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明細書 :蛋白質ミクロフィブリルおよびその製造方法ならびに複合素材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2981555号 (P2981555)
登録日 平成11年9月24日(1999.9.24)
発行日 平成11年11月22日(1999.11.22)
発明の名称または考案の名称 蛋白質ミクロフィブリルおよびその製造方法ならびに複合素材
国際特許分類 D01F  4/00      
D21H 13/34      
D04H  1/04      
FI D01F 4/00 Z
D21H 13/34
D04H 1/04
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願平10-351722 (P1998-351722)
出願日 平成10年12月10日(1998.12.10)
審査請求日 平成10年12月10日(1998.12.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】加藤 弘
【氏名】早坂 昭二
【氏名】塚田 益裕
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 欣一 (外3名)
審査官 【審査官】渕野 留香
調査した分野 D01F 4/00
D21H 13/34
要約 【課題】 蛋白質繊維を単に繊維軸に垂直の方向での切断のみならず、繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂させることで、蛋白質ミクロフィブリルを効率的、経済的に製造する方法の提供。
【解決手段】 天然蛋白質繊維を、アルカリ剤を含むアルカリ水溶液により処理し、またはアルカリ剤でpHを調整した中性塩水溶液により処理し、該繊維を膨潤させ、繊維構造が若干弛緩した状態にして、該水溶液に分散せしめ、この分散した天然蛋白質繊維に対して、一定の振動とずり応力を与えるビーズ衝撃破砕処理を行う。これにより、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂されて、蛋白質ミクロフィブリルが得られる。
特許請求の範囲 【請求項1】
繊維が膨潤されかつ繊維構造が若干弛緩した状態にある、アルカリ水溶液または中性塩水溶液に分散した天然蛋白質繊維に対して、一定の振動とずり応力を与えるビーズ衝撃破砕処理を行うことにより、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂させて得られる蛋白質ミクロフィブリル。

【請求項2】
天然蛋白質繊維を、アルカリ剤を含むアルカリ水溶液により処理し、またはアルカリ剤でpHを調整した中性塩水溶液により処理し、該繊維を膨潤させ、繊維構造が若干弛緩した状態にして、該水溶液に分散せしめ、この分散した天然蛋白質繊維に対して、一定の振動とずり応力を与えるビーズ衝撃破砕処理を行い、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂させて、ミクロフィブリルを得ることを特徴とする蛋白質ミクロフィブリルの製造方法。

【請求項3】
前記アルカリ水溶液による処理は、1.0~5.0%のアルカリ水溶液を用いて行われ、また、前記中性塩水溶液による処理は、アルカリ剤でpHを9以上に調整した、濃度が4M以上の中性塩水溶液を用いて行われることを特徴とする請求項2記載の蛋白質ミクロフィブリルの製造方法。

【請求項4】
前記ビーズ衝撃破砕処理は、ビーズ直径が0.2~1mmφ、衝撃処理時間が5~50分、ビーズ振動の周波数が50Hz以上である条件下で行われることを特徴とする請求項2または3記載の蛋白質ミクロフィブリルの製造方法。

【請求項5】
天然蛋白質繊維を、アルカリ剤を含むアルカリ水溶液により処理し、またはアルカリ剤でpHを調整した中性塩水溶液により処理し、該繊維を膨潤させ、繊維構造が若干弛緩した状態にして、該水溶液に分散せしめ、この分散した天然蛋白質繊維に対して、一定の振動とずり応力を与えるビーズ衝撃破砕処理を行い、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂させて、ミクロフィブリルを得る際に、該アルカリ水溶液の濃度もしくは中性塩水溶液の濃度、該アルカリ水溶液もしくは中性塩水溶液への浸漬処理時間、該ビーズ衝撃破砕処理におけるビーズの直径、ビーズ振動の周波数、ビーズ衝撃破砕処理時間を変えることでミクロフィブリルの開裂の程度を制御することを特徴とする蛋白質ミクロフィブリルの製造方法。

【請求項6】
高分子物質中に、前記請求項2~5のいずれかに記載の方法に従って得られた蛋白質ミクロフィブリルを含んでなることを特徴とする複合素材。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、天然蛋白質繊維からその構成成分であるミクロフィブリルを開裂(分繊または微細化)させて蛋白質ミクロフィブリルを製造する方法、得られた蛋白質ミクロフィブリル、および該蛋白質ミクロフィブリルを含有する複合素材に関するものである。この蛋白質ミクロフィブリルは衣料分野のみならず非衣料分野で利用され得る。

【0002】
【従来の技術】超微細繊維は、衣料分野ならびに非衣料分野の先端素材として利用されている。特に有機高分子素材の微細繊維化技術の進展は著しく、得られた微細繊維は医用材料として積極的に利用が図られているが、天然蛋白質を素材とする微細繊維化の技術は遅れている。

【0003】
まず、有機高分子と天然蛋白質の微細繊維化の現状について述べる。超微細繊維は太い繊維とは全く異なる機能特性を持つことから、各種の産業資材としての利用が進んでいる。有機高分子を素材として約0.00001デニールの超微細繊維が製造されている。例えば、ポリエステル繊維であれば直径が0.1ミクロンのものまで可能であり、この太さは0.0000975デニールに相当する。こうした超微細繊維を製造する方法には様々あるが、有機高分子を対象として開発されたもののうちから主要なものを、以下、2、3列挙する。
合成高分子の超微細繊維は「高分子相互配列体繊維」紡糸法により製造できる。海島(うみしま)構造を持つ特殊な紡糸用の口金により、1本の繊維の中に何千本もの繊維が詰まった繊維の製造が可能となる。こうした方法で製造した素材はスエード調新素材に利用されている。
剥離型複合繊維:多数に分割した繊維流をつくり、その後交互に張り合わせ状の繊維とする。この方法は、分割の数に限度があり、極端に扁平化できないので極端に細いものはできないという問題がある。
フラッシュ紡糸製布法:ポリマー溶液を高温高圧にしてノズルから噴出させ、超微細繊維の網状糸条を製造する。

【0004】
天然蛋白質繊維である羊毛や絹糸がしなやかで風合い感がよいのは、素材を構成するアミノ酸残基が多様であること、ならびにその配列順位が複雑であることに起因する。また、天然繊維を構成する微細構造が複雑であるためでもある。羊毛は、ミクロフィブリルから構成されており、また、絹糸は直径が100~300Åのミクロフィブリルから構成されている。約1000本のミクロフィブリルが集まってフィブリルが出来上がっているのが絹糸である。コラーゲン繊維も同様であり、直径1~4μmのコラーゲン繊維は、0.08μmのミクロフィブリルから形成され、それが集合して直径40μmの繊維束を形成している。したがって、天然蛋白質繊維から、その構成単位であるミクロフィブリルを製造するには、羊毛や絹糸を構成する繊維構造を取る最も微細な単位のミクロフィブリルを開裂させれば良いはずである。しかし、ミクロフィブリル間の水素結合が極めて強いため通常の方法では効率よく開裂することが不可能であった。

【0005】
従来、絹糸をアルカリ水溶液に浸漬して十分に膨潤させ、これを強く摩擦すると顕微鏡観察でフィブリル構造が確認されることは知られていた。フィブリルあるいは絹蛋白質は、絹蛋白質分子からなっている。基本的な分子骨格は、アミノ酸の脱水結合により生じるアミド結合(-CONH-)の繰り返し単位から構成されている。基本骨格中のCO、NH基が近接分子鎖間のCO、NH基と水素結合で結ばれている。フィブリル間には、このように水素結合が形成されているため、フィブリルを開裂させることは不可能に近かった。まして、そのフィブリルを利用する研究は著しく遅れていた。特公昭58-58449号公報には、銅-エチレンジアミン水溶液あるいは臭化リチウムなどの中性塩水溶液中に絹糸を溶解させ、これに機械的な剪断力、剪応力を加えてフィブロイン分子を凝固・沈殿・結晶化させ、その後脱水・乾燥させることによって微粉末状の絹フィブロインを製造する方法が開示されている。この方法では、調製できる絹フィブロインの中に中性塩が混在してしまい、純度の高い絹フィブロインを効率的に得ることは困難であるという欠点がある。また、絹フィブロインを一旦溶解させる方法を採るため、絹糸に特徴的な繊維構造が失われてしまい、分子形態がランダムコイル状態に変わってしまうという問題があった。

【0006】
また、従来法として、絹糸をアルカリ水溶液で処理して膨潤させ、しかる後に粉末化装置により大きさ5μm程度にまで粉末化させる方法が知られている。この方法によれば、絹糸を構成するミクロフィブリルがランダムに切断されて全体として粉末状態になるだけで、ミクロフィブリルが繊維軸と平行の方向に規則正しく開裂できないという欠点があり、得られたものは、繊維を機械的に開裂した状態で細繊維化されたものに過ぎず、繊維構造を持つミクロフィブリルでないため、利用上好ましくないという欠点があった。特許第1557142号には、絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に分散して絹フィブロイン分散液となし、これをセルロース製の透析膜に入れ、純水と置換してできる絹フィブロイン水溶液にキモトリプシンを作用させて、絹フィブロイン分子を加水分解させ、沈殿する分画、あるいは上清を凍結乾燥することで、2~3μmの超微粉末を得る方法が開示されている。この方法では、絹フィブロインの結晶領域あるいは非結晶領域に対応した微細な粉末が得られるが、サンプルはいずれも繊維構造を持たない分画である。すなわち、この特許第1557142号記載の製造技術では、繊維軸に対して縦方向や横方向という繊維状の形態の区別が全くないものしか得られない。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】前記したように、例えば、絹蛋白質の微粉末を製造するため、絹蛋白質繊維を粉末化装置により機械的に粉砕すると、繊維軸方向と垂直な方向にランダムに切断されるだけに過ぎず、繊維を構成する構成単位のミクロフィブリルを得ることはできないという問題があった。この場合、得られる0.2~0.5μmの太さの微細繊維は絹糸の構成単位が開裂したものではなかった。従来法では、どのように工夫しても分子配向性を持ったミクロフィブリルを製造することは不可能であった。このため、太い蛋白質繊維から0.2~0.5μmのミクロフィブリルを効率的に、経済的に、かつ取り扱いが容易な方法で製造できる技術開発が望まれている。本発明は、上記の種々の問題を解決し、天然生体蛋白質繊維を単に繊維軸に垂直の横方向で切断するのみならず、繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂させることで、天然生体蛋白質繊維を構成するミクロフィブリルを効率的、経済的に製造する方法および得られたミクロフィブリルならびにこれらミクロフィブリルを含む複合素材を提供することを課題とする。

【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のミクロフィブリル製造方法によれば、天然蛋白質繊維を、アルカリ剤を含むアルカリ水溶液により処理し、またはアルカリ剤でpHを調整した中性塩水溶液により処理し、該繊維を膨潤させ、繊維構造が若干弛緩した状態にして、該水溶液に分散せしめ、この分散した天然蛋白質繊維に対して、一定の振動とずり応力を与えるビーズ衝撃破砕処理を行うことにより、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂されたミクロフィブリルが得られる。ここで、繊維構造が若干弛緩した状態とは、ビーズ衝撃破砕処理に際してミクロフィブリルが開裂し易い状態にあることを意味し、フィブロイン繊維の強度が、凡そ50%程度以下に低下した状態にあることである。アルカリ水溶液処理に用いることができるアルカリ剤としては公知のものが利用可能である。例えば、水酸化カリウム(以下、KOHと略記することもある)、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ剤が例示できる。また、pH調整のために用いるアルカリ剤は上記アルカリ剤と同じものが例示でき、pHの調整された中性塩水溶液の処理に用いることができる中性塩水溶液としては、臭化リチウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カリウムなどの少なくとも1種を含む濃厚水溶液が例示できる。なかでも、ミクロフィブリルを効果的に開裂させるには臭化リチウムとチオシアン酸リチウムが好ましい。

【0009】
アルカリ水溶液の濃度は、好ましくは1.0~5.0%、より好ましくは1.5~5.0%である。アルカリ濃度が1.0%未満であると、蛋白質繊維が膨潤し難く、後でビーズ衝撃破砕処理をしてもミクロフィブリルが開裂する効率は低い。アルカリ濃度が5.0%を超えると蛋白質繊維の膨潤が進みすぎて、溶解してしまいミクロフィブリルが調製できない。アルカリ処理温度は、30~80℃、好ましくは40~55℃、より好ましくは50~55℃であり、アルカリ処理時間は、5~20時間、好ましくは5~15時間である。このアルカリ処理工程でホモジナイザー処理は行わなくても良いが、蛋白質繊維からミクロフィブリルを開裂させる効率を高めるためにはこのホモジナイザー処理は有効である。アルカリ処理を終えた後、繊維状サンプルは水洗いを十分に行い、必要により酸性薬剤で中和する。

【0010】
中性塩水溶液の濃度は、4M以上、好ましくは4~8M、より好ましくは5~6Mである。中性塩濃度が4M未満であると蛋白質繊維が充分に膨潤せず、後でビーズ衝撃破砕処理をしてもミクロフィブリルが開裂する効率は低く、8Mを超えると蛋白質繊維(フィブロイン繊維)は収縮し、そして溶解してしまいミクロフィブリルが調製できない。この中性塩処理は、アルカリ剤でpHを9以上に調整した、濃度が4M以上の中性塩水溶液を用いて、処理温度が10℃以上、処理時間が5~20分で実施されることが望ましい。アルカリ処理の場合と同様に、この中性塩処理工程でもホモジナイザー処理は行わなくて良いが、蛋白質繊維からミクロフィブリルを開裂させる効率を高めるためにはこのホモジナイザー処理は有効である。

【0011】
前記処理により膨潤されて分散状態にある蛋白質繊維を、振動するビーズと接触させること(以後、ビーズ衝撃破砕処理という)によって、各蛋白質繊維はビーズ間の衝撃で多数のミクロフィブリルに細かく開裂、粉砕される。このビーズ衝撃破砕処理は、ビーズの振動周波数、衝撃処理時間、ビーズ直径によって大きく変化する。ビーズ直径は小さすぎても大きすぎても蛋白質繊維からミクロフィブリルを得ることは困難であるが、通常、0.2~1mmであればミクロフィブリル化は可能であり、好ましくは0.2~0.8mm、より好ましくは0.2~0.5mmである。ビーズ直径が、0.2mm未満であり、また、1mmを超えると、フィブリル化は困難である。処理時間は5分以上、好ましくは10~50分であり、処理時間を延長すればビーズ直径は小さくても十分フィブリル化が可能である。周波数には特に制約はなく、50Hz以上、好ましくは70~120Hzであるが、目的に合致するものであればこれに制約されることはない。ビーズ素材はガラスあるいは石英製のビーズであり、望ましくは真球状でかつ一定の粒径を持つガラスビーズである。なお、アルカリ水溶液の濃度または中性塩水溶液の濃度、アルカリ水溶液または中性塩水溶液中での浸漬処理時間、ビーズの直径、ビーズ振動の周波数、ビーズ衝撃破砕処理の時間を変えることでミクロフィブリルの開裂程度を制御することができる。

【0012】
【発明の実施の形態】本発明によれば、天然蛋白質繊維を、アルカリ剤を含む1.0~5.0%のアルカリ水溶液により処理し、またはアルカリ剤でpHを9以上に調整した濃度が4M以上の中性塩水溶液により処理し、該繊維を膨潤させ、繊維構造が若干弛緩した状態にして、該水溶液に分散せしめ、この分散した天然蛋白質繊維に対して、一定の振動とずり応力を与えるビーズ(0.2~1mmφ)衝撃破砕処理を行うことにより、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂された蛋白質ミクロフィブリルが得られる。本発明では、天然蛋白質繊維であれば公知の繊維が利用できる。例えば、家蚕あるいは野蚕由来の絹蛋白質繊維でも利用できるし、動物由来の羊毛などのケラチン繊維であってもよい。コラーゲン繊維であっても同様に利用できる。家蚕としては Bombyx mori,Bombyx mandarineが、野蚕としては柞蚕、天蚕、ムガ蚕、エリ蚕由来の野蚕絹糸が例示できる。

【0013】
蛋白質繊維を膨潤させるためのアルカリ剤としては、一般に、上記したように、公知のアルカリを、所定の濃度、所定の処理温度および処理時間で用いることができるが、羊毛や家蚕絹糸よりも耐アルカリ性に優れた柞蚕絹糸、エリ蚕絹糸、ムガ蚕絹糸などの野蚕絹糸の場合は、アルカリ濃度は高めに設定する必要がある。例えば、50℃のKOH水溶液中に10~12時間浸漬するという条件では、羊毛の場合には少なくとも1~1.5%のKOH水溶液、家蚕絹糸の場合には少なくとも1~2.5%KOH水溶液で充分であるのに対して、野蚕絹糸の場合には2.2~4.8%のKOH水溶液が必要である。中性塩としては、上記したような化合物を使用できるが、蛋白質繊維からミクロフィブリルを開裂させるための濃度は処理温度によって異なるが、室温処理ならば4M以上の濃度が必要である。

【0014】
本発明の方法で蛋白質繊維から開裂させたミクロフィブリルは通常水分散液中で得られる。従って、該分散液から遠心処理、デカンテーション法等で分散液中のミクロフィブリルを分取し、これをシート状に集積させれば不織布状のフィブリルシートが調製できる。さらに、ポリビニールアルコール(PVA)や家蚕絹フィブロインなどの高分子物質水溶液または分散液に本発明のミクロフィブリルを分散させたものをポリエチレン膜上に広げて蒸発乾固させれば、ミクロフィブリルを含んだ絹フィブロイン膜が得られる。あるいは、ミクロフィブリルを含んだ高分子物質水溶液または分散液を凍結乾燥させることでミクロフィブリルを含む粉末状の高分子物質が調製できる。本発明の蛋白質ミクロフィブリルの化学構造は、開裂する前の天然蛋白質繊維の化学構造と同一である。蛋白質繊維を構成するミクロフィブリルを開裂することによって調製できるミクロフィブリルであるため、天然蛋白質の化学構造を持つ均一サイズのミクロフィブリルであるという特徴がある。

【0015】
本発明のミクロフィブリルは柔軟性、タッチ、光沢、表面積に特徴のある化学構造と物理特性を持つ天然素材である。このミクロフィブリルを用いて、柔らかさ、滑らかさ、捻れやすさを有するフィブリル集合体を調製することができ、この集合体は、単位重量あたりの表面積が極めて広いために低分子物質の吸着担体として利用できる。本発明によって天然蛋白質繊維から構成成分のミクロフィブリルを取り出す際に、アルカリ処理時のpH、処理時間、ビーズ衝撃処理時のビーズサイズと処理時の周波数を変えることでミクロフィブリルの開裂度を変化させることが可能であると共に、ミクロフィブリルの繊維長も同様に変化させることが可能である。蛋白質ミクロフィブリル分散液から遠心分離法、自然沈殿法、蒸発乾燥法(送風乾燥法など)、フィルターによる濾過法などにより水を除去してミクロフィブリルだけを取り出すことが可能であり、その際の分離方法の種類により、塊状、膜状、粉末状等の形の異なる素材を調製できる。

【0016】
本発明のミクロフィブリルは、その柔軟な風合い感を活かした新感覚の衣料材料として、またメガネふき用の高級ワイピング材として利用できる。また、素材が天然生体高分子であり、プラスとマイナスの電荷を持つ両性電解質であるため低分子物質の濾過材にも応用できる。また、ミクロフィブリルの太さを生体細胞のスケールレベルに近づけた素材であるため、血球分離材として有望である。本発明のミクロフィブリルを接着剤、溶融繊維あるいは機械的方法により相互に接合することにより、不織布の風合い感を持つ繊維製品を製造することができる。本発明によりフィブロイン繊維から作ったミクロフィブリルは繊維状の形態をもっているため、このミクロフィブリルを加工することなく、そのままの状態で、接着剤や溶融繊維などを使って、直接、不織布にすることができる。本発明の蛋白質ミクロフィブリルは水分散液状態で得られるので、紡糸ノズルからこれを噴射し、この際に生ずる空気流で吹き飛ばし、コンベアーのスクリーン上でランダムマットを形成することができる。

【0017】
合成繊維製造工程において溶融紡糸・延伸工程を行った後、得られた合成繊維を、接着剤として合成樹脂エマルジョンなどを含んだ本発明による蛋白質ミクロフィブリル水性分散液中をくぐらせると、この合成繊維表面にミクロフィブリルが付着・固定する。かくして、絹蛋白質繊維から得られたミクロフィブリルの場合、絹フィブロインの光沢、絹の吸湿・放湿性能を持ち、かつ絹の風合い感を有する衣料素材が製造できる。本発明のミクロフィブリルを機械的、熱的、化学的な手段を用いて接着または交絡させて、シート状またはウェブ構造を持つ不織布の製造に応用できると共に、多様な性質や形状の製品を調製することが可能となる。また、ミクロフィブリルを用い、製紙方法に従って湿式不織布製品を作ることが可能である。ミクロフィブリルを接着剤で結合させて、柔軟性とドレープ性に富む製品とすることが可能である。ミクロフィブリルを高圧水流で絡み合わせ、機械的に結合させて、柔軟な不織布製品を作ることも可能である。また、本発明の蛋白質ミクロフィブリルは、低分子物質、医薬品、生理活性物質に対して強い親和性を持つため、ミクロフィブリルを集積し不織布化させることで、消臭性物質の担体、ろ過フィルター素材、あるいは有効成分を含む蛋白質和紙素材として利用できる。さらに、蛋白質ミクロフィブリルは、衣料用資材、寝装寝具用資材、産業用資材、土木用資材、建設用資材、農薬・園芸用資料、生体・生活関連資材、医療用資材、衛生材料などとして利用できる。

【0018】
【実施例】次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、ミクロフィブリルの形態の観察は光学顕微鏡ならびに偏光顕微鏡により行った。
顕微鏡観察:偏光を利用して有機化合物および無機化合物の複屈折や光学的異方性を観察、測定する偏光顕微鏡(ニコン工業製)を用いて、検光子と偏光子との間に得られたミクロフィブリルを入れ、結晶性、配向性の違いにより現れた干渉色に基づいて、ミクロフィブリルの形態と偏光性を観察した。
実施例1:フィブリル化処理
原料としての家蚕絹糸をハサミで繊維長約5mmに切断したもの1gを秤量し、濃度の異なる50℃、200mLの水酸化カリウム水溶液(1.0%、1.5%、2.0%)で15時間精錬処理した。水洗後、このサンプルに、粒径0.5mmφのガラスビーズ約20gを混入して、サンプルホルダー(200mL容器)に固定後、ガラスビーズ衝撃機(Edmund Buhler 社製、Vibrogen-Zellmuhle,Vi 4型)を用いて30分間衝撃破砕処理した。処理したフィブリル繊維分散液を上澄み液として採取して下層に沈殿したガラスビーズと過別し、フィブリル繊維を流水でよく洗浄した。また、対照として、上記ビーズ衝撃破砕処理のみを行わなかったサンプルも同様にして調製した。1.0%、1.5%、2.0%のKOH水溶液で処理することで調製できる家蚕絹糸のミクロフィブリルをニコン工業製の偏向顕微鏡で写真撮影し、形態観察を行った。得られた写真観察結果を、図1、図2、図3に示し、ビーズ衝撃破砕処理を行ったサンプルと行わなかったサンプルの形状を比較した。

【0019】
図1(A)と(B)との比較から明らかなように、KOH濃度1.0%で処理した場合には、ミクロフィブリルに開裂はするがその程度は軽微であることが観察される。図2(A)と(B)との比較から明らかなように、KOH濃度1.5%で処理した場合には、各絹フィブロイン繊維は繊維軸に垂直な横方向のみならず(繊維の切断)、繊維軸と平行な縦方向にも細かく開裂している様子が観察される。図2(A)に示す開裂細繊維は概ね、直径0.2μm内外、長さ2mm程度のミクロフィブリル形態をなしている。光学顕微鏡観察によると、ミクロフィブリルの平均直径は0.2μmであり、標準偏差は0.08であった。さらに、図3(A)と(B)との比較から明らかなように、KOH濃度が2.0%の高濃度になると、蛋白質繊維から開裂するミクロフィブリルはよりいっそう微細な形態となることが観察される。

【0020】
上記のようにして得られた開裂細繊維は、絹繊維を銅-エチレンジアミン水溶液などの溶媒に溶解した絹フィブロイン水溶液を凝固析出せしめ、次いで脱水乾燥後粉砕して得られる微粉末状のもの(特公昭58-38449号公報記載のもの)とは、形状を著しく異にしている。
比較例1
家蚕絹糸を破砕し、構成単位のミクロフィブリルを家蚕絹糸から簡便に開裂させるために、メノウ製の乳鉢と乳棒を用いてミクロフィブリルの調製を試みた。家蚕絹糸をハサミで3~4mmに切断し、乳鉢と乳棒で力を加えて十分に破砕させようと試みたが、繊維が扁平になるだけでミクロフィブリルは得られなかった。そこで、粒径0.5mmのガラスビーズを乳鉢に1g秤量し、ハサミで切断した家蚕絹糸を入れ、乳棒で破砕化させたところ、ガラスの破砕面が鋭敏なため繊維は繊維軸方向と垂直に細かく切断された。肉眼では粉末化したように見えるが、偏光顕微鏡で観察すると、ミクロフィブリル化は全く起こっていなかった。次に、ガラスビーズの代わりに砂鉄を入れて家蚕絹糸を破砕させようとしたが、砂鉄が軟らかすぎるため、微粉末化は起こるが、ミクロフィブリル化は起こらなかった。乳鉢中で、ガラスや砂鉄などのビーズを用いて家蚕絹糸を破砕させようとしても、一度に多量の処理ができず、ミクロフィブリル化は起こらなかった。また、乳鉢での破砕処理後、粉末状試料とビーズとの分離を容易な方法で行うことは困難であった。
実施例2:フィブリルのサイズ
家蚕絹糸を3%KOH水溶液中で12時間浸漬処理した後、ガラスビーズ衝撃破砕装置(Edmund Buhler 社製)でフィブリル化させた。ガラスビーズとして、直径0.3mm、0.5mmの2種類のビーズを用いた。超音波の周波数は75Hzであった。ガラスビーズの衝撃破砕時間、サイズ、ビーズの種類を変えて、調製できる絹繊維のミクロフィブリルの長さと幅(サイズ)との変化を顕微鏡観察で評価した。得られた結果を表1に示すと共に実施例1の観察結果もあわせて表1に示す。

【0021】
【表1】
JP0002981555B1_000002t.gif上記実施例において、衝撃破砕時間を長くすれば、フィブリル化は更に進み、また、粒径0.2mmφのガラスビーズを用いる場合には、衝撃破砕時間を長くする必要がある。
実施例3:絹フィブロインにミクロフィブリルを含有する複合材料
家蚕絹フィブロイン繊維を臭化リチウムの飽和水溶液に入れ、60℃で20分間加熱することで絹フィブロイン繊維を溶解し、次いでこれをセルロース製の透析膜に入れ、純水と置換することで、濃度4%の絹フィブロイン水溶液を調製した。この4%絹フィブロイン水溶液1.32mLに実施例1で用いたミクロフィブリル分散液(1.5%のKOH水溶液で処理したもの)0.68gを加え、ガラス棒で静かに攪拌し均一の絹フィブロイン分散液を調製した。25℃の室温でポリエチレン膜上にこの分散液を拡げ、一昼夜かけて水分を蒸発させて、ミクロフィブリルを含む絹フィブロイン膜を製造した。ニコン社製の偏光顕微鏡(POM)でこの複合材料を観察したところ、ミクロフィブリルは絹フィブロイン膜中に局在すること無く、均一に分布し、かつミクロフィブリル同士の凝集はみられなかった。
実施例4:ミクロフィブリル含有の絹フィブロイン粉末
実施例3と同じようにして調製した4%の絹フィブロイン水溶液5mLに家蚕絹糸より開裂して調製したミクロフィブリル分散液2.5mLを混合し、ガラス棒でゆっくり攪拌した後室温で20分静置した。これにエタノールを3mL加え、-20℃で一旦凍結させた後、東西通商株式会社製の凍結乾燥機(AB-3)を用い、減圧下で10時間かけて乾燥して水分を除去し、ミクロフィブリルを含んだ絹フィブロイン粉末を調製した。この絹フィブロイン粉末は、分子鎖が乱れたランダムコイル状分子からなり、ミクロフィブリルはフィブリル繊維方向に分子鎖が配向した微細構造を取り、この2種類の素材の特性を持つ、新規の複合蛋白質素材が製造できた。
実施例5:プラスチックフィルム
絹糸を、2.5%KOH水溶液中で一昼夜処理し、さらにガラスビーズ衝撃破砕法で開裂させて得たミクロフィブリルの分散液をスチール製の「フルイ」に入れ、2時間かけて水分を濾別した。フィルター上にはミクロフィブリルのゲル状物が残った。これを自然乾燥させると膜状のミクロフィブリル塊状物であるプラスチックフィルムが製造できた。
実施例6:柞蚕絹フィブリル
柞蚕絹フィブロイン繊維を、実施例2と同様に、室温で、3%KOH水溶液中で12時間浸漬処理した後、30分間、0.5mm直径のガラスビーズによる衝撃破砕処理を行って、フィブリルを開裂させた。得られた柞蚕絹フィブロインのミクロフィブリルを偏光顕微鏡で観察した。ミクロフィブリルの平均直径は0.3μmであり、測定上の標準偏差は0.08であった。
実施例7:エリ蚕絹フィブリル
エリ蚕絹フィブロインを用い、実施例2と同様にしてミクロフィブリルを調製した。ミクロフィブリルの平均直径は0.4μmであり、測定上の標準偏差は0.010であった。
実施例8
羊毛を用い、実施例2と同様にして羊毛のミクロフィブリルを調製した。ミクロフィブリルの平均直径は0.5μmであり、測定上の標準偏差は0.018であった。
実施例9
4Mあるいは8Mの臭化リチウム水溶液100mLに0.5gの家蚕絹糸を入れ、これに0.5mmφのガラスビーズを入れてビーズ衝撃破砕処理を30分間行った。処理過程で臭化リチウム水溶液は昇温し70℃になった。サンプルを取り出し、水洗いを十分行い、繊維形態を顕微鏡により観察した。いずれの絹フィブロイン繊維表面からも、微細で太さ0.3μmのミクロフィブリルが数多く枝分かれしていることが観察された。
実施例10
ボーメ比重計で1.40の硝酸カリウム水溶液100mLに実施例9と同様に0.5gの家蚕絹糸を入れ、50℃で30分処理して、絹糸の構造を弱める処理を行った。サンプルを取り出し、水洗いした後、顕微鏡により絹糸表面を観察した。絹フィブロイン繊維表面から、微細で太さ0.3μmのミクロフィブリルが数多く枝分かれしていることが観察された。
実施例11
実施例3で用いた絹フィブロイン水溶液の代わりに、水に溶解した2.5%のポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)製)を用い、これにミクロフィブリル分散液0.3gを加えた。実施例3と同様の方法で水分を蒸発させることでミクロフィブリルを含有するポリビニルアルコール膜を製造した。

【0022】
【発明の効果】本発明によれば、膨潤させたかつ繊維構造を弛緩した状態にした天然蛋白質繊維に対してビーズ衝撃破砕処理を行うため、該繊維の繊維軸と垂直な横方向の切断のみならず該繊維軸と平行な方向にも細かく開裂された蛋白質ミクロフィブリルが効率的かつ経済的に得られる。本発明のミクロフィブリルの基本的な化学構造と物理特性は、開裂する前の天然蛋白質繊維と同一であるため、本発明のミクロフィブリルは柔軟性、タッチ、光沢、表面積などに特徴ある天然素材である。このミクロフィブリルから、柔らかさ、滑らかさ、捻れやすさを有するフィブリル集合体を各種の形態で調製することができるので、衣料分野のみならず、医薬、農薬・医療、土木・建設などを含む広い産業分野で各種資材として利用できるという利点がある。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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