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明細書 :アミロ—ス含量非変動型イネの作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3533436号 (P3533436)
公開番号 特開2000-209972 (P2000-209972A)
登録日 平成16年3月19日(2004.3.19)
発行日 平成16年5月31日(2004.5.31)
公開日 平成12年8月2日(2000.8.2)
発明の名称または考案の名称 アミロ—ス含量非変動型イネの作製方法
国際特許分類 A01H  5/00      
A01H  1/06      
C12N  5/04      
C12N  5/10      
C12N 15/01      
FI A01H 5/00 Z
A01H 1/06
C12N 5/00
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願平11-012828 (P1999-012828)
出願日 平成11年1月21日(1999.1.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年9月1日 日本育種学会発行の「育種学雑誌 第48巻 別冊2号」に発表
審査請求日 平成12年10月6日(2000.10.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】鈴木 保宏
【氏名】佐野 芳雄
【氏名】平野 博之
個別代理人の代理人 【識別番号】100067839、【弁理士】、【氏名又は名称】柳原 成
審査官 【審査官】鈴木 美葉子
参考文献・文献 特開 平10-4970(JP,A)
特開 平4-104791(JP,A)
東北農業研究(1998),No.51,p.5-6
育種学雑誌(1998),Vol.48,別冊2,p.153
北海道農研研報(2002),Vol.174,p.69-81
Jpn J Breed(1988),Vol.38,No.3,p.357-362
科学技術振興調整費による重点基礎研究成果集(2000),p.146-147
調査した分野 A01H 5/00
A01H 1/00
C12N 5/00
C12N 15/00
特許請求の範囲 【請求項1】
登熟温度が変動しても種子胚乳のアミロース含量が変動しないアミロース含量非変動型イネを作製する方法であって、
胚乳中のアミロース含量が15重量%以下の低アミロース系統のイネ種子を突然変異誘発処理したイネ種子から成育したイネを、
登熟期を迎えるまでは通常に栽培して成育させた後、
突然変異誘発処理に使用したイネ種子に適しているとされている通常登熟温度より低温であって、突然変異誘発処理しないイネ種子から成育したイネの場合では種子胚乳のアミロース含量が増加する温度となる弱低温登熟温で登熟させた後、このイネから収穫した種子の中から胚乳の濁った種子を選抜するアミロース含量非変動型イネの作製方法。

【請求項2】
突然変異誘発処理したイネ種子から成育したイネを弱低温で登熟させる温度が、イネの開花日から20日間の平均温度が18~22℃である請求項1記載の作製方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食味の低下や変動を防止するため、アミロース含量が登熟温度に左右されず一定であるアミロース含量非変動型イネの作製方法に関する。

【0002】
【従来の技術】イネ種子のアミロース含量は炊飯米の粘りに関係し、食味に最も影響する。ジャポニカ米の場合、アミロース含量が15~20重量%程度のものが好まれる。また最近では、アミロース含量が5~15重量%と低い「低アミロース米」がおにぎりや冷凍米飯、弁当、炊き込みご飯などに適していると考えられるようになってきている。イネ種子のアミロース含量は登熟期の温度(登熟温度)、特に開花日から20日間の温度に左右されて変動し、登熟温度が高い高温登熟時にはアミロース含量は低下し、登熟温度が低い弱低温登熟時には増大する。そのため、しばしば米食味の低下や変動が生じている。

【0003】
しかしながら、気象現象である登熟温度を広範囲に制御することは困難であるため、圃場や田畑で登熟するイネのアミロース含量を一定に制御することは不可能であり、登熟期の気温が例年の気温よりも低い場合には、アミロース含量が低くて粘りのあるコメが収穫できないのが現状である。このため、対症療法的に、コメの粘りや食感を改善するため、アミロース含量が高く、粘りのないコメにトウモロコシもち澱粉を添加したり、もち米を混合することが行われている。

【0004】
特開平5-153981号には、でんぷん合成酵素の遺伝子であるWx遺伝子のセンスDNAまたはアンチセンスDNAをイネに導入することにより、アミロース含量を改変したイネが記載されている。この方法では、モチ品種イネないしは低アミロース含量のイネを作製することはできる。しかしながら、登熟温度が変動した場合でも、一定アミロース含量のイネ種子が収穫されるかどうかは不明である。

【0005】
また、Sano, Y., 1985, Gene regulation at the waxy locus in rice, Gamma-Field Symp., 24:63-79には、農林8号を突然変異誘発処理して作出されたアミロース含量が低いイネが記載されている。しかし、上記文献のイネは、登熟温度が変動した場合にアミロース含量が変動し、低温で登熟された場合にはアミロース含量が増加する。このように、低温登熟された場合でもアミロース含量が変動せず一定であるイネを簡単に確実に作製する方法はこれまで知られていない。

【0006】
ところで、胚乳(種子)の透明度(濁度)とアミロース含量との間に負の相関関係があり、濁った種子のアミロース含量は低く、透明な種子のアミロース含量は多いことは知られている(例えば、Satoh H. and Omura T. (1981) Japan. J.Breed., 31, 316-326. New Endosperm Mutaitions Induced by Chemical Mutagens in Rice, Oryza sativa L. )。しかし、胚乳の透明度を指標にして、低温登熟された場合でもアミロース含量が変動せず一定であるイネを選抜した例はこれまで知られていない。

【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、登熟温度が通常の登熟温度から18~22℃の弱低温に変動しても種子胚乳のアミロース含量が変動せず、一定であるイネを簡単に得ることができるアミロース含量非変動型イネの作製方法を提供することである。

【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、次のアミロース含量非変動型イネの作製方法である。
(1) 登熟温度が変動しても種子胚乳のアミロース含量が変動しないアミロース含量非変動型イネを作製する方法であって、胚乳中のアミロース含量が15重量%以下の低アミロース系統のイネ種子を突然変異誘発処理したイネ種子から成育したイネを、登熟期を迎えるまでは通常に栽培して成育させた後、突然変異誘発処理に使用したイネ種子に適しているとされている通常登熟温度より低温であって、突然変異誘発処理しないイネ種子から成育したイネの場合では種子胚乳のアミロース含量が増加する温度となる弱低温登熟温度で登熟させた後、このイネから収穫した種子の中から胚乳の濁った種子を選抜するアミロース含量非変動型イネの作製方法。
(2) 突然変異誘発処理したイネ種子から成育したイネを弱低温で登熟させる温度が、イネの開花日から20日間の平均温度が18~22℃である上記(1)記載の作製方法。

【0009】
本発明において、「イネ種子」とは、イネ科の植物であるイネから収穫される種子のほか、種子を籾すりしたもの、籾、食用の目的で市場に流通するコメなどを含む。

【0010】
本発明の方法で使用する突然変異誘発処理する前のイネ種子は特に制限されず、イネの種子であれば品種、系統などは制限されず、市販されている種子でも、遺伝子処理がなされた種子でも、交配が繰り返された種子でも、これらの種子から収穫された種子でも使用できる。本発明で使用するイネ種子としては、胚乳中ミロース含量が15重量%以下の低アミロース系統の品種のものを使用する

【0011】
上記のイネ種子に施す突然変異誘発処理は特に制限されず、公知の突然変異誘発処理を採用することができる。例えば、エチルメタンスルホン酸(以下、EMSと略記する場合がある)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、アジ化ナトリウム、N-メチル-N-ニトロソウレア、エチレンイミン等の突然変異を誘発する化合物を用いた処理;ガンマ線処理;ベータ線処理;X線処理;速中性子処理;熱中性子処理;トランスポゾンの利用などがあげられる。

【0012】
具体的な突然変異誘発処理としては、次のような例をあげることができる。イネ種子を、エチルメタンスルホン酸(EMS)濃度が0.1~0.2モル/リットルの溶液に、イネ種子1000粒当たり100mlを目安に、室温、好ましくは約25℃で5時間程度振盪浸漬し、突然変異誘発処理する。

【0013】
ガンマ線処理する場合は、イネ種子に、ガンマ線を10Gy(グレイ)/時間~100Gy/時間、好ましくは10Gy/時間~20Gy/時間の強度で、200~300Gy照射する。

【0014】
突然変異誘発処理したイネ種子は、登熟期を迎えるまでは通常に栽培して成育させた後、弱低温で登熟させる。前記の弱低温とは、突然変異誘発処理しない同一品種(原品種)のイネ種子から成育したイネの場合では種子胚乳のアミロース含量が増加する温度である。すなわち、突然変異誘発処理に使用したイネ種子に適しているとされている登熟温度より低温であって、突然変異誘発処理しない場合は種子胚乳のアミロース含量が増加、例えば2~20重量%程度増加する温度である。

【0015】
多くのイネの場合、登熟に適しているとされる温度(以下、通常登熟温度という場合がある)は通常23~30℃であるとされているので、このようなイネの種子を使用する場合は、通常登熟温度より5~10℃低い温度、例えば18~22℃の登熟温度で、弱低温登熟させるのが望ましい。本発明において、登熟温度は下記数式(1)で示される温度である。また通常登熟温度、弱低温登熟温度、または登熟させる温度なども、同様の意味である。

【0016】
【数1】
登熟温度(℃)=(T1+T2+T3・・・・+Tn)/Dn (1)
(式中、T1、T2、T3・・・・、Tnはそれぞれ登熟第n日目の平均温度である。ここで平均温度は、その日の最高温度と最低温度との和を2で除して求められる温度である。Dnは登熟日数であり、最小が20、最高が開花日から完熟収穫日までの日数である。)

【0017】
本発明の方法では、イネの開花日から完熟収穫される登熟の全期間にわたって弱低温で登熟させる必要はなく、突然変異誘発処理しない場合の同一品種のイネ種子から成育したイネにおいて、種子胚乳のアミロース含量の増加が認められる期間だけ弱低温で登熟させることもできる。通常、開花日から約20日間の期間は低温の影響を受けやすいので、この期間中に弱低温で登熟させるのが好ましい。具体的には、突然変異誘発処理したイネ種子から成育したイネを、イネの開花日から20日間の平均温度が18~22℃の温度で弱低温登熟させるのが好ましい。

【0018】
イネを温度管理が可能なハウスなどで栽培する場合は、確実に弱低温で登熟させることができるが、自然環境下で栽培する場合は、登熟温度は気象条件に左右され、温度管理は難しい。従って、自然環境下で栽培する場合は、播種または移植する時期をずらせた群を複数設定することにより、いずれかの群が弱低温に晒されるようにするのが好ましい。例えば、2週間の間隔で3回に分けて播種または移植する方法を採用することができる。

【0019】
突然変異誘発処理したM1種子から栽培、収穫したM2種子が、弱低温に応答していない場合、胚乳が白色不透明な胚乳を有する濁った種子と、通常のウルチ品種のように透明ないし濁りの軽い種子との混合物であるが、本発明の方法ではこれらの種子の中から白色不透明な濁ったM2種子を選抜する。この濁った種子はアミロース含量が低い種子であり、透明ないし濁りが軽い種子はアミロース含量が高い種子である。ここでいう「濁った種子」、「透明ないし濁りが軽い種子」という用語は、2つの群の間の相対的な濁りの差を示すものであり、絶対的なものではない。

【0020】
上記濁った種子のアミロース含量は、原品種の種類にもよるが、通常2~15重量%であり、低温登熟したにもかかわらず、原品種を通常登熟温度で登熟させた場合のアミロース含量とほぼ同程度の含量である。従って、上記濁った種子のアミロース含量は、原品種のもつアミロース含量の変動幅のうち、低い方の値である。すなわち、上記濁った種子は、低温登熟によりアミロース含量が変動せず一定のイネ種子である。なお、上記濁った種子のアミロース含量は原品種を通常登熟温度で登熟させた場合のアミロース含量とほぼ同程度であるが、1~3重量%程度の増減はある。一方、上記透明ないし濁りが軽い種子のアミロース含量は通常10~20重量%であり、原品種を通常登熟温度で登熟させた場合のアミロース含量より増加している。ここでいう種子の濁りの程度は比較の問題であるので、濁った種子と透明ないし濁りの軽い種子とのアミロース含量は一部重なる場合がある。

【0021】
同じ品種に同じ突然変異誘発処理を行い、同じ方法で栽培したイネから収穫される同じ群の種子においては、濁った種子と、透明ないし濁りの軽い種子との透明度の違いは相対的ではあるが明瞭であるので、濁った種子の選択は目視などにより容易に行うことができる。この濁った種子は、弱低温登熟されたにもかかわらず、アミロース含量が低い弱低温非応答性の種子である。アミロース含量が低い種子であるかどうかは、実際にアミロース含量またはWxタンパク質含量を公知の方法で定量することにより確認することができる。またアミロース含量またはWxタンパク質含量を測定することにより、二次スクリーニングすることもできる。

【0022】
このような方法によれば、胚乳の透明度を指標にして、弱低温非応答性の種子を弱低温応答性の種子の中から選抜することができるので、目視による選抜も可能であり、目的とする弱低温非応答性のイネ種子を容易に得ることができる。すなわち、本発明の方法によれば、種子胚乳の濁りの差異を視覚的に判別することが可能であるので、簡便で大量な「温度非応答性系統」のスクリーニングが可能となる。このため、多量の種子についてアミロース含量やWxタンパク質含量などを測定する操作は省略することができる。

【0023】
上記方法により選抜した濁った種子から形成されるイネは弱低温非応答性のアミロース含量非変動型イネであり、このイネから収穫される種子はすべてが濁った種子であり、アミロース含量が一定であるアミロース含量非変動型イネ種子である。

【0024】
本発明の方法により得られるイネまたはイネ種子の弱低温非応答性は、次のような試験結果が得られており、劣性の1遺伝子に起因すると結論づけられる。まず濁ったイネ種子と、透明ないし濁りの軽い種子との両方を含んでいた株に実ったイネ種子を、どちらの種類の種子も無作為に播種し、成育させた。次に、開花後5日目より21℃一定のガラス室で登熟させた。そして、実った種子が全て透明ないし濁りの軽い種子である株を優性ホモ株;実った種子が全て濁った種子である株を劣性ホモ株;濁ったイネ種子と、透明ないし濁りの軽い種子との両方を含んでいた株をヘテロ株と定義すると、次の結果が得られた。

【0025】
1)得られた株の数の比が、優性ホモ株:ヘテロ株:劣性ホモ株=1:2:1に分離した。
2)ヘテロ株に実った種子の特性とその比が、優性型胚乳(透明ないし濁りの軽い種子):劣性型胚乳(濁った種子)=3:1に分離した。
3)ヘテロ株に実った種子の特性とその比が、アミロース含量の高い粒:アミロース含量の低い粒=3:1に分離した。
4)ヘテロ株に実った種子の特性とその比が、Wxタンパク質含量の高い粒:Wxタンパク質含量の低い粒=3:1に分離した。
従って、本発明で得られるイネまたはイネ種子の弱低温非応答性は、劣性の1遺伝子に起因すると結論づけられる。

【0026】
本発明の方法により得られるイネは弱低温非応答性のアミロース含量非変動型イネであり、このイネからは、成育条件(気象条件)により種子胚乳のアミロース含量が変動せず、低温で登熟した場合でも通常温度または高温で登熟した場合とほぼ同等の低いアミロース含量となるアミロース含量非変動型イネ種子を得ることができる。すなわち、原品種のもつアミロース含量の変動幅のうち、低い方で一定のアミロース含量となるイネ種子を得ることができる。

【0027】
従って、原品種の種類を選択することにより、低温で登熟した場合でも、目的とするアミロース含量となるコメを得ることができる。例えば、原品種として普通の登熟温度で登熟した場合のアミロース含量が2~3重量%の低アミロース含量のイネ種子を用いた場合は、低温で登熟した場合でも、アミロース含量が2~3重量%程度で一定の低アミロース含量のイネ種子を得ることができる。このような低アミロース含量のイネ種子は、アミロース含量が低すぎるため食用には適していないが、弱低温非応答性の特性を他の品種に導入するための母本として好適に利用することができる。例えば、弱低温非応答性の特性を、アミロース含量が15~20重量%程度の普通のアミロース含量を有する一般のウルチ品種や、アミロース含量が8~15重量%程度の低アミロース品種に導入することにより、成育条件(気象条件)により種子胚乳のアミロース含量が変動しないイネ種子(コメ)を得ることができる。また低アミロース含量のイネ種子(コメ)は、パサパサしているアミロース含量が高いコメの食味を改善するために、このようなコメに混合して使用することができる。

【0028】
また、原品種としてアミロース含量が15~20重量%のものを用いた場合は、低温で登熟した場合でも、アミロース含量が15~20重量%程度であり、食用として好適な粘りと食味を有するコメを得ることができる。

【0029】
また、本発明の方法により得られる弱低温非応答性の特性を有するイネもしくはイネ種子は、弱低温に対する応答機構を解明する有効な素材として使用することもできる。

【0030】
本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネは、前記本発明の方法で得られた弱低温非応答性のイネ、すなわち前記方法により選抜した濁った種子から形成されるイネである。本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネは、冷夏の場合でも、また北海道などの寒冷地でも、気象条件に左右されず、種子胚乳のアミロース含量が変動せず一定のイネ種子(コメ)を容易に生産することができる。本発明の法により得られるアミロース含量非変動型イネは、前記のように、弱低温非応答性の特性を他の品種に導入するための母本として好適に利用することができる。

【0031】
本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネ種子は、上記の本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネから得られる種子である。本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネ種子は、登熟温度が変動してもアミロース含量が変動せず一定のイネ種子であり、通常アミロース含量の変動幅は±3重量%以内である。本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネ種子は、前記のように、弱低温非応答性の特性を他の品種に導入するための母本として好適に利用することができる。

【0032】
【発明の効果】本発明のアミロース含量非変動型イネの作製方法は、胚乳中のアミロース含量が15重量%以下の低アミロース系統のイネ種子を突然変異誘発処理したイネ種子から成育したイネを、登熟期を迎えるまでは通常に栽培して成育させた後、突然変異誘発処理に使用したイネ種子に適しているとされている通常登熟温度より低温であって、突然変異誘発処理しないイネ種子から成育したイネの場合では種子胚乳のアミロース含量が増加する温度となる弱低温登熟温度で登熟させた後、このイネから収穫した種子の中から胚乳の濁った種子を選抜しているので、胚乳の透明度を指標にして簡便で大量な「温度非応答性系統」のスクリーニングが可能となる。また、登熟温度が通常登熟温度から弱低温登熟温度に変動しても種子胚乳のアミロース含量が変動せず、一定であるイネを簡単に得ることができる。

【0033】
本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネは、上記方法で得られたイネであるので、冷夏の場合でも、また北海道などの寒冷地でも、気象条件に左右されずアミロース含量が一定であるコメを容易に生産することができる。本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネは弱低温非応答性の特性を他の品種に導入するための母本として好適に利用することができる。

【0034】
本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネ種子は、上記方法で得られたイネから収穫されるイネ種子であるので、冷夏の場合でも、また北海道などの寒冷地で栽培された場合であっても、アミロース含量が一定である。本発明の方法により得られるアミロース含量非変動型イネ種子は弱低温非応答性の特性を他の品種に導入するための母本として好適に利用することができる。

【0035】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の%は重量基準である。

【0036】
製造例1
《原品種76-3/T65の作製》実施例で原品種として使用するduミュータントの76-3/T65は、次のようにして作製した。

【0037】
イネ品種の農林8号の種子を、エチルメタンスルホン酸(EMS)濃度が0.1モル/リットルの溶液に、イネ種子1000粒当たり100mlを目安に、25℃で5時間振盪浸漬し、突然変異誘発処理した。この突然変異誘発処理した種子を成育させ、このM1株に実ったM2種子の中から、胚乳が濁った種子を選抜し、76-3と命名した。この76-3に対して、台中65号(以下、T65と略記する場合がある)を10回以上戻し交配することにより、76-3/T65を得た。この76-3/T65は通常登熟温度で登熟した場合に低アミロース含量の種子が得られること以外は、T65とほとんど似た性質を有している。従って、ウルチ型品種と同様に温度応答をし、弱低温で登熟するとアミロース含量が増大する。この76-3/T65は本願出願人が分譲を保証している。

【0038】
実施例1、比較例1
《種子の選抜》製造例1で得た低アミロース系統である76-3/T65の種子を、エチルメタンスルホン酸(EMS)濃度が0.1モル/リットルの溶液に、イネ種子1000粒当たり100mlを目安に、25℃で5時間振盪浸漬し、突然変異誘発処理した。この突然変異誘発処理した種子から成育させた1700株のM1苗を、少なくとも1群が弱低温で登熟するように、2週間の間隔を設けて3群に分けて(3回に分けて)移植し、成育させた。最初に移植した群と、最後に移植した群とでは、4週間の間隔がある。その結果、突然変異誘発処理した種子由来の苗の2回目に移植した群は開花日から20日間の登熟温度が18~23℃程度であり、弱低温登熟で登熟したことになる。

【0039】
上記の弱低温登熟した群から、完熟したM2種子を有するM1株を株単位で刈り取った後、このM2種子を株単位で精白した。ある株から得られた白米は胚乳が濁ったものと濁りの軽いものとが混在していた(より濁った粒と濁った粒とが混在していたということもできる)。また別の株から得られた白米は濁りの軽いものだけであった。収穫したM1株の中から、胚乳が濁っているM2種子を含む株を選抜した。この胚乳が濁っているM2種子、このM2種子を播種して得た株、この株に実ったM3種子、およびM3個体以降の自殖したものを弱低温非応答性を有する系統としてTM95と命名した。このTM95は本願出願人が分譲を保証している。

【0040】
《登熟温度とアミロース含量との関係》前記のTM95の弱低温非応答性を次のようにして確認した。すなわち、TM95(実施例1)と、この原品種である76-3/T65(比較例1)とを、それぞれ2群に分けて成育させ、一方の群は21℃に設定したガラス室において弱低温で登熟させ、他方の群は28℃に設定したガラス室において通常登熟温度で登熟させ、完熟種子を得た。すなわち、TM95と76-3/T65の各系統において、最高分げつ期にイネ体を2つに分割し、出穂5日後に、分割した一方を28℃、他方を21℃に設定したガラス室で登熟させ、完熟種子を得た。

【0041】
図1に、21℃または28℃で登熟したM3種子(実施例1)、および76-3/T65のM3種子(比較例1)を精白した白米の写真を示す。図1から、原品種である76-3/T65の21℃で弱低温登熟した種子は透明ないし軽く濁っている(図では精白米を置いた板の色が透けてみえる)が、TM95の21℃で弱低温登熟したM3種子の写真は白く濁っており、その濁りは28℃の通常登熟温度の場合と同等であることがわかる。なお76-3/T65の種子を弱低温登熟した群から得られた白米はすべて透明ないし濁りの軽い種子であり、濁った種子はなかった。

【0042】
また21℃または28℃で登熟したM3種子(実施例1)、および76-3/T65の種子(比較例1)を精白した後、アミロース含量を1粒ずつ定量した。5粒を平均した結果を表1および図2に示す。

【0043】
【表1】
JP0003533436B2_000002t.gif 注) 5粒の平均と標準偏差

【0044】
表1および図2の結果から、原品種である76-3/T65は登熟温度に応答してアミロース含量が変動するが、TM95は登熟温度にかかわらず両温度とも約3%のアミロース含量であり、一定であることがわかる。このことは、TM95はアミロース合成が弱低温に非応答性となっていることを示している。

【0045】
《Wxタンパク質含量とアミロース含量との関係》原品種の76-3/T65および実施例のTM95を、それぞれ21℃および28℃で登熟させた。得られたコメ(白米)を半分に切断し、一方はWxタンパク質含量、他方はアミロース含量を測定した。結果を図3に示す。

【0046】
図3の結果から、28℃の登熟では76-3/T65とTM95の両者とも、Wxタンパク質含量およびアミロース含量のどちらも少ないが、21℃の登熟では、TM95は28℃の登熟の場合とほぼ同じであるのに対して、76-3/T65ではWxタンパク質含量およびアミロース含量が多いことがわかる。また、Wxタンパク質含量とアミロース含量とに相関があることがかわる。

【0047】
《弱低温非応答性ヘテロ型株の後代の遺伝解析》ヘテロ株(弱低温非応答性の種子および弱低温応答性の種子の双方を含む株)の種子を播き、成育させた。出穂前に40株を株上げして、21℃で登熟させた。上記で得られた40株の株ごとにコメの胚乳の濁りの強さを調査し、達観により分類すると、次の3種類に分類された。すなわち、1つの株に実ったコメの全てが76-3/T65型(優性型)であり軽い濁りのコメの株、全てがTM95型(劣性型)であり濁りが強い株、および76-3/T65型とTM95型とが混在するヘテロ株の3種類に分類された。ヘテロ株における株ごとの76-3/T65型およびTM95型のコメの粒数を表2に示す。優性型の株における株ごとの76-3/T65型のコメの粒数を表3に示す。劣性型の株における株ごとのコメの粒数を表4に示す。

【0048】
【表2】
JP0003533436B2_000003t.gif【0049】
【表3】
JP0003533436B2_000004t.gif【0050】
【表4】
JP0003533436B2_000005t.gif【0051】表2~表4を型ごとの株数でまとめると表5のようになる。
【表5】
JP0003533436B2_000006t.gif χ2(1:2:1)=0.20

【0052】
表2~表5の結果から、優性ホモ型であり、76-3/T65原品種型であり、かつ弱低温応答型である胚乳の濁りが弱い株が11株、ヘテロ型の株が20株、劣性ホモ型であり、TM95型であり、かつ弱低温非応答型である胚乳の濁りが強い株が9株であることがわかる。1:2:1の比率で分離することに関するχ二乗は0.20であり、弱低温非応答性は劣性の1遺伝子支配であることを示している。

【0053】
表2に示されているヘテロ株においては、各株ごとに胚乳の透明度が76-3/T65型(優性型)とTM95型(劣性型)とに分類されているが、76-3/T65型:TM95型の比は全ての株およびこれらの合計で3:1の割合に分離している。従って、TM95型の弱低温非応答性の特性は、劣性の1遺伝子に起因すると考えられる。また、これらのヘテロ株20組のデータについて均一性の検定を行ったところ、均一である結果が得られた。

【0054】
《Wxタンパク質含量とアミロース含量との関係》表2の18番目の株(ヘテロ株)の56粒を用いて、Wxタンパク質含量とアミロース含量との関係を検討した。表2の18番目の株に実ったコメ(白米)を半分に切断し、一方はWxタンパク質含量、他方はアミロース含量を測定した。結果を図4に示す。

【0055】
図4の結果からわかるように、Wxタンパク質含量およびアミロース含量の双方が少ないコメ12粒と、Wxタンパク質含量およびアミロース含量の双方が多いコメ44粒とに分けられる。χ二乗は0.38であった。この12粒と44粒との分離は、表2の18番目の型の分類と一致している。従って、目視による外観観察の結果と、生化学的な分析の結果とが一致していることになる。以上の結果から、TM95の有する弱低温非応答性は劣性の1遺伝子により支配されていることが明らかとなった。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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