ANIMAL FOR ANALYZING TYPE I DIABETES OR POLYMYOSITIS/AUTOIMMUNE MYOCARDITIS ANIMAL MODEL
外国特許コード | F140008042 |
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整理番号 | S2013-0217-C0 |
掲載日 | 2014年12月4日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2013JP080758 |
国際公開番号 | WO 2014084055 |
国際出願日 | 平成25年11月14日(2013.11.14) |
国際公開日 | 平成26年6月5日(2014.6.5) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | ANIMAL FOR ANALYZING TYPE I DIABETES OR POLYMYOSITIS/AUTOIMMUNE MYOCARDITIS ANIMAL MODEL |
発明の概要(英語) | Provided is an animal for analyzing type I diabetes, said animal having acquired resistance against type I diabetes, more specifically, said animal having originated from an animal model that is inherently liable to get type I diabetes but yet acquired resistance to the onset of type I diabetes. Also provided is an animal model that exhibits symptoms of polymyositis/ autoimmune myocarditis. A transgenic nonhuman animal that contains an exogenous DNA in the genome, wherein the nonhuman animal is a nonhuman animal model of type I diabetes, the exogenous DNA is a DNA having a promoter region and an Aire protein-encoding region that is positioned in the 3'-terminal side of the promoter region, and Aire protein encoded by the exogenous DNA is expressed in the transgenic nonhuman animal. |
従来技術、競合技術の概要(英語) |
BACKGROUND ART Diabetes is type I, pancreatic Langerhans islet (pancreatic islet) β cell destruction of the insulin secretion due to the fault, the hyperglycemic state, as well as blindness, uremia, neuropathy, hypertension, arteriosclerosis and the like of complications of the disease. Method for the treatment of diabetes type I of research as an analytical tool to therapeutic agents and the like, exhibits symptoms of diabetes type I I Type II diabetes model animals has been developed (Patent Document 1) are. Such a model animals include, for example, from mouse cataract in multiple sclerosis, diabetes type I as a mouse exhibiting symptoms similar to established NOD mouse is known. However, the model animal exhibits symptoms of diabetes type I as well as, the nature of the vice versa, i.e. I-type diabetes animals acquires a resistance if there is, therapeutic agents for the treatment of diabetes type I method and the like and effective analysis tool for the study. Therefore, such I-type diabetes has been desired the development of the animal for analysis. In the striated muscle of polymyositis is defined as diffuse inflammatory muscle disease, muscle group mainly proximal extremities, neck muscle, pharyngeal muscle symmetry such as a disease resulting in muscle weakness. Autoantibodies are detected, an autoimmune disorder an agent that prevents the symptoms from improving, auto-immune diseases are a kind of. And disease progression, the failed component and also the myocardium, autoimmune myocarditis may be developing. Is in a laboratory animal, feeding behavior is suppressed by muscle weakness, weight loss may be caused. Polymyositis and autoimmune myocarditis is intensively studies country certified as refractory disease, there is an urgent need to establish the therapeutic. Therefore, useful as an analytical tool, polymyositis and/or autoimmune myocarditis model animal exhibiting symptoms of development has been desired. AIRE gene, the cause of hereditary autoimmune disease gene. AIRE gene deficiency, is a deficit in slightly in spite of the 1 gene, a variety of glandular tissues develop an autoimmune condition is known. However, the above-described NOD I Type II diabetes model animal is a mouse or the like not genes deleted Aire, Type II Diabetes Mellitus I Aire gene is unknown. In addition, since the polymyositis is an autoimmune disorder, an autoimmune disease-causing genes in hereditary Aire gene by deleting an episode of polymyositis is expected. On the other hand, the over expression of the gene Aire polymyositis is treating or alleviating the symptoms of the considered to be exerted in the direction. |
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国際特許分類(IPC) |
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指定国 |
National States: AE AG AL AM AO AT AU AZ BA BB BG BH BN BR BW BY BZ CA CH CL CN CO CR CU CZ DE DK DM DO DZ EC EE EG ES FI GB GD GE GH GM GT HN HR HU ID IL IN IR IS JP KE KG KN KP KR KZ LA LC LK LR LS LT LU LY MA MD ME MG MK MN MW MX MY MZ NA NG NI NO NZ OM PA PE PG PH PL PT QA RO RS RU RW SA SC SD SE SG SK SL SM ST SV SY TH TJ TM TN TR TT TZ UA UG US UZ VC VN ZA ZM ZW ARIPO: BW GH GM KE LR LS MW MZ NA RW SD SL SZ TZ UG ZM ZW EAPO: AM AZ BY KG KZ RU TJ TM EPO: AL AT BE BG CH CY CZ DE DK EE ES FI FR GB GR HR HU IE IS IT LT LU LV MC MK MT NL NO PL PT RO RS SE SI SK SM TR OAPI: BF BJ CF CG CI CM GA GN GQ GW KM ML MR NE SN TD TG |
日本語項目の表示
発明の名称 | I型糖尿病解析用動物、又は多発性筋炎及び/若しくは自己免疫性心筋炎モデル動物 |
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発明の概要 | I型糖尿病に対する抵抗性を獲得したI型糖尿病解析用動物、より詳細には、本来はI型糖尿病を発症し易いモデル動物に由来しながらも、I型糖尿病の発症に対して抵抗性を獲得したI型糖尿病解析用動物を提供すること、並びに多発性筋炎/自己免疫性心筋炎の症状を呈するモデル動物を提供すること。 ゲノム上に外来性DNAを含むトランスジェニック非ヒト動物であって、非ヒト動物が、I型糖尿病モデル非ヒト動物であり、外来性DNAが、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3'末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNAであり、且つ外来性DNAにコードされるAireタンパク質を発現している、トランスジェニック非ヒト動物。 |
特許請求の範囲 |
請求の範囲 [請求項1] 宿主のゲノム上に外来性DNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物であって、 宿主が、I型糖尿病モデル非ヒト動物であり、 外来性DNAが、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3’末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNAであり、且つ 外来性DNAにコードされるAireタンパク質を発現している、 トランスジェニック非ヒト動物。 [請求項2] 前記外来性DNAを対の染色体の両方に有する、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 [請求項3] 前記プロモーターが免疫細胞特異的プロモーターである、請求項1又は2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 [請求項4] 前記I型糖尿病モデル非ヒト動物がNODマウスである、請求項1~3のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。 [請求項5] 前記外来性DNAが含まれるゲノム上の位置が、第16番染色体上のClaudin 14遺伝子領域及びSim 2遺伝子領域の間である、請求項4に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 [請求項6] 対の染色体の片方に含まれる外来性DNAのコピー数が2~5である請求項5に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 [請求項7] 請求項1~6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物由来の受精卵であって、ゲノム上に、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3’末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNAを含む、受精卵。 [請求項8] 請求項2~6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物の、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル動物としての使用。 [請求項9] 請求項2~6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物を用いた、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療候補物質のスクリーニング方法。 |
明細書 |
明 細 書 発明の名称 : I型糖尿病解析用動物、又は多発性筋炎及び/若しくは自己免疫性心筋炎モデル動物 技術分野 [0001] 本発明は、I型糖尿病に対する抵抗性を獲得したI型糖尿病解析用動物、又は多発性筋炎及び/若しくは自己免疫性心筋炎モデル動物として有用な、トランスジェニック非ヒト動物、さらにはその受精卵に関する。 背景技術 [0002] I型糖尿病は、膵臓ランゲルハンス島(膵島)のβ細胞の破壊によるインスリン分泌障害に起因し、高血糖状態、さらには失明、尿毒症、神経障害、高血圧症、及び動脈硬化症等の様々な合併症を引き起こす疾患である。I型糖尿病の治療法や治療薬等に関する研究の解析ツールとして、I型糖尿病の症状を呈するI型糖尿病モデル動物の開発が進められている(特許文献1)。このようなモデル動物としては、例えば、白内障を多発するマウスから、I型糖尿病に類似する症状を呈するマウスとして樹立されたNODマウスが知られている。ただ、I型糖尿病の症状を呈するモデル動物のみならず、その逆の性質、すなわちI型糖尿病に対する抵抗性を獲得した動物があれば、I型糖尿病の治療法や治療薬等に関する研究のための有効な解析ツールとなる。そこで、このようなI型糖尿病解析用動物の開発が望まれている。 [0003] 多発性筋炎は横紋筋のびまん性炎症性筋疾患と定義され、主として四肢近位筋群、頸筋、咽頭筋などの対称性筋力低下を生じる疾患である。自己抗体が検出されること、自己免疫異常を抑制する薬剤で症状が改善することから、自己免疫性疾患の一種であるとされている。疾患が進行すると、障害部位が心筋にも及び、自己免疫性心筋炎を発症することがある。実験動物においては、筋力低下により摂食行動が抑制され、体重減少が引き起こされることもある。多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎は重点的な研究対象として国に認定されている難治性の疾患であり、その治療法の確立が急務である。そこで、解析ツールとして有用な、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を呈するモデル動物の開発が望まれている。 [0004] AIRE遺伝子は、遺伝性自己免疫疾患の原因遺伝子である。AIRE遺伝子欠損症は、わずか1遺伝子の欠損であるにもかかわらず、種々の腺組織を標的とする自己免疫病態を発症することが知られている。しかしながら、上述のI型糖尿病モデル動物であるNODマウス等はAire遺伝子を欠損しておらず、I型糖尿病とAire遺伝子との関連は不明である。また、多発性筋炎は自己免疫疾患であるため、遺伝性自己免疫疾患の原因遺伝子であるAire遺伝子を欠損させることにより多発性筋炎の症状を呈することが予想される。逆に、Aire遺伝子を過剰発現させることは多発性筋炎の症状を治療又は緩和させる方向に働くと考えられる。 先行技術文献 特許文献 [0005] 特許文献1 : 特表2009-527217 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0006] 本発明は、I型糖尿病に対する抵抗性を獲得したI型糖尿病解析用非ヒト動物、より詳細には、本来はI型糖尿病を発症し易いモデル動物に由来しながらも、I型糖尿病の発症に対して抵抗性を獲得したI型糖尿病解析用非ヒト動物を提供することを課題とする。また本発明は、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を呈するモデル非ヒト動物を提供することも課題とする。 課題を解決するための手段 [0007] 本発明者等は、鋭意研究を進めた結果、驚くべきことに、I型糖尿病モデル動物にAire遺伝子を導入することにより得られたトランスジェニックマウスは、Aire遺伝子が対の染色体の片方にのみ導入された場合にはI型糖尿病の発症に対して抵抗性を示す一方、Aire遺伝子が対の染色体の両方に導入された場合には多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の症状を呈することを見出した。これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。 [0008] 即ち、本発明は、下記の構成を有するものを包含する。 項1.宿主のゲノム上に外来性DNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物であって、 宿主が、I型糖尿病モデル非ヒト動物であり、 外来性DNAが、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3’末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNAであり、且つ 外来性DNAにコードされるAireタンパク質を発現している、 トランスジェニック非ヒト動物。 項2.前記外来性DNAを対の染色体の両方に有する、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 項3.前記プロモーターが免疫細胞特異的プロモーターである、請求項1又は2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 項4.前記I型糖尿病モデル非ヒト動物がNODマウスである、請求項1~3のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。 項5.前記外来性DNAが含まれるゲノム上の位置が、第16番染色体上のClaudin 14遺伝子領域及びSim 2遺伝子領域の間である、請求項4に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 項6.対の染色体の片方に含まれる外来性DNAのコピー数が2~5である請求項5に記載のトランスジェニック非ヒト動物。 項7.請求項1~6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物由来の受精卵であって、ゲノム上に、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3’末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNAを含む、受精卵。 項8.請求項2~6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物の、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル動物としての使用。 項9.請求項2~6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物を用いた、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療候補物質のスクリーニング方法。 発明の効果 [0009] 本発明によれば、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を呈するモデル非ヒト動物を提供することができる。この非ヒト動物は、多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の治療法や治療薬の開発、さらには合併症の研究のための解析ツールとして有用である。例えば、本発明のトランスジェニック非ヒト動物を用いて、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療薬のスクリーニングを行うことができる。 [0010] さらに本発明によれば、I型糖尿病解析用非ヒト動物をも提供することができる。該非ヒト動物は、本来はI型糖尿病を発症し易いモデル動物に由来しながらも、Aire遺伝子が対の染色体の片方にのみ導入されることによって、I型糖尿病の発症に対して抵抗性を獲得している。このことより、該非ヒト動物においては、Aire遺伝子の導入によって、I型糖尿病に対する抵抗性獲得の原因となる何らかの変化(例えば、遺伝子発現の変化や、自己免疫性の変化)が生じているはずである。このような変化を解明することは、I型糖尿病の解析にとって非常に有用である。例えば、上記変化が例えば特定遺伝子群の発現上昇である場合は、該遺伝子群の発現低下はI型糖尿病の原因である可能性がある。したがって、上記変化の解明は、I型糖尿病という疾患メカニズム(特に疾患の原因)の解析に非常に有用であるといえる。別の例としては、上記変化が解明されれば、その変化を指標として、I型糖尿病に対する抵抗性を獲得するための治療薬をスクリーニングすることが可能となる。 図面の簡単な説明 [0011] [図1] Eαプロモーターの下流にヒトAIRE ORFが配置されたプラスミド(pDOI-5 AIRE)のマップを示す。 [図2] pDOI-5 AIRE中、「AIREタンパク質をコードするDNA」として切り出される部分の模式図を示す。 [図3] 「AIREタンパク質をコードするDNA」が挿入されたゲノム上の位置を示す。 [図4] 胸腺の髄質細胞にヒトAIREタンパク質が発現していることを表す、免疫染色像を示す。 [図5] 脾臓のB細胞濾胞領域にヒトAIREタンパク質が発現していることを表す、免疫染色像を示す。 [図6] へテロトランスジェニックマウスとホモトランスジェニックマウスを鑑別するためのPCRプライマーの位置を表す模式図、及び鑑別結果を表す電気泳動像を示す。 [図7] へテロトランスジェニックマウスの糖尿病抵抗性を示す。 [図8] へテロトランスジェニックマウス及びホモトランスジェニックマウスについて、週齢毎に体重を測定した結果(左側)と、週齢毎に生存率を測定した結果(右側)を示す。 [図9] ホモトランスジェニックマウスの心筋及び骨格筋に炎症細胞浸潤が存在することを表す、ヘマトキシリン・エオジン染色像を示す。 [図10] ホモトランスジェニックマウスの血清中に自己抗体が存在することを表す、免疫染色像を示す。 [図11] ホモトランスジェニックマウスの血清中に自己抗体が存在することを表す、ウェスタンブロット像を示す。 [図12] ホモトランスジェニックマウスの血清中に加齢に従って自己抗体が出現することを表す、ウェスタンブロット像を示す。 [図13] ホモトランスジェニックマウスの生存率に対する、ステロイド投与の影響を示す。 発明を実施するための形態 [0012] 1.トランスジェニック非ヒト動物 本発明は、宿主のゲノム上に外来性DNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物、換言すればゲノム上に外来性DNAを含むトランスジェニック非ヒト動物に関する。 [0013] 本発明において宿主とは、I型糖尿病モデル非ヒト動物である。I型糖尿病モデル非ヒト動物としては、I型糖尿病の症状を呈する非ヒト動物である限り特に限定されず、公知のI型糖尿病モデル非ヒト動物や、遺伝子組み換えなどにより人為的に作出された非ヒト動物を採用することができる。なお、I型糖尿病の症状としては、I型糖尿病であると診断される症状として公知の症状であれば特に限定されないが、例えばインスリンの分泌が低下しているか或いは分泌が無いという症状や、血糖値が亢進しているという症状が挙げられる。これらの症状を生後すぐには呈さず、週齢を経るにつれて徐々に呈する非ヒト動物も、本発明のI型糖尿病モデル非ヒト動物に含まれる。これらの症状の有無は公知の方法に従って判断することができる。I型糖尿病モデル非ヒト動物の生物種は特に限定されず、例えばサル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、メダカ、及びトラフグ等の種々の動物を採用することができる。生物種として、好ましくはマウスが挙げられる。I型糖尿病モデル非ヒト動物の具体例としては、NODマウス、ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスおよびラット、LETLラット、KDPラット、又はBBラット等が挙げられ、好ましくはNODマウスが挙げられる。 [0014] 外来性DNAは、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3’末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNAである。 [0015] プロモーター領域としては、3’末端側に存在するAireタンパク質をコードする領域からの転写(Aire mRNAの転写)を開始させる機能を有する限り特に限定されず、例えばサイトメガロウイルスプロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、RSVプロモーター、EF-1αプロモーター、β-アクチンプロモーター、γ-グロブリンプロモーター、及びSRαプロモーター等の公知のプロモーターを採用することができる。プロモーター領域として、好ましくは免疫細胞(マクロファージ、樹状細胞、T細胞、又はB細胞等)特異的に転写を開始させるプロモーターが挙げられる。免疫細胞特異的プロモーターの具体例としては、MHCクラスII領域の遺伝子(例えば、ヒトHLA-DQのα鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子、ヒトHLA-DRのα鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子、ヒトHLA-DPのα鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子、マウスH-2Aのα鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子、並びにマウスH-2Eのα鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子等)のプロモーター、MHCクラスI領域の遺伝子(例えば、マウスH-2Kb遺伝子)のプロモーター、マウスCD4遺伝子のプロモーター、マウスlymphocyte-specific protein tyrosine kinase (lck)遺伝子のプロモーター等が挙げられ、より好ましくはマウスH-2Eのα鎖遺伝子及びβ鎖遺伝子のプロモーターが挙げられ、さらに好ましくはマウスH-2Eのα鎖遺伝子のプロモーターが挙げられる。マウスH-2Eのα鎖遺伝子のプロモーターとしては、例えば配列番号3に示される配列からなるDNA、又は該DNAに対して1若しくは複数個(例えば2~200個、好ましくは2~100個、より好ましくは2~50個、さらに好ましくは2~25個、よりさらに好ましくは2~10個)の塩基が置換、欠失、付加、又は挿入されたDNAであって、免疫細胞特異的プロモーター活性を有するDNAを用いることができる。免疫細胞特異的プロモーター活性は、公知の方法に従って測定することができる。例えば、各種臓器由来の細胞(免疫細胞等)に、プロモーター候補領域及びその下流にレポーター遺伝子を有するプラスミドを導入し、該細胞における該レポーター遺伝子の発現を調べることにより測定できる。 [0016] Aireタンパク質をコードする領域としては、Aireタンパク質のアミノ酸配列をコードしている領域である限り特に限定されない。Aireタンパク質としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、又はネコ由来のAireタンパク質が挙げられる。Aireタンパク質のより具体的な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質(ヒトAIREタンパク質)、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、Aireタンパク質活性を有するタンパク質が挙げられる。Aireタンパク質活性は公知の方法に従って測定することができる。例えば、Aireタンパク質によって転写制御されている遺伝子のプロモーター及びその下流にレポーター遺伝子を有するプラスミド(レポータープラスミド)を、Aireタンパク質活性を測定するタンパク質の発現プラスミド(エフェクタープラスミド)と共に細胞内に導入し、エフェクタープラスミドの導入によるレポーター遺伝子の発現量変化を測定することにより行うことができる。 [0017] プロモーター領域と、Aireタンパク質をコードする領域の位置関係は、DNAの5’末端側(上流)にプロモーター領域が位置し、3’末端側(下流)にAireタンパク質をコードする領域が位置するという位置関係であれば特に限定されない。 [0018] 外来性DNAは、プロモーター領域及びAireタンパク質をコードする領域以外に、他の領域を含んでいても良い。例えば、プロモーター領域の5’末端側に公知のエンハンサー領域を含んでいても良く、Aireタンパク質をコードする領域とプロモーター領域との間に、公知のタンパク質タグをコードする領域を、Aire タンパク質と融合タンパク質を形成するように含んでいても良く、またAireタンパク質をコードする領域の3’末端側に、転写されるAire mRNAの安定性を向上させる公知のアミノ酸配列を含んでいてもよい。 [0019] 外来性DNAが含まれるゲノム上の位置は、後述するように外来性DNAにコードされるAireタンパク質が発現できる限り特に限定されない。外来性DNAにはプロモーター領域が含まれていることから、外来性DNAが含まれるゲノム上の位置が任意の位置であっても、該プロモーター領域の3’末端側に位置するAireタンパク質をコードする領域から、Aireタンパク質が発現する。外来性DNAが含まれるゲノム上の位置として、例えば宿主がI型糖尿病モデルマウスの場合は、好ましくは第16番染色体上のClaudin 14遺伝子領域及びSim 2遺伝子領域の間が挙げられる。より具体的には、マウスのゲノムデータベース(UCSC Genome Browser: July 2007 (NCBI37/mm9) Assembly)に示される塩基配列中、第16番染色体 第94,010,000番目の塩基~第94,080,000番目の塩基の領域の間が挙げられ、好ましくは第94,030,000番目の塩基~第94,070,000番目の塩基の領域の間が挙げられ、より好ましくは第94,040,000番目の塩基~第94,060,000番目の塩基の領域の間が挙げられ、さらに好ましくは第94,045,000番目の塩基~第94,055,000番目の塩基の領域の間が挙げられ、よりさらに好ましくは第94,048,000番目の塩基~第94,053,000番目の塩基の領域の間が挙げられる。なお、外来性DNAは、ゲノムDNAの一部を欠失して挿入されていても良い。 [0020] 外来性DNAは対の染色体の片方にのみ含まれていても、対の染色体の両方に含まれていても良い。ここで、対の染色体とは、対の常染色体(例えばヒトの場合は22対)と1対の性染色体の両方を意味する。対の染色体の片方にのみ含まれているとは、例えば外来性DNAが含まれるマウスのゲノム上の位置が第16番染色体上である場合は、対の第16番染色体の内の片方に外来性DNAが含まれており、もう一方の第16番染色体、並びにその他の常染色体の両対及び性染色体の両対には外来性DNAが含まれていないことを示す。対の染色体の両方に含まれているとは、上記例の場合は、対の第16番染色体の両対に外来性DNAが含まれており、その他の常染色体の両対及び性染色体の両対には外来性DNAが含まれていないことを示す。外来性DNAが対の染色体の片方にのみ含まれている場合、本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、I型糖尿病を発症し易いモデル動物に由来しながらも、I型糖尿病の発症に対して抵抗性を獲得しているため、I型糖尿病の治療法や治療薬等を開発するためのツールとして非常に有用である。一方、外来性DNAが対の染色体の両方に含まれている場合、本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の症状を呈するため、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療法や治療薬を開発するためのツールとして非常に有用である。 [0021] ゲノム上に含まれる外来性DNAのコピー数は、後述するように外来性DNAにコードされるAireタンパク質の発現が起こる限り特に限定されない。ゲノム上に含まれる外来性DNAのコピー数としては、対の染色体の片方当たり例えば1~10が挙げられ、好ましくは2~5が挙げられる。各コピーは、それぞれゲノム上の複数個所に存在していても良いが、タンデムに連結して存在していることが好ましい。 [0022] 本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、外来性DNAにコードされるAireタンパク質を発現している。外来性DNAにコードされるAireタンパク質の発現の有無は、例えば外来性DNAにタンパク質タグが含まれている場合は、該タンパク質タグに対する抗体を用いて、公知のタンパク質検出方法に従って確認することができる。或いは、外来性DNAにコードされるAireタンパク質が、宿主に内在するAireタンパク質と異なるアミノ酸配列を有する場合は、そのアミノ酸配列を特異的に認識する抗体を用いて、公知のタンパク質検出方法に従って確認することができる。 [0023] 本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、I型糖尿病モデル非ヒト動物のゲノムDNAに外来性DNAを導入することによって得ることができる。 [0024] ゲノムDNAへの外来性DNAの導入は、公知の遺伝子改変動物作出方法に従って行うことができる。例えば、ゲノムDNAの任意の部位に外来性DNAを導入する場合は、I型糖尿病モデル非ヒト動物の受精卵等に、外来性DNAをマイクロインジェクション法やレトロウィルス法により導入し、得られた受精卵等を偽妊娠マウスに移植し、生まれた産仔から、公知の方法(PCR法等)に従って、外来性DNAが導入されたトランスジェニック非ヒト動物を選別することにより行うことができる。また、公知の遺伝子ノックイン方法に従って、ゲノムDNAの特定部位に外来性DNAを導入することもできる。具体的には、例えば次のように行われる。ゲノムDNAの特定部位の塩基配列と相同組換えを起こすことができるように、外来性DNAとして、両端に該特定部位の塩基配列からなる領域及び薬剤耐性遺伝子を発現する領域を有するDNAをES細胞に導入し、外来性DNAが導入されたES細胞を薬剤で選別する。選別されたES細胞を初期胚に注入しキメラ胚を得る。該胚から得られたキメラ動物をI型糖尿病モデル非ヒト動物と交配し、生まれた産仔から、外来性DNAがゲノムの特定部位に導入されたトランスジェニック非ヒト動物を選別する。 [0025] 外来性DNAが挿入されたゲノム上の位置は、公知の方法に従って特定することができる。例えば、adapter ligation-mediated PCR法(Genetics 174(2): 639-649 (2006))による特定方法や、次世代シークエンサーを用いた大規模シークエンスによる特定方法を採用することができる。次世代シークエンサーは、HiSeq, MiSeq(イルミナ社)、SOLiD(Applied Biosystems社)、及びGenome Sequencer FLXシステム(GS FLX+)(ロシュ・ダイアグノスティックス社)等、各種市販されているものを用いることができる。 [0026] 導入する外来性DNAは、公知のPCRによる遺伝子増幅技術や制限酵素を用いたサブクローニング技術、さらには核酸合成技術に従って得ることができる。 [0027] 上記方法によって得られたトランスジェニック非ヒト動物が、外来性DNAを対の染色体の片方にのみ含む場合は、該トランスジェニック非ヒト動物同士を交配し、生まれた産仔から、公知の方法(PCR法等)に従って、外来性DNAを対の染色体の両方に含むトランスジェニック非ヒト動物を選別することができる。 [0028] 外来性DNAを対の染色体の片方にのみ有するトランスジェニック非ヒト動物(以下、単に「ヘテロトランスジェニック非ヒト動物」と略記することもある)は、I型糖尿病を発症し易いモデル動物に由来しながらも、週齢を経ても糖尿病を発症せず、I型糖尿病の発症に対して抵抗性を発揮する。したがって、ヘテロトランスジェニック非ヒト動物は、I型糖尿病解析用非ヒト動物として有用である。 [0029] 一方、外来性DNAを対の染色体の両方に有するトランスジェニック非ヒト動物(以下、単に「ホモトランスジェニック非ヒト動物」と略記することもある)は、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を呈する。より詳細には、生後すぐには多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を呈さないが、週齢を経るにつれて、筋肉組織の炎症が認められるようになり、且つ自己のタンパク質に対する抗体(以下、単に「自己抗体」と略記することもある)が生体内に検出されるようになる。したがって、ホモトランスジェニック非ヒト動物は、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル非ヒト動物として有用である。 [0030] 2.受精卵 本発明は、トランスジェニック非ヒト動物由来の受精卵であって、ゲノム上に、プロモーター領域及び該プロモーター領域の3’末端側にAireタンパク質をコードする領域を有するDNA(以下、単に「外来性DNA」と略記することもある)を含む、受精卵に関する。 [0031] 受精卵としては、凍結保存状態から生体に発生させることができる限り特に限定されず、受精直後の卵、前核期胚、初期胚、又は胚盤胞等が挙げられる。 [0032] トランスジェニック非ヒト動物由来の受精卵とは、上記トランスジェニック非ヒト動物の精子(若しくは卵子)と同じく上記トランスジェニック非ヒト動物の卵子(若しくは精子)とが受精して得られた受精卵、又は上記トランスジェニック非ヒト動物の精子(若しくは卵子)とI型糖尿病モデル非ヒト動物の卵子(若しくは精子)とが受精して得られた受精卵であることを意味する。 [0033] 外来性DNAは、受精卵の対の染色体の片方にのみ含まれていてもよく、対の染色体の両方に含まれていても良い。 [0034] トランスジェニック非ヒト動物由来の受精卵は、必ずしもゲノム上に外来性DNAを含んでいない場合があるため、この場合は、該受精卵からゲノム上に外来性DNAを含む受精卵を選別する。選別には、公知の方法、例えばPCR法、サザンブロット法、又は大規模シークエンシング法等の方法を採用することができる。 [0035] 受精卵は、公知の方法に従って、例えば偽妊娠非ヒト動物に移植することによって、トランスジェニック非ヒト動物に発生させることができる。外来性DNAが対の染色体の片方にのみ含まれている場合は、受精卵は、上記I型糖尿病解析用非ヒト動物に発生する受精卵として有用である。また、外来性DNAが対の染色体の両方に含まれている場合は、受精卵は、上記多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル非ヒト動物に発生する受精卵として有用である。 [0036] 3.多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル非ヒト動物としての使用 本発明は、ホモトランスジェニック非ヒト動物の、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル動物としての使用に関する。 [0037] ホモトランスジェニック非ヒト動物は、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎モデル動物として、種々の態様で使用することができる。 [0038] 例えば、ホモトランスジェニック非ヒト動物に対して、被検物質を投与又は移植した後、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を評価することにより、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎に対する被検物質の有効性を判断することができる。また、ホモトランスジェニック非ヒト動物の筋炎を発症している部位に対して、別途作成した筋組織を移植し、筋炎が治癒したか否かを判定することにより、再生医療の有効性を評価することもできる。さらには、ホモトランスジェニック非ヒト動物をさらに遺伝子改変し、多発性筋炎及び/又は自己免疫性筋炎が治癒したか否かを判定することにより、遺伝子治療の有効性を評価する方法に利用することもできる。その他にも、ホモトランスジェニック非ヒト動物に、別途作成した免疫抑制活性を有する細胞を注入して、筋炎が治癒したか否かを判定することにより、細胞治療の有効性を評価する方法に利用することもできる。 [0039] 4.多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療薬のスクリーニング方法 本発明は、ホモトランスジェニック非ヒト動物を用いた、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療候補物質のスクリーニング方法に関する。 [0040] スクリーニング方法は、ホモトランスジェニック非ヒト動物を用いている限り特に限定されないが、例えば工程(a)~(c):(a)ホモトランスジェニック非ヒト動物に被検物質を投与する工程、(b)被検物質が投与されたホモトランスジェニック非ヒト動物の、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状を評価する工程、及び(c)多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状が治癒又は緩和していた場合に、投与した被検物質を多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の治療薬として選別する工程により行われる。 [0041] 被検物質の種類は治療薬の候補になり得る限り特に限定されない。例えば、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物(ヌクレオチド、アミン、糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。 [0042] 投与は、公知の方法に従って行うことができる。例えば注射剤に調製して皮下、皮内、又は筋炎を発症している部位に注射するという投与方法を採用できる。 [0043] 多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状の評価は、公知の方法に従って行うことができる。例えば筋肉組織の切片を作成して、ヘマトキシリン・エオジンで染色後、切片を顕微鏡下で観察し、公知の判断手法に従って筋肉組織に浸潤している炎症細胞(通常、紫色で染色される)の量を測定することによって行うことができる。この例においては、筋肉組織に浸潤している炎症細胞の量が、被検物質の投与により減少していた場合は、多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状が治癒又は緩和していたと判断することができる。また、別の例としては、週齢を経るに従いホモトランスジェニック非ヒト動物の体内に出現する自己抗体の量を測定することにより行うことができる。自己抗体の量は、例えば、被検物質が投与されたホモトランスジェニック非ヒト動物の血清を一次抗体として、トランスジェニック非ヒト動物又は非ヒト動物から得られた抽出物に対してウェスタンブロットを行うことにより測定することができる。この例においては、被検物質が投与されたホモトランスジェニック非ヒト動物の血清を用いた場合に検出されるバンドが、被検物質を投与しないホモトランスジェニック非ヒト動物の血清を用いた場合に検出されるバンドよりも薄ければ、被検物質の投与により自己抗体の量が減少した、すなわち多発性筋炎及び/又は自己免疫性心筋炎の症状が治癒又は緩和したと判断することができる。 [0044] 選別された被検物質を治療候補物質として、さらなる解析を進めることにより、有用な治療薬を選別することができる。 実施例 [0045] 以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。 [0046] 実施例1:AIREタンパク質をコードするDNA(外来性DNA)を対の染色体の片方にのみ有するトランスジェニックマウス(以下、単に「ヘテロトランスジェニックマウス」と示すこともある)の作製 外来性DNA由来のAIREタンパク質を発現するヘテロトランスジェニックマウスを作製した。具体的には次のように行った。 [0047] [AIREタンパク質をコードするDNAの作製] 5’末端側にEcoRIサイトを付加したプライマーを用いたPCRにより、ヒト由来ゲノムDNAからヒトAIRE ORF(配列番号2)を増幅した。この増幅断片と、マウス主要組織適合複合体(MHC)クラス2遺伝子Eαプロモーター(配列番号3)を有するプラスミド(pDOI-5[J.Immunol.Methods 166(2): 287-291 (1993)])をEcoRIで消化して、消化断片をライゲーションすることにより、Eαプロモーターの下流にヒトAIRE ORFが配置されたプラスミド(pDOI-5 AIRE)を作成した(図1)。pDOI-5 AIREをXbaI及びNruIにより制限酵素処理した後、処理溶液をアガロースゲル電気泳動した。泳動後のゲルから、Eαプロモーター及びヒトAIRE ORFを有するDNA断片(約5.5 kb)を切り出し、エタノール沈澱により精製した(図2)。精製されたDNAを、「AIREタンパク質をコードするDNA」として以下の実験に用いた。 [0048] [AIREタンパク質をコードするDNAの導入、及びマウスのライン化] I型糖尿病を自然発症するNOD(non-obese diabetic)マウス(NOD (non-obese diabetic)/Shi(日本クレア))から得られた受精卵に、AIREタンパク質をコードするDNAをマイクロインジェクション法により注入した(DNA約5 fg/受精卵1個)。該受精卵から産仔を得た。産仔の尾から抽出したゲノムDNAを鋳型としてヒトAIRE ORF特異的プライマー(5’-CACTCCCAGCAAGTTCGAAGAC-3’(配列番号4)および5’- CTCCTGGACTGTTGCCTGCAG-3’(配列番号5))を用いてPCR反応を行い、AIREタンパク質をコードするDNAが対の染色体の片方に導入されたトランスジェニックマウスの存在を確認した。該トランスジェニックマウスとNODマウスとの自然交配によって、ライン化されたトランスジェニックマウスを得た。このトランスジェニックマウスを、「ヘテロトランスジェニックマウス」として以下の実験に用いた。 [0049] [外来性DNAが含まれる位置の決定] AIREタンパク質をコードするDNA(外来性DNA)が挿入された、ヘテロトランスジェニックマウスのゲノム上の位置を、adapter ligation-mediated PCR法により決定した。具体的には次のように行った。まず、ヘテロトランスジェニックマウスから抽出したゲノムDNAを、5’突出末端(5’-GATC)を生じる制限酵素(BglII、BclI、及びBamHI)、並びに5’突出末端(5’-CTAG)を生じる制限酵素(SpeI, NheI, AvrII, XbaI)で消化した。消化断片に、下記表1に示されるアダプター1及びアダプター2をライゲーションさせた。 [0050] [表1] [0051] 下記表2に示す、AIREタンパク質をコードするDNAに特異的なプライマーと、アダプター1及び2に特異的なプライマーを用いて、nested PCRを行った。 [0052] [表2] [0053] 得られたPCR産物をクローニングして、該PCR産物のDNA配列を決定した。該DNA配列に基づき、AIREタンパク質をコードするDNA(外来性DNA)が挿入された位置を決定した。 [0054] その結果、AIREタンパク質をコードするDNAは、マウス16番染色体上のClaudin14遺伝子とSim2遺伝子の間の180bp(配列番号16:マウスのゲノムデータベース(UCSC Genome Browser: July 2007 (NCBI37/mm9) Assembly)に示される塩基配列中、第16番染色体 94,050,439番目から94,050,618番目の塩基)を欠失させる形で、head-to-tailに挿入されていた(図3)。また、この挿入位置以外に、AIREタンパク質をコードするDNAが挿入されていないことを、ヘテロトランスジェニックマウスのゲノムDNAを、次世代シークエンサー(HiSeq 2000(Illumina社))を用いて大規模シークエンシングすることにより確認した。 [0055] [外来性DNA由来のAIREタンパク質の発現の確認] ヘテロトランスジェニックマウス及びNODマウスの、胸腺及び脾臓の凍結標本を作製した。胸腺の凍結標本を載せたスライドグラス上で、胸腺髄質上皮細胞の特異的抗体(MTS10モノクローナル抗体(BD PharMingen, #558746))及びヒトAIREタンパク質を特異的に認識するポリクローナル抗体(ヒトAIREタンパク質特異的な19種類のペプチドをウサギに免疫し、免疫後のウサギから得られた血清を、該ペプチドを担持したカラムで精製することにより得られたポリクローナル抗体)を室温で1時間反応させた。これとは別に、脾臓の凍結標本を載せたスライドグラス上で、B細胞濾胞領域の特異的抗体(ビオチン化抗B220モノクローナル抗体: eBioscience (Clone RA3-6B2), #13-0452-82)及びヒトAIREタンパク質を特異的に認識するウサギ抗血清を室温で1時間反応させた。なお、これらの1次抗体はそれぞれPBSで100倍希釈して用いた。反応後のスライドグラスをPBSで洗浄後、胸腺の凍結標本を載せたスライドグラスについては、Alexa Fluor 594標識抗ラットIgG (ヤギ)、及びAlexa Fluor 488標識抗ウサギIgG (ロバ)を室温で1時間反応させ、脾臓の凍結標本を載せたスライドグラスについては、ストレプトアヴィディン, Alexa Fluor 594標識、及びAlexa Fluor 488標識抗ウサギIgG (ロバ)を室温で1時間反応させた。なお、これらの2次抗体はそれぞれPBSで500倍希釈して用いた。反応後、蛍光顕微鏡(正立落射型蛍光顕微鏡 OLYMPUS製品 BX51)下でシグナルを確認した。 [0056] 胸腺の染色結果を図4に示し、脾臓の染色結果を図5に示す。図中、「Tg」はヘテロトランスジェニックマウスの胸腺又は脾臓の染色像を示し、「non-Tg」はNODマウスの胸腺又は脾臓の染色像を示す。また、図中、「MTS10」は胸腺髄質上皮細胞特異的抗体を一次抗体として用いた場合の染色像を示し、「B220」はB細胞濾胞領域特異的抗体を一次抗体として用いた場合の染色像を示し、「Human AIRE」はヒトAIREタンパク質を認識する血清を一次抗体として用いた場合の染色像を示す。図4より、胸腺の髄質領域にヒトAIREタンパク質が発現していることが確認された。図5より、脾臓のB細胞濾胞領域にヒトAIREタンパク質が発現していることが確認された。 [0057] 実施例2:AIREタンパク質をコードするDNA(外来性DNA)を対の染色体の両方に有するトランスジェニックマウス(以下、「ホモトランスジェニックマウス」と示すこともある)の作製 ヘテロトランスジェニックマウス同士を自然交配させた。ヒトAIRE ORF特異的プライマー(配列番号4及び配列番号5)と、外来性DNA挿入領域の外側に位置するプライマー(5’- GGGTATATGCACATAAAGATACAAAAGTC-3’(配列番号17)及び5’- CCTGCCAGCTGCCCTACCTAGAC-3’ (配列番号18))とを用いたPCR法により、外来性DNAを16番染色体の両方に有するマウス(Tg/Tg)を同定した(図6:図中、AIRE-F及びAIRE-RはヒトAIRE ORF特異的プライマーを示し、ch16-F及びch16-Rは外来性DNA挿入領域の外側に位置するプライマーを示す)。同定されたマウスを、「ホモトランスジェニックマウス」として以下の実験で用いた。 [0058] 実施例3:トランスジェニックマウスの糖尿病抵抗性 17週齢から40週齢のヘテロトランスジェニックマウス(7匹)又はNODマウス(9匹)の尾から少量の採血を行い、該血液の血糖値を比色法により測定した。採血及び血糖値の測定は毎週1回、随時行い、250 mg/dl以上の血糖値を2週以上連続で示した個体を、糖尿病を発症したと判定した。 [0059] 結果を図7に示す。図中、縦軸は、横軸の各週齢までに、糖尿病を発症したと判定されたマウスの割合を示す。また、図中、「2m9L」はヘテロトランスジェニックマウスを表し、「non-Tg」はNODマウスを表す。図7に示されるように、NODマウスは週齢を重ねるに連れ、糖尿病を発症し、40週齢の時点で約56%のマウス(5匹/9匹)が糖尿病を発症したと判定された。一方、ヘテロトランスジェニックマウスは、週齢を重ねても、一匹も糖尿病を発症しなかった。 [0060] 実施例4:トランスジェニックマウスにおける多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の発症 ヘテロトランスジェニックマウス及びホモトランスジェニックマウスについて、多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の発症の有無を評価した。具体的には次のように行った。 [0061] [体重の測定] 多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎を発症したマウスは、運動量及び摂食量が減少することにより体重が減少し、最終的に死亡することが知られている。そこで、多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の発症を評価するために、NODマウス(雄6匹、雌8匹)、ヘテロトランスジェニックマウス(雄15匹、雌19匹)、及びホモトランスジェニックマウス(雄9匹、召す13匹)の体重を、週齢毎に測定し、さらに各週齢における生存率を測定した。 [0062] 結果を図8に示す。左側の図は各週齢における体重を示し、右側の図は各週齢における生存率を示す。図中、「(M)」は雄マウス群を示し、「(F)」は雌マウス群を示し、「WT」はNODマウス群を示し、「Tg」はヘテロトランスジェニックマウス群を示し、「Tg/Tg」はホモトランスジェニックマウス群を示す。図8に示されるように、ホモトランスジェニックマウス群は、雌雄を問わず、9週齢頃から体重減少が認められ(図8の左側)、11週齢頃より死亡する個体が出現し、16週齢以降の生存個体は存在しなかった。(図8の右側)。このような成長障害や個体死亡は、ヘテロトランスジェニックマウス及びNODマウスでは観察されなかった。 [0063] [筋肉組織における炎症の観察] ヘテロトランスジェニックマウス及びホモトランスジェニックマウスから、骨格筋及び心臓を摘出した。摘出された組織を10%ホルマリン液に浸した後、パラフィンで包埋した。該パラフィンからミクロトームにより薄片を切り出すことにより、組織切片を得た。得られた組織切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で観察した。 [0064] 結果を図9に示す。図中、「+/Tg」はヘテロトランスジェニックマウスから得られた組織切片の染色像を示し、「Tg/Tg」はホモトランスジェニックマウスから得られた組織切片の染色像を示す。図9に示されるように、ホモトランスジェニックマウスは、心筋及び骨格筋に顕著な炎症細胞浸潤が認められた。一方、このような病変はヘテロトランスジェニックマウスには認められなかった。 [0065] [免疫染色法による自己抗体の検出] NODマウス(雌、13週齢)の心臓及び骨格筋の凍結標本を作製した。心臓又は骨格筋の凍結標本を乗せたスライドグラス上で、NODマウス(雌、11週齢)の血清、ヘテロトランスジェニックマウス(雌、11週齢)の血清、又はホモトランスジェニックマウス(雌、11週齢)の血清を、室温で1時間反応させた。なお、これらの血清は1%BSA/PBS(1%濃度のBSAを含むPBS)で200倍希釈して用いた。反応後のスライドグラスを1%BSA/PBSで洗浄後、1%BSA/PBS で2000倍希釈したAlexa488標識抗マウスIgG(ヤギ)を、室温で1時間反応させた。反応後、蛍光顕微鏡下でシグナルを確認した。 [0066] 結果を図10に示す。図中、「WT(+/+)」はNODマウスの血清を用いた場合を示し、「#227(Tg/+)」はヘテロトランスジェニックマウスの血清を用いた場合を示し、「#226(Tg/Tg)」及び「#231(Tg/Tg)」はそれぞれ別個体のホモトランスジェニックマウスの血清を用いた場合を示す。図10に示されるように、ホモトランスジェニックマウスの血清を用いた場合には組織の染色が認められることから、ホモトランスジェニックマウスの血清には自己抗体が存在していることが示唆された。一方、NODマウスの血清又はヘテロトランスジェニックマウスの血清には自己抗体の存在は認められなかった。 [0067] [ウェスタンブロット法による自己抗体の検出] マウスの各臓器(骨格筋(muscle)、心臓(heart)、腎臓(kidney)、肝臓(liver)、精巣(testis)、卵巣(ovary)、胸腺(thymus)、脾臓(spleen)、脳(brain)、胃(stomach)、腸(intestine)、肺(lung))からタンパク質抽出物を調製し、該抽出物をSDS-PAGEにより展開後、PVDF膜に転写した。転写された膜に、ヘテロトランスジェニックマウス(雌、11週齢)の血清、又はホモトランスジェニックマウス(雌、11週齢)の血清を、室温で1時間反応させた。なお、これらの血清は、PBST(0.05%濃度のTween20を含むPBS)で5000倍希釈して用いた。血清と反応後の膜をPBSTで洗浄後、PBSTで20000倍希釈した抗マウスIgG HRP標識血清 (ヒツジ)を室温で1時間反応させた。二次抗体と反応後の膜をPBSTで洗浄後、ECL(enhanced chemiluminescent substrate)基質を加えて反応させた。ECL反応後の膜からのシグナルを、蛍光イメージャー(ImageQuant LAS 4000)で検出した。 [0068] 結果を図11に示す。図11中、「Tg/Tg」はホモトランスジェニックマウスの血清を用いた場合を示し、「+/Tg」はヘテロトランスジェニックマウスの血清を用いた場合を示す。図11に示されるように、ホモトランスジェニックマウスの血清を用いたウェスタンブロットにより、各組織(特に骨格筋及び心臓)のタンパク質が検出されたことから、ホモトランスジェニックマウスの血清には自己抗体が存在していることが示唆された。また、特に強いシグナルのバンドの分子量から、ミオシンに対する自己抗体の存在が示唆された。一方、ヘテロトランスジェニックマウスの血清には自己抗体の存在は認められなかった。 [0069] さらに、血清中の自己抗体が経時的に出現するかどうかについて検討した。具体的には、SDS-PAGEにより展開するタンパク質として、NODマウスの心臓のタンパク質抽出物、NODマウスのヒラメ筋のタンパク質抽出物、及びこれらの抽出物から粗精製されたミオシンを用い、血清として、ヘテロトランスジェニックマウス(5週齢)の血清、ホモトランスジェニックマウス(5週齢又は12週齢)の血清を用いて、上記と同様にウェスタンブロットを行った。なお、ミオシンとしては、筋肉組織をホモジェナイズした後、My1 buffer (30 mM KCl, 10 mM phosphate, pH 6.8, protease inhibitors)で溶解・洗浄し、沈降した蛋白質をMy2 buffer (300 mM KCl, 150 mM phosphate, pH 6.8, 5 mM ATP, 10 mM MgCl 2, 0.1 mM DTT, protease inhibitors)に溶解して得られたものを用いた。 [0070] 結果を図12に示す。図中、「#262(Tg/+)」及び「#263(Tg/+)」はそれぞれ別個体のへテロトランスジェニックマウス(5週齢)の血清を用いた場合を示し、「#260(Tg/Tg)」及び「#261(Tg/Tg)」はそれぞれ別個体のホモトランスジェニックマウス(5週齢)の血清を用いた場合を示し、「#231(Tg/Tg)」はホモトランスジェニックマウス(12週齢)の血清を用いた場合を示す。図12に示されるように、体重減少が認められない5週齢(図8)の時点では自己抗体は検出されなかった。また、この時期には病理組織学的検索でも、心筋および骨格筋に病変を認めなかった(データ省略)。これに対して、12週齢のホモトランスジェニックマウスの血清中には心筋および骨格筋に対する自己抗体が検出され、両組織から粗精製したミオシンとの強い反応性を認めた。このように、ホモ個体の血清中に存在する自己抗体や病理組織学的所見は加齢に従って、経時的に出現することが判明した。 [0071] 実施例5:ホモトランスジェニックマウスに対するステロイド投与の有効性の評価 多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の治療にはステロイドが有効であることが知られている。そこで、ホモトランスジェニックマウスの多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の治療にも、ステロイドが有効であるかどうか調べた。具体的には次のように行った。 [0072] [生存率の測定] ホモトランスジェニックマウス7匹を準備した。生後8週経過時から、4匹には飲料水としてプレドニゾロンが30μg/mLの濃度になるように溶解した飲料水を与え(プレドニゾロン5 mg/kg/day換算)、3匹にはエタノールが0.2 % (vol/vol)の濃度になるように溶解した飲料水を与えた。その後、生後20週まで観察を続け、各週齢における生存率を測定した。 [0073] 結果を図13に示す。図中、「Tg/Tg: PSL」はプレドニゾロン投与群を示し、「Tg/Tg: EtOH」はプレドニゾロン非投与群を示す。図13に示されるように、プレドニゾロン非投与群では、11週齢から死亡する個体が出現し、14週齢以降の生存個体は存在しなかった。一方、プレドニゾロン投与群は、生後20週齢を超えても全個体が生存していた。このことより、ホモトランスジェニックマウスの多発性筋炎及び自己免疫性心筋炎の治療にも、ステロイドが有効であることが示された。 |
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