TOP > 外国特許検索 > MAGNETIZATION-REVERSING APPARATUS, MEMORY ELEMENT, AND MAGNETIC FIELD-GENERATING APPARATUS
本発明は、スピン注入による磁性体の磁化反転技術に関する。
近年、CMOSトランジスタの微細化が進んでいるが、その微細化も限界に近いことが懸念されている。そこで、CMOSトランジスタの微細化の限界を打破するには、動作原理が異なる新機能素子の開発が必要となる。
強磁性トンネル接合(MTJ:Magneto Tunnel Junction)を基本構造とする磁性RAM(Magnetoresistive RAM:MRAMとする)(非特許文献1、2を参照)は、強磁性体の不揮発性を利用した高性能な省エネルギー素子であり、次世代電子デバイス(非特許文献3を参照)の有力候補の一つとして、実用化に向けた研究開発が行われている。
MRAMの重要な構成要素であるMTJ素子は、MgOトンネルバリアの品質向上や高スピン偏極材料の開発により、室温で数百%の大きな磁気抵抗変化(TMR比)を実現している(非特許文献4、5を参照)。これにより、MRAMの基本動作である読み出し技術は必要性能を満たしつつある。一方書き込み技術としては、現在スピン偏極電流による磁化反転方式(スピントルク方式)がある(非特許文献6を参照)。
しかし、図13に示すように、現在の積層構造を利用したスピンの一次元方向からのみの注入法では、原理的に強磁性層の厚さがスピン侵入長以下(数nm程度)の極薄膜電極にしか適用できない。そのため、素子サイズの微細化(=集積度の向上)と共に蓄積磁化エネルギーが低下し、熱擾乱によるスピンの安定性が大きな障壁となる。また、スピン流に重畳している電荷流により磁性層にジュール熱が発生する。そのため、飽和磁化が小さく、摩擦定数の小さい電極材料を用いる等、MTJにおけるスピン伝導特性の最適化とは異質の制約が生じ、読み出しに必要な磁気抵抗変化の低下を招く結果となる。
これは、MRAMに限らず、全ての高機能スピンデバイスにおいて、高い素子性能(スピン伝導性能)を維持したまま、スピン熱擾乱耐性の向上と書き込み動作の低電力化の両立を実現することが強く望まれている。
発明者は、素子構造の柔軟性が高いプレーナ構造に着目し、電荷の流れがゼロのスピン流(純スピン流とする)の生成方法、及び制御方法に関する研究を行ってきた(例えば、非特許文献7を参照)。
図14は、純スピン流を示す図である。上段のスピン偏極電流は、通常の電流にスピン流を重畳させたものであり、電子の数(図14では3個のe)だけ電荷流が流れ、スピン流は↑スピン(図14では2個)と↓スピン(図14では1個)が同方向に流れることで、相殺されたスピン流(1個の↑スピン)が発生する。一方、下段の純スピン流は、↑スピンの電子(図14では1個)と↓スピンの電子(図14では1個)が拡散電流により相互に逆方向に流れることで、電荷の流れを相殺(ゼロに)し、スピン角運動量だけを運ぶ電子の流れである。この純スピン流は、非平衡状態から平衡状態への拡散で伝導するため、電界で伝導する電荷流とは生成、制御の概念が異なるものである。発明者は、この純スピン流が、スピン緩和が強い磁性体中に効率的に流れ込むスピン吸収効果を開発した(非特許文献8を参照)。
また、スピン吸収効果を積極的に用いて、図15(図15(A)が素子SEM像、図15(B)がその概念図)に示す素子構造を開発し、パーマロイ微小磁性体に、直接電流を流さずに純スピン流のみを注入することで、微小パーマロイの磁化反転が可能であることを実証している(非特許文献9を参照)。
さらに、発明者により、多端子によりスピン注入を行うことで、蓄積スピンベクトルの電気的な回転制御法が開示されている(非特許文献10を参照)。
【非特許文献1】久保田均,鈴木義茂,湯浅新治、"高密度スピントルクMRAMの実現に向けて"、応用物理78、231-235、2009 【非特許文献2】Claude Chappert,Albert Fert & Frederic Nguyen Van Dau、"Theemergence of spin electronics in data storage"、Nature Materials 6、813-823、2007 【非特許文献3】平本俊郎、"Beyond CMOSとは?"、応用物理77、253、2008 【非特許文献4】湯浅新治,David D.Djayaprawira、"結晶MgOトンネル障壁のコヒーレントなスピン依存トンネル伝導と巨大TMR効果"、日本物理学会誌62、156-163、2005 【非特許文献5】宮崎照宣、"TRM効果の歴史と展望"、まぐね3、212-218、2008 【非特許文献6】中村志保、"磁性接合におけるスピントランスファ現象の展開"、まぐね3、219-227、2008 【非特許文献7】T.Kimura and Y.Otani、"Spin transport in lateral ferromagnetic/nonmagnetic hybrid structures"、J.Phys.Cond.Mat.19、165216、2007 【非特許文献8】T.Kimura,J.Hamrle and Y.Otani、"Estimetion of spin-diffusion length from themagnitude of spin-current absorption:multi-terminal ferromagnetic/nonmagnetic hybrid structures"、Phys.Rev.B72、14461、2005 【非特許文献9】T.Kimura,J.Hamrle、"Switching magnetization of nanoscale ferromagnetic particle using nonlocal spin injection"、Phys.Rev.Lett.96、37201、2006 【非特許文献10】T.Kimura,Y.Otani, and Peter M.Levy、"Electrical Control of the Direction of Spin Accumulation"、Physical Review Letters、99、166601、2007
しかしながら、開示されたいずれの技術においても、スピン侵入長以上の厚さを持つ磁性体(反転層)の磁化反転には適用することができず、スピンデバイスにおける熱擾乱耐性の問題、及び磁気抵抗変化が低下する問題を解決するに至らない。
そこで、本発明は、積層構造ではなく、プレーナ構造を利用して一又は複数の端子から電荷を一切含んでいない純スピン流を生成し、非磁性体中に磁性体を埋め込むことで、複数方向から純スピン流を磁性体に注入することができ、スピン侵入長に制限されずに磁性体の磁化反転を可能にする磁化反転技術等を提供することを目的とする。
本願に開示する磁化反転装置は、非磁性体の配線に一部又は全部が立体的に埋め込まれて配設される磁性体と、スピンが偏極し且つ電荷の流れを伴わない純スピン流を発生し、前記非磁性体の配線を共通の電極として当該非磁性体の配線に接触して配設されるスピン注入手段とを備え、前記スピン注入手段が、前記非磁性体の配線を介して前記磁性体に対して拡散電流により前記純スピン流を流すことで、前記磁性体の磁化を反転させることを特徴とするものである。
このように、磁性体が非磁性体の配線に一部又は全部が立体的に埋め込まれることで、磁性体と非磁性体との接触面積が大きくなり、スピン注入手段からの拡散電流により大量の純スピン流を吸収することが可能となるため、厚膜の磁性体であっても容易に磁化反転することができるという効果を奏する。また、厚膜の磁性体の磁化反転が可能となることで、熱擾乱によりスピンが不安的になることを防止することができるという効果を奏する。さらに、電荷流により発生するジュール熱がないため、電極材料等の制約がなく、磁化の大きな厚膜磁性体の磁化反転が可能となると共に、磁気抵抗素子における抵抗変化の低下を防止することができるという効果を奏する。
本願に開示する磁化反転装置は、前記スピン注入手段を複数備え、任意の一のスピン注入手段と前記磁性体との間の純スピン流の流路上とは異なる位置に、任意の他のスピン注入手段が配設されていることを特徴とするものである。
このように、複数のスピン注入手段からの拡散電流により磁性体に対して大量の純スピン流を流すことで、厚膜の磁性体であっても容易に磁化反転することができるという効果を奏する。
本願に開示する磁化反転装置は、非磁性体の配線に平面的に接触して配設される磁性体と、スピンが偏極し且つ電荷の流れを伴わない純スピン流を発生し、前記非磁性体の配線を共通の電極として当該非磁性体の配線に接触して配設される複数のスピン注入手段とを備え、任意の一のスピン注入手段と前記磁性体との間の純スピン流の流路上とは異なる位置に、任意の他のスピン注入手段を配設し、前記スピン注入手段が、前記非磁性体の配線を介して前記磁性体に対して拡散電流により前記純スピン流を流すことで、前記磁性体の磁化を反転させることを特徴とするものである。
このように、複数のスピン注入手段からの拡散電流により磁性体に対して大量の純スピン流を流すことで、厚膜の磁性体であっても磁化反転することができるという効果を奏する。また、厚膜の磁性体の磁化反転が可能となることで、熱擾乱によりスピンが不安的になることを防止することができるという効果を奏する。さらに、電荷流により発生するジュール熱がないため、電極材料等の制約がなく、磁化の大きな厚膜磁性体の磁化反転が可能となると共に、磁気抵抗素子における抵抗変化の低下を防止することができるという効果を奏する。
本願に開示する磁化反転装置は、第1のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の第1の注入方向と、第2のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の第2の注入方向との関係が、平行又は反平行の関係以外の関係であり、前記磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、前記第1のスピン注入手段と前記第2のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、歳差運動をしている前記磁性体におけるスピンのベクトルに対して、二次元面内で任意の方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させ、前記スピンに作用するトルクを最適化することを特徴とするものである。
このように、磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、第1のスピン注入手段と第2のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、スピンの方向を制御することで、歳差運動をしている磁性体におけるスピンのベクトルに作用するトルクが常に最適となる方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させるため、磁性体のスピンの歳差運動に同期してスピンに作用するトルクが最適となり、小電力で高速に磁化を反転することができるという効果を奏する。また、注入される純スピン流の量の比率を調整することで、生成される純スピン流のベクトル方向を電気的に制御することが可能となる。
本願に開示する磁化反転装置は、前記純スピン流を注入する第3のスピン注入手段を備え、前記第3のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の第3の注入方向と、前記第1の注入方向、及び/又は前記第2の注入方向との関係が、平行又は反平行の関係以外の関係であり、前記磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、前記第1のスピン注入手段と前記第2のスピン注入手段と前記第3のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、歳差運動をしている前記磁性体におけるスピンのベクトルに対して任意の方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させて、前記スピンに作用するトルクを最適化することを特徴とするものである。
このように、磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、第1のスピン注入手段と第2のスピン注入手段と第3のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、スピンの方向を制御することで、歳差運動をしている磁性体におけるスピンのベクトルに作用するトルクが常に最適となる方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させるため、3次元的なスピンの歳差運動に対してもスピンに作用するトルクを最適化することができ、より小電力で高速な磁化の反転を実現することができるという効果を奏する。また、注入される純スピン流の量の比率を調整することで、生成される純スピン流のベクトル方向を電気的に制御することが可能となる。
本願に開示する磁化反転装置は、前記スピン注入源、及び前記非磁性体に電流を供給する電流源を備え、少なくとも前記スピン注入源、前記非磁性体、及び前記電流源で閉回路が形成されており、前記閉回路に電流を流すことで前記拡散電流を生じ、前記純スピン流を発生させることを特徴とするものである。
このように、少なくとも前記スピン注入源、非磁性体、及び電流源で閉回路が形成されており、閉回路に電流を流すことで拡散電流を生じ、純スピン流を発生させるため、簡単な回路構成で拡散電流により電荷の流れを伴わない純スピン流を発生することができるという効果を奏する。
本願に開示する記憶素子は、縦方向、及び横方向に直交する導電性の配線に非磁性体の配線を含み、当該非磁性体の配線の任意の一の交点の位置に、当該非磁性体の配線と少なくとも一部を接触させた磁性体を配設し、当該磁性体が配設された前記任意の一の交点に隣接する複数の任意の他の交点のうち、一又は複数の任意の他の交点の位置に、スピンが偏極し且つ電荷の流れを伴わない純スピン流を発生するスピン注入手段を、前記非磁性体の配線を共通の電極として当該非磁性体の配線に接触して配設し、前記スピン注入手段が、前記非磁性体の配線を介して前記磁性体に対して拡散電流により前記純スピン流を流すことで、前記磁性体の磁化を反転させてビットの書き込みを行うことを特徴とするものである。
このように、縦方向、及び横方向に直交する導電性の配線に非磁性体の配線を含み、非磁性体の配線の任意の一の交点の位置に磁性体を配設し、非磁性体の配線を介して隣接する他の交点の位置にスピン注入手段を配設することで、磁性体が多くの純スピン流を吸収することができると共に、スピン熱擾乱耐性を有する厚膜磁性体を低消費電力で磁化反転することができ、ビットの情報を安定して確実に書き込むことができるという効果を奏する。
本願に開示する記憶素子は、前記導電性の配線に含まれる非磁性体の配線が縦方向、及び横方向に加えて、斜め方向に直交することを特徴とするものである。
このように、導電性の配線に含まれる非磁性体の配線が縦方向、及び横方向に加えて斜め方向に直交することで、スピン注入手段の数を増加させ、磁性体がより多くの純スピン流を吸収することができ、より巨大な純スピン流が磁性体中に吸収され、より大きな磁性体の磁化反転が可能となることで、より熱安定に優れた次世代の記憶素子として利用することができるという効果を奏する。
本願に開示する記憶素子は、前記磁性体が、前記非磁性体の配線層内に立体的に埋め込まれて配設されることを特徴とするものである。
このように、磁性体が、非磁性体の配線層内に立体的に埋め込まれて配設されることで、複数方向から純スピン流を吸収することができ、安定してビット情報の書き込みを行うことができるという効果を奏する。
本願に開示する記憶素子は、前記複数の任意の他の交点に、少なくとも第1のスピン注入手段と第2のスピン注入手段とを配設し、前記第1のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の注入方向と、前記第2のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の注入方向との関係が、平行又は反平行の関係以外の関係であり、前記磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、前記第1のスピン注入手段と前記第2のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、歳差運動をしている前記磁性体におけるスピンのベクトルに対して、二次元面内で任意の方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させて、前記スピンに作用するトルクを最適化することを特徴とするものである。
本願に開示する記憶素子は、前記第1のスピン注入手段、及び第2のスピン注入手段が配設されている交点以外の前記任意の他の交点に、前記純スピン流を注入する第3のスピン注入手段を備え、前記第3のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の第3の注入方向と、前記第1の注入方向、及び/又は前記第2の注入方向との関係が、平行又は反平行の関係以外の関係であり、前記磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、前記第1のスピン注入手段と前記第2のスピン注入手段と前記第3のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、歳差運動をしている前記磁性体におけるスピンのベクトルに対して任意の方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させて、前記スピンに作用するトルクを最適化することを特徴とするものである。
本願に開示する記憶素子は、前記スピン注入源、及び前記非磁性体に電流を供給する電流源を備え、少なくとも前記スピン注入源、前記非磁性体、及び前記電流源で閉回路が形成されており、前記閉回路に電流を流すことで前記拡散電流を生じ、前記純スピン流を発生させることを特徴とするものである。
本願に開示する磁界発生装置は、非磁性体からなる配線の先端部に当該非磁性体の配線と少なくとも一部が接触する磁性体を備え、前記非磁性体の配線の先端部から後退離反する方向に延出する一又は複数の延出部を有し、スピンが偏極し且つ電荷の流れを伴わない純スピン流を発生するスピン注入手段を、当該スピン注入手段の少なくとも一部が前記延出部に接触するように配設し、前記スピン注入手段が、前記非磁性体の配線を介して前記磁性体に対して拡散電流により前記純スピン流を流すことで、前記磁性体からの磁界を発生させるものである。
このように、非磁性体からなる配線の先端部に備えられた磁性体に対して、後退離反する方向に延出する一又は複数の延出部から非磁性体の配線を介して純スピン流を流すことで、装置のサイズを小さくしつつ、空間分解能の高い磁界を発生させることができ、磁気記録装置のみならず、次世代スピンデバイスの書き込み手段として利用できるという効果を奏する。
本願に開示する磁界発生装置は、前記延出部が複数形成されており、前記延出部が、前記非磁性体の配線の先端部から、前記磁性体の磁界発生方向に対して所定の角度で、且つ前記先端部から後退離反する方向に放射状に延出しているものである。
このように、非磁性体からなる配線の先端部に備えられた磁性体に対して、複数の延出部から非磁性体の配線を介して大量の純スピン流を流すことで、磁性体が強力な磁界を発生することができるという効果を奏する。
本願に開示する磁界発生装置は、前記延出部が、V字状に形成される2つの延出部からなることを特徴とするものである。
このように、延出部をV字状に形成される2つの延出部とすることで、装置のサイズを小さくしつつ、空間分解能の高い磁界を発生させることができ、磁気記録装置のみならず、次世代スピンデバイスの書き込み手段として利用できるという効果を奏する。
本願に開示する磁界発生装置は、前記磁性体が、前記非磁性体の配線層内に立体的に埋め込まれて配設されることを特徴とするものである。
このように、磁性体が、非磁性体の配線層内に立体的に埋め込まれて配設されることで、複数方向から純スピン流を吸収することができ、形状や材質に制限されない磁性体の磁化反転が可能となり、より大きな磁界を発生できるという効果を奏する。
本願に開示する磁界発生装置は、複数の延出部を有し、当該複数の延出部に、少なくとも第1のスピン注入手段と第2のスピン注入手段とを配設し、前記第1のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の注入方向と、前記第2のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の注入方向との関係が、平行又は反平行の関係以外の関係であり、前記磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、前記第1のスピン注入手段と前記第2のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、歳差運動をしている前記磁性体におけるスピンのベクトルに対して、二次元面内で任意の方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させて、前記スピンに作用するトルクを最適化することを特徴とするものである。
本願に開示する磁界発生装置は、前記第1のスピン注入手段、及び第2のスピン注入手段が配設されている延出部以外の他の延出部に、前記純スピン流を注入する第3のスピン注入手段を備え、前記第3のスピン注入手段で注入される前記純スピン流の第3の注入方向と、前記第1の注入方向、及び/又は前記第2の注入方向との関係が、平行又は反平行の関係以外の関係であり、前記磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、前記第1のスピン注入手段と前記第2のスピン注入手段と前記第3のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、歳差運動をしている前記磁性体におけるスピンのベクトルに対して任意の方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させて、前記スピンに作用するトルクを最適化することを特徴とするものである。
このように、磁性体におけるスピンの歳差運動に同期して、第1のスピン注入手段と第2のスピン注入手段と第3のスピン注入手段とで注入される純スピン流の量の比率を調整し、スピンの方向を制御することで、歳差運動をしている磁性体におけるスピンのベクトルに作用するトルクが常に最適となる方向を有するベクトルをもつ純スピン流を発生させるため、3次元的なスピンの歳差運動に対しても常時スピンに作用するトルクを最適化することができ、より小電力で高速な磁化の反転を実現することができるという効果を奏する。また、注入される純スピン流の量の比率を調整することで、生成される純スピン流のベクトル方向を電気的に制御することが可能となる。
本願に開示する磁界発生装置は、前記スピン注入源、及び前記非磁性体に電流を供給する電流源を備え、少なくとも前記スピン注入源、前記非磁性体、及び前記電流源で閉回路が形成されており、前記閉回路に電流を流すことで前記拡散電流を生じ、前記純スピン流を発生させることを特徴とするものである。
【図1】第1の実施形態に係る磁化反転装置の第1の構成図である。 【図2】第1の実施形態に係る磁化反転装置の第2の構成図である。 【図3】第2の実施形態に係る記憶素子の第1の平面図、及び断面図である。 【図4】第2の実施形態に係る記憶素子の第2の平面図、及び断面図である。 【図5】第3の実施形態に係る磁界発生装置の第1の全体斜視図、及び断面図である。 【図6】第3の実施形態に係る磁界発生装置の第2の全体斜視図、及び断面図である。 【図7】第3の実施形態に係る磁界発生装置における他の形状の一例を示す図である。 【図8】第4の実施形態に係る磁化反転装置におけるスピンの方向を制御する図である。 【図9】第4の実施形態に係る磁化反転装置における磁性体の歳差運動を示す図である。 【図10】第4の実施形態に係る磁化反転装置におけるスピン注入源を3つ有する場合の図である。 【図11】本発明の実施例に係る素子構造を示す図である。 【図12】本発明の実施例における結果を示す図である。 【図13】従来のスピン注入により磁化反転を行う場合の問題を示す図である。 【図14】従来の純スピン流の説明をする図である。 【図15】従来のスピン吸収効果を用いた素子構造を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
以下の実施形態において、電荷の流れを伴わず、スピンが偏極している電子の流れを純スピン流とし、電荷の流れを伴う電子の流れを電荷流とする。 (本発明の第1の実施形態) 本実施形態に係る磁化反転装置について、図1、及び図2を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る磁化反転装置の第1の構成図、図2は、本実施形態に係る磁化反転装置の第2の構成図である。
図1(A)において、磁化反転装置10は、非磁性体11(例えば、銅、アルミニウム等)の配線と、当該非磁性体11の配線に下面部で接触する磁性体12(例えば、パーマロイ、コバルト等)、及び2つのスピン注入源13a、13b(例えば、パーマロイ、コバルト等)とを備える。磁性体12は、スピン注入源13a、及び13bに挟まれた位置に配設されている。それぞれのスピン注入源13a、13bは、非磁性体11の配線の外部に電荷流を流すために、非磁性体11の配線の外部で閉回路が形成されている。また、各スピン注入源13a、13bは、電極であると共に、純スピン流を発生させるためにスピンが偏極している磁性体である。
それぞれの閉回路に電流を流すと、スピン注入源13a、13bから、スピンが偏極した電子が非磁性体11の配線に流れる。スピンが偏極した電子は、拡散電流として非磁性体11の配線内を流れるため、↑スピンの電子、及び↓スピンの電子は、その数が多いほうから少ないほうに流れる。例えば、図1(B)に示すように、スピン注入源13a、13bにおいて、↑スピンの電子の数が8個で↓スピンの電子の数が2個に偏極しているとする。また、非磁性体11の配線内は、スピンの偏極がないため、↑スピンの電子の数が5個で↓スピンの電子の数が5個である。スピン注入源13a、13bから、スピンが偏極した電子が非磁性体11の配線に流入すると、↑スピンの電子は、↑スピンの電子の数が多いスピン注入源13a、13b側から、↑スピンの電子の数が少ない磁性体12側に向かって流れる。一方、↓スピンの電子は、↓スピンの電子の数が多い磁性体12側から、↓スピンの電子の数が少ないスピン注入源13a、13b側に向かって流れる。つまり、図14に示すように、↑スピンの電子と↓スピンの電子が、拡散電流によりそれぞれ逆方向に流れることで、電荷の流れを相殺し、スピン角運動量だけを非磁性体11の配線に流す純スピン流を発生させることができる。
非磁性体11の配線内では、磁性体の場合と比較して、スピンが偏極した非平衡状態を長く保つことができる。また、スピンが偏極した非平衡状態の電子は、その非平衡状態が緩和しやすい方向に流れる性質がある。つまり、スピン注入源13a、13bから流入された純スピン流は、非磁性体11の配線内よりも非平衡状態がより緩和し易い磁性体12に向かって流れる(スピンの吸収効果)。
本実施形態に係る磁化反転装置10では、図1に示すように、複数のスピン注入源13a、13bからの大量の純スピン流を磁性体12が吸収するため、磁性体12が大きいものであっても、磁性体12の磁化を容易に反転させることができる。なお、磁化の方向の制御は、電流が流れる方向を制御することで、行うことができる。
図1の場合と比較して、スピンの吸収効果をより高めた場合の磁化反転装置10の構成を図2(A)に示す。図1の場合は、磁性体12の下面(二次元平面)に対して下方向からのみの純スピン流の吸収であるのに対して、図2(A)の場合は、磁性体12が非磁性体11に立体的に埋め込まれており、複数方向からの純スピン流の吸収となっている。つまり、純スピン流を吸収する面積を多くすると共に、複数方向から純スピン流を吸収することで、スピンの吸収効率を向上させることができる。
なお、図1、及び図2(A)においては、スピン注入源13a、13bの2つを備える構成としたが、スピン注入源の数はいくつ備えてもよい(13a、13b、…、13z、…)。その場合、それぞれのスピン注入源を配設する位置関係は、純スピン流が流れる流路上に他のスピン注入源が配設されないようにする。
また、本実施形態に係る磁化反転装置は、図13に示すような、MRAM等における反転層に適用させてもよいし、磁界発生装置として、MRAM等を外部から磁界制御するようにしてもよい。
さらに、図2(B)に示すように、スピン注入源13a又は13bのいずれか1つのみを備える構成としてもよい。さらにまた、非磁性体11に磁性体12の全体を埋め込むことで、スピンの吸収効率を最大限に向上させることが可能であるが、使用態様により、例えばMRAM等における反転層に適用させるような場合には、一部が非磁性体11から露出していることが望ましい。その場合、磁性体12が露出している方向と対向する方向において、非磁性体11と接触させてスピン注入源13a、13bが配設されることで、スピンの吸収効率を向上させることができる。例えば、図2(C)に示すように、磁性体12の下面が露出している場合には、その対向する方向である上面の方向において、非磁性体11と接触させてスピン注入源を配設するようにしてもよい。
このように、本実施形態に係る磁化反転装置においては、複数のスピン注入源からの拡散電流により磁性体に対して大量の純スピン流を流すことで、厚膜の磁性体であっても磁化反転することができる。また、厚膜の磁性体の磁化反転が可能となることで、熱擾乱によりスピンが不安定になることを防止することができる。さらに、電荷が相殺されることで、電荷流により発生するジュール熱がないため、電極材料等の制約がなく、磁気抵抗変化の低下を防止することができる。
また、磁性体が、非磁性体の配線層内に立体的に埋め込まれて配設されることで、接触面積を増大させて複数方向から純スピン流を吸収することができ、純スピン流の吸収効果を格段に高めることができる。
(本発明の第2の実施形態) 本実施形態に係る記憶素子について、図3及び図4を用いて説明する。図3は、本実施形態に係る記憶素子の第1の平面図、及び断面図、図4は、本実施形態に係る記憶素子の第2の平面図、及び断面図である。
図3(A)において、記憶素子30は、マトリックス状に形成された非磁性体11の配線、及び電流供給用の導電体31の配線、非磁性体11の配線の任意の交点の位置に磁性体12、並びに磁性体12が配設されている交点の位置に隣接し、非磁性体11の配線と導電体31の配線との交点の位置に、スピン注入源13a~13dを備える。なお、非磁性体11と導電体31とは同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
磁性体12は、非磁性体11の配線に埋め込まれるように配設されており、非磁性体11の配線と立体的に接触している。スピン注入源13a~13dは、少なくとも一部が非磁性体11の配線に接触して配設されている。また、スピン注入源13a~13dにおいて、磁性体12が配設されている方向と反対の方向(マトリックスの外側方向)はグランドになっている。
図3(B)は、図3(A)の矢印aの方向から見た場合の断面図である。非磁性体11の配線層内に磁性体12が埋め込まれて配設されており、スピン注入源13a、13cが、非磁性体11の配線と上面部で接触して配設されている。非磁性体11の配線の下層には、スピン注入源13a、13c以外の領域に、絶縁層37(図3(A)には図示しない)が積層されており、スピン注入源13a、13cの下面部には、導電体31が積層された構造となっている。
電流源から供給された電流は、導電体31を破線の矢印の方向に流れると共に、この導電体31と下面部で接触するスピン注入源13a~13dに電流が流れ、このスピン注入源13a~13dに流れた電流がグランドに流れることで、図3(B)の破線で示すように、非磁性体11の配線の外側方向に電流を逃がすことができる。すなわち、第1の実施形態の場合と同様に、スピン注入源13a~13dにより、複数のスピン注入源(ここでは4つ)から図3(B)の点線で示す純スピン流が発生し、スピンの吸収効果により磁性体12がスピンを吸収して磁化を反転することができる。
磁化の反転を制御する場合は、電流の方向を制御すればよく、また、電流を流す導電体31の組み合わせにより、駆動させるスピン注入源13a~13dの選択を制御することもできる。記憶素子30において、図3(A)の領域35のブロックで1ビットの情報を記憶する。
図4(A)は、図3(A)の記憶素子において、非磁性体11の配線を斜め方向にも直交させた形状としている。そうすることで、磁性体12は、当該磁性体12が配設された交点の位置に隣接する、8つの他の交点の位置に配設されたスピン注入源13a~13hからの純スピン流を吸収することができ、スピンの吸収効率をさらに高めることが可能となる。また、図4(B)に示すように、斜め方向(図4(A)の矢印bの方向)の断面図においても、図3(B)の場合と同様に、磁性体12がスピン注入源13b、13fからのスピンを吸収していることがわかる。
なお、本実施形態に係る記憶素子においては、スピン注入源13が1つであってもよい。例えば、図3の場合、スピン注入源13aが配設されている縦ラインの導電体31にのみ電流を流すことで、1つのスピン注入源からのみスピンを注入するようにしてもよい。また、例えば、スピン注入源13aとスピン注入源13cが配設されている縦ラインの導電体31に電流を流すことで、2つのスピン注入源13からスピンを注入するようにしてもよい。
このように、マトリックス状に形成された非磁性体を含む導電体の配線の任意の一の交点の位置に磁性体を配設し、非磁性体の配線を介して隣接する他の交点の位置にスピン注入手段を配設することで、磁性体が多くの純スピン流を吸収することができると共に、スピン熱擾乱耐性を有する厚膜磁性体を低消費電力で磁化反転することができ、ビットの情報を安定して確実に書き込むことができる。
また、非磁性体の配線が縦方向、及び横方向に加えて斜め方向に直交することで、スピン注入手段の数を増加させ、磁性体がより多くの純スピン流を吸収することができ、より巨大な純スピン流が磁性体中に吸収され、より大きな磁性体の磁化反転が可能となることで、より熱安定に優れた次世代の記憶素子として利用することができる。
(本発明の第3の実施形態) 本実施形態に係る磁界発生装置について図5ないし図7を用いて説明する。図5は、本実施形態に係る磁界発生装置の第1の全体斜視図、及び断面図である。
上記第1の実施形態、及び第2の実施形態に示したように、電流の方向を制御することで、純スピン流により磁性体の磁化方向を制御することができる。また、磁化と平行なスピン流を注入することで、スピントルクによる強磁性結合効果が生じ、微小な磁性体内の磁化方向を注入されたスピンの方向に強く固定することができる。
そこで、本実施形態においては、微小な磁性体を強く磁化させ、その先端から発生する磁界を、例えば磁気記憶媒体への書き込み磁界として利用する磁気ヘッド等に応用できる磁界発生装置について説明する。
図5(A)において、磁界発生装置40は、先端部41、及び当該先端部41から後退離反する方向に延出された延出部42を有する非磁性体11の配線と、当該非磁性体11の配線の先端部41に埋め込まれた磁性体12と、少なくとも一部が延出部42に埋め込まれたスピン注入源13とを備える。先端部41に埋め込まれた磁性体12の磁界発生方向は、図5(A)に示す矢印の方向であり、純スピン流により磁界が反転した場合は、矢印の逆方向となる。このように、延出部42が、先端部41から後退離反するように形成されるのは、先端部41の先にある磁界制御を行う対象物に対して、延出部42に埋め込まれたスピン注入源13から発生する磁界の対象物への影響をなくすためである。
図5(B)は、図5(A)の矢印cの方向から見た断面図であり、スピン注入源13から非磁性体11の配線の外側方向(図5(A)の矢印d1の方向)に電流が供給されると、第1の実施形態の場合と同様に、スピンが偏極した電子が拡散電流として流れ、純スピン流が発生する。発生した純スピン流はスピン吸収効果により、磁性体12に吸収され、スピントルクにより磁性体12の磁化方向を強く固定し、強力な磁界を発生することができる。更に、電流方向を反転させることで、磁界発生方向も反転させることができる。
図6は、本実施形態に係る磁界発生装置の第2の全体斜視図、及び断面図である。図6(A)において、磁界発生装置40は、先端部41、及び当該先端部41からV字状に延出された延出部42a、42bを有する非磁性体11の配線と、当該非磁性体11の配線の先端部41に埋め込まれた磁性体12と、少なくとも一部が延出部42a、42bに埋め込まれたスピン注入源13a、13bとを備える。先端部41に埋め込まれた磁性体12の磁界発生方向は、図6(A)に示す矢印の方向であり、純スピン流により磁界が反転した場合は、矢印の逆方向となる。このように、延出部42a、42bが、先端部41から後退離反するように形成されるのは、先端部41の先にある磁界制御を行う対象物に対して、延出部42a、42bに埋め込まれたスピン注入源13a、13bから発生する磁界の対象物への影響をなくすためである。
図6(B)は、図6(A)の矢印cの方向から見た断面図であり、スピン注入源13a、13bから非磁性体11の配線の外側方向(図6(A)の矢印d1、d2の方向)に電流が供給されると、第1の実施形態の場合と同様に、スピンが偏極した電子が拡散電流として流れ、純スピン流が発生する。発生した純スピン流はスピン吸収効果により、磁性体12に吸収され、スピントルクにより磁性体12の磁化方向を強く固定し、強力な磁界を発生することができる。更に、電流方向を反転させることで、磁界発生方向も反転させることができる。
なお、磁界発生方向の制御は、スピン注入源13a、13bに流す電流の方向により制御することができる。例えば、図6(A)の矢印d1、及び矢印d2で示す方向と逆方向に電流を流すことで、磁界発生方向を反転させることができる。また、スピン注入源13a、13bの一方(例えば、矢印d1)について、矢印の方向に電流を流し、他方(例えば、矢印d2)について、矢印と逆方向に電流を流すことで、発生する磁界の強度を減少させることができる。つまり、両側から互いに逆方向の純スピン流を注入することで、逆方向のスピントルクが働き、磁性体12が多磁区構造を形成することになり、磁極からの発生磁界が急激に低下する。これにより、例えば磁界発生装置を書き込みヘッドとして利用する場合には、ポールイレージャー等の書き込みエラーを回避することが可能となる。
また、非磁性体11の形状は、図6に示すようなV字状の形状に限定されない。図7は、本実施形態に係る磁界発生装置における他の形状の一例を示す図である。図7(A)において、磁界発生装置40は、非磁性体11の配線の先端部41から、磁性体12の磁界発生方向に対して所定の角度で、且つ先端部41から後退離反する方向に放射状に延出する4本の延出部42a~42dと、延出部42zの併せて5本の延出部を有する。また、図7(B)において、磁界発生装置40は、非磁性体11の配線の先端部41から延出する8本の延出部42a~42hと、延出部42zの併せて9本の延出部を有する。
それぞれの磁界発生装置40の延出部には、少なくとも一部が埋め込まれたスピン注入源が各延出部ごとに備えられ、それぞれのスピン注入源から偏極したスピンが注入される。つまり、図7(A)の場合は、5つのスピン注入源からのスピン流を磁性体12が吸収し、図7(B)の場合は、9つのスピン注入源からのスピン流を磁性体12が吸収する。
従って、磁界発生装置として機能する磁化の大きな磁性体12の断面を極微細化にすることで、空間的に急峻で、且つ強力な磁界の発生が可能となる。また、長さ方向を十分長くすることで、磁性体の熱安定性を高めることが可能である。更に、複数方向からのスピン注入により、体積が増大しても、スピン注入により磁化反転が可能となる。本実施形態に係る磁界発生装置40においては、厚さ十nm以上の磁性体の磁化制御を実現することが可能となる。
なお、図5及び図7の磁界発生装置において、磁性体12は、非磁性体11の配線と平面的に接触して配設されてもよいし、立体的に接触して配設されてもよい。より高いスピン吸収効果を期待する場合は、立体的に接触して配設されたほうが好ましい。
このように、非磁性体からなる配線の先端部に備えられた磁性体に対して、複数の延出部から非磁性体の配線を介して大量の純スピン流を流すことで、磁性体が強力な磁界を発生することができる。
また、延出部をV字状に形成される2つの延出部とすることで、装置のサイズを小さくしつつ、空間分解能の高い磁界を発生させることができ、磁気記録装置のみならず、次世代スピンデバイスの書き込み手段として利用することができる。
さらにまた、磁性体が、非磁性体の配線層内に埋め込まれて配設されることで、接触面積が増大し複数方向から純スピン流を吸収することができ、形状や材質に制限されない磁性体の磁化反転が可能となり、より大きな磁界を発生することができる。
さらにまた、磁気ヘッドとして、コイル等が不要となることで素子構造が極めて単純化され、さらに素子の軽量化も実現することができるため、記憶装置の微細化に非常に大きな貢献が可能となる。また、磁性体内に渦電流が発生せず、高速動作が可能であるため、情報の書き込み時の消費電力を大幅に節減することができる。
(本発明の第4の実施形態) 本実施形態に係る磁化反転装置について図8ないし図10を用いて説明する。図8は、本実施形態に係る磁化反転装置におけるスピンの方向を制御する図、図9は、本実施形態に係る磁化反転装置における磁性体の歳差運動を示す図、図10は、本実施形態に係る磁化反転装置におけるスピン注入源を3つ有する場合の図である。
本実施形態においては、2つ又は3つのスピン注入源13を用いて、磁性体12のスピンの歳差運動に同期させて注入するスピンの方向を制御し、磁性体12のスピンの反転速度を向上させるものである。スピンの反転を駆動するスピントルクは、磁化と注入されたスピンの外積に比例する。磁化の方向と反平行なスピン流を注入した場合は、磁化の微小な歳差運動を励起し、スピンを注入し続けることでトルクを増大させて磁化反転を実現するため、始動トルクが極めて小さく、磁化反転に際し多くの歳差運動が必要であり、反転速度が遅く大電力が必要である。一方、磁化の方向と直交するスピン流を注入した場合は、始動トルクが大きくなり磁化反転に際し少ない歳差運動で磁化反転することができる。さらに、歳差運動に同期してスピンの方向を制御して最適化することで、より少ない歳差運動で磁化反転することが可能となる。
図8に示すように、スピンの方向はスピンの注入方向、つまりスピン注入源13a、13bにおける電極の角度と、それぞれの電極に流れる電流比率により制御することができる(例えば、非特許文献9を参照)。本実施形態においては、この制御を利用して磁性体12のスピンの反転速度を向上させる。つまり、図9に示すように磁性体12におけるスピンの歳差運動に同期して、トルクが最適となるように、スピン注入源13a、13bの電流比率を調整する。例えば、反転初期から中期においては、磁性体12におけるスピンのベクトルとスピン注入源13が注入するスピンのベクトルとが直交することで、トルクを大きくするように調整し、反転収束時においては、反転中の磁性体12におけるスピンのベクトルとスピン注入源13が注入するスピンのベクトルとが、次第に同一方向となることで、トルクを小さくするように調整する。そうすることで、常に最適のトルクを得ることができ、磁性体12のスピンの反転速度が向上する。
また、図10(A)に示すように、図8のスピン注入源13a、13bに、さらに第3のスピン注入源13cを備えることで、スピンの方向を3次元的に制御することができる。図9に示すように磁性体12のスピンの歳差運動に対して、スピン注入源13a、13b、及び13cにより、3次元的に同期させたスピンを注入することで、より効率よく磁化を反転することができる。
なお、各スピン注入源の電極の角度は、それぞれの電極が平行又は反平行の関係とならないような角度(それぞれの電極の方向が交差する関係、又はねじれの位置の関係)で配設される。特に、各電極の角度を図8及び図10(A)に示すように90度とすることで、ベクトルの演算が容易になり、電流比率を調整しやすくなる。
複数のスピン注入源を用いてスピンの方向を制御する場合には、磁性体12に吸収される際に、各スピン注入源から注入されるスピンが合成されていればよい。すなわち、図10(B)、(C)に示すように、スピン注入源の電極の角度さえ条件を満たすように配設すればよく配設位置は問題とならない。したがって、MRAM等のデバイスの集積化においては、スピン注入源の配設位置に自由度が増し、装置を小型化することが可能となる。
なお、本実施形態における2つ又は3つのスピン注入源13を用いて、磁性体12のスピンの歳差運動に同期させて注入するスピンの方向を制御する技術は、前記第2の実施形態に係る記憶素子30や、前記第3の実施形態に係る磁界発生装置40に適用することができる。すなわち、記憶素子30の場合は、磁性体12が配設されている交点の位置に隣接し、非磁性体11の配線と導電体31の配線との交点の位置に配設されるスピン注入源13a~13d(又はスピン注入源13a~13h)のいずれか2つ、又は3つを用いてスピンの方向を制御することができる。このときスピン注入源がスピンを注入する方向が平行又は反平行の関係以外の関係(交差又はねじれの位置の関係)となるような2つ又は3つのスピン注入源が用いられる。特に、3つのスピン注入源を用いる場合は、例えば図3(A)におけるスピン注入源13aと13b、又は13cと13dに加え、貫通ビア等で上層又は下層に積層されているスピン注入源からのスピン(上方向又は下方向から注入されるスピン)を用いることにより、3次元的な制御が可能となる。
磁界発生装置40の場合は、延出部42a、42b(又は延出部42a~42h、42z)に備えられるスピン注入源13a、13b(又はスピン注入源13a~13h、13z)のいずれか2つ、又は3つを用いてスピンの方向を制御することができる。このとき用いられる2つ又は3つのスピン注入源は、それぞれの関係が平行又は反平行の関係以外の関係(交差又はねじれの位置の関係)となるように配設されるものとする。例えば、図5(A)の場合は、スピン注入源13aのスピン注入方向とスピン注入源13bのスピン注入方向とが、平行又は反平行の関係ではないように配設される。
なお、複数のスピン注入源をまとめて2つ、又は3つのグループとし、その2つ、又は3つのグループを用いてスピンの方向を制御してもよい。
以上の前記各実施形態により本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は実施形態に記載の範囲には限定されず、これら各実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能である。そして、かような変更又は改良を加えた実施の形態も本発明の技術的範囲に含まれる。このことは、特許請求の範囲及び課題を解決する手段からも明らかなことである。
磁性体のスピン吸収効率について、磁性体と非磁性体との接触面積の依存性を調べる実験を行った。図11に示す素子構造を用いて磁性体(パーマロイ)と非磁性体(銅)との接触面積lpwを変化させた場合の磁性体、非磁性体間の電圧(抵抗)を測定した。このとき、注入側の電圧を一定にして、磁性体と非磁性体との接触面積のみを変化させている。
図12に測定結果を示す。図12(A)は接触面積が0.008μm2の場合の磁場スイープに対する磁気抵抗の変化を示す測定結果で、図12(B)は接触面積が0.2μm2の場合の磁場スイープに対する磁気抵抗の変化を示す測定結果であり、図12(C)は接触面積と磁気抵抗との関係を示している。図12(A)と図12(B)とを比較すると、接触面積が大きいほど磁気抵抗(δR)が小さいことがわかる(図12(A)、(B)のグラフにおける点線と実線はそれぞれ逆の極性に対応している)。また、図12(C)に示すように、接触面積が大きくなるに連れて抵抗値が小さくなっている。つまり、接触面積を大きくするとスピンの吸収率が上昇し、多くのスピン流が流れ、スピン蓄積電圧が減衰したために、測定電圧値が小さくなった。したがって、磁性体と非磁性体との接触面積を大きくすることで、スピンの吸収効率が上がることが明らかである。本発明では、磁性体が非磁性体に立体的に埋め込まれているため、接触面積が非常に大きくなり、多くのスピンを吸収できることがわかる。
10 磁化反転装置 11 非磁性体 12 磁性体 13a~13z スピン注入源 30 記憶素子 37 絶縁層 40 磁界発生装置 41 先端部 42a~42z 延出部