DRUG FOR TREATING/PREVENTING ALLERGIC RESPIRATORY TRACT INFLAMMATION
外国特許コード | F150008269 |
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掲載日 | 2015年3月31日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2014JP067980 |
国際公開番号 | WO 2015005248 |
国際出願日 | 平成26年7月4日(2014.7.4) |
国際公開日 | 平成27年1月15日(2015.1.15) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | DRUG FOR TREATING/PREVENTING ALLERGIC RESPIRATORY TRACT INFLAMMATION |
発明の概要(英語) | The purpose of the present invention is to provide a new means for treating or preventing allergic respiratory tract inflammation. The drug of the present invention is a drug for treating or preventing allergic respiratory tract inflammation characterized in containing an antifungal agent as an active ingredient and in being administered to a subject experiencing or at risk for experiencing abnormal growth of a fungus; or is a drug for treating or preventing allergic respiratory tract inflammation characterized in containing a prostaglandin inhibitor as an active ingredient and in being administered to a subject experiencing or at risk for experiencing excessive production of prostaglandin E2 from abnormally growing fungus. |
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国際特許分類(IPC) |
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指定国 |
National States: AE AG AL AM AO AT AU AZ BA BB BG BH BN BR BW BY BZ CA CH CL CN CO CR CU CZ DE DK DM DO DZ EC EE EG ES FI GB GD GE GH GM GT HN HR HU ID IL IN IR IS JP KE KG KN KP KR KZ LA LC LK LR LS LT LU LY MA MD ME MG MK MN MW MX MY MZ NA NG NI NO NZ OM PA PE PG PH PL PT QA RO RS RU RW SA SC SD SE SG SK SL SM ST SV SY TH TJ TM TN TR TT TZ UA UG US UZ VC VN ZA ZM ZW ARIPO: BW GH GM KE LR LS MW MZ NA RW SD SL SZ TZ UG ZM ZW EAPO: AM AZ BY KG KZ RU TJ TM EPO: AL AT BE BG CH CY CZ DE DK EE ES FI FR GB GR HR HU IE IS IT LT LU LV MC MK MT NL NO PL PT RO RS SE SI SK SM TR OAPI: BF BJ CF CG CI CM GA GN GQ GW KM ML MR NE SN TD TG |
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発明の名称 | アレルギー性気道炎症の治療・予防薬 |
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発明の概要 | 本発明は、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための新たな手段を提供することを課題とする。本発明に係る医薬品は、抗真菌剤を有効成分として含有し、真菌の異常増殖が起きているもしくは起きるおそれがある対象に投与されることを特徴とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための医薬品、あるいは、プロスタグランジン抑制剤を有効成分とし、異常増殖した真菌からプロスタグランジンE2が過剰に産生されているまたは産生されるおそれがある対象に投与されることを特徴とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための医薬品である。 |
特許請求の範囲 |
[請求項1] 抗真菌剤を有効成分として含有し、真菌の異常増殖が起きているもしくは起きるおそれがある対象に投与されることを特徴とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための医薬品。 [請求項2] プロスタグランジン抑制剤を有効成分とし、異常増殖した真菌からプロスタグランジンE2が過剰に産生されているまたは産生されるおそれがある対象に投与されることを特徴とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための医薬品。 [請求項3] 前記プロスタグランジン抑制剤がシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)阻害剤またはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤である、請求項2に記載の医薬品。 [請求項4] 前記真菌が腸内の真菌である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬品。 |
明細書 |
明 細 書 発明の名称 : アレルギー性気道炎症の治療・予防薬 技術分野 [0001] 本発明は、真菌の異常増殖(腸内毒素症など)およびアレルギー性気道炎症に関する。 背景技術 [0002] 哺乳類の腸内には、細菌、ウイルスおよび真菌を含む多数の微生物が棲み着いている。ヒトでは、1000種より多くの、100兆を超える細菌が密集して、それぞれ独立した集団で生息している。このような微生物叢は栄養の摂取、腸の免疫システムの発達および維持、外来性の病原体に対する防御などに貢献している(非特許文献1)。けれども、宿主の遺伝的特徴、生活習慣、微生物への曝露、医学的処置などによって、腸内微生物叢のインバランス、すなわち腸内毒素症〔dysbiosis〕が引き起こされる。たとえば、抗生物質を用いる処置は腸内微生物叢の数および組成に重大な変化をもたらし(非特許文献2)、健全な微生物叢を破壊して真菌の異常増殖を許すことが知られている(非特許文献3,4)。腸管でのカンジダの異常増殖は、抗生物質処理と同様、糖または炭水化物の過剰な日常的摂取によっても引き起こされる(非特許文献5)。このような腸内毒素症は、腸炎に関係している(非特許文献6,7)のみならず、腸外の多くの疾患、たとえばアトピー性皮膚炎、肥満症、糖尿病などに関係している(非特許献8-11)。また、最近の研究では、腸内真菌が炎症性疾患に影響しているかもしれないことが示唆されている(非特許文献12,13)。共生する細菌に由来するシグナルが免疫細胞を全身的に刺激しており、抗生物質で処理することにより抗ウイルス性が低下することも報告されている(非特許文献14)。しかしながら、腸内微生物叢が宿主の腸外の免疫性をどのように制御しているかはほとんど知られていない。 [0003] いくつかの文献には、多くの真菌がプロスタグランジン類を新たに〔de novo〕または外部のアラキドン酸の変換を介して分泌していることが記載されている(非特許文献15,16)。また、プロスタグランジンE2(PGE2)などのプロスタグランジン類は、マクロファージのM2への分化を歪めまたは増強し(非特許文献17,18)、アレルギー性の炎症を拡大させる(非特許文献19)可能性があることが断片的に示唆されている。M2マクロファージがアレルギー性気道炎症を強めるという報告もある(非特許文献20,21)。しかしながら、腸内真菌の異常増殖により産生されるプロスタグランジン類がマクロファージに作用してアレルギー性気道炎症を悪化させるという個体レベルでの一連の作用機序は、これまでに仮説の提唱も立証もされておらず、また腸内真菌やプロスタグランジン類を制御することによってアレルギー性気道炎症を改善させたとする具体的な報告もない。 先行技術文献 非特許文献 [0004] 非特許文献1 : D. A. Hill, D. Artis. Intestinal bacteria and the regulation of immune cell homeostasis. Annu Rev Immunol 28, 623-667 (2010). 非特許文献2 : J. L. Round, S. K. Mazmanian. The gut microbiota shapes intestinal immune responses during health and disease. Nat Rev Immunol 9, 313-323 (2009). 非特許文献3 : G. Samonis, E. J. Anaissie, G. P. Bodey. Effects of broad-spectrum antimicrobial agents on yeast colonization of the gastrointestinal tracts of mice. Antimicrob Agents Chemother 34, 2420-2422 (1990). 非特許文献4 : M. Giuliano, M. Barza, N. V. Jacobus, S. L. Gorbach. Effect of broadspectrum parenteral antibiotics on composition of intestinal microflora of humans. Antimicrob Agents Chemother 31, 202-206 (1987). 非特許文献5 : S. L. Vargas, C. C. Patrick, G. D. Ayers, W. T. Hughes. Modulating effect of dietary carbohydrate supplementation on Candida albicans colonization and invasion in a neutropenic mouse model. Infect Immun 61, 619-626 (1993). 非特許文献6 : E. Elinav. et al. NLRP6 inflammasome regulates colonic microbial ecology and risk for colitis. Cell 145, 745-757 (2011). 非特許文献7 : S. K. Mazmanian, J. L. Round, D. L. Kasper. A microbial symbiosis factor prevents intestinal inflammatory disease. Nature 453, 620-625 (2008). 非特許文献8 : M. Arumugam et al. Enterotypes of the human gut microbiome. Nature 473, 174-180 (2011). 非特許文献9 : J. Henao-Mejia et al. Inflammasome-mediated dysbiosis regulates progression of NAFLD and obesity. Nature 482, 179-185 (2012). 非特許文献10 : M. Vijay-Kumar et al. Metabolic syndrome and altered gut microbiota in mice lacking Toll-like receptor 5. Science 328, 228-231 (2010). 非特許文献11 : J. Penders et al. Gut microbiota composition and development of atopic manifestations in infancy: the KOALA Birth Cohort Study. Gut 56, 661-667 (2007). 非特許文献12 : I. D. Iliev et al. Interactions between commensal fungi and the C-type lectin receptor Dectin-1 influence colitis. Science 336, 1314-1317 (2012). 非特許文献13 : S. J. Ott et al. Fungi and inflammatory bowel diseases: Alterations of composition and diversity. Scand J Gastroenterol 43, 831-841 (2008). 非特許文献14 : M. C. Abt et al. Commensal bacteria calibrate the activation threshold of innate antiviral immunity. Immunity 37, 158-170 (2012). 非特許文献15 : M. C. Noverr, S. M. Phare, G. B. Toews, M. J. Coffey, G. B. Huffnagle. Pathogenic yeasts Cryptococcus neoformans and Candida albicans produce immunomodulatory prostaglandins. Infect Immun 69, 2957-2963 (2001). 非特許文献16 : M. C. Noverr, G. B. Toews, G. B. Huffnagle. Production of prostaglandins and leukotrienes by pathogenic fungi. Infect Immun 70, 400-402 (2002). 非特許文献17 : H. Oshima et al. Prostaglandin E(2) signaling and bacterial infection recruit tumor-promoting macrophages to mouse gastric tumors. Gastroenterology 140, 596-607 (2011). 非特許文献18 : M. Heusinkveld et al. M2 macrophages induced by prostaglandin E2 and IL-6 from cervical carcinoma are switched to activated M1 macrophages by CD4+ Th1 cells. J Immunol 187, 1157-1165 (2011). 非特許文献19 : R. J. Church, L. A. Jania, B. H. Koller. Prostaglandin E(2) produced by the lung augments the effector phase of allergic inflammation. J Immunol 188, 4093-4102 (2012). 非特許文献20 : A. Q. Ford et al. Adoptive transfer of IL-4Rα+ macrophages is sufficient to enhance eosinophilic inflammation in a mouse model of allergic lung inflammation. BMC Immunol 13, 6 (2012). 非特許文献21 : A. P. Moreira et al. Serum amyloid P attenuates M2 macrophage activation and protects against fungal spore-induced allergic airway disease. J Allergy Clin Immunol 126, 712-721 (2010). 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0005] 本発明は、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための新たな手段を提供することを課題とする。 課題を解決するための手段 [0006] 発明者らは、抗生物質を用いた処置により、腸内毒素症のような真菌の異常増殖によってアレルギー性気道炎症が悪化すること、そのような状況は抗真菌剤を用いた処置により抑制することができることを立証した。さらに、上記のような真菌の異常増殖は、血清中のプロスタグランジンE2(PGE2)を増加させ、マクロファージをM2マクロファージに分化させることにより、上記のようにアレルギー性気道炎症を悪化させていること、そのような状況は真菌に対するプロスタグランジンの産生阻害剤を用いた処置により抑制することができることを立証し、本発明を完成させるに至った。 [0007] すなわち、本発明は、それぞれ異なる物質を有効成分とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための2種類の医薬品を提供する。このような本発明の医薬品に係る発明は、下記の実施形態を包含する。 [1] 抗真菌剤を有効成分として含有し、真菌の異常増殖が起きているもしくは起きるおそれがある対象に投与されることを特徴とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための医薬品。 [2] プロスタグランジン抑制剤を有効成分とし、異常増殖した細菌からプロスタグランジンE2が過剰に産生されているまたは産生されるおそれがある対象に投与されることを特徴とする、アレルギー性気道炎症の治療または予防のための医薬品。 [3] 前記プロスタグランジン抑制剤がシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)阻害剤またはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤である、[2]に記載の医薬品。 [4] 前記真菌が腸内の真菌である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の医薬品。 [0008] なお、当業者であれば、本発明は他の側面において、上記の医薬品に係る発明の変換により、真菌の異常増殖を抑制するステップを含む、または異常増殖した真菌によるプロスタグランジンの産生を抑制するステップを含む、アレルギー性気道炎症を治療または予防する方法や、抗真菌剤またはプロスタグランジン抑制剤のアレルギー性気道炎症を治療または予防する医薬品の有効成分としての利用方法などを提供することを理解する。 発明の効果 [0009] 本発明により、腸内真菌、特にカンジダの異常増殖により引き起こされるアレルギー性気道炎症の悪化を治療または予防することができるようになる。従来のアレルギー性気道炎症に対する医薬品としては、気管支拡張剤や副腎皮質ホルモン剤などが知られているが、これらの医薬品では十分な効果が得られない(抵抗性の)アレルギー性気道炎症に対して、それが腸内真菌の異常増殖によってもたらされているものであれば、本発明の医薬品による治療効果を期待することができる。このように、本発明は、アレルギー性気道炎症の治療または予防にとって、従来とは異なる作用機序に基づく新たな手段を提供するものとして貢献する。 図面の簡単な説明 [0010] [図1] 実験例1の結果に関する顕微鏡写真およびグラフ。抗生物質処理はアレルギー性気道炎症を悪化させる(A-D)。抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)処理した(+)または無処理の(-)マウスの鼻腔内に、パパインで3日毎に合計5回(A-D)チャレンジした。最終のチャレンジから1日後、BAL細胞の形態(ライト染色、オリジナル倍率×1000)(A)、BAL中の全細胞および分化した細胞の数(B)、肺の組織像(HEまたはPAS染色)(スケールバー:100μm)(C)、およびBAL液中のサイトカイン濃度(D)について分析した。A(n=7または8)、C(n=4~6)、各群における代表的な結果を示している。エラーバーは標準偏差〔SD〕を示す(D)(n=7)。結果は3回の独立した実験の代表的なものである(B,D)。*p<0.05;**p<0.01。N.S.は有意差なしを表す。 [図2] 実験例2の結果に関するグラフ。抗生物質処理はM2マクロファージの分極化を引き起こす。(A)マウスに、無処理(-)または抗生物質処理した(+)マウスから精製した肺胞マクロファージ(AMφ)を養子移入し、図1で述べたように、BAL細胞の分析のためにパパインでチャレンジした。(B)無処理(-)または抗生物質で処理した(+)マウスから精製したAMφを、リアルタイムRT-PCRにかけた(n=5)。(C)マウスは、無処理のままか(-)、抗生物質で処理し(+)、3日毎、合計5回のチャレンジのために、PBS(-)またはSAPを鼻腔内に投与した。最終のSAP処理から1日後、マウスは肺胞マクロファージのM2マクロファージマーカーの発現について、リアルタイムRT-PCRにより分析した。(D)マウスは、無処理のままか(-)、抗生物質で処理し(+)、3日毎、合計5回、パパインでチャレンジした。マウスには、PBS(-)またはSAP(+)を、3日毎、合計5回のチャレンジのための各パパイン吸入の1日前に鼻腔内に投与した。最終のパパインチャレンジから1日後、図1で述べたように、マウスのBAL細胞数について分析した。(E)マウスに骨髄由来の培養マクロファージ(M0)、M1マクロファージ、またはM2マクロファージを養子移入し、次いで、図1で述べたように、鼻腔内にパパインでチャレンジ,BAL細胞の分析を行った。結果は3回の独立した実験の代表的なものである。*p<0.05;**p<0.01。***p<0.001。N.S.は有意差なしを表す。エラーバーは標準偏差〔SD〕を示す。 [図3] 実験例3の結果に関する顕微鏡写真およびグラフ。抗生物質処理は腸における真菌の異常増殖を引き起こし、M2マクロファージの分極化を引き起こす。(A-C)マウスは2週間、無処理のままか、経口で抗生物質処理をし(CLM:クリンダマイシン;CPZ:セフォペラゾン;ABPC:アンピシリン;MNZ:メトロニダゾール;STM:ストレプトマイシン)、糞中の真菌のコロニーを分析した(A)。次いでマウスをパパインでチャレンジし、図1(B)で述べたように、BAL細胞について分析した。真菌のコロニー形成とBALの全細胞数の相関を分析した(C)。(D,E)2週間、無処理のままか(-)、抗生物質処理をした(クリンダマイシン+セフォペラゾン)(+)マウスの盲腸切片を、PAS(D)またはDAB(E)で染色した。矢印は固有層中のカンジダを指す。スケールバー:10μm。(F-H)マウスは2週間、無処理のままか、経口で抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)または抗生物質+5-FCで処理し、糞中の真菌のコロニーを分析した(F)。AMφを、リアルタイムRT-PCRにかけた(n=5)(G)。次いでマウスの鼻腔内をパパインでチャレンジし、図1(H)で述べたように、BAL細胞の数を分析した(H)。結果は3回の独立した実験の代表的なものである。*p<0.05;**p<0.01。N.S.は有意差なしを表す。 [図4] 実験例4の結果に関するグラフ。腸内真菌の過剰増殖に伴うプロスタグランジンE2の増加はM2マクロファージを分極化させ、アレルギー性気道炎症が誘発する細胞の浸潤を増加させる。(A)無処理(-)または抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)処理した(+)マウスから精製した末梢血単球をリアルタイムRT-PCRにかけた(n=5)。(B)500 μMのアラキドン酸(AA)の存在下または非存在下で、48時間、マウスの糞から単離したCandida parapsilosis(Cp)を培養したか、培養しないで、培養上清中のプロスタグランジンE2(PGE2)代謝物(PGEM)の分析を行った。(C)マウスは2週間、無処理のままか、または経口で抗生物質(Abx)、抗生物質+5-FCで処理し、血清PGEMレベルを分析した。(D)無処理のままか(-)、抗生物質で処理したマウスの鼻腔内を、パパインあるいはPBSで3日毎、合計5回チャレンジした。最終のチャレンジから1日後、BAL液中のPGEMレベルを分析した。(E-G)Ptges+/+(E-G)またはPtges-/-マウスを無処理のままか(-)、抗生物質またはアスピリンのどちらか、あるいはその両方で経口処理し、血清PGEMレベルを分析した(E)。さらにAMφにおけるM2マクロファージマーカー遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCRで分析した(n=5)(F)。次いでマウスの鼻腔内を、パパインでチャレンジし、図1で述べたように分析を行った(G)。(H)無処理のままか(-)、抗生物質またはセレコキシブ〔Celecoxib〕のどちらか、あるいはその両方で2週間経口処理したマウスの鼻腔内にパパインでチャレンジを行い、図1で述べたように分析を行った。(I)マウスにジメチルPGE2(Dm-PGE2)またはPBSを毎日、合計5回、腹腔内注射した。最終のチャレンジから1日後、AMφにおけるM2マクロファージマーカー遺伝子の発現について、マウスを分析した(n=5)。(J)マウスの鼻腔内を3日間、合計5回、パパインでチャレンジした。ジメチルPGE2(Dm-PGE2)またはPBSも、3日毎、合計5回の各パパイン投与の1日前に腹腔内注射した。最終のパパイン投与から1日後、図1で述べたように、BAL細胞について分析した。(K)ナイーブマウスから精製したAMφを、PGE2の存在下または非存在下で24時間培養し、鼻腔内に移入した。次いでマウスの鼻腔内をパパインでチャレンジし、図1で述べたように、BAL細胞について分析した。結果は3回の独立した実験の代表的なものである。*p<0.05;**p<0.01。N.S.は有意差なしを表す。エラーバーは±SDを示す。 [図5] 抗生物質処理はアレルギー性気道炎症性の細胞浸潤を悪化させることを示した、図1に関連する顕微鏡写真およびグラフ。野生型マウス(A,B),またはRag1-/-(C)を、2週間、無処理のままか(-)、抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で処理した(+)。続いて、ハウスダストダニ(HDM)抽出物で1週間に5回、4週間にわたって鼻腔内にチャレンジするか(A,B)、パパインで3日毎に合計5回(C)鼻腔内にチャレンジした。最終のチャレンジから1日後、マウスについて、BAL細胞の形態(ライト染色、オリジナル倍率×1000)(A)、BAL中の全細胞および分化した細胞の数(B、C)について解析を行った。平均値±SDを示す。*p<0.05;**p<0.01。N.S.は有意差なしを表す。 [図6] 肺胞内のM2マクロファージが抗生物質誘導性のアレルギー性気道炎症に関与することを示す、図2に関連する図およびグラフ。(A)マウスは無処理のままか(-)、抗生物質処理をし(+)、マウスに3日毎、合計5回パパインでチャレンジし、1日後に鼻腔内にクロドロネート-リポソーム(Cl2MBP)またはPBSリポソームを投与し、次いで最後のチャレンジから1日後に図1で述べたようにBAL細胞の分析を行った。(B)BAL液から単離した上皮細胞を抗CD11cモノクローナル抗体および抗F4/80モノクローナル抗体で染色し、フローサイトメトリーを用いて解析を行った。肺胞内のマクロファージ数(CD11c+F4/80+)を測定し、ライト染色(オリジナル倍率×1000)を用いて形態についての解析を行った。(C)マウスは、無処理のままか(-)、抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で処理し(+)、3日毎、合計5回のチャレンジのために、PBS(-)またはSAP(+)を鼻腔内に投与した。最終のPBS(-)またはSAPの処理から1日後、末梢血単球をリアルタイムRT-PCRにかけた(n=5)。結果は3回の独立した実験の代表的なものである。平均値±SDを示す。*p<0.01;**p<0.001。N.S.は有意差なしを表す。 [図7] 腸管内の真菌の異常増殖は抗生物質誘導性のアレルギー性気道炎症に関わっていることを示す、図3に関連する顕微鏡写真およびグラフ。(A)無処理のままか(-)、クリンダマイシン+セフォペラゾン(CLM+CPZ)またはメトロニダゾール(MNZ)で2週間処理したマウスの糞中から細菌のDNAを抽出し、各細菌の16SrDNAに特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCRにかけることで、全ての細菌数及び各種の細菌数の解析を行った。(B,C)無処理のままか(-)、抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で2週間処理したマウスの、盲腸内、口腔内、および肺における真菌数の解析を、ITS1-2rDNAに対する定量RT-PCRによって行い、平均値を示した(B)。また各組織を、DABまたはHEで染色することで組織的解析をも行った。矢印は粘膜固有層中のカンジダを指す。スケールバー:10μm(C)。(D)商業的サプライヤー(日本クレア)から入手したマウスを抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で処理したあと、無処理のままか(-)、C. parapsilosis(Cp)で処理をした(+)。次いで、マウスに3日毎、合計5回のチャレンジのために、パパイン(150 μg/マウス)を鼻腔内吸入させた。最終のチャレンジから1日後、BAL液中の全細胞数を計測した(左図)。商業的サプライヤー(日本クレア)から入手したマウスを抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で処理したあと、無処理のままか(-)、ヒトから単離したカンジダ種(Ca:C. albicans;Cg:C. glabrata;Ct:C. tropicalis)を経口で投与した(+)。カンジダのコロニー形成は、糞のCFU/gとして測定した(中央図)。次いで、上記と同様にパパインを鼻腔内吸入させ、BAL液中の全細胞数を計測した。(E)商業的サプライヤー(日本クレア)から入手したマウスを抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で、または抗生物質+5-FCで2週間処理し、鼻腔内にパパインでチャレンジし、上記と同様にBAL液中の全細胞数を計測した。結果は3回の独立した実験の代表的なものである*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。N.S.は有意差なしを表す。 [図8] 腸内真菌の過剰増殖に伴うプロスタグランジンE2は抗生物質誘導性のアレルギー性気道炎症に関わっていることを示す、図4に関連する顕微鏡写真およびグラフ。(A)無処理(-)または14日間抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)処理した(+)マウスから取得した血清40%存在下で、ナイーブマウスから単離した肺胞マクロファージを3日間培養して、リアルタイム-PCRにかけた(n=4)。平均値±SDを示す。(B)商業的サプライヤー(日本クレア)から入手したマウスを抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)で処理したあと、無処理のままか(-)、ヒトから単離したカンジダ種(Ca:C. albicans;Cg:C. glabrata;Ct:C. tropicalis)を経口で投与した。真菌投与から2週間後、血清PGEMレベルを分析した。(C-E)Ptges+/+またはPtges-/-マウスを、無処理のままか(-)、抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)または抗生物質+アスピリンで2週間経口処理した。糞中の真菌のコロニーを分析し(C)、さらにPtges-/-マウス由来のAMφにおけるM2マクロファージマーカー遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCRで分析した(n=5)(D)。次いでPtges-/-マウスの鼻腔内をパパインでチャレンジし、上記と同様にBAL液中の全細胞数を計測した(E)。平均値±SDを示す。(F)PGE2またはPBSの存在下で24時間培養したナイーブマウスから単離したAMφを、抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)のみ、または抗生物質+5-FCで2週間処理したマウスの鼻腔内に移入した。上記と同様にマウスの鼻腔内をパパインでチャレンジし、BAL液中の全細胞数を計測した。結果は3回の独立した実験の代表的なものである。*p<0.05;**p<0.01。N.S.は有意差なしを表す。 発明を実施するための形態 [0011] 本発明に係る医薬品は2つの実施形態に大別される。第1の実施形態は抗真菌剤を有効成分とするものであり、第2の実施形態はプロスタグランジン抑制剤を有効成分とするものである。 [0012] 本発明に係る第1の医薬品の有効成分として用いられる抗真菌剤は、プロスタグランジン類を産生する真菌の異常増殖を抑制する効果を有するものであれば、特に限定されるものではない。 [0013] プロスタグランジン類を産生する真菌の代表例としては、哺乳動物の体内に平常時でも一定数生息している、Candida属の真菌が挙げられる。動物集団や生活環境により存在ないし優占する種は変動する場合があるが、たとえば、マウスであればC. parapsilosisなどが、ヒトであればC. albicans, C. glabrata, C. tropicalisなどが腸内に生息している。したがって、Candida属またはその他の真菌の腸内における異常増殖を抗真菌剤によって抑制することは、本発明の好適な実施形態の一つとして挙げられる。 [0014] しかしながら、本発明は上記の実施形態によって限定されるものではなく、プロスタグランジン類を産生する真菌の腸内以外の部位における異常増殖を抗真菌剤によって抑制する実施形態も含む。たとえば、Candida属の真菌によって引き起こされるカンジダ症(口腔カンジダ症、皮膚カンジダ症等)、Aspergillus属の真菌によって引き起こされるアスペルギルス症、Cryptococcus属の真菌によって引き起こされるクリプトコッカス症、Trichophyton属の真菌によって引き起こされる白癬などにおいて、それらの真菌の腸外での異常増殖を抗真菌剤によって抑制する実施形態によっても、同様の作用効果が期待される。 [0015] 抗真菌剤としては、たとえば内服薬であれば、細胞膜のエルゴステロールに結合して細胞膜を破壊するポリエン系抗真菌剤(アムホテリシン、アムホテリシンB等)、真菌内のシトシンデアミナーゼにより変換されて核酸合成を阻害するフルオロピリミジン系抗真菌剤(5-フルオロシトシン等)、細胞膜のエルゴステロールの合成過程を阻害するトリアゾール系抗真菌剤(フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール等)、同じく細胞膜のエルゴステロールの合成過程を阻害するイミダゾール系抗真菌剤(ミコナゾール等)、細胞壁のβ-D-グルカン合成を阻害するキャンディン系抗真菌剤(ミカファンギン等)などが挙げられる。このような抗真菌剤の分類名称は化合物の骨格構造に基づくものであり、当業界において一般的である。たとえば、フルオロピリミジン系(5-フルオロシトシン等)およびトリアゾール系(ボリコナゾール等)の抗真菌剤は、カンジダ属の真菌に対する有効性が高いため好ましい。 [0016] 一方、外用薬の抗真菌剤としては、たとえば、イソコナゾール、ビホナゾール、ラノコナゾール、ケトコナゾール、ルリコナゾール、クロトリマゾール、塩酸テルビナフィン、塩酸ブテナフィン、塩酸ネチコナゾール、硝酸ミコナゾール、トルナフタートなどが挙げられる。 [0017] なお、これらの抗真菌剤は、従来は本発明とは異なる局面において、たとえばカンジダ症などの真菌症を治療するための有効成分として用いられていた薬剤である。本発明では、このような抗真菌剤を、真菌の異常増殖を抑制することを通じて、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための有効成分として用いる。 [0018] 本発明に係る第2の医薬品の有効成分として用いられるプロスタグランジン抑制剤は、真菌によるプロスタグランジン類、具体的にはプロスタグランジンE2(PGE2)の産生を抑制する効果を有するものであれば、特に限定されるものではない。 [0019] たとえば、Candida属およびその他の真菌は、アラキドン酸カスケードにより、アラキドン酸からPGE2を産生することができる。一般的には、生体膜のリン脂質のsn2位にエステル結合しているアラキドン酸がホスホリパーゼA2(PLA2)により切り出されて遊離したアラキドン酸を出発原料として、(1)シクロオキシゲナーゼ(COX)によりアラキドン酸をプロスタグランジンG2(PGG2)に代謝され(シクロオキシゲナーゼ反応)、(2)同じくCOXによりPGG2からプロスタグランジンH2(PGH2)に代謝され(ヒドロペルオキシダーゼ反応)、(3)プロスタグランジンE合成酵素(PGES)によりPGH2からPGE2に代謝される、という生合成経路をたどる。ここで、COXには3つのアイソザイムがあり、それぞれCOX-1、COX-2、COX-3と呼ばれる。このうちCOX-1は、ヒト等の宿主の全身の組織に広く分布し、小胞体に発現している酵素であるが(構成型)、Candida属などの真菌もCOX-1を有している。一方、COX-2は脳や腎臓など一部の組織を除いて普段は発現が低いが、炎症や癌などの病的症状において誘導される酵素であり(誘導型)、この際、滑膜細胞、マクロファージ、単球などに発現が見られる。COX-3は近年、脳内に多く存在することが見出されたものである。 [0020] 本発明では、上記のような生合成経路に関与しているいずれかの酵素を阻害することにより、真菌によるPGE2の産生を抑制することが可能であるが、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、特にCOX-1阻害剤またはCOX-2阻害剤がプロスタグランジン抑制剤として好適である。このようなプロスタグランジン抑制剤(COX阻害剤)としては、たとえば、アスピリン(アセチルサリチル酸)、インドメタシン(1-(4-クロロベンゾイル)-5-メトキシ-2-メチル-1-H-インドール-3-酢酸)、イブプロフェン((RS)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン)、セレコキシブ、ロフェコキシブ、ブフェキサマック、ピロキシカム、エトドラク、ケトプロフェンなどが挙げられる。 [0021] なお、これらのプロスタグランジン抑制剤は、従来は本発明とは異なる局面において、たとえば、真菌ではなく宿主の細胞に作用することを想定した、鎮痛、抗炎症、解熱などのための有効成分として用いられていた薬剤である。本発明では、このようなプロスタグランジン抑制剤を、異常増殖した真菌に作用させ、過剰なプロスタグランジンE2の産生を抑制することを通じて、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための有効成分として用いる。 [0022] 本発明に係る医薬品は、前述したような特定の有効成分のいずれか一方を含有していてもよいし、両方を含有していてもよい。さらに、必要に応じて他の成分、たとえば剤型に応じた製薬学的に許容される担体または添加剤や、アレルギー性気道炎症の治療または予防にとって有効な前記特定の有効成分以外の成分などをさらに含有していてもよい。すなわち、本発明に係る医薬品は、それらの成分を含有する医薬組成物として調製することができる。 [0023] 医薬品の剤型は、本発明では真菌の異常増殖やそれによるプロスタグランジンの過剰産生を抑制することができるようであれば特に限定されるものではない。たとえば、抗真菌剤等を他の用途(たとえばカンジダ症の治療)のために用いる場合と同様、本発明の医薬品は、特に腸内真菌に対して作用させる場合は経口投与される内服薬として調製することが好適である。一方で、腸内以外の真菌に対して作用させる場合は、座剤、外用剤などの外用薬として調製することも可能である。このような剤型の医薬品は一般的な製造方法により製造することができ、たとえば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、等張化剤、乳化剤、甘味料、香料、着色料などから選ばれる担体または添加剤と、前述したような有効成分とを混合して成形することにより製造することができる。 [0024] アレルギー性気道炎症の治療または予防にとって有効な、前記特定の有効成分(抗真菌剤およびプロスタグランジン抑制剤)以外の成分としては、たとえば、活性化することによってアレルギー性気道炎症の症状を重くする肺胞マクロファージを減少させるための薬剤通常の(M0)肺胞マクロファージから誘導されるM2マクロファージの活性化を抑制するための薬剤(血清アミロイドP等)が挙げられる。このような有効成分を含有する製剤を、前記特定の有効成分(抗真菌剤およびプロスタグランジン抑制剤)を含有する製剤とは別個のものとして調製しつつ、これら複数の製剤を併用する医薬品、いわゆる組み合わせ製剤を構築することも可能である。 [0025] 本発明に係る医薬品は、アレルギー性気道炎症を治療または予防するために処方・投与されるものである。すなわち、本発明に係る医薬品の処方・投与対象は、真菌の異常増殖が起きているまたは起きるおそれがあるか(第1の医薬品)、異常増殖した真菌からプロスタグランジンE2が過剰に産生されているまたは産生されるおそれがあり(第2の医薬品)、かつアレルギー性気道炎症を発症しているまたは発症するおそれがあることを前提とする。真菌の異常増殖の代表例は、抗生物質を投与したときに腸内細菌が減少することによって、あるいは糖または炭水化物の過剰摂取によって、腸内で引き起こされるものであるが、これに限定されるものではなく、たとえば、日和見感染症による真菌症の発症など、他の原因により引き起こされるものであってもよい。また、アレルギー性気道炎症は、アレルゲンによって誘発されて起きる気道(気管支など)の炎症性疾患であり、喘息(アトピー型)などの症状を含む。 [0026] したがって、本発明に係る医薬品は、たとえば、アレルギー性気道炎症を発症していて、かつその症状への関与がうかがわれる、真菌の異常増殖またはそれに伴うプロスタグランジンE2の過剰産生が認められる患者に対して、アレルギー性気道炎症を治療するために処方・投与することができる。あるいは、他の医学的目的で抗生物質を投与する必要があるため、腸内細菌が減少し、腸内真菌の異常増殖またはそれに伴うプロスタグランジンE2の過剰産生が起きるおそれがあり、かつアレルギー性気道炎症を発症しているまたは発症するおそれのある患者に対して、アレルギー性気道炎症を治療または予防するために処方・投与することもできる。なお、「治療」には、症状の緩和または軽減、回復、進行や悪化の抑制などが含まれ、「予防」には、疾患の新規発症の予防および再発の予防が含まれる。 [0027] 真菌の異常増殖が起きているかどうかは、たとえば腸内真菌については、糞便中の真菌数(CFU/g)を一般的な手法を用いて測定してそれが平常時(健常者の測定値)よりも統計学的に有意に高いか否かを判定するなど、公知の手法によって決定することができる。また、プロスタグランジンE2が細菌によって過剰に産生されているかどうかは、たとえば、プロスタグランジンE2代謝物(PGEM)の血液(血清)中の濃度を一般的な手法を用いて測定し、それが平常時(健常者の測定値)よりも統計学的に有意に高いか否かを判定することによって決定することができる。 [0028] 医薬品の処方・投与対象となる動物種には、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物が包含される。ヒト以外の哺乳動物としては、たとえば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ネコ、イヌ、ブタ、サルなど、ヒトの疾患のモデル動物として一般的に用いられている哺乳動物や、愛玩用の哺乳動物(ペット)が挙げられる。したがって、医薬品は、ヒトに投与するために製剤化されたものであってもよいし、ヒト以外の哺乳動物に投与するために製剤化されたものであってもよい。 [0029] 医薬品の投与形態は、目的とする治療または予防の効果が得られるようであれば特に限定されるものではない。すなわち、1回あたりの有効成分の投与量、投与回数および投与期間(頻度)は、用いる有効成分の種類やアレルギー性気道炎症の容態のほか、投与対象の年齢、体重、投与経路、薬物動態などを考慮しながら、適切に調整することができる。特に本発明では、腸内真菌の数ないしそれを反映する糞便中の真菌の数や、PGE2ないしその代謝物の血中濃度などの情報を把握しながら投与形態を調節してもよい。ヒトに対する有効成分量等の投与形態は、モデル動物に対する投与実験などを通じて適切に調整することが可能であり、本発明とは異なる医薬用途における有効成分量等の投与形態を参考にすることも可能である。たとえば、抗生物質処理によって腸内真菌が異常増殖したモデル動物としてのマウス(体重約17~21g)に対しては、5-FC(抗真菌剤)であれば1日あたり6~8mg、アスピリン(プロスタグランジン抑制剤)であれば1日あたり100~200mgを、セレコキシブであれば1日あたり100~400mgを、それぞれ腸内真菌が異常増殖している期間中、経口で投与することにより、アレルギー性気道炎症の症状を緩和することができる。 [0030] 以上のようなアレルギー性気道炎症の治療用または予防用の医薬品に係る発明は、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための方法に係る発明や、抗真菌剤またはプロスタグランジン抑制剤のアレルギー性気道炎症を治療または予防する医薬品の有効成分としての利用方法に転換することができる。 [0031] すなわち、本発明に係る第1の方法は、真菌の異常増殖を抑制するステップを含む、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための方法として規定することができる。具体的には、本発明に係る第1の医薬品、特にその有効成分である抗真菌剤を、アレルギー性気道炎症を治療または予防するべき対象に投与する行為が行われる。 [0032] 本発明に係る第2の方法は、異常増殖した真菌によるプロスタグランジンの産生を抑制するステップを含む、アレルギー性気道炎症を治療または予防するための方法として規定することができる。具体的には、本発明に係る第2の医薬品、特にその有効成分であるプロスタグランジン抑制剤を、アレルギー性気道炎症を治療または予防するべき対象に投与する行為が行われる。 [0033] また、本発明に係る第1の利用方法は、抗真菌剤を、アレルギー性気道炎症を治療または予防する医薬品の有効成分としての利用する方法として規定することができる。具体的には、本発明に係る第1の医薬品の製造工程において、有効成分として抗真菌剤を添加する操作を行う操作が行われる。 [0034] 本発明に係る第2の利用方法は、プロスタグランジン抑制剤を、アレルギー性気道炎症を治療または予防する医薬品の有効成分としての利用する方法として規定することができる。具体的には、本発明に係る第2の医薬品の製造工程において、有効成分としてプロスタグランジン抑制剤を添加する操作を行う操作が行われる。 [0035] このような本発明に係る方法または利用方法の構成要件、たとえば抗真菌剤、プロスタグランジン抑制剤、医薬品、投与方法、製造方法等の詳細については、本発明に係る医薬品に関して前述した通りである。 実施例 [0036] <材料および方法> ・マウス 大部分の実験では、筑波大学動物実験センター(日本)で飼育されていた集団の、メスのC57BL/6マウスを用い、いくつかの実験では、日本クレア(東京,日本)から購入したメスのC57BL/6マウスを用いた。Rag-1-/-マウスはジャクソン研究所〔The Jackson Laboratories〕(Bar Harbor, Maine)から購入し、筑波大学動物実験センターで飼育した。Ptges+/+及びPtges-/-マウスは、バンダービルト大学 [Vanderbilt University]のLeslie Croffordから提供された Ptges+/- (C57BL/6 background) マウス由来であり、ミシガン大学 [The University of Michigan]において繁殖したものである (Mason et al. (2013). Intrauterine group A streptococcal infections are exacerbated by prostaglandin E2. J. Immunol. 191, 2457-2465.2013)。全ての実験は、筑波大学動物実験センターおよびミシガン大学の倫理委員会のガイドラインに従って行った。 [0037] ・抗生物質、5-フルオロシトシン、アスピリン、セレコキシブおよびSAP 抗生物質としてのクリンダマイシン(0.5 mg/mL,東京化成工業株式会社,東京,日本)、セフォペラゾン(0.4 mg/mL,トロントリサーチケミカルズ〔Toronto Research Chemicals〕,トロント,カナダ)、アンピシリン(1 mg/mL,シグマ-アルドリッチ,東京,日本)、メトロニダゾール(1 mg/mL,シグマ-アルドリッチ)、ストレプトマイシン(5 mg/mL,和光純薬工業株式会社,大阪,日本)、抗真菌剤としての5-フルオロシトシン(2 mg/mL,東京化成工業株式会社)、またはプロスタグランジン抑制剤としてのアスピリン(50 μg/mL,東京化成工業株式会社)もしくはセレコキシブ(1 μg/mL,東京化成工業株式会社)は、これらを補ったオートクレーブ済みの飲料水を与えることでマウスに摂取させた。抗生物質処理はアレルゲンを吸入させる2~4週間前から開始し、実験期間中継続した。また、マウスを、SAP(マウス1匹当たり100 μg,PBSに溶解,カルバイオケム〔Calbiochem〕,ラホヤ,カリフォルニア州,米国)の液滴による経鼻投与で、3日毎、合計5回処理した。 [0038] ・パパイン誘発性気道炎症 3日毎に、マウスに、パパイン(マウス1匹あたり150 μg,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解,和光純薬工業株式会社,>0.5 units/g)の液滴を鼻腔内に置いて鼻腔内吸入させ、全部で5回チャレンジした。BALは3回、1mLのPBSを気管カニューレで滴下注入して行った。白血球百分率は、ライト染色液(武藤化学株式会社,東京,日本)で染色してサイトスピンで計測した。 [0039] ・ハウスダストダニ誘発性気道炎症 マウスを、ハウスダストダニ(HDM)抽出物(マウス1匹当たり10 μg,PBSに溶解,LSL,東京,日本)を含む生理食塩水、または生理食塩水単独で、1週間当たり5回、連続する4週間にわたって処理した。 [0040] ・糞中/肺中の真菌数 個々のマウスから糞粒及び肺を回収し、冷却したPBSでホモジナイズし、50 μg/mlのゲンタマイシンおよび50 μg/mlのクロラムフェニコールを含有するサブロー〔Sabouraud〕デキストロース寒天培地にプレーティングした。37℃で一晩インキュベーションした後、コロニー形成単位(CFU)の数を計測した。検出限界は102 CFU/g糞である。 [0041] ・Candida 接種 それぞれのCandida種はヒトまたはマウスのサンプルをサブローデキストロースGC寒天培地にプレーティングし、得られたシングルコロニーから単離したものである。マウスの糞から単離したCandida parapsilosisまたは患者から単離したC. albicans,C. glabrataおよびC. tropicalisを、振盪したサブローデキストロースブロス中、37℃で定常期まで(48時間)培養した。マウスへの感染のために、培地を洗い、滅菌したPBSで5 × 107 CFU/mLに稀釈した。抗生物質処理の1日目に、マウス用給餌針を用いて経口経管栄養法によりCandida(200 μL中107 CFU)を接種した。 [0042] ・サイトカイン、ケモカインおよびプロスタグランジンE2レベル マウスのサイトカインおよびケモカインは、ELISA(enzyme-linked immunosorben assay)キット(R&d; Systems,ミネアポリス,ミネソタ州,米国)を用いて測定した。13,14-ジヒドロ-15-ケトプロスタグランジンE2(プロスタグランジンE2代謝物:PGEM)の血清レベルは、プロスタグランジンE代謝物EIAキット(Cayman Chemicals,アナーバー,ミシガン州,米国)を用いて、製造者の指示に従って測定した。 [0043] ・肺胞マクロファージのin vivoでの減少 肺胞マクロファージを減少させるためのクロドロネートリポソーム(リポソームカプセル化ジクロロメチレン二リン酸:Cl2MBP)またはコントロールのPBSリポソーム(Encapsula NanoSciences,ナッシュビル,テネシー州,米国)は、次の文献に記載されているようにして調製した:N. Van Rooijen. The liposome-mediated macrophage 'suicide' technique. J Immunol Methods 124, 1-6 (1989)。マウスは、3日毎、合計5回のパパイン処理それぞれの1日前に、30 μLのリポソームで鼻腔内を処理した。 [0044] ・cDNA合成およびリアルタイムRT-PCR 全RNAをTotal RNA Kit I(OMEGA Bio-Tek. Inc.,ノークロス,ジョージア州,米国)を用いて抽出し、cDNAをHigh Capacity RNA-to-cDNA Kit(アプライドバイオシステム,東京,日本)を用いて合成した。リアルタイムPCRは、SYBR Green master mix(アプライドバイオシステム)を用いて行った。各標的遺伝子の発現はβ-アクチンに対して標準化した。 [0045] ・PGE2処理 ジメチルプロスタグランジンE2(dm-PGE2,Calbiochem,マウス1匹あたり50 μg/mL)を1日1回、5日間にわたって腹腔内に投与した。最終のdm-PGE2処理から1日後、リアルタイムRT-PCRのために肺胞マクロファージを精製した。Dm-PGE2(マウス1匹当たり50 μg/mL,PBSに溶解)も、3日毎、合計5回のチャレンジのパパイン処理それぞれの1日前に、腹腔内に投与した。養子移入のため、ナイーブマウスから精製した肺胞マクロファージをPGE2(50 ng/mL,東京化成工業株式会社)で24時間処理した。 [0046] ・マクロファージの養子移入 肺胞マクロファージをナイーブマウスまたは抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)処理マウスから、PBSを用いたBAL後に入手した。骨髄由来培養マクロファージ(BMM)は次の文献に記載されているようにして産生した。:A. Celada, P. W. Gray, E. Rinderknecht, R. D. Schreiber. Evidence for a gamma-interferon receptor that regulates macrophage tumoricidal activity. J Exp Med 160, 55-74 (1984)。産生されたBMMはさらに、37℃で24時間、IFN-γ (20 ng/mL)か、IL-4 (10 ng/mL),IL-13 (10 ng/mL)およびIL-10 (20 ng/mL)のどちらかの存在下で(いずれももR&d; Systems)、それぞれM1マクロファージまたはM2マクロファージに分化させるために培養した。マクロファージ(2 × 105個)をナイーブマウスの鼻腔内に、最初のパパイン吸入の8時間前に移入した。 [0047] ・真菌のrDNA遺伝子解析 盲腸、口腔内(舌、頬嚢)およびに肺のサンプルを、1mMのEDTA、0.2%のβ-メルカプトエタノール(Sigma)および1000U/mlのリティカーゼ(Sigma)を含有した50mMのTrisバッファー(PH 7.5)内において37℃30分培養し、QIAamp DNA Stool Mini Kit (Qiagen)を用いて、製造者が指定した通りの方法で、組織および真菌のゲノムDNAを単離した。組織内の真菌の検出のために、組織から単離したDNAを鋳型として真菌特異的なプライマーを用いて、以下の文献に記載された方法で定量PCRを行った:Iliev, I.D et al., Interactions between commensal fungi and the C-type lectin receptor Dectin-1 influence colitis. Science 336, 1314-1317 (2012)。当該文献に記載された方法で、PCR 増幅産物の相対量をΔCt 法を用いて算出し、β-アクチンに対して標準化した。 [0048] ・細菌の16S rDNA 遺伝子解析 糞中における細菌のDNAはMagtration(登録商標) System 12GC(株式会社テクノスルガ・ラボ,静岡,日本)を用いて抽出した。Clostridium clusters IV and XIVab, Lactobacillus genus, Enterococcus genus, Bacteroides, and Enterobacteriaceae、および全細菌のコピー数をそれぞれ解析するために、それぞれの16S rDNA に特異的なプライマー(株式会社テクノスルガ・ラボ)を用いてリアルタイムPCRを行った。 [0049] ・In vitro における血清処理 14日間抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)処理したマウスから取得した血清40%存在下で、ナイーブマウスから単離した肺胞マクロファージを3日間培養した。 [0050] ・統計処理 群間の統計学的な有意差はMann-Whitney検定で決定した。in vivoおよびin vitroのmRNA発現は、不等分散の下での両側t-test(Aspin-Welch's t-test)で分析した。P値が<0.05の場合に有意差があるとみなした。 [0051] [実験例1] 腸内毒素症が宿主の腸外の免疫性に与える影響を直接的に検証するために、アレルゲンとしてのパパインを、コントロールマウスと、抗生物質であるクリンダマイシンおよびセフォペラゾンで処理したマウス(抗生物質処理マウス)とに鼻腔内吸引させることにより、アレルギー性気道炎症を誘発させた。抗生物質で前処理し、パパインでチャレンジしたマウスは、コントロールマウスよりも、気道における全細胞、好酸球およびマクロファージの数が有意に多かったうえ(図1Aおよび1B)、胚細胞の過形成および気管支周辺の炎症性細胞の浸潤も多かった(図1C)。次に、IL-13、IL-5,CCL11およびCCL24は、2型免疫応答および好酸球動員、ならびに喘息の原因に関係している重要な分子であるが(J. Penders et al. Gut microbiota composition and development of atopic manifestations in infancy: the KOALA Birth Cohort Study. Gut 56, 661-667 (2007); J. E. Pease Asthma, allergy and chemokines. Curr Drug Targets 7, 3-12 (2006))、それらのサイトカイン産生について調べた。パパインでのチャレンジがないときは、気管支肺胞洗浄(BAL)液中のIL-13、IL-5,CCL11およびCCL24のレベルは、コントロールマウスと抗生物質処理マウスとでは同等であったが、パパイン吸入後においてはコントロールマウスに比べて抗生物質処理マウスのほうが、いずれも高いレベルで検出された(図1D)。また、ハウスダストであるダニ抽出物の鼻腔内吸入後においても、BAL液中の全細胞および好酸球の数は、抗生物質処理マウスの方がコントロールマウスよりも有意に多かった(図5Aおよび5B)。これらの結果はともに、抗生物質処理がアレルゲン誘発性の気道炎症を悪化させることを示唆している。 [0052] [実験例2] 獲得免疫応答はアレルギー性気道炎症の進行にとって重要であるため、抗生物質によるパパイン誘発性気道炎症の悪化が獲得免疫系を必要とするかを調査した。この問題に対処するため、分化能の破壊により成熟したBリンパ球およびTリンパ球を欠損したRag-1-/-マウスを、抗生物質で処理し、パパインでチャレンジした。パパイン誘発性気道炎症は、抗生物質で処理したRag-1-/-マウスでもコントロールマウスより有意に悪化した。これは、宿主に獲得免疫系がなくても、腸内の真菌の異常増殖が宿主の免疫応答に影響を与えることを示唆している(図5C)。肺胞マクロファージ(AMφ)は、感染性物質および他の免疫性傷害に対する、肺における最初の防衛の重要な役割を担っている。クロドロネートリポソーム(リポソームカプセル化ジクロロメチレン二リン酸:Cl2MBP)を用いてAMφを減少させたときには、パパイン吸入後のBAL液中の全細胞、好酸球およびマクロファージの数は、コントロールマウスおよび抗生物質処理マウスのいずれにおいても減少した(図6A)。さらに抗生物質処理マウス由来のAMφを受け取ったマウスは、コントロールマウス由来のAMφを受け取ったマウスよりも、パパイン吸入下におけるBAL液中の細胞数が有意に多く、パパイン吸入による気道炎症が引き起こされていた(図2A)。これらの結果は、抗生物質による処理が肺での炎症を刺激するいくつかの経路においてマクロファージの機能を改変することを示している。 [0053] 多様性および柔軟性は、単球-マクロファージ系列の細胞の特徴である。様々な環境要因(たとえば、微生物産生物、損傷を受けた細胞、サイトカイン)に応答して、マクロファージは、M1マクロファージになる古典的活性化、またはM2マクロファージになる選択的活性化を経て、独特の機能的な表現型を獲得する。コントロールマウスから精製したAMφに比べて、抗生物質処理マウスから精製したAMφは、選択的活性化によるM2マクロファージのマーカーであるarg1, chi3l3およびretnlaの発現が有意に高かった(図2B,図6B)。M2マクロファージの活性化を弱める血清アミロイドP(SAP)の経鼻投与により、肺におけるM2マクロファージの活性化は抑制されるが、末梢血においてはこの活性化は抑制されない(図2C,図6C)。また、抗生物質およびPBSで処理したマウス(コントロールマウス)と比べて抗生物質およびSAPで処理したマウスはBAL液中の全細胞数が有意に減少していることから、SAP処理がパパイン誘発性の気道炎症を軽くすることがわかる。(図2D)。骨髄由来マクロファージ(M0マクロファージ)から産生されたM2マクロファージを養子移入することにより、M0マクロファージを養子移入した場合と比べて、パパイン誘発性気道炎症は有意に強まったが、M1マクロファージを養子移入した場合はそうではなかった(図2E)。これらの結果は肺胞におけるM2マクロファージがパパイン誘発性のアレルギー性気道炎症に関わっていることを示唆している。 [0054] [実験例3] 次に、抗生物質による処置が腸内の真菌のコロニー形成に与える影響を調べた。抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)を用いた治療法は、真菌のコロニー形成を著しく増加させた(およそ108)。抗生物質による処置を受けなかったマウスの糞からは真菌は検出されなかった(図3A)。クリンダマイシン+セフォペラゾンで処理することにより、腸内における真菌の異常増殖は有意に促進され、セフォペラゾン、アンピシリンまたはストレプトマイシンの投与でも同様に腸内の真菌の異常増殖は有意に促進された。しかしクリンダマイシンまたはメトロニダゾール処理では真菌の異常増殖は見られなかった(図3A)。また、抗生物質(クリンダマイシン+セフォペラゾン)処理ではClostridium clusters IV and XIVab, Lactobacillus genus and Bacteroides genusなどのいくつかの種の細菌数が減少したが、真菌を増殖させない抗生物質であるメトロニダゾール処理では細菌数の減少はおきなかった(図7A)。これは腸内での真菌の異常増殖の抑制がこの微生物相の変化に関与していることを示唆している。しかし、糞内または盲腸内とは異なり、口腔内及び肺では抗生物質処理による真菌の異常増殖は確認されなかった(図3A,図7B)。興味深いことに、腸内の真菌の異常増殖のレベルは、パパイン誘発性の、BAL液中への炎症性細胞の流入の促進と相関していた(図3Bおよび3C)。抗生物質処理マウスの糞から単離された真菌は、16S rDNA配列よりCandida parapsilosis(C. parapsilosis)と同定された(データ示さず)。抗生物質投与後のマウスの腸内の真菌の分布を調べるために、Candida属の真菌に対して陽性となる過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS)または3,3'-アミノベンジジン(DAB)で腸管組織切片を染色した。Candida属の真菌の浸潤は、盲腸組織の粘膜固有層においては普遍的であったが、小腸組織または結腸組織においては稀であった(図3D,3Eおよび図7C)。また抗生物質処理を行ったマウスの消化管組織において炎症の兆候は確認できなかった(図7C)。 [0055] ところで、サプライヤー(日本クレア,東京)から市販されている同種のマウスについては、抗生物質処置後も腸内での真菌の異常増殖が観察されなかった。これは、抗生物質処置による真菌の異常増殖がマウスの集団に依存するものであることを示唆している。それでも、前記市販マウスの腸に外来性のCandida parapsilosisを播種すると、パパインによる炎症性気道炎症が強められた(図7Dおよび未表示データ)。さらに、抗生物質で処理した前記市販マウスを、ヒトから単離したカンジダ(C. albicans, C. glabrata, またはC. tropicalis)で経口経管栄養法によって処理すると、腸内で真菌が異常増殖し(図7D)、パパインによって誘発される気道炎症を有意に悪化させた(図7D)。抗真菌剤5-フルオロシトシン(5-FC)を投与することにより、抗生物質処理マウスの糞に含まれる真菌の数は有意に減少した(図3F)。さらに、5-FCの処理により、抗生物質処理マウス由来のAMφにおけるM2マクロファージマーカーの発現の上昇は抑制された(図3G)。また、5-FCを投与することにより、C. parapsilosis陽性の抗生物質で処理したマウス群では、パパインでチャレンジした後のBAL液中の全細胞、好酸球およびマクロファージの数は有意に減少したが、C. parapsilosis陰性の抗生物質で処理した市販マウス群では、BAL液中の細胞数に変化は見られなかった(図3H、7E)。これらの結果は、抗生物質によって引き起こされる真菌の異常増殖が、マクロファージをM2型に分極化させることによって、パパイン誘発性の気道炎症を悪化させることを示している。 [0056] [実験例4] 腸内真菌の異常増殖が末梢血単球の機能に影響するかどうかを調べた。抗生物質処理マウスでは、末梢血単球においてもAMφと同様にM2マーカーであるarg1, chi3l3およびretnlaの発現が上昇していた(図4A)。さらに、抗生物質処理した後のマウスから取得した血清下でナイーブマウスのAMφを3日間培養することによりM2マーカーが上昇した(図8A)。これらの結果は真菌成分が肺のマクロファージをM2型へ改変するように全身的に働くことを示唆している。しかしながら、カンジダの2つの主要な細胞壁成分であるβ-D-グルカンおよびマンナンは、抗生物質処理マウスの血清中からは検出されなかった(データ示さず)。 [0057] プロスタグランジンE2(PGE2)をはじめとするプロスタグランジン類はアレルギー性の炎症を誘発する。腸内の真菌類の異常増殖がPGE2を介した免疫反応に影響を与える可能性についての検証を行った。C. parapsilosisが、外部のアラキドン酸をプロスタグランジン類に変換することが見出された(図4B)。さらに、血清のPGE2代謝物(PGEM)のレベルは、抗生物質処理マウスの方がコントロールマウスよりも有意に高かったが、5-FC処理により抗生物質処理マウスのPGEMレベルは低下した(図4C)。また、BAL液中のPGEMのレベルも、抗生物質処理マウスの方がコントロールマウスよりも高かった。パパインの吸入により抗生物質処理マウスのBAL液中PGEMレベルはさらに上昇するが、5-FCで処理することでこのパパインによるPGEMレベルの上昇はなくなった(図4D)。また抗生物質処理を行った前記市販マウスにヒトから単離したカンジダ種を接種することによっても血清中のPGEMレベルは上昇する(図8B)。これらの結果は、腸内真菌の異常増殖が全身的に、また局所的にPGE2のレベルを増加させることを示している。 [0058] ミクロソームプロスタグランジンE合成酵素-1(mPGES-1)は炎症を起こした細胞におけるPGE2の増加に関与している。Ptges-/-マウスはそのmPGES-1を欠損している。抗生物質で処理したPtges+/+マウス(野生型)およびPtges-/-マウスのどちらにも真菌の異常増殖は観察されなかったので、それらのマウスに外来のC. parapsilosisを経口で摂取させた。その結果、Ptges-/-マウスにおいても野生型マウスとおなじように腸内の真菌は増殖した(図8C)。重要なことに、野生型マウスに比べて上昇率は小さいものの、Ptges-/-マウスにおいても抗生物質処理による血清内PGEMレベルは有意に上昇した(図4E)。これらの結果は、宿主であるマウスの細胞ではなく、腸内の真菌によって抗生物質によるPGEMレベルの上昇がひきおこされるのではないかということを示唆している。また、抗生物質で処理したどちらのマウスにおいても、シクロオキシゲナーゼ(アラキドン酸をPGG2に変換する)阻害剤であるアスピリン処理によりPGE2の合成を阻害することで、血清中のPGEMレベルは低下し、AMφでのM2マクロファージマーカーの発現は抑制されるが(図4F,図8D)、抗生物質による真菌の異常増殖には影響を及ぼさない(図4E,図8C)。さらに、いずれのマウスにおいても、アスピリンまたはシクロオキシゲナーゼ-2抑制剤であるセレコキシブでの処理によりによりパパイン誘発性の気道炎症が弱まった(図4G、図4Hおよび図8E)。これらの結果は、PGE2の合成を抑制することで抗生物質誘発性のアレルギー性炎症を抑制することができることを示唆している。 [0059] PGE2の腹腔内注射はAMφのM2マクロファージマーカーの発現を有意に高め(図4I)、パパイン誘発性の気道炎症を強めた(図4J)。最後に、in vitroにおいてPGE2により刺激されたAMφをナイーブマウスの鼻腔内に養子移入することは、無処理のAMφの養子移入に比べて、パパイン誘発性の気道炎症を有意に強めた(図4K)。また、無処理のAMφの養子移入を行った抗生物質処理マウスにおけるパパイン誘発性の気道炎症は5-FCによって抑制されるが、PGE2により刺激されたAMφの養子移入を行った抗生物質処理マウスにおいては抑制されない(図8F)。これらの結果は、腸内真菌の異常増殖によって産生されたPGE2は、AMφの表現型をM2に改変することにより、好酸球介在性の気道炎症を悪化させることを示唆している。 [0060] 以上の知見により、抗生物質処理による腸内毒素症が腸内真菌の数を増やし、これが腸外のM2マクロファージの炎症性応答を強めることが明らかになった。真菌の異常増殖の制御は、アレルギー性炎症性疾患の治療または予防にとって重要だと考えられる。 |
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