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明細書 :修飾絹の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2987442号 (P2987442)
登録日 平成11年10月8日(1999.10.8)
発行日 平成11年12月6日(1999.12.6)
発明の名称または考案の名称 修飾絹の製造方法
国際特許分類 D06M 14/06      
FI D06M 14/06
請求項の数または発明の数 4
全頁数 6
出願番号 特願平10-293621 (P1998-293621)
出願日 平成10年10月15日(1998.10.15)
審査請求日 平成10年10月15日(1998.10.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】玉田 靖
【氏名】古薗 勉
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 欣一 (外3名)
審査官 【審査官】渕野 留香
参考文献・文献 特開 平3-45781(JP,A)
特開 平8-127967(JP,A)
特開 平7-11578(JP,A)
特開 平4-361693(JP,A)
特公 昭62-50597(JP,B2)
調査した分野 D06M 14/06 - 14/34
要約 【課題】 グラフト重合鎖の導入をコントロールでき、再現性の高いグラフト重合加工を可能とする修飾絹の製造方法の提供。
【解決手段】 絹素材を、絹と反応可能なイソシアネート基のような官能基をもつ不飽和化合物と反応せしめて不飽和基を絹素材に導入した後、この不飽和基を開始点としてビニル化合物をグラフト重合する。
特許請求の範囲 【請求項1】
絹素材を絹と反応可能なイソシアネート基をもつ不飽和化合物と反応せしめて不飽和基を絹素材に導入して、反応開始点の導入量をコントロールした後、このイソシアネート基に結合した不飽和基を開始点として、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリロイルオキシエチルフォスフェート、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリルアミド、N-イソピルアクリルアミド、および酢酸ビニルから選ばれるビニル化合物をグラフト重合して修飾絹を得ることを特徴とする修飾絹の製造方法。

【請求項2】
前記イソシアネート基をもつ不飽和化合物がメタクリロイルオキシエチルイソシアネートである請求項1記載の修飾絹の製造方法。

【請求項3】
前記グラフト重合の開始剤として、アゾ系の開始剤を使用する請求項1または2記載の修飾絹の製造方法。

【請求項4】
前記グラフト重合の開始剤として。アゾイソブチルニトリルまたは2,2'-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)ジハイドロクロライドを使用する請求項1~3のいずれかに記載の修飾絹の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、修飾絹素材の製造方法に関する。本発明の方法で製造された修飾絹素材は、衣料用素材として、人工腱や靱帯、人工血管のような医療用素材として、おむつや生理用ナプキン等の衛生材料用素材として、食料品シート等の農水産業用素材として、あるいはフィルター等の工業用素材として、広範囲な産業分野で利用できる。

【0002】
【従来の技術】絹素材は優れた力学的特性やその風合い、光沢等の性質から、古くから衣料用素材として利用されている。また、絹素材は、蚕が作る生物由来の材料であるため、その製造に関しても、また廃棄に関しても環境に優しい素材である。これらの特徴ある性質を生かして、絹素材を衣料用のみならず、コンタクトレンズ(特開平7-314569号公報)や人工血管(繊維学会誌、45、487(1989))のような医療用分野や、粉末状に加工して(特開平8-198970号公報)シルクレザー等として広い分野での利用が考えられている。しかしながら、より広い産業分野で絹素材を利用しようとする場合、絹自身のもつ性質のみでは、その利用範囲が限られる。

【0003】
そこで、各種の化合物により絹を修飾することにより、絹素材に新しい機能を付加して、より広い分野で利用するべく検討も進んでいる。例えば、絹を硫酸やクロロ硫酸で処理することにより、絹に抗血液凝固機能を付与できることが開示されている(特開平9-227402号公報)。また、絹素材の硫酸化により、絹に高吸水性と保水性を付与できることも知られている。また、絹をイオン性の化学物質で修飾することで骨結合性が付与できることも報告されている。

【0004】
ところで、従来用いられてきた修飾法としては、酸無水物等の化学修飾薬を利用した化学修飾法(Polymeric Materials,10,7728(1996))、あるいはビニル化合物と過酸化物や過硫酸化物を利用したグラフト重合加工法(Polymeric Materials,10,7734(1996))がよく知られている。しかしながら、これらの修飾絹製造方法には次のような欠点がある。

【0005】
化学修飾法の場合、酸無水物等の化学修飾試薬を用いて機能性化学物質を絹に導入するものであるが、これらの化学修飾試薬の反応点は、絹素材中のリジンやアルギニン等の反応性アミノ酸に限られる。絹素材中にはこれらの反応性アミノ酸は極めて少なく、従って、導入される機能性化学物質の量も限られ、十分にその機能を絹素材に付与できない恐れがある。これに対し、グラフト重合加工法の場合は、絹素材に過酸化物等でラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として各種の機能性基をもったビニル化合物をラジカル重合させるため、機能性化合物を比較的多く絹素材中に導入することが可能である。しかしながら、このグラフト重合加工法では、重合開始を過酸化物等による水素引き抜きによるラジカル生成に負っているため、重合開始点の数をコントロールすることは不可能である。また、グラフト重合加工の加工条件が複雑であるために、再現性等の問題点もある。また、重合反応がラジカル重合反応に限られるために、グラフトされた高分子鎖の量や分子量をコントロールすることも困難である。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、グラフト重合加工における前述の欠点を解決し、グラフト重合鎖の導入をコントロールでき、再現性の高いグラフト重合加工を可能とする修飾絹の製造方法を提供することを課題とする。

【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、絹素材をあらかじめ、絹と反応可能な官能基をもつ不飽和化合物と反応することで不飽和基を絹素材に導入し、その不飽和基を開始点としてビニル化合物をグラフト重合させることで、前述の課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。

【0008】
本発明に用いる絹素材は家蚕、野蚕、天蚕等の蚕から産生されるものであればいずれのものでもよく、その製造方法は繭からの抽出、蚕絹糸腺からの抽出等既知の如何なる方法を用いてもよい。特に、製造過程の簡便性から家蚕の繭からの調製が好ましい。用いる絹素材の形態は繊維、布、不織布、粉末、フィルム等如何なるものでも使用することができる。

【0009】
また、本発明に用いる絹と反応可能な官能基をもつ不飽和化合物としては、絹に存在する反応性アミノ酸側鎖のアミノ基、カルボキシル基、水酸基、あるいはチオール基と反応できる反応性基をもつビニル化合物であれば、いずれを用いてもよく、たとえば、イソシアネート基をもつメタクリロイルオキシエチルイソシアネート、エチレンオキサイド基をもつメタクリロイルオキシエチルエチレンオキサイド等が拳げられ、それ以外にもカルボジイミド基やトシル基をもつビニル化合物等を挙げることができる。特に、イソシアネート基は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基すべてと反応できるため、絹中の反応性アミノ酸と有効に反応できるので、好ましい官能基である。

【0010】
絹とこれらの不飽和化合物を適当な溶媒中で反応させる。用いる溶媒は、不飽和化合物を溶解しかつ不飽和化合物と反応しないものであればいずれを用いても良い。例えば、脱水したジメチルスルホキシド、N,N'-ジメチルホルムアミド、N,N'-ジメチルアセトアミド等を用いることができる。

【0011】
用いる不飽和化合物の量は特に制限されるものではないが、好ましくは絹1gあたり0.01mol~1molの量を用いる。0.01mol未満では十分に反応が進行しない危険性があり、1molを超えると製造コスト上不利である。反応温度も特に制限はないが、4℃~80℃が好ましい。4℃未満では温度コントロールに多くの投資が必要となり、また80℃を超えると不飽和化合物の熱重合の危険性がある。反応時間も用いる不飽和化合物の種類に応じて任意に設定すればよく、特に制限されるものではない。通常10分~8時間の範囲が好ましい。10分未満では十分に反応が進まない可能性があり、8時間を超えると経済的に効率が悪く、また不飽和化合物同士の反応等の副反応の生じる危険性がある。

【0012】
反応後、絹を反応溶媒で十分に洗浄したのち、次の工程に用いる。不飽和基を導入した絹素材とビニル化合物とを適当な溶媒中でグラフト重合反応を進める。ビニル化合物としては、修飾絹素材の利用目的に応じて各種の化合物を単独であるいは混合して利用できる。例えば、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリロイルオキシエチルフォスフェート、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン(MPC)、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリルアミド、N-イソピルアクリルアミド、酢酸ビニル等を使用することができる。ビニル化合物の使用量は、絹1gに対して、1mmol~50mmolの範囲で用いるのが好ましい。1mmol未満であるとグラフト重合反応の効率が悪く、50mmolを超えるとホモポリマーの生成の危険性があり、グラフト重合反応のコントロールが困難となる。

【0013】
グラフト重合反応において用いる溶媒は、ビニル化合物が溶解するものであればいずれでもよいが、水溶性のビニル化合物を用いる場合は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはジメチルスルホキシドと水との混合溶媒が好ましい。

【0014】
グラフト重合の開始剤としては、ラジカル開始剤やイオン開始剤、あるいは光や熱のような物理的な開始反応のいずれも用いることができるが、グラフト重合反応を厳密にコントロールするためには、アゾ系の開始剤が好ましい。アゾ系の開始剤としては、例えばアゾイソブチルニトリル(AIBN)や2,2'-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)ジハイドロクロライド(VA-044:和光純薬工業(株)製の商品名)等が知られている。さらに、グラフト重合鎖長等をコントロールするためには、種々の既知のリビング重合反応を利用することも可能である。グラフト重合温度、時間は、用いるビニル化合物や開始剤等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。通常、温度は4℃~80℃の範囲、時間は10分~8時間の範囲が好ましい。4℃未満では温度コントロールのため製造コスト上不利であり、80℃を超えると熱重合によるホモポリマーの生成の可能性があり、グラフト重合反応をコントロールすることが困難となり、再現性が悪い。また、10分未満ではグラフト重合反応が十分に進まない可能性があり、8時間を超えるとホモポリマー生成の可能性が高くなり、グラフト重合反応の効率が悪い。反応後、絹を反応溶媒で十分に洗浄することにより修飾絹が製造できる。

【0015】
【実施例】以下に実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。

【0016】
実施例1
メタクリロイルオキシエチルイソシネートによる絹布への不飽和基の導入:15mm径に切断した絹布(羽二重、JIS L0803染色堅牢度試験法準拠、14匁)0.5gを脱水したジメチルスルホキシド35ml中に浸漬し、この中に6.0gの減圧蒸留精製したメタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工(株)製)を添加し、35℃で所定時間反応した。反応前後の絹布の重量を測定して、反応率(=重合増加率)を求めた。得られた結果を表1に示す。また、不飽和基の導入の確認はFT-IRで行い、その結果を図1に示す。

【0017】
表1
───────────────────────────
試料番号 反応時間(時間) 重量増加率(%)
───────────────────────────
1 1.0 0.5
2 2.0 3.1
3 4.0 7.3
───────────────────────────
表1に示すように、反応時間を制御することにより、絹素材中への反応開始点の導入量を広い範囲でコントロールできることがわかる。

【0018】
実施例2
不飽和基を導入した絹布へのメタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン(MPC)のグラフト重合:表1の試料番号3の絹布を用いてMPCのグラフト重合反応を実施した。試料絹布0.1gを、N,N'-ジメチルホルムアミド/水=50/50の混合溶媒中に0.5gのMPCモノマーを混合して得た溶液中に浸漬し、この中に6.0mgのVA-044(和光純薬工業(株)製)を添加して、60℃で重合反応を進めた。所定時間ごとに試料を取り出し、反応溶媒、水で十分に洗浄したのち、反応前後の重量差からグラフト重合率(%)を求めた。得られた結果を表2に示す。また、グラフト重合の確認はFT-IRで行い、その結果を図2に示す。

【0019】
表2
─────────────────────────────
試料番号 反応時間(時間) グラフト重合率(%)
1回目 2回目
─────────────────────────────
4 0.5 17.2 16.5
5 1.0 22.3 20.0
6 4.0 26.3 26.5
─────────────────────────────
表2に示すように、同じ開始点量をもつ絹素材に対して、グラフト重合時問を変化させることで、重合量をコントロールできることがわかる。すなわち、本発明の製造方法を用いれば重合鎖長を厳密に制御できることがわかる。また、繰り返しの反応によっても、10%前後の誤差での再現性が得られることがわかる。

【0020】
実施例3
不飽和基を導入した絹布へのメタクリルアミド(MAm)のグラフト重合:表1の試料番号3の絹布を用いてMAmのグラフト重合反応を実施した。試料絹布0.1gを、ジメチルホルムアミド/水=20/80の混合溶媒10.0ml中に0.5gのMAmモノマーを混合して得た溶液中に浸漬し、この中に19.1mgのVA-044(和光純薬工業(株)製)を添加して、60℃で重合反応を進めた。6時間反応後試料を取り出し、反応溶媒、水で十分に洗浄したのち、反応前後の重量差からグラフト重合率(%)を求めた。その値は16.7%であった。

【0021】
実施例4
不飽和基を導入した絹布へのメタクリル酸メチル(MMA)のグラフト重合:表1の試料番号3の絹布を用いてMMAのグラフト重合反応を実施した。試料絹布0.1gを、ジメチルホルムアミド溶媒10.0ml中に0.5gのMMAモノマーを混合して得た溶液中に浸漬し、この中に8.2mgのAIBN(和光純薬工業(株)製)を添加して、60℃で重合反応を進めた。6時間反応後試料を取り出し、反応溶媒、水で十分に洗浄したのち、反応前後の重量差からグラフト重合率(%)を求めた。その値は15.3%であった。

【0022】
実施例5
不飽和基を導入した絹布へのメタクリル酸ヒドロキシルエチル(HEMA)のグラフト重合:表1の試料番号3の絹布を用いてHEMAのグラフト重合反応を実施した。試料絹布0.1gを、ジメチルホルムアミド溶媒10.0ml中に0.5gのHEMAモノマーを混合して得た溶液中に浸漬し、この中に6.2mgのAIBN(和光純薬工業(株)製)を添加して、60℃で重合反応を進めた。6時間反応後試料を取り出し、反応溶媒、水で十分に洗浄したのち、反応前後の重量差からグラフト重合率(%)を求めた。その値は10.4%であった。

【0023】
比較例1
従来法によるMPCのグラフト重合:実施例1で使用した絹布(不飽和基導入前)0.5gを、硫酸水溶液(pH3.0)中に0.5gのMPCモノマーを混合して得た溶液中に浸漬して、この中に10mgの過硫酸アンモニウム(和光純薬工業(株)製)を添加して、80℃で重合反応を進めた。所定時間ごとに試料を取り出し、反応溶媒、水で十分に洗浄したのち、反応前後の重量差からグラフト重合率を求めた。得られた結果を表3に示す。

【0024】
表3
─────────────────────────────
試料番号 反応時間(時間) グラフト重合率(%)
1回目 2回目
─────────────────────────────
7 0.5 8.7 4.1
8 2.0 10.5 6.7
9 4.0 5.2 7.4
─────────────────────────────
表3に示したように、従来法によれば、反応時間により厳密に重合量をコントロールすることができず、また、開始点量も一定でないため、十分に重合鎖長をコントロールすることができない。また、繰り返しの反応によっても、50%以上の誤差があり、再現性よく修飾絹を製造することができない。

【0025】
また、重合開始剤として過硫酸アンモニウムの代わりに上記VA-044を使用した場合には、絹布との間でグラフト重合は生じなかった。

【0026】
比較例2
比較例1におけるMPCモノマーの代わりに実施例3~5のMAm、MMA、HEMAモノマーを用いて比較例1の方法を繰り返した。重合が進むにつれて、重合系がゲル化し、試料絹布にゲル化物が付着して、絹布へのグラフト重合をコントロールすることができなかった。また、重合開始剤として過硫酸アンモニウムの代わりにAIBNを使用した場合には、絹布との間でグラフト重合は生じなかった。

【0027】
【発明の効果】本発明の製造法によれば、絹素材へのグラフト重合を厳密にコントロールすることができ、目的に応じて効率的にかつ効果的に絹素材を再現性よく修飾することができる。得られた修飾絹素材は、新しい性質を付与した絹として新規衣料用素材分野で、あるいは、抗血栓性や骨結合性を付与した絹として医療用素材分野、またさらに他の広い産業分野で利用されることができる。
図面
【図1】
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【図2】
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