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明細書 :土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法とそのプログラム及びその発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を用いた警戒避難支援システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3380871号 (P3380871)
登録日 平成14年12月20日(2002.12.20)
発行日 平成15年2月24日(2003.2.24)
発明の名称または考案の名称 土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法とそのプログラム及びその発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を用いた警戒避難支援システム
国際特許分類 E02D 17/20      
G01D 21/00      
G01W  1/10      
FI E02D 17/20 106
G01D 21/00
G01W 1/10
請求項の数または発明の数 11
全頁数 12
出願番号 特願2001-382949 (P2001-382949)
出願日 平成13年12月17日(2001.12.17)
審査請求日 平成13年12月17日(2001.12.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】800000013
【氏名又は名称】有限会社 山口ティー・エル・オー
発明者または考案者 【氏名】古川 浩平
【氏名】倉本 和正
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100080539、【弁理士】、【氏名又は名称】高木 義輝
審査官 【審査官】吉村 和彦
参考文献・文献 特開 平9-158186(JP,A)
倉本和正 他5名,地域特性を考慮した非線形がけ崩れ発生限界雨量線に対するRBFネットワークの適用,計算工学講演会論文集,日本,計算工学会,2001年5月,Vol.6,p685-688
倉本和正 他4名,山口県の急傾斜におけるがけ崩れ発生の現状,土木学会年次学術講演会講演概要集 第6部,日本,土木学会,1999年9月,Vol.54th,p278-279
調査した分野 E02D 17/20 106
G01D 21/00
G01W 1/10
要約 【課題】 個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を精度よく且つ容易に設定可能な方法とそれを実行させるプログラム及び個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を用いた警戒避難支援システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、土砂災害発生の潜在危険度を演算する工程と、斜面あるいは渓流をグループに分類する工程と、この複数のグループの潜在危険度の平均値を演算する工程と、分類されたグループ毎に土砂災害の発生危険度を表す判別境界面についてニューラルネットワークを用いて中間層と出力層の結線の重みを演算する工程などを備えて個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を設定する。
特許請求の範囲 【請求項1】
個々の斜面に対しては斜面要因によりあるいは個々の渓流に対しては渓流要因により評価する土砂災害発生の潜在危険度を演算する工程と、この演算によって得られた潜在危険度の数値の大小に基づき前記個々の斜面あるいは個々の渓流を複数のグループに分類する工程と、この複数のグループの各々に含まれる斜面あるいは渓流の潜在危険度の平均値を演算する工程と、該分類されたグループ毎に降雨要因をパラメータとした土砂災害の発生危険度を表す判別境界面について入力層と中間層と出力層を備えるニューラルネットワークを用いて前記中間層と出力層の結線の重みを演算する工程と、この中間層と出力層の結線の重みと前記グループ毎の潜在危険度の平均値の関係を降雨要因をパラメータとして関数で近似する工程と、該近似された関数の変数に前記個々の斜面あるいは個々の渓流の潜在危険度を代入して個々の斜面あるいは個々の渓流の重みを演算する工程と、この個々の斜面あるいは個々の渓流の重みを使用して個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面を演算する工程と、該演算された個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面の所定の等高線に対応する個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを設定する工程とを有することを特徴とする土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項2】
コンピュータに個々の斜面に対しては斜面要因によりあるいは個々の渓流に対しては渓流要因により評価する土砂災害発生の潜在危険度を演算する工程と、この演算によって得られた潜在危険度の数値の大小に基づき前記個々の斜面あるいは個々の渓流を複数のグループに分類する工程と、この複数のグループの各々に含まれる斜面あるいは渓流の潜在危険度の平均値を演算する工程と、該分類されたグループ毎に降雨要因をパラメータとした土砂災害の発生危険度を表す判別境界面について入力層と中間層と出力層を備えるニューラルネットワークを用いて前記中間層と出力層の結線の重みを演算する工程と、この中間層と出力層の結線の重みと前記グループ毎の潜在危険度の平均値の関係を降雨要因をパラメータとして関数で近似する工程と、該近似された関数の変数に前記個々の斜面あるいは個々の渓流の潜在危険度を代入して個々の斜面あるいは個々の渓流の重みを演算する工程と、この個々の斜面あるいは個々の渓流の重みを使用して個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面を演算する工程と、該演算された個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面の所定の等高線に対応する個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを設定する工程とを実行させることを特徴とする土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定プログラム。

【請求項3】
前記ニューラルネットワークにおける中間層と出力層の結線の重みと前記グループ毎の潜在危険度の平均値の関係を降雨要因をパラメータとして関数で近似する工程における該関数近似は、直線近似であることを特徴とする請求項1に記載の土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項4】
前記潜在危険度に基づき分類するグループ数は、5グループであることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項5】
前記ニューラルネットワークは、放射状基底関数(RBF)を用いるRBFネットワークであることを特徴とする請求項1、請求項3又は請求項4に記載の土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項6】
前記放射状基底関数は、ガウス関数であることを特徴とする請求項5に記載の土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項7】
前記潜在危険度は、点数制を用いて評価した潜在危険度であって、斜面要因毎あるいは渓流要因毎にカテゴリー別の土砂災害発生率を算出し、その発生率を該カテゴリーの設定点数とし、斜面要因毎あるいは渓流要因毎の点数を加算した潜在危険度であることを特徴とする請求項1、請求項3乃至請求項6のいずれかに記載の土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項8】
前記グループ毎の判別境界面と前記個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面は、直近の一時間雨量と半減期を72時間とした実効雨量とを前記降雨要因のパラメータとして表した判別境界面であることを特徴とする請求項1、請求項3乃至請求項7のいずれかに記載の土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法。

【請求項9】
請求項1に記載された方法で設定された個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを用いたことを特徴とする警戒避難支援システム。

【請求項10】
請求項1に記載された方法で設定された個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面と、その判別境界面を用いて設定された非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを有し、個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害発生危険度判定結果の色表示、スネーク曲線の表示、避難場所情報の表示、被害想定の表示、被害情報の入力と集計、予測雨量に対する予測土砂災害発生危険度判定結果の表示の機能を有することを特徴とする請求項9に記載の警戒避難支援システム。

【請求項11】
地理情報システム(GIS)を用いたことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の警戒避難支援システム。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、土砂災害の発生限界線、避難基準線、警戒基準線の設定方法に係わり、特に、個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法とそのプログラム及びその発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を用いた警戒避難支援システムに関する。

【0002】
【従来の技術】自然現象の中でも土砂災害(土石流、がけ崩れ、地すべり)は、毎年、全国各地で発生しており、尊い人命が失われ、貴重な財産が破壊されている。これは、我が国の国土の約7割が山地で地質的にも脆弱な地域が多く、急峻な地形が多い等の地理的条件、都市化の進展による山麓部の土砂災害危険地域への人口増加等の社会的条件、更には土砂災害の誘因となる台風や梅雨等の集中豪雨に見舞われ易いといった気象的条件によるものであり、土砂災害は、我が国における宿命的な自然災害の一つとなっている。

【0003】
かかる土砂災害の危険地域(土石流危険渓流、急傾斜地崩壊危険箇所、地すべり危険箇所)は、全国で約18万箇所と多く、ハード対策による整備率は20%台と低いのが現状であり、また、これだけ多くの危険箇所全てにハード対策を実施するには、予算的、時間的な制約もあることから、ソフト対策によりハ-ド対策の遅れをカバーする必要性が認識されてきている。ソフト対策の目的は、土砂災害から人命を守り、更には財産の破壊を最小限に留めることにあり、ソフト対策には、警報の発令や避難の指示、被害状況に応じた応急対応や二次災害の防止対応の支援などを的確かつ迅速に行う機能が必要であり、また、種々の防災情報の収集・整理・伝達を如何に迅速に行うかが求められる。特に、的確な警報の発令や避難の指示は重要であり、これらは、降雨要因として一時間雨量と半減期を考慮した実効雨量を用いて設定された警戒や避難の基準線(例えば、建設省河川局砂防部砂防課:土石流災害に関する警報の発令と避難の指示のための降雨量設定指針(案)、1989)に基づき行われるが、地域全体で一つの基準線を用いている場合が多く、また、直線で近似した基準線が殆どである。即ち、従来の多くの基準線では、個別の斜面毎或いは渓流毎に異なる土砂災害発生の潜在的な危険度(潜在危険度)は考慮されず、また、複雑な自然現象を直線近似で表現していることから、その精度については課題が残されている。

【0004】
一方、本発明者らは、土砂災害による人的被害の軽減を目的として警戒避難を支援する警戒避難支援システムの構築を目指し、鋭意研究を重ねてきた。即ち、例えば、降雨要因として一時間雨量と半減期を72時間とした実効雨量を用い、渓流要因として最急渓床勾配や降雨集中度など、土石流危険渓流毎の地形特性を考慮した発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を設定し(高橋、他:地形特性を考慮した土石流警戒避難基準雨量線の設定、新砂防、Vo.53, No.1, p.35-46, 2000)、文字や数字、画像などを地図と結び付けてコンピュータ上でさまざまな情報を検索、結合、分析することができ、その結果を地図に表現する機能を有する地理情報システム(GIS。例えば、前田:地理情報システム-入門&マスター-、山海堂、1994)を用い、渓流毎の土石流発生危険度判定結果の色表示、スネーク曲線の表示、避難場所情報の表示、被害想定の表示、被害情報の入力と集計、予測雨量に対する予測土石流発生危険度判定結果の表示の機能を有する土石流警戒避難支援システムを提案した(瀬尾、他:GISを用いた土石流警戒避難支援システムの構築~山口県大島郡におけるモデルの開発~、砂防学会誌、Vo.53, No.4, p.30-37, 2000)。また、個々の斜面に対する線形のがけ崩れ発生限界線を設定する方法を提案(倉本、他:急傾斜地における斜面要因を考慮したがけ崩れ発生限界雨量線の設定手法に関する研究、土木学会論文集、No.658/VI-48, pp.207-220, 2000.9)し、更に、非線形判別に優れたRBFネットワークを用い、その学習機能を利用して最適な中間層と出力層との結線の重みを決定することにより、地域毎の非線形がけ崩れ発生限界線を設定する方法を提案した(倉本、他:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集、No.672/VI-50, pp.117-132, 2001.3)。しかしながら、これらの基準線は、複雑な自然現象を線形で表現した直線近似の基準線、あるいは、斜面毎に異なる潜在危険度を考慮しない非線形の発生限界線であり、未だ、十分な精度を達成できたとは言えない。

【0005】
なお、鉄道沿線の、切土のり面の崩壊形態判別方法及び切土のり面の深層崩壊限界雨量の予測方法(特開平09-158186)が開示され、深層崩壊限界雨量の予測方法として、切土のり面の深層崩壊に対する基本点と、切土のり面勾配、切土高さ、表層土厚さ、切土のり面の貫入強度、基盤硬度、切土のり面上部の地形、及び年平均雨量の各評価点を加算した総合評価点を求め、総合評価点が、12時間以内の最大降雨量である時間雨量と降雨開始からの累積降雨量である連続雨量との、それぞれのべき乗の積であるとして近似する方法が示されている。しかしながら、この関数近似は限界雨量線の形状を限定するものであり、多種多様な個々の斜面に対する限界雨量線を精度よく設定するのは困難である。

【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法に係わる前述の状況に鑑み、個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを、精度よく且つ容易に設定可能な方法とそれを実行させるプログラム及びその非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを用いた警戒避難支援システムを提供することを目的とする。

【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線を好適に設定できる方法を見出したものであって、本発明の請求項1記載の方法においては、個々の斜面に対しては斜面要因によりあるいは個々の渓流に対しては渓流要因により評価する土砂災害発生の潜在危険度を演算する工程と、この演算によって得られた潜在危険度の数値の大小に基づき個々の斜面あるいは個々の渓流を複数のグループに分類する工程と、この複数のグループの各々に含まれる斜面あるいは渓流の潜在危険度の平均値を演算する工程と、該分類されたグループ毎に降雨要因をパラメータとした土砂災害の発生危険度を表す判別境界面について入力層と中間層と出力層を備えるニューラルネットワークを用いて中間層と出力層の結線の重みを演算する工程と、この中間層と出力層の結線の重みとグループ毎の潜在危険度の平均値の関係を降雨要因をパラメータとして関数で近似する工程と、該近似された関数の変数に前記個々の斜面あるいは個々の渓流の潜在危険度を代入して個々の斜面あるいは個々の渓流の重みを演算する工程と、この個々の斜面あるいは個々の渓流の重みを使用して個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面を演算する工程と、該演算された個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面の所定の等高線に対応する個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを設定する工程とを有する。

【0008】
請求項2記載の設定プログラムは、請求項1記載の個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法を、コンピュータを用いて実行させるプログラムである。

【0009】

【0010】
請求項1あるいは請求項2の発明は、前記グループ毎の判別境界面の演算を、入力データを受け取り出力を行う複数の入力素子からなる入力層と、各入力素子からの出力を受け取り出力を行う複数の中間素子からなる中間層と、各中間素子の出力をそれぞれの重みを掛けて受け取り出力を行う出力素子からなる出力層とを備えるニューラルネットワークを用い、その学習機能を利用して行うようにした土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法であり、またそのプログラムである。

【0011】
請求項3の発明は、前記ニューラルネットワークにおける中間層と出力層の結線の重みと前記グループ毎の潜在危険度の平均値の関係を降雨要因をパラメータとして直線近似する方法であり、請求項4に記載の発明は、前記潜在危険度に基づき分類するグループ数を5グループとした土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法である。

【0012】
請求項5の発明は、前記ニューラルネットワークを、放射状基底関数(RBF)を用いたRBFネットワークとした方法であり、請求項6の発明は、前記放射状基底関数を、ガウス関数とした土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法である。

【0013】
請求項7の発明は、前記潜在危険度の評価に係わる形態であり、前記潜在危険度は、点数制を用いて評価した潜在危険度であって、斜面要因毎又は渓流要因毎にカテゴリー別の土砂災害発生率を算出し、その発生率を該カテゴリーの設定点数とし、斜面要因毎又は渓流要因毎の点数を加算して得られる潜在危険度を用いた個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかの設定方法であり、請求項8の発明は、前記降雨要因に係わる形態であって、直近の一時間雨量と半減期を72時間とした実効雨量とを前記降雨要因のパラメータとして表した前記グループ毎の判別境界面と前記個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面を用いた土砂災害の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の設定方法である。

【0014】
請求項9の発明は、請求項1に記載された方法で設定された個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを用いたことを特徴とする警戒避難支援システムである。

【0015】
請求項10の発明は、請求項1に記載された方法で設定された個々の斜面あるいは個々の渓流の判別境界面と、その判別境界面を用いて設定された非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを有し、個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害発生危険度判定結果の色表示、スネーク曲線の表示、避難場所情報の表示、被害想定の表示、被害情報の入力と集計、予測雨量に対する予測土砂災害発生危険度判定結果の表示の機能を有する警戒避難支援システムであり、請求項11の発明は、地理情報システム(GIS)を用いた前記の警戒避難支援システムである。

【0016】
【発明の実施の形態】以下、個々の斜面に対するがけ崩れの非線形の発生限界線の設定を例として、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、土石流などを含む土砂災害に適用できるものであり、がけ崩れに限定されるものではない。また、発生限界線の設定に限定されるものでもなく、避難基準線あるいは警戒基準線の設定にも好適に適用できるものである。なお、以下では個々の斜面に対するがけ崩れの非線形の発生限界線を‘個別非線形がけ崩れ発生限界線’と称する。ただし、本発明でいう‘個別’とは、潜在危険度で特定される個別であって、必ずしも物理的な個別を意味するものではなく、例えば、潜在危険度が同じ複数の斜面は、本発明でいう個別斜面である。また、‘非線形’とは、直線でないという意味である。

【0017】
最初に、本発明で構築する‘判別境界面’について説明する。なお、以下ではグループ毎の判別境界面を‘基本判別境界面’、個別斜面の判別境界面を‘個別判別境界面’と称する。本発明でいう判別境界面とは、斜面要因によりがけ崩れ発生の潜在的な危険度を評価した潜在危険度に対応し、降雨要因、例えば、短期指標としての時間雨量と長期指標としての実効雨量とをパラメータとしたがけ崩れ発生の発生危険度を三次元平面で表したものであって、その例を図1に示す。なお、図1に示す如く、三次元平面と言っても、色を変え、或いは濃淡を設けるなどによりこれを表現できることは言うまでもない。がけ崩れ発生限界線は、所定の閾値を設け、その閾値に相当する判別境界面の等高線を意味し、通常、時間雨量と実効雨量とを直交軸とする二次元平面状の線で表す。なお、本発明でいう基本判別境界面とは、入力層と中間層と出力層を備えるニューラルネットワークを用いて実績データから学習等により直接的に構築した判別境界面を意味し、本発明でいう個別判別境界面は、基本判別境界面の構築により得られたこの中間層と出力層の結線の重みと潜在危険度との関係を関数近似した情報を用いて構築した判別境界面を意味する。即ち、本発明でいう個別判別境界面は、降雨要因をパラメータとして、実績データから学習等により直接的に構築した判別境界面ではなく、‘近似’の判別境界面であり、近似するための情報を基本判別境界面から得て構築したものである。

【0018】
斜面要因を考慮した個別非線形がけ崩れ発生限界線は、原理的には、斜面毎にそれぞれ基本判別境界面を構築しその基本判別境界面を用いて設定できる。しかしながら、斜面毎にそれぞれ基本判別境界面を構築して設定した場合、本発明者の研究によれば、同一斜面で何度もがけ崩れが起こることは少ないため、潜在危険度に差があっても判別境界面に大きな変化が表れず、精度のよい個別非線形がけ崩れ発生限界線の設定はできないことが明らかになった。また、この場合、対象とする斜面毎に学習等の試行計算を行う必要があり、膨大な時間と労力が掛かるという問題もある。

【0019】
これに対し本発明の方法は、個別斜面を斜面要因により評価した潜在危険度の大小に基づき複数のグループに分類して、入力層と中間層と出力層を備えるニューラルネットワークを用いてグループ毎に基本判別境界面を構築し、降雨要因をパラメータとして、基本判別境界面の構築により得られたこの中間層と出力層の結線の重みと潜在危険度との関係を関数近似した情報を用いて個別判別境界面を構築し、その個別判別境界面から個別非線形がけ崩れ発生限界線を設定する設定方法であって、潜在危険度が類似した斜面を幾つかのグループに分類しグループ毎に構築した基本判別境界面は、潜在危険度の変化による判別境界面の形状の差異がより明確になり、潜在危険度の違いを個別非線形がけ崩れ発生限界線に反映させることが可能となる。換言すれば、本発明の方法は、潜在危険度の影響が有意に現れるようにグループ分類し、そのグループ内のデータは、グループの平均の潜在危険度を有する特定の擬似斜面でのデータであるとして扱い、潜在危険度の影響をグループ間の基本判別境界面の相違から求めようとする方法である。即ち、基本判別境界面は、グループの平均潜在危険度を有する擬似斜面の判別境界面であり、基本判別境界面を構築する工程で得られた、この有意差のある情報を用いることにより、精度の高い個別非線形がけ崩れ発生限界線の設定が可能となる。

【0020】
基本判別境界面を構築する工程で得られた情報を用いる形態は、前述のように、グループ毎にその平均潜在危険度をグループの潜在危険度とし、その潜在危険度の関数として近似し、この近似した関数関係に基づいて個別の潜在危険度を有する個別斜面の個別判別境界面を構築し、この個別判別境界面の所定の等高線に対応する特性線として個別非線形がけ崩れ発生限界線を設定するものであり、かかる形態により、斜面毎の学習等による試行計算を要せず、個別非線形がけ崩れ発生限界線を容易に設定することができる。

【0021】
なお、構築した基本判別境界面は、それが自然現象と矛盾していないかその妥当性を評価することが望ましい。例えば、潜在危険度が高い斜面では、相対的に少ない降雨でもがけ崩れが発生し易いのが自然であり、潜在危険度の増加に伴って安全領域が狭まっていれば‘自然現象に矛盾しない’ことを意味し、逆に、潜在危険度の増加に伴って安全領域が広がるような場合は、‘自然現象に矛盾している’ことになる。自然現象に矛盾している場合は,潜在危険度の算出方法や分類するグループ数などを見直し、再度、基本判別境界面の構築からやり直す必要がある。同様に、構築した個別判別境界面に関しても、それが自然現象と矛盾していないかその妥当性を評価する工程を設けるのが望ましい。

【0022】
基本判別境界面の構築は、本発明の好ましい実施の形態として、入力層と中間層と出力層とを備えるニューラルネットワークの学習機能を利用して行うことができる。ニューラルネットワークは、脳や神経回路網のモデルに基づいた計算技術の分類であり、これらのニューラルネットワークは、計算問題の解法を学習するために、内部の重みを外部出力に適用することに特徴づけられる。中間層を構成する中間素子は、基底関数とも呼ばれ、任意の関数が使用でき、例えば、放射状基底関数(RBF)が好適に使用できる。放射状基底関数の特徴は、関数の応答が中心点からの距離に応じて単調に減少(又は増加)することにあり、放射状基底関数の中心、距離目盛り及び正確な形状は、モデルのパラメータであり、放射状基底関数の例としては、ガウス関数などがある。

【0023】
RBFネットワークを用いた判別境界面の構築及びそれに基づく非線形がけ崩れ発生限界線の設定方法は、例えば、上述の本発明者らの論文(倉本、他:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集、No.672/VI-50, pp.117-132, 2001.3)に詳細に示されているモデルなどが好適に使用でき、特に本発明を限定するものではないため、その詳細な説明を省略するが、本発明者らが提案したモデルでは、n個の入力素子とm個の基底関数と1個の出力素子を有するRBFネットワークを用いた学習として、(1)式を最小化するようにして、各基底関数と出力素子との結線の重みを決定する。

【0024】
【数1】
JP0003380871B1_000002t.gif【0025】(1)式において、pは学習データ数であり、xiは学習データ、yiは教師データ、o(xi)は出力素子の出力値、wiは重み、λiは重みwiの抑制パラメータである。

【0026】
ニューラルネットワークを用いて基本判別境界面を構築する工程で得られた情報を近似する関数形状としては、特に本発明を限定するものではないが、簡易かつ実績データ(学習データ)のバラツキを平均化できる直線近似が好適である。近似した関数関係に基づき、斜面毎の潜在危険度に対応する重みを容易に算出できるため、その重みを用いて個別判別境界面の構築と個別非線形がけ崩れ発生限界線の設定を容易に行うことができる。なお、この関数近似化は、グループ間のバラツキを平均化するため、結果として平均化され汎用性の高い、近似したグループ毎の判別境界面(以下、<HAN>「</HAN>近似判別境界面<HAN>」</HAN>という)や斜面毎の個別判別境界面の構築を可能にする効果もある。

【0027】
潜在危険度に基づき分類するグループ数は、本発明を限定するものではなく、また、上述のように、構築した基本判別境界面が自然現象に矛盾した場合などには、変更して試行するパラメータの1つであるが、本発明者の研究によれば、5グループに分類するのが好ましい。一般的な傾向としては、余り少なくすると、重みの関数近似が煩雑、或いは困難になる危険性があり、余り多くし過ぎると、基本判別境界面間に有意な差が表れなくなり、これも関数近似を困難にする。

【0028】
次に、潜在危険度の評価に係わる実施の形態について説明する。公知の如く、斜面要因は、大きな区分として、地形要因、地質・土質要因、環境要因、或いは地震要因などに区分でき、さらにそれぞれの区分毎に、例えば、地形要因としては、傾斜度、斜面高さ、斜面方位、斜面形状、横断形状、遷急線などに細分され、潜在危険度は、これらの斜面要因による評価として求められる。具体的なその評価方法は、例えば、公知の多変量解析、ファジイ理論、或いは点数制などが使用でき、本発明を特に限定するものではなく、また、上述のように、構築した基本判別境界面が自然現象に矛盾した場合などには、変更して試行するパラメータの1つであるが、本発明者の研究によれば、点数制を用いた評価が好ましい。例えば、斜面要因毎にカテゴリー別のがけ崩れ発生率を算出し、その発生率を当該斜面要因・当該カテゴリーの設定点数とし、このようにして設定した斜面要因毎の得点を加算することにより個別斜面の潜在危険度を評価するのが好ましい。この方法は、非常に簡易であり、経験的な判断を必要とせず、更に斜面要因間のウェイトを自動的に調整できるものであり、実際の崩壊現象(潜在危険度との関係においての、崩壊確率、或いは崩壊傾向)を非常に良く再現できるものである。

【0029】
本発明で好適に使用し得る降雨要因としては、本発明者らの精力的な研究によれば、短期指標として直近の一時間雨量と、長期指標として直近の半減期を72時間とした実効雨量との組み合わせが特に好ましい。

【0030】
次に、本発明の警戒避難支援システムについて説明する。本発明の警戒避難支援システムは、本発明の方法を用いて設定した個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線(以下、それぞれ個別非線形発生限界線、個別非線形避難基準線、個別非線形警戒基準線と称する)の少なくともいずれかを用いたことを特徴とする警戒避難支援システムであって、その詳細な構成は、本発明を限定するものではなく、例えば、前述の本発明者らが提案した土石流警戒避難支援システム(瀬尾、他:GISを用いた土石流警戒避難支援システムの構築~山口県大島郡におけるモデルの開発~、砂防学会誌、Vo.53, No.4, p.30-37, 2000)と同様な構成において、本発明を実施できることは明らかである。

【0031】
例えば、GISを用い、本発明の方法で構築した個別判別境界面と、その判別境界面を用いて設定された非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを有し、個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害発生危険度判定結果の色表示、スネーク曲線の表示、避難場所情報の表示、被害想定の表示、被害情報の入力と集計、予測雨量に対する予測土砂災害発生危険度判定結果の表示の機能を有する警戒避難支援システムとして実施できる。なお、個別非線形避難基準線と個別非線形警戒基準線は、個別非線形発生限界線と同様に、構築した個別判別境界面を用い、その閾値を変えて設定することができる。

【0032】
また、本発明の方法を実行させるプログラムを含み、例えば、RBFネットワークの追加学習・忘却機能を利用し、ハード対策等の最新情報を反映させた個別非線形発生限界線、個別非線形避難基準線及び個別非線形警戒基準線の少なくともいずれかの更新を行い、その信頼性を保持、あるいは向上させることができる。

【0033】
以上のような実施の形態により、本発明は、斜面要因あるいは渓流要因を考慮した個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを、精度よく且つ容易に設定可能な方法とそれをコンピュータにおいて実行させるプログラム及びその高精度な発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを用いた信頼性の高い警戒避難支援システムを提供することができる。

【0034】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。

【0035】
先ず、以下で説明するがけ崩れの個別非線形発生限界線の設定法に係わる実施例において、解析に用いた対象データについて説明する。対象地域は山口県下関市南部であり、対象とする斜面は、対象地域内で危険箇所に指定された自然斜面(239斜面)である。発生斜面は、対象期間内(1975~1998年)にがけ崩れの発生が確認されている斜面(59斜面)であり、非発生斜面は、対象期間内に一度もがけ崩れが発生しておらず、且つ現状でも未対策の斜面(180斜面)である。対象降雨データは、対象期間中に下関気象台で観測されたアメダスデータを用いた。発生降雨は、がけ崩れ発生推定時刻を含む一連降雨とし、解析に用いた発生降雨要因は、発生推定時刻から3時間以内の最大時間雨量と、その時刻における実効雨量(半減期72hr)である。一方、非発生降雨は、対象降雨から発生降雨を除いた全ての降雨要因(約20万個)である。

【0036】
図2は、本実施例の解析過程の概要を示した、フロー図であって、以下、このフローに従って本実施例を説明する。

【0037】
先ず、斜面の潜在的な崩壊危険度(以下、<HAN>「</HAN>崩壊危険度<HAN>」</HAN>と略称する)の算出と、その崩壊危険度に基づくグループ化について説明する。本実施例の崩壊危険度は、点数制を用いて算出したものであり、斜面要因毎にカテゴリー別のがけ崩れ発生率を算出し、その発生率を当該斜面要因・当該カテゴリーの設定点数とし、この評価表により得られた各要因の点数を合計したものである。表1は、本実施例で用いた斜面要因の一覧であり、平成9年に山口県が行った急傾斜地崩壊危険箇所点検で調査された地形要因、地質・土質要因、環境要因、地震要因(全29要因)の中から、がけ崩れ発生に及ぼす影響度が不明瞭な上位地形の方向(地形要因)など5要因と、ハード対策に係わる対策工(環境要因)など2要因を除外した、22要因を選択したものである。

【0038】
【表1】
JP0003380871B1_000003t.gif【0039】図3は、カテゴリー別の設定点数を求めた例であって、(a)は地形要因に属する傾斜度に関し、(b)は環境要因に属する隣接斜面(状況)に関するものであり、図中、黒□、白□は各カテゴリーに属する発生斜面、非発生斜面をそれぞれ表し、折れ線は各カテゴリーにおける発生率(発生斜面数/全斜面数)、即ち設定点数を示している。(a)は、傾斜度が70°以上では発生率が急上昇、即ち、傾斜度はがけ崩れの発生に大きな影響を及ぼすことを示している。一方、(b)は、<HAN>「</HAN>斜面全部の崩壊<HAN>」</HAN>を除く全てのカテゴリーで20%程度を示し、隣接斜面(状況)はがけ崩れの発生に殆ど影響しないことを示している。なお、<HAN>「</HAN>斜面全部の崩壊<HAN>」</HAN>が0%となったのは、これに属する斜面が一ヶ所のみで、有効な発生率を算出するデータが不足した結果である。

【0040】
表2は、以上のようにして評価した崩壊危険度に基づき5グループに分類した、各グループの諸元を示し、図4は、各グループにおける発生率を示したものである。図4より、発生率は、算出した崩壊危険度の増加に伴い上昇し、本実施例における崩壊危険度の評価法が妥当であることを示している。この崩壊危険度の評価法は、非常に簡易な方法であると共に、経験的な判断を必要とせず、客観的に決定する方法であり、更に、要因間のウェイト付けを自動的に調整できる好ましい方法である。

【0041】
【表2】
JP0003380871B1_000004t.gif【0042】次に、各グループの基本判別境界面の構築について説明する。本実施例では、判別境界面の構築を、上述の本発明者らが開発したRBFネットワーク(倉本、他:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集、No.672/VI-50, pp.117-132, 2001.3)を用い、学習データを、抽出した時間雨量、実効雨量の2要因とし、発生、非発生の教師値を、それぞれ0、1として行った。なお、本実施例では、突出したデータに対する過剰な反応を抑制し、再現性の高い形状を有する基本判別境界面を構築できるようにするため、このモデルのパラメータの一つである、非発生降雨要因に関するλmax((1)式の抑制パラメータの最大値)を、10から100に変更して用いた。RBFネットワークは、非線形判別に優れ、本発明の判別境界面を構築するに好適である。

【0043】
図5は、構築した各グループの基本判別境界面であり、白色、灰色の領域はそれぞれ安全、危険領域を示し、白から灰色領域に近づくと共に、徐々にがけ崩れの発生危険度が増すことを示している。図6は、構築した基本判別境界面に基づく各グループの非線形がけ崩れ発生限界線(閾値0.8の等高線、以下、<HAN>「</HAN>基本非線形発生限界線<HAN>」</HAN>という)を比較した図である。なお、図6には、後述する重みの関数近似の例として示す格子点(基底関数に対応)の位置を併せて示している。

【0044】
図5と図6は共に、崩壊危険度の増加に伴い、がけ崩れ発生の危険性が低い安全領域が減少することを示し、構築した基本判別境界面が自然現象と矛盾せず、妥当なものであることを示している。

【0045】
次に、グループ毎の基本判別境界面の構築により得られた情報の、関数近似について説明する。本実施例では、全ての基底関数の重みをグループ毎に抽出し、その重みを、各グループの平均崩壊危険度を崩壊危険度として、降雨要因をパラメータに直線近似した。図7は、その結果の例として、図6に示した格子点に対応する3点について示したものであって、図中の直線が回帰分析によって求めた近似直線である。これら3つの格子点は、実効雨量と時間雨量の異なる組合せを示しており、これらの組合せが降雨要因のパラメータとして直線近似に影響を与えている。具体的には、図7は、安全度の高い領域にある格子点(1)では、重みは崩壊危険度の影響を殆ど受けず、一方、崩壊危険度により基本判別境界面が大きく変化する領域にある格子点(2)、(3)では、崩壊危険度の増加に伴い重みが減少することを示しており、崩壊危険度と安全領域との妥当な関係を説明するものである。かかる関数化を行うことにより、任意の崩壊危険度を有する斜面に対して、得られた関数に崩壊危険度を代入するだけで基底関数の重みを容易に算出することができ、個々の斜面に対するRBFネットワークでの学習を要さず、個別非線形のがけ崩れ発生限界線を設定できる。

【0046】
次に、以上のようにして求めた直線近似の妥当性を確認するために行った、近似による重みを用いて構築した各グループの近似判別境界面について説明する。各グループの近似判別境界面は、上記の近似関数に各グループの平均崩壊危険度を代入することで得られる重みを用いて構築し、それに基づく各グループの非線形がけ崩れ発生限界線(閾値0.8の等高線、以下、<HAN>「</HAN>近似非線形発生限界線<HAN>」</HAN>という)を設定した。図8は、その構築した近似判別境界面を示し、図9は、その設定した近似非線形発生限界線を示した図である。近似判別境界面(図8)及び近似非線形発生限界線(図9)は共に、基本判別境界面(図5)及び基本非線形発生限界線(図6)とほぼ同様な形状となっており、直線近似することによる大きな問題は生じていないことを示している。逆に、図6の基本非線形発生限界線では、一部データの分布に対して過剰に反応し、異常と考えられる局所的な形状変化が見られる(格子点(3)近傍)が、図9の近似非線形発生限界線では、その傾向は弱まり、平均化された汎用性の高い形状になっている。即ち、多少のバラツキのあるデータの分布を関数近似することにより、判別境界面の平均化を行うことができると共に、局所的な過剰反応を軽減させ汎用性の高い判別境界面を構築することができる。

【0047】
次に、以上のようにして求めた崩壊危険度と重みとの関数関係を用いて設定した、斜面毎の個別非線形がけ崩れ発生限界線の予測精度について説明する。表3は、発生及び非発生に対する正判別率を、本発明者らが開発した斜面毎の線形がけ崩れ発生限界線(倉本、他:急傾斜地における斜面要因を考慮したがけ崩れ発生限界雨量線の設定手法に関する研究、土木学会論文集、No.658/VI-48, pp.207-220, 2000.9)、及び地域毎の非線形がけ崩れ発生限界線(倉本、他:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集、No.672/VI-50, pp.117-132, 2001.3)と比較して示した、各がけ崩れ発生限界線の正判別率一覧表である。

【0048】
【表3】
JP0003380871B1_000005t.gif【0049】表3に示すように、各がけ崩れ発生限界線ともに発生に関する正判別率は100%である。従って、予測精度は、非発生の正判別率を比較することになるが、従来の斜面毎の線形がけ崩れ発生限界線と地域毎の非線形がけ崩れ発生限界線とは、それぞれ77.6%と77.0%であるのに対し、本発明の個別非線形がけ崩れ発生限界線は、85.0%であり、高精度の予測が可能なことを示している。以上、本発明の実施例を説明したが、特許請求の範囲で規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、その形態や細部に種々の変更がなされても良いことは明らかである。

【0050】
例えば、実施例では、潜在危険度を点数制で評価しているが、公知の多変量解析やファジイ理論などを用いて評価しても良く、本発明を限定するものではなく、点数制を用いるに際しても、実施例で採用した斜面要因は一例であって、地域の特性等を考慮し、これに追加、或いは削除して実施できることは言うまでもない。また、実施例では、重みを発生危険度の直線として近似する例を説明したが、直線近似に限定されるものではなく、例えば、二次関数近似などとしても実施できる。これは、例えば、図7の如く、基底関数の重みと各グループの平均崩壊危険度との関係を総合的に判断して近似する関数形状を決定できる。

【0051】
また、実施例では、個別非線形発生限界線を閾値0.8として設定しているが、これは判別境界面を構築する際の発生危険度に係わり、更には、正判別率を最大にする如くして決定すべきものであり、本発明を何ら限定するものではない。さらに又、基本判別境界面を構築し潜在危険度の影響を抽出するに際し、必ずしも全ての対象斜面又は対象渓流を含める必要はなく、潜在危険度の影響を明確、且つ高精度に反映できる基本判別境界面が構築できればよく、例えば、10グループに分類し、その分類の中から、統計上意味のあるデータ数を含むなど適当と判断されるグループを選抜して潜在危険度の影響を抽出することもできる。

【0052】
【発明の効果】本発明は、以上、詳細に説明したように、個々の斜面あるいは個々の渓流の潜在危険度の違いを明確に個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線に反映させることが可能であり、また、個々の斜面毎あるいは個々の渓流毎の学習による判別境界面の構築を要さず、斜面要因あるいは渓流要因を考慮した個々の斜面あるいは個々の渓流に対する土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを、精度よく且つ容易に設定可能な方法とそれをコンピュータにおいて実行させるプログラムを提供する効果がある。また、その高精度な個々の斜面あるいは個々の渓流の土砂災害の非線形の発生限界線、避難基準線及び警戒基準線の少なくともいずれかを用いた信頼性の高い警戒避難支援システムを提供できる効果がある。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図6】
4
【図9】
5
【図5】
6
【図7】
7
【図8】
8