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明細書 :抗菌性高分子素材及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3081916号 (P3081916)
公開番号 特開2000-073277 (P2000-073277A)
登録日 平成12年6月30日(2000.6.30)
発行日 平成12年8月28日(2000.8.28)
公開日 平成12年3月7日(2000.3.7)
発明の名称または考案の名称 抗菌性高分子素材及びその製造方法
国際特許分類 D06M 11/32      
A01N 25/10      
A01N 59/16      
A01N 59/20      
C08J  7/06      
D06M 13/342     
FI D06M 11/00 A
A01N 25/10
A01N 59/16
A01N 59/20
C08J 7/06
D06M 13/342
請求項の数または発明の数 10
全頁数 15
出願番号 特願平10-244130 (P1998-244130)
出願日 平成10年8月28日(1998.8.28)
審査請求日 平成10年8月28日(1998.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】塚田 益裕
【氏名】新居 孝之
【氏名】村上 理都子
個別代理人の代理人 【識別番号】100060025、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 欣一 (外3名)
審査官 【審査官】真々田 忠博
参考文献・文献 特開 平5-7617(JP,A)
特開 平8-232169(JP,A)
特開 平7-3651(JP,A)
特開 平7-138875(JP,A)
調査した分野 D06M 13/00 - 13/535
特許請求の範囲 【請求項1】
高分子素材からなり、該高分子素材と化学的に結合できる働きを持つスペーサーとしてEDTA無水物が該高分子素材に導入され、かつ該EDTA無水を介して高分子素材に抗菌性金属イオンが配位されていることを特徴とする抗菌性高分子素材。

【請求項2】
前記高分子素材は、動物蛋白質繊維、天然セルロース繊維、ジアセテート繊維及びポリアミド繊維の群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の抗菌性高分子素材。

【請求項3】
前記動物蛋白質繊維は、絹蛋白質、羊毛、又はコラーゲンであることを特徴とする請求項2記載の抗菌性高分子素材。

【請求項4】
前記天然セルロース繊維は木綿繊維であることを特徴とする請求項2記載の抗菌性高分子素材。

【請求項5】
前記抗菌性金属イオンは、銀イオン、銅イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、鉄イオン、ジルコニウムイオン、マンガンイオン、錫イオン、又はクロムイオンであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の抗菌性高分子素材。

【請求項6】
前記高分子素材が、絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に溶解して得た絹フィブロイン水溶液から蒸発固化して得た絹フィブロイン膜であり、抗菌性金属イオンが前記スペーサーを介することなく絹フィブロインに直接配位されていることを特徴とする請求項又は5記載の抗菌性高分子素材。

【請求項7】
前記高分子素材はビニル化合物でグラフト加工されたものであり、前記スペーサーはポリフェノール化合物であり、該グラフト加工によりポリフェノール化合物の導入量が増強されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の抗菌性高分子素材。

【請求項8】
前記ビニル化合物はメタクリルアミド又はアクリルアミドであることを特徴とする請求項7記載の抗菌性高分子素材。

【請求項9】
前記ポリフェノール化合物は、タンニン酸、カテキン、又はフラボノイドであることを特徴とする請求項7又は8記載の抗菌性高分子素材。

【請求項10】
絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に溶解して、絹フィブロイン水溶液を調製し、該絹フィブロイン水溶液と抗菌性金属含有水溶液との混合物から水分を蒸発せしめ、抗菌性金属の配位された絹フィブロイン膜を得ることを特徴とする抗菌性絹フィブロイン膜の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、抗菌性高分子素材及びその製造方法に関わり、更に詳しくは、スペーサーを結合させた又は結合させない高分子素材に、抗菌性金属イオンを配位させてなる抗菌性高分子素材であり、病原細菌に対して広い抗菌スペクトルを示す抗菌性高分子素材及びその製造法に関する。

【0002】
【従来の技術】最近、身の回りのあらゆる商品に安全性や清潔性が求められる傾向があり、特に若者を中心とした清潔志向が高まりを見せ、抗菌性の付与された製品が注目されている。生体組織や環境の汚染につながらない毒性の低い抗菌剤ならびに抗菌性製品の開発が積極的に進められている。

【0003】
抗菌性を付与するための最も一般的な素材は、銀、銅等の抗菌性金属を用いる方法である。例えば、レーヨン繊維をタンニン酸で処理し、タンニン酸の配位基に銅(II)を配位させたものが抗菌活性を示すことから、この手法を絹フィブロイン繊維に応用し、金属イオンを直接配位させたり、金属タンニン酸錯体を絹フィブロイン繊維に担持させる方法が開発され、金属イオンを配位させた絹フィブロイン繊維の製造方法が知られている(繊維学会誌、51巻、4号、176~180(1995))。この方法によれば、絹フィブロイン繊維をタンニン酸水溶液に予め浸漬してタンニン酸を繊維内に導入した後、金属イオンをタンニン酸に配位させて金属タンニン酸錯体を絹フィブロイン繊維に担持させることができる。

【0004】
従来の抗菌性金属を含む素材の製造方法において、一般によく用いられる抗菌性金属は銀イオンである。銀イオンによる抗菌性物質は、銀イオンが溶出することにより抗菌性が発現する溶出型薬剤が多く、この溶出型薬剤の担体として、ゼオライト、粘土鉱物、ガラス等が知られている。このような銀イオン等の溶出型薬剤は、優れた抗菌性機能を持っており、例えば、抗菌性の金属イオンを含む微粉末状のゼオライトを有効成分とするスプレーの形態が知られている。この場合、簡便に各種物品の表面を抗菌性にすることが可能である。

【0005】
また、従来の抗菌性粉末としては、銀、銅、亜鉛、あるいはこれらの金属からなる錯体を含有するものも知られている(特開平9-263715号公報)。かかる抗菌性粉末によって抗菌処理された物品は、強い抗菌性を持っている。

【0006】
さらに、抗菌性金属を担持するゼオライトを練り込んだ抗菌性樹脂組成物も知られている(特開昭63-265958号公報)。

【0007】
さらにまた、抗菌性を有する粉末塗料を用いて物品表面を被覆して抗菌性を付与せしめることも知られている。

【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記繊維学会誌には、金属イオンを効率よく配位させるための最適pHは、11.3-11.7であることが開示されているが、タンニン酸水溶液のpHを11.4付近にまで上げると、タンニン酸水溶液が淡茶~茶褐色に着色してしまい不都合である。そのため、この刊行物記載の方法を絹フィブロイン繊維の代わりに羊毛に適用した場合、タンニン酸の水溶液のpHをアルカリ薬剤で10-11に調整しても羊毛にはタンニン酸を導入することができないし、またタンニン酸水溶液はアルカリ側pHで茶褐色に着色してしまうため、羊毛等の天然繊維の処理用の試薬としては適当でないという問題があった。また、タンニン酸を天然繊維に導入し、その後抗菌性金属イオンを配位させる従来の方法では、タンニン酸導入の処理過程で天然繊維の強度や伸度等の機械的性質が劣化したり、タンニン酸水溶液が継時的に安定ではないので、放置しておくと分解するという問題があった。なお、タンニン酸水溶液に高分子素材を浸漬し、素材にタンニン酸を導入するという従来の方法では、加工する対象物が蛋白質繊維、絹蛋白質に限られており、羊毛等の動物性蛋白質繊維、その他の合成、半合性繊維には適用できないという問題があった。

【0009】
銀イオン等の抗菌性金属を有する上記溶出型薬剤は、優れた抗菌性機能を持つ反面、金属が溶出して生体組織、あるいは環境を汚染するという問題があった。従来のスプレー材の場合、処理された物品の表面に付着しているゼオライト粒子が物理的刺激を受けて脱離しやすいので、耐久性に欠けるという問題もあった。

【0010】
前記特開平9-263715号公報記載の錯体の場合、抗菌処理された物品は、強い抗菌性を持つ反面、錯体から銀等の抗菌性金属のイオンが微量づつ長年にわたって流出し、これが生体組織、あるいは環境を汚染する原因となっており、そのため、抗菌材から金属イオンが流れ出ることがなく、安定して抗菌機能を維持できる抗菌材の開発が望まれてきた。

【0011】
また、特開昭63-265958号公報記載の組成物の場合、コスト高となり、光のエネルギーで樹脂が着色や変色をしてしまうため、実用上の問題となっていた。

【0012】
さらにまた、抗菌性を有する粉末塗料を用いる場合、焼付け時に150~200℃まで加熱する工程を必要とするため、製造には大型の加熱装置が必要で、調製上エネルギ消費型の技術を駆使しなければならないという問題があり、また、通常多く用いる一般的な有機系の抗菌剤では抗菌機能の低下が問題であった。

【0013】
かくして、本発明は、上記の問題を解決し、高分子素材からなる抗菌性と耐久性に優れた抗菌性高分子素材及びその製造方法を提供することを課題としている。

【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、各種の細菌の増殖を阻止するというスペクトルが広い抗菌活性を持ち、かつ耐久性に優れた抗菌性高分子素材に関して鋭意検討した結果、金属イオンに配位可能な「スペーサー(以下に定義するような配位基を有する化合物を意味する)」を予め高分子素材に導入しておき、これを抗菌性金属塩水溶液に浸漬することによって、あるいは「スペーサー」を介することなく蛋白質(特に、生体蛋白質)水溶液に抗菌性金属イオンを直接作用させることによって、この金属イオンを高分子素材ないしは蛋白質に配位させることができ、このようにして、耐久性に優れた抗菌性高分子素材が製造できることを見出して、上記課題を解決し、本発明を完成させるに至った。

【0015】
本発明の抗菌性高分子素材は、高分子素材と化学的に結合できる働きを持つスペーサーが該高分子素材に導入され、かつ該スペーサーを介して高分子素材に抗菌性金属イオンが配位されているものであるか、又は該抗菌性金属イオンが該スペーサーを介することなく該高分子素材に直接配位されているものである。この高分子素材としては、例えば、絹蛋白質、羊毛、又はコラーゲンのような動物蛋白質繊維、木綿繊維のような天然セルロース繊維、ジアセテート繊維、及びポリアミド繊維の群から選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、ビニル化合物でグラフト加工された高分子素材も使用できる。

【0016】
本発明の抗菌性高分子の製造方法は、高分子素材に、該高分子素材と化学的に結合できる働きを持つスペーサーを導入した後、該スペーサーを導入した高分子素材を抗菌性金属含有水溶液に浸漬して高分子素材に抗菌性金属イオンを配位させることからなり、又は該スペーサーの導入処理を行わず、該高分子素材を抗菌性金属含有水溶液に浸漬して高分子素材に抗菌性金属イオンを直接配位させることからなる。

【0017】
【発明の実施の形態】本発明では、-COOH、-NH2、-OH、-SH、=NH等の配位基を有し、金属イオンと配位することができる化合物を便宜的に「スペーサー」と呼ぶことにする。本発明によれば、高分子素材に抗菌性金属イオンを確実に配位させて洗濯洗いや取り扱いに対して耐久性を持たせるために、まず高分子素材に金属イオンの配位基となるスペーサーを予め導入しておき、この部位に抗菌性金属イオンを配位させている。

【0018】
本発明者らは、スペーサーとして、すなわち、高分子素材と物理的な相互作用を示したり、結合可能なものであって、かつ抗菌性金属イオンが配位できる配位基を有するものとして、金属比色定量試薬に用いられている多塩基酸等を利用することを見出して、本発明を完成させるに至ったのである。

【0019】
本発明で用いるスペーサーは、高分子素材に導入することによって、両者間に相互作用を持たせるものであり、さらにこのスペーサーの導入された高分子素材を金属イオン水溶液に浸漬することによって、高分子素材に金属イオンの配位された金属錯体が形成される。利用できるスペーサーとしては、多塩基酸又はポリフェノール類がある。

【0020】
多塩基酸とは、アルカリで中和した場合、いくつかのアルカリ塩が生ずる酸である。多塩基酸の中で金属比色定量試薬として身近なエチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略記することもある)を例にとると、アルカリで中和する際に、1~4個のアルカリ塩が生成するので、EDTAは四塩基酸として分類できる。多塩基酸の例を次に列挙する。三塩基酸としては、ニトリロ三プロピオン酸(以下、NTPと略記する。株式会社同仁化学研究所、カタログ番号343-02081)、また四塩基酸としては、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略記する。株式会社同仁化学研究所、カタログ番号342-01353)をはじめ、ニトリロ三酢酸(以下、NTAと略記する。株式会社同仁化学研究所、カタログ番号344-02072)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸・1無水物(以下、CyDTAと略記する。株式会社同仁化学研究所、カタログ番号343-00881)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(以下、GEDTAと略記する。株式会社同仁化学研究所、カタログ番号348-01311)、ジエチレントリアミン五酢酸(株式会社同仁化学研究所、カタログ番号347-01141)、トリエチレンテトラミン六酢酸(株式会社同仁化学研究所、カタログ番号340-02873)を用いることができる。これらの化合物の中で、金属イオンを配位させるために最も簡便に利用でき、金属の比色定量試薬としても一般的なものはEDTAである。その無水物であるエチレンジアミン四酢酸・二無水物(以下、EDTA無水物と略記する)が高分子素材にスベーサーを形成する試薬として好ましく用いられる。

【0021】
高分子素材と多塩基酸とを反応させるためには、これらの多塩基酸から多塩基酸無水物を合成しておき有機溶媒中で反応させる必要がある。多塩基酸の無水物を合成するには、多塩基酸から6員環もしくは5員環の無水物を調製するための簡便な従来公知の方法が利用できる。例えば、密封した系において、窒素などの不活性ガス雰囲気下、150℃以上の加熱により脱水反応を起こすことで多塩基酸の無水物が合成できる。あるいはまた、塩基酸のアルカリ塩と酸塩化物とを作用させることで下記の化学式[I]の反応により塩基酸の無水物を合成することもできる。

【0022】
RCOONa+RCOCl→ (RCO)2O+NaCl [I]
EDTAは四塩基酸であるため、アルカリで中和すると物理特性がそれぞれ異なる1~4個のアルカリ塩が生成する。EDTAは、種々な金属イオンの配位子となり、EDTAと金属イオンとでは1:1の化学量論で反応が進む。また金属イオンが配位すると吸収スペクトルが大幅に変化するため、金属イオンの比色定量試薬として広く用いられている。

【0023】
EDTAからEDTA無水物を調製するには上記の酸無水物の製造方法により調製できる。高分子素材とEDTA無水物とを化学修飾加工方法により反応させ、高分子素材に先ずEDTAを導入し、次にEDTAの配位子に抗菌性金属イオンを配位させることで耐久性に優れた抗菌性高分子素材を製造できる。

【0024】
以下、EDTA無水物を例にとり、高分子素材への化学修飾加工方法の具体例を記述する。まず、EDTA無水物をジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)あるいは、N,N'-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する)等の有機溶媒に溶解させ、高分子素材をこの溶液系に浸漬し、60-80℃の温度で1時間-5時間反応させればよい。高分子素材に導入できるEDTA量は反応温度と反応時間により決まる。反応温度が低い場合には反応時間を長めに設定する必要があるし、反応温度か高いと反応が早すぎるためEDTA導入量が制御しにくい。そこで、最も好ましい反応条件は、家蚕絹糸では、75℃、2-4時間、羊毛では75℃、1-2時間である。

【0025】
多塩基酸の無水物は、絹蛋白質や羊毛等の蛋白質の分子側鎖のリジン、アルギニン、ヒスチジン等の反応性に富む塩基性アミノ酸残基とアシル化反応を起したり、セリン、チロシン、スレオニン等のアミノ酸残基のフェノール性の水酸基とも反応する。羊毛には、反応性に富むこれらの塩基性アミノ酸残基あるいはフェノール性水酸基の総量が、絹フィブロインに比ベて約一桁多く含まれるので、羊毛を加工する際のEDTA無水物濃度は絹フィブロインの場合に比ベて希薄でもよく、反応時間は短時間でよい。反応終了後は、DMFで試料を洗い、試料に付着した未反応物を除去し、最終的には水で洗う。このようにして高分子素材と多塩基酸とがアシル化反応で結合して、後の反応で抗菌性金属と結合するスペーサーが高分子素材に導入できる。

【0026】
このようにして調製したスペーサーを導入した高分子素材に抗菌性金属イオンを配位させるには、この素材を室温の抗菌性金属塩水溶液に5-40時間浸漬すればよく、これにより金属イオンがスペーサーの配位基と簡単に配位する。この際に用いる金属塩水溶液は、1Nのアンモニア水を加えてpHを9-12に調節しておくと金属の錯体形成能力が高まる。金属塩水溶液濃度は、5-60mMでよく、好ましくは20-30mMである。金属塩水溶液に浸漬したサンブルは処理後、反応時と同一のpHのアンモニア水に入れて5時間静置した後、室温で風乾させることで金属錯体を有する高分子素材が調製できる。

【0027】
また、スペーサーとしては、多塩基酸の代わりにポリフェノール類を用いることもできる。ポリフェノール類としては、タンニン酸、カテキン、フラボノイドが例示できる。緑茶由来のポリフェノールとしては、(-)-エピカテキン(EC)、(-)-エピガロカテキン(EGC)、(-)-エピカテキン ガレート(ECg)、(-)-エピガロカテキン ガレート(EGCg)等が例示できる。また、紅茶由来のポリフェノールとしては、セアフラビン(TFI)、セアフラビン モノガレート A (TF2A)、セアフラビン モノガレート B (TF2B)、セアフラビン ジガレート (TF3)が例示できる。

【0028】
タンニン酸はタンニンを加水分解して製造できる。タンニンは植物界に広く存在しており、蛋白質やゼラチンを水に溶けない物質に変える。カテキンは多数の植物中にあり、多くのタンニンの母体と考えられる。フラボノールは黄色色素として植物界に存在する。

【0029】
ポリフェノール類を用いる場合には、希薄な硫酸水溶液を用いてポリフェノール水溶液のpHを1-4付近、好ましくは1-3付近に調整し、この酸性水溶液に高分子素材を浸漬処理して試料内部にポリフェノール類を導入させる。高分子素材とポリフェノール類との間に働く強い分子相互作用を利用して両者は物理化学的に結合する。しかる後にポリフェノール類の導入された高分子素材を抗菌性金属イオン水溶液に浸漬して、金属イオンを配位させるとよい。この際、抗菌性金属イオンはポリフェノール類の配位基、高分子素材の配位基と配位する。

【0030】
タンニン酸水溶液に高分子素材を浸漬して素材にタンニン酸を効率よく導入するには、有機酸、無機酸でタンニン酸水溶液のpHを1-4程度、好ましくは1-3程度にまで下げておくとよい。こうすることにより、家蚕絹糸、柞蚕絹糸及び羊毛等の高分子素材にタンニン酸を効率よく導入できる。タンニン酸の水溶液に希薄な硫酸水溶液を加えてpH調整をすることにより、家蚕絹糸、柞蚕絹糸へのタンニン酸の吸着量は、それぞれ2.5倍、1.7倍にまで増加する。pH調整には硫酸、塩酸等の公知の無機酸又は蟻酸、クエン酸等の公知の有機酸を用いることができる。羊毛を始め天然繊維素材の強度、伸度は、こうしたpH領域のタンニン酸水溶液で処理しても低下し難く、素材は着色しない。

【0031】
次に、高分子素材にスペーサーを介して抗菌性金属イオンを結合せずに、高分子素材の水溶液と抗菌性金属水溶液とを混合して、高分子素材に抗菌性金属を直接作用させて金属イオンを配位する方法について、絹蛋白質繊維を例にとり説明する。

【0032】
絹蛋白質繊維から絹フィブロイン水溶液を調製するための原料としては、家蚕又は野蚕由来の繭糸もしくは生糸が用いられる。家蚕生糸を炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液で煮沸し、繭糸もしくは生糸表面にある膠状の接着物質、セリシンを除去して調製できる絹フィブロイン繊維を中性塩で溶解し、セルロース製の透析膜で十分透析することにより純粋な絹フィブロイン水溶液を調製できる。この絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜等の基質膜上で乾燥固化させると透明な絹フィブロイン膜ができる。天然生体高分子である絹フィブロインは、手術用縫合絹糸の例からも明らかなように、生体組織との生体適合性がよい。

【0033】
上記のように、絹フィブロイン繊維を溶解するには、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチウムなどの一般に知られた中性塩を利用できる。絹糸の溶解性を高め、未変性状態に近い絹フィブロインを製造するためには、溶解性の高いリチウムイオンを含む中性塩が望ましく、臭化リチウムなどが特に好ましく用いられる。

【0034】
また、野蚕絹フィブロイン水溶液は次のようにして調製できる。柞蚕あるいは天蚕等から得られる野蚕繭糸を繭糸重量に対して50倍量の0.1%過酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、98℃でl時間処理してセリシンを予め除去しておく必要がある。セリシンを除去した野蚕絹フィブロイン繊維をチオシアン酸リチウム等の溶解性の高い中性塩で溶解し、これをセルロース製透析膜に入れ純水と透析することで野蚕絹フィブロイン水溶液が調製できる。

【0035】
本発明で用いる絹蛋白質としては、家蚕、野蚕等のカイコ由来の蛋白質であれば種類を問わず利用でき、未加工、未処理の蛋白質繊維であってもよく、あるいは金属イオンを配位させ得る配位基を予め導入した蛋白質素材であってもよい。

【0036】
絹蛋白質繊維は臭化リチウムの濃厚溶液で溶解できる。これをセルロース透析膜に入れて純水と置換することで絹フィブロン水溶液が調製できる。この水溶液は、混合水溶液の蒸発速度や調製条件を変えることによって、膜状にも、多孔質体状にも、ブロック状にも、粉末状にも、ゲル状その他にも形成できる。粉末又は多孔質体の調製は、絹フィブロインのブレンド水溶液を-7℃以下、好ましくは-30℃以下で一旦凍結させたものを、さらに減圧下で凍結乾燥することにより行われる。一方、絹フィブロイン膜は、その試料の水溶液を、例えばポリエチレン膜上に広げ、水分を自然状態で穏やかに蒸発させ、乾燥固化せしめることにより製造できる。水溶性蛋白質水溶液からゲル状材料を製造するには、まず、試料水溶液に、硫酸、塩酸等の無機酸、蟻酸、クエン酸等の有機酸の水溶液を加えてpHを等電点以下にするとよい。

【0037】
本発明で利用できる抗菌性金属としては、Ag、Cu、Fe、Ni、Zn、Co、Zr、Mn、Sn、Cr等の公知の抗菌性金属がある。通常これらの抗菌性金属イオンを本発明のスペーサーに配位させたり、又は高分子素材に直接配位させたりするには、水によく溶ける塩の形の化合物が好ましく用いられる。硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩あるいはアンモニウム塩等の塩類化合物が例示できる。水溶性の塩類化合物が特に良好であるのは反応を進める上で有利であるからであり、例えば金属の硝酸塩もしくは硫酸塩を用いることか望ましい。銀であれば硝酸塩であることが、鉄、ジルコニウムであれば硫酸塩であることが特に好ましい。

【0038】
抗菌性を付与する対象の素材としては、絹蛋白質繊維であってもよいし、水溶液状態の絹フィブロインであってもよい。絹蛋白質繊維は、未処理・未加工であっても、あるいは化学修飾加工した素材であってもよい。

【0039】
高分子素材にポリフェノールを導入した後、抗菌性金属水溶液に浸漬して抗菌性金属イオンを配位させる際に、ポリフェノールの導入量を増強させるには、ポリフェノール導入に先だって、高分子素材をビニル化合物でグラフト加工をしておくとよい。ビニル化合物としては、ビニル化合物の分子側鎖にアミド基を持つメタクリルアミド(以下、MAAと略記することもある)あるいはアクリルアミドなどのような従来公知の重合性ビニルモノマーが好ましく用いられる。

【0040】
グラフト加工の概略は次の通りである。グラフト加工液は、界面活性剤、グラフトモノマー、重合開始剤から構成できる。加工液を調製する際に用いられる界面活性剤としては、例えばノイゲンHC(第一工業製薬(株)製、商品名)のような非イオン界面活性剤やニューカルゲン1515-2H(竹本油脂(株)製、商品名)のような非イオン界面活性剤とアニオン界面活性剤との混合界面活性剤等が挙げられる。グラフト重合に用いられる重合開始剤としては、通常の重合開始剤であればよく、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられ、特に過硫酸アンモニウムが好ましく用いられる。重合開始剤は、加工液に添加される。重合開始剤の使用量は、通常のビニルモノマーの重合における使用量で十分であり、例えばMAA40%owf(owfとは繊維重量に対する濃度表示)用いた場合、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを用いるとき、過硫酸アンモニウムの使用量は、MAAと高分子素材との合計重量に対し0.5~3重量%程度であることが好ましい。

【0041】
グラフト加工液のpHを2~4程度、好ましくは3前後に調整することは、グラフト重合反応を安定して行わせ、グラフト効果、特にグラフト効率を向上させるために好ましいことであり、pH調整は、硫酸、蟻酸、塩酸等の酸、好ましくは蟻酸の添加により行われる。

【0042】
グラフト加工液は、グラフト効率を高めること、また経済性の点から、蛋白質繊維又はその繊維製品重量に対しての加工液重量比、即ち浴比を、好ましくはl:10~l:20、より好ましくは1:15とする。

【0043】
グラフト重合反応は、加工液に蛋白質繊維又はその繊維製品を浸漬し、加工液を室温から10~20分かけて75~80℃に昇温し、75~80℃で30分~1時間保持して行う。グラフト重合反応後、反応させた蛋白質繊維又はその繊維製品を洗浄し、乾燥し、本発明で用いる改質蛋白質繊維又はその繊維製品を得る。

【0044】
グラフト加工率は10~30%であればよい。グラフト加工による重量増加率が10%未満であるとポリフェノールの導入効率が向上しないし、30%を超えると絹糸、羊毛等の機械的特性が低下するおそれがある。MAAグラフト加工した絹糸をタンニン酸水溶液で浸漬処理するには、上記に示した条件であれば可能である。

【0045】
以下、生体高分子である生体蛋白質に抗菌性金属塩を作用させ、抗菌性蛋白質素材を調製する場合を、水溶液状態の絹フィブロインを例にとり説明する。絹フィブロイン繊維を臭化リチウム等の中性塩で溶解し、セルロース製透析膜で純水と透析置換して得られる絹フィブロイン水溶液を用いて抗菌性金属イオンを配位させるには次のようにするとよい。0.2-1.5重量%の絹フィブロイン水溶液に配位させようとする金属塩の水溶液を先ず加え、次にこの系のイオン強度を調節するため中性塩を添加する。イオン強度を調節するために添加する中性塩のアニオンは、用いた抗菌性金属塩のアニオンと一致させるとよい。例えば、硝酸銀を抗菌性金属塩として用いた場合には、イオン強度の調節用の中性塩は硝酸カリウムという具合である。

【0046】
イオン強度調節用の中性塩のカチオンは、特に制約を受けない。例えば、K、Na、Ca、Mg等が例示できる。こうしたカチオンの中で、Kが特に好ましい。中性塩の添加量は、金属濃度に比べて過剰にすることが望ましく、濃度的には、50-200mMが適当であり、特に好ましくは70-100mMである。イオン強度調節用には、K、Ca等のカチオンであればどのようなものでも利用できるが、配位子に強く結合してしまわないものが特に望まれる。

【0047】
抗菌性金属塩の使用量は、抗菌性に特に優れた銀の場合では、0.l-20mM程度の微量でよいし、この添加量は用途に合わせて自由に変えることができる。Fe、Cu、Zr、Zn等の抗菌性が中程度の金属塩では、添加すべき抗菌性金属の量は多い方が望ましく、通常は、l-70mMでよい。このように反応系のイオン強度を一定にして、絹フィブロインに金属イオンを配位させる反応を進めるイオン強度調節用の中性塩を加える。通常は、カリウム塩がこの目的のために好ましく用いられる。更に、この反応系のpHを、アルカリ水溶液添加によりpH9-12に調整しておくことが望ましい。アルカリ水溶液として用いられるアルカリ剤は、従来公知のものはいずれも利用できる。たとえば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水溶液が挙げられ、好ましくはアンモニア水溶液が挙げられる。これらのアルカリ水溶液は単独で用いても、又は組み合わせて用いてもよい。これらのアルカリ水溶液を添加して反応系のpHを9以上に上げることで絹フィブロインヘの抗菌性金属イオンの配位が容易となる。その理由は、絹蛋白質が両性物質であり、構成アミノ酸側のカルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)に関し、試料環境のpHが上がると金属イオンの配位子となる蛋白質のアミノ酸側鎖からプロトンが抜けて、抗菌性金属イオンが配位し易い構造を取るようになるためである。すなわち、試料環境のpHが3以上となると、先ず、次の反応が起こる。

【0048】
-COOHからプロトンが抜けて → -COO- → -COO-M
次いで、試料環境のpHがそれ以上になると、上記の反応に加えて更に次の反応が起こる。

【0049】
S-NH3+からプロトンが抜けて → S-NH2-M
(但し、S及びMはそれぞれ、S:絹蛋白質、M:抗菌性金属を意味する。)
絹フィブロイン等の生体高分子に抗菌性金属イオンが配位する際には、金属イオンが生体高分子を構成する塩基性アミノ酸側鎖(リジン、アルギニン、ヒスチジン)及び/又は生体高分子主鎖のNH基、あるいはCO基との間に可能な限りの配位結合が形成するものと考えられる。

【0050】
絹フィブロインの等電点は3.8付近であるので、絹フィブロインの環境のpHを下げて等電点以下とすると、反応系の絹フィブロインが凝固してしまうため不都合である。また、pHが13以上となると、アルカリにより絹フィブロインの加水分解が起こり低分子化するので好ましくない。

【0051】
抗菌性金属のイオン価の違いにより、働きうるイオンの数を一定にする必要がある。そのためには、硝酸カリウムを必要に応じて添加する必要がある。

【0052】
pH調節用にアンモニア水溶液を用いる理由は、金属のアンモニウム塩が、抗菌性金属の配位子にアンモニウムイオン等のカウンターイオンが入って安定し、かつ抗菌性金属の沈殿が起こり難いためである。

【0053】
【実施例】次に本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。

【0054】
以下の実施例において抗菌性評価のために用いた植物性病原細菌として、トマトの重要な病原細菌であり、植物性病原細菌の中でも数少ないグラム陽性菌としてのトマトかいよう病菌(学術名:Corynebacterium michiganese pv. michiganese)を選んだ。

【0055】
実施例中の細菌に対する抗菌活性評価は下記の方法により行った。

【0056】
細菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後55℃に保持した半合成脇本培地又はキングB培地25mlと、検定菌の胞子液(濃度109/ml)2mlとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固めた。この菌液混合平板培地上に約2cmの長さ(幅:0.1cm)に切断した細菌検定用の繊維状試料を置き、ピンセットで注意深く検定試料の両端を培地に埋め込み、試料全体を培地に密着させた。絹織物の場合は、5mm角にハサミで切断して繊維状試料の場合と同様に抗菌実験を行った。培地を20~25℃に保ち、所定の経過時間毎に検定試料付近の培地での菌増殖阻害程度を下記の判定基準により4段階で評価した。但し、阻止帯の幅が大きいものについては、実測値(mm)で表示した。また、27Wの蛍光灯下で30cmの明るい位置に培養容器を置いて行った抗菌評価実験については「明」と記述した。「明」の標記のないものは、黒い布をかけて光を遮断した状態で抗菌実験を行った。

【0057】
++:強い(明瞭で幅2mm以上の菌増殖阻止帯を形成)
+ :弱い(不明瞭な阻止帯、又は幅1mm以下の明瞭な阻止帯を形成)
± :軽微(わずかに阻害が認められる)
- :抗菌活性は認められない。

【0058】
また、金属イオンを配位することにより試料の機械的特性がどのように変化するかを調べる目的で次の項目の試験を行った。

【0059】
機械的特性:絹繊維、羊毛ならびに絹フィブロイン膜の機械的性質(強度及び伸度)を測定し、切断時の試料の強度と伸度を評価した。測定条件は、試料の長さ15mm及び幅2mm、引張り速度4mm/min、チャートフルスケール200gであり、(株)島津製作所製引張り試験機(オートグラフ、形式AGS-5D)により測定した。

【0060】
フーリエ変換赤外吸収スペクトル:パーキンエルマー社製のFT-IRスペクトル(フーリエ変換赤外吸収スペクトル)測定装置を用いて金属錯体を形成した絹フィブロイン膜の分子形態に関する吸収スペクトルを観察した。測定波数は、2000~400cm-1、測定の繰り返し数は20回であった。

【0061】
実施例1
JIS染色堅ろう度試験用の14目付の家蚕絹織物(JIS L0803準拠)(以下、絹織物と略記する)ヘのエチレンジアミン四酢酸・二無水物(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製、カタログ番号33,204-6、以下EDTA無水物と略記)による処理を次のようにして行った。先ず、絹織物を105℃の乾燥器に2時間入れて試料重量を計量した(W1)。l0mLの無水DMFを50mL容量のナス型フラスコに取り、EDTA無水物2gを加えてよく溶解させた。その後、約0.12gの絹織物を入れ、これに逆流冷却器を付け75℃で反応させた。なお、反応時間は、2時間、及び5時間に設定した。反応終了後、試料に付着する未反応試薬を除去するため先ずDMFで洗浄し、続いて55℃のアセトンで試料を洗浄した。最後に水で洗った後、105℃で2時間の乾燥処理後、絶乾重量(W2)を測定した。反応前後における試料の重量増加の変化から重量増加率(WG)を次式により求めた。

【0062】
WG=(W2一W1)/Wl×l00(%)
75℃で2時間及び5時間反応させることで重量増加率がそれぞれ7、12%の加工絹織物が調製できた。これらの試料を以下、No.l、No.2と略記する。

【0063】
こうして調製できる絹織物を次の方法により硝酸銀水溶液及び硝酸銅水溶液に浸漬することで抗菌性金属イオンを配位させた。339.7mgの硝酸銀AgNO3を4mLの水に溶解して0.5mMの硝酸銀溶液を作製した。この中に硝酸カリウム(KNO3)を505.6mg加え、1Nのアンモニア水を用いてこの混合水溶液のpHを11.4に調整し、最後に水を加えて全量を60mLとした。こうして調製できる浸漬用の硝酸銀水溶液に、EDTA無水物で処理し重量増加率が7%(No.1)及び12%(No.2)の絹織物を25℃で浸漬し36時間密封して放置した。反応終了後、lNのアンモニア水に硝酸銀水溶液から取り出した絹織物を入れ、5時間静置後、取り出して室温で風乾させた。このようにして銀イオンを配位させた絹織物を調製した。試料No.1に銀イオンを配位させた試料を以下試料No.1-1、No.2-1と略記する。EDTA無水物未処理、未加工絹織物を硝酸銀水溶液に浸漬したものを試料No.3と略記する。

【0064】
上記の同様の方法でEDTA無水物で化学修飾加工し、重量増加率が7%(No.1)と12%(No.2)の絹織物に銅イオンを配位させた。すなわち、4mLの水に483.2mgのCu(NO32・3H2Oを溶解させ、0.5mMの水溶液を調製した。lNのアンモニア水でこの水溶液のpHを11.4に調整し、水を加えて溶液の全量を60mLとした。反応終了後、1Nアンモニア水に硝酸銅水溶液から取り出した絹織物を入れ、5時間静置後取り出して、これを室温で風乾させた。このようにして銅イオンを吸着・配位させた絹織物を調製した。これを以下試料No.1-2、No.2-2と略記する。EDTA無水物未処理・未加工絹織物を硝酸銅水溶液に浸漬したものを試料No.4と略記する。

【0065】
トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすこれらの試料の阻害効果を評価した。試料の外周に現れる阻止円(mm)を測定した。得られた結果を表1に示す。

【0066】
【表1】
JP0003081916B2_000002t.gif【0067】表1から、抗菌性金属としては、銀イオンの方が銅イオンより抗菌性が高いこと、重量増加率、すなわち絹織物へのEDTA導入量が多い程抗菌性が向上することが分かる。

【0068】
実施例2
実施例lと同様の方法でEDTA無水物を用いて羊毛への化学修飾を行った。但し、反応温度は75℃で、反応時間は1、2、3、5時間に設定した。30mLの無水DMFに3gのEDTA無水物を溶解させた溶液中で化学処理を行った。このようにして重量増加率がそれぞれ、5.9、12.2、14.5、18.1%の加工羊毛を調製した。以下、これらの試料をNo.5、6、7、8と略記する。No.5に実施例1と同様の方法で銀イオンあるいは銅イオンを配位させたものを以下、No.5-1、No.5-2と略記する。同様に、No.6に銀イオンあるいは銅イオンを配位させたものを以下、No.6-l、No.6-2と略記する。EDTA無水物未加工の羊毛に実施例1と同様の方法で銀イオン、又は銅イオンを付着させたものを以下、No.9、No.10と略記する。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすこれら試料の阻害効果を評価した。得られた結果を表2に示す。

【0069】
【表2】
JP0003081916B2_000003t.gif【0070】表2から、表1でも明らかなとおり銀イオンの抗菌性が銅イオンの抗菌性よりも優れていること、絹織物に抗菌性金属イオンを単に吸着させるよりも、まずEDTAを試料内に導入しておき、しかる後にこの試料に抗菌性金属を導入する方が抗菌性が向上すること、さらに絹織物へのEDTA導入量が多い程抗菌性が向上することが分かる。

【0071】
参考例1:タンニン酸の吸着量の検証
4.7重量%タンニン酸水溶液100mLに1.13mLの1N硫酸水溶液を加えた場合と加えない場合、家蚕絹糸、柞蚕絹糸、及び羊毛ではどの程度のタンニン酸が吸着するかを浸漬処理前後の試料重量変化の値から検討した。浴比は1:100、処理温度70℃、反応時問は20分~7時間まで変化させた。各試料に対する具体的な浸漬処理時間は表3を参照のこと。反応後、試料を水で洗って乾燥後重量を測定した。得られた結果を表3に示す。なお、硫酸を添加したタンニン酸処理区で羊毛を処理してタンニン酸を導入し重量増加率が6%、8%となった試料を以下、No.11、No.12と略記する。同様に硫酸を添加したタンニン酸処理区で家蚕絹糸を処理してタンニン酸を導入し、重量増加率が9、11、18%となった試料を以下、No.13、No.14、No.15と略記する。

【0072】
なお、硫酸を添加したタンニン酸処理区で羊毛を処理してタンニン酸を導入し重量増加率が6%、8%となった試料を以下、No.11、No.12と略記する。同様に硫酸を添加したタンニン酸処理区で家蚕絹糸を処理してタンニン酸を導入し、重量増加率が9、11、18%となった試料を以下、No.13、No.14、No.15と略記する。

【0073】
【表3】
JP0003081916B2_000004t.gif【0074】上記と同様の方法で合成高分子繊維、天然繊維高分子を含む各種素材をタンニン酸水溶液(硫酸添加)に浸漬することでタンニン酸がどの程度導入されたかを調べた。得られた結果を表4に示す。

【0075】
【表4】
JP0003081916B2_000005t.gif【0076】表4から明らかなように、硫酸水溶液を含むタンニン酸水溶液に各種高分子素材を入れ浸漬処理後の重量増加量をみると、ポリアミド繊維、ジアセテート、木綿でタンニン酸が多く吸着されていることが確認された。タンニン酸を吸着せしめたジアセテート、ポリアミド、木綿、及びアクリルの繊維状試料に、実施例1と同様にして、トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす銀イオンを配位させた各種繊維の阻害効果を評価した。各試料の阻止円の大きさをmmで表示すると、それぞれ、10、16、4、及び2であった。

【0077】
実施例
実施例lと同様の方法で羊毛への化学修飾を行った。EDTA無水物で化学修飾した羊毛であって金属イオンを錯体化させてない羊毛及び金属イオンを配位させた羊毛を用いて、それらの試料をを切断するまで延伸したときの強度と伸度を測定した。得られた結果を表5に示す。

【0078】
【表5】
JP0003081916B2_000006t.gif【0079】注)*:羊毛に実施例1と同様の方法で銅イオンを直接配位させた試料
**:羊毛に EDTA を5.9%導入した後、銅イオンを配位させた試料
***:羊毛にタンニンを6.2%導入した後、銅イオンを配位させた試料
EDTAによる化学修飾した羊毛あるいはタンニン酸水溶液により浸漬処理した羊毛でほぼ同一の重量増加率を示したが、タンニン酸処理した羊毛では強度低下が生じた。EDTAによる化学修飾では羊毛の機械的特性の低下割合が小さいことが確かめられた。

【0080】
実施例
実施例1及び2と同様の方法で家蚕絹フィブロイン繊維へのEDTA(実施例)及びタンニン酸(参考例)による化学修飾を行った。但し、反応温度は75℃で、反応時間は1、2、3、5時間であった。このようにして重量増加率がそれぞれ、表6に示すような加工絹フィブロイン繊維を調製した。EDTA無水物又はタンニン酸で化学修飾した絹フィブロイン繊維及びこれにさらに金属イオンを配位させた絹フィブロイン繊維を用いて、これらの試料を切断するまで延伸したときの強度と伸度を測定し、得られた結果を表6に示す。

【0081】
【表6】
JP0003081916B2_000007t.gif【0082】注)*:家蚕絹糸に実施例1と同様に銅イオンを直接配位させた試料
**:家蚕絹糸に EDTA を11.1%導入した後、銅イオンを配位させた試料
***:家蚕絹糸にタンニンを11.2%導入した後、銅イオンを配位させた試料
タンニン酸処理した家蚕絹糸の強度、伸度は、EDTAによる化学修飾加工の結果、重量増加率がほぼ同一の試料の強度、伸度に比べて低下が目立つ。EDTA無水物による処理を行っても家蚕絹糸の機械的性質の低下は見られない。

【0083】
実施例
実施例1で調製した試料No.3、2-1を水洗いして抗菌性金属の洗濯耐久性を評価した。試料に導入した抗菌性金属が流出し易いように、pH3.8に調整した25℃の酢酸水溶液に試料No.3、2-1を10時間浸漬し静置した。浸漬処理後は、水洗いをして風乾した。こうして得られる試料を試料No.301、211と略記する。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす阻害効果を評価した。試料の6周に現れる阻止円(mm)を測定し、得られた結果を表7に示す。

【0084】
【表7】
JP0003081916B2_000008t.gif【0085】表7から明らかなように、絹織物に銀イオンを単に吸着させた試料の抗菌活性は、浸漬処理をした場合、低下してしまうが、EDTAをスペーサーとして銀イオンと錯体化させた試料は、浸漬処理をしても抗菌性の低下が僅かとなる。EDTAを家蚕絹に導入しておくことにより銀イオンの脱離量が極微量となるからである。

【0086】
実施例 銀イオンで錯体化した木綿糸
木綿糸を実施例1と同様の方法で硝酸銀水溶液、あるいは硝酸銅水溶液に浸積処理した。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすこの2種の試料の阻害効果を評価したところいずれの場合も試料の外周に現れる阻止円の大きさは3.5mmであった。

【0087】
実施例
2.5gの家蚕絹糸を55℃の8.5M臭化リチウム水溶液20mL中に完全に溶解せしめ、この水溶液をセルロース製透析膜にいれて、5℃で5日間純水と置換することで不純物を除去して純粋な絹フィブロイン水溶液を調製した。かくして調製された絹フィブロイン水溶液に蒸留水を加え、絶乾濃度が0.4%となるように絹フィブロイン水溶液の原液を調製した。

【0088】
2mLの水に6.8mgの硝酸銀AgNO3 を溶解させて0.02mol/Lの硝酸銀水溶液を調製した。これとは別に、16.2mgの硝酸カリウムを2mLの水に加えて0.08mol/Lの硝酸カリウム水溶液を調製した。硝酸銀水溶液と硝酸カリウム水溶液とを1mL等量宛混合した後、この混合水溶液に0.4%フィブロイン水溶液10mL、13mLの水を加えて全液量を25mLとした。これに1Nのアンモニア水を加えてpHを11.4に調整し、5℃に保った冷蔵庫に12時間放置した。この水溶液をセルロース製の透析膜に入れ、pH11.4のアンモニア水溶液で透析した。このようにしてできる試料水溶液をポリエチレン膜上に広げ、20℃でl昼夜かけて水分を蒸発させることにより、銀で錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製し、抗菌性評価試験を行った。この試料を以下、AgSFと略記する。なお、調製条件の中で、金属塩量と硝酸カリウムの添加量だけを変えることにより得られる絹フィブロイン膜試料を以降、AgF1、AgF2、AgF3と略記する。同様にして銀の代わりにCu、Coを錯体とした絹フィブロイン膜を調製した。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす金属錯体化絹フィブロイン膜の阻害効果を評価し、得られた結果を表8に示す。表8中、CuSF1及びCoSF1はそれぞれ、以下の実施例10及び13記載の方法に従って調製したものであり、本実施例のAgイオンの代わりにCuイオン、Coイオンが同様に配位された絹フィブロイン膜である。また、「明」は抗菌実験を明るい環境下で行った場合であり、本明細書中「明」の表示のないものは全て暗い環境下で行った場合であることを意味する。勿論、「暗」と表示されていれば、暗い環境下で行ったものを意味する。

【0089】
【表8】
JP0003081916B2_000009t.gif【0090】表8から明らかなように、絹フィブロインに銀イオンを錯体化した膜状試料は高い抗菌活性を示した。また、コバルトを錯体化した絹フィブロイン膜も銀イオンの場合と同様に高い抗菌活性を示しており(抗菌実験の環境が暗い「暗」の場合)、コバルトイオンの場合には特に、抗菌実験が明るい環境下で行われた時には、銀イオンの場合及びコバルトイオンの暗い環境下での場合よりも2倍程度高い抗菌活性を示した。

【0091】
実施例:銅イオンで錯体化した絹フィブロイン膜
2mLの水に14.5gの硝酸銅(Cu(NO32・3H2O)を溶解させて0.06mol/Lの銅イオン水溶液を調製した。これに0.4%絹フィブロイン水溶液l0mL、13mLの水を加えて全液量を25mLとした。これにlNのアンモニア水を加えてpHを11.4に調整し、5℃に保った冷蔵庫に12時間放置した。実施例と同様の方法で、処理後、セルロース製の透析膜を用いて同一pHのアンモニア水で透析後、銅で錯体化した絹フィブロイン(CuSF)の透明な膜を調製した。銅錯体化絹フィブロイン膜の強度及び伸度を調べ、得られた結果を表9に示す。なお、メタノール、10分、60分区は、絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜上で蒸発乾固させ調製できる絹フィブロイン膜を50%(v/v)のメタノール水溶液に入れ、それぞれ10分、60分浸漬処理したのち室温で乾燥した試料である。

【0092】
【表9】
JP0003081916B2_000010t.gif【0093】
(注)試料長:15mm
チャート速度:500mm/min
延伸率:4mm/min
チャートフルスケール:500gf
絹フィブロインの膜厚:20μm
表9から明らかなように、50%のメタノール水溶液で10分間処理した絹フィブロイン膜は、0.6%引き伸ばしても破れてしまう程の機械的もろさを示すが、銀イオンや、ジルコニウムイオンと錯体化させることで、若干柔軟性を帯び、膜の切断強度が増加するなどの変化が見られる。

【0094】
実施例:銅イオンで錯体化した絹フィブロイン膜
2mLの水に28.9mgのCu(NO32・3H2Oを溶解させて0.06mol/Lの硝酸銅水溶液を調製した。これとは別に、505.6mgの硝酸カリウムを2mLの水に加えて2.5mol/Lの硝酸カリウム水溶液を調製した。硝酸銀水溶液と硝酸カリウム水溶液とを1mL等量宛混合した後、この混合水溶液に0.4%絹フィブロイン水溶液10mL、13mLの水を加えて全液量を25mLとした。これに1Nのアンモニア水を加えてpHを11.4に調整し、5℃に保った冷蔵庫に12時間放置した。この水溶液をセルロース製の透析膜に入れ、pHll.4のアンモニア水溶液で透析した。このようにしてできる試料水溶液をポリエチレン膜上に広げ、20℃で1昼夜かけて蒸発させることにより、銅で錯体化した絹フィブロイン(CuSF)の透明な膜を調製した。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす銅錯体化絹フィブロイン膜の阻害効果を評価し、得られた結果を表8に示す。

【0095】
実施例10:鉄イオンで錯体化した絹フィブロイン膜
33.4mgのFeSO4・7H2Oを2mLの水に溶解して0.02mol/Lの硝酸鉄水溶液を調製した。また、871.4mgのK2SO4に、2mLの水を入れて0.08mol/LのK2SO4水溶液を調製した。各水溶液1mLづつを等量宛混合した後、この混合水溶液に0.4%絹フィブロイン水溶液10mL、13mLの水を加えて全液量を25mLとした。これに1Nのアンモニア水を加えてpHを11.4に調整した。この水溶液をセルロース製の透析膜に入れ、pH11.4のアンモニア水溶液で透析した。このようにしてできる試料水溶液をポリエチレン膜上に広げ、20℃で1昼夜かけて蒸発させることにより、鉄イオンで錯体化した絹フィブロイン(FeSF)の透明な膜を調製した。

【0096】
実施例11:ジルコニウムで錯体化した絹フィブロイン膜
実施例における硝酸銀の代わりに、22.0mgのZrSO4 を用いて同様の方法でZrで錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以下、ZrSFと略記する。

【0097】
実施例12:コバルトで錯体化した絹フィブロイン膜
実施例における硝酸銀の代わりに、34.9mgのCo(NO32・3H2Oを用いて同様の方法でCoで錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以下、CoSFと略記する。

【0098】
表8に示すとおり、コバルトで錯体化させた絹フィブロイン膜は、トマトかいよう病細菌の増殖を極めて効率的に阻止していることが分かったため、次に、コバルトで配位した絹フィブロイン膜の分子形態を評価するためFT-IRスペクトル測定を行った。FT-IRスペクトルの測定で観察できる吸収の波数(cm-1)を測定し、得られた結果を表10に示す。

【0099】
【表10】
JP0003081916B2_000011t.gif【0100】(注):( )内は、吸収スペクトルの強度を次の4段階で示した。

【0101】
vw:非常に弱い m:中程度 s:強い vs:非常に強い
実施例13:ニッケルで錯体化した絹フィブロイン膜
実施例における硝酸銀の代わりに、34.9mgのNi(NO3)2・6H2Oを用いて同様の方法でNiで錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以下、NiSFと略記する。

【0102】
実施例14:亜鉛で錯体化した絹フィブロイン膜
実施例における硝酸銀の代わりに、35.7mgのZn(NO3)2・6H2Oを用いて同様の方法でZnで錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以下、ZnSFと略記する。

【0103】
実施例15:マンガンで錯体化した絹フィブロイン膜
実施例における硝酸銀の代わりに、34.4mgのMn(NO3)2・6H2Oを用いて同様の方法でMnで錯体化した絹フィブロインの透明な膜を調製した。これを以下、MnSFと略記する。

【0104】
実施例16
実施例7~15で調製した各種金属錯体化絹フィブロイン膜の形態的、理化学的特徴を調べ、得られた結果を表11に示す。表中、金属錯体を含んだ絹フィブロイン膜の形態的特徴の評価基準は次の通りであった。

【0105】
透明性:+透明、-不透明 強度:+あり、-なし
水に対する溶解性:+溶解、-不溶

【0106】
【表11】
JP0003081916B2_000012t.gif【0107】注)金属塩量は、金属の種類の違いにより、結晶水を含むものと含まないものとがある。

【0108】
*:硫酸カリウムを使用、その他は硝酸カリウムを使用。

【0109】
実施例17:浸透処理による金属イオンの流出の検証7
実施例1及び2の方法に従って、絹織物及び羊毛のそれぞれにEDTA無水物(実施例)で化学修飾したもの又はタンニン酸(参考例)を反応させたものに銀イオンを配位させた。EDTA無水物及びタンニン酸による重量増加率の導入率は、それぞれ10.3%、10.5%であった。

【0110】
酢酸水溶液でpH3.5にした洗浄液に試料を入れ、振盪機を用いて15時間、及び5日間振盪処理し、更に水洗いした試料の抗菌活性の実験を行った。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす各種試料の阻害効果を評価した。得られた結果を阻止円の直径(mm)で表12に示す。

【0111】
【表12】
JP0003081916B2_000013t.gif【0112】表12から明らかなように、EDTAを導入し、銀イオンで錯体化した絹織物は、振盪時間が120時間になっても抗菌活性の変化はない。タンニン酸で処理し、銀イオンで錯体化した試料では銀イオンが極僅か脱離し、抗菌活性が若干低下する。

【0113】
実施例18:EDTA処理した絹織物、羊毛をAg、Coで配位
実施例1及び2の方法に従って、絹織物及び羊毛のそれぞれにEDTA無水物で化学修飾したものに銀イオン、コバルトイオンを配位させた。EDTA無水物の導入率は0%、10%、16%であった。これらの試料について、抗菌活性を調べた。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすこれらの試料の阻害効果を評価した。得られた結果を阻止円の直径(mm)で表13に示す。

【0114】
【表13】
JP0003081916B2_000014t.gif【0115】表13から明らかなように、EDTA無水物で化学修飾した絹織物にCoイオンが配位するとAgイオンが配位した場合よりも抗菌性が向上する。また、Coイオンを配位させた試料では、抗菌性の評価条件を「明」、すなわち光をあてて明るくした条件下で行うことで抗菌力が増加することが分かる。

【0116】
実施例19:絹フィブロインと金属イオンとの錯体形成の検証
実施例で製造した水溶液状態の金属錯体化絹フィブロインのpH滴定曲線を文献(高分子論文集、51巻、167-171(1994))に示された方法で求めた。得られた結果において、消費された-OHの量を金属1イオン当たりに換算してpHに対してプロットすると複数の階段状ステップ部位が認められたことから、絹フィブロインに金属イオンが配位していることが確かめられた。

【0117】
実施例20:絹フィブロイン水溶液中での金属錯体の検証
3.6mMの金属イオン(Cu、Co、Fe、Ni)とイオン強度調整用には50mM硝酸カリウムとを含む0.31重量%の絹フィブロインの混合水溶液のpHをアンモニア水溶液で11.4に調整した。なお、Feイオン調整用には50mMの硫酸カリウムを用いた。このようにして調製した金属イオンを含む絹フィブロイン水溶液を1mLの石英製の角形セルに入れ、電子スペクトル測定装置(日立製作所製、U-3200)で吸光度を測定した。測定の波数範囲は200-500nmであった。金属イオンを含む絹フィブロインの水溶液の電子スペクトルには、絹フィブロインのみ、及び金属イオンのみの水溶液では全く見られない新しい吸収が出現した。新しく表れた吸収の波数(nm)と吸収の形態を表14に示す。

【0118】
【表14】
JP0003081916B2_000015t.gif【0119】表記の吸収ピークはd-d遷移に基づくものであり、絹フィブロインと金属イオンとが錯体を確かに形成していることを実証している。従って、金属イオンを含む絹フィブロイン水溶液を乾燥固化させて得た絹フィブロイン膜の場合も金属イオンが錯体を形成している。

【0120】
参考例2
シグマ社製のカテキン([+]-カテキン、C1251又は[±]-カテキン、C1788)5mgを20mlの水に溶解させ、これを50mlの三角フラスコに取り、この中に3cm四方の絹織物を浸漬し、70℃で2時間加熱処理した。反応終了後水洗いして室温で風乾させた。実施例1と同様にして、硝酸銀水溶液にカテキン処理した絹織物を浸漬し、これに銀イオンを配位させた。カテキン処理をしない未加工絹織物に銀イオンを配位させたものに比べて、カテキン処理した絹織物に銀イオンを配位させたものは、銀イオン吸着による着色程度が増加しており、カテキン処理した絹織物に銀イオンが多く配位していることが確かめられた。

【0121】
金属イオンを配位させていないカテキン処理しただけの絹織物(カテキン処理絹織物)、ならびにカテキン処理した絹織物に実施例1で用いた銀イオンの代わりに銅イオンを配位させた絹織物(カテキン・銅錯体化絹織物)の抗菌活性を評価した。トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼすこれら試料の阻害効果を調べた。カテキン処理絹織物には不明瞭であるが直径3mmの阻止円と比較的明瞭な直径5mmの阻止円が、またカテキン・銅錯体化絹織物では、22mmの阻止円が現れた。

【0122】
カテキンをあらかじめ絹織物に作用させるだけでも病原細菌の増殖を阻止する効果が見られるが、カテキン処理絹織物に銅イオンを錯体化させることで、さらに抗菌活性は目立って増加した。

【0123】
実施例21:家蚕及び羊毛へのMAAグラフト加工
家蚕絹糸及び羊毛繊維それぞれへのグラフト加工を、次のようにして行った。重合用モノマーとしてMAAを用い、家蚕絹糸に対してはMAA濃度を70%owf、150%owf、羊毛に対してはMAA濃度を100%owf、150%owfに設定した。グラフト加工用溶液には、MAAの他に12重量%ニューカルゲン1515-2H(商品名、竹本油脂(株)製非イオン界面活性剤/アニオン界面活性剤の混合界面活性剤)、過硫酸アンモニウム1.8%owf(蛋白質繊維とMAAとの合計重量に対する濃度表示)を加え、更に蟻酸2ml/Lを添加してグラフト系のpHを3.1に調整した。グラフト加工系の温度を20℃から80℃に20分かけて昇温し、80℃に1時間保持してグラフト重合反応を行った。グラフト重合反応後、蛋白質繊維又はその繊維製品を取り出して洗浄し、乾燥した。家蚕絹糸についてはグラフト加工率43%(MAA濃度70owfの場合)、102%(MAA濃度150owfの場合)の加工試料を、また羊毛についてはグラフト加工率22%(MAA濃度100owfの場合)、41%(MAA濃度150owfの場合)の加工試料を調製した。このようにして調製した家蚕絹糸及び羊毛を70℃の4.76重量%濃度のタンニン酸水溶液に浸漬した。家蚕絹糸では60分、羊毛では3時間静置することでタンニン酸を吸着させた。なお羊毛処理時には100mlのタンニン酸水溶液に1N硫酸を1.13ml加えpH調整を行った。浴比は1:100に設定した。処理前後の試料重量の測定によりタンニン酸が試料重量の何%導入されたかを測定し、得られた結果を表15に示す

【0124】
【表15】
JP0003081916B2_000016t.gif【0125】表15から明らかなように、家蚕絹糸や羊毛などの蛋白質繊維を予めグラフト加工により繊維内にメタクリルアミドポリマーを充填させておき、これをタンニン酸水溶液に浸漬処理するだけで、繊維内にタンニン酸の導入量を増加させることができる。これを抗菌性金属イオン水溶液に浸漬処理することにより抗菌性金属イオンを配位させることができ、トマトかいよう病細菌の増殖を抑制する抗菌性素材が調製できた。

【0126】
【発明の効果】本発明によれば、絹蛋白質や羊毛等の天然繊維あるいは合成繊維に、化学修飾法で抗菌性金属イオンを配位させることが可能な配位基を有するスペーサーを予め導入し、その後、抗菌性金属イオンを配位させているため、洗濯等の処理に対しても耐久性に優れ、抗菌スペクトルの広い抗菌性素材が提供できる。この抗菌性素材は、植物由来のトマトかいよう病菌の増殖を阻害することができるという効果を持つ。

【0127】
動物蛋白質繊維では、多塩基酸の無水物を反応させてアシル化反応でスペーサーを導入しているので、抗菌性金属イオンがスペーサーの配位基に確実に配位し、洗濯、ドライクリーニングを行っても金属が脱離することもなく、耐久性に優れた抗菌性素材として利用できる。

【0128】
絹フィブロイン水溶液に抗菌性金属水溶液を作用させて調製した抗菌性絹フィブロイン水溶液を用いると、膜状、多孔質体状、ブロック状、粉末状、ゲル状等形がさまざまに異なる抗菌性蛋白質を形成することができる。所望により、上記抗菌性絹フィブロイン水溶液物体の表面上にスプレーし、乾燥固化してできる薄膜を不溶化させれば耐久性に富んだ抗菌性薄膜を核物体の表面に被覆することができる。