CAPSULE PROTEIN AND MULTIMERIC COMPLEX COMPOSITION THEREOF, AND PHARMACEUTICAL COMPOSITION USING SAME
外国特許コード | F210010291 |
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整理番号 | (S2019-0482-N0) |
掲載日 | 2021年1月28日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2020JP019827 |
国際公開番号 | WO 2020235570 |
国際出願日 | 令和2年5月19日(2020.5.19) |
国際公開日 | 令和2年11月26日(2020.11.26) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) |
CAPSULE PROTEIN AND MULTIMERIC COMPLEX COMPOSITION THEREOF, AND PHARMACEUTICAL COMPOSITION USING SAME
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発明の概要(英語) | There has been an idea to pack a pharmaceutical agent in a lipocalin-type prostagladin H synthase having a barrel structure, and seal the pharmaceutical agent in the barrel structure by introducing a disulfide bond between α-helix H2 and E-F loop. However, in some cases the pharmaceutical agent is released through a gap in an opening of the barrel structure. This capsule protein is characterized in that: a cysteine, which is the active center of a human lipocalin-type prostagladin D synthetase, has been substituted with alanine; and at least one amino acid of a β strand D has been substituted with a barrier amino acid. The capsule protein has a barrier amino acid provided to the β strand D constituting the opening of the barrel structure, and as a result, the release of the pharmaceutical agent that has been packed is suppressed. |
従来技術、競合技術の概要(英語) |
BACKGROUND ART In DDS, the development of drug carriers is a key technique. Liposomes, microparticles, nano-related substances, drug-polymer conjugates, and the like have been investigated. Among these, polymer micelles have been focused on as favored carriers for the transmission of poorly water-soluble drugs. For example, Patent Document 1) discloses a micelle-forming composition comprising a hydrophobic core surrounded by a hydrophilic shell, wherein the hydrophilic shell comprises PVP (N-vinyl-2-pyrrolidone). Patent Document 2 discloses lipocalin type prostaglandin d synthase ((hereinafter referred to as "L-PGDS"), which is a biological product. a capsule protein modified with) discloses that the effect of a drug can be exhibited by dissolving a poorly water-soluble drug in water and administering the drug. Because the capsule protein modified with L-PGDS is an organism in vivo, it is not an antigen and is not toxic to humans, so it can be said to be a safe and reliable drug delivery device. Patent Document 3 discloses a protein in which a capsule protein modified with L-PGDS is labeled to recognize affected cells. For example, it is thought that a capsule protein modified with L-PGDS, which is labeled peptide that specifically binds to cancer cells, collects in affected cancer cells and improves the therapeutic effect. Patent Document 4 discloses a protein in which 34 th and 92 th tryptophan from the N-terminal of a capsule protein modified with L-PGDS are replaced with cysteine, and a lid made of a disulfide bond that opens and closes in an oxidation-reduction atmosphere is provided. The purpose of the present invention is to enhance the ability to retain the drug by opening and closing disulfide bonds. |
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国際特許分類(IPC) |
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指定国 |
National States: AE AG AL AM AO AT AU AZ BA BB BG BH BN BR BW BY BZ CA CH CL CN CO CR CU CZ DE DJ DK DM DO DZ EC EE EG ES FI GB GD GE GH GM GT HN HR HU ID IL IN IR IS JO JP KE KG KH KN KP KR KW KZ LA LC LK LR LS LU LY MA MD ME MG MK MN MW MX MY MZ NA NG NI NO NZ OM PA PE PG PH PL PT QA RO RS RU RW SA SC SD SE SG SK SL ST SV SY TH TJ TM TN TR TT TZ UA UG US UZ VC VN WS ZA ZM ZW ARIPO: BW GH GM KE LR LS MW MZ NA RW SD SL ST SZ TZ UG ZM ZW EAPO: AM AZ BY KG KZ RU TJ TM EPO: AL AT BE BG CH CY CZ DE DK EE ES FI FR GB GR HR HU IE IS IT LT LU LV MC MK MT NL NO PL PT RO RS SE SI SK SM TR OAPI: BF BJ CF CG CI CM GA GN GQ GW KM ML MR NE SN TD TG |
日本語項目の表示
発明の名称 |
カプセルタンパク質とその多量体組成物およびそれを用いた医薬組成物
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発明の概要 | バレル構造を有するリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素に薬剤を収納し、αヘリックスH2とE-Fループ間にジスルフィド結合を導入して、薬剤を閉じ込めるアイデアはあったが、バレル構造の開口の隙間から薬剤が放出される場合があった。 ヒト型リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の活性中心のシステインがアラニンに置換され、βストランドDの少なくとも1つのアミノ酸を障壁アミノ酸に置換されたことを特徴とするカプセルタンパク質は、バレル構造の開口を構成するβストランドDに設けた障壁アミノ酸によって、収納した薬剤の放出が抑制される。 |
特許請求の範囲 |
[請求項1] ヒト型リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の活性中心のシステインがアラニンに置換され、βストランドDの少なくとも1つのアミノ酸を障壁アミノ酸に置換されたことを特徴とするカプセルタンパク質。 [請求項2] E-FループとαヘリックスH2との間にジスルフィド結合を導入したことを特徴とする請求項1に記載されたカプセルタンパク質。 [請求項3] 前記カプセルタンパク質のN末端若しくはC末端に標識ペプチドが結合されたことを特徴とする請求項1または2に記載されたカプセルタンパク質。 [請求項4] 前記障壁アミノ酸が、リシン(K)、ヒスチジン(H)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、フェニルアラニン(F)の内から選択された少なくとも1つのアミノ酸であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載されたカプセルタンパク質。 [請求項5] 前記カプセルタンパク質を複数個結合させたことを特徴とするカプセルタンパク質の多量体組成物。 [請求項6] 前記多量体組成物が4量体若しくは8量体であることを特徴とする請求項5に記載されたカプセルタンパク質の多量体組成物。 [請求項7] 前記多量体組成物が、ストレプトアビジンの4量体にビオチンを介して前記カプセルタンパク質が結合されたことを特徴とする請求項6に記載されたカプセルタンパク質の多量体組成物。 [請求項8] 請求項1乃至7の何れか一の請求項に記載された前記カプセルタンパク質に薬剤を含ませた医薬組成物。 [請求項9] 凍結乾燥されたことを特徴とする請求項8に記載された医薬組成物。 [請求項10] 請求項1乃至7の何れか一の請求項に記載された前記カプセルタンパク質に薬剤以外の化合物を含ませた複合体を含有する加工食品。 |
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明細書 |
技術分野 [0001] 本発明は、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)として利用することが可能な、カプセルタンパク質およびその多量体組成物に関するもので、特に難水溶性の薬剤を溶解でき、投与後は、患部で薬剤をリリースすることができるカプセルタンパク質およびそれを用いた医薬組成物と加工食品である。 背景技術 [0002] DDSにおいて、薬剤運搬体の開発はキーとなる技術である。従来リポソーム、微粒子、ナノ関連物質および薬物・ポリマー結合体などが検討されてきた。中でもポリマーミセルは、難水溶性薬物の伝達に有利な運搬体として注目されてきた。例えば、親水性シェルに囲まれた疎水性コアからなるミセル形成組成物であって、親水性シェルがPVP(N-ビニル-2-ピロリドン)からなるもの(特許文献1)がある。 [0003] 特許文献2には、生体産生物であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(以後「L-PGDS」という。)を修飾したカプセルタンパク質が難水溶性の薬剤を水に溶かし、投与することで薬剤の効果を発揮させることができることが開示されている。L-PGDSを修飾したカプセルタンパク質は、体内産生物であるため、抗原となることがなく、またヒトにとっては毒物でもないため、安全で確実な薬剤運搬体といえる。 [0004] 特許文献3には、L-PGDSを修飾したカプセルタンパク質に患部の細胞を認識させる標識をつけたタンパク質が開示されている。例えば癌細胞に特異的に結合する標識ペプチドをつけたL-PGDSを修飾したカプセルタンパク質は、患部の癌細胞に集まり、治療の効果が向上すると考えられる。 [0005] 特許文献4には、L-PGDSを修飾したカプセルタンパク質のN末端から34番目および92番目のトリプトファンをシステインに置き換えて、酸化還元雰囲気で開閉するジスルフィド結合による蓋を設けたタンパク質が開示されている。開閉するジスルフィド結合によって、薬剤の保持能力を高める目的である。 先行技術文献 特許文献 [0006] 特許文献1 : 特表2004-501180号公報 特許文献2 : 特開2008-120793号公報 特許文献3 : 特開2011-207830号公報 特許文献4 : 特開2013-162760号公報 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0007] L-PGDSを利用したカプセルタンパク質は、難水溶性の薬剤を容易に溶解することができ、また生体産生物なので、安全性が高いという利点がある。しかし、薬剤を保持するバレル構造は蓋の無い容器様の形状をしている。したがって、一度取り込んだ薬剤が運搬中に放出されるという問題があった。この課題を解決するために、特許文献4では、ジスルフィド結合による留めをL-PGDSを利用したカプセルタンパク質に施した。 [0008] しかし、ジスルフィド結合によるL-PGDSを利用したカプセルタンパク質の開口部へ施す留めでは、バレル構造の開口を塞ぎきれないということが分かった。 課題を解決するための手段 [0009] 本発明は上記問題に鑑みて想到されたものであり、バレル構造の開口部に嵩高い障壁となるアミノ酸を設け、薬剤の不要な放出を防止できるカプセルタンパク質を提供する。 [0010] より具体的に本発明に係るカプセルタンパク質は、 ヒト型リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の活性中心のシステインがアラニンに置換され、βストランドDの少なくとも1つのアミノ酸を障壁アミノ酸に置換されたことを特徴とする。 発明の効果 [0011] 本発明に係るカプセルタンパク質は、ミュータントL-PGDSのβストランドで構成されるバレル構造の開口部に障壁となるアミノ酸を設けたので、バレル構造に入った薬剤が輸送中に放出されることが少なく、効率よく薬剤を患部細胞に届けることができる。 [0012] また、本発明に係るカプセルタンパク質を多量体組成物とすることで、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果を発揮させることができ、癌細胞侵入の特異性が高くなり、薬剤の効果を高めるとともに、正常細胞への影響を抑制することができ、副作用を抑える効果を期待できる。 図面の簡単な説明 [0013] [図1] ミュータントL-PGDSの結晶構造を表す図である。 [図2] ミュータントL-PGDSのアミノ酸配列を表す図である。 [図3] Dクリップ(ジスルフィド結合)を導入したDクリップミュータントのモデル構造を表す図である。 [図4] 障壁付アミノ酸を付与した障壁付ミュータントのモデル構造を表す図である。 [図5] 多量体組成物の概念を表す図である。 [図6] ミュータントL-PGDSと標識されたミュータントL-PGDSのモデル構造を表す図である。 [図7] 障壁付Dクリップミュータントと標識された障壁付Dクリップミュータントのモデル構造を表す図である。 [図8] カプセルタンパク質にSN-38を含ませた時の保持力と放出能を調べたグラフである。 [図9] カプセルタンパク質(障壁付ミュータント)にSN-38を含ませた時の保持力と放出能を調べたグラフである。 [図10] カプセルタンパク質(障壁付ミュータント)にジピリダモールを含ませた時の保持力を調べたグラフである。 [図11] ヒト前立腺癌を発生させたマウスにSN-38を含ませたカプセルタンパク質を投与した時の腫瘍成長抑制能を調べたグラフである。 [図12] ヒト前立腺癌を発生させたマウスにSN-38を含ませたカプセルタンパク質の八量体組成物を投与した時の腫瘍成長抑制能を調べたグラフである。 [図13] 図12のマウスの体重変化を示すグラフである。 発明を実施するための形態 [0014] 以下に本発明に係るカプセルタンパク質について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。 [0015] 本発明に係るカプセルタンパク質はヒト型リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を基とする。表1には、L-PGDSのアミノ酸配列(配列番号1)を示す。L-PGDSは、N末端のアラニンから168番目のグルタミンまでの168個のアミノ酸によって構成されている。 [0016] [表1] [0017] 大腸菌を形質変化させて得たL-PGDSを、「ミュータントL-PGDS」若しくは単に「ミュータント」と呼ぶ。表2には、ミュータントL-PGDSのアミノ酸配列(配列番号2)を示す。人工的に作製する都合上N末端には、グリシン-セリン(GS)が付加され、表1の場合と比較して2つアミノ酸が増えている。以後ミュータントL-PGDSのアミノ酸を指定する場合は、L-PGDSの配列のN末端にグリシン-セリン(GS)が付加された配列で示す。 [0018] [表2] [0019] ミュータントL-PGDSは、酵素活性点を失活させるため、N末端から45番目(配列番号1では43番目)のシステイン(C)をアラニン(A)に置換されている。また、間違ってジスルフィド結合の掛け違えが生じないために147番目(配列番号1では145番目)のシステイン(C)もアラニン(A)に置換されている。表2(以下のカプセルタンパク質の配列でも同様。)では、この2か所を四角で囲った。このミュータントL-PGDSを「C45A/C147A」とも呼ぶ。 [0020] 図1には、ミュータントL-PGDSの結晶構造を示す。図1(a)を90°回転させた状態を図1(b)に示す。なお、L-PGDSも同じ形状をしている。また、図2には、ミュータントL-PGDS(C45A/C147A)のアミノ酸配列(配列番号2)とβストランドおよびαヘリックスの対応を示す。 [0021] ミュータントL-PGDSは、符号AからHまでの8本のβストランドと、符号H1から符号H3のαヘリックスを有する。なお、βストランド間にはループが存在し、短いストランドIと短いヘリックスH4、H5が存在する。 [0022] βストランドAからβストランドHまでが、中心部に空間を包むように螺旋様に配置されている。これをバレル構造と呼ぶ。ミュータントL-PGDSが薬剤を保持する際には、このバレル構造内に薬剤を収納すると考えられる。また、図1(b)を参照して、βストランドDとαヘリックスH2の間にバレル構造に対する大きな開口10が形成される。 [0023] 開口10が開いたままであると、一度薬剤が収納されても、所定の細胞に届く前に放出されてしまうおそれが高い。そこで、開口10に蓋を設ける(特許文献4)。これには、βストランドEとβストランドFをつなぐループ(「E-Fループ」と呼ぶ。)と、αヘリックスH2の間にジスルフィド結合を生じさせる。 [0024] 図2を再度参照して、E-FループはミュータントL-PGDSのN末端から90番目のプロリン(P)から93番目のグリシン(G)までの4つのアミノ酸である。また、αヘリックスH2は、同様にN末端から32番目のセリン(S)から41番目のアラニン(A)までの10個のアミノ酸である。ジスルフィド結合はこれらの内の1つずつをシステイン(C)に変更することで得ることができる。これを「ジスルフィドクリップ」若しくは「Dクリップ」と呼ぶ。 [0025] 例えば、図3には、αヘリックスH2のリシン(N末端から38番目のK)と、E-Fループのヒスチジン(H)をそれぞれシステイン(C)に置換したミュータントL-PGDSのモデル構造を示す。システイン(C)同士で形成されたジスルフィドクリップ12によって、開口10の一部が閉じられているのがわかる。このミュータントL-PGDSを「Dクリップミュータント」と呼ぶ。特許文献4には、Dクリップミュータントが開示されている。 [0026] しかし、ジスルフィドクリップ12は開口10の端部をクリップするにとどまり、バレル構造内部に収納した薬剤がジスルフィドクリップ12とβストランドDとの隙間14から放出されることが分かった。そこで、βストランドD上の隙間14を塞ぐために、本発明では、障壁アミノ酸を設ける。障壁アミノ酸とは、開口10の面積を減らすことができるアミノ酸をいう。障壁アミノ酸を設けることで、隙間14を塞ぐだけでなく、開口10をも効果的に狭くすることが可能となる。 [0027] 再度図2を参照すると、βストランドDは、ミュータントL-PGDSのN末端から68番目のグルタミン(Q)から78番目のプロリン(P)までの11個のアミノ酸配列である。障壁アミノ酸は、空間的に広い範囲を占める官能基を持つことが望ましい。隙間14をできるだけ塞ぐためである。また、βストランドD上に障壁アミノ酸を導入することで、ミュータントL-PGDSの結晶構造が大きく変化しないことが必要である。バレル構造を維持する必要があるからである。 [0028] 例えば、障壁アミノ酸は、リシン(K)、ヒスチジン(H)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、フェニルアラニン(F)などが好適に利用できる。また、置換は1か所でなくてもよい。また、障壁アミノ酸は、βストランドを構成するアミノ酸配列に挿入してもよい。 [0029] 図4には、βストランドD上のメチオニン(M:N末端から74番目、図2参照)をトリプトファン(W)に置換したミュータントL-PGDSのモデル構造を示す。図では「74W」と示した。βストランドD上にトリプトファンが配置されることで、隙間14が塞がれている状態を示す。このように障壁アミノ酸を設けたミュータントL-PGDSを「障壁付ミュータント」と呼ぶ。 [0030] なお、障壁付ミュータントには、ジスルフィドクリップを設けることもできる。障壁アミノ酸とジスルフィドクリップを共に設けたミュータントL-PGDSを「障壁付Dクリップミュータント」と呼ぶ。 [0031] さらに、特許文献3に示したように、標的細胞を認識するペプチド(標識ペプチド)をN末端若しくはC末端あるいは両末端に付加することもできる。また、末端部分に付加するだけでなく、一部をオーバーラップさせてもよい。標識ペプチドは特に限定されるものではないが、例えば、新生血管内皮細胞に発現する膜蛋白質(CD13)に対して特異的に結合するペプチド配列NGRを選択することができる。また、αvβ3およびαvβ5インテグリンを認識するinternalized-Arg-Gly-Asp(iRGD)モチーフでもよいし、ニューロフィリン1を認識するCys-Arg-Gly-Asp-Lys(CRGDK)モチーフでもよい。 [0032] また、胃がんの腹膜腫瘍を認識するLys-Leu-Pro(KLP)モチーフ(Cancer Res, 97, 1075-81, 2006)、転移性がん細胞を認識するAsn-Val-Val-Arg-Gln (NVVRQ)モチーフ(Clin Cancer Res, 14, 5494-502, 2008)、肝がん細胞を認識するPhe-Gln-His-Pro-Ser-Phe-Ile(FQHPSFI)モチーフ(Mol Med, 13, 246-54, 2007)等も好適に利用できる。 [0033] 本発明に係るカプセルタンパク質である障壁付ミュータントに標識ペプチドを付加したものを、「標識された障壁付ミュータント」と呼ぶ。また、ジスルフィドクリップも付加したものを、「標識された障壁付Dクリップミュータント」と呼ぶ。また、本発明に係るカプセルタンパク質には、遺伝子組み換えによる作製上の利便性のために、上記のGS以外にもN末端若しくはC末端に複数のアミノ酸が結合してもよい。 [0034] 本発明に係るカプセルタンパク質は、およそ800Da程度まで大きさの化合物をバレル構造に取り込むことができる。ここで化合物とは、薬剤やその他の化合物であってよい。ここで、その他の化合物とは、補助栄養となる化合物や、天然物由来の化合物であってもよい。 [0035] また、DDSでは、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果によって、癌細胞中への侵入の選択性が高くなるとともに、残留期間を長くし、長期間に亘って薬剤効果を期待できることが知られている。したがって、本発明に係るカプセルタンパク質である障壁付ミュータントを多量体組成物にして用いてもよい。なお、EPR効果を期待するためには、全体の大きさを、10nm以上の大きさにするのがよいとされる。また、多量体組成物に標識ペプチドを付加してもよい。 [0036] カプセルタンパク質を多量体組成物にする場合は、複数のカプセルタンパク質のC末端とN末端同士を結合し、直線的に連結した多量体組成物が好適に利用することができる。しかし、放射状にカプセルタンパク質を連結できればより好ましい。図5に本発明で採用したカプセルタンパク質の多量体組成物の構造の概念図を示す。 [0037] 図5(a)にカプセルタンパク質の多量体組成物(以下単に「多量体組成物」と呼ぶ。)の概念図を示す。図5(b)は、多量体組成物21の一部分解図である。多量体組成物21は、ストレプトアビジン30の四量体32に、リンカー35で結合されたカプセルタンパク質34の二量体36が、ビオチン38によって結合した形をしている。したがって、多量体組成物21はカプセルタンパク質34の八量体組成物を形成している。 [0038] カプセルタンパク質34はミュータントL-PGDS、若しくは障壁付ミュータントが好適に利用できる。ここでは、障壁付ミュータントを用いた場合を説明する。 [0039] ビオチン38とストレプトアビジン30の結合における解離定数(Kd)は10 -15Mと、既知のタンパク質とリガンド間の非共有結合性相互作用の中では最も強力である。また、この相互作用は、非常に迅速に形成され、形成後はpH、温度、変性剤、および有機溶媒等の影響を受けにくい。また、ビオチンは低分子であるため、修飾した分子の機能性を阻害しない。したがって、図5(a)に示した八量体は、非常に安定に存在すると考えられる。 [0040] なお、図5(c)には、ストレプトアビジン30の四量体32に、ビオチン38を介してカプセルタンパク質34の単量体が結合した多量体組成物22を示す。これはカプセルタンパク質34の四量体を形成している。 [0041] 後述するように、カプセルタンパク質34の八量体の多量体組成物21は、直径が10nm以上あり、四量体や単量体と比較して大きい。このため、正常細胞と比較して内皮細胞間に大きな隙間が生じている癌細胞中の血管からは癌細胞内に入ることができるが、正常細胞には透過漏出しにくい。したがって、癌細胞に選択的に侵入し内部に残留する、所謂EPR効果を発揮する。 [0042] 本発明に係る多量体組成物21(カプセルタンパク質34が八量体を形成しているもの)は、カプセルタンパク質の単量体とは、明らかに異なる効果を後述するin vivoの実験で示しており、EPR効果を発揮していると考えられる。 [0043] カプセルタンパク質は、薬剤やその他の化合物を取り込んだうえで、可溶性となる。多量体組成物としてもその作用は変わらない。したがって、カプセルタンパク質は、難溶性の薬剤や、難溶性のビタミン等を可溶化するのに好適に利用できる。例えば、SN-38や、ビタミンA、D、E、K、甲状腺ホルモン類、ステロイドホルモン類、イソフラボン類等が好適に利用できる。また、難溶性の物質を可溶化することができるため、薬剤開発において可溶化というハードルを低下させることができる。 [0044] 本発明に係るカプセルタンパク質に薬剤を含有させた医薬組成物(以下単に「医薬組成物」と呼ぶ。)は、液体状で提供することができる。また、凍結乾燥することで、粉末として提供することもできる。凍結乾燥した場合にも効果が維持されることは特許文献3に示す通りである。 [0045] したがって、本発明に係る医薬組成物を、治療に使用する場合に、経口的または非経口的(例えば、静脈内、皮下、もしくは筋肉内注射、局所的、経直腸的、経皮的、または経鼻的)に投与することができる。経口投与のための組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤などが挙げられる。 [0046] また、非経口投与のための組成物としては、例えば、注射用水性剤、もしくは油性剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、エアロゾル剤、坐剤、貼付剤などが挙げられる。これらの製剤は、従来公知の技術を用いて調製され、製剤分野において通常使用される無毒性かつ不活性な担体もしくは賦形剤を含有することができる。 [0047] また、カプセルタンパク質に薬剤若しくは薬剤以外の化合物を取り込ませた複合体を、加工食品として提供することも可能である。加工食品としては、例えば、飴、ガム、ゼリー、ビスケット、クッキー、煎餅、パン、麺、魚肉・畜肉練製品、茶、清涼飲料、コーヒー飲料、乳飲料、乳清飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン等といった嗜好食品や健康食品を含む一般加工食品だけでなく、厚生労働省の保健機能食品制度に規定された特定保健用食品や栄養機能食品などの保健機能食品を含み、さらに、栄養補助食品(サプリメント)、飼料、食品添加物等も加工食品に含まれる。さらに、難溶性物質を可溶性にする性質を利用し、工業製品や工業素材として用いてもよい。 [0048] これらの加工食品の原料中に、その他の化合物を含有させたカプセルタンパク質(複合体)を添加することで、本発明に係る加工食品を調製することができる。なお、カプセルタンパク質は、タンパク質である障壁付ミュータントがその他の化合物を包んでいるので、熱で分解しやすい。したがって、本発明に係る加工食品では、複合体添加後には、加熱工程が加わらない工程で完成させるのが望ましい。 実施例 [0049] サンプル用のカプセルタンパク質として、 (1)ミュータントL-PGDS (2)標識されたミュータントL-PGDS (3)障壁付Dクリップミュータント (4)標識された障壁付Dクリップミュータント の4種類を作製した。 [0050] ミュータントL-PGDSは、配列番号2に示したカプセルタンパク質で、N末端から45番目のシステイン(C)をアラニン(A)に置換され、147番目のシステイン(C)をアラニン(A)に置換されたもの(「C45A/C147A」)である。ミュータントL-PGDSは、活性点を失活させ、作製の過程で間違ったジスルフィド結合が生じないように147番目のシステイン(C)をアラニン(A)に置換されたものである。 [0051] 標識されたミュータントL-PGDSは、ミュータントL-PGDSに、標識として、腫瘍への集積と細胞膜透過を同時に可能にするiRGDペプチド(CRGDKGPDC:配列番号3)をC末端に付加したものである。ただし、ミュータントL-PGDSのC末端の一部とオーバーラップさせて付加した。これは後にマウスでのin vivoの実験において、マウスへの抗原性を解消するためのものである。標識されたミュータントL-PGDSのアミノ酸配列を配列番号4として表4に示す。標識ペプチドの部分は「■」で示した。なお、図6に、ミュータントL-PGDSと標識されたミュータントL-PGDSのモデル構造を示す。 [0052] [表3] [0053] [表4] [0054] 障壁付Dクリップミュータントは、まず障壁アミノ酸として、βストランドD上のメチオニン(M)をトリプトファン(W)に置換した。メチオニンは、ミュータントL-PGDSのN末端から74番目である。 [0055] 障壁付Dクリップミュータントは、さらにDクリップを付加したものである。Dクリップは、ミュータントL-PGDSのN末端から38番目のリシン(K)をシステイン(C)に置換し、91番目のヒスチジン(H)をシステイン(C)に置換したものである。アミノ酸配列を表5(配列番号5)に示す。表5において、障壁アミノ酸は「▲」で示し、Dクリップ(ジスルフィド結合)は「★」で示した。「★」で示した2つのシステイン(C)の間でジスルフィド結合が生じる。なお、ジスルフィド結合は還元環境では、結合が離れるので、Dクリップで開口10を閉じたり開いたりできる。 [0056] [表5] [0057] 標識された障壁付Dクリップミュータントは、障壁付Dクリップミュータント(配列番号5)にiRGDペプチド(CRGDKGPDC)をC末端にオーバーラップして付加したものである。表6に配列番号6を示す。、障壁アミノ酸は「▲」で示し、Dクリップ(ジスルフィド結合)は「★」で示した。また、標識ペプチドの部分は「■」で示した。また、図7に障壁付Dクリップミュータントと標識された障壁付Dクリップミュータントのモデル図を示す。 [0058] [表6] [0059] それぞれのカプセルタンパク質は、設計された発現プラスミドを、メガプライマー法により作製した後、Escherichia coli BL21(DE3)株を形質転換し、glutathione S-transferaseとの融合タンパク質として発現させた。 [0060] タンパク質発現株をLB/Amp試験管培地にて、37℃条件下で8時間振盪培養した後、2×YT/Amp auto induction培地に植継ぎ、37℃で16時間振盪培養した。得られた菌体を超音波破砕し、破砕液上清をGlutathione-Sepharose4Bカラムに供し、アフィニティークロマトグラフィーを行った。 [0061] カラムに吸着した融合タンパク質に対して165unitsのthrombinで一晩反応させ、目的タンパク質を溶出し、精製した。 [0062] 次に、これらのカプセルタンパク質にSN-38を含有させた。SN-38は、難水溶性抗癌剤である7-ethyl-10-hydroxycamptothecinの略称である。現在臨床で用いられているSN-38のプロドラッグであるイリノテカン塩酸塩と比較して低用量で高い抗腫瘍効果を示すことが知られている。 [0063] <薬剤放出能> SN-38濃度50μM、カプセルタンパク質濃度50μMに調整したSN-38/ミュータントL-PGDS、およびSN-38/障壁付Dクリップミュータント、SN-38/標識された障壁付Dクリップミュータント、それぞれ5mLを透析膜(Dialysis Membrane, Size 27 Wako 分画分子量:14,000)を用い、150mLのPBSを外液として37℃のインキュベータ内で72時間透析した。 [0064] 透析開始後0、1、3、6、8、12、24、36、48、60、72時間において外液を500μLサンプリングし、代わりに同量のPBSを加えた。サンプリングした外液中のSN-38濃度を分光蛍光光度計F-7000(HITACHI)を用いて測定した(励起波長:365nm、測定波長:380-600nm、測定温度:37℃)。 [0065] 次に、障壁付Dクリップミュータント、および標識された障壁付Dクリップミュータントの還元環境に応答した薬剤放出機能を前述と同様に平衡透析法により評価した。外液としてPBS、および10mM DTT/PBSを用いて透析を行い、外液がPBSの場合を酸化環境、DTTを添加した場合を還元環境とした。 [0066] 透析外液中の経時的なSN-38濃度変化を透析時間に対してプロットした結果を図8に示す。横軸は反応時間(時間)であり、縦軸はSN-38濃度(nM)である。エラーバーは平均±標準誤差(n=3)を示す。また、図中の略語で、「SN-38/L-PGDS(「●」)」は、SN-38/ミュータントL-PGDSを示し、「SN-38/Capsule(▲)」は、SN-38/障壁付Dクリップミュータントを示し、「SN-38/Cap-sCRGDK(■)」は、SN-38/標識された障壁付Dクリップミュータントを表す。なお、「SN-38/Capsule」および「SN-38/Cap-sCRGDK」において、「+10mM DTT(「△」および「□」)」とあるのは、それぞれの医薬組成物溶液中に10mMのDTTを添加した場合である。DTT(Dithiothreitol:ジチオスレイトール)の添加により溶液は強い還元環境になる。 [0067] 図8を参照して、外液がPBSの場合、透析開始から全ての時間において、障壁付Dクリップミュータント(SN-38/Capsule)、および標識された障壁付Dクリップミュータント(SN-38/Cap-sCRGDK)における外液のSN-38濃度は、ミュータントL-PGDS(SN-38/L-PGDS)と比較して低いことが明らかとなり、SN-38/障壁付Dクリップミュータント、およびSN-38/標識された障壁付DクリップミュータントからのSN-38の放出は、SN-38/ミュータントL-PGDSからの放出と比較して抑制されていることが判明した。 [0068] 一方、外液がDTT/PBSの場合において、障壁付Dクリップミュータント(SN-38/Capsule:「△」)、および標識された障壁付Dクリップミュータント(SN-38/Cap-sCRGDK:「□」)は、PBSの場合と比較して、外液のSN-38濃度が上昇した。 [0069] 以上のことから、障壁付Dクリップミュータント、および標識された障壁付Dクリップミュータントは酸化環境において、ミュータントL-PGDSより長時間SN-38を保持し、還元環境に応答してSN-38を放出することが示された。また、障壁付Dクリップミュータント、および標識された障壁付Dクリップミュータントにおいて、薬剤放出様式に差がなかったことから、標識ペプチド付加による薬剤放出制御への影響はないことが示された。 [0070] 次に、Dクリップのない、障壁付ミュータント(M74W)とミュータントL-PGDSについて同様の実験を行った。ミュータントL-PGDSは、図8の場合の繰り返し実験となる。結果を図9に示す。図9(a)は、ミュータントL-PGDSの場合であり、図9(b)は、障壁付ミュータント(M74W)の場合である。図9(a)および図9(b)を参照して、横軸は反応時間(時間)であり、縦軸はSN-38濃度(μM)である。 [0071] 図9(a)を参照して外液がPBS(黒丸「●」)の場合の反応時間に対するSN-38の濃度は図8の場合とほぼ同じであり、図8の際の実験がよく再現されていることがわかる。ミュータントL-PGDSでは、外液がDTT/PBSの場合(白丸「○」)、反応時間が短いうちからSN-38の濃度が2.0μMに達し、ほぼプラトーに達しているように観察された。 [0072] これに対して、図9(b)を参照して、外液がPBSの場合(黒丸「●」)、SN-38の濃度は、反応時間が経過しても1.0μMより高くならず、図8で示したミュータントL-PGDS、障壁付Dクリップミュータントや標識された障壁付Dクリップミュータントの場合よりも、SN-38の放出が抑制されていた。 [0073] 一方、外液がDTT/PBSの場合(白丸「○」)には、透析時間48時間でSN-38濃度がおよそ2.0μMとなった。この値は、図8で示した障壁付Dクリップミュータントや標識された障壁付Dクリップミュータントの場合とほぼ同じ濃度であった。つまり、障壁付ミュータントは、障壁付Dクリップミュータントや標識された障壁付Dクリップミュータントよりも薬剤保持能力に優れていることがわかった。また、還元雰囲気では、障壁付ミュータントは他のカプセルタンパク質同様に内包している薬剤をほぼ放出することができることも確認できた。 [0074] 次に薬剤をSN-38から難水溶性の狭心症治療薬であるジピリダモールに変更し、同様の実験を行った結果を図10に示す。なお、外液はPBSである。図10を参照して、横軸は反応時間(時間)であり、左縦軸はジピリダモール濃度(nM)である。なお、右縦軸は左縦軸を放出レート(%)に換算した軸である。ミュータントL-PGDSが、反応時間と共にジピリダモール濃度が上昇したのに対して、障壁ミュータント(M74W)は、検出限界に近い程度しかジピリダモール濃度が上昇しなかった。 [0075] このことより、障壁付ミュータントは、内包した薬剤の保持能力に優れ、薬剤によっては、ほぼ漏らすことなく保持できることがわかった。これは、体内に入り、細胞内の還元雰囲気に到達するまでは、内包した薬剤を保持し続けることができると考えることができ、DDSとして効率が高いと言える。 [0076] <In-vivoによる効果> 4週齢の雄性BALB/C-nu/nuマウス(日本SLC)を室温、12時間明暗サイクルに管理した動物室で自由給水、給餌で1週間飼育し、馴化させた。その後、右脇腹に5×10 7cells/mL(PBS:マトリゲル=1:1)のヒト前立腺癌細胞PC-3を100μL皮下投与することにより、前立腺癌モデルマウスを作製した。 [0077] 腫瘍体積(近似式:{(長径)×(短径)2}/2より算出)が250mm 3に達した日を投与開始0日目とし、マウスを無作為にPBS、SN-38/ミュータントL-PGDS(2.0mg/kg/d)、SN-38/標識されたミュータントL-PGDS(2.0mg/kg/d)、SN-38/障壁付Dクリップミュータント(2.0mg/kg/d)、SN-38/標識された障壁付Dクリップミュータント(2.0mg/kg/d)の各投与群に分類し、各サンプルを1日おきに計8回、尾静脈より投与した。なお、コントロール群にはPBSだけを投与した。 [0078] 図11にin vivo抗腫瘍実験の結果を示す。横軸は投与0日目からの経過日数(日)であり、縦軸は、腫瘍体積(mm 3)である。グラフ中の略語は以下の通りである。 PBS:コントロール群 SN-38/L-PGDS:SN-38/ミュータントL-PGDS SN-38/L-PGDS-sCRGDK:SN-38/標識されたミュータントL-PGDS SN-38/Capsule:SN-38/障壁付Dクリップミュータント SN-38/Cap-sCRGDK:標識された障壁付Dクリップミュータント [0079] PBS投与群においては、抗腫瘍効果は確認できず、投与開始日から腫瘍体積が増加し続けた。これに対し、SN-38/L-PGDS、SN-38/L-PGDS-sCRGDK、SN-38/Capsule、およびSN-38/Cap-sCRGDK投与群においては顕著な腫瘍成長の抑制が確認された。 [0080] また、SN-38/Capsule、およびSN-38/L-PGDS-sCRGDK投与群において、SN-38/L-PGDS投与群と比較して有意な腫瘍成長の抑制は見られなかった。このことから、標的化、および放出制御機能のどちらか一方のみを付加した場合、ミュータントL-PGDSと比較して有意に高い抗腫瘍活性は得られないことが判明した。 [0081] 一方、SN-38/Cap-sCRGDK(標識された障壁付Dクリップミュータント)は、SN-38/L-PGDS(ミュータントL-PGDS)と比較して、有意に高い抗腫瘍活性を示した。以上の結果から、薬剤放出制御機能(障壁アミノ酸およびDクリップ)、および癌標的化機能(標識ペプチド)の2つの機能の相乗効果により、腫瘍成長を有意に抑制できることが明らかとなった。 <多量体> [0082] 次にカプセルタンパク質の多量体組成物(八量体組成物)の作成を説明する。図5で説明したように、八量体組成物は、ストレプトアビジン30の四量体32に、リンカー35で結合されたカプセルタンパク質34の二量体36が、ビオチン38によって結合した形をしている。 [0083] したがって、カプセルタンパク質の二量体にビオチンが結合したビオチン化二量体組成物を産生した後、別途産生したストレプトアビジンの四量体と結合してカプセルタンパク質の八量体組成物を得る。なお、リンカーは表7に示す塩基配列(配列番号7)でコードされる。また、ストレプトアビジンは表8に示す塩基配列(配列番号8)でコードされる。 [0084] [表7] [0085] [表8] [0086] <二量体L-PGDS発現ベクターの作製> 障壁付ミュータントの遺伝子配列を、Bam HI認識部位を含むForwardプライマー、およびEco RI認識部位とリンカー配列(GGGGS:配列番号7)を含むReverseプライマーを用いてPCRにより増幅し、アガロースゲル電気泳動を行った。これをBam HI、およびEco RIを用いて制限酵素処理したものを障壁付ミュータントインサートとした。 [0087] なお、障壁付ミュータントは、N末端から45番目のシステイン(C)がアラニン(A)に置換され、147番目のシステイン(C)がアラニン(A)に置換され(「C45A/C147A」)、さらに、障壁アミノ酸として、βストランドD上のメチオニン(M)がトリプトファン(W)に置換された(「M74W」)したものである。メチオニンは、ミュータントL-PGDSのN末端から74番目である。障壁付ミュータントのアミノ酸配列(配列番号9)を表9に示す。 [0088] [表9] [0089] また、同じように制限酵素処理したプラスミド(pGEX4T-2)を用意した。障壁付ミュータントインサートおよび制限処理されたpGEX4T-2を、別々にアガロースゲル電気泳動を行った。 [0090] それぞれをエチジウムブロマイド染色した後、切り出したゲルよりAgarose Gel Extraction Kit(Jene Bioscience)を用いてそれぞれのDNAを抽出し、ライゲーションを行った。この操作で、障壁付ミュータントとリンカーが結合されたものをコードする塩基配列がプラスミドpGEX4T-2に挿入された。このプラスミドを障壁付ミュータント発現ベクターと呼ぶ。 [0091] 得られた障壁付ミュータント発現ベクターを用いて大腸菌DH5α(DE3)株を形質転換し、LB/Ampプレート培地に植菌した。プレート培地に生えたコロニーに関してコロニーダイレクトPCRを行った。障壁付ミュータントの存在が確認できたコロニーをLB/Amp試験管培地(5mL)に植菌し、37°Cで16時間培養した。その後、SV Minipreps(promega)を用いてミニプレップを行い、障壁付ミュータント発現ベクターを精製した。 [0092] 得られた障壁付ミュータント発現ベクターのシークエンシングを行い、障壁付ミュータントとリンカーをコードする塩基配列が挿入されていることを確認した。 [0093] この障壁付ミュータント発現ベクターに、Eco RIおよびSalI認識部位を含むプライマーを用いて増幅した障壁付ミュータントインサートを同様の手順で組み込んだ。その後同様の手順で大腸菌DH5α(DE3)株を形質転換し、培養して増幅した後、プラスミドを精製した。このプラスミドは二量体分の障壁付ミュータントをコードする塩基配列が含まれている。したがって、このプラスミドを二量体障壁付ミュータント発現ベクターと呼ぶ。得られた二量体障壁付ミュータント発現ベクターに対してシークエンシングを行い、塩基配列を確認した。 [0094] <修飾された二量体L-PGDS発現ベクターの作製> 次に,ビオチンリガーゼ(BirA)が特異的に認識する15アミノ酸残基(Avitag TM、以下「Av」と呼ぶ。)をコードするように、配列番号10および11の相補的なオリゴDNAを用いて、アニーリングを行った。ビオチンリガーゼは、ペプチドAvのリシン残基にビオチンを結合する。それぞれ表10および表11に塩基配列を示す。その後、精製用カラムFastGene Gel/PCR Extraction Kit (Nippon genetics, Tokyo)を用いてアニーリング産物を精製した。この塩基配列をAv塩基配列と呼ぶ。 [0095] [表10] [0096] [表11] [0097] 二量体障壁付ミュータント発現ベクターをBam HIを用いて制限酵素切断後(37°C、3時間)、アガロースゲル電気泳動を行った。その後、二量体障壁付ミュータント発現ベクターのDNAを抽出し、In Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(Clontech)により、Bam HIの切断位置にAv塩基配列を挿入した。二量体障壁付ミュータント発現ベクターにAv塩基配列を挿入したものは、修飾された二量体障壁付ミュータント発現ベクターと呼ぶ。得られたベクターをシークエンシングし、目的配列の挿入を確認した。 [0098] <二量体障壁付ミュータント発現株> 修飾された二量体障壁付ミュータント発現ベクターにより、BirAを発現する大腸菌株AVB101株を形質転換し、二量体障壁付ミュータント発現株を得た。二量体障壁付ミュータント発現株をLB/Amp/Chl液体培地5mlに植菌し、37°Cで一晩振盪培養した。次に、2×YT/Amp/Chl培地1Lに植え継ぎ、37°Cで培養した。 [0099] なお、BirAを発現する大腸菌株AVB101株は、BirAをコードする塩基配列が挿入された発現ベクターが注入された大腸菌株である。 [0100] <ビオチン化二量体障壁付ミュータントの産生> 二量体障壁付ミュータント発現株の培養液のOD600の値が、0.6-1.0に達した時点で、IPTG(終濃度0.1mM)、およびビオチン(終濃度50μM)を添加した。この操作で、大腸菌の体内で、修飾された二量体障壁付ミュータントとBirAの両タンパク質が発現する。そして、BirAが、二量体障壁付ミュータントに追加されたペプチドAvにビオチンを結合させる。結果、二量体障壁付ミュータントのビオチン化が誘導されることとなる。 [0101] その後、37°Cで6時間培養し、培養液を遠心分離(8,400×g、10min、4°C)し,菌体を回収した。さらに、菌体をPBSで洗浄し、遠心分離で集菌し、菌体を超音波破砕した。 [0102] Glutathione Sepharose 4B(GE Helthcare Bio Science, UK)を15ml分注したアフィニティカラムを0.22μmフィルターに通したカラム体積の5倍量のPBSで平衡化し、0.22μmフィルターに通した破砕上清液を供した。 [0103] カラム体積の3倍量の1%Triton X-100/PBS、および5倍量のPBSで洗浄後、165unitのthrombin(SIGMA)を加えてよく撹拌し、室温で12時間以上静置した。カラム体積の5倍量のPBSで溶出し、分画分子量10kDaのアミコンを用いて遠心分離(8,400g、20min、4°C)を繰り返し、4mlに濃縮した。 [0104] 次に,0.22μmフィルターに通した5mM Tris-HCl(pH8.0)を10分間脱気し,2倍量の同bufferにより,Superdex 75 16/600(GE Helthcare Bio Science, UK)を平衡化した。濃縮液を0.22μmフィルターに通し、Superdex 75 16/600に添加した。紫外線波長280nmの吸光度をモニターしながら、流速0.5ml/minで溶出液を1.5mlずつ分画し、ビオチン化二量体L-PGDSに相当するピークのフラクションを回収した。 [0105] 回収したフラクションをプールし、20mM Na-acetate buffer(pH5.5)にて透析後、分画分子量10kDaのアミコンを用いて遠心分離(8,400g、20min、4°C)を繰り返し、4mlに濃縮した。 [0106] SP sepharose Fast Flow(GE Helthcare Bio Science, UK)を充填したカラムに供し、20mM Na-acetate buffer(pH5.5)→1M NaCl/20mM Na-acetate buffer(pH5.5)のリニアグラジェント法を用いた陽イオン交換クロマトグラフィーを行った。 [0107] 紫外線波長280nmの吸光度をモニターしながら、流速1.0ml/minで溶出液を1.5mlずつ分画した。その後、SDS-PAGE分析を行ない、ビオチン化二量体障壁付ミュータントの単一バンドが確認されたフラクションを回収した。 [0108] <ストレプトアビジンの精製> ストレプトアビジン発現ベクター(pET21a-Streptavidin-Alive, Addgene)により、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、ストレプトアビジン発現株を得た。ストレプトアビジン発現株をLB/Amp液体培地5mlに植菌し、37°Cで一晩振盪培養した。次に、2×YT/Amp培地1Lに植え継ぎ、37°Cで培養した。その後、OD600の値が0.6-1.0に達した時点で、終濃度0.1mMとなる様にIPTGを添加し、発現を誘導した。さらに、18°Cで24時間培養後、培養液を遠心分離(8,400×g、10min、4°C)し、菌体を回収した。 [0109] 得られた菌体にPBSを加え懸濁し,菌体1gあたり1μlの100mg/mlのLysozymeを加え、氷中において撹拌した。さらに、氷中で撹拌しながら、菌体を超音波破砕(1分 sonication,2分 restを7セット)し、砕液を遠心分離(4°C、 15,000rpm)により、破砕し上清を得た。 [0110] Ni sepharose(GE Helthcare Bio Science, UK)を10ml分注したアフィニティカラムを0.22μmフィルターに通したカラム体積の5倍量の20mM imidazole/20mM Na-phosphate buffer(pH7.0)で平衡化し、0.22μmフィルターに通した破砕上清液を供した。各imidazole濃度(20,50,100mM)の20mM Na-phosphate buffer (pH7.0)により洗浄し,300mM imidazole/Na-phosphate buffer (pH7.0)により溶出した。その後、分画分子量10kDaのアミコンを用いて遠心分離(8,400g、20min、4°C)を繰り返し、4mlに濃縮した。 [0111] 次に、0.22μmフィルターに通したPBS(pH7.4)を10分間脱気し、2倍量の同bufferにより、Superdex 75 16/600を平衡化した。濃縮液を0.22μmフィルターに通し、Superdex 75 16/600に添加した。紫外線波長280nmの吸光度をモニターしながら、流速0.5ml/minで溶出液を1.5mlずつ分画し、非還元SDS-PAGE分析によりストレプトアビジン四量体を得た。 [0112] <八量体組成物の作製> 精製した二量体障壁付ミュータント(in PBS、pH7.4)、およびストレプトアビジン四量体(in PBS、pH7.4)をモル比が4:1となるように混合し、室温で15分間静置した。その後、分画分子量50kDaのアミコンを用いて遠心分離(8,400g、20min、4°C)を繰り返し、4mlに濃縮した。 [0113] 次に、0.22μmフィルターに通したPBS(pH7.4)を10分間脱気し、2倍量の同bufferにより、Superdex 200 16/600(GE Helthcare Bio Science, UK)を平衡化した。濃縮液を0.22μmフィルターに通し、Superdex 200 16/600に添加した。紫外線波長280nmの吸光度をモニターしながら、流速0.5ml/minで溶出液を1.5mlずつ分画し、SDS-PAGE分析により八量体組成物を得た。 [0114] なお、二量体障壁付ミュータント発現ベクターを作製する前の障壁付ミュータント発現ベクターをそのまま大腸菌に導入することで、障壁付ミュータントの単量体を得た。また、障壁付ミュータントにiRGDペプチドを付加した標識された障壁付ミュータントの単量体も作製した。表12に標識された障壁付ミュータントのアミノ酸配列(配列番号12)を示す。iRGDペプチドの付加の方法は配列番号6の場合と同じである。 [0115] [表12] [0116] また、障壁付ミュータント発現ベクターにAv塩基配列を挿入した修飾された単量体障壁付ミュータント発現ベクターでBirAを発現する大腸菌株AVB101株を形質転換することで、ストレプトアビジンで4つの単量体が結合された四量体組成物を得ることもできる。 [0117] <八量体組成物の大きさ> <DLSによる八量体組成物の大きさ> [0118] <SAXSによる八量体の大きさ> 得られた八量体組成物の大きさをX線小角散乱法(SAXS:Small Angle X-ray Scattering)で測定した。なお、比較のためにミュータントL-PGDSの大きさも測定した。 [0119] SAXS測定は,大型放射光施設であるSPring-8(兵庫,佐用郡)のビームラインBL40B2にて行った。X線波長を1.000A(オングストローム)、カメラ長を2.193mに調整し、25oCにおいて実験を行った。各測定につき20-50秒露光し、散乱光をPILATUS-2M(RIGAKU,Tokyo)を用いて検出した。 [0120] X線の散乱を最大限にするため、3.0mmの厚さのサンプルセルを用い、セルの窓は0.02mmの石英板のものを使用した。測定誤差を避けるため、タンパク質試料と緩衝液を交互に測定した。セルにサンプルを25μL入れて測定を行ない、測定後はセルからサンプルを除き、緩衝液で3回洗浄を行ってから次の測定を行った。 [0121] 検出器に二次元的に記録されたタンパク質試料、及び緩衝液の散乱パターンを円環平均によって一次元データに変換し、タンパク質試料のデータから緩衝液のデータを差し引いた。小角領域の散乱曲線は単分散系に対するGuinier近似式によって分析した。散乱ベクトルSとタンパク質濃度をCの関数である散乱強度I(S,C)は、原点散乱強度I(0,C)と慣性半径R g(C)(radius of gyration)を用いて(1)式の様に表せる。 [0122] [数1] また、ここで2θは散乱角、λはX線波長を表している。 [0123] 得られた散乱曲線のGuinier領域より算出した慣性半径R gは、単量体(ミュータントL-PGDS)が1.8±0.04nmであったのに対し、八量体組成物はその約3倍である6.0±0.69nmであり、慣性半径R gが八量体化により増大したことが明らかとなった・各種測定結果を表13に示す。また散乱曲線より算出した分子量(Mw exp)は単量体(ミュータントL-PGDS)、八量体組成物においてそれぞれ分子量の理論値(Mw calc)と近い値であったことから、単量体(ミュータントL-PGDS)とほぼ同じ大きさと考えられる障壁ミュータントの八量体化は確実に行われていると判断できた。このように粒形が10nmを十分に超える大きさを有するので、八量体組成物は、EPR効果による腫瘍集積性が期待できる。 [0124] [表13] [0125] <薬剤含有> 次に、単量体、障壁付ミュータント、標識された障壁付ミュータントおよび八量体組成物にSN-38を含有させた。SN-38は、すでに説明したように難水溶性抗癌剤である7-ethyl-10-hydroxycamptothecinの略称である。現在臨床で用いられているSN-38のプロドラッグであるイリノテカン塩酸塩と比較して低用量で高い抗腫瘍効果を示すことが知られている。 [0126] 37°CにインキュベートしたSN-38のPBS懸濁液に、単量体(ミュータントL-PGDS)、障壁付ミュータント、標識された障壁付ミュータントまたは八量体組成物のPBS溶液を終濃度がそれぞれ1μM、0.25μM、または0.125μMとなるように加え、37°Cで6時間撹拌した。撹拌終了後、遊離のSN-38を限外濾過により除去し、カプセルタンパク質に薬剤が含まれたサンプルを作製した。 [0127] <In-vivoによる効果> 4週齢の雄性BALB/C-nu/nuマウス(日本SLC)を室温、12時間明暗サイクルに管理した動物室で自由給水、給餌で1週間飼育し、馴化させた。その後、右脇腹に5×10 7cells/mL(PBS:マトリゲル=1:1)のヒト前立腺癌細胞PC-3を100μL皮下投与することにより、前立腺癌モデルマウスを作製した。 [0128] 腫瘍体積(近似式:{(長径)×(短径) 2}/2より算出)が250mm 3に達した日を投与開始0日目とし、マウスを無作為にPBS、単量体(2.0mg SN-38/kg/d)、障壁付ミュータント(2.0mg SN-38/kg/d)、標識された障壁付ミュータント(2.0mg SN-38/kg/d)、八量体組成物(2.0mg SN-38/kg/d)の各投与群に分類し、単量体、障壁付ミュータント、標識された障壁付ミュータント、八量体組成物を、それぞれ4日おきに計4回尾静脈より投与した。なお、コントロール群にはPBSだけを4日おきに計4回投与した。 [0129] 図12にin vivo抗腫瘍実験の結果を示す。横軸は投与0日目からの経過日数(日)であり、縦軸は、腫瘍体積(mm 3)である。グラフ中の略語は以下の通りである。 PBS:コントロール群 SN-38/L-PGDS:単量体(SN-38/ミュータントL-PGDS) SN-38/M74W:SN-38/障壁付ミュータント SN-38/M74W-sCRGDK:SN-38/標識された障壁付ミュータント SN-38/M74W-octamer:SN-38/障壁付ミュータントの八量体組成物 図11の場合と比べると、すべてDクリップがついていないものである。 [0130] なお、標識された障壁付ミュータントは障壁付ミュータントのC末端にニューロフィリン1を認識するCys-Arg-Gly-Asp-Lys(CRGDK)モチーフを追加したものである(標識番号12)。 [0131] 図12を参照して、PBS投与群においては、抗腫瘍効果は確認できず、投与開始日から腫瘍体積が増加し続けた。これに対し、SN-38/L-PGDS投与群は、腫瘍の増加を抑制する効果を示した。さらに、障壁付ミュータントであるSN-38/M74Wは、より腫瘍の増加を抑制した。 [0132] 一方、SN-38/M74W-sCRGDK(標識された障壁付ミュータント(Dクリップはない))およびSN-38/M74W-octamer(障壁ミュータントの八量体組成物)は、驚くべきことに実験開始から、全くといってよいほど、腫瘍成長は観察されなかった。SN-38は癌細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導する薬剤でないことを考えると、SN-38の効果が十分に発揮されているといえる。 [0133] また、4日おきに合計4回の投与であるにも関わらず投与を行わなかった15日以降もしばらくは腫瘍成長を完全に抑制していた。したがって、細胞組織内に薬剤が残留し、リンパ系等による排泄も行われず、長期にわたって、薬効を発揮できるEPR効果が確認できた。 [0134] 図13は、図12の実験を行った際のマウスの平均体重を示すものである。横軸は投与0日目からの経過日数(日)であり、縦軸は、マウスの投与開始時の体重に対する体重比(%)である。各投与群(5匹)の平均を表している。グラフ中の略語は図12の場合と同じである。図12でのコントロール群であるPBS投与群は含まれていない。 [0135] 図13を参照すると、癌細胞増加抑制に非常に効果を示した障壁付ミュータント(SN-38/M74W)は、20日目には体重が80%を下回る気配を示し、実験は中断された。失活させただけのL-PGDS(SN-38/L-PGDS)が体重減少はあったものの、80%を切ることはなかったことを考慮すると、障壁付ミュータントはSN-38(薬剤)の保持に優れ、SN-38を通常細胞でも放出したために、副作用が生じたと考えれれる。 [0136] 一方、癌細胞増殖抑制に顕著な効果を示した標識された障壁付ミュータント(SN-38/M74W-sCRGDK)と障壁ミュータントの八量体(SN-38/M74W-octamer)は、体重減少はわずかであり、SN-38の投与をやめた15日以降はむしろ増加傾向ですらあった。 [0137] このことより、標識された障壁付ミュータント(SN-38/M74W-sCRGDK)と障壁ミュータントの八量体(SN-38/M74W-octamer)は、癌細胞を特異的に識別し癌細胞中で薬剤放出を行ったと考えられる。 [0138] また、多量体にすることで、EPR効果を発揮させると、癌腫に関わらず薬剤を送り込むことができる。特に、転移した癌に対しては、転移した箇所にかかわらず、通常細胞に影響をあたえず、選択的に癌細胞だけに薬剤を注入することができ、非常に有用であると考えられる。 産業上の利用可能性 [0139] 本発明は、難溶性の薬剤やその他の化合物を包み込み、可溶体となる。そして、細胞に取り込まれた後に、細胞内の還元的環境下(細胞内の還元型グルタチオン濃度は、約0.5-10mMであり、細胞外の約100-1000倍の濃度である)においてジスルフィド結合が開裂し、包み込んだ薬剤若しくはその他の化合物を放出することができる。したがって、難溶性化合物のDDSカプセルとして好適に利用することができる。さらに、難溶性物質を可溶性にする性質を利用し、工業製品や工業素材に用いることもできる。 符号の説明 [0140] 10 (バレル構造の)開口 12 ジスルフィドクリップ 14 隙間 21 多量体組成物(八量体組成物) 22 多量体組成物(四量体組成物) 30 ストレプトアビジン 32 四量体 35 リンカー 34 カプセルタンパク質 36 二量体 38 ビオチン |
『 CAPSULE PROTEIN AND MULTIMERIC COMPLEX COMPOSITION THEREOF, AND PHARMACEUTICAL COMPOSITION USING SAME 』に関するお問合せ
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