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明細書 :植物病害の防除剤及び防除方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第2955655号 (P2955655)
公開番号 特開平11-246324 (P1999-246324A)
登録日 平成11年7月23日(1999.7.23)
発行日 平成11年10月4日(1999.10.4)
公開日 平成11年9月14日(1999.9.14)
発明の名称または考案の名称 植物病害の防除剤及び防除方法
国際特許分類 A01N 63/02      
C12N  1/20      
A01N 25/02      
C12R  1:07      
FI A01N 63/02 E
C12N 1/20
A01N 25/02
請求項の数または発明の数 6
全頁数 6
出願番号 特願平10-054781 (P1998-054781)
出願日 平成10年3月6日(1998.3.6)
審査請求日 平成10年3月6日(1998.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】吉田 重信
【氏名】白田 昭
【氏名】塚本 貴敬
【氏名】村上 理都子
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外2名)
審査官 【審査官】安藤 達也
参考文献・文献 PHYTOPATHOLOGY,No.86(SUPPL.)1996,pS54 CAN.J.MICROBIOL.,Vol.35,1989,p794-800
調査した分野 A01N 63/00
特許請求の範囲 【請求項1】
バチルス・アミロリクエファシエンスに属し、植物病原菌の生育を抑制する物質を生産する微生物の培養産物を有効成分として含有することを特徴とする植物病害の防除剤。

【請求項2】
バチルス・アミロリクエファシエンスに属する微生物が、バチルス・アミロリクエファシエンスRC-2株であることを特徴とする請求項1記載の植物病害の防除剤。

【請求項3】
植物病害が、炭疽病又は白紋羽病であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物病害の防除剤。

【請求項4】
植物病害が、コレトトリカム・デマティウム又はロゼリニア・ネカトリクスに起因するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物病害の防除剤。

【請求項5】
植物病害が、クワ炭疽病又はクワ白紋羽病であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の植物病害の防除剤。

【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の植物病害の防除剤を植物病原菌の宿主となる植物又はその周辺土壌に散布又は塗布することを特徴とする植物病害の防除方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)に属する微生物が生産する物質を有効成分として含有する植物病害の防除剤、及びそれを利用した植物病害の防除方法に関する。

【0002】
【従来の技術】作物生産における病害虫防除には、農薬を主とした人工の化学物質が用いられ、多大な効果を上げてきた。その反面、これらの長期にわたる連用により、耕地生態系の単純化や環境への影響が懸念されるに至っている。近年、このような背景から、化学物質に代わる新たな防除技術の開発が世界的にも志向されており、生産阻害要因の強制排除という従来の技術目標も生態系保全を目的とした総合管理技術へと変換することが強く期待されている。そうした中で有望視されているのが、自然界の微生物を用いた防除法、すなわち生物農薬による防除技術である。これらの中には、すでに開発・製品化されているものもあるが、その数は未だ少なく、さらに、より効果の高い防除剤及び防除法が切望されている。

【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような現状に鑑み、各種植物病原糸状菌、とくに桑の糸状菌病害を安全に防除する手段を提供することを目的とする。

【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、桑葉より単離した細菌が各種植物病原糸状菌の生育を抑制し、優れた防除効果を示すことを見い出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、バチルス・アミロリクエファシエンスに属し、植物病原菌の生育を抑制する物質を生産する微生物の培養産物を有効成分として含有することを特徴とする植物病害の防除剤である。また、本発明は、上記記載の植物病害の防除剤を植物病原菌の宿主となる植物又はその周辺土壌に散布又は塗布することを特徴とする植物病害の防除方法である。

【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の植物病害防除剤は、バチルス・アミロリクエファシエンスに属し、植物病原菌の生育を抑制する物質を生産する微生物を培養し、その培養産物を採取し、必要に応じて製剤化することにより製造できる。バチルス・アミロリクエファシエンスに属する微生物としては、植物病原菌の生育を抑制する物質を生産するものであれば特に限定されないが、バチルス・アミロリクエファシエンスRC-2株を使用するのが好ましい。

【0006】
本発明に使用する微生物は、以下のようにして分離することができる。まず、圃場より採取した桑葉の組織磨砕希釈液を、常法に従い調製する。希釈液を、ペトリ皿に流し込んだジャガイモ・スクロース・寒天培地(PSA)及びジャガイモ半合成培地上に塗抹後、40℃暗黒環境下で3日間培養する。培養後に出現したコロニーを常法により単コロニー分離を行い、得られた菌株をクワ炭疽病菌コレトトリカム・デマティウム(Colletotrichum dematium )の生育を阻害した菌株のみを選抜する。なお、バチルス・アミロリクエファシエンスRC-2株は工業技術院生命工学技術研究所に受託番号FERM P-16641として寄託されている(寄託日平成10年2月18日)。

【0007】
本発明に使用する微生物の培養には、特別な方法を用いる必要はなく、公知の好気性細菌と同様の方法を用いることができる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物及び必要な生育促進物質を適当に含有する培地であれば、合成培地、天然培地のいずれも用いることができる。具体的な培地を例示すると、ジャガイモ半合成培地、キングB培地、LB培地、PSA培地等を挙げることができる(なお、培地成分は実施例1及び試験例1に示した。)。培養に際しては、温度を20~35℃、好ましくは25~30℃に維持することが望ましい。以上のような条件下で1~2日程度培養を行うと、培地表面に十分な量のコロニ-が形成されてくる。

【0008】
培養産物としては、培養液をそのまま使用することもできるが、遠心分離により固形成分を除いた培養上清を使用することが好ましい。本発明の病害防除剤は、培養産物をそのまま使用してもよいが、一般には農薬に使用可能な固体担体または液体担体と混合して、液剤、水和剤、粉剤、粒剤、カプセル剤等の製剤形態に調製して使用される。

【0009】
本発明の病害防除剤は、培養上清などの培養産物を、防除対象となる病原菌の宿主となる植物体に直接またはその土壌、栽培施設等に塗布または散布して使用する。本発明の防除対象となる病害としては、クワもしくはクワ以外の植物の炭疽病及び白紋羽病、クワ胴枯病、イネごま葉枯病、イネいもち病等を挙げることができる。防除対象となる病原菌としては、クワ炭疽病の原因菌であるコレトトリカム・デマティウムやクワ白紋羽病の原因菌であるロゼリニア・ネカトリクスなどを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。

【0010】
【実施例】以下、本発明を実施例、試験例を挙げて具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕 細菌の分離
(1)分離源:圃場より採取した桑葉を用いた。
(2)分離培地:ジャガイモ半合成培地(ジャガイモ塊茎300gの煎汁1L、Ca(No3)2・4H2O 0.5g、Na2HPO4・12H2O 2g、ペプトン5g、スクロース15g、寒天18g)及びPSA(ジャガイモ塊茎200gの煎汁1L、スクロース20g、寒天20g)を直径9cmのペトリ皿に流し込んで平板としたものを用いた。
(3)細菌の分離:上記の平板培地に、常法に従い調製した桑葉の磨砕希釈液を塗抹し、多くの細菌及び糸状菌の生育は困難とされる比較的高温の40℃で、3日間暗黒環境下で培養することによりコロニーを形成させた。

【0011】
(4)細菌の選抜:培地上に形成されたコロニーから、常法により各種細菌を単コロニーとして分離した。得られた各分離菌株をクワ炭疽病菌コレトトリカム・デマティウム等と共に対峙培養を行い、コレトトリカム・デマティウムの生育を阻害した菌株のみを選抜し、次いで、クワ炭疽病の発病抑制効果を調べてより効果の高い菌株を選抜し、目的の植物病原糸状菌の生育阻害細菌を得た。
(5)細菌の同定:上記方法により分離した細菌のうち、RC-2株を植物病原糸状菌の生育阻害作用をもつ標準菌株として選抜した。この菌株は、api 50 CHB同定キット(bioMerieux社製)により、バチルス・アミロリクエファシエンスに属するものと同定された。

【0012】
〔試験例1〕 バチルス・アミロリクエファシエンスRC-2株の最適培地及び培養条件
実施例1で分離されたバチルス・アミロリクエファシエンスRC-2株(以下、単に「RC-2株」という)の、植物病原糸状菌の生育阻害活性を持つ培養上清を得るための最適培養条件について調べた。RC-2株の培養に用いる培地として、ジャガイモ・スクロース液(PS:ジャガイモ塊茎200gの煎汁1L、スクロース20g )、キングB液(KB:ポリペプトン20g、K2HPO41.5g、MgSO4・7H2O1.5g、グリセリン10ml、蒸留水1L)、LB液(LB:バクトトリプトン10g、イースト抽出物5g、NaCl10g、蒸留水1L)、0.5%ポリペプトン含有ジャガイモ・デキストロース液(0.5%PPD)及びジャガイモ半合成液の5種を用い、それぞれ各10mlを100ml容三角フラスコに入れ、本菌株を2日間振とう培養(約25℃、94rpm)した。その後各上清を回収し、ミリポアフィルター(直径0.45μm)でろ過後それぞれ20μlをPSA平板上の一方に置いた直径8mmの円形ろ紙に適下し、そのもう一方に検定菌コレトトリカム・デマティウムを移植して両者を対峙させ、数日間培養後に、ろ紙と検定菌の生育菌糸先端部との直線距離により検定菌の生育阻害程度を評価した。その結果、PS、0.5%PPD液及びジャガイモ半合成液で阻害活性がみられ、特に後2者において顕著な阻害活性がみられた(表1)。

【0013】
【表1】
JP0002955655B2_000002t.gif【0014】また、その他の培養条件としては、0.5%PPD液を培地として用いた場合、静置培養よりも振とう培養の方でより活性の強い培養上清を得ることができ、振とう程度は90rpmと130rpmとの比較では、130rpmの方でより良好な結果が得られた。培養日数については、培養温度、培地の量、及び振とう程度により異なるが、300ml容三角フラスコに50ml0.5%PPD液を入れ、25℃暗黒下130rpmの振とう条件で培養した場合、培養1日後にすでに活性はピークに達し、その後は時間の経過とともに活性は緩やかに減少した。以降の試験に用いる培養上清は、上記の培養条件で1日間培養して得られたものとする。

【0015】
〔試験例2〕 RC-2株培養上清の各種糸状菌に対する活性スペクトル
RC-2株培養上清がどの植物病原糸状菌に対し生育抑制活性を有するのかを調べた。コレトトリカム・デマティウム、コレトトリカム・アクティタム(Colletotrichum acutatum )、グロメレラ・シングラタ(Glomerella cingulata)、ロゼリニア・ネカトリクス(Rosellinia necatrix)、ダイアポルセ・ノムライ(Diaporthe nomurai)、ミロセシウム・ロリダム(Myrothecium roridum)、フザリウム・ラテリティウム(Fusarium lateritium )、バイポラリス・レルシアエ(Bipolaris leersiae)、ピリクラリア・オリザエ(Pyricularia oryzae)の9菌株を検定菌として用い、各菌株の菌叢ブロックをPSAの平板上に置床した。その置床ブロックに段階希釈したRC-2株の培養上清を10μlずつ適下し、各濃度の培養上清の各菌株の生育に与える影響を調べた。その結果、ミロセシウム・ロリダムを除いたすべての菌株において顕著な生育抑制活性を示した(表2)。

【0016】
【表2】
JP0002955655B2_000003t.gif【0017】このことはRC-2株の培養上清が、さまざまな植物病原糸状菌に対し、防除効果を有することを示している。

【0018】
〔試験例3〕 RC-2株培養上清のコレトトリカム・デマティウムによるクワ炭疽病に対する防除効果
RC-2株培養上清の植物病原糸状菌に対する実際の植物体における防除効果を、クワ炭疽病菌コレトトリカム・デマティウムに対する防除効果を例として示す。
(1)in vitro試験:温室内で管理された桑葉(品種しんいちのせ)1枚から複数の葉片を作製し、それぞれの葉面にクワ炭疽病菌コレトトリカム・デマティウムの分生子懸濁液(106個/ml)10μlを無傷滴下接種した。接種の3日前、2日前、1日前、同時及び1日後に、RC-2株の培養上清をそれぞれ筆で塗布し、培養上清による本病の防除効果を検討した。その結果、接種1日後に培養上清を塗布した葉では発病したが、その他の培養上清を塗布した葉では、顕著な発病抑制効果が見られた(表3)。

【0019】
【表3】
JP0002955655B2_000004t.gif【0020】この結果から、培養上清の塗布には治療効果は無いが、予防効果及び発病抑制効果があると判断された。

【0021】
(2)in vivo 試験:温室内で管理された桑苗ポット(品種改良鼠返)を用い、その着生葉の葉面にクワ炭疽病菌コレトトリカム・デマティウムの分生子懸濁液(106個/ml)を染み込ませた直径8mmの円形ろ紙を無傷で置くことにより接種した。接種葉には、すでにRC-2株の培養上清が接種11日前、3日前、2日前、1日前及び同時に筆で塗布されてあり、これらの処理葉と本病原菌接種のみの対照葉との発病程度の比較により、本病の防除効果を検討した。その結果、いずれの培養上清処理葉においても顕著な発病抑制効果が見られた(表4)。

【0022】
【表4】
JP0002955655B2_000005t.gif【0023】以上これらの結果は、RC-2株の培養上清が、実際の植物体上においても、クワ炭疽病菌コレトトリカム・デマティウムに対し防除効果を有することを示している。

【0024】
〔試験例4〕RC-2株培養上清のロゼリニア・ネカトリクスによるクワ白紋羽病に対する防除効果
難防除病害として知られる、ロゼリニア・ネカトリクスによるクワ白紋羽病に対するRC-2株の培養上清の防除効果を調べた。ガラス製の管ビンに素寒天(1.8%)を10ml入れ、その上にPSAの平板で培養したロゼリニア・ネカトリクスの菌叢を培地ごと敷き詰めた。さらにその上に、発芽した桑の種子(品種カナダ産桑A)を置床し、そこに上記培養上清200μlを添加することで、RC-2株の培養上清による防除効果を調べた。その結果、対照である蒸留水及び0.5%PPD液200μl添加の場合、すべての置床した発芽種子は、本病に罹病したのに対し、RC-2株の培養上清を添加した場合では、病原菌の増殖は抑制され、発芽種子は本病に罹病することはなかった(表5)。

【0025】
【表5】
JP0002955655B2_000006t.gif【0026】このことは、RC-2株の培養上清が、ロゼリニア・ネカトリクスによるクワ白紋羽病に対し、防除効果を有することを示している。以下に製剤例を挙げる。
〔製剤例1〕(液剤)
滅菌水1ml当たりRC-2株培養上清の乾固物15~20mgを加えて混合し、液剤を調製した。
〔製剤例2〕(水和剤)
マルトース9%、クレイ1%、水90%混合液1ml当たりRC-2株培養上清の乾固物15~20mgを懸濁した。これを風乾した後、乾燥物を混合粉砕し、水和物を調製した。

【0027】
〔製剤例3〕(粉剤)
ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン14%、ホワイトカ-ボン12%、クレー74%の混合物1g当たりRC-2株培養上清の乾固物15~20mgを加えて混合した。これを乾燥後、均一に混合することにより粉剤を得た。
〔製剤例4〕(粒剤)
β-シクロデキストリン15%、デンプン2%、ベントナイト18%、炭酸カルシウム36%、水29%の混合物1g当たりRC-2株培養上清の乾固物15~20mgを加えて練った後、造粒機で、造粒し、乾燥することによって粒剤を調製した。

【0028】
〔製剤例5〕(乳剤)
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸アンモニウム18%、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル6%、リン酸トリエチル29%、リン酸トリブチル47%の混合物1g当たりRC-2株培養上清の乾固物15~20mgを加えて均一に懸濁し、乳剤を調製した。
〔製剤例6〕(カプセル剤)
アルギン酸ナトリウム0.7%、カオリン5%、グリセリン15%、水79.3%混合液1ml中にRC-2株培養上清の乾固物15~20mgを加えて均一に懸濁し、0.2モル酢酸カルシウム中に滴下してカプセル状生成物を得た。これを風乾しカプセル剤を調製した。

【0029】
【発明の効果】本発明は、植物病害の防除剤及び防除方法を提供する。本発明の病害防除剤及び防除方法は、野外の桑葉より分離され、その葉面に一時的に付着あるいは内生していると考えられる微生物の代謝産物を利用するものであり、よって環境汚染の心配が少ない。また、大量にかつ安価に生産することが可能である。従って、産業上極めて有用である。