(II)の化合物の水溶液を調製し、この水溶液中に被処理物品を浸漬し、又はこの水溶液を被処理物品に対してスプレーして、該物品をこの化合物の薄膜で被覆せしめ、次いでこの被覆された物品を金属塩の水溶液中に浸漬し、又はこの被覆された物品に該金属塩水溶液をスプレーし、該物品上で該一般式(II)の化合物と該錯化剤とを反応せしめて、該物品を前記一般式(I)の金属錯体の薄膜で被覆せしめることを特徴とする請求項5記載の抗菌性の付与された物品の製造方法。

【請求項7】
前記金属錯体の薄膜で被処理物品を被覆せしめた後、さらにこの金属錯体薄膜に貧溶媒を作用させて金属錯体を水不溶化せしめることを特徴とする請求項5又は6記載の抗菌性の付与された物品の製造方法。

【請求項8】
前記被処理物品が繊維、プラスチック、木材、紙、金属、ガラス、又はセラミックである請求項5~7のいずれかに記載の抗菌性の付与された物品の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な金属錯体、抗菌材、抗菌性の付与された物品、及び抗菌性物品の製造方法に関わり、更に詳しくは、金属イオンが配位基に配位してできるブレオマイシンモデル化合物の金属錯体、該金属錯体からなり多様な病原細菌に対して広い抗菌スペクトルを示す抗菌材、この抗菌材を用いて処理された抗菌性の付与された物品、及びその抗菌性物品を製造する方法に関する。

【0002】
【従来の技術】最近、身の回りのあらゆる商品に安全性や清潔性が求められる傾向があり、特に若者を中心とした清潔志向が高まりを見せており、抗菌性の付与された商品が注目されている。生体組織や環境汚染につながらない毒性の低い抗菌剤ならびに抗菌性製品の開発が積極的に進められている。

【0003】
抗菌性を付与するための最も一般的な方法は、銀、銅等の抗菌性金属を用いる方法である。かかる抗菌性金属を用いる抗菌剤は、金属イオンが溶出することにより抗菌性が発現する溶出型薬剤が多く、この溶出型薬剤の担体として、ゼオライト、粘土鉱物、ガラス等が用いられている。このような抗菌性金属の溶出型薬剤は、優れた抗菌性機能を持っており、例えば抗菌性の金属イオンを含む微粉末状のゼオライトを有効成分とするスプレーの形態で用いて、簡便に各種物品の表面を抗菌性にすることが可能である。

【0004】
また、抗菌性粉末として、銀、銅、亜鉛、あるいはこれらの金属からなる錯体を含有するものが知られている(特開平9-263715号公報参照)。かかる抗菌性粉末によって抗菌処理された物品は、強い抗菌性を持っている。

【0005】
さらに、抗菌性金属を含有するゼオライトを練り込んだ抗菌性樹脂組成物も知られている(特開昭63-265958号公報参照)。

【0006】
さらにまた、抗菌性を有する粉末塗料を用いて物品表面を被覆して抗菌性を付与せしめることも知られている。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記したような銀イオンをはじめとする抗菌性金属の溶出型薬剤は、優れた抗菌性機能を持つ反面、金属が溶出して生体系、環境系を汚染するという問題があった。従来のスプレー剤の場合、処理された物品の表面に付着しているゼオライト粒子が物理的刺激を受けて脱離しやすいので、耐久性に欠けるという問題があった。

【0008】
前記特開平9-263715号公報記載の錯体の場合、抗菌処理された物品は、強い抗菌性を持つ反面、抗菌性無機粒子から銀等の金属イオンが微量づつ長年にわたって流出し、これが生体組織、あるいは環境を汚染する原因となっており、そのため、抗菌材料から金属イオンが流出することのない、安定して抗菌機能を維持できる抗菌材の開発が望まれている。

【0009】
特開昭63-265958号公報記載の組成物の場合、コスト高となり、また光のエネルギーで樹脂が着色や変色をしてしまうため、実用上問題となっていた。

【0010】
また、抗菌性を有する粉末塗料を用いる場合、焼付け時に150~200℃まで加熱する工程を必要とするため、通常多く用いる一般的な有機系の抗菌剤では抗菌機能の低下が問題であった。

【0011】
本発明は、上記の問題を解決し、抗菌性金属の含有量が少量であっても優れた抗菌性を有する抗菌材、耐久性に優れた、抗菌性の付与された物品、及び抗菌性物品の製造方法を提供することを課題としている。

【0012】
【課題を解決するための手段】本発明におけるブレオマイシンモデル化合物の説明をする前に、先ず、ブレオマイシン(以下、BLMと略記する)について説明する。BLMは放線菌(Streptromyces verticillus)から単離された抗腫瘍性抗生物質であり、悪性リンパ腫、扁平上皮癌等の治療薬として広く臨床的に用いられている。BLMは金属配位部より成るDNA切断部位、DNA結合部位、糖鎖部位、リンカー部位の4つの異なる機能部位から成り立っており、これらの機能部位が協奏的に働くことによりDNAを切断するものとされている。

【0013】
BLM分子は、β-アミノアラニン-ピリミジン-β-ヒドロキシヒスチジン部分の5つの窒素でFe(II)、Fe(III)、Cu(I)、Cu(II)、Co(II)、Co(III)等の金属と配位する。このBLM-金属錯体は次の一般式(III)で表される構造を有する。

【0014】
【化6】
JP0003015879B1_000007t.gif【0015】上記BLM-金属錯体のうちFe(II)錯体は、分子状酸素により容易に酸化されてFe(III)の錯体となり、この過程で触媒的に分子状酸素を活性化する。その活性種はBLM-Fe(II)-O22-に近いものとされている。また、その活性化過程で生じる活性酸素であるヒドロキシラジカルはDNAの切断に関与することが報告されている。また、BLM-Fe(III)錯体は生理的な条件下で生体内に存在する還元剤により容易にFe(II)錯体に再生される。

【0016】
BLMのビチアゾール部位はDNAのグアニン塩基と特異的に作用する。BLM金属錯体はB型DNAのマイナーグルーブに結合し、グアニン2位アミノ基を認識するために、DNAをグアニン-ピリミジン(5’-3’)配列、特にグアニン-シトシン塩基配列で選択的に切断することになる。リンカー部位は金属配位部位とDNA結合部位とを適切な距離と位置関係に配置するための連結部位として機能している。糖鎖部位は、BLMの金属錯体が分子内に酸素を収納するための疎水空間を形成するための立体的環境因子となっており、細胞膜透過性があり、癌細胞への蓄積にも関与していることが示唆されている。

【0017】
BLMによるDNAの開裂反応には二通りの経路が存在する。酸素が多量に存在する経路では、DNA糖鎖のC-4’水素が引き抜かれ、C-4’ヒドロペルオキシド中間体が生成し、更にそれが分解して塩基プロペナール誘導体が生じる。一方、付加的な酸素を必要としない経路では、核酸塩基の遊離が起こり、DNA鎖での酸化的な損傷を受けた糖の生成によって完結される。BLMは、DNAの塩基配列と特異的に結合し、活性酸素を発生するなど特徴的な機能を持つ抗生物質であり、末端アミンを異にする同族体の混合物である。作用機序は、Fe(II)と錯体をつくり、これに酸素が結合し酸化されたBLM-Fe(III)-O2-が活性型でDNA分子の切断が起こる。

【0018】
本発明者らは、上記のようなBLMの金属配位部位を単純化したモデル化合物の金属錯体がBLMと同様に酸素を活性化する作用を持つことを見出した。このようなBLMモデル化合物は次の一般式(I)で表される。

【0019】
【化7】
JP0003015879B1_000008t.gif【0020】上式中、Mは、鉄イオン(II、III)、銅イオン(I、II)、コバルトイオン(II、III)、銀イオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン(II、III)、又はルテニウムイオン等のような遷移金属であり、Rは、カルバモイル基、C1~C6、好ましくはC1~C4の低級アルキル基置換カルバモイル基、C1~C6、好ましくはC1~C4の低級アルキル基、又はアミノ基である。上記C1~C6の低級アルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、等が含まれる。

【0021】
上記のように活性化過程で生じる活性酸素のヒドロキシラジカルはDNA鎖を切断する。このラジカルには有機物を酸化分解したり、消臭作用を発現する作用がある。また、このBLMモデル化合物には不斉炭素が存在するため錯体はキラルであり、BLM錯体と同様にオレフィンを酸化する際に不斉誘起が起こることが予想でき、不斉酸素化触媒として用いることも可能である。このように、BLMモデル化合物は、DNAを特異的に切断したり、消臭機能を持ち、有機物の酸化分解に寄与する等、さまざまな生化学的な特性を持っている。

【0022】
BLMの基本骨格を化学修飾により単純化させた本発明のBLMモデル化合物は、上記のようなBLMの特性を保持しながら、本発明で明らかになったとおり、以下詳細に述べる抗菌機能を持っているので、各種産業資材としての利用価値が極めて高い。

【0023】
本発明者らは、BLMのモデル化合物の金属錯体で、分子内に金属イオンと配位することが可能な特定の配位基を有する配位化合物であって、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、銀イオン、亜鉛イオン、錫イオン、クロムイオン、マンガンイオン、ニッケルイオン、又はルテニウムイオン等と配位してなる有機金属錯体が、広範囲の病原細菌の増殖を効果的に阻害することを初めて見出し、本発明を完成するに至った。

【0024】
すなわち、本発明者らは、安定性に乏しく、耐久性に劣り、また金属イオンが流出し易く、かくして抗菌活性が低下するというような上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定の配位子と金属イオンとからなる金属錯体が安定な抗菌性を持つことを明らかにし、この金属錯体水溶液を用いて、繊維、プラスチック、木材、紙、金属、ガラス、セラミック等の物品を浸漬処理したり、スプレーすることにより、さらにはこれらの物品の表面を被覆した金属錯体被膜を水不溶化することで持続性に優れた抗菌性物品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0025】
本発明において、BLMの骨格を単純化させるとは、4種類の部位を化学反応的に簡単な分子形態の基で置き換えることを意味する。この4種類の部位とは、(1)BLMの金属配位部位、(2)BLMの糖鎖部位、(3)BLMの金属配位部位とDNA結合部位とを結ぶリンカー部位、(4)BLMのDNA結合部位であるビチアゾール部位である。

【0026】
また、BLMを化学修飾するとは、BLMの骨格を単純化したBLMモデル化合物に、例えばアクリジン、ポリアミド核酸、シクロデキストリン等の機能性分子を導入することを意味する。詳しくは、BLMモデル化合物において、糖鎖部位をポリアミド核酸あるいはシクロデキストリンと置き換えたり、DNA結合部位をアクリジンあるいはポリアミド核酸で置き換える場合がある。

【0027】
本発明では、金属錯体の金属として公知の抗菌性金属を制限無く用いることができ、金属配位基を有する配位子が金属に配位して存在する。金属イオンに配位可能な基としては、窒素、硫黄、酸素を含む基が挙げられる。

【0028】
本発明の金属錯体のうち、Fe(II)は酸素及び還元剤の存在下で反応すると活性酸素を放出するという特徴を持つ。Fe(II)は酸素を取り込みFe(III)になろうとするので水溶液中では不安定であるが、Fe(III)は水溶液中でも、結晶粉末の状態でも安定である。

【0029】
Fe(II)、Fe(III)、Cu錯体等はアセトンと反応すると溶解性を低下させて沈殿する。この性質を利用すると本発明の金属錯体を水不溶化させることができる。すなわち、金属錯体の水溶液中に、繊維、プラスチック、木材、紙、金属、ガラス、又はセラミック等の物品を浸漬処理したり、この水溶液をスプレーすることで物品の表面に金属錯体の薄膜を被覆させたものをアセトン処理することにより薄膜を水不溶化することができる。

【0030】
Fe(III)錯体をFe(II)錯体に還元するには、通常の還元剤を用いればよい。例えば、ジチオトレイトール、アスコルビン酸、メルカプトエタノール等を用いることができる。これらの還元剤の中でジチオトレイトールが最も好ましく用いることができる。ジチオトレイトールが還元剤として特に有効であると考えられるのは次の理由によるものである。分子内に2つのチオール基を持つジチオトレイトールは、BLMモデル化合物の第6配位子部に配位してFeに電子を与えて還元した後、結合が外れ易いという性質を持つためであろう。

【0031】
抗菌性を示す金属錯体の中でも、鉄イオンは特に効果的な抗菌作用を示す。それは、Fe(II)錯体が酸化されてFe(III)錯体になる過程で活性酸素であるヒドロキシラジカルを生成するためである。ヒドロキシラジカルは極めて強い酸化剤として作用するため、強い殺菌力の他にも消臭などの働きを持つ。この酸化力を活用すれば有機物の酸化分解も可能となる。

【0032】
更に、鉄錯体は、二次元構造式が同じであっても三次元空間で原子の立体配置が異なるもの、すなわちキラル炭素を含んでいる。このため、オレフィンを酸化する際に不斉誘起を起すことが予想される。つまり、オレフィンにはトランス体とシス体とがあり、通常の酸化反応では酸化生成物はラセミ体となることが多いが、この鉄錯体ではその鉄イオン周囲の環境がキラルであるために、エナンチオ選択性を示し、酸化生成物であるエポキシドは酸素が立体保持にて付加したものが生成すると考えられるからである。オレフィンとしてはスチレン、スチルベン、シクロヘキセン、カルコンなどが考えられ、酸素供与体としては、分子状酸素あるいは過酸化水素などが考えられる。

【0033】
金属錯体を、例えば絹織物等の物品の表面に極薄く被覆するには、金属錯体の水溶液にこの物品を浸漬してもよいし、また第一ステップとして金属錯体における配位子を物品表面に被覆させておいてから、この物品を金属水溶液に浸漬してもよく、その被覆方法には制限はない。

【0034】
BLMの糖鎖部位を単純化した主要なBLMモデル金属錯体には、R-Metal Complex(但し、R は、(1)-CONHtBu、(2)-CONH2、(3)-CH3、及び (4)-NH2を示す。)があり、これらの錯体の構造は前記一般式(I)で表される。

【0035】
上記4種類のBLMモデル金属錯体のうち、水溶性に優れたものは(4)である。

【0036】
上記BLMモデル金属錯体は配位子に金属イオンを配置させることで合成できる。各種物品の表面に配位子を付着させるには、どのような既知の配位子を用いても良いが、上記(4)の金属錯体のうち周期表第IB、VIII族の金属の錯体が最も好ましく利用できる。これらの錯体は水に良く溶解するので、pH調整の必要がないためである。上記(1)、(2)、及び(3)の金属錯体については、pH緩衝液を用いて水溶液のpHを調整することで配位子の溶解性を向上させることが可能である。本発明で、金属錯体を効果的に水溶液化するには、水溶液のpHを約5-10、好ましくは約6-8、より好ましくは約7.0~7.7に調整するとよい。pHが5未満では金属錯体化合物から抗菌性金属が脱離してしまう危険性があり、pHが10を超えると金属錯体の配位子が加水分解してしまうからである。

【0037】
絹織物等の各種物品を浸漬するために用いることができる金属錯体の水溶液濃度は0.3wt%以上、好ましくは、0.8~1.3wt%でよい。濃度が0.3wt%未満であると物品表面を覆う金属錯体膜が薄すぎて抗菌効果が十分に発現しないし、金属錯体濃度が1.3wt%を超えると経済的ではない。

【0038】
各種物品を金属錯体水溶液に浸漬するには、任意の温度でよく、浸漬時間は2分~1時間、好ましくは5~30分でよい。金属錯体の水溶液に浸漬し、所定の時間後に取り出した物品は室温で軽く乾燥(風乾)する。このままでは物品表面を覆っている金属錯体被膜は水溶性であるので、用途に応じてアセトンなどの溶媒に軽く浸漬して、乾燥し、水不溶性にするとよい。かかる水不溶化用溶媒としては、その他にメタノール等のアルコール等がある。

【0039】
金属錯体のかわりに各種の配位子水溶液を用いる場合の配位子濃度、浸漬時間、浸漬温度は金属錯体を用いる場合と同様である。この場合も、有機溶媒を用いて水不溶化させることができる。配位子は酸素を含む雰囲気下では酸化作用を受け易い。そのため、配位子試料雰囲気をアルゴン、窒素などの不活性ガスで置換し、かつ-20℃の冷蔵庫で保存することが望ましく、こうした理想的な環境下では長時間配位子を保存することが可能である。金属を配位子に配位させるには、配位子水溶液に金属塩の水溶液を加えて反応させればよい。水溶液のpHは通常7-8に調整し、室温付近で1分~20分反応させるだけで簡単に金属錯体を製造できる。金属塩としては、例えば金属の酢酸塩、塩素塩、硝酸塩、あるいは硫酸塩であればよい。操作上取り扱い易い金属塩としては、水溶性に優れ、潮解性の無いものであれば何れも利用ができる。

【0040】
【実施例】次に本発明を製造例及び実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。

【0041】
以下の実施例において抗菌性評価のために用いた植物性病原細菌は、トマトの重要な病原細菌であり、植物性病原細菌の中でも数少ないグラム陽性菌としてのトマトかいよう病細菌(学術名:Corynebacterium michiganese pv.michiganese)であり、その他に白紋羽菌(糸状菌)、炭ソ病菌(糸状菌)についても抗菌性評価を行った。

【0042】
実施例中の細菌及び糸状菌に対する抗菌活性評価は下記の方法により行った。

【0043】
トマトかいよう病細菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後55℃に保持した脇本半合成培地又はキングB培地25mlと、検定菌の胞子液(濃度109個/ml)2mlとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固めた。本発明の金属イオンと配位可能な配位基を有する粉末状金属錯体0.5mgをできるだけ1ヶ所にまとまるようにピンセットで培地表面に乗せた。また、不溶性の金属錯体で被覆した絹織物は5mm角にハサミで切断して粉末状金属錯体と同様に抗菌実験を行った。これらを20~25℃に保ち、所定の経過時間毎に検定試料付近の培地での菌増殖阻害程度を下記の判定基準により4段階で評価した。

【0044】
++:強い(明瞭な幅2mm以上の菌増殖阻止帯を形成)
+ :弱い(不明な阻止帯、又は幅1mm以下の明瞭な阻止帯を形成)
± :軽微(わずかに阻害が認められる)
- :抗菌活性は認められない。

【0045】
その他の病原細菌に対する抗菌活性評価:黄色ブドウ状球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P)ならびに肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae ATCC 4352)の増殖が阻止できるか否かを、繊維製品衛生加工協議会による衛生加工製品加工効果評価試験方法に基づく菌数測定法(特開平10-204776号公報参照)により評価した。同評価試験において、素材の抗菌活性は菌数の増減値差により表される。菌増殖阻害程度を下記の判定基準により2段階で評価した。

【0046】
+:増減値差が1.6以上2.0未満
-:増減値差が1.6未満
(製造例1)金属錯体を製造するため、先ず配位子を合成した。配位子の合成方法が容易に理解できるように各化合物の合成のスキームを示して以下説明する。

【0047】
化合物の合成

【0048】
【化8】
JP0003015879B1_000009t.gif【0049】(上式におけるZは、ベンジルオキシカルボニル基を示す。以下同じ。)
蒸留水50mlにエチレンジアミン6.7ml(0.10mol)及び1N-水酸化ナトリウム水溶液200ml(0.200mol)を加え、反応系を0℃に冷却した。この系にベンジルオキシカルボニルクロライド34.2ml(0.240mol)を徐々に滴下して室温に戻して21時間攪拌した。生成した白色沈殿を濾過し減圧乾燥することで白色板状結晶の化合物を32.020g(収率:98%)得た。この化合物の融点は165.7~167.0℃である。この化合物の赤外吸収(IR)スペクトル測定により得られた結果は次の通りである。

【0050】
IR(KBr、cm-1):1699、1547
化合物の合成

【0051】
【化9】
JP0003015879B1_000010t.gif【0052】化合物 28.970g(88.224mmol)を濃塩酸10.2ml(116mmol)と酢酸106mlとからなる混合溶液系に加え、110℃で1時間攪拌した。室温に戻してエーテルを900ml加えて一晩攪拌した。反応の結果生成する沈殿を濾過した後、減圧乾燥し、更にこれを250mlの蒸留水に溶解させて、ジクロロメタン200mlで未反応の化合物を2回繰り返して抽出した後、2N-水酸化ナトリウムを加えてpH9~10に保ち、ジクロロメタンで抽出し、淡い黄色のオイル状の化合物([2-(N-ベンジルオキシカルボニルアミノ)エチル]アミン)15.577g(収率:91%)を得た。この化合物のIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0053】
IR(Nujol、cm-1):3320、1700
化合物の合成

【0054】
【化10】
JP0003015879B1_000011t.gif【0055】(上式におけるMeはメチル基を示す。以下同じ。)
氷-塩化ナトリウム混合浴を用いて-15℃に冷却したメタノール24mlに塩化チオニル4.83ml(61.5mmol)を滴下した。滴下後、-15℃で15分間攪拌して2,6-ピリジンジカルボン酸3.000g(18.00mmol)を加え24時間還流した。室温に戻した後、メタノールを減圧留去し、残渣を酢酸エチル90mlに溶かして飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mlで3回繰り返し洗い、更に蒸留水30mlで3回洗浄し無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。酢酸エチルを減圧留去し、白色結晶の化合物(メチル 2,6-ピリジンジカルボキシレート)2.108g(収率:60%)を得た。この化合物の融点は123.4~123.6℃であり、そのIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0056】
IR(KBr、cm-1):1584、1009
化合物の合成

【0057】
【化11】
JP0003015879B1_000012t.gif【0058】化合物 2.360g(12.09mmol)を無水メタノール100mlに溶解し、氷浴中で攪拌しながら水素化ホウ素ナトリウム0.594g(15.7mmol)を3回に分けて加え、室温に戻して30分間攪拌した。1N-塩酸を12ml加えてpH6~7とし、反応を止めた。メタノールを減圧留去し、酢酸エチルとジクロロメタンとの比率が1:9から成る混合溶媒を展開溶媒に用いて、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(和光純薬工業株式会社製、商品名:Wako Gel C-200)で精製した。得られた油状物にヘキサンを加えて結晶化させることにより白色結晶の化合物(メチル 6-ヒドロキシメチル-2-ピリジンカルボキシレート)1.856g(収率:92%)を得た。この化合物の融点は87.3~87.7℃であり、そのIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0059】
IR(KBr、cm-1):3288(-OH)、1745、1009
化合物の合成

【0060】
【化12】
JP0003015879B1_000013t.gif【0061】無水ジクロロメタン46mlに室温でオキザリルクロリド3.4ml(39.8mmol)を滴下した。ドライアイス-エタノール浴を用いて約-30℃に冷却し、無水ジメチルスルホキシド4.72ml(89.4mmol)を5分間で徐々に滴下した。滴下後、約-30℃で15分間攪拌し、続いて約-60℃とした。化合物 3.122g(18.68mmol)を無水ジクロロメタン32mlに溶解し、5分間で滴下した。約-60℃で30分間攪拌した後、無水トリエチルアミン16.32ml(117.3mmol)を徐々に滴下してから室温に戻した。蒸留水100mlを加え、ジクロロメタン200mlで5回繰り返して抽出し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。ジクロロメタンを減圧留去し、酢酸エチルとジクロロメタンとが1:1から成る混合溶媒を展開溶媒に用いて、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Wako Gel C-200)で精製し、黄色結晶の化合物(メチル 6-ホルミルピリジン 2-カルボキシレート)3.049g(収率:99%)を得た。この化合物の融点は、86.7~87.7℃であり、そのNMR及びIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0062】
1H-NMR(CDCl3/TMS):δ=4.08(3H、-COOCH3、s)、8.06~8.40(3H、Pyr、m)、10.21(1H、HO、s)
IR(KBr、cm-1):1718、1321
化合物の合成

【0063】
【化13】
JP0003015879B1_000014t.gif【0064】化合物 200mg(1.21mmol)、化合物 560mg(2.88mmol及び強熱乾燥した粉末の4Aモレキュラーシブス2gを無水アセトニトリル10mlに加えて窒素雰囲気下で一晩攪拌した。モレキュラーシブスをセライト濾過し、アセトニトリルを減圧留去した。残渣を無水メタノール10mlに溶解し、0℃で攪拌しながら水素化ホウ素ナトリウム55.0mg(1.45mmol)を加えて、室温に戻して2時間攪拌した。1N-酒石酸2mlを加えて反応を停止し、蒸留水10mlを加え、ジクロロメタン200mlで5回繰り返し抽出して、無水硫酸マグネシウム上で乾燥した。ジクロロメタンを減圧留去し、メタノールとジクロロメタンとの比率が1:4からなる展開溶媒を用いて、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Wako Gel C-300)で精製し、褐色透明なオイル状の化合物(メチル({N-[2-ベンジルオキシカルボニルアミノ)エチル]アミノ}メチル)ピリジン-2-カルボキシレート)265mg(収率:64%)を得た。

【0065】
化合物の合成

【0066】
【化14】
JP0003015879B1_000015t.gif【0067】化合物 265mg(0.772mmol)をジクロロメタン5mlに溶解し、これに4N-水酸化ナトリウム0.270ml(1.08mmol)を蒸留水5mlに溶解した溶液を加えた。0℃で攪拌しながら、ベンジルオキシカルボニルクロライド0.154ml(1.08mmol)をジクロロメタンに溶解した溶液を加えた。4N-水酸化ナトリウムでpH9~10に保ちながら室温に戻して3時間攪拌した。ジクロロメタン30mlで5回繰り返して抽出し、無水硫酸マグネシウム存在下で乾燥し、溶媒を減圧留去し、残渣をイソプロパノールで再結晶化し、白色結晶の化合物(メチル ({N-[2-ベンジルオキシカルボニルアミノ)エチル]-N-ベンジルオキシカルボニルアミノ}メチル)ピリジン-2-カルボキシレート)291mg(収率:79%)を得た。この化合物の融点は86.2~86.6℃であり、そのNMR及びIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0068】
1H-NMR(CDCl3/TMS):δ=3.41~3.68(4H、-N-CH2CH2-N-、m)、3.85(3H、-COOCH3、s)、4.75(2H、Pyr-CH2-、s)、4.98~5.12(4H、-Ar-CH2-O-、-Ar-CH2-O-、m)、7.30(5H、Ar、s)、7.31(5H、Ar、s)、7.63~8.05(3H、Pyr、m)
IR(KBr、cm-1):1723、1712、1509(-CONH)、1262、1138
化合物の合成

【0069】
【化15】
JP0003015879B1_000016t.gif【0070】(上式におけるDPPAは、ジフェニルホスホリルアジドを意味する。)
化合物 480mg(1.01mmol)をテトラヒドロフラン8mlに溶解し、0.1N-水酸化リチウム水溶液15mlを加えて0℃で2時間攪拌した。蒸留水を15ml加えてテトラヒドロフランを減圧留去した後、10%クエン酸でpHを3~4とし、ジクロロメタン60mlで6回抽出して無水硫酸マグネシウム存在下で乾燥した。続いて、ジクロロメタンを減圧留去しカルボン酸体を得た(これは特に精製することなく次の反応に用いた)。カルボン酸体及びヒスチジンメチルエステル・2塩酸塩362mg(1.50mmol)を無水ジメチルホルムアミド3mlに溶解し、0℃で攪拌した。ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)323μl(1.50mmol)を無水ジメチルホルムアミド3mlに溶解して加え、10分後、無水トリエチルアミン627μl(4.50mmol)を無水ジメチルホルムアミド3mlに溶解した溶液を10分間で徐々に加えた。0℃で3時間、室温で2日間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、酢酸エチル200mlを加え、5%-炭酸水素ナトリウム20mlで2回繰り返し、さらに蒸留水20mlで2回繰り返し、引き続き飽和食塩水20mlで1回洗浄して、無水硫酸マグネシウム存在下で乾燥した。酢酸エチルを減圧留去し、展開溶媒としてメタノールとジクロロメタンとの比率が2:13である混合溶媒を用いて、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Wako Gel C-300)で精製し、透明なオイル状物質

【0071】
【外23】
JP0003015879B1_000017t.gif【0072】615mg(収率:100%)を得た。この化合物のNMR測定により得られた結果は次の通りである。

【0073】
1H-NMR(CDCl3/TMS):δ=3.22~3.43(4H、-N-CH2CH2-N-、m)、3.52(2H、-CH2-Im、t)、3.74(3H、-COOCH3、s)、4.95~5.10(4H、-Ar-CH2-O-、-Ar-CH2-O-、m)、4.71(2H、Pyr-CH2-N-、s)、4.26~4.35(1H、-CH-、dd)、7.33~7.40(12H、ArArIm、m)、7.46~8.10(3H、Pyr、m)
化合物の合成

【0074】
【化16】
JP0003015879B1_000018t.gif【0075】氷-NaCl浴を用いて-15℃としたメタノール16mlに塩化チオニル3.56ml(48.8mmol)を滴下した。滴下後、-15℃で15分間攪拌してβ-アラニン2.00g(22.4mmol)を加え、24時間還流した。室温に戻した後、氷浴で0℃とし、アンモニアガスを3回に分けて7時間バブリングした。メタノールを減圧留去し、残渣をイオン交換樹脂(DOWEX,AG-1-2X)により精製し、透明なオイル状物質(3-アミノ プロピオンアミド)1.973gを等量的に得た。この化合物のNMR及びIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0076】
1H-NMR(D2O/TMS):δ=2.72(2H、-CH2-CO-、m)、3.23~3.31(2H、-CH2-N-、m)
IR(Nujol、cm-1):1683、1673、1668、1651、1557
化合物10の合成

【0077】
【化17】
JP0003015879B1_000019t.gif【0078】化合物 580mg(0.944mmol)をテトラヒドロフラン5mlに溶解し、これに0.1N-水酸化リチウム水溶液15mlを加えて0℃で2時間攪拌した。蒸留水を7.5ml加えた後、テトラヒドロフランを減圧留去し、次いで10%クエン酸でpHを3~4とし、ジクロロメタン60mlで6回繰り返し抽出して、無水硫酸マグネシウム存在下で乾燥した。続いて、ジクロロメタンを減圧留去し、カルボン酸体を得た(これは特に精製することなく次の反応に用いた)。カルボン酸体及び化合物 119mg(1.35mmol)を無水ジメチルホルムアミド3mlに溶解して0℃で攪拌した。ジフェニルホスホリルアジド291μl(1.35mmol)を無水ジメチルホルムアミド3mlに溶解して加え、10分後、無水トリエチルアミン188μl(1.35mmol)を無水ジメチルホルムアミド3mlに溶解した溶液を10分間で徐々に加えた。0℃で3時間、室温で2日間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、酢酸エチル200mlを加え、5%-炭酸水素ナトリウム水溶液20mlで2回繰り返し、蒸留水20mlで2回繰り返し、飽和食塩水20mlで1回洗浄して、無水硫酸マグネシウム存在下で乾燥した。このとき生じる白色結晶の化合物10

【0079】
【外24】
JP0003015879B1_000020t.gif【0080】530mgを濾取した(収率:84%)。この化合物の融点は167.6~168.5℃であり、そのNMR及びIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0081】
1H-NMR(DMSO/TMS):δ=2.18(2H、-CH2-CO、t)、2.93~3.52(8H、-N-CH2CH2-N-、-CH2-Im、-CH2-NHCO-、m)、4.60(2H、Pyr-CH2-N-、s)、4.83(1H、-CH-、t)、4.99~5.10(4H、Ar-CH2-O、Ar-CH2-O-、m)、6.83(1H、Im(5)、s)、7.22~7.45(11H、ArPyr(5)、m)、7.53(1H、Im(2)、m)、7.88~7.96(2H、Pyr(3、4)、m)
IR(KBr、cm-1):3296、1700、1686、1672、1653、1559、1543、1526、1437、1262、695、670
化合物11の合成

【0082】
【化18】
JP0003015879B1_000021t.gif【0083】化合物10 160mg(0.239mmol)をメタノール:水:ギ酸=70:29:1の混合溶媒10mlに溶解し、パラジウムカーボン24mgを加えて、水素雰囲気下、室温で3時間攪拌した。パラジウムカーボンを綿栓濾過し、ギ酸をアンモニアで中和した後、濾液を減圧留去した。ジクロロメタン:メタノール:20%アンモニア水との比率が4:1:0.25からなる展開溶媒を用いて、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(Wako Gel C-300)で精製し、更に、Fuji Davison Chemical社製、NH-シリカゲル(商品名、DM1020 200M,MeOH)で精製し、白色結晶の化合物

【0084】
【外25】
JP0003015879B1_000022t.gif【0085】96mgを等量的に得た。

【0086】
次いで、かくして得られたBLMモデル化合物11 96mg(0.234mmol)をメタノールに溶解させ、氷浴中で60%過塩素酸(77μl/0.286mmol)-メタノール溶液(5ml)を滴下した。溶媒を減圧留去後、イソプロパノールで再結晶化を行い、VI-aの3過塩素酸塩157mgを得た(収率:94%)。この化合物の融点は146.0~148.3℃であり、そのNMR、IR、旋光度測定により得られた結果は次の通りである。

【0087】
1H-NMR(D2O/TMS):δ=2.44(2H、-CH2-CO、t)、2.98~3.24(6H、-N-CH2CH2-N-、-CH2-NHCO-、m)、3.37~3.54(4H、-CH2-Im-、CH2-CONH2-、m)、4.07(2H、Pyr-CH2-N、s)、4.79(1H、-CH、t)、7.02(1H、Im(5)、s)、7.62(1H、Pyr(5)、d)、7.74(1H、Im(2)、s)、7.92~8.05(1H、Pyr(3、4)、m)
IR(KBr、cm-1):3295、2923、1673、1651、1644、1567、1538、1461、1455、1236、638。

【0088】
[α]D20=+5.6(C0.25、MeOH:H2O=4:1)
(製造例2)製造例1の化合物の代わりにNH2CH2CH2CH3(プロピルアミン)、NH2CH2CH2C(O)NHC(CH3)3(置換カルバモイル)、又はNH2CH2CH2NHZ(ただし、Zは既知の保護基である)を用いて、製造例1記載の化合物10及び化合物11の合成手順に従って対応する各BLMモデル化合物15、16、17を製造した。これら化合物の融点(但し、化合物17については結晶でなかったので、明確な融点は得られず)、NMR、IR、旋光度、MS測定により得られた結果は次の通りである。

【0089】
化合物15

【0090】
【化19】
JP0003015879B1_000023t.gif【0091】融点:126.1~126.8℃
1H-NMR(D2O/TMS):δ=0.82(3H、-CH3、t)、1.37~1.54(2H、-CH2CH2-CH3、m)、2.78~3.01(4H、-N-CH2CH2-N-、m)、3.06~3.30(4H、-CH2-Im、-CH2-NHCO-、m)、4.00(2H、Pyr-CH2-N-、s)、4.78(1H、-CH-、t)、7.01(1H、Im(5)、s)、7.60(1H、Pyr(5)、d)、7.74(1H、Im(2)、s)、7.88~8.02(1H、Pyr(3、4)、m)
IR(KBr、cm-1):3366、1653、1560、1542、1458、766、624、406
[α]D20=+11.9(C0.25、MeOH)
MS:373(M+
化合物16

【0092】
【化20】
JP0003015879B1_000024t.gif【0093】融点:126.0~128.8℃
1H-NMR(CDCl3/TMS):δ=1.29(9H、-C(CH3)3、s)、2.27~2.36(2H、-CH2-CO-、m)、2.53(1H、-NH2、b)、2.73~2.97(2H、-CH2-NHCO-、m)、2.73~2.97(4H、-N-CH22-N-、m)、3.10~3.20(2H、-CH2-Im、m)、3.31~3.77(2H、-CH2-NHCO、m)、3.97(2H、Pyr-CH2-N、d)、4.84(1H、-CH-、t)、6.91(1H、Im(5)、s)、7.40(1H、Pyr(5)、d)、7.56(1H、Im(2)、s)、7.77~7.80(1H、Pyr(4)、m)、8.01~8.05(1H、Pyr(3)、m)
IR(KBr、cm-1):3421、1683、1653、1646、1540、1523,1522、1457、1225、668
[α]D20=+10.4(C0.25、MeOH)
MS:458(M+
化合物17

【0094】
【化21】
JP0003015879B1_000025t.gif【0095】1H-NMR(D2O/TMS):δ=2.45~2.71(6H、-CONH-CH2CH2-NH2、-NH-CH2-CH2-NH2、m)、3.08~3.18(4H、-CH2-Im、-CONH-CH2-CH2-、m)、3.81(2H、Pyr-CH2-N-、s)、4.62(1H、-CH-、t)、6.88(1H、Im(5H)、s)、7.45(1H、Pyr(5)、dd)、7.58(1H、Im(2)、s)、7.73~7.85(1H、Pyr(3、4)、m)
IR(KBr、cm-1):3420、1700、1684、1653、1637、1560、1542、1523、670
[α]D20=+18.0(C0.25、MeOH)
MS:374(M+
なお、上記プロピルアミン、置換カルバモイル、保護されたエチレンジアミンの代わりにNH2C(CH3)3 (t-ブチルアミン)を用い、上記と同様の方法でBLMモデル化合物を製造することができた。

【0096】
(実施例1)鉄錯体の製造
製造例1で得た化合物VI-a(配位子)及び硫酸第1鉄・7水和物をアルゴン脱気した水500μlに溶かし、アルゴン雰囲気下で攪拌した。得られた赤茶色の溶液にアルゴン脱気したアセトンを3.5ml加え攪拌した。デカンテーションにより溶媒を除去後、再びアセトンを加え、デカンテーションにより溶媒を除去した。生成した赤い沈殿を真空乾燥して鉄(II)錯体を得た。この錯体のIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0097】
IR(Nujol、cm-1):1649、1603、1670(w)、1651(s)、1635(w)、1617(w)、1557(s)、1540(s)、1521(s)、1507(s)。

【0098】
鉄(III)錯体は、鉄(II)錯体を生成させたときの赤茶色の溶液に酸素を吹き込み、以下同様の操作を行うことによって得られた。

【0099】
(実施例2)銅錯体の製造
製造例1で得た化合物VI-a(配位子)及び酢酸銅・1水和物をメタノール18mlに溶解させ、室温で3時間攪拌した。これに過塩素酸リチウム・3水和物のメタノール(5ml)溶液を加えた。得られた溶液をガラスフィルターで濾過後、4℃で14日間かけて再結晶化した。生成した銅錯体を濾取した。

【0100】
この錯体のIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0101】
IR(Nujol、cm-1):1657、1651(s)、1645(s)、1615、1583(s)、1531(s)、1080(s)。

【0102】
また、この錯体の元素分析値は次の通りである。計算値は、金属錯体を(配位子)・Cu(ClO4・3/2H2O)として求めた。

【0103】
JP0003015879B1_000026t.gif(実施例3)コバルト錯体の製造
製造例1で得た化合物VI-a(配位子)(350mg/0.87mmol)とNa3[Co(CO3)3]・3H2O(261mg/0.73mmol)とを25℃、5mlの水に溶解させ、3時間攪拌した。0.5Nテトラフルオロホウ酸で2時間かけてpH5に調整して深赤色の溶液を得た。この溶液を SP-C50-120 Sephadex を充填したカラム(2.5×25cm)に重層し展開した。カラムには、溶出速度の速い成分から不溶解成分側に向かって3種類のバンド:バンド1(コバルト錯体の色調:黄色~オレンジ色)、バンド2(赤茶色)、バンド3(赤茶色)が現れた。各バンドの構成成分を別々に集め、エバポレーターで減圧乾燥し、過剰のKClはメタノールで2回繰り返し錯体を抽出することで除去した。コバルト錯体を含む抽出液の溶媒は、エバポレーターで留去し、残渣にエタノールとメタノールとを等量混合した溶媒を加えて不溶解物を除去した。

【0104】
バンド2の緑色固体を2mlの水に溶解させて得られるオレンジ-茶色の溶液を、2mlの水に硝酸銀(192mg/1.12mmol)を含有する溶液に加え、白色の不溶解物を析出せしめた。この溶液を50℃で10分間激しく攪拌し、沈殿した塩化銀を濾過した。オレンジの溶液は室温で3時間放置し、再度の濾過により塩化銀を除去した。濾液をエバポレーターで減圧乾燥することにより、コバルト錯体を得た。また、バンド3の赤茶色固体についても同様の操作を行い、コバルト錯体を精製した。このようにして、バンド2、バンド3から得られるコバルト錯体をコバルト2、コバルト3と以降略記することにする。カラムクロマト法で分別できる3種類のコバルト錯体はいずれも本発明で利用できるが、単離収率が比較的高いコバルト2、コバルト3をコバルト錯体として利用することが好都合である。バンドが分離したのは、コバルト錯体に結合する水、塩素イオン、NO3の違いにより移動度が変化したことが原因と思われる。

【0105】
得られたコバルト錯体のNMR及びIR測定により得られた結果は次の通りである。

【0106】
1H-NMR(D2O/TMS):δ=2.07~2.16(m)、2.30~2.37(m)、2.58~2.61(d)、2.66~2.69(d)、2.95~3.65(m)、4.57(s)、4.65~4.69(m)、5.04~5.32(m)、7.29(s)、7.63~8.13(m)、8.27~8.96(m)、8.52~8.56(d)
IR(Nujol、cm-1):1559(s)、1624(s)、1599(s)、1377
なお、製造例2で得られた各化合物についても、上記実施例1~3と同様にしてそれぞれの鉄、銅、コバルト錯体が製造できた。

【0107】
(実施例4)実施例1及び2で得られた多種類の金属錯体の抗菌性を前記のようにして評価した。得られた結果を表1に示す。ただし、培養容器に黒い布をかけて光を遮断した状態で抗菌性評価実験を行った。また、実施例3で得られたコバルト3のトマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす阻害効果を評価した。ただし、コバルト3の抗菌活性の評価は、27Wの蛍光灯下で30cmの明るい位置に培養容器を置いて行った。試料名としては便宜的にコバルト3明と略記した。得られた結果を表1に示す。

【0108】
(表1)
試 料 トマトかいよう病細菌 白紋羽病 炭ソ病
銅2価錯体 ± ± +
鉄2価錯体 ++ - -
コバルト3明 ++
対照区 - - -
表1から明らかなように、銅錯体は抗菌活性を示す。鉄2価は3価に酸化されるので、この際に活性酸素を出し、これが抗菌性に関与し、試料重量が多いときはトマトかいよう病細菌を殺菌する働きを示した。

【0109】
また、実施例1~3と同様にして得られた製造例2の各化合物の鉄、銅、コバルト錯体について、上記と同様にトマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす阻害効果を評価したところ、いずれの試料も抗菌活性(判定基準:±)を示すことが確かめられた。

【0110】
黄色ブドウ状球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P)ならびに肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae ATCC 4352)の増殖に及ぼす実施例1の鉄2価錯体の阻害効果を前記のようにして評価した。得られた結果を表2示す。

【0111】
(表2)
試 料 黄色ブドウ状球菌 肺炎桿菌
鉄2価錯体 + +
対照区 - -
表2から明らかなように、鉄2価錯体は、黄色ブドウ状球菌ならびに肺炎桿菌の増殖を弱いながらも阻害する。

【0112】
(実施例5)2.5gの家蚕由来の絹織物を55℃の8.5M臭化リチウム水溶液20ml中で完全に溶解させた後、この水溶液をセルロース製透析膜に入れて、5℃で5日間蒸留水と置換することにより、不純物を除去して、純粋な絹フィブロイン水溶液を調製した。かくして調製された絹フィブロイン水溶液に絶乾濃度が0.3%となるように蒸留水を加え、絹フィブロイン水溶液の原液を調製した。

【0113】
実施例2で得た0.30gの銅(II)錯体を5mlの蒸留水に加えて良く溶解し、銅(II)錯体水溶液を調製した。上記の5mlの0.3wt%絹フィブロイン水溶液に1mlの銅(II)錯体水溶液を加え、ガラス棒で静かに攪拌した後、この水溶液をポリエチレンフィルム膜上に拡げて、25℃で8時間かけて水分を蒸発させ、銅(II)錯体を含有し機械的強度に優れた絹フィブロイン膜を製造した。

【0114】
次に、銅(II)錯体を含んだ絹フィブロイン水溶液に希薄な酢酸水溶液を少量づつ添加し、水溶液のpHを3.5に調整すると、水溶液が次第に凝固した。これを5℃の冷蔵庫に1昼夜入れたものを-30℃で一旦凍結させ、しかる後、凍結乾燥器により乾燥させて、銅(II)錯体を含んだ絹フィブロインの粉末を製造した。

【0115】
実施例4と同様の方法でトマトかいよう病細菌の増殖阻害に及ぼす銅(II)錯体を含んだ絹フィブロイン膜ならびに絹フィブロイン粉末の影響を評価したところ、同様にトマトかいよう病細菌の増殖を阻止することが確かめられた。

【0116】
(実施例6)実施例5で用いた銅(II)錯体水溶液に14目付絹羽二重(以下、絹織物と略記する)を25℃で30分浸漬処理した後、取り出して20℃、65%R.H.の標準状態で乾燥させた。こうして乾燥した絹織物を25℃のアセトン溶液に30分間浸漬して、水不溶の銅(II)錯体の薄膜で被覆した絹織物を調製した。実施例4と同様の方法でトマトかいよう病細菌の増殖阻害に及ぼす影響を評価したところ、抗菌活性(判定基準:±)を示すことが確かめられた。

【0117】
(実施例7)製造例1で合成した配位子(VI-a)0.3gを蒸留水にいれ、pH緩衝液でpHを7.3に調整し溶解させた。実施例6で用いた絹織物をこの配位子水溶液に22℃で、30分間浸漬した後、取り出し、20℃、65%R.H.の標準状態で乾燥させた。次に、この絹織物を22℃の硫酸銅水溶液に浸漬し、30分後に取り出した。この反応により銅イオンが配位子と選択的に結合し、銅錯体が絹織物表面に確実に被覆できた。このままだと、銅錯体は水溶性であるため、必要によってアセトン溶液にこの試料を簡単に浸漬するだけで、絹織物表面を覆った金属錯体が水不溶性となった試料ができた。実施例4と同様の方法でトマトかいよう病細菌の増殖阻害に及ぼすこれら水溶性および水不溶性試料の影響を評価したところ、両者とも抗菌活性(判定基準:±)を示すことが確かめられた。

【0118】
(実施例8)実施例7で用いた硫酸銅の代わりに酢酸銅を用い、実施例7の方法を繰り返した。その結果、酢酸銅水溶液に浸漬した場合も、銅錯体が絹織物表面を覆った試料が得られた。

【0119】
(実施例9)実施例7で用いた硫酸銅の代わりに硫酸鉄を用い、実施例7の方法を繰り返した。その結果、硫酸鉄の水溶液に浸漬した場合も、絹織物表面を鉄錯体が覆った試料が得られた。

【0120】
(実施例10)絹フィブロイン繊維を60℃、8M臭化リチウム水溶液で完全に溶解し、セルロース製の透析膜中で純水と5日間置換しながら透析して絹フィブロイン水溶液を調製した。このようにして調製した0.5%絹フィブロイン水溶液5mlに実施例2で合成した200mgの銅金属錯体を添加し、静かに攪拌した後、この水溶液をポリエチレン膜上に拡げて蒸発乾固させ、銅金属錯体を含んだ絹フィブロイン膜を製造した。この絹フィブロイン膜を50重量%のメタノール水溶液に室温で10分間浸漬したのち、室温で乾燥させ、水不溶性の絹フィブロイン膜を製造した。実施例4と同様の方法でトマトかいよう病細菌の増殖阻害に及ぼすこれら水溶性ならびに水不溶性の絹フィブロイン膜の影響を評価したところ、両者とも抗菌活性(判定基準:±)を示すことが確かめられた。

【0121】
(実施例11)実施例10と同様の方法で、銅金属錯体の代わりに実施例1で合成した鉄金属錯体を添加して、鉄金属錯体を含む抗菌性機能を持つ絹フィブロイン膜を製造した。実施例4と同様の方法でトマトかいよう病細菌の増殖阻害に及ぼすこの絹フィブロイン膜の影響を評価したところ、抗菌活性(判定基準:±)を示すことが確かめられた。

【0122】
【発明の効果】本発明の金属錯体は、配位子に金属が入り込んだ立体配位をした化合物であり、優れた抗菌性を有する。また、有機金属錯体は水溶性であるため、当該金属水溶液にプラスチック成型品等の物品を浸漬したり、この水溶液を各種物品にスプレーすると、有効成分が物品表面に極薄く被覆され、持続性が高くかつ安定性に富んだ抗菌性物品が調製できる。

【0123】
本発明の抗菌剤は、抗菌性金属を含み、かつ錯体となっているので、抗菌性成分が溶出したり、揮発するということもなく、従来の有機系抗菌剤にはない優れた特徴を有している。また、抗菌性成分は物品表面に強固に付着しているので、処理された物品に人が触れても抗菌性成分が脱離しない。

【0124】
本発明の抗菌剤は、例えばスプレーの形態で適用できるので、繊維、プラスチック、木材、紙、金属、ガラス、セラミック等あらゆる物品に容易に抗菌性を付与することが可能である。

【0125】
鉄二価錯体は鉄三価錯体より優れた抗菌力を持つ。分子状酸素により鉄二価錯体は、容易に酸化され鉄三価錯体となり、この過程で活性酸素であるヒドロキシラジカルを生成する性質を持っているため、これが病原細菌の増殖を効果的に阻害する。鉄二価錯体が酸化されて三価になったものは、一般的な還元剤により再び鉄二価錯体に還元できるので病原細菌の増殖を抑制する素材に繰り返し変換して利用することが可能である。鉄錯体では酸素分子と還元剤の存在下で酸化還元のサイクルが成り立つからである。ヒドロキシラジカルは非常に強い酸化剤であり、強い殺菌力を有し、殺菌以外に有機物の酸化分解も可能であるため、消臭などの効果も発揮できる。

【0126】
更に、鉄錯体はキラルであり、オレフィンを酸化する際に不斉誘起が起こる。つまり、オレフィンにはトランス体とシス体とがあり、通常の酸化反応では酸化生成物はラセミ体となるが、この鉄錯体ではその鉄イオン周囲の環境がキラルであるために、エナンチオ選択性を示し、酸化生成物であるエポキシドは立体配位を保持して生成させることができる。

【0127】
不斉炭素を持つ化合物には、d体、l体が、また2重結合を持つアルケンにはトランス体、シス体などの異性体が存在し、この違いにより生理活性や機能特性が異なる。医薬品として利用するには、トランス体、シス体を厳密に単離しなくてはならないが、通常、各種の基質を一般的な酸化剤で酸化するとラセミ体となってしまう。しかし、本発明の鉄錯体では、構造式からも明らかなように鉄イオン周囲の環境がキラルであるためにエナンチオ選択性を示すので、酸素が立体保持して付加したオキシドが生成できる。このように本発明の鉄錯体を用いることで、ある特定の基質を酸化する際に生ずる立体配置を制御できるという便利さがある。

【0128】
本発明では、抗菌性金属イオンが配位基を有する配位化合物と化学的に配位するので、従来の抗菌物質で問題となった金属イオンの溶出がなく、また金属イオンの徐放速度の制御が可能となり、生体系や環境系を汚染する危険性がない。また、ある金属を配位した有機金属錯体を複数用いることで各種の金属イオンを同一材料表面に固定化して同時に担持できるので、抗菌スペクトルを一層制御、拡大することが可能である。