METHOD FOR PRODUCING GRAPHENE FILM, METHOD FOR MANUFACTURING ELECTRONIC ELEMENT, AND METHOD FOR TRANSFERRING GRAPHENE FILM TO SUBSTRATE
外国特許コード | F110003206 |
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整理番号 | K02909WO |
掲載日 | 2011年6月22日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2010JP054602 |
国際公開番号 | WO 2010/110153 |
国際出願日 | 平成22年3月17日(2010.3.17) |
国際公開日 | 平成22年9月30日(2010.9.30) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | METHOD FOR PRODUCING GRAPHENE FILM, METHOD FOR MANUFACTURING ELECTRONIC ELEMENT, AND METHOD FOR TRANSFERRING GRAPHENE FILM TO SUBSTRATE |
発明の概要(英語) | Disclosed is a method for producing a graphene film, by which a graphene film having a large area can be produced without requiring high temperatures. Also disclosed is a method for manufacturing an electronic element, wherein an FET circuit pattern can be easily formed on an electronic element substrate by means of a resist. The method for manufacturing an electronic element can be easily applied to an area-increasing process by integrating elements. Also disclosed is a method for transferring a graphene film to a substrate, wherein a graphene film having a large area can be isolated and a graphene film of a desired size can be transferred to a desired position of a substrate. The method for producing a graphene film is characterized by comprising a step wherein an amorphous carbon film is brought into contact with a liquid metal such as gallium, so that a graphene film is formed on the contact interface. |
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国際特許分類(IPC) |
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参考情報 (研究プロジェクト等) | PRESTO Search for nanomanufacturing technology and its development AREA |
日本語項目の表示
発明の名称 | グラフェン膜の製造方法、電子素子の製造方法および基板へのグラフェン膜の転写方法 |
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発明の概要 | 大面積のグラフェンを、高温を必要とすることなく製造することができるグラフェン膜の製造方法、電子素子基板上にレジストによるFET回路パターンを容易に形成することができ、さらに、素子を集積して大面積化プロセスへも容易に適用できる電子素子の製造方法および、大面積のグラフェン膜を単離し、さらに基板の所望の場所に、所望のサイズのグラフェン膜を転写することが可能な、基板へのグラフェン膜の転写方法を提供する。 アモルファスカーボン膜とガリウム等の液体金属とを接触させ、接触界面にグラフェン膜を形成する工程を含むことを特徴とする。 |
特許請求の範囲 |
【請求項1】 アモルファスカーボン膜とガリウム、インジウム、スズ、およびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の金属とを接触させ、接触界面にグラフェン膜を形成する工程を含むことを特徴とするグラフェン膜の製造方法。 【請求項2】 アモルファスカーボン膜とガリウムとを接触させ、接触界面にグラフェン膜を形成することを特徴とする請求項1に記載のグラフェン膜の製造方法。 【請求項3】 アモルファスカーボン膜は、有機膜を真空熱処理することによりアモルファス状に炭化させて得たものであることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフェン膜の製造方法。 【請求項4】 アモルファスカーボン膜は、有機膜にアモルファスカーボンを蒸着し、次いで真空熱処理することにより有機膜をアモルファス状に炭化させて得たものであることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフェン膜の製造方法。 【請求項5】 アモルファスカーボン膜をガリウム、インジウム、スズ、およびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の液体金属の表面に転写し、次いで真空熱処理することによりグラフェン膜を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のグラフェン膜の製造方法。 【請求項6】 液体金属が液体ガリウムであることを特徴とする請求項5に記載のグラフェン膜の製造方法。 【請求項7】 電子素子基板上にレジストを塗布し、電子回路に対応するレジストパターンを形成した後、このレジストパターンにガリウム、インジウム、スズ、およびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の液体金属を接触させ、次いで真空熱処理することにより、レジストパターンをグラフェン化して電子回路を形成する工程を含むことを特徴とする電子素子の製造方法。 【請求項8】 液体金属が液体ガリウムであることを特徴とする請求項7に記載の電子素子の製造方法。 【請求項9】 請求項1から6のいずれかの方法によりアモルファスカーボン膜と金属との接触界面にグラフェン膜を形成した後、アモルファスカーボン膜を基板表面に接触させてグラフェン膜を基板に転写する工程を含むことを特徴とする基板へのグラフェン膜の転写方法。 【請求項10】 基板が電子素子基板であることを特徴とする請求項9に記載の基板へのグラフェン膜の転写方法。 【請求項11】 請求項1から6のいずれかの方法によりアモルファスカーボン膜と金属との接触界面にグラフェン膜を形成した後、アモルファスカーボン膜を中間媒体表面に接触させてグラフェン膜を中間媒体に転写する工程と、中間媒体に転写されたグラフェン膜を基板表面に接触させてグラフェン膜を基板に転写する工程とを含むことを特徴とする基板へのグラフェン膜の転写方法。 【請求項12】 基板および/または中間媒体に転写されたグラフェン膜上に残る金属を酸で洗浄除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の基板へのグラフェン膜の転写方法。 |
明細書 |
【発明の名称】グラフェン膜の製造方法、電子素子の製造方法および基板へのグラフェン膜の転写方法 【技術分野】 本発明は、グラフェン膜の製造方法、電子素子の製造方法および基板へのグラフェン膜の転写方法に関するものである。 【背景技術】 グラフェンは、その理想的な2次元構造に起因して様々な特異的性質を有しており、例えば、良伝導性、高い電子・正孔移動度を有している。これに加えて、非弾性的な電子伝導性やスピン伝導性、力学的強度、光吸収および発光、熱伝導等の特性も注目されており、各種分野への工業的応用が期待されている物質である。 グラフェンの製造方法としては、現在、熱分解黒鉛結晶からの剥離方法、固相反応法、化学気相成長法等が知られている。 グラフェンの最初の発見はNovoselov等によるものであり、このグラフェンは、熱分解黒鉛結晶をスコッチテープで剥離し、Si基板へ転写させたものである。グラフェン結晶のサイズは数ミクロン程度のものであるが、比較的再現性良く容易にグラフェン膜が得られることが特徴である(非特許文献1、2)。 固相反応法では、炭化ケイ素結晶を2000℃度程度で真空熱処理することで表面のSi元素を蒸発(シリコンサブリメーション)させ、炭化ケイ素表面にグラフェン結晶層を形成する(非特許文献3~7)。 気相成長法では、ニッケルや鉄等の金属結晶表面に炭化水素ガスを原料として熱CVD法により成長させることでグラフェン膜を形成する(非特許文献8、9)。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、上記した従来の方法では、グラフェン膜が形成されるものの、真に単層のグラフェンを得ることは非常に困難であり、例えば熱CVDによる気相成長法では数十層が積層したグラファイト膜に近いものとなっている。 そして、合成されたグラフェンを母材から単離し、Si等の電子素子基板上に移動することも非常に困難であるという問題点がある。 また、電子デバイスやセンサ、配線等の部品の一部としてグラフェンを利用する場合、所望の位置に所望の方向でグラフェンを配置することが重要な技術的課題となるが、上記した従来の方法ではこのような技術的課題に有効に対処できないという問題点がある。 これらの問題点は、既存のグラフェン素子報告例にあるように熱分解黒鉛結晶をスコッチテープで剥離し、偶然に再転写されたグラフェン膜を見つけ出して素子形成に利用されているという事実が示すように、大面積のグラフェン膜を得ることが非常に困難であるという事情に由来する。剥離されたグラフェン自体のサイズや均一性には大きなばらつきがあり、その転写位置を任意に制御できないこと等も大きな要因である。さらにグラフェンは本来、炭素六員環で構成される1原子層の究極的な厚さの膜であるため、大面積での取り扱いには根本的・原理的な困難が伴う。 本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、大面積のグラフェンを、高温を必要とすることなく製造することができるグラフェン膜の製造方法を提供することを課題としている。 また本発明は、電子素子基板上にレジストによるFET回路パターンを容易に形成することができ、さらに、素子を集積して大面積化プロセスへも容易に適用できる電子素子の製造方法を提供することを課題としている。 また本発明は、大面積のグラフェン膜を単離し、さらに基板の所望の場所に、所望のサイズのグラフェン膜を転写することが可能な、基板へのグラフェン膜の転写方法を提供することを課題としている。 【課題を解決するための手段】 本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。 第1:アモルファスカーボン膜とガリウム、インジウム、スズ、およびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の金属とを接触させ、接触界面にグラフェン膜を形成する工程を含むことを特徴とするグラフェン膜の製造方法。 第2:アモルファスカーボン膜とガリウムとを接触させ、接触界面にグラフェン膜を形成することを特徴とする上記第1のグラフェン膜の製造方法。 第3:アモルファスカーボン膜は、有機膜を真空熱処理することによりアモルファス状に炭化させて得たものであることを特徴とする上記第1または第2のグラフェン膜の製造方法。 第4:アモルファスカーボン膜は、有機膜にアモルファスカーボンを蒸着し、次いで真空熱処理することにより有機膜をアモルファス状に炭化させて得たものであることを特徴とする上記第1または第2のグラフェン膜の製造方法。 第5:アモルファスカーボン膜をガリウム、インジウム、スズ、およびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の液体金属の表面に転写し、次いで真空熱処理することによりグラフェン膜を形成することを特徴とする上記第1から第4のいずれかのグラフェン膜の製造方法。 第6:液体金属が液体ガリウムであることを特徴とする上記第5のグラフェン膜の製造方法。 第7:電子素子基板上にレジストを塗布し、電子回路に対応するレジストパターンを形成した後、このレジストパターンにガリウム、インジウム、スズ、およびアンチモンから選ばれる少なくとも1種の液体金属を接触させ、次いで真空熱処理することにより、レジストパターンをグラフェン化して電子回路を形成する工程を含むことを特徴とする電子素子の製造方法。 第8:液体金属が液体ガリウムであることを特徴とする上記第7の電子素子の製造方法。 第9:上記第1から第6のいずれかの方法によりアモルファスカーボン膜と金属との接触界面にグラフェン膜を形成した後、アモルファスカーボン膜を基板表面に接触させてグラフェン膜を基板に転写する工程を含むことを特徴とする基板へのグラフェン膜の転写方法。 第10:基板が電子素子基板であることを特徴とする上記第9の基板へのグラフェン膜の転写方法。 第11:上記第1から第6のいずれかの方法によりアモルファスカーボン膜と金属との接触界面にグラフェン膜を形成した後、アモルファスカーボン膜を中間媒体表面に接触させてグラフェン膜を中間媒体に転写する工程と、中間媒体に転写されたグラフェン膜を基板表面に接触させてグラフェン膜を基板に転写する工程とを含むことを特徴とする基板へのグラフェン膜の転写方法。 第12:基板および/または中間媒体に転写されたグラフェン膜上に残る金属を酸で洗浄除去する工程をさらに含むことを特徴とする上記第9から第11のいずれかの基板へのグラフェン膜の転写方法。 冶金学的には、ガリウム(Ga)と炭素(C)とは全律非固溶である。しかしX線吸収端スペクトル(NEXAFS)のデータから、ガリウム原子と炭素原子との結合が形成されることが示されている。本発明者等は、ガリウムと炭素との反応過程の研究から液体ガリウムとアモルファス炭素との界面でグラファイト化反応が約1000℃程度の比較的低温で誘起され、大面積のグラフェンの形成が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 なお、ガリウムと同様の性質に基づき、インジウム、スズ、およびアンチモンにも類推されると考えられる。 【発明の効果】 本発明のグラフェン膜の製造方法によれば、大面積のグラフェンを、高温を必要とすることなく製造することができる。すなわち、原料となるアモルファスカーボン膜を液体ガリウム等の液体金属面に接触させると、容易に金属液面にアモルファスカーボン膜を転写することができる。このようなアモルファスカーボン膜が液体金属表面に転写された状態で、1000℃程度の熱処理を行うことで、ガリウム等の金属液面との接触部で大面積のグラフェン膜を形成することができる。 本発明の電子素子の製造方法によれば、電子素子基板上にレジストによるFET回路パターンを容易に形成することができ、さらに、素子を集積して大面積化プロセスへも容易に適用できる。 本発明のグラフェン膜の転写方法によれば、上記の方法で形成されたグラフェン膜を電子素子基板等の基板の所望の場所に転写することができ、大面積のグラフェン膜を基板上に得ることができる。 また、液体ガリウム等の液体金属の液面上に上記の方法で形成されたグラフェン膜を有機シリコン樹脂等の中間媒体に転写し、中間媒体に転写されたグラフェン膜を基板表面に接触させることで、グラフェン膜を電子素子基板等の基板の所望の場所に転写することができ、大面積のグラフェン膜を基板上に得ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】グラフェン膜の原料のアモルファスカーボン膜を合成する工程を説明する図である。 【図2】有機膜の上にアモルファスカーボンを蒸着する工程を説明する図である。 【図3】アモルファスカーボン膜を液体ガリウム表面に転写した真空熱処理前の写真(左)と、真空熱処理後の写真(右)である。 【図4】液体ガリウム上に浮いた状態で保持されているグラフェン膜の概念図である。 【図5】アモルファスカーボン膜の片面(ガリウムとの接触面)に形成されたグラフェン膜をガリウムごと希塩酸の中に入れて液体ガリウムをグラフェン面から除去し、遊離した膜を透過型電子顕微鏡用のメッシュですくい取り、高分解観察を行った結果を示す透過型電子顕微鏡写真である。 【図6】透過型電子顕微鏡用のメッシュ上でのグラフェン膜の折れ曲がり部分の透過型電子顕微鏡写真と、制限視野回折像(左下)である。 【図7】透過型電子顕微鏡用のメッシュ上でのグラフェン膜の折れ曲がり部分の透過型電子顕微鏡写真である。 【図8】有機シリコン樹脂を用いてグラフェン膜を電子素子基板上に転写する工程を説明する図である。 【図9】ガリウム表面に作製したグラフェン膜をPDMSシートに接触させて転写した状態を示す写真であり、(a)は転写後、(b)は希塩酸処理によりガリウムを除去した後の状態を示す。 【図10】多層グラフェンの高分解能TEM像とラマンスペクトルである((a) アモルファスカーボン膜厚15nm、熱処理温度1000℃ (b) アモルファスカーボン膜厚8nm、熱処理温度1000℃ (c) アモルファスカーボン膜厚3 nm(フォルンバール膜のみ)、熱処理温度1000℃ (d) アモルファスカーボン膜厚3nm(フォルンバール膜のみ)、熱処理温度1100℃)。 【図11】実施例において作製した典型的なデバイス構造とその写真を示する。 【図12】実施例において作製したデバイスのソース・ドレイン間のI-V特性(ISD - VSD特性)等を示す。 【図13】実施例において作製したデバイスのソース・ドレイン間のI-V特性(ISD - VSD特性)等を示す。 【図14】グラフェンFETを作製するための工程を示す。 【図15】左上の写真は400nm厚NEBレジストの電子ビーム露光後のチャネルパターン、左下の写真は、レジストパターンをグラフェン化し、金でソース・ドレイン電極を作成したときのFETチャネルデバイスの光学顕微鏡像、右のグラフはこれらに対応するFET特性を示す。 【符号の説明】 1 有機膜の溶液液滴 【発明を実施するための最良の形態】 以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下においては金属としてガリウムを用いた場合を例として説明する。 本発明のグラフェン膜の製造方法では、まず目的のグラフェン膜の原料として、例えば直径数ミリから数センチの径を有し、厚さが数ナノメートルのアモルファスカーボン膜を合成する。 まず、アモルファスカーボン膜の原料として、コロジオン膜やフォルンバール膜等の有機膜を形成する。例えば図1に示すように、蒸留水2の上にコロジオン膜やフォルンバール膜等の有機膜の溶液液滴1を滴下し、水面上に極薄の有機膜3を得る。典型的には、5%コロジオン液を用いると、膜厚約30nmの有機膜3を得ることができる。 この有機膜3をアルミナ等のセラミックスリング4ですくい取ると、セラミックスリング4の上に有機膜3を張ることができる。 有機膜としては、コロジオン膜、フォルンバール膜以外に、LB(ラングミュアーブロジェット)膜や、PMMA(ポリメチルメタクリレート)膜等のレジスト材料など、用途に応じて膜厚数ナノメートルの様々な有機膜を用いることが可能である。例えば、膜厚数ナノメートルのコロジオン膜やフォルンバール膜を張ったメッシュが透過型電子顕微鏡用の試料保持膜として利用されている。 次に、有機膜を真空熱処理することによりアモルファス状に炭化させてアモルファスカーボン膜を合成する。例えば、有機膜を張ったセラミックスリングを500℃で30分真空熱処理すると有機膜が分解し、炭素に変性する。 本発明では、アモルファスカーボン膜の均一性と強度を改善するために、有機膜の上にアモルファスカーボンを蒸着してもよい。例えば、図2に示すように、赤外線パルスYAGレーザー6を用いて、アブレーション用炭素原料5の固形炭素ターゲットをレーザーアブレーションすることで、有機膜の上にアモルファスカーボン膜7を被覆する。このアモルファスカーボン膜7を被覆した有機膜を真空熱処理することで、有機膜が分解して炭素に変性するとともに、蒸着したアモルファスカーボン膜7は膜形状をほぼ保ちながら残存し、全体として均一性と強度が改善されたアモルファスカーボン膜を得ることができる。 次に、このようにして得られたアモルファスカーボン膜を液体ガリウムの表面に接触させて転写し、真空中で熱処理を行う。例えば、図3左の写真に示すように、アモルファスカーボン膜を張ったセラミックスリングを液体ガリウム8の上面に接触させる。ここでは後のグラフェン反応工程のために、液体ガリウムをアルミナ坩堝の中に保持している。このアルミナ坩堝の表面では、液体ガリウムの非常に強い表面張力のために液面が凸状に盛り上がる。この液体ガリウムの凸状液面にアモルファスカーボン膜が転写される。図3の写真では直径3ミリ程度のアモルファスカーボン膜を転写しているが、直径数センチメートルのアモルファスカーボン膜も比較的容易に転写することができる。 アモルファスカーボン膜を液体ガリウムの表面に接触させて転写させた後、このアモルファスカーボン膜を真空熱処理する。例えば、真空中1000℃で10~30分程度熱処理を行うことで、液体ガリウムとアモルファスカーボン膜との接触界面にグラフェンが形成される。 ガリウムの蒸気圧は1000℃で10-4Pa程度あるので、真空中熱処理により徐々にガリウムの蒸発が起こるが、1回のグラフェン合成反応での蒸発量は僅かである。工業的な応用に際しては、反応管をクローズド回路にして蒸発量を制御することで、合成グラフェンの品質維持管理を行うことが考慮される。 1000℃、30分の真空熱処理後に室温まで冷却した結果が図3右の写真である。1000℃での反応にも関わらず、真空熱処理前の最初のアモルファスカーボン膜の形状を保ったままアモルファスカーボン膜9が液体ガリウム上に残っている様子が示されている。 この液体ガリウム上に浮いた状態で保持されているグラフェン膜の概念図を図4に示す。液体ガリウム8との接触界面にグラフェン膜10が形成され、その上には未反応のアモルファスカーボン膜11が残っている。 このように、グラフェン膜10は原料のアモルファスカーボン膜11のうちガリウムとの接触界面の部分に形成され、反応後もアモルファスカーボン膜11が残存する。そしてアモルファスカーボン膜11が残存していることで、グラフェン膜10が補強されており、基板への転写の際に大面積のグラフェン膜10の破損を防ぐ上で重要な役割を果たしている。 以上のようにして得られたグラフェン膜は、これを基板に転写することができる。例えば、アモルファスカーボン膜とガリウムとの接触界面にグラフェン膜を形成した後、これを直接に用いてアモルファスカーボン膜を基板表面に接触させ、グラフェン膜を基板に転写することができる。 基板としては、酸化膜付きシリコン等の電子素子基板を用いることができ、例えば、シリコン酸化膜の表面にグラフェン膜を転写し、あるいは電子素子基板上の電極表面にグラフェン膜を転写することができる。グラフェン膜を電子素子基板の電極またはその一部として用いる場合には、電子素子基板の電極表面にグラフェン面を表にして載せ、あるいは電子素子基板の表面にグラフェン面を表にして載せ、後から膜の加工と電極形成を行う等の自由度がある。 グラフェン膜はアモルファスカーボンに対して酸素プラズマ等に対するエッチング耐性が高いので、酸素プラズマや酸素雰囲気中での熱処理で余分なアモルファスカーボン膜を除去することも可能である。 また、アモルファスカーボン膜とガリウムとの接触界面にグラフェン膜を形成した後、アモルファスカーボン膜を中間媒体表面に接触させてグラフェン膜を中間媒体に転写し、次いで中間媒体に転写されたグラフェン膜を基板表面に接触させてグラフェン膜を基板に転写することもできる。例えば、図8に示すように、PDMS(ポリジメチルシロキサン)樹脂等の有機シリコン樹脂12の表面にアモルファスカーボン膜は良く付着する一方で、液体ガリウムは有機シリコン樹脂12には非常にぬれ性が悪い。この性質を利用して、液体ガリウム上に浮いているグラフェン膜を有機シリコン樹脂12の表面に転写することができる。有機シリコン樹脂12に転写されたグラフェン膜13上に一部残存する液体ガリウムは希塩酸等の酸で処理することによりグラフェン膜から除去することができる。次いで、有機シリコン樹脂12の表面に転写されたグラフェン膜13を、例えばスタンプの要領で電子素子基板14に再転写することができる。 このように有機シリコン樹脂等の中間媒体への間接転写を行うと、電子素子基板上では、基板表面にグラフェン膜が存在することになる。このグラフェン膜の上から、レジスト処理等で電子回路パターンを形成してグラフェン素子を合成することも可能である。 また、本発明では電子素子を次の方法により製造することもできる。まず、電子素子基板上にレジストを塗布し、電子回路に対応するレジストパターンを形成する。この工程は、有機材料によるレジスト、例えば化学増幅型レジスト等を用いて従来より知られている方法で行うことができる。 次に、このレジストパターンに液体ガリウムを接触させ、次いで真空熱処理することにより、レジストパターンをグラフェン化して電子回路を形成する。具体的には、レジストパターンを直接に液体ガリウムで覆い、上述したような条件に従って真空熱処理を行いレジストパターンをグラフェン化する。 このような手法の大きな利点は、最初のレジストパターンで幅10nm程度のレジストチャネルを従来技術に基づいて非常に容易にで形成できる点である。一般的なグラフェン膜の転写方法では膜をシリコン酸化膜上に転写した後にグラフェン膜にレジストを塗布し、電子ビーム露光でチャネルパターンを形成した後、エッチング処理等を行う必要があるが、グラフェンチャネル自体およびエッジ部での加工ダメージが懸念される場合もある。しかし上記の方法によれば、液体ガリウムの接触部分でグラフェンが形成されるため、シリコン基板等の電子素子基板上にレジストによるFET回路パターンを形成することが容易であり、さらに、素子を集積して大面積化プロセスへも容易に適用できる。 以上に述べた実施形態では、アモルファスカーボン構造物(膜)と液体ガリウムとの接触界面において、均質なグラフェン膜を作製している。得られたグラフェン膜は、サイズおよびグラフェンの層数が高精度に制御されており、グラフェンの有する良伝導性、高移動度、非弾性電子およびスピン伝導性、力学的強度、良熱伝導性、光吸収や発光等の特性が十分に得られ、電子素子やスピン素子等の種々の機能素子への応用展開が可能である。 【実施例】 以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。 次に、1064nmの赤外線パルスYAGレーザーを用いて、固形炭素ターゲットをレーザーアブレーションすることで、コロジオン膜の上に膜厚約10nmのアモルファスカーボン膜を被覆した。 次に、アモルファスカーボン膜を被覆したセラミックリングを500℃、30分で真空熱処理を行い、コロジオン膜を分解し炭素に変性させた。熱処理後、セラミックリング上には膜厚約20nmのアモルファスカーボン膜が残存した。 次に、図3左の写真に示すように、直径3ミリ程度のアモルファスカーボン膜を張ったセラミックスリングを液体ガリウム上面に接触させ転写した。液体ガリウムは後のグラフェン反応工程のために、アルミナ坩堝の中に保持した。 次に、液体ガリウム表面に転写したアモルファスカーボン膜を真空中1000℃で熱処理した。1000℃30分の反応後に室温まで冷却した結果が図3右の写真である。1000℃での反応にも関わらず、最初のアモルファスカーボン膜の形状を保ったまま膜が液体ガリウムの上に残存していた。 このアモルファスカーボン膜の片面(ガリウムとの接触面)に形成されたグラフェン膜をガリウムごと希塩酸の中に入れて、液体ガリウムをグラフェン面から離し、膜を遊離した。この膜を透過型電子顕微鏡(TEM)用のメッシュですくい取り、高分解観察を行った結果が図5である。膜は希塩酸中での遊離の過程で折れ曲がり細分化されてしまっているが、これはTEM観察のためにやむを得ないことである。実際のデバイス作製への応用では、基板上に再転写することでグラフェン膜は膜の形態が保持される。 TEMの試料メッシュ状に載せた膜には多くの折れ曲がりが観測される。グラフェン膜は単層の状態で観測することは非常に困難であるが、多くの場合、数層のグラフェンが積層した状態になっている。TEM試料メッシュ上での折れ曲がりの部分では、グラフェンのC軸がTEM電子線に対して直交するために、グラフェン積層構造をTEM画像として観察さるのに非常に都合がよい。図6に示すように、4~5層のグラフェンがきれいに合成されていることがわかる。制限視野回折像(図6左下)から、グラファイトC面積層からの回折である(0002)と指数付けできる回折スポットが現れ、グラフェンの積層間隔が0.34nmであることがわかる。 さらに図7より、膜の折れ曲がり部では未反応アモルファスカーボン膜とグラフェンがコントラストを形成し、この折れ曲がり部では、折れ曲がりの内側がグラフェン層であり、折れ曲がりの外側が未反応アモルファスカーボン層であることが分かる。 図10は多層グラフェンの高分解能TEM像とラマンスペクトルである((a) アモルファスカーボン膜厚15nm、熱処理温度1000℃ (b) アモルファスカーボン膜厚8nm、熱処理温度1000℃ (c) アモルファスカーボン膜厚3 nm(フォルンバール膜のみ)、熱処理温度1000℃ (d) アモルファスカーボン膜厚3nm(フォルンバール膜のみ)、熱処理温度1100℃)。 グラフェン化する前にレーザアブレーションで堆積させるアモルファスカーボンの膜厚を変化させるとグラフェン膜の結晶性が変化し、アモルファスカーボンの膜厚を15nmから3nmへと薄くするに従って、グラフェンの結晶性が良くなる傾向が見られた。 図11に作製した典型的なデバイス構造を示し、図12、図13にソース・ドレイン間のI-V特性(ISD - VSD特性)等を示す。作製したグラフェンのISD - VSD特性は、ゲート電圧-100~+100Vの印加に対してSDコンダクタンスが明瞭に変化し、最大40%のコンダクタンスの変調が見られた。 コンダクタンスの最小値は正バイアス側に大きくシフトし、特性はp型の振る舞いを見せた(図12、13挿入図)。 また、アモルファスカーボンの膜厚を薄くするにしたがってコンダクタンスは減少し、変化率は向上した。グラフェンデバイス動作にはグラフェンの背後に残存するアモルファス層が大きく関係していると考えられる。 具体的には、15nmの場合は僅かにソース・ドレイン間のI-V特性にわずかな傾きの違いが生じる程度でゲート電圧を+100Vから-100Vに変化させた時のSD間コンダクタンス変化は約1%程度であった。アモルファスカーボン膜厚を8nmにした場合はコンダクタンス変調は6.5%に増加した。さらに3nm厚のアモルファスカーボン(アモルファスカーボンのレーザ堆積は行わず、フォルンバール膜が熱分解で形成されたもの)では、16%のコンダクタンス変調がみられ、グラファイト化反応温度を1100℃にした場合には35%の明瞭なコンダクタンス変調がみられるFET素子が作製できた。 これらの4つのFET素子のコンダクタンス特性を比較すると、膜厚15nmではコンダクタンスが非常に大きい、つまりチャネル抵抗値が非常に低いことがわかる。チャネルが薄くなるとコンダクタンスが低くなり、つまりチャネル抵抗が高くなり、同時に変調度も大きくなって行くことがわかる。すなわち、4~6層のグラフェンの下にアモルファスカーボンがあると、ここを流れるチャネル電流によってコンダクタンスが大きくなり、さらに、Ga上に浮いているグラフェン膜をSi基板に直接に転写しているため、ゲート酸化膜のすぐ上には低抵抗のアモルファスカーボン層が存在する。この低抵抗のアモルファスカーボン層は、ゲートによって印加された電界を遮断(スクリーン)し、グラフェンチャネルに印加される実効的な電界強度が低下して変調特性に影響していると考えられる。 このレジストパターンに直接に液体ガリウムを載せ、真空熱処理を行うことで、レジストパターン全体をグラフェン化した。 図15左上の写真は、400nm厚NEBレジストの電子ビーム露光後のチャネルパターン、図15左下の写真は、このレジストパターンをグラフェン化し、金でソース・ドレイン電極を作成したときのFETチャネルデバイスの光学顕微鏡像である。図15右のグラフはこれらに対応するFET特性を示す。レジストパターンの膜厚が薄いほどFET特性が向上し4nmのレジストチャネルパターンでは17%のコンダクタンス変調が得られるFET素子が形成された。 |
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