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明細書 :アカバネウイルスS RNAの全塩基配列と異常産関連ウイルス病遺伝子診断のためのプライマー配列

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3227475号 (P3227475)
公開番号 特開平11-290080 (P1999-290080A)
登録日 平成13年9月7日(2001.9.7)
発行日 平成13年11月12日(2001.11.12)
公開日 平成11年10月26日(1999.10.26)
発明の名称または考案の名称 アカバネウイルスS RNAの全塩基配列と異常産関連ウイルス病遺伝子診断のためのプライマー配列
国際特許分類 C12N 15/09      
C12Q  1/68      
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願平10-104420 (P1998-104420)
出願日 平成10年4月15日(1998.4.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り Journal of General Virology誌第78巻第11号(平成9年11月)Society for General Microbiology発行第2847-2851頁に発表
審査請求日 平成10年4月15日(1998.4.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人 農業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】明石 博臣
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外1名)
審査官 【審査官】上條 肇
参考文献・文献 蛋白質 核酸 酵素、Vol.41[5](1996)p.696-699
Virus Res.,Vol.50[2](1997)p.205-213
J.Vet.Med.Sci.,Vol.59[9](1997)p.837-840
Res.Virol.,Vol.146[5](1995)p.355-362
臨床と微生物,Vol.24[5](1997)p.557-565
Virus Research,Vol.1(1984)p.51-63
調査した分野 C12N 15/40 - 15/50
C12Q 1/68
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程:
(a)対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程、
(b)上記試料に対して、次のプライマー:
5'- TAACTACGCATTGCAATGGC -3'
5'- TAAGCTTAGATCTGGATACC -3'
を用いたRT-PCRを行う工程、及び
(c)工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かを判別する工程、
を含んでなることを特徴とする、アカバネウイルス感染の判別方法。

【請求項2】
前記工程(b)において、RT-PCR産物に対して、次のプライマー:
5'- GAAGGCCAAGATGGTCTTAC -3'
5'- GGCATCACAATTGTGGCAGC -3'
を用いたnested PCRをさらに行うことを特徴とする請求項1記載の判別方法。

【請求項3】
前記工程(c)において、工程(b)で得られる増幅断片を制限酵素で処理し、その制限断片長多型により、対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かを判別することを特徴とする請求項1又は2記載の判別方法。

【請求項4】
以下の工程:
(a)対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程、
(b)上記試料に対して、次のプライマー:
5'- CCCAACTCAATTTCGATACC -3'
5'- TTTGGAACACCATACTGGGG -3'
を用いたRT-PCRを行う工程、及び
(c)工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かを判別する工程、
を含んでなることを特徴とする、アイノウイルス感染の判別方法。

【請求項5】
前記工程(b)において、RT-PCR産物に対して、次のプライマー:
5'- CCATCGTCTCTCAGGATATC -3'
5'- ACAGCATTGAAGGCTGCACG -3'
を用いたnested PCRをさらに行うことを特徴とする請求項4記載の判別方法。

【請求項6】
前記工程(c)において、工程(b)で得られる増幅断片を制限酵素で処理し、その制限断片長多型により、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かを判別することを特徴とする請求項4又は5記載の判別方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ウシ、ヒツジ、ヤギ等の動物におけるアカバネウイルス及びアイノウイルス病の遺伝子診断方法に関する。

【0002】
【従来の技術】ウシ、ヒツジ、ヤギ等の哺乳動物に流産、死産、早産等の異常産を引き起こすウイルスとして、わが国ではアカバネウイルス、カスバウイルス、牛ウイルス性下痢ウイルス及びアイノウイルスが知られている。これらのウイルスのうち、アカバネウイルス及びアイノウイルスは分類学上同じウイルス群(ブニヤウイルス科)に属する。

【0003】
ブニヤウイルス科に属するウイルスの遺伝子は、3分節に分かれた、マイナスの1本鎖RNAであり、分子量の大きい方からL(large)、M(medium)、S(small)と命名されている。それぞれのRNAはL蛋白、G1とG2の糖蛋白、N蛋白をコードしていることが知られており、また各分節の両末端の8~13のヌクレオチドは同属間でよく保存され、3'末端と5'末端は相補的でパンハンドル構造を形成することが知られている。

【0004】
アカバネウイルスとアイノウイルスとは性状が酷似しているため、アカバネウイルス感染とアイノウイルス感染との判別は容易ではない。一方、アカバネウイルス感染とアイノウイルス感染とを判別することは、ウイルス病の治療において重要であるとともに、ウイルス病の流行を予測する上でも非常に重要である。

【0005】
従来、アカバネウイルス感染とアイノウイルス感染との判別は、血清学的診断によって行われていた。

【0006】
しかし、この方法では、異状を呈した子ウシ等の初乳未摂取の血清が必要であること、血清反応自体にも細胞が必要であること、感染の有無の判別に1週間以上の期間を要すること等、操作が煩雑で判別に長期間を要するという問題点があった。そこで、ウシ、ヒツジ、ヤギ等の動物におけるアカバネウイルス感染とアイノウイルス感染とを、簡易かつ精度よく判別できる方法の開発が望まれている。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ウシ、ヒツジ、ヤギ等の動物におけるアカバネウイルス感染及びアイノウイルス感染を簡易かつ精度よく判別できる方法を提供することを目的とする。

【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、アカバネウイルスのS RNAの全塩基配列を決定することに成功し、このアカバネウイルスのS RNAの塩基配列と既に公知であるアイノウイルスのS RNAの塩基配列とを比較することにより、両塩基配列の異なる部分を明らかにした。そして、この塩基配列の違いに基づいて、アカバネウイルS RNAを特異的に増幅できるRT-PCR及びnested PCR用プライマー、並びにアイノウイルスS RNAを特異的に増幅できるRT-PCR及びnested PCR用プライマーを作製し、本発明を完成するに至った。

【0009】
すなわち、本発明は、以下の工程:
(a)対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程、(b)上記試料に対して、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行う工程、及び(c)工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かを判別する工程、を含んでなることを特徴とする、アカバネウイルス感染の判別方法である。

【0010】
また、本発明は、上記プライマーが、次の2種のプライマー:
5'- TAACTACGCATTGCAATGGC -3'
5'- TAAGCTTAGATCTGGATACC -3'
であることを特徴とする上記判別方法である。さらに、本発明は、上記工程(b)において、RT-PCR産物に対して、次の2種のプライマー:
5'- GAAGGCCAAGATGGTCTTAC -3'
5'- GGCATCACAATTGTGGCAGC -3'
を用いたnested PCRをさらに行うことを特徴とする上記判別方法である。

【0011】
さらに、本発明は、上記工程(c)において、工程(b)で得られる増幅断片を制限酵素で処理し、その制限断片長多型により、対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かを判別することを特徴とする上記判別方法である。さらに、本発明は、以下の工程:
(a)対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程、(b)上記試料に対して、アイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行う工程、及び(c)工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かを判別する工程、を含んでなることを特徴とする、アイノウイルス感染の判別方法である。

【0012】
さらに、本発明は、上記プライマーが、次の2種のプライマー:
5'- CCCAACTCAATTTCGATACC -3'
5'- TTTGGAACACCATACTGGGG -3'
であることを特徴とする上記判別方法である。さらに、本発明は、上記工程(b)において、RT-PCR産物に対して、次の2種のプライマー:
5'- CCATCGTCTCTCAGGATATC -3'
5'- ACAGCATTGAAGGCTGCACG -3'
を用いたnested PCRをさらに行うことを特徴とする上記判別方法である。さらに、本発明は、上記工程(c)において、工程(b)で得られる増幅断片を制限酵素で処理し、その制限断片長多型により、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かを判別することを特徴とする上記判別方法である。

【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
1.アカバネウイルス感染の判別方法
本発明のアカバネウイルス感染の判別方法は、以下の工程:
(a)対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程、(b)上記試料に対して、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行う工程、及び(c)工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かを判別する工程、を含んでなることを特徴とする。

【0014】
以下、各工程ごとに説明する。
(1)工程(a)
工程(a)は、対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程である。工程(a)における対象動物とは、アカバネウイルス感染の有無を判別しようとする動物を意味する。対象動物は、アカバネウイルスに感染し得る動物である限り特に限定されず、いかなる動物であってもよい。このような対象動物としては、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ハムスター、ニワトリ胎児等が挙げられる。

【0015】
工程(a)で使用する対象動物の細胞及び/又は血液は、対象動物に由来する限り特に限定されず、いかなる組織由来の細胞及び/又は血液であってもよい。このような細胞及び/又は血液としては、例えば、脳、心臓、肺、脾臓、腎臓、肝臓等の組織由来の細胞及び/又は血液を使用することができる。対象動物の細胞及び/又は血液は、対象動物から常法に従って採取することができる。また、対象動物の血液は、蚊、ヌカカ等の吸血昆虫材料から常法に従って採取することもできる。

【0016】
工程(a)で調製するRNAを含有する試料とは、対象動物の細胞及び/又は血液由来のRNAを含有する試料を意味する。従って、RNAを含有する試料には、アカバネウイルスゲノムRNAが含有される限り、いかなるRNA、DNA、タンパク質等が含有されていてもよい。また、RNAを含有する試料は、常法に従って精製してもよい。

【0017】
対象動物の細胞及び/又は血液からのRNAを含有する試料の調製は、常法に従って行うことができる。例えば、対象動物の細胞及び/又は血液を破砕し、可溶化剤によって可溶化した後、変性剤によってタンパク質を除去し、エタノール等によって沈殿させることによって、対象動物の細胞からRNAを含有する試料を調製することができる。

【0018】
(2)工程(b)
工程(b)は、上記試料に対して、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行う工程である。工程(b)で使用するプライマーは、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合する限り、その塩基配列は特に限定されない。このようなプライマーの塩基配列は、例えば、アカバネウイルスS RNAの塩基配列とアイノウイルスS RNAの塩基配列との間で塩基配列の異なる部分に基づいて決定することができる。ここで、両ウイルスS RNAの塩基配列の間で塩基配列の異なる部分を図1に示す。図1中、両ウイルスS RNAの塩基配列が同一である部分は「:」によって表され、異なる部分は空欄によって表される。従って、図1に示される両ウイルスS RNAの塩基配列の異なる部分を適宜選択することにより、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーの塩基配列を決定することができる。

【0019】
アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーとしては、例えば、次の2種のプライマー:
5'- TAACTACGCATTGCAATGGC -3'
5'- TAAGCTTAGATCTGGATACC-3'
を例示することができる。

【0020】
これらのプライマーのうち、5'- TAACTACGCATTGCAATGGC -3'は、アカバネウイルスS RNAの19~38番目の塩基配列に相補的であり、5'- TAAGCTTAGATCTGGATACC -3'は、アカバネウイルスS RNAの相補鎖の721~740番目の塩基配列に相補的である。従って、これらのプライマーは、アカバネウイルスゲノムS RNAに特異的に結合する。アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーは、例えば、常法に従って化学合成することができる。

【0021】
上記試料に対して、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行うことにより、試料中にアカバネウイルスS RNAが含有されている場合には、アカバネウイルスS RNAを特異的に増幅することができる。アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRは、常法に従って行うことができる。RT-PCRの条件は、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いる限り特に限定されない。

【0022】
工程(b)において、アカバネウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRにより得られるRT-PCR産物に対して、RT-PCR産物に特異的に結合するプライマーを用いたnested PCRをさらに行うことが好ましい。例えば、RT-PCRのプライマーとして5'- TAACTACGCATTGCAATGGC -3'及び5'- TAAGCTTAGATCTGGATACC-3'を使用した場合には、nested PCRのプライマーとして、次の2種のプライマー:
5'- GAAGGCCAAGATGGTCTTAC -3'
5'- GGCATCACAATTGTGGCAGC -3'
を用いることができる。

【0023】
これらのプライマーのうち、5'- GAAGGCCAAGATGGTCTTAC -3'は、アカバネウイルスS RNAの177~196番目の塩基配列に相補的であり、5'- GGCATCACAATTGTGGCAGC -3'は、アカバネウイルスS RNAの相補鎖の388~407番目の塩基配列に相補的である。従って、これらのプライマーは、RT-PCR産物に特異的に結合する。RT-PCR産物に特異的に結合するプライマーは、例えば、常法に従って化学合成することができる。

【0024】
RT-PCR産物に対して、RT-PCR産物に特異的に結合するプライマーを用いたnested PCRを行うことにより、RT-PCR産物は特異的に増幅される。これにより、目的の領域以外に由来する産物を除去することができる。RT-PCR産物に特異的に結合するプライマーを用いたnested PCRは、常法に従って行うことができる。nested PCRの条件は、RT-PCR産物に特異的に結合するプライマーを用いる限り特に限定されない。

【0025】
(3)工程(c)
工程(c)は、工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かを判別する工程である。増幅断片の有無の確認は、常法に従って行うことができる。例えば、電気泳動により増幅断片の有無を確認することができる。

【0026】
増幅断片の有無の確認の結果、増幅断片が存在する場合には、対象動物がアカバネウイルスに感染している可能性が高いと判別することができる。例えば、プライマーとして5'- TAACTACGCATTGCAATGGC -3'及び5'- TAAGCTTAGATCTGGATACC-3'を用いたRT-PCRを行った結果、増幅断片が得られた場合には、対象動物がアカバネウイルス又はTinarooウイルスに感染している可能性が高い。また、増幅断片の有無の確認の結果、増幅断片が存在しない場合には、対象動物がアカバネウイルスに感染していない可能性が高いと判別することができる。特に、nested PCRを行った後、増幅断片が存在しない場合には、対象動物がアカバネウイルスに感染していない可能性が極めて高い。

【0027】
対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かをさらに精度よく判別するために、増幅断片がアカバネウイルスS RNAに由来することを確認することが好ましい。増幅断片がアカバネウイルスS RNAに由来することを確認する方法としては、例えば、増幅断片を制限酵素で処理して得られる制限断片長多型解析を行う方法が挙げられる。

【0028】
この際使用する制限酵素としては、増幅断片を切断し制限断片長多型を示し得るものであれば特に限定されない。このような制限酵素としては、例えば、アカバネウイルスS RNA由来の増幅断片を切断し得る制限酵素(例えば、Hph I等)やアカバネウイルスS RNA由来の増幅断片を切断し得ない制限酵素(例えば、Bst EII等)を使用することができる。これらの制限酵素は、単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用することが望ましい。

【0029】
増幅断片を制限酵素で処理して得られる制限断片長多型は、例えば、サザンブロット法により検出することができる。増幅断片を制限酵素で処理して得られる制限断片長多型により、増幅断片がアカバネウイルスゲノムRNAを鋳型として増幅した断片であるか否かを判別することができる。従って、制限断片長多型により、試料中にアカバネウイルスゲノムRNAが含有されているか否かを判別することができ、これにより対象動物がアカバネウイルスに感染しているか否かをさらに精度よく判別することができる。

【0030】
2.アイノウイルス感染の判別方法
本発明のアイノウイルス感染の判別方法は、以下の工程:
(a)対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程、(b)上記試料に対して、アイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行う工程、及び(c)工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かを判別する工程、を含んでなることを特徴とする。

【0031】
以下、各工程ごとに説明する。
(1)工程(a)
工程(a)は、対象動物の細胞及び/又は血液からRNAを含有する試料を調製する工程である。工程(a)は、上記アカバネウイルス感染の判別方法の工程(a)と同様にして行うことができる。

【0032】
(2)工程(b)
工程(b)は、上記試料に対して、アイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRを行う工程である。工程(b)は、プライマーとしてアイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを使用してRT-PCRを行う点を除けば、上記アカバネウイルス感染の判別方法の工程(b)と同様にして行うことができる。

【0033】
工程(b)で使用するプライマーは、アイノウイルスS RNAに特異的に結合する限り、その塩基配列は特に限定されない。このようなプライマーの塩基配列は、例えば、アカバネウイルスS RNAの塩基配列とアイノウイルスS RNAの塩基配列との間で塩基配列の異なる部分に基づいて決定することができる。両ウイルスSRNAの塩基配列の間で塩基配列の異なる部分を図1に示す。従って、図1に示される両ウイルスS RNAの塩基配列の異なる部分を適宜選択することにより、アイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーの塩基配列を決定することができる。

【0034】
アイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーとしては、例えば、次の2種のプライマー:
5'- CCCAACTCAATTTCGATACC -3'
5'- TTTGGAACACCATACTGGGG -3’
を例示することができる。

【0035】
これらのプライマーのうち、5’- CCCAACTCAATTTCGATACC -3'はアイノウイルスS RNAの132~151番目の塩基配列に相補的であり、5'- TTTGGAACACCATACTGGGG-3'はアイノウイルスS RNAの相補鎖の761~780番目の塩基配列に相補的である。従って、これらのプライマーは、アイノウイルスS RNAに特異的に結合する。

【0036】
また、工程(b)において、アイノウイルスS RNAに特異的に結合するプライマーを用いたRT-PCRにより得られるRT-PCR産物に対して、RT-PCR産物に特異的に結合するプライマーを用いたnested PCRをさらに行うことが好ましい。例えば、RT-PCRのプライマーとして5'- CCCAACTCAATTTCGATACC -3'及び5'-TTTGGAACACCATACTGGGG -3'を使用した場合には、nested PCRのプライマーとして、次の2種のプライマー:
5'- CCATCGTCTCTCAGGATATC -3'
5'- ACAGCATTGAAGGCTGCACG -3'
を用いることができる。

【0037】
これらのプライマーのうち、5'- CCATCGTCTCTCAGGATATC -3'はアイノウイルスS RNAの313~332番目の塩基配列と相補的であり、5'- ACAGCATTGAAGGCTGCACG-3'はアイノウイルスS RNAの相補鎖の638~657番目の塩基配列と相補的である。従って、これらのプライマーは、RT-PCR産物に特異的に結合する。

【0038】
(3)工程(c)
工程(c)は、工程(b)で得られる増幅断片の有無により、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かを判別する工程である。工程(c)は、上記アカバネウイルス感染の判別方法の工程(c)と同様にして行うことができる。増幅断片の有無の確認の結果、増幅断片が存在する場合には、対象動物がアイノウイルスに感染している可能性が高いと判別することができる。例えば、プライマーとして5'- CCCAACTCAATTTCGATACC -3'及び5'- TTTGGAACACCATACTGGGG-3'を用いたRT-PCRを行い、増幅断片が得られた場合には、対象動物がアイノウイルス又はPeatonウイルスに感染している可能性が高い。

【0039】
また、増幅断片の有無の確認の結果、増幅断片が存在しない場合には、対象動物がアイノウイルスに感染していない可能性が高いと判別することができる。特に、nested PCRを行った後、増幅断片が存在しない場合には、対象動物がアイノウイルスに感染していない可能性が極めて高い。工程(c)において、対象動物がアイノウイルスに感染しているか否かをさらに精度よく判別するために、増幅断片がアイノウイルスS RNAに由来することを確認することが好ましい。

【0040】
増幅断片がアイノウイルスS RNAに由来することを確認する方法としては、例えば、増幅断片を制限酵素で処理して得られる制限断片長多型解析を行う方法が挙げられる。この際使用する制限酵素としては、増幅断片を切断し制限断片長多型を示し得るものであれば特に限定されない。このような制限酵素としては、例えば、アイノウイルスS RNA由来の増幅断片を切断し得る制限酵素(例えば、Ava II、Eco RI、Hae II等)を使用することができる。

【0041】
【実施例】以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1〕アカバネウイルスS RNAの全塩基配列の決定
(1)アカバネウイルスS RNAの抽出
HmLu-1細胞中で増殖させたアカバネウイルスOBE-1株を、ショ糖密度勾配遠心分離法によって精製した。精製したアカバネウイルスOBE-1株にSDSを添加した後、フェノール抽出によりRNAを抽出し、エタノール沈殿によりRNAを回収した。

【0042】
このRNAを、水酸化メチル水銀10mMを含有する1%アガロースゲル上に分離した。臭化エチジウムで染色した後、S RNAを含むバンドを切り出し、フェノールを用いて溶解、抽出した。次いで、RNAをエタノール沈殿した。これにより、アカバネウイルスS RNAが得られた。

【0043】
(2)アカバネウイルスS RNAの塩基配列決定
上記(1)で得られた5μgの精製S RNAの3'末端にポリA鎖を付加した。

【0044】
ポリA鎖の付加は、ATP及びポリアデニル酸(ポリA)ポリメラーゼを使用して、Sippelの方法(Sippel,A.E. European Journal of Biochemistry 37.31-40(1973))に従って行った。ポリA鎖を付加したS RNAをSephadex G-50カラムで精製し、オリゴ(dT)を用いてcDNA合成キット(Amersham社)により2本鎖cDNAを合成した。

【0045】
合成した2本鎖cDNAの3'末端に、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼを用いてデオキシシチジル酸を付加し、PstIで切断しデオキシグアニン鎖を3'末端に付加したpBR322(Bethesda Research Laboratories社)中へクローニングした。このプラスミドを用いてMC1061細胞を形質転換した後、ウイルスRNAを含むプラスミドを保有するクローンを回収し、cDNAプローブを用いたハイブリダイゼーションによりスクリーニングした(Bishop,d.H.Lら.,Nucleic Acids Research 10. 3703-3713 (1982)参照)。最も大きいクローン(789ヌクレオチド長)の塩基配列をマキサム・ギルバート法により決定した。

【0046】
以上により塩基配列決定されたcDNAは完全長ではなかったため、既に報告されている他の同族ウイルスのS RNAの塩基配列を基にして、5'末端の塩基配列を推定し、合成プライマーを用いたRT-PCRにより残りの塩基配列を決定した。すなわち、ブニヤウイルス科に属するウイルスは、相補的な末端配列(9位にはミスマッチ(UとG)がある)を有することが知られている(Elliott,R.M. Journal of General Virology 71.501-522 (1990);Elliott,R.M.ら Current Topics in Microbiology and Immunology 169. 91-141 (1991))。また、アイノウイルスS RNAに関するデータにより、3'末端及び5'末端の約25残基の配列は類似している(但し、9位には1つのミスマッチがあり、ゲノムセンスRNAの5'末端から10位には1個のヌクレオチドが付加されている)ことが明らかとなっている(Akashi,H.ら Virus Research 1.51-63 (1984))。

【0047】
そこで、2種のreverseプライマーを合成した。すなわち、ブニヤウイルス共通型としてプライマーAKSRS:5'-AGTAGTGTGCTCCAC-3'、アイノウイルス型としてプライマーAKSRL:5'-AGTAGTGTGGCTCCAC-3'を合成した。RT-PCRによるアカバネウイルスS RNAの5'末端の増幅は、forwardプライマーAKSF19:TAACTACGCATTGCAATGGC-3'、及び上記2種のreverseプライマー(AKSRS及びAKSRL)によって行った。このforwardプライマーは、アカバネウイルスS RNAの19-38残基に対応する。

【0048】
RT-PCRは、GeneAmp熱安定性rTth逆転写酵素RNAPCRキット(Perkin-Elmer Cetus社)を使用し、最終容量100μl中で、94℃で30秒、55℃で30秒及び72℃で1分を1サイクルとし、これを25サイクル行った。reverseプライマーとしてAKSRSを使用した場合のRT-PCR産物の量は、reverseプライマーとしてAKSRLを使用した場合の4倍以上であった(データは示さず)。このRT-PCRの結果から、アカバネウイルスS RNAの5'末端配列は、「・・・CACCUCGUGUGAUGA」であると結論した。

【0049】
従って、forwardプライマー及びreverseプライマーとしてAKSF19及びAKSRSを用いて得られたRT-PCR産物を、TAクローニングキット(Invitrogen社)を使用して直接プラスミドベクターpCRII中へクローニングし、373SDNAシークエンサー(Applied Biosystems社)を使用してその塩基配列を決定した。決定されたcDNAの塩基配列を、配列番号1に示す。なお、配列番号1記載の塩基配列は、ポジティブ鎖cDNAの塩基配列により記載してある。

【0050】
〔実施例2〕プライマーの作製
実施例1で決定されたアカバネウイルスOBE-1株のS RNAの塩基配列と既に公知であるアイノウイルスJaNAr28株のS RNAの塩基配列(Akashi,H.ら Virus Research 1.51-63 (1984))とを比較し、両者間で相同性の低い部分をコンピュータープログラム(GENETYXプログラム(Software Development社))を用いて検索した。この結果に基づき、プライマーをOligo 1000 DNA Synthesizer(Beckman社)により合成した。合成したプライマーの塩基配列、及び対応するウイルスS RNA中の位置を以下の表1に示す。

【0051】
【表1】
JP0003227475B2_000002t.gif【0052】〔実施例3〕ウイルスS RNA特異的プライマーを使用したRT-PCR及びnested PCRによるウイルスS RNAの検出
(1)RNAの抽出
アカバネウイルスとしてOBE-1株を、アイノウイルスとしてJaNAr28株を使用した。

【0053】
また、上記プライマーの特異性を確認するために、アカバネウイルス及びアイノウイルスと同一のウイルス群(シンブ(Simbu)血清群ウイルス)に属する5種のウイルス、すなわちDouglas(DOU)ウイルスのCSIRO150株(Division of Animal Health, Australia)、Peaton(PEA)ウイルスのCSIRO110株(Division of Animal Health, Australia)、Tinaroo(TIN)ウイルスのCSIRO153株(Division of Animal Health, Australia)、Facey's Paddock(FP)ウイルスのCh16129株(Berrimah Agricultural Research Center, Northern Territory, Australia)、及びThimiri(THI)ウイルスのCSIRO1株(Berrimah Agricultural Research Center, Northern Territory, Australia)を対照として使用した。5×106PFUの各ウイルス感染培養液から、RNA STAT-50LS(TEL-TEST社)及びSepaGene(三光純薬社)を使用して、各ウイルスのRNAを抽出した。

【0054】
(2)RT-PCR及びnested PCRによるウイルスS RNAの検出
上記7種のウイルスのRNAに対して、上記RT-PCR用プライマーを使用したRT-PCRを実施した。RT-PCRは、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin-Elmer Cetus社)を使用して行った。RT-PCRは以下の条件で行った。

【0055】
すなわち、ランダムヘキサマー、RNaseインヒビター、MgCl2、4種のデオキシヌクレオチド及び逆転写酵素を含有する総容量19μlの1× PCRバッファー中に各ウイルスRNA1μlを混合し、室温で10分間、42℃で15分間、99℃で5分間、及び5℃で5分間インキュベーションした。これに、バッファー、MgCl2及びTaqDNAポリメラーゼを追加して最終容量100μlとし、上記RT-PCR用プライマーを用いて、94℃で30秒、55℃で30秒及び72℃で1分の1サイクルを25サイクル行った。

【0056】
RT-PCR反応液を72℃でさらに7分間保持した後、PCR産物をMagic PCR Preps(Promega社)によって精製し、これをnested PCRの鋳型DNAとして使用した。nested PCRは、TaqDNAポリメラーゼ(Amersham社)を用いて上記と同様の方法により行った。得られたPCR産物を2%アガロースゲル中で電気泳動し、臭化エチジウムにより染色した。制限酵素による消化は、製造業者の指示する条件に従って行った。

【0057】
電気泳動の結果を図2に示す。なお、図2中、レーンMは分子量マーカー、レーン1及び9はアイノウイルス由来のRNA、レーン2及び10はアカバネウイルス由来のRNA、レーン3及び11はDOUウイルス由来のRNA、レーン4及び12はFPウイルス由来のRNA、レーン5及び13はPEAウイルス由来のRNA、レーン6及び14はTHIウイルス由来のRNA、レーン7及び15はTINウイルス由来のRNA、レーン8及び16は培養液上清を表す。また、図2の上部の「RT」はRT-PCRの結果を表し、「nested」はnested PCRの結果を表す。また、図2中のAはアイノウイルスS RNA特異的プライマーを使用した場合の結果を表し、BはアカバネウイルスS RNA特異的プライマーを使用した場合の結果を表す。

【0058】
図2に示すように、アカバネウイルスS RNA特異的プライマーを使用したRT-PCR及びnested PCRの結果、アカバネウイルスRNA及びTINウイルスRNAを用いた場合に増幅産物が検出された。そこで、両ウイルスのRT-PCR産物を同定するために、両ウイルスのS RNAの塩基配列に基づいて、制限酵素(Hph I及びBst EII)を選択した。

【0059】
アカバネウイルスのRT-PCR産物は、Hph Iによってのみ消化されたが、TINウイルスのRT-PCR産物は、Bst EIIによってのみ消化された。これにより、両ウイルスのRT-PCR産物は識別された。また、アイノウイルスS RNA特異的プライマーを使用したRT-PCR及びnested PCRの結果、RT-PCR産物及びnested PCR産物は、アイノウイルス及びPEAウイルスの両方で検出された。

【0060】
そこで、両ウイルスのnested PCR産物を同定するために、3種の制限酵素(Ava II、Eco RI、及びHae II)を選択した。PEAウイルスのnested PCR産物は、制限酵素(Ava II、Eco RI、及びHae II)により消化されなかったが、アイノウイルスのnested PCR産物は、制限酵素(Ava II、Eco RI、及びHae II)により消化された。これにより、両ウイルスのnested PCR産物は識別された。以上のように、ウイルスS RNA特異的プライマーによるRT-PCR及びnested PCRと制限断片長多型とを組み合わせることにより、アカバネウイルスS RNAおよびアイノウイルスS RNAを感度よく検出でき、また両者を容易に識別できることが示された。

【0061】
〔実施例4〕マウスへの応用
野外応用を目指すため、アカバネウイルスおよびアイノウイルスを6週齢マウスの脳内及び腹腔内に接種した。この際、脳内には各ウイルス液0.1ml(105.5 TCID50/ml)を、また腹腔内には同ウイルス液0.2mlを接種した。接種5日後にマウスを安楽殺させ、臓器(脳、心臓、肺、脾臓、腎臓、肝臓)及び血液を採取した。

【0062】
これらの臓器及び血液中のウイルスを検出するため、ウイルス力価測定を行うとともに、ウイルスRNAを抽出し、ウイルスS RNA特異的プライマーを使用したRT-PCR及びnested PCRを行った。なお、各臓器及び血液サンプルからのRNAの抽出は、RNAzolB(TEL-TEST社)を用いて行った。その結果を、以下の表2に示す。

【0063】
【表2】
JP0003227475B2_000003t.gif【0064】表2に示すように、ウイルス力価測定によれば、アカバネウイルス及びアイノウイルスの双方とも脳内接種マウスの脳サンプルからのみ検出された。これに対して、nested PCRによれば、これ以外の多数の臓器からも各ウイルスのゲノムS RNAを検出することができた。これにより、ウイルスS RNA特異的プライマーを使用したnested PCRによるウイルスS RNA検出の高感度が証明された。

【0065】
【発明の効果】本発明により、ウシ、ヒツジ、ヤギ等の動物におけるアカバネウイルス感染及びアイノウイルス感染を簡易かつ高精度に判別できる方法を提供される。本発明によれば、従来、流行予測や診断が困難であったアカバネウイルス及びアイノウイルス感染症の流行予測や診断が簡易かつ高精度にでき、これによりウイルス感染に対して早期に対処(ワクチン接種等)できる。

【0066】
【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:858
配列の型:核酸
鎖の数:2本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:cDNA
起源
生物名:アカバネウイルスOBE-1株
配列
AGTAGTGAAC TCCACTATTA ACTACGCATT GCAATGGCAA ATCAATTCAT TTTCAACGAT 60
GTTCCACAAC GGAATGCAGC TACATTTAAT CCGGATGCAG GGTATGTGGC ATTTATCAGT 120
AAGTATGGGC AGCAGCTCAA CTTTACTGTT GCTAGAGTCT TCTTCCTCAA CCAGAAGAAG 180
GCCAAGATGG TCTTACATAA GACGCCACAA CCAAGTGTCG ATCTTACTTT TGCAGGGGTC 240
AAATTTACAG TGGTTAATAA CCATTTTCCC CAGTACACTG CAAATCCAGT GTCAGACACT 300
GCCTTTACGC TTCACCGCAT CTCGGGCTAC TTAGCTCGCT GGGTTGCTGA GCAGTGCAAG 360
GCTAATCAGA TCAAATTTGC AGAGGCAGCT GCCACAATTG TGATGCCACT GGCTGAGGTG 420
AAGGGTTGCA CTTGGAGTGA CGGGTATGCA ATGTACCTGG GATTTGCCCC TGGTGCTGAG 480
ATGTTTCTGG AAACCTTTGA GTTTTACCCA CTGGTTATCG ACATGCACCG TGTGATAAAG 540
GATGGAATGG ATGTCAACTT CATGAGGAAG GTCTTACGTC AGAGGTATGG GCAGCTGACT 600
GCAGAAGAGT GGATGACATC TAAGTTGGAC GCAGTCAAGG CTGCATTTGG CTCAGTTGCC 660
CAAATATCCT GGGCTAAATC TGGCTTCTCA CCTGCAGCTA GAGCTTTCCT GGCTCAATTT 720
GGTATCCAGA TCTAAGCTTA ACTGATTCTC CAGTTTTTTC TTTTTTCTCT TCCTAAGTGC 780
ACCATGTCTA TGTGGTGCAC ACCTTTGTTC AGCTGCTTGG ATTTTATTGT TTATAGTTAA 840
TTAGTGGAGC ACACTACT 858
図面
【図2】
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【図1】
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