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明細書 :絹蛋白質/コラーゲン複合体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第2955653号 (P2955653)
公開番号 特開平11-228837 (P1999-228837A)
登録日 平成11年7月23日(1999.7.23)
発行日 平成11年10月4日(1999.10.4)
公開日 平成11年8月24日(1999.8.24)
発明の名称または考案の名称 絹蛋白質/コラーゲン複合体およびその製造方法
国際特許分類 C08L 89/00      
C08J  3/03      
C08J  3/075     
C08L 89/04      
D01C  3/00      
FI C08L 89/00
C08L 89/04
D01C 3/00
C08J 3/03
請求項の数または発明の数 7
全頁数 10
出願番号 特願平10-033010 (P1998-033010)
出願日 平成10年2月16日(1998.2.16)
審査請求日 平成10年2月16日(1998.2.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】塚田 益裕
【氏名】白田 昭
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 欣一 (外3名)
審査官 【審査官】佐藤 邦彦
参考文献・文献 特開 昭62-145006(JP,A)
特開 平3-80095(JP,A)
調査した分野 C08L 89/00 - 89/06
C08J 3/03
C01C 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
カイコが吐糸して作る繭繊維の外側を膠着するセリシン、または該セリシンを除去して得た絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に溶解し、この水溶液をセルロース製の透析膜を用いて透析して得た水溶性絹フィブロイン、またはカイコ体内より取り出した絹糸腺内の水溶性絹セリシンもしくは水溶性絹フィブロインからなる0.01~10重量%の絹蛋白質水性溶液または水性分散液と、コラーゲン分子側鎖もしくはアテロコラーゲン分子側鎖の化学反応性活性部位にアシル化剤を反応させて得た水溶性もしくは水分散性のアシル化コラーゲンまたはアシル化アテロコラーゲンからなる0.1~5重量%のコラーゲン水性溶液または水性分散液とから得られる絹蛋白質/コラーゲン複合体。

【請求項2】
前記アシル化剤がC1~C4の二塩基酸の無水物またはC1~C15の一塩基酸の無水物であることを特徴とする請求項1記載の絹蛋白質/コラーゲン複合体。

【請求項3】
前記アシル化アテロコラーゲンが、サクシニル化アテロコラーゲンまたはミリスチル化アテロコラーゲンまたは両者の混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の絹蛋白質/コラーゲン複合体。

【請求項4】
前記コラーゲンとして、動物皮革由来のコラーゲンから蛋白質分解酵素でテロペプチドを除去して得られるアテロコラーゲンを使用することを特徴とする請求項1-3のいずれかに記載の絹蛋白質/コラーゲン複合体。

【請求項5】
前記請求項1~4のいずれかに記載の絹蛋白質/コラーゲン複合体がさらに水不溶化処理されたものであることを特徴とする水不溶化絹蛋白質/コラーゲン複合体。

【請求項6】
カイコが吐糸して作る繭繊維の外側を膠着するセリシン、または該セリシンを除去して得た絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に溶解し、この水溶液をセルロース製の透析膜を用いて透析して得た水溶性絹フィブロイン、またはカイコ体内より取り出した絹糸腺内の水溶性絹セリシンもしくは水溶性絹フィブロインからなる0.01~10重量%の絹蛋白質水性溶液または水性分散液と、コラーゲン分子側鎖もしくはアテロコラーゲン分子側鎖の化学反応性活性部位にアシル化剤を反応させて得た水溶性もしくは水分散性のアシル化コラーゲンまたはアシル化アテロコラーゲンからなる0.1~5重量%のコラーゲン水性溶液または水性分散液とを均一に混合し、この混合液体から膜状、ゲル状、粉末状または繊維状の絹蛋白質/コラーゲン複合体を得ることを特徴とする絹蛋白質/コラーゲン複合体の製造方法。

【請求項7】
前記請求項6に記載の絹蛋白質/コラーゲン複合体をさらに水不溶化処理することを特徴とする水不溶化絹蛋白質/コラーゲン複合体の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、絹蛋白質/コラーゲン複合体およびそれらの製造方法に関わり、更に詳しくは、昆虫生体高分子の絹蛋白質と、生体結合組織の主要な蛋白質であり、各種バイオ材料として利用価値の高いコラーゲンとを水性溶液または水性分散液の状態で混合することによって製造できる素材であり、優れた生体適合性を持つ絹蛋白質/コラーゲン複合体およびこれらの製造法に関する。

【0002】
【従来の技術】絹蛋白質は、カイコなどの昆虫が生産する昆虫生体高分子であり、従来から衣料材料として利用されてきた。絹蛋白質繊維が染色性、吸・放湿性、力学的特性などの実用特性に優れているため、従来より衣料材料として重宝されてきた。最近、絹蛋白質が有する優れた生体適合性に着目し、先端分野の医用材料として利用され始めるようになった。外科手術用縫合糸に絹糸を用いる歴史は11世紀にまで遡るといわれ、細菌処理が容易で、体内に埋め込んでも抗原抗体反応が起こり難いことから、付加価値の高いバイオ材料や医用材料としての利用が可能となりつつある。

【0003】
末梢静脈内試料被膜系留置法で、絹フィブロイン膜を静脈内に2週間留置しても、絹フィブロイン膜表面には血液の凝固が認められないことが知られている。このことから、絹蛋白質膜は血液と接触しても血液凝固が起こり難く、血液適合性の高い素材として使用できる。また、絹蛋白質膜は、その表面では生体細胞が良好に付着増殖するので、バイオ材料としても利用できる。例えば、絹フィブロイン膜を10%仔牛血清を含んだマウス由来の繊維芽細胞浮遊液に浸漬して細胞を培養すると、絹フィブロイン膜表面に細胞が良好に付着し、増殖することが確認されており(特公平4-41595号)、絹フィブロインを細胞培養床基材として利用することにより、有用な細胞を低コストで、かつ効率的に培養できる見通しが得られている。かくして、絹蛋白質を、細胞工学や免疫工学分野で利用できる。

【0004】
一方、コラーゲンは、動物由来の生体結合組織の主要な蛋白質であり、皮膚、血管、骨、歯など多くの組織に分布する。このコラーゲンは、天然生体高分子の中にあって、優れた生体機能を持ち、人工血管、人工臓器の材料として広く利用されていると共に、抗原抗体反応のメカニズムが分子レベルで解析されている。コラーゲンからなる繊維、膜は比較的優れた強度特性を示し、かつ生体組織との適合性が良いので、縫合糸として用いられている。コラーゲンはバイオ材料として重要視されており、また、コラーゲンの変性物であるゼラチンは人工臓器材料の表面被覆材としてなくてはならない材料である。コラーゲンは生体細胞や組織と優れた親和性を持つため、組織の治癒を促し自己と同等の組織にまで回復できるバイオ材料としても有望である。また、コラーゲンは血小板粘着、凝集に端を発する血栓形成に関与していることから、血液適合性に優れたバイオ材料を設計する上でも有益である。コラーゲンは、膜、糸、スポンジ、ゲルなど各種形状に加工できる。

【0005】
コラーゲンは、分子量が10万のペプチド鎖3本から構成され、三重らせんの構造を持つ。この三重らせん構造の両側には、数十個のアミノ酸からなるテロペプチドが存在する。抗原の原因となるこのテロペプチドを蛋白質分解酵素などにより除去したものが、アテロコラーゲンである。

【0006】
このように、昆虫生体高分子の絹蛋白質と動物由来のコラーゲンとは、それぞれが優れた生体機能を持つため、医用分野の先端領域で付加価値の高い利用が可能であるが、絹蛋白質とコラーゲンとの均一な複合体はいままで得られていない。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】したがって、上記した絹蛋白質およびコラーゲンのような天然素材を複合化させることにより、各成分が持つそれぞれの優れた機能を兼ね備えた、またはそれぞれの単独の機能を相乗的に兼ね備えた新規な生化学素材を得るための製造技術の開発が望まれてきた。

【0008】
例えば、絹フィブロイン水溶液は中性(pH6~7付近)であるが、この絹フィブロイン水溶液にコラーゲンの水溶液を混合すると、コラーゲン水溶液が酸性であるため、混合水溶液のpHが絹フィブロインの等電点3.8~4.0以下となり、絹フィブロインが沈殿してしまう。このように、従来技術では、絹フィブロイン水溶液とコラーゲン水溶液とは均一に混合できないという問題点があった。すなわち、従来法により絹フィブロイン水溶液とコラーゲン水溶液とを混合すると、コラーゲン酸性水溶液が混合水溶液のpHを低下させ、その結果絹フィブロインのpHが等電点以下となるため、絹フィブロインは沈殿してしまう。かくして、絹フィブロイン水溶液とコラーゲン水溶液とを均一に混合できないので、物理的に均一な複合膜を製造することは甚だしく困難であった。従って、絹フィブロイン水溶液とコラーゲン水溶液とを混合する際に、収率、効率、経済面で優れ、取り扱いが容易な調製技術であって、かつ絹フィブロインとコラーゲンとを分子レベルで混合させる技術の開発が望まれている。

【0009】
本発明の目的は、コラーゲンと絹蛋白質とを水性溶液または水性分散液状態で均一に混合させ、この混合液体から絹蛋白質/コラーゲン複合体を効率的に且つ経済的に製造することにある。

【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体は、昆虫由来、例えばカイコ由来の絹蛋白質繊維から得られる絹蛋白質とコラーゲンとの水性溶液または水性分散液から得られるものである。

【0011】
前記絹蛋白質としては、カイコが吐糸して作る繭繊維の外側を膠着するセリシン、または該セリシンを除去して得た絹フィブロイン繊維を中性塩水溶液中に溶解し、セルロース製の透析膜を用いて透析して得た水溶性絹フィブロイン、またはカイコ体内より取り出した絹糸腺内の水溶性絹セリシンまたは水溶性絹フィブロインを用いることができる。

【0012】
前記コラーゲンとしては、分子量10万のペプチド鎖3本から構成されるコラーゲン分子側鎖もしくはアテロコラーゲン(該コラーゲンの三重らせん構造の両側にある数十個のアミノ酸からなるテロペプチドを除去したもの)の分子側鎖の塩基性アミノ基あるいはセリン、チロシンの分子側鎖の水酸基にアシル化剤を反応させて得た水溶性もしくは水分散性のアシル化コラーゲンまたはアシル化アテロコラーゲン(中性pH域で水に可溶となる)を用いることができる。このアシル化剤として、C1~C4の二塩基酸の無水物またはC1~C5の一塩基酸の無水物を用いることが好ましい。また、アシル化アテロコラーゲンは、サクシニル化アテロコラーゲン、ミリスチル化アテロコラーゲン、または両者の混合物であることが好ましい。

【0013】
前記コラーゲンとして、動物皮革由来のコラーゲンからテロペプチドを蛋白質分解酵素で除去して得られるアテロコラーゲンを使用してもよい。

【0014】
本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体の製造法は、コラーゲンもしくはアテロコラーゲンをアシル化して得たアシル化コラーゲンまたはアシル化アテロコラーゲンと絹蛋白質との水性溶液または水性分散液から膜状、ゲル状、粉末状または繊維状の絹蛋白質/コラーゲン複合体を得ることを特徴とする。

【0015】
前記絹蛋白質/コラーゲン複合体は、生理活性物質、抗生物質、酵素、ホルモン、生体細胞、または微生物などを固定させるために使用できる。

【0016】
【発明の実施の形態】本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体は、化学反応性に富むリジン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性アミノ基を多く含んだ絹蛋白質と化学修飾したコラーゲンまたはアテロコラーゲンとから構成されるものであり、両者の試料から複合体を調製した後、所望により、常法にしたがって化学架橋剤、例えば、エポキシ化合物と反応させることにより任意の架橋度とすることができるので、水に対する溶解度を所望に応じて制御できる。

【0017】
本発明で用いる絹蛋白質繊維としては、家蚕(Bombyx mori)幼虫から得られる家蚕絹糸の他に、野蚕に属する柞蚕、天蚕、エリ蚕、ムガ蚕、シンジュ蚕の幼虫から得られる野蚕絹糸またはこれらの繊維製品の何れであっても使用できる。

【0018】
絹蛋白質繊維(絹糸)を溶解するためには、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム、チオシアン酸リチウムなどの中性塩の濃厚溶液中に絹糸を入れ加熱する方法が用いられる。溶解条件は、絹蛋白質の分子量を著しく低下させないことを基本とする。中性塩濃度は8.0~9.8重量%程度であればよく(濃い程良好)、溶解温度は25~70℃程度であればよい。溶解温度は60℃以下が好ましい。溶解温度が高温になると絹蛋白質の分子量が低下し、素材の高分子性が失われてしまう危険性がある。また、溶解時間は1~20分程度に設定することが好ましい。中性塩の中でも絹蛋白質繊維を良好に溶解するのは、絹フィブロイン繊維の溶解力に優れたリチウム塩であり、通常は臭化リチウムが好ましい。8M以上、好ましくは8.5M以上の臭化リチウムであれば、55℃以上で15分で絹蛋白質繊維は溶解する。

【0019】
絹蛋白質繊維を溶解した中性塩溶液から純粋な絹蛋白質水溶液を得るには、絹蛋白質の中性塩水溶液をセルロース製の透析膜にいれ、両端を縫糸でくくって室温の水道水または純水に4-5日間入れ、リチウムイオンを完全に除くことが必要である。

【0020】
本発明で用いるコラーゲンは、例えば、次のようにして得られる。仔牛皮膚の真皮を細かく切断し、クエン酸緩衝液を用い抽出する。抽出液を分離し、新しいクエン酸緩衝液で2回目の抽出を行う。これをガラスフィルターなどを用いて濾過した後、Na2HPO4を用いて透析する。コラーゲンの沈殿を遠心分離で集める。水洗い後、クエン酸緩衝液での再溶解、Na2HPO4透析を繰り返す。可溶性コラーゲンはこのように沈殿、再溶解を繰り返すことで得られる。

【0021】
コラーゲンまたはアテロコラーゲンをアシル化、例えば、サクシニル化したり、またはミリスチル化したりすることで製造できる化学修飾コラーゲンおよびアテロコラーゲンは、中性のpH領域で水に可溶になるという特性がある。そのため、この化学修飾コラーゲンまたはアテロコラーゲンを絹蛋白質水溶液と混合しても絹蛋白質が凝固しない。

【0022】
以下、コラーゲンを例にとり説明するが、アテロコラーゲンの場合も同じである。化学修飾を施してない未変性状態のコラーゲンは、その等電点(pH)が9.1であり、等電点を5以下にすると水溶性となる。コラーゲン分子のリジン側鎖を、例えば、サクシニル化すると、等電点が4.57となり、中性領域のpHで沈殿を生ずることなく可溶化する。すなわち、可溶性コラーゲンは、酸性水溶液中で可溶であるが、この水溶液のpHを上げるとpH5以上で繊維再生が起こり沈殿してしまう。しかし、サクシニル化、ミリスチル化などのアシル化により化学修飾したコラーゲンにはサクシニル基やミリスチル基などのアシル基が十分に導入され、または導入された分子中にCOOH基が付加するため負電荷リッチな分子環境にあり、中性pH領域においても水溶性を示すので、絹蛋白質水溶液と、化学修飾した、中性領域で可溶性のコラーゲンの水溶液とを均一に混合でき、または絹蛋白質水溶液中に化学修飾したコラーゲンをもしくは化学修飾したコラーゲンの水溶液中に絹蛋白質を均一に添加・混合できる。

【0023】
コラーゲンを水に溶解させるようにするための化学修飾方法としては、例えば、コラーゲンと二塩基酸無水物としてのコハク酸無水物とを反応させるサクシニル化反応、コラーゲンと一塩基酸無水物としてのミリスチン酸無水物とを反応させるミリスチル化反応などの従来の反応を利用できる。コラーゲンは、こうした反応により化学修飾されると、中性pH領域で水に可溶となり、絹蛋白質水溶液と複合化できるようになる。また、コラーゲンの電荷状態が変わることから、血液との反応性、細胞との相互作用、コラーゲンのHLB(hydrophilic-lipophilic balance)を容易に制御できる。さらに、血小板の粘着凝集反応を制御できることから、抗血栓表面を容易に形成せしめることが可能になる。

【0024】
本発明で用いる、例えば、スクシニル化処理、ミリスチル化処理などのアシル化処理は次のようにして行われる。コラーゲンを処理するためのアシル化剤、例えば、スクシニル化剤およびミルスチル化剤などの溶解可能な有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドの他、ピリジン、氷酢酸/酢酸混合溶媒などの使用も可能である。これらの有機溶媒の中で触媒効果を持つピリジンは特に優れた効果を発揮する。ジメチルホルムアミドなどの溶媒に反応触媒であるピリジンを添加した混合溶液系の使用も可能である。処理溶媒中の無水物の濃度は5~30重量%、望ましくは10~20重量%の範囲に設定するのがよい。処理条件としては処理溶媒中で30℃以上で1時間以上処理することが望ましい。

【0025】
本発明においては、サクシニル化剤、ミリスチル化剤のようなアシル化剤は、コラーゲンに対して、乾燥物基準で、3~20重量%、好ましくは5~15重量%が導入されるような量で反応させると良い。アシル化剤としては、C1~C4二塩基酸の無水物、例えば、C1:ジクリコール酸、C2:コハク酸、C3:グルタル酸、またはC4:アジビン酸が含まれ、また、C1~C15一塩基酸の無水物、例えば、C1:酢酸、C2:プロピオン酸、C5:カプロン酸、C8:カプリル酸、C11:ラウリル酸、C9:ミリスチン酸、またはC15:パルミチン酸を使用することができる。

【0026】
本発明において化学修飾剤(アシル化剤)を反応させる場合、コラーゲンの反応活性部位の中で、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸残基はサクシニル化剤、ミリスチル化剤のようなアシル化剤に対して強い反応性を持つ。また、これらのアシル化剤はセリン、チロシンの分子側鎖の水酸基とも反応する。しかし、結合の化学安定度がより高いのは、これらの薬剤とコラーゲンの塩基性の分子側鎖であるリジン、アルギニン、ヒスチジンなどとが結合した場合である。

【0027】
本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体に抗生物質などの有効成分を固定化させるには、例えば、複合体を調製する前の絹蛋白質水溶液とコラーゲン水溶液とを混合した水溶液に有効成分を溶かし、注意深くゆるやかに撹拌した後、ポリスチレン、ポリエチレンなどの基質膜上に広げて水分を蒸発するとよい。有効成分を固定化した絹蛋白質/コラーゲン複合体を調製するには、任意濃度の絹蛋白質水溶液あるいはコラーゲン水溶液が利用できる。しかし、これらの水溶液の取り扱い上、好ましい絹蛋白質濃度は0.01~10重量%、更に好ましくは0.1~5重量%である。絹蛋白質濃度が10重量%を超えると、水溶液の凝固速度が制御し難くなり、また、0.01重量%未満だと、試料濃度が希薄すぎ、試料水溶液量が逆に多過ぎてしまい、コラーゲン水溶液を混合する際の効率が悪くなる。また、絹蛋白質の希薄水溶液を用いるとコラーゲン水溶液との混合水溶液の蒸発乾燥時間が長くなり試料調製上の効率が低下するため好ましくない。コラーゲン水溶液濃度は0.1~5重量%であれば利用できる。好ましいコラーゲン水溶液は0.1~3重量%である。5重量%を超えるとコラーゲン水溶液は室温においてゲル化しやすく、蒸発乾固の際の取り扱いに不都合を生じる。

【0028】
絹蛋白質/コラーゲン複合体に固定できる有効成分の種類および量は特に制約されるものでなく、目的に合わせて任意に決めることができる。

【0029】
絹蛋白質水溶液とコラーゲン水溶液との混合水溶液、または有効物質を含んだこれらの混合水溶液を蒸発乾燥し、固化してできる複合体は水溶性である。得られた複合体を水溶液系で使用すると溶解してしまうため、水不溶性に変えておくと良い。そのためには、(1)ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなどのように蛋白質の分子間に架橋を形成する薬剤による処理、(2)エチレングリコール ジグリシジルエーテルのような2官能性のエポキシ化合物による化学処理、および(3)ヘキサメチレンジイソシアネートなどの架橋剤による処理をするとよい。水不溶化処理にあたっては、複合体に固定した有効成分の活性を低下させないように十分に配慮すれば、その他一般の試薬による不溶化処理あるいは紫外線による照射処理であってもよい。上記処理(1)および(2)の場合、試薬量を加減し、反応程度を変えることで複合体の不溶化程度を制御することができる。

【0030】
コラーゲンのサクシニル化は、例えば、ジメチルホルムアミドなどの溶媒中に無水コハク酸を溶解させて反応させるとコラーゲンのリジン残基がサクシニル化され、その結果導入されたリジン残基の分子中にCOO基が付加する。同様に有機溶媒中でコラーゲンにミリスチン酸無水物を反応させるとミリスチル基が導入されてリジン残基に導入された分子中にCOOH基が導入される。こうした化学修飾により調製できる修飾コラーゲンの等電点(pH)は4~5付近となり、中性付近でコラーゲン水溶液は沈殿を起こさない。

【0031】
本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体の場合、各成分の水性溶液もしくは水性分散液をそれぞれ別個に作成して、その後両者を均一に混合した混合液を、あるいは、両成分を一緒に均一に混合したもしくは一方を溶解・分散せしめた液に他方を溶解・分散せしめて均一に混合した一つの水性溶液または水性分散液を用いて、これをポリエチレン膜、ポリスチレン膜などの基質上に広げて水分を蒸発することによって複合膜が得られ、また、これに既知のゲル化剤を添加することによってゲル状複合体が得られ、また、既知の凍結乾燥法に従って粉末状複合体が得られる。

【0032】
【実施例】次に本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、絹フィブロインには多くの種類があるが、特にことわらない限り、家蚕幼虫に由来する絹フィブロインを用いた。

【0033】
以下の実施例では、植物性病原細菌として、普遍的な植物性病原細菌の代表であって、耐性菌が出現しやすく、多くの植物を犯す多犯性の腐敗病菌であり、植物性病原細菌の中でも数少ないグラム陽性菌としてトマトかいよう病菌(学術名:Corynebacterium michiganese pv.michiganese)を選んだ。

【0034】
実施例中の細菌および糸状菌に対する抗菌活性評価は下記の方法により行った。 A.細菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後55℃に保持した半合成脇本培地またはキングB培地25mlと、検定菌(濃度109-10個/ml)2mlとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固めた。この菌液混合平板培地上に約2cmの長さに切断した検定試料を置き、ピンセットで注意深く検定試料の両端を培地に埋め込み、膜状の試料全体を培地に密着させた。これを20~25℃に保ち、所定の経過時間毎に検定試料付近の培地での菌増殖阻害程度を下記の判定基準により4段階で評価した。但し、阻止帯の幅が大きいものについては、実測値(mm)で表示した。

【0035】
++:強い(明瞭で幅2mm以上の菌増殖阻止帯を形成)
+:弱い(不明瞭な阻止帯、または幅1mm以下の明瞭な阻止帯を形成)
±:軽微(わずかに阻害が認められる)
-:抗菌活性は認められない。

【0036】
B.糸状菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後55℃に保持したPSA培地と、検定菌の胞子液(濃度105-6個/ml)2mlとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固め、上記抗菌活性の評価の場合と同様に観察した。

【0037】
また、試料特性が、本発明のような複合体とした場合に、どのように変化するかを調べる目的で次の項目の試験を行った。

【0038】
C.吸湿性:20℃、65%RHに調節した恒温恒湿槽中に試料を1週間放置して吸湿量が平衡状態となったものの重量を計測し、この重量と、平衡状態の試料を105℃で2時間乾燥した後の重量との差より吸湿率(%)を求めた。

【0039】
D.機械的特性:絹蛋白質/コラーゲン複合体の機械的性質(強度および伸度)を測定し、切断時の試料の強度と伸度を評価した。測定条件は、試料の長さ10mmおよび幅2mm、引張り速度10mm/min、フルスケール250gであり、(株)島津製作所製引張り試験機(オートグラフ、形式AGS-5D)により測定した。

【0040】
E.粘弾性挙動:(株)東洋精機製作所製レオログラフ・ソリッドSタイプを用い、昇温速度2℃/分、測定温度範囲-30~260℃、測定周波数10Hz、初期張力30gf、試料長10mm、試料幅2mmで粘弾性挙動を評価した。この測定により試料の力学的損失ピーク温度を求めた。

【0041】
F.熱分解温度:理学電機(株)製示差熱走査測定装置(DSC-10A)を用い、試料重量2.2mg、DSCレンジ2.5mcal/s、昇温速度10℃/分で、測定を200cc/分の窒素気流中で行った。この測定において200℃以上に現れる吸熱ピーク温度を試料の熱分解温度とした。

【0042】
G.熱分析安定度:理学電機(株)製熱重量分析(TGA)装置を用い、昇温加熱過程における試料重量変化を窒素雰囲気下で測定した。試料重量3mg、昇温速度10℃/min、TGAフルスケール5mgの条件で分析を行った。測定開始前の重量を100として、昇温過程で重量残存率が何%かを測定した。

【0043】
H.熱形態安定度:理学電機(株)製熱機械測定装置(TMA)を用い、昇温過程における膜状の試料の寸法変化を窒素雰囲気下で測定した。

【0044】
試料の長さ15mmおよび幅2mm、昇温速度10℃/min、サンプリングタイム2sec、TMAレンジ±1000μmの条件で分析を行った。室温から350℃までの間で測定したTMA結果に基づき、180℃における複合膜の収縮量が測定前の試料長に比べて何%収縮しているかを評価し、これを熱形態安定度と呼ぶ。

【0045】
実施例1
2.5gの家蚕絹糸を55℃の8.5M臭化リチウム水溶液20ml中に完全に溶解せしめ、この水溶液をセルロース製透析膜にいれて、5℃で5日間純水と置換することで不純物を除去し、純粋な絹フィブロイン水溶液を調製した。かくして調製された絹フィブロイン水溶液に蒸留水を加え、絶乾濃度が0.3%となるように絹フィブロイン水溶液の原液を調製した。

【0046】
ミリスチル化アテロコラーゲンは次のようにして調製した。仔牛皮膚の真皮を細かく切断し、0.15Mクエン酸緩衝液(pH3.6)を用い、1~2日間抽出した。抽出液を分離し、同じ濃度の新しいクエン酸緩衝液で2回目の抽出を行った。これをガラスフィルターで濾過した後で、0.02MのNa2HPO4を用いて透析した。コラーゲンの沈殿を遠心分離で集め、水洗い後、0.15Mクエン酸緩衝液で再溶解、0.02MのNa2HPO4透析を繰り返した。水溶性のコラーゲンは、このような沈殿、再溶解を繰り返すことで得られた。このようにして得られた水溶性のコラーゲンの三重らせん構造の両側には、数十個のアミノ酸からなり、抗原の原因となるテロペプチドが存在する。コラーゲンのテロペプチドを選択的に消化し、分子間架橋を切断する作用を持つ蛋白質分解酵素であるペプシンをコラーゲン分子に作用させることで水溶性のアテロコラーゲンを調製した。

【0047】
次いで、ミリスチル化剤としてミリスチン酸無水物をジメチルホルムアミドに溶解し、これに上記の方法で調製したアテロコラーゲンを加え、75℃で1時間以上反応させることで水溶性のミリスチル化アテロコラーゲンを調製した。これを蒸留水に溶解することで0.3%濃度のミリスチル化アテロコラーゲン水溶液を調製した。

【0048】
また、スクシニル化アテロコラーゲン水溶液も上記と同様にして調製した。

【0049】
上記のようにして得られたスクシニル化またはミリスチル化したアテロコラーゲンの0.3%水溶液に所定量の0.3%絹フィブロイン水溶液原液を加え、ガラス棒で静かにかつ十分に攪拌したものを、ポリエチレン膜上に広げ、12時間以上の時間をかけて水分を蒸発させ、透明で、柔軟性のある絹フィブロイン/アテロコラーゲン複合膜を製造した。また、この複合膜の各成分の水溶液についても同様に蒸発乾固せしめて膜を製造した。上記蒸発乾固は、25℃、65%RH.で行った。

【0050】
本実施例で得られた膜状試料は、次の通りである。

【0051】
CSS: 0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液から得られた膜状試料。

【0052】
SMS: 0.3%ミリスチル化アテロコラーゲン水溶液から得られた膜状試料。

【0053】
SF/CMS(1:1): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液1容量部に0.3%ミリスチル化アテロコラーゲン水溶液1容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0054】
SF/CSS(1:1): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液1容量部に0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液1容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0055】
SF/CSS(1:2): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液1容量部に0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液2容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0056】
SF: 0.3%の絹フィブロイン水溶液から得られた膜状試料。

【0057】
上記絹フィブロイン膜、アテロコラーゲン膜、および絹フィブロイン/アテロコラーゲン複合膜の吸湿率、強度、伸度、熱形態安定度を調べた。得られた結果を表1に示す。

【0058】
表 1
───────────────────────────────────
試 料 吸湿率(%) 強度(kg/mm2) 伸度(%) 熱形態安定度(%)
───────────────────────────────────
CSS 20.0 20.4 4.2 4.4
CMS 21.3 1.6 9.1 11.0
SF/CMS(1:1) 12.7 12.4 8.1 5.9
SF/CSS(1:1) 13 11.9 4.6 1.8
SF/CSS(1:2) 14.7 2.9 6.6 8.2
SF 9.3 3.3 0.8 2.6
───────────────────────────────────
表1から明らかなように、180℃におけるミリスチル化アテロコラーゲンのTMA曲線上の180℃には11%の大きな収縮が見られるが、スクシニル化アテロコラーゲンでは僅か4.4%の収縮が生ずるだけである。これは、アシル化剤の炭化水素鎖が長くなるにつれて熱分子運動性が増す事実と良く符合する。

【0059】
表1から見るとおり、絹フィブロイン含量が増加すると180℃におけるTMA曲線から明らかなように試料の収縮量が減少する。本実験例は、本発明の絹フィブロイン/アテロコラーゲン複合膜の熱形態安定性の増加を意味するものである。

【0060】
ミリスチル化アテロコラーゲン膜の伸度はスクシニル化アテロコラーゲン膜の伸度よりも2倍以上の大きな値となった。スクシニル化アテロコラーゲンの切断強度は、ミリスチル化アテロコラーゲンよりも高い値を示す。絹フィブロイン膜は、伸度が小さく、乾燥状態では僅か0.8%で切断してしまうため、極めて脆い。ミリスチル化アテロコラーゲンやスクシニル化アテロコラーゲンを複合化することで、脆い絹フィブロインの機械的特性の改善が可能となった。

【0061】
実施例2
2%のスクシニル化アテロコラーゲン水溶液4mlと5.1%再生絹フィブロイン水溶液4mlとを等量宛混合して合計8mlの混合水溶液を調製した。この中に10mgのテトラサイクリンを均一に溶解させ、全体が均一になるまで2時間混合し、この混合水溶液をポリスチレン膜の上に広げて、25℃で、12時間かけて水分を蒸発した。こうしてテトラサイクリンを含有する絹フィブロイン/スクシニル化アテロコラーゲン複合膜を調製した。この膜状試料を2%ホルマリン水溶液に1分間浸漬して、室温で乾燥させて水不溶化試料(以下、試料と略記)を調製した。

【0062】
また、2mlの2%絹フィブロイン水溶液と2mlの2%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液との混合水溶液を50℃に加熱した。これとは別に、抗生物質であるリファンピシン20mgを含む20%エタノール水溶液を調製し、このエタノール水溶液1mlを上記等量混合水溶液に加えた。こうして製造した混合水溶液をポリエチレン膜上に広げて、室温で水分を蒸発乾燥させ、絹フィブロイン/スクシニル化アテロコラーゲン複合膜を調製した。この膜状試料を2%ホルマリン水溶液に30秒あるいは5分間の浸漬処理をして不溶化させ、これを標準状態で乾燥させて、2種の膜状試料(以下、試料、と略記)(試料が30秒間、試料が5分間浸漬処理したものである)を調製した。なお、ホルムアルデヒド処理しないものを対照区として用いた(以下、試料と略記)。

【0063】
このようにして調製した各種膜状の試料(~)を3mlの蒸留水を入れた5ml容量のガラス管に入れて一定時間(0分~5日)振盪処理をした。振盪処置後、試料を取り出し標準状態で風乾させ、各経過時間に対応した試料の抗菌性を評価した。

【0064】
これら試料が植物性病原細菌の増殖に及ぼす阻止作用を上記方法にしたがって評価した。得られた結果を表2に示す。表2中、数値の単位はmmである。

【0065】
表 2
───────────────────────────────────
経過時間 試料 試料 試料 試料
(浸漬:1分)(浸漬:なし)(浸漬:30秒)(浸漬:5分)
───────────────────────────────────
0分 ++ 34 35 34
20分 ++
40分 +
60分 ± 22 28 29
1日 16 20 20
3日 11 13 15
5日 - 6 7
───────────────────────────────────
表2から明らかなように、各試料とも徐放効果を持ち、特に試料、、の場合、高い徐放効果がある。糸状菌についても、上記方法にしたがって行われた試験の結果、各試料とも上記植物性病原細菌の場合と同様糸状菌の生長阻害効果ならびに徐放効果が得られた。さらに、結核菌、グラム陽性菌あるいはグラム陰性菌の増殖阻害効果を示した。

【0066】
実施例3
実施例1で用いた絹フィブロイン/アテロコラーゲン複合膜を2%グルタルアルデヒド水溶液に15秒間浸漬し、98重量%の水分を長時間保持するハイドロゲル状物質を得た。得られたゲル状物質をそのまま皮膚に塗布して乾燥させると、本発明の複合体からなる人工皮膚素材が得られた。

【0067】
0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液と0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液との等量混合水溶液を静かに攪拌してポリスチレン膜上に広げて水分を蒸発乾燥し、固化することで絹フィブロイン/スクシニル化アテロコラーゲン(1:1)膜を調製した。この試料膜を幅0.3mm、長さ2cmに切断して東洋精機(株)製のレオログラフ・ソリッドSタイプで粘弾性挙動(DMA)を測定した。DMAによると、SF/CSS(1:1)は86℃と188℃に力学的損失ピークが表れた。86℃のピークはスクシニル化アテロコラーゲンの熱分子運動に基づいて、また、188℃のピークは絹フィブロインの熱分子運動に基づいて生ずることが分かっている。このことから、SF/CSS(1:1)にはCSS(スクシニル化アテロコラーゲン)に基づく領域とSF(絹フィブロイン)に基づく領域とが存在しており、全体として均一な複合体となっていることが分かる。

【0068】
実施例4
実施例1と同様の方法で絹フィブロイン、アテロコラーゲン、および絹フィブロイン/スクシニル化アテロコラーゲン複合膜を調製し、それらの分子構造特性を明らかにするため、フーリエ変換赤外スペクトル(FT-IR)を測定した。FT-IRはパーキンエルマー社製の測定装置を用いて測定し、試料は膜状試料を用いた。測定波数領域は2000~400cm-1であり、測定繰り返し数は20回であった。吸収ピーク位置の数を求め、ピーク強度を強(s)、中(m)、弱(w)の3段階で示した。得られた結果を表3に示す。

【0069】
本実施例で用いた膜状試料は、次の通りである。

【0070】
SF : 実施例1の場合と同じ。

【0071】
CSS : 実施例1の場合と同じ。

【0072】
SF/CSS(8:2): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液8容量部に0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液2容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0073】
SF/CSS(6:4): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液6容量部に0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液4容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0074】
SF/CSS(4:6): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液4容量部に0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液6容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0075】
SF/CSS(2:8): 0.3%家蚕絹フィブロイン水溶液2容量部に0.3%スクシニル化アテロコラーゲン水溶液8容量部を加えた混合水溶液から得られた膜状試料。

【0076】
表 3
────────────────────────────────────
試 料 吸収ピーク波数(cm-1
────────────────────────────────────
SF 1629(s),1530(s),1447(m),1409(w),
1263(w),1234(m),1070(m),690(m),643(m),554(s)
SF/CSS(8/2) 1653(s),1545(s),1452(m),1279(w),1240(m),
1071(w),937(w),526(m)
SF/CSS(6/4) 1658(s),1631(s),1547(m),1525(w),
1282(w),1239(w),1079(w),936(w),531(s)
SF/CSS(4/6) 1660(s),1635(s),1548(m),1281(m),1242(m),
1078(m),936(w),530(s)
SF/CSS(2/8) 1659(s),1639(m),1554(m),1282(m),1240(m),
1165(m),1078(w),938(m),525(m)
CSS 1657(S),1555(m),1283(w),1240(w),1082(m),
929(m),534(m)
────────────────────────────────────
表3から明らかなように、絹フィブロイン/スクシニル化アテロコラーゲン複合膜のFT-IRスペクトルには、純粋な絹蛋白質に基づく吸収ピークと、純粋なコラーゲンに由来するIRスペクトルピークとが重複して現れている。従って分子形態的には絹蛋白質とコラーゲンとの相溶性の良い構造から構成されるものと結論できる。

【0077】
実施例5
TMAレンジ±1000μmの条件で測定したCSS、CMSのTMA曲線上、100℃~180℃の温度領域におけるTMA曲線の接線と、急激に試料長が収縮する180℃~200℃におけるTMA曲線の接線との交点をTt(℃)とし、各試料のTt値を調べた。得られた値を表4に示す。表4において、Tdscは、DSC測定の結果、200℃以上に現れる主要な吸熱ピーク温度を意味する。このTdscは、試料の熱分解温度に相当する。

【0078】
表 4
────────────────────────
試 料 Tt(℃) Tdsc(℃)
────────────────────────
CSS 176
CMS 166
SF/CSS(1:1) 193 267
SF/CMS(1:1) 171
SF/CMS(1:2) 170 266
SF 284
────────────────────────
表4から明らかなように、スクシニル化アテロコラーゲン(CSS)の熱寸法安定性はミリスチル化アテロコラーゲン(CMS)よりも10℃高い176℃である。絹フィブロインとスクシニル化アテロコラーゲンとが複合化したものは、熱寸法安定性が約30℃程度高温に移行し193℃になった。絹フィブロインとスクシニル化アテロコラーゲンとの分子相互作用が特異的に向上することが確かめられた。

【0079】
また、ミリスチル化反応によりコラーゲンの熱分子運動性が高まり熱分解挙動が若干加速されるとの上記の実験事実は、化学反応の結果、コラーゲンのリジン残基の分子側鎖に導入される炭化水素鎖の長さが、ミリスチル化では(CH2)12であり、サクシニル化による(CH2)2 の6倍となるためである。

【0080】
実施例6
実施例1で用いた絹フィブロイン/アテロコラーゲン複合膜(SF/CMS(1:1)、SF/CSS(1:1)およびSF/CSS(1:2))について、耐熱分解挙動をTGA装置を用い、窒素雰囲気下で測定した。試料重量は3mg、測定温度範囲は0~400℃、TGAフルスケールは5mg、サンプリングタイムは3秒であった。得られた結果を図1に示す。但し、縦軸は試料重量残存率(%)、横軸は試料温度(℃)である。

【0081】
図1から明らかなように、絹フィブロイン/アテロコラーゲン複合膜において、スクシニル化アテロコラーゲン(SF/CSS(1:1))の場合の方がミリスチル化アテロコラーゲン(SF/CMS(1:1))の場合よりも熱分解の進行程度が遅れており、熱分解が阻害されることが明らかとなった。また、スクシニル化アテロコラーゲンの含有率の高い複合膜(SF/CSS(1:2))は更に熱分解の進行程度が阻止される。これは絹フィブロインと相互作用を持つスクシニル化部位の分子運動量がミリスチル化部位より低下し、その結果、熱分解程度が抑制されたためである。

【0082】
【発明の効果】本発明によれば、絹蛋白質とコラーゲンとを複合化することにより、天然蛋白質の絹蛋白質とコラーゲンとがそれぞれ持つ、血液適合性、抗血栓性、生体細胞の付着増殖性、血小板との相互作用などの生化学特性を相乗的に発現させるための素材が提供された。複合化技術により両方の性質を兼ね備えた機能を持つ優れた素材となり、血液や細胞との相互作用の点で新たな機能を持つ素材が調製できた。さらに、絹蛋白質、コラーゲン独自の実用機能性の欠点を補い、新たな可能性が発現するようになる。

【0083】
本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体は、止血剤、傷創カバー材、皮内注入用素材として、また、医薬品、生理活性物質、抗生物質の固定化担体またはその徐放担体として利用できる。

【0084】
また、本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体は、昆虫由来の絹蛋白質と動物由来のコラーゲンからなる複合体であるため、これを生理活性物質、抗生物質、フェロモン、ホルモン、その他の医薬品の徐放担体として用いた場合には、有用物質と複合体との間には強い分子間相互作用が生ずるので、医薬品の徐放効果が長時間持続する徐放担体として利用することができる。

【0085】
また、本発明の絹蛋白質/コラーゲン複合体は、絹フィブロインの持つ抗血栓性、細胞付着増殖性と共に、コラーゲンの持つ免疫原性の低い特性、血小板との相互作用、細胞との相互作用の機能も兼ね備えているので、細胞、酵素、ホルモンなどの生理活性を持つ物質を組み込んで、より生体の機能に近い人工臓器材料としての利用が可能である。また、止血剤、臨床用試薬、人工血管、コンタクトレンズ、医薬品を徐々に放出する徐放担体(Drug delivery Device)、人工皮膚、傷創被覆材、皮内注入用ゲル、細胞培養基質用コラーゲンなどの生医学材料として活用できる。さらにまた、本発明の複合体は、コラーゲンが生体内で分解されるため、体内埋め込み材として種々の利用法があり、コラーゲンと同様に吸収性縫合糸のカットガットとしても利用し得る。
図面
【図1】
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