METHOD FOR PREPARING CRYSTALLOGRAPHY SAMPLE AND METHOD FOR DETERMINING MOLECULAR STRUCTURE OF METABOLITE
外国特許コード | F150008626 |
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整理番号 | (AF11P026) |
掲載日 | 2015年12月16日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2014JP067233 |
国際公開番号 | WO 2015098152 |
国際出願日 | 平成26年6月27日(2014.6.27) |
国際公開日 | 平成27年7月2日(2015.7.2) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | METHOD FOR PREPARING CRYSTALLOGRAPHY SAMPLE AND METHOD FOR DETERMINING MOLECULAR STRUCTURE OF METABOLITE |
発明の概要(英語) | The present invention is a method that is for preparing a crystallography sample for determining the molecular structure of a metabolite and that is characterized by having a step in which, by means of contacting, to a solvent solution containing the metabolite, a monocrystal of a porous compound having a 3D skeleton, which is configured from one or more molecular chains or one or more molecular chains and a skeleton forming compound, and pores and/or cavities formed by being partitioned by the 3D skeleton and arranged in a regular manner three-dimensionally, a crystallography sample is prepared in which the molecules of the metabolite are regularly arranged within the pores and/or cavities of the monocrystal. |
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国際特許分類(IPC) |
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指定国 |
National States: AE AG AL AM AO AT AU AZ BA BB BG BH BN BR BW BY BZ CA CH CL CN CO CR CU CZ DE DK DM DO DZ EC EE EG ES FI GB GD GE GH GM GT HN HR HU ID IL IN IR IS JP KE KG KN KP KR KZ LA LC LK LR LS LT LU LY MA MD ME MG MK MN MW MX MY MZ NA NG NI NO NZ OM PA PE PG PH PL PT QA RO RS RU RW SA SC SD SE SG SK SL SM ST SV SY TH TJ TM TN TR TT TZ UA UG US UZ VC VN ZA ZM ZW ARIPO: BW GH GM KE LR LS MW MZ NA RW SD SL SZ TZ UG ZM ZW EAPO: AM AZ BY KG KZ RU TJ TM EPO: AL AT BE BG CH CY CZ DE DK EE ES FI FR GB GR HR HU IE IS IT LT LU LV MC MK MT NL NO PL PT RO RS SE SI SK SM TR OAPI: BF BJ CF CG CI CM GA GN GQ GW KM ML MR NE SN TD TG |
参考情報 (研究プロジェクト等) | CREST Development of the Foundation for Nano-Interface Technology AREA |
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発明の名称 | 結晶構造解析用試料の作製方法、及び代謝物の分子構造決定方法 |
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発明の概要 | 本発明は、代謝物の分子構造を決定するための結晶構造解析用試料の作製方法であって、1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有する、多孔性化合物の単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させることにより、前記代謝物の分子が、前記単結晶の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を作製する工程を有することを特徴とする結晶構造解析用試料の作製方法である。 |
特許請求の範囲 |
[請求項1] 代謝物の分子構造を決定するための結晶構造解析用試料の作製方法であって、 1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有する、多孔性化合物の単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させることにより、 前記代謝物の分子が、前記単結晶の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を作製する工程を有すること を特徴とする結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項2] 前記代謝物が、薬剤活性成分の代謝物、農薬活性成分の代謝物及び食品の代謝物からなる群から選ばれるいずれかである、請求項1に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項3] 前記代謝物を含む溶媒溶液中の代謝物の含有量が5mg以下である、請求項1または2に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項4] 前記代謝物を含む溶媒溶液が、生体から採取した生体試料液、培地から得られる溶液、又は、前記生体試料液又は培地を精製して得られた精製処理液である、請求項1~3のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項5] 前記多孔性化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子及び中心金属としての金属イオンとを含む多核金属錯体である、請求項1~4のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項6] 前記多孔性化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子の複数、及び中心金属としての金属イオンの複数から、自己組織的に形成された多核金属錯体である、請求項5に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項7] 前記配位性部位を2つ以上有する配位子が、下記式(1) [化1] (式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X1~X3は、それぞれ独立に、2価の有機基、またはArとY1~Y3とを直接結ぶ単結合を表す。Y1~Y3は、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。) で示される三座配位子である、請求項5または6に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項8] 前記中心金属としての金属イオンが、周期表第8~12族の金属のイオンであることを特徴とする、請求項5~7のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項9] 前記単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させる手段が、前記単結晶を、前記溶媒溶液に浸漬させるものである、請求項1~8のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 [請求項10] 代謝物の分子構造決定方法であって、請求項1~9のいずれかに記載の方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて、結晶構造解析法により、代謝物の分子構造を決定するステップを含むことを特徴とする代謝物の分子構造決定方法。 [請求項11] 代謝物の分子構造決定方法であって、請求項1~9のいずれかに記載の方法により得られた結晶構造解析用試料についての結晶構造解析データと、前記代謝物の親化合物の分子が、前記単結晶と同一の単結晶の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料についての結晶構造解析データと、を比較するステップを含むことを特徴とする代謝物の分子構造決定方法。 |
明細書 |
明 細 書 発明の名称 : 結晶構造解析用試料の作製方法、及び代謝物の分子構造決定方法 技術分野 [0001] 本発明は、代謝物の分子構造を決定する際に有用な結晶構造解析用試料を作製する方法、及び、この方法によって得られた結晶構造解析用試料を用いる、代謝物の分子構造を決定する方法に関する。 背景技術 [0002] 近年、代謝反応により生成する代謝物を同定する(代謝物の分子構造を決定する)ことが非常に重要になってきている。 例えば、医薬品の開発においては、医薬品の薬効機序や安全性評価のために、細胞実験、組織実験、動物実験、臨床研究等において、薬剤活性成分の代謝物の同定が行われている。 しかしながら、通常、生体等から採取した代謝物は微量であるため、代謝物を分析する際は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)やNMR(核磁気共鳴法)等の、試料が微量であっても分析が可能な分析法が主に用いられてきた。 例えば、特許文献1には、RI(放射性同位体)定量分析と質量分析を組み合わせた、薬物代謝物の分析方法が開示されている。 [0003] 従来、有機化合物の分子構造を決定する方法としては、X線結晶構造解析法が知られている。X線結晶構造解とができるため、極めて有用な方法である。 しかしながら、従来の方法により、単結晶を作製しようとする場合、結晶化の最適な条件を見出すまでに、数多くの試行錯誤実験を繰り返す必要があり、結晶化の条件検討をする際は、最低でも数ミリグラム量の試料を確保する必要があった。 [0004] このため、痕跡量物質の分子構造をX線結晶構造解析法により決定する場合、数ミリグラム量の試料を確保するために、動態実験を繰り返したり、別途の化学合成を行ったりする必要がある。特に、薬物代謝物などの代謝物は、親化合物と未知代謝物間の物性の違いが大きい場合が多く、しかも化合物の種類が多岐にわたり、数も多いため、1つ1つの化合物の結晶化条件を最適化するために、莫大な時間と費用が費やされる。 また、代謝物の分子構造は、pHや塩濃度等によって、様々に構造変化するものが多く、分子構造(コンフォメーション)まで含めて化学的に純度の高いものでなければ結晶化させることが困難である、 このような理由により、従来、痕跡量でしか得られない代謝物の分子構造をX線結晶構造解析法により明らかにした例はほとんど報告されていない。 したがって、代謝物の分子構造をX線結晶構造解析法により明らかにすることができる技術は、より有効かつ安全な医薬品を効率よく開発するうえで極めて重要である。 先行技術文献 特許文献 [0005] 特許文献1 : WO2010/041459号パンフレット 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0006] 本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、代謝物の分子構造を決定する際に有用な結晶構造解析用試料を作製する方法、及び、この方法によって得られた結晶構造解析用試料を用いる、代謝物の分子構造を決定する方法を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0007] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、代謝物を含む溶媒溶液を、特定の多孔性化合物の単結晶と接触させることにより、目的の結晶構造解析用試料を作製できることを見出し、本発明を完成するに到った。 [0008] かくして本発明によれば、下記(1)~(7)の結晶構造解析用試料の作製方法、及び、(8)、(9)の代謝物の分子構造決定方法が提供される。 [0009] (1)代謝物の分子構造を決定するための結晶構造解析用試料の作製方法であって、 1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有する、多孔性化合物の単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させることにより、 前記代謝物の分子が、前記単結晶の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を作製する工程を有すること を特徴とする結晶構造解析用試料の作製方法。 (2)前記代謝物が、薬剤活性成分の代謝物、農薬活性成分の代謝物及び食品の代謝物からなる群から選ばれるいずれかである、(1)に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (3)前記代謝物を含む溶媒溶液中の代謝物の含有量が5mg以下である、(1)又は(2)に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (4)前記代謝物を含む溶媒溶液が、生体から採取した生体試料液、培地から得られる溶液、又は、前記生体試料液又は培地を精製して得られた精製処理液である、(1)~(3)のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (5)前記多孔性化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子及び中心金属としての金属イオンとを含む多核金属錯体である、(1)~(4)のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (6)前記多孔性化合物が、配位性部位を2つ以上有する配位子の複数個と、中心金属としての金属イオンの複数から、自己組織的に形成された多核金属錯体である、(5)に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (7) 前記配位性部位を2つ以上有する配位子が、下記式(1) [0010] [化1] [0011] (式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X1~X3は、それぞれ独立に、2価の有機基、またはArとY1~Y3とを直接結ぶ単結合を表す。Y1~Y3は、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。) で示される三座配位子である、(5)または(6)に記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (8)前記中心金属としての金属イオンが、周期表第8~12族の金属のイオンであることを特徴とする、請求項5~7のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (9)前記単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させる手段が、前記単結晶を、前記溶媒溶液に浸漬させるものである、(1)~(8)のいずれかに記載の結晶構造解析用試料の作製方法。 (10)代謝物の分子構造決定方法であって、(1)~(9)のいずれかに記載の方法により得られた結晶構造解析用試料を用いて、結晶構造解析法により、代謝物の分子構造を決定するステップを含むことを特徴とする代謝物の分子構造決定方法。 (11)代謝物の分子構造決定方法であって、(1)~(9)のいずれかに記載の方法により得られた結晶構造解析用試料についての結晶構造解析データと、前記代謝物の親化合物の分子が、前記単結晶と同一の単結晶の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料についての結晶構造解析データと、を比較するステップを含むことを特徴とする代謝物の分子構造決定方法。 発明の効果 [0012] 本発明によれば、代謝物の分子構造を決定する際に有用な結晶構造解析用試料を作製する方法、及び、この方法によって得られた結晶構造解析用試料を用いる、代謝物の分子構造を決定する方法が提供される。 本発明によれば、分子構造を決定したい代謝物が、単結晶を得ることが困難な物質や、常温で液状や気体状の物質であっても、結晶構造解析用試料を作製することができ、代謝物の分子構造を決定することができる。 本発明によれば、用いる代謝物の溶媒溶液が平衡混合物の溶液であっても、結晶構造解析用試料を作製することができ、代謝物の分子構造を決定することができる。 図面の簡単な説明 [0013] [図1] 単結晶の細孔が延在する方向を表す図である。 [図2] 多核金属錯体1の三次元骨格を表す図である。 [図3] 多核金属錯体3の三次元ネットワーク構造を表す図である。 [図4] 多核金属錯体5の三次元ネットワーク構造を表す図である。 [図5] 実施例1で得られた、アドレノステロン代謝物を包接した多核金属錯体を表す図である。 [図6] アドレノステロン代謝物の分子構造を表す図である。 [図7] 実施例2で得られた、2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル代謝物を包接した多核金属錯体を表す図である。 [図8] 2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチル代謝物の分子構造を表す図である。 [図9] 実施例3で得られた、テストステロン代謝物を包接した多核金属錯体を表す図である。 [図10] テストステロン代謝物の分子構造を表す図である。 [図11] 実施例4で得られた、メチル 5-メトキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-カルボキシレート代謝物を包接した多核金属錯体を表す図である。 [図12] メチル-5-メトキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-カルボキシレート代謝物の分子構造を表す図である。 [図13] 実施例5で得られた、ベンジル代謝物を包接した多核金属錯体を表す図である。 [図14] ベンジル代謝物の分子構造を表す図である。 [図15] 実施例6で得られた、DDT代謝物を包接した多核金属錯体を表す図である。 [図16] DDT代謝物の分子構造を表す図である。 [図17] 実施例7で得られた、アドレノステロンを包接した多核金属錯体を表す図である。 [図18] アドレノステロンの分子構造を表す図である。 [図19] アドレノステロンとその代謝物の結晶内での位置の比較図である。 発明を実施するための形態 [0014] 以下、本発明を、1)結晶構造解析用試料の作製方法、及び、2)代謝物の分子構造決定方法、に項分けして詳細に説明する。 [0015] 1)結晶構造解析用試料の作製方法 本発明の結晶構造解析用試料の作製方法は、代謝物の分子構造を決定するための結晶構造解析用試料の作製方法であって、1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成された三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有する、多孔性化合物の単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させることにより、前記代謝物の分子が、前記単結晶の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料を作製する工程を有することを特徴とする。 [0016] (i)代謝物を含む溶媒溶液 本発明の対象とする代謝物は、代謝過程の中間生産物又は最終生成物である。 代謝物の種類は、特に限定されない。例えば、薬剤活性成分の代謝物、農薬活性成分の代謝物、食品の代謝物等が挙げられる。 これらの中でも、有効性及び安全性により優れる薬剤の開発期間を大幅に短縮できることが期待されることから、本発明においては、薬剤活性成分の代謝物、農薬活性成分の代謝物が好ましく、薬剤活性成分の代謝物が特に好ましい。 [0017] 薬物などは、動植物内に存在する種々の体内酵素によって代謝されて、薬効を奏したり、排泄されることが知られている。代表的な体内酵素としては、水酸化酵素シトクロムP450(またはCYP450)が知られている。この酵素は、テストステロンを6-ヒドロキシテストステロンに代謝させることが確認されている(DRUG METABOLISM AND DISPOSITION,Vol.25,No.4,p502-507,1997)。 [0018] 薬物代謝には、対象物質の分子量を低くする(分解)か、または大きく変えない反応(第1相の反応)と、他の分子を付加する(分子量が大きくなる)反応(第2相の反応。抱合ともいう。)に分類される。第1相の反応としては、酸化反応、水酸化反応、加水分解反応、還元反応、水和反応等が挙げられる。 また、第2相の反応において付加される分子としては、硫酸、酢酸、グルタチオン、グルクロン酸等が挙げられる。 これらの中でも、本発明の対象とする代謝物としては、第1相の反応により生成する代謝物、すなわち、親化合物が、酸化反応、水酸化反応、加水分解反応、還元反応、水和反応により変化した化合物が好ましい。 [0019] 本発明の対象とする代謝物としては、親化合物から化学変化した部分が、親化合物の全化学結合の30%以内である化合物であるのが好ましく、25%以内である化合物であるのがより好ましく、20%以内であることがさらに好ましい。 ここで、「親化合物から化学変化した部分」とは、親化合物のすべての炭素原子のうち、その結合環境が変化した部分(共有結合や配位結合等の化学結合において、結合の相手となる原子又は原子団が代謝前後において変化した部分、あるいは、結合次数が変化した部分)をいう。たとえば、アドレノステロンは、分子内に19個の炭素原子を有し、アドレノステロン代謝物は、親化合物の19個の炭素原子のうち、3個の炭素原子の結合環境が変化した化合物である。この場合、親化合物から化学変化した部分が、親化合物の全化学結合の15.79%であるとする。また、「親化合物から化学変化した部分」の数は、5個以下であることが好ましく、4個以下であることがより好ましく、3個以下であることがさらに好ましい。 このように、親化合物と構造類似性が高い代謝物の場合には、親化合物の結晶構造解析データを利用することで、より迅速かつ確実に代謝物の分子構造を明らかにすることができる。 [0020] なお、親化合物と代謝物の構造の変化として、上述した化学変化のほかに、下記に示す例のごとく、回転可能な単結合の周りの置換基の回転角の変化や可変な立体配座の変化が観測される場合がある。これらは、化学変化には含まれない。 [0021] [化2] [0022] 本発明によれば、得られる代謝物が、置換基の回転角度、結合角、立体配座等が相違するものや、溶媒和状態が相違するものの混合物(すなわち、異性体混合物、置換基の回転角度、結合角、立体配座等が相違する化合物の混合物)であっても、これらを中空内部に規則性をもって包接させることができ、それぞれの異性体、置換基の回転角度、結合角、立体配座が相違する複数の化合物の分子構造の解析を行うことも可能である。 [0023] 代謝物の大きさは、代謝物が単結晶の細孔及び/又は中空に入り得る大きさのものである限り、特に限定されない。代謝物の分子量は、通常、20~3,000、好ましくは100~2,000である。 本発明においては、あらかじめ、核磁気共鳴分光法、質量分析法、元素分析等により、代謝物の分子の大きさをある程度把握し、適当な細孔や中空を有する単結晶を適宜選択して用いることも好ましい。 [0024] 代謝物を含む溶媒溶液の溶媒としては、用いる単結晶を溶解せず、かつ、代謝物を溶解するものであれば、特に限定されない。 また、代謝物を含む溶媒溶液は、代謝物が溶液中で平衡混合物の状態になっているものであってもよい。本発明によれば、多孔性化合物が有する中空または細孔内の大きさ及び形状と、平衡混合物のそれぞれの異性体の大きさ及び形状にも依存するが、平衡混合物の複数の異性体が包接した多孔性金属錯体を得ることができる。本発明の結晶構造解析方法によれば、分子構造が異なる化合物(コンフォメーションが相違する化合物も含む)が中空または細孔内に包接された場合、それぞれの化合物に由来するピークを観測することが出来、結果として、すべての化合物の分子構造を解析することも可能である。 [0025] 後述するように、代謝物を含む溶媒溶液から溶媒を揮発させることにより、代謝物を含む溶媒溶液を濃縮する操作を行う場合は、用いる溶媒としては、常圧(1×105Pa)での沸点が、200℃以下のものが好ましく、-50~+185℃のものがより好ましく、30~80℃のものがさらに好ましい。 [0026] 用いる溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。 [0027] 前記代謝物を含む溶媒溶液中の代謝物の含有量は、好ましくは5mg以下、より好ましくは0.5μg以上1mg以下、さらに好ましくは1μg以上0.5mg以下である。 本発明の作成方法は、代謝物が5mg以下という微量でしか得られない場合であっても、効率よく結晶構造解析用試料を作製することができる。 代謝物の量が5mgを超える場合、従来の単結晶の作製方法を用いる場合であっても、結晶化条件を十分に検討することができるため、単結晶が得られる可能性が高いと考えられる。本発明の結晶構造解析用試料の作製方法は、従来の結晶化方法では単結晶が得られにくかった、代謝物の含有量が5mg以下の場合に特に有用である。 [0028] 前記代謝物を含む溶媒溶液中の代謝物の濃度は、特に限定されないが、良質の結晶構造解析用試料を効率よく作製する観点から、通常、0.001~50μg/μL、好ましくは0.01~5μg/μL、より好ましくは0.1~1μg/μLである。 [0029] 前記代謝物を含む溶媒溶液としては、前記代謝物を含む溶媒溶液が、生体から採取した生体試料液、培地、及び、前記生体試料液又は培地の精製処理を行うことで得られた精製処理液(以下、「精製処理液」ということがある。)が挙げられる。 [0030] 生体(人体や動物、植物)から採取した生体試料液としては、血液(血漿)、尿、汗、唾液、胆汁等の体液;細胞、菌類(微生物)、組織、臓器等を処理して得られたホモジネート液;等が挙げられる。 これらの生体試料液を採取、調製する際は、生化学における常法を適宜利用することができる。 [0031] 培地としては、組織や細胞、菌類(微生物)を培養した後の培地が挙げられる。これらの培地は、液体培地、固体培地のいずれであってもよい。固体培地の場合、後述する溶媒抽出処理等を行い、溶液を調製することで本発明の方法に用いることができる。 [0032] 前記精製処理液において、精製方法は特に限定されない。例えば、遠心分離、濾過、透析、溶媒抽出、電気泳動、液体クロマトグラフィー等の精製方法が挙げられる。これらの精製方法は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。 精製処理液としては、効率よく得られることから、溶媒抽出後の抽出液、液体クロマトグラフィー後の溶離液、または、これらの液の濃度調節等を行った溶液が好ましい。 [0033] (ii)多孔性化合物の単結晶 本発明に用いる多孔性化合物の単結晶は、内部に、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有するものである。内部に、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有するものであれば、細孔及び/又は中空内に、結晶構造解析の対象とする代謝物を規則正しく(一定の規則性をもって)、包接することができ、結果として、この包接物を用いて結晶構造解析を行うことができる。 [0034] 前記三次元骨格は、単結晶内部において、三次元的な広がりを有する骨格状の構造体をいう。三次元骨格は、1若しくは2以上の分子鎖、又は、1若しくは2以上の分子鎖及び骨格形成性化合物によって構成されたものである。 「分子鎖」とは、共有結合及び/又は配位結合によって組織化された組織体をいう。この分子鎖内には、分岐構造や環状構造があってよい。 1の分子鎖によって構成された三次元骨格としては、例えば、「ジャングルジム」状に組織化された骨格が挙げられる。 2以上の分子鎖によって構成された三次元骨格としては、2以上の分子鎖が、水素結合、π-πスタッキング相互作用、ファンデルワールス力等の相互作用により、全体として一つに組織化された骨格をいう。例えば、2つの分子鎖が、「ちえのわ」状に絡みあってなる骨格が挙げられる。このような三次元骨格としては、後述する、多核金属錯体1、2の三次元骨格が挙げられる。 [0035] 「骨格形成性化合物」とは、分子鎖の一部を構成するものではないが、水素結合、π-πスタッキング相互作用、ファンデルワールス力等の相互作用により、三次元骨格の一部を構成する化合物をいう。例えば、後述する多核金属錯体における骨格形成性芳香族化合物が挙げられる。 「三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空」とは、結晶構造解析によって、細孔や中空を確認することができる程度に乱れなく、規則的に整列している細孔や中空をいう。 「細孔」、「中空」は単結晶内における内部空間を表す。筒状に伸びている内部空間を「細孔」といい、それ以外の内部空間を「中空」という。 [0036] 細孔の大きさは、細孔が延在する方向に対して、最も垂直に近い結晶面と平行な面(以下、平行面ということがある。)における細孔の内接円(以下、単に「細孔の内接円」ということがある。)の直径と相関がある。内接円が大きければ、細孔も大きくなり、内接円が小さければ、細孔も小さくなる。 [0037] 「細孔が延在する方向」は、以下の方法により決定することができる。 すなわち、まず、対象の細孔を横切る適当な方向の結晶面X(A面、B面、C面かそれぞれの対角面など)を選ぶ。そして、結晶面X上に存在し、かつ、三次元骨格を構成する原子を、ファンデルワールス半径を用いて表すことで、結晶面Xを切断面とする細孔の断面図を描く。同様に、当該結晶面Xと一単位胞ずれた結晶面Yを切断面とする細孔の断面図を描く。次に、それぞれの結晶面における細孔の断面形状の中心間を、立体図において直線(一点鎖線)で結ぶ(図1参照)。このとき得られる直線の方向が、細孔が延在する方向である。 [0038] また、「細孔の内接円の直径」は、以下の方法により求めることができる。 すなわち、まず、上記と同様の方法により、前記平行面を切断面とする細孔の断面図を描く。次に、その断面図において細孔の内接円を描き、その直径を測定した後、得られた測定値を実際のスケールに換算することで、実際の細孔の内接円の直径を求めることができる。 さらに、前記平行面を、一単位胞分、徐々に平行移動させながら、各平行面における細孔の内接円の直径を測定することで、最も狭い部分の内接円の直径と、最も広い部分の内接円の直径が求められる。 [0039] 本発明に用いる単結晶の細孔の内接円の直径は、2~30Åが好ましく、3~10Åがより好ましい。 [0040] また、細孔の形状が真円とは大きく異なる場合、上記平行面における細孔の内接楕円の短径及び長径から、単結晶の包接能を予測することが好ましい。 本発明に用いる単結晶の細孔の内接楕円の長径は、2~30Åが好ましく、3~10Åがより好ましい。また、単結晶の細孔の内接楕円の短径は、2~30Åが好ましく、3~10Åがより好ましい。 [0041] 本発明に用いる単結晶の細孔容積は、論文Acta Crystallogr. A 46,194-201(1990)に記載の手法により求めることができる。すなわち、計算プログラム(PLATON SQUEEZE PROGRAM)により算出したSolvent Accessible Void(単位格子内の空隙体積)をもとに「単結晶の体積×単位胞における空隙率」を用いて計算することができる。 本発明に用いる単結晶の細孔容積(一粒の単結晶中のすべての細孔の容積)は、1×10-7~0.1mm3が好ましく、1×10-5~1×10-3mm3がより好ましい。 [0042] また、単結晶が中空を有する場合、その中空の大きさも、細孔容積と同様に、論文Acta Crystallogr. A 46,194-201(1990)に記載の手法により求めることができる。 [0043] 本発明に用いる単結晶は、立方体または直方体形状を有するものが好ましい。その一辺は、好ましくは10~1000μm、より好ましくは、60~200μmである。このような形状、大きさの単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。 [0044] また、用いる単結晶は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。かかる特性を有する単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。 [0045] 多孔性化合物の単結晶としては、上記の細孔及び/又は中空を有するものであれば、特に限定されない。例えば、多核金属錯体の単結晶や、尿素結晶等が挙げられる。なかでも、細孔や中空の大きさや、細孔や中空内の環境(極性等)を制御し易いことから、多核金属錯体の結晶が好ましい。 [0046] 多核金属錯体としては、配位性部位を2つ以上有する配位子の複数個、及び中心金属としての金属イオンを複数個を含むものが挙げられる。 [0047] 配位性部位を2つ以上有する配位子(以下、「多座配位子」ということがある。)は、前記三次元骨格を形成し得るものである限り、特に限定されず、公知の多座配位子を利用することができる。 ここで、「配位性部位」とは、配位結合が可能な非共有電子対を有する、配位子中の原子又は原子団をいう。例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子等のヘテロ原子;ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基等の原子団;等が挙げられる。なかでも、窒素原子又は窒素原子を含む原子団が好ましい。 なかでも、配位子の平面性が高く、強固な三次元骨格が形成され易いことから、多座配位子としては、芳香環を有するものが好ましい。 一般的に、配位子の中心から、配位性部位までの距離が長い多座配位子を用いると、相対的に細孔や中空が大きい多核金属錯体の単結晶が得られ、配位子の中心から、配位性部位までの距離が短い多座配位子を用いると、相対的に細孔や中空が小さい多核金属錯体の単結晶が得られる。 [0048] また、比較的大きな細孔や中空を有する単結晶を容易に得ることができる観点から、多座配位子としては、配位性部位を2つ以上有する多座配位子が好ましく、配位性部位を3つ有する配位子(以下、「三座配位子」ということがある。)がより好ましく、3つの配位性部位の非共有電子対(軌道)が擬同一平面上に存在し、かつ、3つの配位性部位が、三座配位子の中心部に対して等間隔放射状に配置されているものがより好ましい。 [0049] ここで、「擬同一平面上に存在する」とは、各非共有電子対が、同一平面上に存在する状態の他、若干ずれた平面、例えば、基準となる平面に対して、20°以下で交差するような平面に存在する状態も含む意味である。 また、「3つの配位性部位が、三座配位子の中心部に対して等間隔放射状に配置されている」とは、配位子の中心部から等間隔で放射状に延びる線上に、3つの配位性部位が前記中心部から略等距離に配置されている状態をいう。 [0050] 三座配位子としては、例えば、下記式(1) [0051] [化3] [0052] (式中、Arは、置換基を有していてもよい3価の芳香族基を表す。X1~X3は、それぞれ独立に、2価の有機基、 又はArとY1~Y3とを直接結ぶ単結合を表す。Y1~Y3は、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。)で示される配位子が挙げられる。 [0053] 式(1)中、Arは3価の芳香族基を表す。 Arを構成する炭素原子の数は、通常3~22、好ましくは3~13、より好ましくは3~6である。 [0054] Arとしては、6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基や、6員環の芳香環が3個縮合してなる縮合環構造を有する3価の芳香族基が挙げられる。 [0055] 6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基としては、下記式(2a)~式(2d)で示される基が挙げられる。また、6員環の芳香環が3個縮合してなる縮合環構造を有する3価の芳香族基としては、下記式(2e)で示される基が挙げられる。なお、式(2a)~式(2e)において、「*」は、それぞれ、X1~X3との結合位置を表す。 [0056] [化4] [0057] [化5] [0058] Arは、式(2a)、式(2c)~式(2e)で示される芳香族基の任意の位置に置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、t-ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。これらの中でも、式(2a)又は(2b)で示される芳香族基が好ましく、式(2b)で示される芳香族基が特に好ましい。 [0059] X1~X3は、それぞれ独立に、2価の有機基、又はArとY1~Y3とを直接結ぶ単結合を表す。 [0060] 2価の有機基としては、Arとともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。X1~X3で表される2価の有機基がπ電子共役系を構成することで、式(1)で示される三座配位子の平面性が向上し、より強固な三次元ネットワーク構造が形成され易くなる。 2価の有機基を構成する炭素原子の数は、2~18が好ましく、2~12がより好ましく、2~6がさらに好ましい。 [0061] 2価の有機基としては、炭素数2~10の2価の不飽和脂肪族基、6員芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基、6員芳香環が2~4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基、アミド基〔-C(=O)-NH-〕、エステル基〔-C(=O)-O-〕、これらの2価の有機基の2種以上の組み合わせ等が挙げられる。 [0062] 炭素数2~10の2価の不飽和脂肪族基としては、ビニレン基、アセチレン基(エチニレン基)等が挙げられる。 6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基としては、1,4-フェニレン基等が挙げられる。 6員環の芳香環が2~4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基としては、1,4-ナフチレン基、アントラセン-1,4-ジイル基等が挙げられる。 これらの2価の有機基の2種以上の組み合わせとしては、下記のものが挙げられる。 [0063] [化6] [0064] これらの芳香環は、環内に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。 また、2価の有機基は、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Arの置換基として先に示したものと同じものが挙げられる。 これらの中でも、X1~X3で表される2価の有機基としては、下記のものが好ましい。 [0065] [化7] [0066] Y1~Y3は、それぞれ独立に、配位性部位を有する1価の有機基を表す。 Y1~Y3で表される有機基としては、Ar、X1~X3とともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。 Y1~Y3で表される有機基がπ電子共役系を構成することで、式(1)で示される三座配位子の平面性が向上し、強固な三次元ネットワーク構造が形成され易くなる。 Y1~Y3を構成する炭素原子の数は、5~11が好ましく、5~7がより好ましい。 [0067] Y1~Y3としては、下記式(3a)~式(3f)で示される有機基が挙げられる。なお、式(3a)~式(3f)において、「*」は、X1~X3との結合位置を表す。 [0068] [化8] [0069] Y1~Y3は、式(3a)~式(3f)で示される有機基の任意の位置に、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Arの置換基として先に例示したものと同様のものが挙げられる。 これらの中でも、式(3a)で表される基が特に好ましい。 [0070] 式(1)で示される三座配位子中の、Ar、X1~X3、Y1~Y3を適宜選択することで、単結晶の細孔や中空の大きさを調節することができる。この方法を利用することで、目的の代謝物を包接し得る大きさの細孔や中空を有する単結晶を効率よく得ることができる。 [0071] 式(1)で示される三座配位子としては、強固な三次元ネットワーク構造が形成され易いことから、平面性及び対称性が高く、かつ、π共役系が配位子全体に広がっているものが好ましい。このような三座配位子としては、下記式(4a)~式(4f)で示される配位子が挙げられる。 [0072] [化9] [0073] これらの中でも、式(1)で示される三座配位子としては、上記式(4a)で示される2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)が特に好ましい。 [0074] また、多核金属錯体の多座配位子として、市販品を用いることもできる。例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号-多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、PCP/MOF用配位子およびリンカー用化合物として、ピラジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン、4,4’-ビピリジル、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ピラジン-2,3-ジカルボン酸、ピラジン-3,5-ジカルボン酸等が記載されており、これらを多核金属錯体の多座配位子として用いることができる。 [0075] 多核金属錯体の中心金属としての金属イオンは、前記多座配位子と配位結合を形成して、三次元骨格を形成し得るものである限り特に限定されない。なかでも、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、パラジウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、白金イオン等の周期表第8~12族の金属のイオンが好ましく、2価の、周期表第8~12族の金属イオンがより好ましい。なかでも、大きな細孔や中空を有する単結晶が得られ易いことから、亜鉛(II)イオン、コバルト(II)イオンが好ましい。 [0076] 多核金属錯体の中心金属には、前記多座配位子の他に、単座配位子が配位していてもよい。かかる単座配位子としては、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、チオシアン酸イオン(SCN-)等の1価の陰イオン;アンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、エチレンジアミン等の電気的に中性の配位性化合物;等が挙げられる。 [0077] また、多核金属錯体は、反応溶媒(多核金属錯体の合成に用いた溶媒)、置換溶媒(反応溶媒と置き換えられた他の溶媒をいう。以下にて同じ。)、後述する骨格形成性芳香族化合物を含むものであってもよい。 [0078] 「骨格形成性芳香族化合物」とは、三次元骨格を構成する分子鎖と相互作用(ただし、共有結合、配位結合を除く。)し、三次元骨格の一部を構成し得る芳香族化合物をいう。 多核金属錯体が骨格形成性芳香族化合物を含むことで、三次元骨格がより強固になり易く、分子構造を決定する代謝物の分子を包接した後であっても、三次元骨格がより安定化する場合がある。 [0079] 骨格形成性芳香族化合物としては、縮合多環芳香族化合物が挙げられる。例えば、下記式(5a)~式(5i)で示されるものが挙げられる。 [0080] [化10] [0081] 多核金属錯体としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。 (1)配位子及び金属イオンのみからなる化合物〔多核金属錯体(α)〕 (2)前記多核金属錯体(α)と、骨格形成性芳香族化合物とからなる化合物〔多核金属錯体(β)〕 (3)前記多核金属錯体(α)又は多核金属錯体(β)に、溶媒分子等のゲスト分子が包接されてなる化合物〔多核金属錯体(γ)〕 なお、これらの多核金属錯体の中で、多核金属錯体(α)及び多核金属錯体(β)を、「ホスト分子」ということがある。 [0082] 本発明に用いる多核金属錯体は、分子構造を決定する代謝物の分子をその細孔や中空内に取り込んだ後においても結晶性を失わず、かつ、比較的大きな細孔や中空を有するものが好ましい。 [0083] このような特性を有する多核金属錯体は、前記式(1)で示される三座配位子を用いることで、簡便に得ることができる。 前記式(1)で示される三座配位子を用いることで得られる多核金属錯体としては、下記式(6a)~(6c)で示される多核金属錯体が挙げられる。 [0084] [化11] [0085] 式(6a)~式(6c)中、Mは、2価の、周期表第8~12族の金属イオンを表し、Xは、1価の陰イオン性単座配位子を表し、Lは、前記式(1)で示される三座配位子を表し、「solv」は、合成時に用いた溶媒分子等のゲスト分子を表し、「SA」は、骨格形成性芳香族化合物を表し、a、b、cは任意の自然数を表す。 [0086] 式(6a)~式(6c)で示される多核金属錯体において、Lとして、前記式(4a)で示されるTPTを用いた多核金属錯体は、これまでに、溶媒などのゲスト分子を取り込んだ形での分子構造が単結晶X線構造解析で決定されており、本発明に用いる多核金属錯体として特に適している。 [0087] このような多核金属錯体としては、下記式(7a)~式(7d)で示される多核金属錯体が挙げられる。 [0088] [化12] [0089] 式(7a)~(7d)中、「solv」、「SA」、a、b、cは、前記と同じ意味を表す。 以下、これらの多核金属錯体の三次元骨格について詳しく説明する。なお、説明中、配位子や溶媒分子を以下のように省略することがある。 [0090] PhNO2:ニトロベンゼン TPH:トリフェニレン PER:ペリレン MeOH:メタノール DCB:1,2-ジクロロベンゼン [0091] (1)[(ZnI2)3(TPT)2(solv)a]b (7a) 式(7a)で示される多核金属錯体としては、特開2008-214584号公報、J.Am.Chem.Soc.2004,v.126,pp16292-16293に記載の[(ZnI2)3(TPT)2(PhNO2)5.5]n(多核金属錯体1)や、多核金属錯体1中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。 [0092] 多核金属錯体1の三次元骨格を図2(a)~(d)に示す。 多核金属錯体1の三次元骨格は、2つの分子鎖1aと1bから構成される。分子鎖1a、1b中、各亜鉛(II)イオンには、2つのTPTのピリジル基と2つのヨウ化物イオンが四配位四面体型で配位している。そして、TPTによって、この亜鉛(II)イオンを含む構造同士が三次元的に結ばれることで、それぞれの分子鎖が形成されている〔図2(a)〕。 [0093] 分子鎖1a、1bは、それぞれ、最も短い閉鎖環状連鎖構造として、TPT10分子とZn10原子とからなる閉鎖環状連鎖構造を有している〔図2(b)〕。 これらの分子鎖1a、1bは、(010)軸に沿ったピッチが、15Åの螺旋状のヘキサゴナル三次元ネットワーク構造とみなすことができる〔図2(c)〕。 [0094] 分子鎖1a、1bは、同じ亜鉛(II)イオンを共有することはなく、互いに独立している。そして、同一の空間を共有するように互いに入り組んだ入れ子状に相互貫通することで、全体として一つに組織化された三次元骨格を構成する。 この三次元骨格を有する多核金属錯体1の単結晶は、規則的に整列した1種類の細孔を有している〔図2(d)〕。 [0095] 多核金属錯体1の単結晶の空隙率は、50%である。 多核金属錯体1の単結晶の細孔の内接円の直径は、5~8Åである。 [0096] (2)[(ZnBr2)3(TPT)2(solv)a]b (7b) 式(7b)で示される多核金属錯体としては、特開2008-214318号公報に記載の[(ZnBr2)3(TPT)2(PhNO2)5(H2O)]n(多核金属錯体2)や、多核金属錯体2中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。 [0097] 多核金属錯体2は、(ZnI2)が(ZnBr2)に置き換わっている点を除き、多核金属錯体1の三次元骨格と同様の骨格を有している。 多核金属錯体2の単結晶の細孔の形状や大きさ、及び空隙率は、多核金属錯体1の単結晶のものとほぼ同じであった。 [0098] (3)[(ZnI2)3(TPT)2(SA)(solv)a)]b (7c) 式(7c)で示される多核金属錯体としては、特開2006-188560号公報に記載の[(ZnI2)3(TPT)2(TPH)(PhNO2)3.9(MeOH)1.8]n(多核金属錯体3)や、[(ZnI2)3(TPT)2(PER)(PhNO2)4]n(多核金属錯体4)や、これらの多核金属錯体中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。 [0099] 多核金属錯体3の三次元骨格を図3(a)~(c)に示す。 多核金属錯体3の三次元骨格は、2つの分子鎖1Aと1B、及び骨格形成性芳香族化合物であるトリフェニレン分子から構成される。 分子鎖1A、1B中、各亜鉛(II)イオンには、2つのヨウ化物イオンと2つのTPTのピリジル基が四配位四面体型で配位している。そして、TPTによって、この亜鉛(II)イオンを含む構造同士が三次元的に結ばれることで、それぞれの分子鎖が形成されている。 分子鎖1A、1Bは、同じ亜鉛(II)イオンを共有することはなく、互いに独立している。そして、同一の空間を共有するように互いに入り組んだ入れ子状に相互貫通することで、全体として一つに組織化された三次元骨格を構成する。 [0100] 多核金属錯体3中で、トリフェニレン分子(2)は、分子鎖1Aのトリス(4-ピリジル)トリアジン〔TPT(1a)〕のπ平面と、分子鎖1Bのトリス(4-ピリジル)トリアジン〔TPT(1b)〕のπ平面との間に強固に挿入(インターカレート)されている〔図3(b)〕。このとき、トリフェニレン分子は、TPT(1a)及びTPT(1b)間のπ-π相互作用によって安定化され、多核金属錯体3の三次元骨格の一部として機能している。なお、図3(b)は、図3(a)中の線で囲った部分を横から見たときの図である。 [0101] 多核金属錯体3の単結晶には、規則的に配列した2種の細孔(細孔A及びB)が存在する〔図3(c)〕。細孔A及びBは、TPTとTPHが交互に積み重なった積み重ね構造の間に、それぞれ規則的に形成されている。 細孔Aは、ほぼ円筒型であり、且つ、積み重なった無数のTPT及びTPHのπ平面の側縁に存在する水素原子でほぼ取り囲まれている。 一方、細孔Bは、略三角柱型であり、且つ、その三角柱を形成する3方の面のうち、2つはTPTのπ平面に取り囲まれ、もう一つは積み重なった無数のTPT及びTPHのπ平面の側縁に存在する水素原子で取り囲まれている。 これら細孔A及びBは、若干蛇行した細長い形状を有している。 [0102] 多核金属錯体3の単結晶の細孔の空隙率は、28%である。 多核金属錯体3の単結晶の細孔Aの内接円の直径は、5~8Åである。 多核金属錯体3の単結晶の細孔Bの内接円の直径は、5~8Åである。 [0103] 多核金属錯体4は、多核金属錯体3のトリフェニレン分子の代わりに、ペリレン分子が2つのTPTの間に挿入されている点を除き、多核金属錯体3と同様の骨格構造を有する。 多核金属錯体4の単結晶の細孔の形状や大きさ、及び空隙率は、多核金属錯体3の単結晶のものとほぼ同じであった。 [0104] (4)[(Co(NCS)2)3(TPT)4(solv)a]b (7d) 式(7d)で示される多核金属錯体としては、WO2011/062260号公報に記載の[(Co(NCS)2)3(TPT)4(DCB)25(MeOH)5]n(多核金属錯体5)や、多核金属錯体5中の反応溶媒分子の全部又は一部を置換溶媒に交換したものが挙げられる。 [0105] 多核金属錯体5の三次元骨格を図4(a)に示す。 多核金属錯体5は、構造単位として、コバルトイオン6個と、TPT4個とから構成される〔Co6(TPT)4〕構造を有する。この構造単位は八面体型の立体形状を有し、該八面体の6つの頂点にコバルトイオンが配置されている〔図4(b)〕。各コバルト(II)イオンには、4つのTPTのピリジル基と2つのチオシアン酸イオンとが六配位八面体型で配位している。なお、図4(b)は、図4(a)中の線で囲った部分を拡大した図である。 そして、この〔Co6(TPT)4〕構造の各頂点に位置するコバルトイオンを共有しながら、〔Co6(TPT)4〕構造が三次元的に連結することで、〔Co6(TPT)4〕構造間に細孔が形成される〔図4(c)〕。 また、前記構造単位は、内部に中空を有している。 [0106] 多核金属錯体5の単結晶の空隙率は、78%である。この値は、細孔及び中空の体積をあわせて算出した値である。 多核金属錯体5の単結晶の細孔の内接円の直径は、10~18Åである。 [0107] また、多核金属錯体としては、上記の式(6a)~(6c)で示されるものの他に、多孔性配位高分子(PCP)や金属有機構造体(MOF)と称される公知の多核金属錯体を用いることもできる。例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号-多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、 [Cu2(bzdc)2(pyz)]n (「bzdc」は、2,3-ピラジンジカルボン酸を表し、「pyz」は、ピラジンを表す。nは任意の数を表す。)、 [Zn2(14bdc)2(dabco)]n (「14bdc」は、1,4-ベンゼンジカルボン酸を表し、「dabco」は、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを表し、nは任意の数を表す。)、 [Cu(dhbpc)2(bpy)]n (「H3dhbpc」は、4,4’-ジヒドロキシビフェニル-3-カルボン酸を表し、「bpy」は、4,4’-ビピリジルを表し、nは任意の数を表す。)、 [Cr(btc)2」n (「H3btc」は、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸を表し、nは任意の数を表す。)等の多核金属錯体が記載されており、本発明においては、これらの単結晶を用いることができる。 [0108] 多核金属錯体の合成方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。 例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号-多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、多座配位子等を含有する溶液と、金属イオン等を含有する溶液を混合する溶液法;耐圧容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、耐圧容器を密封した後、溶媒の沸点以上に加熱して水熱反応を行う水熱法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、マイクロ波を照射するマイクロ波法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、超音波を照射する超音波法;溶媒を用いることなく、多座配位子、金属イオン等を機械的に混合する固相合成法;等が記載されており、これらの方法を用いて、多核金属錯体の単結晶を得ることができる。 [0109] これらの中でも、特別の装置等を要しないことから、溶液法が好ましく用いられる。 溶液法としては、例えば、多座配位子の第1の溶媒の溶媒溶液に、金属イオン含有化合物の第2の溶媒の溶媒溶液を加え、このまま、0~70℃で、数時間から数日間、静置する方法が挙げられる。 [0110] 金属イオン含有化合物は、特に制限されない。例えば、式:MXnで示される化合物が挙げられる。ここで、Mは金属イオンを表し、Xは対イオンを表し、nはMの価数を表す。 [0111] 前記Xの具体例としては、F-、Cl-、Br-、I-、SCN-、NO3-、ClO4-、BF4-、SbF4-、PF6-、AsF6-、CH3CO2-等が挙げられる。 [0112] 用いる反応溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。 [0113] 比較的大きな多核金属錯体の単結晶を得たい場合には、前記第1の溶媒と第2の溶媒として、互いに相溶性を有さない(すなわち、2層分離する)ものを用いることが好ましい。例えば、第1の溶媒として、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンとメタノールの混合溶媒、ジクロロベンゼンとメタノールの混合溶媒を用い、第2の溶媒としてメタノールを溶媒を用いる方法が挙げられる。 また、上記多核金属錯体1~5については、それぞれ、上記文献に記載された方法にしたがって合成することができる。 [0114] (iii)多孔性化合物の単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液と接触させる工程 本発明において、多孔性化合物の単結晶を、前記代謝物を含む溶媒溶液と接触させる方法は特に限定されない。例えば、前記単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液に浸漬させる方法、前記単結晶をキャピラリーの中に詰めた後、代謝物を含む溶媒溶液を、そのキャピラリー内を通過させる方法等が挙げられる。 なかでも、代謝物を含む溶媒溶液を多孔性化合物の単結晶と効率よく接触させることができることから、多孔性化合物の単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液に浸漬させる方法が好ましい。 [0115] 多孔性化合物の単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液に浸漬させる際は、下記式(I)から算出されるA値が、100以下、好ましくは0.1~30、より好ましくは1~5となる量の前記多孔性化合物の単結晶を浸漬させることが好ましい。 [0116] [数1] [0117] 式(I)中、Xは、溶媒溶液中の代謝物の質量を表し、Yは、前記多孔性化合物の単結晶中のすべての細孔及び中空内を、比重1の物質で満たすと仮定したときに要する前記比重1の物質の質量を表す。 [0118] A値が0.1以上のときは、多孔性化合物の単結晶の細孔や中空内に代謝物の分子が十分に取り込まれ、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。一方、A値が大きい場合であっても、目的とする結晶構造解析用試料を得ることはできるが、それに見合う効果は得られず、代謝物が無駄になり易い。 [0119] 浸漬させる単結晶の数は、特に制限されない。代謝物の量が極めて少ないときは、単結晶を一粒浸漬させることで、目的の結晶構造解析用試料を得ることができる。また、代謝物の量に余裕があるときは、同種の多孔性化合物の単結晶を二粒以上浸漬させたり、異種の多孔性化合物の単結晶を同時に浸漬させたりしてもよい。 [0120] 多孔性化合物の単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液に浸漬させた後、溶媒を緩和な条件下で揮発させることで、溶媒溶液を濃縮してもよい。この処理を行うことで、多孔性化合物の単結晶中の細孔及び中空内に、代謝物の分子を効率よく取り込ませることができる。 [0121] このときの浸漬条件(濃縮条件)は、特に限定されないが、溶媒溶液の温度は、好ましくは0~180℃、より好ましくは0~80℃、さらに好ましくは20~60℃である。 浸漬時間(濃縮時間)は、通常、6時間以上、好ましくは12~168時間、より好ましくは24~78時間である。 [0122] 溶媒の揮発速度は、好ましくは0.1~1000μL/24時間、より好ましくは1~100μL/24時間、さらに好ましくは5~50μL/24時間である。 溶媒の揮発速度があまりに速い場合には、良質の結晶構造解析用試料を得られないおそれがある。一方、溶媒の揮発速度があまりに遅いと、作業効率の観点から好ましくない。 [0123] 溶媒を揮発させるときの温度は、用いる有機溶媒の沸点にもよるが、通常、0~120℃、好ましくは15~60℃である。 [0124] また、多孔性化合物の単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液に浸漬させた後、溶媒を揮発させて、溶媒溶液を濃縮する操作は、常圧下で行っても、減圧下で行っても、加圧下で行ってもよい。 溶媒を揮発させて、溶媒溶液を濃縮する操作時の圧力は、通常、1~1×106Pa、好ましくは、1×10~1×106Paである。 以上のように、溶媒溶液を濃縮する操作時において、温度や圧力を調節することで、溶媒の揮発速度を適宜なものに調節することができる。 [0125] 本発明においては、前記多孔性化合物の単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液と接触させる前に、多孔性化合物の単結晶の細孔及び中空内に、溶媒溶液に用いる溶媒の分子を取り込ませる工程を設けてもよい。この工程を設けることで、多孔性化合物の合成時に用いた溶媒分子等が細孔及び中空内から除かれ、代謝物の分子との置換が容易な溶媒に置き換えられるため、良質の結晶構造解析用試料を効率よく作製することができる。 [0126] 多孔性化合物の単結晶の細孔及び中空内に、溶媒溶液に用いる溶媒の分子を取り込ませる方法としては、あらかじめ、用いる単結晶を、代謝物を含む溶媒溶液の調製に用いる溶媒中に浸漬させる方法が挙げられる。 このときの浸漬条件は、特に限定されないが、溶媒の温度は、通常、0~70℃、好ましくは10~60℃、より好ましくは20~50℃であり、浸漬時間は、通常、6時間以上、好ましくは12~168時間、より好ましくは24~78時間である。 [0127] (iv)結晶構造解析用試料 本発明の方法によって得られる結晶構造解析用試料は、代謝物の分子が、前記多孔性化合物の単結晶の細孔及び中空内に、規則的に配列されてなるものである。 ここで、「代謝物の分子が、規則的に配列される」とは、代謝物の分子が、結晶構造解析によって構造を決定することができる程度に乱れなく、多孔性化合物の単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容されていることをいう。 [0128] 本発明の方法により得られる結晶構造解析用試料は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。 [0129] 本発明の方法によって得られる結晶構造解析用試料は、代謝物の構造を決定することができるものであれば、前記多孔性化合物の単結晶中のすべての細孔及び中空内に代謝物の分子が取り込まれている必要はない。例えば、前記多孔性化合物の単結晶中の細孔及び中空内の一部に、代謝物の溶媒溶液に用いた溶媒が取り込まれたものであっても良い。 [0130] 本発明の方法により得られる結晶構造解析用試料は、代謝物の分子の占有率が10%以上のものであることが好ましい。 占有率は、結晶構造解析により得られる値であり、理想的な包接状態におけるゲスト分子〔代謝物の分子〕の量を100%としたときの、単結晶中に実際に存在するゲスト分子の量を表すものである。 [0131] 本発明の方法によって得られる結晶構造解析用試料は、微量しか入手できない代謝物や、室温(20℃)で液体状の代謝物であっても、結晶構造解析法によりその構造を明らかにすることを可能にするものである。 [0132] 本発明の方法によって目的の結晶構造解析用試料が得られるのは、以下に説明するように、本発明に用いる多孔性化合物の単結晶が、代謝物の分子の向きをそろえるための「場」として機能しているためと考えられる。 [0133] まず、タンパク質分子の単結晶が得られることからも分かるように、多くの物質は自己集積能力を有すると考えられ、程度の差はあるものの、最適な結晶化条件で結晶化操作を行うことができれば、単結晶が得られる可能性は十分にあると考えられる。 しかしながら、最適な結晶化条件が見つかりにくかったり、結晶化条件を十分に検討することができる量の試料を確保できなかったりするため、単結晶が得られない物質が世の中に数多く存在するのが現状である。 本発明に用いる多孔性化合物の単結晶は、そのような物質に対して、より結晶化が促進される「場」を提供するものであると考えられる。 すなわち、予め、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空を単結晶内に構築しておくことで、代謝物の分子が単結晶の細孔及び/又は中空に取り込まれたときに、「場」の規則性の影響を受け、代謝物の分子が本来有する自己集積能力がより高められ、代謝物の分子の向きが自然とそろい、結晶構造解析用試料が得られると考えられる。 このことから、「内部に、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空とを有する単結晶」であれば、程度の差はあるとしても、いずれも、代謝物の分子の向きをそろえる効果を有すると考えられる。 [0134] 2)代謝物の分子構造決定方法 本発明の代謝物の分子構造決定方法は、本発明の方法で得られる結晶構造解析用試料を用いて、結晶構造解析法により、代謝物の分子構造を決定することを特徴とする。 本発明の方法においては、X線回折、中性子線回折のいずれの方法も利用することができる。 本発明の方法により代謝物の分子構造を決定する際は、従来の単結晶の代わりに、上記方法で得た結晶構造解析用試料をマウントする点を除き、従来と同様の方法を用いることができる。 [0135] また、代謝物の分子構造を決定する際に、代謝物の親化合物の結晶構造解析データを利用することで、代謝物の分子構造をより効率よく決定することができる。 具体的には、本発明の結晶構造解析用試料の作製方法を用いて得られた結晶構造解析用試料についての結晶構造解析データ(電子密度図)と、その代謝物の親化合物の分子が、前記単結晶と同一の単結晶(同一の多孔性化合物の単結晶)の細孔及び/又は中空内に、規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料についての結晶構造解析データ(電子密度図)とを比較することで、代謝反応による構造変化を知ることができる。この知見を利用することで、代謝物の分子構造をより効率よく、より容易に決定することができる。 [0136] 本発明の分子構造決定方法によれば、微量の代謝物であっても、効率よく、結晶構造解析を行い、その分子構造を決定することができる。 また、常温で液体の代謝物であっても、その代謝物を包接する結晶構造解析用試料を用いることで、その分子構造を決定することができる。 したがって、本発明の分子構造決定方法によれば、薬剤、農薬、食品等の開発において、安全性の確保や有用性の確認等において重要な、代謝物の分析にかかる費用や時間を大幅に削減することができる。 実施例 [0137] 以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。 [0138] (機器類) (1)単結晶X線構造解析 Bruker社製 APEX II/CCD diffractometer〔線源:Mo-Kα線(波長0.71Å)、出力:50mA、24kV〕を用いて行った。 (2)元素分析 YANACO社製 MT-6を用いて行った。 [0139] (製造例1)[多孔性化合物の単結晶の合成] 2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT) 50.2mg(0.16mmol)を、ニトロベンゼン/メタノール(32mL/4mL)の混合液に溶解させて配位子溶液を得た。室温において、得られた配位子溶液に、ZnI2 76.5mg(0.24mmol)をメタノール8mLに溶解させて得られた金属イオン含有溶液を混合し、30秒攪拌し、沈殿した白色結晶をろ過することにより、白色結晶151.7mgを得た(収率81.6%)。 [0140] 得られた白色結晶を、元素分析、熱分解/質量分析測定(TG-MS)により同定したところ、[(ZnI2)3(TPT)2(PhNO2)5.5]n(多孔性化合物1)であることが分かった。 〈元素分析結果〉 理論値:C:36.68%、H:2.30%、N:10.85% 実測値:C:36.39%、H:2.43%、N:10.57% [0141] (実施例1) 乾燥パン酵母61mg及びショ糖134mgを水1mlに加え、酵母の懸濁液を得た。得られた懸濁液に、アドレノステロンのエタノール溶液(0.1mg/ml)0.1mlを加え、25℃で12時間攪拌して、代謝反応を行った。 次いで、得られた懸濁液にジエチルエーテルを加え、このものを12時間攪拌後、静置し、ジエチルエーテル層を抜き取ることで、懸濁液中の代謝物をジエチルエーテルで抽出した。 ジエチルエーテル中の代謝物の濃度が、約1μg/μlになるように、ジエチルエーテルを加え、試料液を得た。得られた試料液約5μlを用いて、分析用液体クロマトグラフィー(カラム:inertsil DIOL,溶離液:n-ヘキサン/エタノール=14:1(容積比))を行い、流出時間22分付近の成分を分取した。 得られたフラクションをマイクロバイアルに入れ、その溶媒を留去した後、塩化メチレン5μl及びシクロヘキサン45μlをマイクロバイアルに入れて、残渣を溶解させた。得られた溶液に、製造例1で得た多孔性化合物1の結晶を浸漬させ、50℃で、2日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで溶液を濃縮し、結晶構造解析用試料を得た。 得られた結晶構造解析用試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った。 結晶学的データを第1表に示す。 [0142] [表1] [0143] 観測されたアドレノステロン還元体の占有率は73%であった。 図5に得られた結晶構造、図6に解析された代謝物の構造式をそれぞれ示す。 [0144] (実施例2) 上記(実施例1)の手法で2-オキソシクロヘキサンカルボン酸エチルを同様に代謝させ、分析用液体クロマトグラフィーにより(カラムCHIRALCEL OD, n-ヘキサン/イソプロピルアルコール=9:1(容積比))流出時間6分付近の成分を分取した。得られたフラクションの溶媒を留去し、マイクロバイアルの中で塩化メチレン5μl及びシクロヘキサン45μlを加えて溶解させた。ここに、製造例1で得た多孔性化合物1の結晶を浸漬させ、50℃、2日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで、単結晶試料を得た。この単結晶試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った。 結晶学的データを第2表に示す。 [0145] [表2] [0146] 代謝物の占有率は50%であった。 図7に得られた結晶構造、図8に解析された代謝物の構造式をそれぞれ示す。 [0147] (実施例3) マイクロバイアル中に、6β-ヒドロキシテストステロン(アルドリッチ社製、このものは、テストステロンを代謝酵素CYP450により代謝させることで生成するテストステロンの代謝物として知られている。)5μg、塩化メチレン5μl及びシクロヘキサン45μlを入れて、全容を均一な溶液とした。 得られた溶液に、製造例1で得た多孔性化合物1の結晶を浸漬させ、50℃で、2日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで溶液を濃縮し、結晶構造解析用試料を得た。 得られた結晶構造解析用試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った 結晶学的データを第3表に示す。 [0148] [表3] [0149] 代謝物の占有率は50%であった。 図9に得られた結晶構造、図10に解析された代謝物の構造式をそれぞれ示す。 [0150] (実施例4) 上記(実施例1-3)の手法で、メチル 5-メトキシ-2-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1-カルボキシレートを同様に代謝させ、分取TLC(n-ヘキサン/酢酸エチル=4:1(容積比))により相対移動距離Rf=0.2の成分を分取した。得られた代謝物をマイクロバイアルの中で塩化メチレン5μl及びシクロヘキサン45μlを加えて溶解させた。得られた溶液に、製造例1で得た多孔性化合物1の結晶を浸漬させ、50℃、5日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで、単結晶試料を得た。この単結晶試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った。 結晶学的データを第4表に示す。 [0151] [表4] [0152] 代謝物の占有率は100%であった。 図11に得られた結晶構造、図12に解析された代謝物の構造式をそれぞれ示す。 [0153] (実施例5) 上記(実施例1-4)の手法でベンジルを同様に代謝させ、分析用液体クロマトグラフィーにより(カラムINERTSIL NH2, n-ヘキサン/酢酸エチル=6:1(容積比))流出時間17分付近の成分を分取した。得られたフラクションの溶媒を留去し、マイクロバイアルの中で塩化メチレン5μl及びシクロヘキサン45μlを加えて溶解させた。得られた溶液に、製造例1で得た多孔性化合物1の結晶を浸漬させ、50℃、2日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで、単結晶試料を得た。この単結晶試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った。 結晶学的データを第5表に示す。 [0154] [表5] [0155] 代謝物の占有率は50%であった。 図13に得られた結晶構造、図14に解析された代謝物の構造式をそれぞれ示す。 [0156] (実施例6) 上記(実施例1-5)の手法と同様にしてDDTを代謝させ、分析用液体クロマトグラフィーにより(カラムINERTSIL NH2,n-ヘキサン100%)流出時間9分付近の成分を分取した。得られたフラクションの溶媒を留去し、マイクロバイアルの中で塩化メチレン5μl及びシクロヘキサン45μlを加えて溶解させた。得られた溶液に、製造例1で得た多孔性化合物1の結晶を浸漬させ、50℃、2日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで、単結晶試料を得た。この単結晶試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った。 結晶学的データを第6表に示す。 [0157] [表6] [0158] 代謝物の占有率は100%であった。 図15に得られた結晶構造、図16に解析された代謝物の構造式をそれぞれ示す。 [0159] (実施例7) 製造例1で得た多孔性化合物1の結晶をマイクロバイアル中へ加え、シクロヘキサン45μl及びアドレノステロン1mgを塩化メチレン1mlに溶かした溶液5μlを加えた。その後50℃、2日間かけてゆっくりと溶媒を留去することで、単結晶試料を得た。この単結晶試料をX線構造解析装置にマウントし、結晶構造解析を行った。この結晶構造と実施例1における代謝物の包接錯体の結晶構造を比較したところ、それぞれ親化合物と代謝物の結晶内での位置がほぼ同じであることがわかった。従って、親化合物(アドレノステロン)のX線結晶解析データと、代謝物のX線結晶解析データを比較する(親化合物のX線結晶解析データを利用する)ことで、代謝物の分子構造をより迅速に決定することが可能である。 アドレノステロン包接錯体の結晶学データを第7表に示す。 [0160] [表7] [0161] 代謝物の占有率は50%であった。 図17に得られた結晶構造、図18に解析された代謝物の構造式を、親化合物と代謝物の結晶内での位置の比較図を図19にそれぞれ示す。 符号の説明 [0162] 1:結晶面X 2:結晶面Y 3:細孔 4:細孔が延在する方向 |
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