BIO-HYBRID ELECTRONICS SYSTEM
外国特許コード | F150008356 |
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整理番号 | E114P07WO |
掲載日 | 2015年6月24日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2014JP077755 |
国際公開番号 | WO 2015056803 |
国際出願日 | 平成26年10月17日(2014.10.17) |
国際公開日 | 平成27年4月23日(2015.4.23) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | BIO-HYBRID ELECTRONICS SYSTEM |
発明の概要(英語) | A bio-hybrid electronics system (1) has: a substrate (2); a fiber layer (3) including an extracellular matrix in which cells are produced, said fiber layer having vacuoles (4) produced by decellularization, and said fiber layer being disposed on the outer surface of the substrate (2) or from the outer surface through the interior of the substrate (2); and an electronic device (5) for receiving an electrical or chemical signal from an organism or for feeding an electrical or chemical signal to an organism, the electronics device (5) being disposed in contact with the fiber layer. |
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国際特許分類(IPC) |
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参考情報 (研究プロジェクト等) | ERATO SOMEYA Bio-Harmonized Electronics AREA |
日本語項目の表示
発明の名称 | バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム |
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発明の概要 | バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム(1)は、基材(2)と、細胞が産生する細胞外マトリクスを含み脱細胞化による空胞(4)を有し基材(2)の外面、または外面から基材(2)内部にわたって配された繊維層(3)と、電気的若しくは化学的なシグナルを生体から受け、又は、電気的若しくは化学的なシグナルを生体へ供給し、繊維層(3)に接して配されたエレクトロニクスデバイス(5)と、を有する。 |
特許請求の範囲 |
[請求項1] 基材と、 細胞が産生する細胞外マトリクスを含み脱細胞化による空胞を有し前記基材の外面、または外面から前記基材内部にわたって配された繊維層と、 電気的若しくは化学的なシグナルを生体から受け、又は、電気的若しくは化学的なシグナルを生体へ供給し、前記繊維層に接して配されたエレクトロニクスデバイスと、 を有するバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項2] 請求項1に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記基材は、生体適合性を有し且つ生体非吸収性であるバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項3] 請求項1に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記基材は、多孔質または繊維布からなり、内部に空孔を有するバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項4] 請求項1から3のいずれか一項に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記エレクトロニクスデバイスは前記基材と前記繊維層との間に配されているバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項5] 請求項1から4のいずれか一項に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記エレクトロニクスデバイスは前記基材の前記繊維層と反対の面に配されているバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項6] 請求項1から5のいずれか一項に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記エレクトロニクスデバイスはフィルム基板上に形成され、前記基材に積層されていることを特徴とするバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項7] 請求項1から6のいずれか一項に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記基材は、生体組織の外面に倣って変形可能な柔軟性を有するバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項8] 請求項1から7のいずれか一項に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記基材はシート状をなすバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 [請求項9] 請求項1から8のいずれか一項に記載のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムであって、 前記繊維層は、レシピエントの生体内において、レシピエント由来の生体外マトリクスおよび産生細胞により置換可能であることを特徴とするバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム。 |
明細書 |
明 細 書 発明の名称 : バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム 技術分野 [0001] 本発明は、生体適合性を有するエレクトロニクスシステムに関する。 本願は、2013年10月18日に、日本に出願された特願2013-217366号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。 背景技術 [0002] 従来、人工材料を生体内に埋め込むことにより生体の欠損を補ったり生体の機能を補完したりすることが知られている。たとえば、非特許文献1には、心臓の機能の一部を代行する補助人工心臓に適用されるハイブリッド脱血カニューレが開示されている。 先行技術文献 非特許文献 [0003] 非特許文献1 : 中野 英美子,「補助人工心臓用ハイブリッド脱血カニューレの開発」,北里大学大学院,修士学位論文 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0004] 生体に埋め込み可能なエレクトロニクスシステムとしては、たとえば、植え込み型除細動装置が知られている。植え込み型除細動装置は、細動を検知したり除細動のためのパルスを印加したりする目的で、心臓内に留置される電極を有する。血液に接触する環境下で人工物を使用する場合には、血栓が形成されないようにする目的で、血液適合性に優れた人工材料が採用されたり、血液適合性に優れた人工材料によるコーティングが採用されたりする。しかしながら、現時点では、血液適合性に優れた人工材料が使用されていても、抗凝固剤の継続的な投与が必要である。 [0005] 本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、生体への埋め込み初期から長期間に亘って血液適合性に優れたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムを提供することである。ここでハイブリッドとは、生体由来材料と人工材料という、異種起源の材料の組合せからなることを意味する。 課題を解決するための手段 [0006] 本発明の一態様は、基材と、細胞が産生する細胞外マトリクスを含み脱細胞化による空胞を有し前記基材の外面、または外面から前記基材内部にわたって配された繊維層と、電気的若しくは化学的なシグナルを生体から受け、又は、電気的若しくは化学的なシグナルを生体へ供給し、前記繊維層に接して配されたエレクトロニクスデバイスと、を有するバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムである。 [0007] 前記基材は、生体適合性を有し且つ生体非吸収性であってもよい。 [0008] 前記基材は、多孔質または繊維布からなり、内部に空孔を有していてもよい。 [0009] 前記エレクトロニクスデバイスは前記基材と前記繊維層との間に配されていてもよい。 [0010] 前記エレクトロニクスデバイスは前記基材の前記繊維層と反対の面に配されていてもよい。 [0011] 前記エレクトロニクスデバイスはフィルム基板上に形成され、前記基材に積層されていてもよい。 [0012] 前記基材は、生体組織の外面に倣って変形可能な柔軟性を有していてもよい。 [0013] 前記基材はシート状をなしていてもよい。 [0014] 前記繊維層は、レシピエントの生体内において、レシピエント由来の生体外マトリクスおよび産生細胞により置換可能であってもよい。 発明の効果 [0015] 本発明によれば、生体への埋め込み初期から長期間に亘って血液適合性に優れたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムを提供することができる。 図面の簡単な説明 [0016] [図1] (A)は本発明の第1実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの模式的な断面図、(B)は同バイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの製造時の一過程を示す模式的な断面図である。 [図2] 本発明の第2実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの模式的な断面図である。 [図3] 本発明の第2実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの他の構成を示す模式的な断面図である。 [図4] 本発明の第4実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの模式的な断面図である。 [図5] 本発明の実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムを示す斜視図である。 [図6] (a)は本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムのドナーへの埋め込み前を示す断面図、(b)は図5のA-A線における断面図である。 [図7] 本発明の実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの生体への埋め込みの様子を示す模式図である。 [図8] 本発明の実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムにより測定された信号を示すグラフである。 [図9] 本発明の実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの生体への埋め込みの様子を示す模式図である。 [図10] 本発明の実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムにより測定された信号を示すグラフである。 発明を実施するための形態 [0017] (第1実施形態) 本発明の第1実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムについて説明する。図1(A)は、本発明の第1実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの模式的な断面図である。図1(B)は、同バイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの製造時の一過程を示す模式的な断面図である。 図1(A)に示すように、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、基材2、繊維層3、及びエレクトロニクスデバイス5がこの順に重ねて配された層状構造を有する。 [0018] 基材2は、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1の概略形状を規定し、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1に強度を付与するための部材である。 また、基材2は、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1の製造に用いられるドナーの細胞が生着するための足場として機能する部材である。更には、基材2は、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1が使用される対象となるレシピエントの体内において、エレクトロニクスデバイス5に対してレシピエントの組織を適切に接続する基板としても機能する。 基材2の材料は、生体適合性を有することが好ましい。すなわち、基材2は、細胞毒性が無いか非常に低い材料であることが好ましい。また、本実施形態では、基材2は、生体非吸収性材料であることが好ましい。基材2が生体非吸収性材料であると、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1を体内に長期間埋め込むことができる。ここで、生体非吸収性材料とは加水分解されない、また細胞によって浸食されない材料を意味する。 基材2の材料の具体例としては、チタンやステンレス等生体適合性の高い金属、ポリエステル等生体適合性の高い樹脂が挙げられる。バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1に特に柔軟性が求められる場合には、基材2は樹脂製であることが好ましい。たとえば、柔軟性の高い基材2として、ポリエステルベロアが採用されてよい。 また、基材2に対して繊維層3を効率よく形成する目的で、基材2の外面は、繊維層3を形成する細胞6(図1(B)参照)の足場として好適な表面形状を有していることが好ましい。 基材2が細胞6の足場として好適に機能するには、基材2は、基材2の内部に細胞の定着がされるように、多孔質または繊維布からなる内部に空孔を有することが好ましい。また、基材2の空孔の大きさは、細胞がその内部に侵入できるよう、細胞の大きさと同程度またはより大きいことが好ましい。空孔の細胞侵入断面積が細胞の最大断面積より小さくても、細胞はその形態を変えて狭い空孔に侵入することができる。特に基材2が繊維布からなる場合、基材2の内部の空孔が繊維織に沿って連結されているため、細胞の侵入が特に容易であり、好適である。 基材2の具体例として、基材2はポリエステル繊維で織られた布で構成され、表面を起毛処理されている。起毛処理された布は、起毛処理されていない場合と比較して表面積が多いので、生体を誘導しやすい(すなわち細胞が生着しやすく細胞外マトリクスの産生をさせやすい)環境となっている。さらに、起毛処理された布は、ドナー及びレシピエントの生体組織との結合度も、起毛処理されていない場合と比較して高い。基材2は、織り目から起毛繊維へと徐々に生体組織の密度が変化することで、ドナー及びレシピエントの体内で生体と人工物のシームレスな結合を行っている。 [0019] 繊維層3は、細胞6により産生された細胞外マトリクスを含み基材2の外面に密着した層である。繊維層3には、細胞外マトリクスを産生することにより繊維層3を形成した細胞6が脱細胞化により除去されて残る空胞4が存在する。繊維層3の空胞4の大きさは、繊維層3を形成する細胞6の外形によって規定される。繊維層3の空胞4は、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1の使用時にバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1がレシピエントの体内に埋め込まれた後、レシピエントの細胞6が入り込んで生着する場として機能する。また、繊維層3の空胞4は、体液が流れる流路としても機能する。繊維層3を形成する細胞6は、産生された細胞外マトリクスがレシピエントに適合可能であるように選択される。具体的には、ヒトに埋め込まれるバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1においては、哺乳動物細胞によって繊維層3が形成されることが好ましい。たとえば、繊維層3は、基材2をドナーの体内に留置することでドナーの細胞により形成される。なお、繊維層3を形成する細胞6は、初代培養細胞や不死化細胞であってもよい。 また、基材2が繊維布のように内部に細胞6と同程度またはより大きな空孔を有する場合には、基材2をドナー体内に留置した際に、ドナーの細胞が基材2の内部空孔に侵入するので、脱細胞化によって細胞外マトリクスからなる繊維層3は、基材2の外面から内部にわたって形成されることになる。繊維層3が基材2の外面から内部にわたって形成されることにより、繊維層3は基材2に堅固に固定されるため、耐久性の高い積層体が形成される。 [0020] エレクトロニクスデバイス5は、電気的若しくは化学的なシグナルを生体から受け、又は、電気的若しくは化学的なシグナルを生体へ供給するデバイスである。具体的には、エレクトロニクスデバイス5は、電極、配線、センサ等である。すなわち、エレクトロニクスデバイス5は、レシピエントの体内の状態を観察,診断したり、レシピエントの臓器に対して電気的あるいは化学的な作用を与えて当該臓器の機能を補完したりするデバイスである。 エレクトロニクスデバイス5は、金属、導電性ポリマー、あるいは有機半導体を材料として形成される。たとえば、エレクトロニクスデバイス5は、有機半導体の印刷によって繊維層3上に形成される。また、エレクトロニクスデバイス5は、薄い基板上にエレクトロニクス回路素子を形成したものを積層してもよい。 エレクトロニクスデバイス5の具体例としては、たとえば、血圧センサ、心臓収縮力センサ、脳波測定用電極、心電図測定用電極、呼吸測定用電極、グルコースセンサ、pHセンサ、腫瘍マーカー検出センサ、肝・腎機能測定センサ、人工心臓用アクチュエータ、ひずみゲージ、嚥下・蠕動運動補助アクチュエータ、人工肛門、及び人工靭帯断裂予測センサが挙げられる。 [0021] 次に、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1の製造方法について説明する。 まず、基材2を所望の形状に形成する。本実施形態では、たとえば、基材2は、シート状のポリエステルベロアを所望の形状に切断して形成される。 [0022] 次に、所望の形状に形成された基材2を、この基材2を保持する型枠に固定して、ドナーとなる生物の体内に埋め込む。基材2の埋め込み位置は、たとえばドナーの皮下や腹腔内としてよい。ドナーの体内では、ドナーにとって異物である基材2の外面が、ドナー由来の細胞6で覆われる。さらに、基材2の外面において、ドナー由来の細胞6は基材2に生着し、細胞外マトリクスを産生する。また、ポリエステルベロアのように基材2が細胞6より大きな空孔を有する場合は、ドナー由来の細胞6は基材2の内部にまで生着し、基材2の内部にも細胞外マトリクスを産生する。ドナーに対する基材2の埋め込み期間は、細胞6の生着及び細胞外マトリクスの産生状態に基づいて適宜設定されてよい。たとえば、ヤギの皮下に基材2を埋め込みヤギ由来の細胞に細胞外マトリクスを産生させる場合には、約100日間ヤギの皮下に基材2を埋め込み続ける。この状態で、図1(B)に示すように、基材2の内部から外面にかけて細胞6とそれが産生する細胞外マトリクスからなる層が形成される。この細胞外マトリクスは、後の工程にて繊維層3となる。 [0023] 次に、細胞外マトリクス及びその産生細胞6により基材2表面上と基材2内に形成された層に対して脱細胞化を行う。すなわち、細胞外マトリクス及びその産生細胞6により基材2上に形成された層から細胞6を除去する。細胞6の除去方法の一例としては、界面活性剤により細胞膜を破壊する方法がある。具体的には、細胞外マトリクス及びその産生細胞6により基材2上に形成された層に対して生理食塩水で溶いた1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)溶液を6時間以上接触させることで、細胞6を除去することができる。細胞外マトリクス及びその産生細胞6により基材2表面上および基材2内に形成された層から細胞6が除去されることにより、基材2には、空胞4を有する細胞外マトリクスによる層が残り、これが繊維層3となる。 [0024] 次に、脱細胞化により基材2上に生じた繊維層3に、エレクトロニクスデバイス5を形成する。本実施形態では、エレクトロニクスデバイス5は、生体適合性あるいは血液適合性に優れた材料からなる。 このように、基材2上に、繊維層3とエレクトロニクスデバイス5とがこの順に重ねて形成されることにより、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1が形成される。 [0025] 次に、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1の使用方法及び作用について説明する。 本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、レシピエント(たとえば患者)の体内に埋め込まれる。 [0026] レシピエントの体内において、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、エレクトロニクスデバイス5を除く大部分が細胞外マトリクスによって覆われているので、人工材料のみからなる場合と比較して、レシピエントにより異物と認識される可能性が低い。すなわち、たとえば、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1が血管内に配されたときには血栓が生じにくく、また免疫反応も起こりにくい。 [0027] さらに、繊維層3に存在する空胞4には、レシピエントの細胞が入り込み、ドナー細胞6が産生した細胞外マトリクスを足場として繊維層3に生着する。そして、繊維層3の空胞4に生着したレシピエント細胞は、新たにレシピエント由来の細胞外マトリクスを産生する。 [0028] このように、本実施形態では、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1のレシピエントへの埋め込み時には、ドナー由来の細胞外マトリクスが血栓の発生を抑制し、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1のレシピエントへの埋め込みからある程度の期間が経過するとレシピエント由来の細胞により細胞外マトリクスが補充、更には置換され、レシピエント由来の細胞外マトリクスにより血栓の発生を抑制できる。 [0029] したがって、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1によれば、生体への埋め込み初期から長期間に亘って血液適合性に優れる。 [0030] さらに、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は生体への埋め込み初期から長期間に亘って血液適合性に優れるので、エレクトロニクスデバイス5に免疫細胞や血栓が付着しにくく、精度の高い診断,治療が可能である。 [0031] また、繊維層3には空胞4が存在するので、コラーゲンゲルをコーティングして細胞の足場を形成する場合と比較して細胞が生着しやすい。 [0032] また、繊維層3はレシピエント由来の細胞外マトリクスにより修復可能であるので、埋め込みから長期間繊維層3が維持され、血栓の発生を長期間低く抑えることができる。 [0033] また、レシピエントへの埋め込み前のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、ドナー由来の細胞6が除去されているので、同種別個体への移植である他家移植や、異種別個体への移植である他種移植においても高い適合性を有する。 [0034] また、基材2の外面が細胞外マトリクスで覆われた部分はレシピエントの組織に容易に癒合する。 [0035] また、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、エレクトロニクスデバイス5を形成する直前の状態で凍結乾燥により長期間保管可能である。さらに、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、生体由来材料である細胞外マトリクスが基材2に組み合わされているので、細胞外マトリクスの形状は、基材2の形状に倣う。このため、細胞外マトリクスのみを凍結乾燥させたりコラーゲンのみを凍結乾燥させたりする場合にそれらの凍結乾燥後の形状が凍結乾燥前と大きく変化することに対して、本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は凍結乾燥前後における形状変化が少ない。 [0036] また、柔軟な基材2を有するバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、レシピエントの臓器の形状に倣って変形可能である。このため、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1のレシピエントへの埋め込み期間中におけるレシピエント臓器への負荷が低く、また、エレクトロニクスデバイス5をレシピエント臓器に容易に密着させることができる。 [0037] (第2実施形態) 本発明の第2実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Aについて説明する。なお、以下に説明する各実施形態において、上記第1実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Aの構成要素に対応する構成要素には、第1実施形態における符号と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。 図2は、本発明の第2実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの模式的な断面図である。図3は、本発明の第2実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの他の構成を示す模式的な断面図である。 [0038] 図2に示すように、本実施形態では、基材2上にエレクトロニクスデバイス5が直接形成され、その後、エレクトロニクスデバイス5が形成された基材2がドナーに移植されることで、ドナー由来の細胞6(図1(B)参照)により上記第1実施形態と同様に細胞外マトリクスとその産生細胞6とによる層状構造が形成される。 このため、本実施形態では、第1実施形態と異なり、基材2と繊維層3との間にエレクトロニクスデバイス5が介在された構成を有する。 本実施形態において、薄いフィルム上に電子回路を形成してなるエレクトロニクスデバイス5を、基材2上に接合して積層することにより、基材2とエレクトロニクスデバイス5の積層構造を堅固なものにすることができる。更に、1つのエレクトロニクスデバイス5に開口部を設けたり、複数のエレクトロニクスデバイス5,5の間に隙間を設けたりすることによって繊維層3が直接基材2と接続する構造(図2参照)にすることで、エレクトロニックスデバイス5上の繊維層3が剥離することを防ぐことができる。 また、エレクトロニクスデバイス5と繊維層3の接合を強固にするために、エレクトロニクスデバイス5上に、あるいは図3に示すようにエレクトロニクスデバイス5及び基材2を覆うように、繊維層3との密着層7を形成することは有効である。この密着層7は、基材2と同様に生体適合性を有し、細胞生着のための足場として機能することが好ましい。密着層7の具体例として、薄いポリエステル布を接着やエレクトロニクスデバイス5上に融着したもの、エレクトロスピニング法により、繊維をエレクトロニクスデバイス5上、さらには基材2上に直接形成したものが採用できる(図3参照)。 本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Aを製造するには、エレクトロニクスデバイス5と基材2とを積層したのちに、エレクトロニクスデバイス5と基材2との積層体をドナーの生体内に埋設して、繊維層3を生成するドナー由来の細胞外マトリクスおよびそれを産生する細胞を基材2表面上および基材2内部とエレクトロニクスデバイス5上に形成させる。その後、第1実施形態と同様に脱細胞化の処理を経て、繊維層3を持つ積層構造が得られる。 [0039] 本実施形態でも、第1実施形態と同様に効果を奏する。 さらに、本実施形態では、エレクトロニクスデバイス5が細胞外マトリクスに覆われるので、第1実施形態と比較して生体適合性及び血液適合性がいずれも高まる。また、レシピエントの体内にエレクトロニクスデバイス5と基材2との積層体を埋設した後に、レシピエントの組織細胞が繊維層3内に良好に生着して、エレクトロニクスデバイス5と生体のインターフェースが適切に形成されることにより、エレクトロニクスデバイス5として実装されたセンサ等により体内の状態を観察,診断したり、レシピエントの生体組織に対して電気的あるいは化学的な作用を与えたりすることを長期にわたり良好に継続することができる。 本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Aをレシピエントの体内に長期間埋設する場合においては、ドナー由来の繊維層3には、レシピエント由来の細胞が生着する。レシピエントの体内への埋設初期におけるドナー由来の繊維層3に含まれている細胞外マトリクスは、ドナー由来の細胞等により分解され、ドナー由来の細胞が新たに産生する細胞外マトリクスに置き換えられる。本実施形態では、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Aとレシピエント組織細胞との間で、恒常的に良好なインターフェースが築かれる。 [0040] (第3実施形態) 本発明の第3実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Bについて説明する。 本実施形態では、図1(B)で示した細胞外マトリクスとその産生細胞6とによる層状構造がドナーの体内でなくex vivoで形成される点で上記第2実施形態と製造方法が異なる。 [0041] なお、本実施形態における細胞外マトリクスとその産生細胞6とによる層状構造の形成方法は、たとえば、バイオリアクター内でドナー由来の細胞6を培養したり、セルプリンティングによりドナー由来の組織を基材2上に構築したりする。なお、エレクトロニクスデバイス5が基材2上で占める領域を除く領域のみにドナー由来の細胞外マトリクスを産生させてもよい。この場合、第1実施形態と同様に、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Bの外面にエレクトロニクスデバイス5が露出した構成となる。 [0042] 本実施形態でも第2実施形態と同様の効果を奏する。 また、本実施形態ではドナーの体内を利用する必要がない。 [0043] (第4実施形態) 本発明の第4実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Cについて説明する。 図4は、本発明の第4実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの模式的な断面図である。 [0044] 図4に示すように、本実施形態ではエレクトロニクスデバイス5は、基材2において、繊維層3が形成されている面と反対の面に配されている。本実施形態においては、基材2とエレクトロニクスデバイス5とからなる部材をドナー体内に埋設しても良いし、基材2と繊維層3からなる部材を作成した後に、エレクトロニクスデバイス5を実装しても良い。どちらの埋設方法であっても、基材2表面や基材2の内部にドナー由来の細胞が生着して細胞外マトリクスを産生することで上記第1実施形態と同様に繊維層3を生成することができる。 [0045] 本実施形態では、エレクトロニクスデバイス5は繊維層3と基材2とを間に挟んで、レシピエントの組織細胞と接続することになる。この接続を実現するには、基材2は一方の面から他方の面にわたって物質透過可能な空孔を内部に持つことが好ましい。このとき、この基材2の空孔が、繊維層3が形成される側で細胞が侵入できる寸法とし、エレクトロニクスデバイス5が形成される側で細胞が侵入できない寸法とすることで、エレクトロニクスデバイス5の表面に直接細胞が接触しないようにすることができる。 [0046] レシピエント由来の細胞やドナー由来の細胞がエレクトロニクスデバイス5に直接接触しないため、生体にとって異物であるエレクトロニクスデバイス5に対する拒絶反応を抑えることができ、極めて長期にわたって安全にバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Cを生体内に埋設することができる。 [0047] 本実施形態のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1Cは、たとえばエレクトロニクスデバイス5として血液および組織間質液成分分析センサを備えた場合、血清あるいは血漿や組織間質液等が好適にセンサに到達し、且つ長期的な埋設に対する拒絶反応が低く抑えられる。 実施例 [0048] 次に、上記第1実施形態に開示されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1の実施例について説明する。図5は、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムを示す平面図である。図6(a)は本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムのドナーへの埋め込み前を示す断面図である。図6(b)は図5のA-A線における断面図である。 [0049] 本実施例では、図5及び図6(a)(b)に示すように、バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1のエレクトロニクスデバイス5として圧力センサ51が採用され、レシピエントの生体内に埋設された状態でレシピエントの動きを検出するためのシステムの例が示される。 [0050] 本実施形態では、エレクトロニクスデバイス5としての圧力センサ51は、高分子膜厚フィルムで構成された圧力抵抗センサで、圧力がかかると端子の両端の抵抗値が変わるようになっている。本実施形態では、圧力抵抗センサの端子の両端の抵抗値を体外へとリード線52又は無線通信により出力し、体外で圧力データとして取得する。 [0051] 図6(a)に示すように、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、上記の圧力センサ51は、起毛2aを有する基材2の内部に配置された。具体的には、ポリエステルに起毛処理した繊維(厚さ1mm)からなる2枚のシート状の基材2の間に圧力センサ51が配されており、2枚のシート状の基材2によって圧力センサ51が覆われた。 2枚の基材2と圧力センサ51との複合体は、ドナーとなる生体であるヤギの皮下に100日間留置された。ドナーとなるヤギ由来の組織は基材を足場として生着した。 [0052] 基材2と圧力センサ51との複合体が100日間ヤギの皮下に留置された後、基材2と圧力センサ51との複合体はドナーから摘出され、上記第1実施形態に開示された脱細胞化の処理が行われた。具体的には、脱細胞化の処理として、ドデシル硫酸ナトリウム(1w%)を生理食塩水に溶いた溶液中で基材2と圧力センサ51との複合体を6時間攪拌する細胞溶解処理と、細胞溶解処理の後72時間生理食塩水中で基材2と圧力センサ51との複合体を攪拌してドデシル硫酸ナトリウム(1w%)及びドナー細胞を除去するリンス処理とが行われた。 [0053] ドナーへの留置及びその後の脱細胞化によって得られた本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1では、図6(b)に示すように、圧力センサ51の最表面は細胞外マトリクスを含む繊維層3で構成されている。基材2の内部および表面にも細胞外マトリクスは存在する。基材2は、織り目構造を持つ中心部から上下の起毛面に向かって繊維密度が減少するように、基材2の密度が場所により異なる。そのため、本実施例では、細胞外マトリクスは、最表面が最も密度が高く、中心部に向かって密度が低下する。 [0054] 本実施例により製造されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、ドナー細胞が含まれていないので、ドナー細胞の表面抗原などレシピエントに対する拒絶反応を惹起する要因となる物質の含有量が極めて少ない。 [0055] 以下に、本実施例により製造されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1がドナーと異なる動物種のレシピエントの体内に埋設されて使用された例が示される。図7は、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの生体への埋め込みの様子を示す模式図である。図8は、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムにより測定された信号を示すグラフである。図9は、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムの生体への埋め込みの様子を示す模式図である。図10は、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステムにより測定された信号を示すグラフである。 [0056] 図7及び図9に示すように、本実施例によりドナーとしてヤギが用いられて製造されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、レシピエントの一例としてラットRの体内に埋め込まれた。 [0057] 図7は、本実施例により製造されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1がラットRの胸骨と心臓との間に配された状態を示している。 [0058] 10週齢のオスのラットをイソフルランで麻酔導入し、人工呼吸器下で、ラットの心臓と胸骨の間に圧力センサ51が配されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1を設置し、閉胸した状態で、圧力センサ51から発せられる信号をラットの体外で計測した。圧力センサ51からの信号の計測として、リード線52を介して圧力センサ51を体外で定電流回路に直列に接続し、圧力に対応して変動するセンサの抵抗の変動を、センサ間の電圧変動として計測した。センサ間の電圧変動のデータの記録にはデータロガーを使用し、1kHzでサンプリングし、50Hzのローパスフィルタを適用した。 [0059] 図8は、データロガーに記録されたデータの一部を示すグラフであり、横軸が記録開始からの時間(分:秒)を示し、縦軸が圧力変動に対応する圧力センサ51の電圧(縦軸の上側が高電圧、縦軸の下側が低電圧)を示す。図8に示すように、本実施例では、5秒間に圧力変動が28回記録され、1分間に332回の圧力変動が記録された。この圧力変動は、10週齢のラットとして一般的な心拍数の範囲内(280~380回/分)である。これらのことから、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、ラットの胸骨と心臓との間に配されることで、ラットの心拍を計測できたといえる。 [0060] 図9は、本実施例により製造されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1がラットRの関節に配された状態を示している。 [0061] 10週齢のオスのラットをイソフルランで麻酔導入し、右後脚の皮下に、圧力センサ51が配されたバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1を設置した。右後脚の皮下に圧力センサ51が配されることで、大腿骨と下腿骨を屈曲と伸展動作したときの体内の圧力を計測可能である。圧力センサ51からの信号の計測として、リード線52を介して圧力センサ51を体外で定電流回路に直列に接続し、圧力に対応して変動するセンサの抵抗の変動を、センサ間の電圧変動として計測した。センサ間の電圧変動のデータの記録にはデータロガーを使用し、1kHzでサンプリングし、50Hzのローパスフィルタを適用した。 [0062] 図10は、データロガーに記録されたデータを示すグラフであり、横軸が記録開始からの時間(秒)を示し、縦軸が圧力変動に対応する圧力センサ51の電圧(縦軸の上側が高電圧、縦軸の下側が低電圧)を示す。 [0063] 図10に示すように、約2秒間隔で脚の動作をさせたときに、同期した体内圧力の変動を計測できた。これらのことから、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、ラットの関節近傍の皮下に配されることで、ラットの運動を計測できたといえる。 [0064] このように、本実施例のバイオハイブリッドエレクトロニクスシステム1は、レシピエントの生体内に埋設された状態で、エレクトロニクスデバイス5(本実施例では圧力センサ51)を用いた計測を体外から行うことができる。 [0065] 以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。 また、上述の各実施形態において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。 産業上の利用可能性 [0066] 本発明は、生体内に植え込まれる電子機器として利用できる。 符号の説明 [0067] 1,1A,1B バイオハイブリッドエレクトロニクスシステム 2 基材 3 繊維層 4 空胞 5 エレクトロニクスデバイス 6 細胞 7 密着層 51 圧力センサ 52 リード線 |
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