PERITONEUM-PROTECTING AGENT AND METHOD FOR PRODUCING PERITONEUM-PROTECTING AGENT
外国特許コード | F100002254 |
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掲載日 | 2010年9月28日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2010JP002865 |
国際公開番号 | WO 2010/122787 |
国際出願日 | 平成22年4月21日(2010.4.21) |
国際公開日 | 平成22年10月28日(2010.10.28) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | PERITONEUM-PROTECTING AGENT AND METHOD FOR PRODUCING PERITONEUM-PROTECTING AGENT |
発明の概要(英語) | Provided are a method for easily collecting a sufficient amount of peritoneal mesothelial cells and the collected peritoneal mesothelial cells. Also provided is a peritoneum-protecting agent which comprises said peritoneal mesothelial cells as the active ingredient, or a material for regenerative medicine which comprises said peritoneum-protecting agent. A sufficient amount of peritoneal mesothelial cells can be easily collected by selecting epithelioid-shaped cells, either morphologically or using a marker that is expressed on the cell surface as an indication, from among cells in a peritoneal dialysis waste fluid obtained from a patient undergoing peritoneal dialysis. The peritoneal mesothelial cells thus obtained exert peritoneum-protecting effects, i.e., effects of protecting the peritoneum from adhesion, thickening, damages and so on, and, therefore, can be used as a peritoneum-protecting agent or a material for regenerative medicine. |
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国際特許分類(IPC) |
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指定国 | AE(UTILITY MODEL),AG,AL(UTILITY MODEL),AM(PROVISIONAL PATENT)(UTILITY MODEL),AO(UTILITY MODEL),AT(UTILITY MODEL),AU,AZ(UTILITY MODEL),BA,BB,BG(UTILITY MODEL),BH(UTILITY MODEL),BR(UTILITY MODEL),BW,BY(UTILITY MODEL),BZ(UTILITY MODEL),CA,CH,CL(UTILITY MODEL),CN(UTILITY MODEL),CO(UTILITY MODEL),CR(UTILITY MODEL),CU(INVENTOR'S CERTIFICATE),CZ(UTILITY MODEL),DE(UTILITY MODEL),DK(UTILITY MODEL),DM,DO(UTILITY MODEL),DZ,EC(UTILITY MODEL),EE(UTILITY MODEL),EG(UTILITY MODEL),ES(UTILITY MODEL),FI(UTILITY MODEL),GB,GD,GE(UTILITY MODEL),GH(UTILITY CERTIFICATE),GM,GT(UTILITY MODEL),HN(UTILITY MODEL),HR(CONSENSUAL PATENT),HU(UTILITY MODEL),ID,IL,IN,IS,JP(UTILITY MODEL),KE(UTILITY MODEL),KG(UTILITY MODEL),KM,KN,KP(INVENTOR'S CERTIFICATE)(UTILITY MODEL),KR(UTILITY MODEL),KZ(PROVISIONAL PATENT)(UTILITY MODEL),LA,LC,LK,LR,LS(UTILITY MODEL),LT,LU,LY,MA,MD(UTILITY MODEL),ME,MG,MK,MN,MW,MX(UTILITY MODEL),MY(UTILITY-INNOVATION),MZ(UTILITY MODEL),NA,NG,NI(UTILITY MODEL),NO,NZ,OM(UTILITY MODEL),PE(UTILITY MODEL),PG,PH(UTILITY MODEL),PL(UTILITY MODEL),PT(UTILITY MODEL),RO,RS(PETTY PATENT),RU(UTILITY MODEL),SC,SD,SE,SG,SK(UTILITY MODEL),SL(UTILITY MODEL),SM,ST,SV(UTILITY MODEL),SY,TH(PETTY PATENT),TJ(UTILITY MODEL),TM(PROVISIONAL PATENT),TN,TR(UTILITY MODEL),TT(UTILITY CERTIFICATE),TZ,UA(UTILITY MODEL),UG(UTILITY CERTIFICATE),US,UZ(UTILITY MODEL),VC(UTILITY CERTIFICATE),VN(PATENT FOR UTILITY SOLUTION),ZA,ZM,ZW,EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF(UTILITY MODEL),BJ(UTILITY MODEL),CF(UTILITY MODEL),CG(UTILITY MODEL),CI(UTILITY MODEL),CM(UTILITY MODEL),GA(UTILITY MODEL),GN(UTILITY MODEL),GQ(UTILITY MODEL),GW(UTILITY MODEL),ML(UTILITY MODEL),MR(UTILITY MODEL),NE(UTILITY MODEL),SN(UTILITY MODEL),TD(UTILITY MODEL),TG(UTILITY MODEL)),AP(BW(UTILITY MODEL),GH(UTILITY MODEL),GM(UTILITY MODEL),KE(UTILITY MODEL),LR(UTILITY MODEL),LS(UTILITY MODEL),MW(UTILITY MODEL),MZ(UTILITY MODEL),NA(UTILITY MODEL),SD(UTILITY MODEL),SL(UTILITY MODEL),SZ(UTILITY MODEL),TZ(UTILITY MODEL),UG(UTILITY MODEL),ZM(UTILITY MODEL),ZW(UTILITY MODEL)),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM) |
日本語項目の表示
発明の名称 | 腹膜保護剤および腹膜保護剤の調製方法 |
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発明の概要 | 本発明は、十分量の腹膜中皮細胞を簡便に採取する方法および採取された腹膜中皮細胞を提供する。該腹膜中皮細胞を有効成分として含む腹膜保護剤、または当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料を提供する。腹膜透析を受けている患者から得た腹膜透析排液中の細胞を形態学的または細胞表面に発現するマーカーを指標として上皮様形態細胞を選別することにより、十分量の腹膜中皮細胞を簡便に採取しうる。得られた腹膜中皮細胞は、腹膜保護、即ち腹膜癒着形成、腹膜肥厚、腹膜損傷などに対して保護機能を有するため、腹膜保護剤または再生医療用材料をして利用することができる。 |
特許請求の範囲 |
【請求項1】腹膜透析排液から回収した腹膜中皮細胞を有効成分として含む、腹膜保護剤。 【請求項2】腹膜透析排液から回収した腹膜中皮細胞を1mlあたり少なくとも10個含む、請求項1に記載の腹膜保護剤。 【請求項3】腹膜透析排液から回収した腹膜中皮細胞が、上皮様形態細胞である請求項1または2に記載の腹膜保護剤。 【請求項4】上皮様形態細胞が、肝細胞増殖因子(HGF)を発現してなる請求項3に記載の腹膜保護剤。 【請求項5】腹膜保護が、腹膜癒着形成、腹膜肥厚および/または腹膜損傷に対する保護である、請求項1~4のいずれか1に記載の腹膜保護剤。 【請求項6】採取した腹膜透析排液から細胞を回収し、さらに上皮様形態細胞を選別する工程を含む請求項1~5のいずれか1に記載の腹膜保護剤の調製方法。 【請求項7】前記上皮様形態細胞の選別が、腹膜透析排液から回収された細胞を培養し、形態学的に上皮様形態細胞と認められる細胞を選別することによる請求項6に記載の腹膜保護剤の調製方法。 【請求項8】前記上皮様形態細胞の選別が、腹膜透析排液から回収された細胞について、上皮様形態細胞に特異的に発現されるマーカーを指標として選別することによる請求項6に腹膜保護剤の調製方法。 【請求項9】上皮様形態細胞に特異的に発現されるマーカーが肝細胞増殖因子(HGF)である請求項8に腹膜保護剤の調製方法。 【請求項10】採取した腹膜透析排液から細胞を回収し、さらに上皮様形態細胞を選別する工程を含む腹膜中皮細胞の採取方法。 【請求項11】請求項10の方法により採取された腹膜中皮細胞。 【請求項12】請求項11に記載の腹膜中皮細胞を含む腹膜保護剤。 【請求項13】請求項1~5および請求項12のいずれか1に記載の腹膜保護剤を含む再生医療用材料。 |
明細書 |
【発明の名称】腹膜保護剤および腹膜保護剤の調製方法 【技術分野】 本発明は、腹膜癒着形成、腹膜肥厚、腹膜損傷などに対して有効に作用する腹膜中皮細胞を有効成分とする腹膜保護剤に関し、さらに当該腹膜保護剤の調製方法に関する。また、当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料に関する。 本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2009-104704号優先権を請求する。 【背景技術】 腹膜癒着は、消化器科、婦人科など各種領域の外科手術の跡に生じ、予後に大きな影響を与える。例えば、開腹手術後、特に消化器手術に際して生じる腸管の癒着は、手術手技および機器の向上に伴い少なくなる傾向にあるが、手術後、数年から十数年経過後にイレウス(腸閉塞)症状などを発症し、外科手術後の合併症の中でも最も重大な障害のひとつとなっている。開腹手術における腸壁や腸管の癒着は腸閉塞の原因ともなるため、再手術となったり、術後患者の予後を悪化させる傾向も散見される(非特許文献1)。このような合併症において癒着がおきると思われる部位に、特殊な癒着防止剤を使用する方法があるが、いまだ完全な予防法ではなく、新たなアプローチが求められている。 また、腹膜透析患者において致死的な合併症に被嚢性腹膜硬化症(EPS)がある。この合併症は、長年の腹膜透析液の刺激や腹膜炎の刺激により腹膜肥厚が進行し、腸閉塞が引き起こされ、場合によっては死に至る合併症である。本合併症においては、外科的に肥厚した腹膜を開腹切除するしかないが、手術後に再度癒着を引き起こすことが多く、いまだ有効な治療がない。 安全性に優れた癒着防止剤として、原材料が生体吸収性材料であるヒアルロン酸ナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースを2:1の割合で含有するセプラフィルム(R)(科研製薬株式会社、Genzyme社)が既に臨床で使用されている。セプラフィルム(R)は貼付後24時間から48時間でゲル状となり、およそ7日間貼付部位に貯留して、損傷を受けた組織とその周囲の組織を物理的に隔離することで、癒着防止効果を発揮する。また、該癒着防止剤は貼付後28日以内に体外へ排出されるため、外科的除去は不要であることが特長点である。しかしながら、該癒着防止剤は乾燥状態では柔軟性がないため、使用部位が複雑な形状であると使用できず、また腹腔鏡下での手術時には適さないという問題点が挙げられている。また、そのような癒着防止剤を使用しても、壁側・臓側腹膜全体に発生する腹膜透析患者のEPS術後の癒着を予防することは難しい。 癒着形成防止について多く検討されているが、その殆どが生体分解性または生体適合性のポリマー材料などによる癒着防止材料(特許文献1~4)、または上皮細胞の足場となる材料(特許文献5)に関するものある。 近年、腹膜中皮細胞の移植とその可能性についていくつか報告がある。例えば、中皮細胞の腹腔内への移植は、腹膜癒着形成の減少や中皮細胞露出部のリモデリングに有効であることが示されている(非特許文献2)。また、腹膜中皮細胞は、前駆細胞の再生能のみからでは説明できない顕著な自己再生能力を有し、中皮細胞は再生医療に用いられる有望な選択肢になる可能性があることが報告されている(非特許文献3)。さらに、腹膜中皮細胞の移植は、腹膜機能不全に対する治療の選択肢の一つと考えられることも示されている(非特許文献4)。しかしながら、移植に用いる中皮細胞のソースなど、解決すべき課題が多く残されている。 【先行技術文献】 【特許文献】
【非特許文献】
【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、十分量の腹膜中皮細胞を簡便に採取する方法および採取された腹膜中皮細胞を有効成分とする腹膜保護剤を提供することを課題とする。また、当該腹膜保護剤の調製方法並びに当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、腹膜透析を受けている患者から得た腹膜透析排液中に、患者由来の腹膜中皮細胞が混入していると考えられることに着目し、鋭意研究を重ねた結果、腹膜透析排液中の細胞のうち、上皮様形態細胞を選別することで、十分量の腹膜中皮細胞を簡便に採取しうることを見出した。得られた腹膜中皮細胞は、腹膜保護剤として機能しうることを見出し、本発明を完成した。 即ち本発明は、以下よりなる。 【発明の効果】 本発明の腹膜中皮細胞の採取方法により、十分量の腹膜中皮細胞を簡便に採取することができる。採取された腹膜中皮細胞は、腹膜保護作用、即ち腹膜癒着形成、腹膜硬化、腹膜損傷など対して有効に作用し、これらの防止剤や治療剤としての腹膜保護剤として使用することができ、さらには損傷を受けた腹膜の再生医療用材料となりうる。本発明の採取方法により得られる腹膜中皮細胞は、腹膜透析排液から回収されるものであり、非侵襲的に回収することができ、患者にとって負担が軽いものである。また、腹膜透析排液は従来廃棄処理していたものであるので、資源の有効活用ができる。 本発明の採取方法により得られる腹膜中皮細胞を腹膜保護剤、または当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料として用いる場合に、それらの適用部位が複雑な形状であっても腹膜中皮細胞が障害腹膜等に生着・増殖し、腹膜再生が可能であるため、従来不可能であった部位での腹膜保護作用、即ち腹膜癒着形成防止、腹膜硬化防止、腹膜再生などの機能が発揮される。 また、本発明の腹膜保護剤や再生医療用材料は、生体由来のものであり、人工的に合成した材料を用いることなく使用することができる点で安全性の高いものである。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の腹膜中皮細胞の採取方法を示す模式図である。さらに、上皮様形態細胞と線維芽細胞様細胞の形態も示す図である。(実施例1) 【図2】本発明の腹膜中皮細胞の採取方法で選別した上皮様形態細胞および比較例としての線維芽細胞様細胞について、光学顕微鏡による形態学的な特徴並びに各種コラーゲンの発現を示す写真図である。(実験例1) 【図3】免疫寛容マウス(nu/nu)を用いた腹膜傷害モデルに対する移植試験における、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞の投与スケジュールおよび試験ケジュールを示す図である。(実験例2) 【図4】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の壁側腹膜の肥厚に及ぼす結果を示す写真図である。(実験例2) 【図5】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の臓側腹膜の肥厚に及ぼす結果を示す写真である。(実験例2) 【図6】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の壁側および臓側腹膜での癒着部位数並びに腹膜肥厚に及ぼす結果を示す図である。(実験例2) 【図7】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の腹膜でのタイプIコラーゲンまたはフィブロネクチンの発現結果を示す写真図である。(実験例3) 【図8】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の移植細胞での肝細胞増殖因子(HGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)の発現結果を示す図である。(実験例4) 【図9】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の壁側および臓側腹膜でのHGFの発現結果を示す図である。(実験例5) 【図10】腹膜傷害モデルに、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した場合の壁側および臓側腹膜でのVEGFの発現結果を示す図である。(実験例5) 【発明を実施するための形態】 本発明は、腹膜透析排液から回収した腹膜中皮細胞を有効成分として含む、腹膜保護剤に関する。また、腹膜透析排液から回収した腹膜中皮細胞が、上皮様形態細胞であり、当該上皮様形態細胞は、肝細胞増殖因子(HGF)を発現してなる。本発明において、腹膜保護は、腹膜癒着形成、腹膜肥厚および/または腹膜損傷を含む腹膜の障害に有効に作用する概念で用いられ、本発明の腹膜保護剤は、腹膜癒着形成、腹膜肥厚および/または腹膜損傷に対して、予防的および/または治療的に用いることができる。 本発明の腹膜保護剤は、採取した腹膜透析排液から細胞を回収し、さらに上皮様形態細胞を選別する工程を含む方法により調製することができる。前記上皮様形態細胞の選別は、腹膜透析排液から回収された細胞を培養し、形態学的に上皮様形態細胞と認められる細胞を選別することによる。または、前記上皮様形態細胞の選別は、腹膜透析排液から回収された細胞について、上皮様形態細胞に特異的に発現されるマーカーを指標として選別することによる。ここで、上皮様形態細胞に特異的に発現されるマーカーとしては、肝細胞増殖因子(HGF)が挙げられる。 本発明の腹膜中皮細胞の採取方法は、採取した腹膜透析排液に含まれる細胞を収集し、上皮様形態細胞を選別する工程を含む。 腹膜透析とは腹膜を透析膜として行う人工透析の一種であり、殺菌した透析液を腹腔内に注入し、体内の老廃物を腹膜を介して除去することにより行われる。実際には、腹腔内に挿入されたカテーテルから透析液(灌流液)を注入し、数時間後にバッグなどに排液を回収することにより行われる。本発明の腹膜透析排液は、前述のように腹膜透析後にバッグなどに回収される排液をいう。回収する排液は、腹膜透析後の排液であればよく、特に限定されないが、例えば連続携行式腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:CAPD)や 自動腹膜透析(Automated Peritoneal Dialysis:APD)により回収される排液が挙げられる。 腹膜透析排液には、血液等を含む体液からの老廃物、例えば体液中の過剰の水分、タンパク質の代謝の結果生じた窒素含有老廃物等のほか、腹膜透析液の刺激などにより生体から脱落した細胞、特に腹膜上を覆う一層の腹膜中皮細胞(peritoneal mosothelial cells:PMC)が含まれる。腹膜透析排液中の腹膜中皮細胞は、上皮細胞(epithelial cells)と線維芽細胞(fibroblast cells)などに分類される。ここで上皮細胞とは、動物の組織や体の表面で上皮を形成する細胞で、二次元的な層状構造をとり、細胞間は密着結合によって内容物を保ったり外部と遮蔽する機能を有する。一方、線維芽細胞とは、結合組織を構成する細胞の1種である。線維芽細胞は、III型、IV型コラーゲンなどの線維性物質を産生するといわれている。本発明で回収される腹膜中皮細胞は、前記細胞のうち上皮細胞が好適である。本発明において、腹膜中皮細胞は、腹膜癒着、腹膜肥厚あるいは腹膜損傷を改善するために用いることを目的とするため、上記コラーゲンなどの線維性物質を産生する線維芽細胞様細胞を排除し、上皮様形態細胞を選別することが重要である。 本発明において、腹膜透析排液からの細胞の取得方法は、特に限定されないが、例えば腹膜透析排液を遠心分離し、沈殿物を取得することに達成される。腹膜透析排液から遠心分離等により細胞を採取するまでの工程では、細胞が凍結しない条件で可能な限り低温、かつ迅速に処理することが好ましく、例えば1~4℃で、10時間以内、好ましくは6時間以内、より好ましくは4時間以内に処理するのが好適である。 本発明において、上皮様形態細胞は、目視的または上皮様形態細胞に特異的に発現されるマーカーを指標として選別することができる。上記選別工程の前に、取得した細胞を培養液中で培養する工程を含んでもよい。培養する場合は、取得した細胞を、DMEM/F12培地に10%FCSのほか、デキサメタゾン、ニコチナマイド、HGF(hepatocyte growth factor)やb-FGF(basic fibroblast growth factor)を添加した培養液などに、96ウェル フィブロネクチンコート培養皿に細胞数1~100個/ウェル程度になるように懸濁したものを、細胞培養用容器に加え、37℃で一か月程度培養することができる。添加するデキサメタゾンの濃度は1~100nM、好ましくは20~75nM、より好ましくは62.5nMとすることができ、ニコチナマイドの濃度は1~5mM、好ましくは2.5mMとすることができ、HGFの濃度は1~30ng/ml、好ましくは1~10ng/ml、より好ましくは6.25ng/mlとすることができ、b-FGFの濃度は1~30ng/ml、好ましくは1~10ng/ml、より好ましくは6.25ng/mlとすることができる。具体的な培養液としては、例えばKS培地(DMEM/F12+10%FCS+ITS(GIBCO(R) ITS-X:インスリン5μg/ml、トランスフェリン2.75μg/ml、亜セレン酸ナトリウム3.35ng/ml)+デキサメタゾン(62.5nM)+ニコチナマイド(2.5mM)+HGF(6.25ng/m)+b-FGF(6.25ng/ml))を用いて培養することができる。培養可能であれば、上記の培養方法に限定されることはない。 上皮様形態細胞を目視的に選別する方法としては、細胞の形状を観察し、いわゆる当業者が選別する方法で選別することができる。具体的には、上記培養により得られたコロニーを低密度培養または限界希釈法にて培養し、培養細胞から敷石状の細胞を選別することで、上皮様形態細胞を選別することができる。上皮様形態細胞または線維芽様細胞の形態については、図1を参照されたい。また、上皮様形態細胞に特異的に発現されるマーカーを指標として選別する場合、そのようなマーカーとしては、例えば肝細胞増殖因子(HGF)、サイトケラチン、E-カドヘリンを挙げることができ、より好ましくはHGFが挙げられる。マーカーを指標とする細胞の選別は、フローサイトメーターを用いたFACS解析などにより行うことができる。 本発明の採取方法により得られた腹膜中皮細胞は、細胞が凍結しない条件、例えば1~4℃で、10時間以内、好ましくは6時間以内、より好ましくは4時間程度保存することができる。また、細胞株の凍結保存用培地を用いて-80℃以下で凍結保存することもできる。 本発明の採取方法により得られた腹膜中皮細胞は、腹膜癒着形成、腹膜肥厚、腹膜損傷などに対して有効に作用する。例えば腹腔内臓器手術による腹膜癒着形成、消化管炎症や腹膜炎等による腹膜癒着形成、さらに腹膜透析による腹膜中皮細胞の脱落等による腹膜癒着形成などに対して、予防効果または治療効果が期待できる。また、腹膜炎や腹膜透析などの腹膜透析液の刺激等による腹膜肥厚に対しても予防効果または治療効果が期待できる。例えば、腹膜透析患者に多く見られる合併症のひとつに、腹膜癒着や被嚢性腹膜硬化症(EPS)が挙げられるが、これらは上皮様細胞である腹膜中皮細胞の脱落や、中皮細胞から上皮間葉系細胞へと移行する上皮間葉移行(epitherial-mesenchymal transition:EMT)などが原因と考えられる。このような場合にも、本発明の腹膜中皮細胞は、脱落した腹膜中皮細胞を補い、上皮間葉移行を抑制することができる。さらには、腹膜中皮細胞は、損傷した腹膜を再生可能である他、前駆細胞の再生能のみからでは説明できない顕著な自己再生能力を有していることが報告されていることからも(非特許文献3)、中皮細胞は再生医療に用いられる有望な選択肢になる可能性があると考えられる。 本発明は、上記採取方法により得られた腹膜中皮細胞を含む腹膜保護剤、および当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料にも及ぶ。本発明の腹膜保護剤は、例えばKS培地を含む凍結保存用培地を用いて-80℃以下で凍結保存することができる。本発明の採取方法で得られた腹膜中皮細胞を凍結保存することにより、免疫タイプに応じたセルバンクを構築し、腹膜保護剤や腹膜の再生医療用材料として提供することもできる。上記採取方法得られた細胞、あるいは上記採取方法で得られ、凍結保存されたのち、通常の方法で融解処理された細胞は、生理食塩水、PBSやハンクス緩衝液などの細胞移植に使用可能な溶液に懸濁して細胞製剤とすることができる。細胞製剤に含まれる細胞は、1mlあたり少なくとも10個の腹膜中皮細胞を含むことが必要とされる。また、多くとも1×1020個/mlの細胞数とすることができ、好適には10~1×107個/mlの細胞数で使用することができる。 腹膜中皮細胞を含む腹膜保護剤、または当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料は、腹膜癒着や腹膜炎や腹膜肥厚などの腹膜損傷が危惧される部位や、あるいは既に癒着または腹膜損傷をきたしている部位に、予防的・治療的に用いることができる。拒絶反応を抑制する観点から、腹膜保護剤に用いる腹膜中皮細胞は自己由来であるのが最も好適であるが、骨髄移植の場合と同様に免疫タイプがよく近似している個体由来のものも使用することができる。自己以外の腹膜中皮細胞を適用する場合は、必要に応じて免疫抑制剤などを適宜併用してもよい。また、本発明の腹膜中皮細胞を含む腹膜保護剤または当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料は、腹膜癒着、腹膜肥厚、腹膜損傷等の各症状に対する自体公知の処理方法、例えば腹膜硬化部切除術などと併用することができる。 【実施例】 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例の範囲に限定されることはない。 (実施例1)腹膜中皮細胞の採取方法 (実験例1)採取した腹膜中皮細胞の性状分析 (実験例2)腹膜硬化に対する腹膜中皮細胞の作用 上記の結果、上皮様形態細胞を移植した群(n=3)では、シャムオペ群(n=3)と同様に、腹膜(壁側)および腸管腹膜(臓側)での腹膜癒着および肥厚化は認められなかったが、線維芽細胞様細胞を移植した群(n=4)では、腹膜障害を起こした部位で腹膜癒着が認められた(図4、図5)。各腹膜(壁側、臓側)について、上皮様形態細胞または線維芽細胞様細胞を移植した群における腹膜癒着部位の数および腹膜の厚さを測定した結果を図6に示した。この結果からも、上皮様形態細胞を移植した群では、シャムオペ群と同様に、腹膜癒着および肥厚化が抑えられていることが観察された。 (実験例3)各細胞移植後の腹膜組織の性状 (実験例4)各細胞移植後の細胞の性状 (実験例5)各細胞移植後の腹膜組織中の細胞の性状 実験例3~5の結果より、上皮様形態細胞の移植により上皮様形態細胞が障害部位に接着・増殖して障害腹膜上を覆い、再生因子であるHGFを発現し、腹膜癒着・硬化を防止すると考えられた。一方、線維芽細胞様細胞の移植では、線維芽細胞様細胞が障害部位に接着・増殖し、タイプIコラーゲンを産生し、腹膜癒着・硬化を促進し、かつ血管透過因子であるVEGFを発現することにより、炎症反応を助長することとなると考えられた。 【産業上の利用可能性】 以上詳述したように、本発明の腹膜中皮細胞の採取方法により、十分量の腹膜中皮細胞を簡便に採取することができる。採取された腹膜中皮細胞は、腹膜癒着形成、腹膜肥厚、腹膜損傷など対して有効に作用し、これらの防止剤や治療剤などの腹膜保護剤として使用することができ、さらには損傷を受けた腹膜の再生医療用材料となりうる。本発明の採取方法により得られる腹膜中皮細胞は、腹膜透析排液から回収されるものであり、非侵襲的に回収することができ、患者等の負担が軽いものである。また、腹膜透析排液は、従来は廃棄処理していたものであるので、資源の有効活用ができる。 腹膜保護剤や再生医療用材料として利用する場合、適用部位が複雑な形状であっても、腹膜中皮細胞が障害腹膜等に生着・増殖し、腹膜再生が可能であるため、従来不可能であった部位での腹膜癒着形成防止、腹膜肥厚防止、腹膜再生機能などが発揮される。 また、本発明の採取方法により得られる腹膜中皮細胞は生体由来のものであり、該腹膜中皮細胞を含む腹膜保護剤、または当該腹膜保護剤を含む再生医療用材料は、人工的に合成した材料を用いることなく使用することができる点で安全性の高いものである。 拒絶反応を抑制する観点から、適用される腹膜中皮細胞は自己由来であるのが最も好適であるが、骨髄移植の場合と同様に免疫タイプがよく近似している個体由来のものも使用することができる。本発明の採取方法で得られた腹膜中皮細胞を凍結保存することにより、免疫タイプに応じたセルバンクを構築し、腹膜保護剤としての医薬組成物や腹膜保護剤を含む再生医療用材料として提供することもできる。 |
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