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明細書 :プリオン遺伝子を非機能性に改変した動物細胞株とその使用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3084399号 (P3084399)
公開番号 特開2000-210078 (P2000-210078A)
登録日 平成12年7月7日(2000.7.7)
発行日 平成12年9月4日(2000.9.4)
公開日 平成12年8月2日(2000.8.2)
発明の名称または考案の名称 プリオン遺伝子を非機能性に改変した動物細胞株とその使用
国際特許分類 C12N 15/09      
A61K 39/145     
A61K 39/205     
C12N  5/10      
C12N  7/02      
C12Q  1/02      
C12R  1:91      
FI C12N 15/00 A
A61K 39/145
A61K 39/205
C12N 7/02
C12Q 1/02
C12N 5/00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 8
出願番号 特願平11-013834 (P1999-013834)
出願日 平成11年1月22日(1999.1.22)
審査請求日 平成11年1月22日(1999.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591111248
【氏名又は名称】農林水産省家畜衛生試験場長
発明者または考案者 【氏名】横山 隆
【氏名】糸原 重美
【氏名】小野寺 節
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外1名)
審査官 【審査官】斎藤 真由美
参考文献・文献 Nature,Vol.356,(1992),p.577-582
Nature,Vol.370,(1994),p.295-297
Nature,Vol.380,(1996),p.639-642
European Journal of Neuroscience,Vol.8,No.3,(1996),p.589-597
調査した分野 C12N 15/00 - 15/90
A61K 31/00 - 48/00
C12N 5/00 - 7/08
C12Q 1/00 - 1/70
特許請求の範囲 【請求項1】
血清含有培地で増殖するが無血清培地でアポトーシスを起こす、プリオン遺伝子が欠失されているか又は非機能性となるように変異されている哺乳動物細胞株。

【請求項2】
神経細胞株である、請求項1に記載の哺乳動物細胞株。

【請求項3】
プリオン遺伝子をノックアウトした哺乳動物の脳細胞から得ることができる、請求項1又は2に記載の哺乳動物細胞株。

【請求項4】
細胞株HpL2-1(FERM P-17080)、HpL3-2(FERM P-17081)、HpL3-4(FERM P-17082)およびHpL4-2(FERM P-17083)からなる群から選択される請求項3に記載の哺乳動物細胞株。

【請求項5】
血清含有培地にて請求項1~4のいずれかに記載の哺乳動物細胞株を培養し、ワクチン用ウイルスを感染させ、増殖したウイルスを回収することを含む、ワクチン用ウイルスの増殖方法。

【請求項6】
ウイルスが、インフルエンザウイルス又は脳心筋炎ウイルスである、請求項5に記載の方法。

【請求項7】
細胞株HpL2-1(FERM P-17080)、HpL3-2(FERM P-17081)、HpL3-4(FERM P-17082)およびHpL4-2(FERM P-17083)からなる群から選択される請求項5に記載の方法。

【請求項8】
請求項5~7のいずれかに記載の方法によって得られるウイルスを、必要により弱毒化もしくは不活化し、医薬的に許容される担体と混合することを含む抗ウイルスワクチンの製造方法。

【請求項9】
さらにアジュバントを含有する、請求項8に記載の方法。

【請求項10】
哺乳動物のプリオン遺伝子を請求項1~4のいずれかに記載の哺乳動物細胞株に導入し、得られた形質転換体を無血清培地にて培養し、アポトーシスが観察された場合には該プリオン遺伝子に異常があり、一方増殖が観察された場合には該プリオン遺伝子が正常であると判定することを含む、哺乳動物の異常プリオン遺伝子を検出する方法。

【請求項11】
形質転換がリポフェクションによって行われる、請求項10に記載の方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、プリオン遺伝子が欠失されているか又は非機能性となるように変異されている哺乳動物細胞株に関する。本発明はまた、この哺乳動物細胞株を使用する、ワクチン用ウイルスの増殖方法、抗ウイルスワクチンの製造方法、及び異常プリオン遺伝子を検出する方法に関する。

【0002】
【従来の技術】ヒツジ及びヤギのスクレイピー、牛海綿状脳症は中枢神経系の海綿状変性を主徴とする伝達性疾患で、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ゲルストマン・ストロイスラー症候群、致死性家族性不眠症などとともにプリオン病と呼ばれている(S.B.Prusiner,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,207,1(1996))。特徴的な臨床症状としては、脱毛、行動異常、歩行障害、起立不能、痴呆、歯ぎしり、不安動作、攻撃的などの症状が報告されている(G.A.H.Wellsら,Vet.Rec.,121,419(1986))。感染動物の病理学的検査では肉眼的に著変は認められないが、組織学的に中枢神経系の海綿状空胞変性及びグリオーシスが認められる。

【0003】
この疾患の病原体として、感染性の蛋白質プリオンが提唱されている。スクレイピー感染マウスの脳から感染性を指標にしてPrPSC(スクレイピーPrP)と呼ばれる異常蛋白質が病原体として分離されたが、この蛋白質は正常プリオン(PrPC)が翻訳後修飾を受け感染力のあるプリオン様の高次構造に変化して形成されると考えられている(S.B.Prusiner, Science,216, 136 (1982);D.R. Borcheltら,J.Cell.Biol.,10, 1153(1990);S.B. Prusiner, Trends in Biochemical. Sciences, 21, 482-487 (1996))。PrPCは、分子量約33~37kDaでグリコシル-ホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーで神経細胞、リンパ球の膜表面に結合する糖蛋白質であり、そのmRNAは特に神経系での発現が顕著であるが、その他の多くの組織でも発現が認められている(N.Stahlら, Cell ,51, 229 (1987);N.R. Cashmanら, Cell, 61, 185 (1990);B. Caugheyら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,35, 4657(1988);B. Oeschら, Cell, 40, 735 (1985))。二次構造の解析により、PrPCはαヘリックス構造に富み(43%)、βシート構造をほとんど含まない(3%)が、PrPSCはβシート構造が多い(47%)ことが示されている(K.-M. Panら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 10962 (1993))。

【0004】
PrPCをコードするプリオン遺伝子はヒト、ヒツジ、ヤギ、ウシ、マウス、ハムスターなど多くの動物種で同定されており、アミノ酸配列は90%以上の相同性を示し高度に保存された蛋白質である(N. Oeschら, Curr. Top. Microbiol. Immunol., 172, 109 (1991))。ヒトのプリオン遺伝子は20番染色体にあり、253個のアミノ酸からなる蛋白質をコードしている。CJDの大部分は変異がなく、プリオンに感染して発病する。

【0005】
生体内に侵入した異常プリオン蛋白質PrPSCは宿主由来の正常プリオン蛋白質PrPCと結合してダイマーを形成しPrPCをPrPSCに変換するという説も提唱されているが、PrPSCの蓄積形態の違いを示す株の存在も知られており、異常プリオンへの変換機序は十分に解明されていない(S.B. Prusiner, Science, 252, 1515 (1991);G.A. Carlson,Curr. Top. Microbiol. Immunol.,207,35 (1996))。

【0006】
プリオン病の診断は、病理組織学的検査による海綿状空胞変性とアストロサイトの活性化の確認、電子顕微鏡によるSAFの確認、ウエスタンブロッティング、免疫組織化学的検査法、免疫電子顕微鏡検査などの免疫学的方法、マウス等の実験動物を用いた伝達試験によって行われる(横山隆と牛木裕子,Foods & FoodIngredients Journal of Japan No.170, 39-45 (1996))。マウスを用いた伝達試験は最も感度の高い方法であるが、本病の潜伏期が長いことから最終的な結果が得られるまでに2年近くかかる。また、免疫学的方法では、正常プリオンと異常プリオンに抗原性の差異が認められない場合が多く、またプリオンは多くの動物間で高度に保存されていることから、感染動物に抗体が出現せず、診断に有用な血清が得られ難い。さらに、病理組織学的検査や電子顕微鏡による診断法では、プリオンに感染してから発病するまでの潜伏期間が約5ヶ月以上と長いためにプリオン病の早期検出が難しい。このため、発症前の微量のPrPSCを検出するには、新たな検査法の開発と感度の向上が求められている。

【0007】
ところで、1939年に英国で旋回病ワクチンの摂取を受けたヒツジが1200頭スクレイピーで発症する事件が起きたが、これはワクチン成分に病原性プリオンが迷入したことが原因であった。現在、ウイルス増殖のために様々な方法で株化した細胞が用いられているが、これらの細胞にはプリオン遺伝子が含まれているため正常プリオン蛋白質の産生がみられる。このことは、ワクチン中にプリオン病病原体が混入する危険性があることを示唆している。一旦病原体が迷入すればその除去は不可能である。このため、ワクチン成分からプリオン病病原体を除去する有効な方法が希求されている。

【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、プリオン遺伝子を改変させた哺乳動物細胞株を樹立し、これを用いて、ワクチン用ウイルス増殖と同時にプリオン病病原体の除去、ウイルスからのワクチンの製造、哺乳動物における異常プリオン遺伝子の検出を目的とする。

【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、血清含有培地で増殖するが無血清培地でアポトーシスを起こす、プリオン遺伝子が欠失されているか又は非機能性となるように変異されている哺乳動物細胞株を提供する。本明細書中、非機能性とは、病原性プリオンの増殖、複製をおこさないことを意味する。

【0010】
本発明の実施態様において、哺乳動物細胞株は神経細胞株である。また細胞株は、プリオン遺伝子をノックアウトした哺乳動物の脳細胞から得ることができる。ここでノックアウトとは、目的遺伝子を欠失させるか又は目的遺伝子に変異を施し機能不全とすることを意味する。別の実施態様において、本発明の哺乳動物細胞株はマウス由来細胞株である。本発明はまた、血清含有培地にて上記の哺乳動物細胞株を培養し、ワクチン用ウイルスを感染させ、増殖したウイルスを回収することを含む、ワクチン用ウイルスの増殖方法を提供する。

【0011】
本発明の実施態様において、ワクチン用ウイルスはインフルエンザウイルス又は脳心筋炎ウイルスである。また、哺乳動物細胞株はマウス細胞株である。本発明はさらに、上記増殖方法によって得られるウイルスを、必要により弱毒化もしくは不活化し、医薬的に許容される担体と混合することを含む抗ウイルスワクチンの製造方法を提供する。このワクチンにはさらに免疫力を増強するためのアジュバントを含有させることができる。

【0012】
本発明はさらにまた、哺乳動物のプリオン遺伝子を上記定義の哺乳動物細胞株に導入し、得られた形質転換体を無血清培地にて培養し、アポトーシスが観察された場合には該プリオン遺伝子に異常があり、一方増殖が観察された場合には該プリオン遺伝子が正常であると判定することを含む、哺乳動物の異常プリオン遺伝子を検出する方法を提供する。形質転換はたとえばリポフェクションによって行うことができる。この検出方法を使用することによって、家族性プリオン病や小脳性運動失調症の原因となる遺伝子の検出をインビトロで行うことが可能となる。

【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、血清含有培地で増殖するが無血清培地でアポトーシスを起こす、プリオン遺伝子が欠失されているか又は非機能性となるように変異されている哺乳動物細胞株を提供する。この発明は、哺乳動物においてプリオン遺伝子が欠失又は非機能性となるように変異されている細胞株を血清含有培地で培養するときには機能性の野生型細胞株と同様に分化、増殖するが、一方、無血清培地で培養するときには野生型細胞株と異なりアポトーシス(すなわちプログラム化された細胞死)を起こすという知見に基づく。

【0014】
プリオン蛋白質をコードする遺伝子はヒト、ヒツジ、ウシ、マウス、ハムスターなどの多くの哺乳動物種で同定されており、アミノ酸レベルで90%以上の相同性を示し高度に保存されていることが知られている(N. Oeschら,上掲;D. Westaway ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA91, 6418-6422 (1994);D. Westawayら, Genes and Develop. 8, 959-969 (1994); N. Hunterら, J. Gen. Virol.74, 1025-1031 (1993))。本発明においては、プリオン遺伝子は、遺伝子工学的方法によって欠失されているか又は非機能性(もしくは不活性)となるように変異されていることが必要である。

【0015】
プリオンmRNAは特に神経系での発現が顕著であるが、胎盤、脾臓、胸腺、リンパ組織、腎臓などの多くの組織で発現していることが知られており(B. Caugheyら,上掲;B. Oeschら,上掲)、したがって、本発明の細胞株は神経細胞、リンパ球、マクロファージ、胎盤細胞などの細胞に由来することができる。また、哺乳動物として、ヒトを含むすべての動物種、例えばウシ、ヒツジ、マウス、ラット、ハムスター、ミンク、アンテロープ、チンパンジー、ゴリラ、赤毛ザル、マーモセット、リスザルなどが例示される。本発明の細胞株の作製は例えば次のようにして行うことができる。

【0016】
1つの例示的方法は、ジーンターゲッティング法によりプリオン遺伝子を欠失させたプリオン遺伝子ノックアウト動物を作出し、その胎児脳細胞を用いて神経細胞の株化を行う方法である。一般に、プリオン遺伝子ノックアウト動物の作出は、目的の動物のプリオン遺伝子をクローン化し、これを人為的に薬剤耐性遺伝子(例えばネオマイシン耐性遺伝子など)を挿入したり欠失させて不活性化し、その後、相同組換え技術で不活性化遺伝子をマイクロインジェクション法、ウイルスベクター法、ES細胞法(胚性幹細胞法)などの動物個体へのDNA導入法により染色体上の活性遺伝子を置換することによって行うことができる(R.L. Brinsterら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4438-4442 (1985); C.L. Stewartら, EMBO J., 6, 383-388 (1987); A. Bradleyら, Nature, 309, 255-256 (1984);H. Buellerら, Cell, 73, 1339-1347 (1993); S. Sakaguchiら, Nature, 380, 528-531 (1996))。具体的には、次のようにしてプリオン遺伝子ノックアウト動物を作出することができる。

【0017】
はじめに、マウスのプリオン遺伝子の蛋白質翻訳領域(ORF)およびその周囲について遺伝子を単離して構造を決定し、ORFの部分をマーカー遺伝子(ネオマイシン[neo]、ガンシクロビル[gan c]耐性遺伝子)で置換しておく(遺伝子破壊)。つぎに、この置換遺伝子を含むDNAをES細胞に導入しマーカーを指標にして相同組換えを起こした細胞(neoを用いた場合はG418という薬剤に抵抗性となった細胞)のコロニーを選別する。選別された置換標的遺伝子をもったES細胞を胚盤胞に注入してキメラ胚を作製する。その後、キメラ胚を仮親の子宮に移植して生育させキメラマウスを産ませる。生まれてきたキメラマウスが置換(破壊)された標的遺伝子を持つか否かを尻尾を一部切り取って調製したDNAを材料にしたRCR法によって決定する。仔マウスのいくつかは破壊された遺伝子を片方の染色体にもつヘテロ接合体(+/-)である。最後に、これらヘテロ接合体であるマウス同士を交配すると破壊されたプリオン遺伝子を両方の染色体上にもつホモ接合体(-/-)が得られる。

【0018】
プリオン遺伝子ノックアウト動物の胎児から脳細胞を取り出し、P.S.Jatらの方法によりレトロウイルスベクター(マウス欠損レトロウイルスMullgan株、Cepko株)を用いてSV40largeT遺伝子を導入し(Mol. Cell. Biol.6(4), 1204-1217 (1986))、株化細胞を得ることができる。たとえば、目的の株化細胞は次のようにして調製することができる。

【0019】
C.L. Cepkoら(Cell37, 1053-1062 (1988))により開発されたマウスレトロウイルス由来シャトルベクターpZip-Neo SV(x)1あるいはpneoMLVにSV40 large T(あるいはその温度感受性変異株tsA58)、あるいはトリmyc遺伝子を入れたものをマウス胎生12~14日胚大脳皮質、海馬、中隔野由来一次培養細胞に感染させ、G418を含む培地で選択する。(なお、実際には、不死化に用いた遺伝子はハーバード大学遺伝学教室のConstance L. Cepko博士から供与を受け、方法は彼女らのもの(C.L. Cepko, Neuromethods 16, 177-219 (1989))に準じた。)
具体的には、pZip-Neo SVあるいはpneoMLVにSV40 large T、SV40 large T-tsmutant、av-myc(PK-VM-2)を組込みPsai-2パッケージング細胞株(NIH13, T3)に感染させ、これよりウイルスを採取し、マウス胎生12~14日胚大脳皮質由来細胞、海馬由来細胞、中隔野由来細胞に感染させ、多数の不死化細胞を得、これらをクローニングする。

【0020】
上記の方法によって、プリオン遺伝子ノックアウトマウス胎児脳からプリオンレス細胞株HpL2-1、HpL3-2、HpL3-4及びHpL4-2を得ることができた。したがって、これらの特定のプリオンレス細胞株は本発明の範囲内である。これらのプリオンレス細胞株は、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に平成10年12月15日付けで寄託され、次の受託番号すなわち、HpL2-1についてFERM P-17080、HpL3-2についてFERM P-17081、HpL3-4についてFERM P-17082、HpL4-2についてFERM P-17083が与えられた。本発明はまた、血清含有培地にて上記の哺乳動物細胞株を培養し、ワクチン用ウイルスを感染させ、増殖したウイルスを回収することを含む、ワクチン用ウイルスの増殖方法を提供する。

【0021】
本発明に使用可能なワクチン用ウイルスは、例えばインフルエンザウイルス、脳心筋炎ウイルス、狂犬病ウイルスなどである。また、哺乳動物細胞株としては上述の方法で作製されるいずれの細胞株も使用できる。血清含有培地は動物細胞を培養する目的のいずれの培地も使用でき、例えばダルベッコ改良イーグル培地などである。ウイルス感染および回収方法は従来慣用のものを使用することができる。本発明の方法で得られるワクチンウイルスはプリオン病病原体が含まれないため、最近欧州で見られる狂牛病および豚の実験感染で見られる海綿状脳症に対して病原体除去の有効な手段となる。本発明はさらに、上記増殖方法によって得られるウイルスを、必要により弱毒化もしくは不活化し、医薬的に許容される担体と混合することを含む抗ウイルスワクチンの製造方法を提供する。

【0022】
ウイルスを生ワクチンとして利用する場合には、ウイルスの毒性を排除する必要がある。毒性は例えば、ウイルスを30℃の低温で増殖することことにより排除することができる。またはウイルス原液をプラック法によりクローニングして弱毒ウイルスを得ることにより該毒性を排除してもよい。あるいは、ウイルスを弱毒化又は不活化ワクチンとして使用する場合には<HAN>、</HAN>ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、エーテル等によって弱毒化又は不活化することができる。

【0023】
ウイルスワクチンの用量は、ウイルスの種類によっても異なるが、通常104pfu程度である。しかし、用量は従来慣用の範囲内のものを使用できる。担体としては当該分野で慣用のもの、例えば生理食塩水、ダルベッコのイーグル培地などが使用でき、この中には例えば塩類、pH緩衝剤、安定化剤(例えばスキムミルク、カゼイン水解物)、乳化剤、保存料、等を含有させることができる。またワクチンには、さらに免疫力を増強するためのアジュバント(例えば油乳剤、水酸化アルミニウム、ムラミルジペプチド、リポポリサッカライド、サポニン類、ポリアニオン類、消化性ポリマー類など)を含有させてもよい。

【0024】
本発明におけるワクチンはプリオン病病原体が除去されている点で従来のワクチンと異なるものであるが、この要件が満たされる限り本発明の方法で調製される1種類もしくは複数のウイルスワクチン以外に他の方法で調製されたウイルスワクチンを含むことができる。本発明はさらにまた、哺乳動物のプリオン遺伝子を上記定義の哺乳動物細胞株に導入し、得られた形質転換体を無血清培地にて培養し、アポトーシスが観察された場合には該プリオン遺伝子に異常があり、一方増殖が観察された場合には該プリオン遺伝子が正常であると判定することを含む、哺乳動物の異常プリオン遺伝子を検出する方法を提供する。

【0025】
クローン化されたプリオン遺伝子をウイルスベクター(例えばSV40,アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、センダイウイルス、ワクシニアウイルスなど)に組込み、このベクターで本発明の上記細胞株をトランスフェクトするか、あるいは、プリオン遺伝子をプラスミド(例えばPMAM2-BSDなど、図4参照)に導入しリポフェクション、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーションなどの方法により細胞に移入して形質転換体を得ることができる。リポフェクションが好ましいが、この方法では、DNA結合性の陽イオンリポソーム(例えばリポフェクチン)とDNAを混合してDNAをリポソーム内に封入し細胞に添加すると、リポソームは細胞に付着し細胞膜と融合し、DNAが細胞内、そして核内に導入される。次いで、形質転換体を血清を含まない動物細胞培養用培地(例えばイーグル培地など)で培養し、増殖あるいはアポトーシスを識別する。アポトーシスが観察された場合には該プリオン遺伝子に異常がある、一方増殖が観察された場合には該プリオン遺伝子が正常であると判定する。

【0026】
アポトーシスによる遺伝子異常に関連して、現在ヒツジおよびマウスでの遺伝子多型の発見に続き、ヒトの遺伝性プリオン病の遺伝子の検出がなされている。Hsiaoらは英国および米国のGSS病2家系で、Doh-uraらは日本のGSS病10症例を調べ、プリオン遺伝子102番目コドンがCCGからCTGへの1塩基置換によりプロリンからロイシンに変わるP102L変異を見出した。102、105、117,145番の点突然変異や129番目の多型はGSS病と呼ばれ、プリオン蛋白前半2本のα-ヘリックス構造領域にあり、正常プリオン蛋白は自然にβ-シート構造に変換しGSS病に特有なクールー斑形成を行うと考えられている。一方、178、180、198、200、208、210、217番などの点突然変異は後半2本のα-ヘリックス領域またはプロモーター蛋白の結合部に近く、異常プリオン蛋白との接触後に正常プリオン蛋白の立体構造の変換が促進されると考えられている。これらの突然変異の一部はマウスでの遺伝子組換え実験でも確認されつつある。しかし、このトランスジェニックマウスを用いた行動異常の実験は一実験が少なくとも2年を要し、さらに簡便な検索方法の開発が望まれてきた。

【0027】
本発明者らはマウスプリオン遺伝子について4種類の欠陥変異株を作製した(39-145;6アミノ酸・8アミノ酸反復欠損、92-145;前半α-ヘリックス域欠損、92-246;α-ヘリックス・タンデム配列欠損、146-246;タンデム配列欠損)。これらの変異遺伝子をpMAM-2BSD(図4参照)に導入しカセットを形成する。合成カセットをリポフェクションによりHpL2-1、HpL3-4細胞等に導入する。導入した細胞を無血清のイーグル培地で24時間培養し、アポトーシスを検出する。アポトーシスの検出法はDNAラダー検出またはプロピディウム・アイオダイド(PI)染色によるフローサイトメーター解析によって行うことができる。その結果、少なくとも92-145の前半αヘリックス域欠損遺伝子には導入してもアポトーシス抑制が見られず、したがってこの部分の欠損が存在すればプリオン病につながる可能性が示唆される。

【0028】
上記検出方法を使用することによって、哺乳動物におけるプリオン遺伝子の異常、例えば家族性プリオン病や小脳性運動失調症の原因となる遺伝子の検出をインビトロで行うことが可能となる。ゲルストマン・ストロイスラー症候群では小脳性運動失調が現れることが知られている。あるいは、この検出方法はヒトを含む易感染性プリオン遺伝子を検出したり、未知のアポトーシス抑制物質を検出することにも利用できる。

【0029】
【実施例】本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に制限されないものとする。
<実施例1>プリオン遺伝子ノックアウトマウス神経細胞株の作製
C57BL/6マウスのプリオン遺伝子のORFおよびその周囲について遺伝子を単離し構造を決定しORFの部分をマーカー遺伝子のネオマイシン[neo]耐性遺伝子で置換した。この置換遺伝子を含むDNAをBALB/cマウス由来胚性幹細胞(ES)細胞に導入し、マーカーを指標にして相同組換えを起こした細胞(neoを用いた場合はG418という薬剤に抵抗性となった細胞)のコロニーを選別した。選別された置換標的遺伝子をもつES細胞を胚盤胞に注入してキメラ胚を作製した。キメラ胚を仮親の子宮に移植して生育させ、キメラマウスを産ませた。生まれてきたキメラマウスがネオマイシン耐性遺伝子に置換された標的遺伝子をもつか否かを尻尾を一部切って調製したDNAを材料にしたPCR法によって決定した。仔マウスのいくつかは破壊された遺伝子を片方の染色体にもつヘテロ接合体(+/-)である。これらのヘテロ接合体であるマウス同士を交配し、破壊されたプリオン遺伝子を両方の染色体上にもつホモ接合体(-/-)を得た。

【0030】
つぎに、プリオンレス神経細胞不死化のためにレトロウイルスベクターに組込んだ不死化遺伝子を用いた。PZip-NeoSVあるいはpneoMLVにSV40 large Tを組込み、Psai-2パッケージング細胞株(NIH13, T3)に感染させ、これによりウイルスを採取した(C.L. Cepkoら, Cell37, 1053-1062 (1988); C.L. Cepko, Neuromethods 16, 177-219 (1989))。5×105PFU/0.1mlのウイルスをノックアウトマウス胎生12~14日胚大脳皮質、海馬、中隔野由来一次培養細胞に感染させた。両ベクターともneo耐性遺伝子を含むので、G418を含む培地で不死化遺伝子導入細胞を選択した。多数の不死化細胞が得られたので段階稀釈胞を用いてクローニングした。

【0031】
上記の方法によって、マウスプリオンレス細胞株HpL2-1、HpL3-2、HpL3-4、HpL4-2を作製し、これらの細胞株は、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に平成10年12月15日付けで寄託され、次の受託番号すなわち、HpL2-1についてFERM P-17080、HpL3-2についてFERM P-17081、HpL3-4についてFERM P-17082、HpL4-2についてFERM P-17083がそれぞれ与えられた。

【0032】
<実施例2>牛パラインフルエンザ3型ウイルス(ワクチン株)の増
プリオン遺伝子ノックアウトの海馬より得た不死化プリオンレス神経細胞株HpL2-1及びHpL3-4と野生型不死化神経細胞株HW8、HW18(ともに本発明者らによって樹立されたプリオン遺伝子を含む不死化神経細胞株)を5%牛胎児血清を含むイーグル培地で培養した。これらの細胞に対し、牛パラインフルエンザ3型ウイルス(BN-1株;農水省家畜衛生試験場製剤研究部由来)を5×104PFU/0.1ml感染させた。その結果、HW8、HpL2-1、 HpL3-4とも同様にウイルス増殖を示す細胞融合が観察された(図3参照)。HpL3-2およびHpL4-2もまた、同様の実験によって、ウイルス増殖を示す細胞融合が観察された。

【0033】
<実施例3>豚脳心筋炎ウイルス(ワクチン株)の増殖
プリオン遺伝子ノックアウトの海馬より得た不死化プリオンレス神経細胞株HpL2-1及びHpL3-4と野生型不死化神経細胞株HW8、HW18を5%牛胎児血清を含む培地で実施例2と同様に培養した。これらの細胞に対し、豚脳心筋炎ウイルスB型(米国国立衛生研究所由来のワクチン株)を4×104PFU/0.1ml感染させた。その結果、プリオンレス細胞株HpL2-1、HpL3-4において野生型細胞株HW8より効率的なウイルス増殖が観察された。HpL3-2およびHpL4-2もまた、同様の実験によって、ウイルス増殖が観察された。

【0034】
<実施例4>抗ウイルスワクチンの調製
実施例2および3に記載のようにワクチンウイルスをHpL2-1、HpL3-4、HpL3-2,またはHpL4-2の存在下で培養、増殖するときには、得られる抗ウイルスワクチン調製物にはプリオン病病原体が含まれなかった。このため、本発明の細胞株はプリオン病病原体除去の有効な手段となることがわかった。

【0035】
パラインフルエンザウイルスワクチン株については、元ウイルスを30℃で培養することによりワクチン株とした。また、豚脳心筋炎ウイルスワクチン株については、元ウイルス(M株)をマウス胎児線維芽細胞(株化していない)上で継代し、プラックアッセイ、プラック摘出、プラッククローニングを繰り返し、ついでインターフェロン効率産生株を選択することによりワクチン株とした。パラインフルエンザウイルスワクチンについては、ウイルスが含まれる培養液を凍結乾燥後、-20℃に保存する。使用にあたって溶解液を用いて水溶液となし、動物に皮下接種することができる。

【0036】
<実施例5>
動物における異常プリオン遺伝子の検出
マウス又はラットのプリオン遺伝子の塩基配列(K.Saekiら,Virus Genes, 12(1), 15-20 (1996);D. Westawayら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:6418-6422 (1994))に基づいてDNA合成機(Applied Biosystems 391)を用いてプライマーすなわち<HAN>、</HAN>P(16):5’-CAA CCG TTA CCC ACC TCA-3’);及びP(103):5’-TTT GTT GCC TTC AAT CAG CTA T-3’を合成した。一方、マウス又はラットの脳よりゲノムDNAを抽出し、そのDNA100ngに対し、50pmolづづのP(16)とP(103)を加え、PCRサーマルサイクラー(Astec社のPC-700)にて耐熱性逆転写酵素の存在下、95℃1分30秒、60℃1分、72℃1分30秒を1サイクルとして35サイクル、さらに72℃7分加熱しPCRを行った。これによりプリオン遺伝子を増幅した。

【0037】
プリオン遺伝子をプラスミドpMAM2-BSD(科研製薬製)に導入してプラスミドカセットpBSD-MPR(第4図参照)を作製し、プリオン遺伝子欠損マウス神経細胞株(HpL2-1, HpL3-4)をリポフェクション法で形質転換した。簡単には、 DOTAPリポフェクションキット(ベーリンガー・マンハイム社製)を用いて上記プリオン遺伝子を神経細胞株に導入した。導入細胞を8mg/mlブラスティシジンB存在下で5%牛胎仔血清、イーグル培地を用いて培養した。10日後、生存細胞を集め、25cm2の培養皿に入れて再び培養した。導入細胞内のプリオン遺伝子の検出をPCRを用いて行った。また、プリオン遺伝子の発現はRT-PCRを用いて一般的な条件のもとで行った。両方法によってプリオン遺伝子の導入および発現を確認した(図1参照)。

【0038】
形質転換体を1mMジブチル・サイクリックAMPで処理した後、牛胎児血清を含むイーグル培地で培養すると、プリオンレス細胞株は野生型細胞株と同様に分化、増殖したが、一方、無血清培地では野生型細胞株は分化、増殖を行うが、プリオンレス細胞株の増殖はみられず、急激な細胞の死滅すなわちアポトーシスを示した(図2参照)。無血清培地へ移行後16時間で死滅が見られ、48時間までに50%以上の細胞が死滅、分解した。死滅細胞はDNAラダー法(S.C. Wrightら, J. Cell Biochem. 48:344-355 (1992))及びフローサイトメーターによってアポトーシスであることが確認された。上記の方法によって、プリオン遺伝子内に重大な欠損又は非機能性変異が存在する場合には、アポトーシスが観察され、プリオン遺伝子異常を検出することができた。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図2】
3