NONRECIPROCAL TRANSMISSION LINE DEVICE
外国特許コード | F160008689 |
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整理番号 | J1012-05WO |
掲載日 | 2016年3月10日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2014JP054552 |
国際公開番号 | WO 2014136621 |
国際出願日 | 平成26年2月25日(2014.2.25) |
国際公開日 | 平成26年9月12日(2014.9.12) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | NONRECIPROCAL TRANSMISSION LINE DEVICE |
発明の概要(英語) | Setting the phase constant of a first mode for transmission in the forward direction to βp and the phase constant of a second mode for transmission in the reverse direction to βm, near the intersection point of the dispersion curve indicating the relation between the phase constant βp and the operating angular frequency, and the dispersion curve indicating the relation between the phase constant βm and the operating angular frequency, the electrical lengths La and Lb of stub conductors (13A, 13B) are configured such that the function of the nonreciprocal phase shift amount βNR=(βp-βm)/2 with respect to the operating angular frequency approximates that function of the nonreciprocal phase shift amount βNR with respect to the operating angular frequency when beam squint does not occur, beam squint being the phenomenon in which the direction of emission of electromagnetic waves from the nonreciprocal transmission line device (70F) changes with the frequency. |
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国際特許分類(IPC) |
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発明の名称 | 非相反伝送線路装置 |
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発明の概要 | 順方向で伝搬する第1のモードの位相定数をβpとし、逆方向で伝搬する第2のモードの位相定数をβmとしたとき、各スタブ導体(13A,13B)の各電気長La及びLbは、位相定数βpと動作角周波数との関係を示す分散曲線と、位相定数βmと動作角周波数との関係を示す分散曲線との交点の近傍において、動作角周波数に対する非相反移相量βNR=(βp-βm)/2の関数が、非相反伝送線路装置(70F)から放射される電磁波の放射方向が周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントが発生しないときの、動作角周波数に対する非相反移相量βNRの関数に近接するように設定される。 |
特許請求の範囲 |
[請求項1] マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、上記伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む第1及び第2の並列枝の回路とを有する少なくとも1つの単位セルを、第1と第2のポートの間で縦続接続して構成され、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置において、 上記各単位セルの伝送線路部分は、上記マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有するか又は外部磁界により磁化され、 上記第1の並列枝の回路は、第1の電気長を有する第1のスタブ導体であり、 上記第2の並列枝の回路は、第1の電気長より短い第2の電気長を有する第2のスタブ導体であり、 上記順方向で伝搬する第1のモードの位相定数をβpとし、上記逆方向で伝搬する第2のモードの位相定数をβmとしたとき、上記第1の電気長及び上記第2の電気長は、位相定数βpと動作角周波数との関係を示す分散曲線と、位相定数βmと動作角周波数との関係を示す分散曲線との交点の近傍において、動作角周波数に対する非相反移相量βNR=(βp-βm)/2の関数が、上記非相反伝送線路装置から放射される電磁波の放射方向が周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントが発生しないときの、動作角周波数に対する非相反移相量βNRZの関数に近接するように設定されたことを特徴とする非相反伝送線路装置。 [請求項2] 上記関数は、動作角周波数に比例する関数であることを特徴とする請求項1記載の非相反伝送線路装置。 [請求項3] 上記第1のスタブ導体は第1のアドミタンスを有し、 上記第2のスタブ導体は第2のアドミタンスを有し、 上記第1及び第2の電気長は、 (a)上記交点における動作角周波数より低い所定の動作角周波数において、上記第1のアドミタンスが上記第2のアドミタンスに実質的に一致し、かつ (b)上記所定の動作角周波数において、上記第1及び第2のアドミタンスの各虚部が負であることを特徴とする請求項2記載の非相反伝送線路装置。 [請求項4] 上記第1のスタブ導体は短絡スタブでありかつ上記第1の電気長は管内波長の1/2より長いように設定され、 上記第2のスタブ導体は短絡スタブでありかつ上記第2の電気長は上記管内波長の1/4より短いように設定されたことを特徴とする請求項3記載の非相反伝送線路装置。 [請求項5] 上記第1のスタブ導体は開放スタブでありかつ上記第1の電気長は管内波長の1/4より長いように設定され、 上記第2のスタブ導体は短絡スタブでありかつ上記第2の電気長は上記管内波長の1/4より短いように設定されたことを特徴とする請求項3記載の非相反伝送線路装置。 [請求項6] 上記各第1のスタブ導体の間に設けられ、上記各第1のスタブ導体間を遮蔽する接地導体をさらに備えたことを特徴とする請求項1~5のうちのいずれか1つに記載の非相反伝送線路装置。 [請求項7] 請求項1乃至6のうちのいずれか1つに記載の非相反伝送線路装置を備えたことを特徴とするアンテナ装置。 |
明細書 |
明 細 書 発明の名称 : 非相反伝送線路装置 技術分野 [0001] 本発明は、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置及び当該非相反伝送線路装置を備えたアンテナ装置に関する。 背景技術 [0002] メタマテリアルの一つとして右手/左手系複合伝送線路(以下、CRLH(Composite Right/Left-Handed)伝送線路という。)が知られている。CRLH伝送線路は、所定の周波数帯域で負の実効透磁率及び負の実効誘電率を有するように、波長に比べて十分に小さい間隔で、線路の直列枝に容量素子を実質的に周期的に挿入し、シャント枝に誘導性素子を実質的に周期的に挿入して構成される。最近、CRLH伝送線路に対して非可逆伝送の機能を付加した非可逆(非相反ともいう。)移相CRLH伝送線路が提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。非可逆移相CRLH伝送線路は、同一の周波数を有する電磁波が順方向に伝搬するときは正の屈折率を示し、逆方向に伝搬するときは負の屈折率を示すことができる。 [0003] 非可逆移相CRLH伝送線路を用いて伝送線路共振器を構成すると、共振周波数を変えることなく共振器サイズを自由に変えることができる。さらに、共振器上の電磁界分布は、進行波共振器の電磁界分布と同様である。このため、非可逆移相CRLH伝送線路を用いた伝送線路共振器を用いて、電磁界の振幅が一様でありかつ電磁界の位相が線路に沿って一定の勾配で直線的に変化する擬似進行波共振器を構成することができる。このとき、共振器上の電磁界分布の位相勾配は、共振器を構成する伝送線路の非可逆移相特性によって決まる。以下、非可逆移相CRLH伝送線路を用いた伝送線路装置を、非可逆伝送線路装置又は非相反伝送線路装置という。 [0004] メタマテリアルはここ十数年、アンテナへの応用の分野で大変興味深い重要なテーマとなっている。これまでにも、非相反CRLHメタマテリアルが、CRLH伝送線路を用いた指向性漏れ波アンテナへの応用を目的として提案されている。また、最近は、0次共振器から大きく発展した擬似進行波共振器に基づくアンテナ(例えば、非特許文献1参照。)が提案され、従来の漏れ波アンテナに比べて、コンパクトであるにもかかわらず利得と指向性を増加させている。 [0005] これまでに提案されている非相反伝送線路装置の多くは、従来のマイクロストリップ線路からなる右手/左手系複合伝送線路装置の中央のストリップ線路下に、垂直に磁化されたフェライトロッドを埋め込んだ構造を採用している。このとき、非相反伝送線路装置からなる擬似進行波共振器を備えたアンテナ装置からの放射ビーム方向は、共振器上の電磁界分布の位相勾配によってきまる。また、フェライトが軟磁性体であれば、外部印加磁界の大きさあるいは向きを変えることにより、線路の非可逆移相特性が変化し、その結果ビーム走査をすることができる。 [0006] 例えば、非特許文献1において、非相反伝送線路装置を備えた擬似進行波共振器をビーム走査アンテナに応用することが提案されている。擬似進行波共振器を備えたビーム走査アンテナは、動作帯域が狭いという欠点を有するものの、従来の漏れ波アンテナに比べて非常に高い放射効率を有する。さらに、伝搬信号の周波数変化に伴って放射ビーム方向が変化する現象であるビームスクイントが発生するという問題も大幅に軽減される。 [0007] ビームスクイントは、従来のフェーズドアレイアンテナにおいては良く知られた現象であり、ビームの放射角が周波数により変動する現象のことである。これによって動作帯域幅が抑制されてしまう(例えば、非特許文献6参照。)。通常のアレーアンテナでは、ビームスクイントの主な原因は、遅延素子の分散性にあり、これを解消する方法の一つとしては、非特許文献8記載のアクティブなCRLH遅延素子のように、チューナブルな時間遅延素子を用いることが挙げられる。CRLHメタマテリアルの場合、このような補償回路は意味を成さず、ビームスクイントを低減することは、直列枝の直列共振周波数とシャント枝の並列共振周波数の双方の上側帯域においてのみ可能であった(例えば、非特許文献7参照。)。 先行技術文献 特許文献 [0008] 特許文献1 : 国際公開第2008/111460号パンフレット 特許文献2 : 国際公開第2011/024575号パンフレット 特許文献3 : 国際公開第2012/115245号パンフレット 非特許文献 [0009] 非特許文献1 : T. Ueda et al., "Pseudo-traveling-wave resonator with magnetically tunable phase gradient of fields and its applications to beam steering antennas", IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 60, no. 10, pp. 3043-3054, October 2012. 非特許文献2 : M.E. Hines, "Reciprocal and nonreciprocal modes of propagation in ferrite stripline and microstrip devices", IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. MTT-19, no.5, pp. 442-451, May 1971. 非特許文献3 : A. Porokhnyuk et al., "Mode analysis of nonreciprocal metamaterials using a combination of field theory and transmission line model", 2012 IEEE MTT-S International Microwave Symposium Digest, WE4J-5, pp. 1-3, June 2012. 非特許文献4 : T. Ueda et al., "Nonreciprocal phase-shift CRLH transmission lines using geometrical asymmetry with periodically inserted double shunt stubs", Proceedings of the 42nd European Microwave Conference, pp. 570-573, October 2012. 非特許文献5 : A. Mahmoud et al., "Design and analysis of tunable left handed zeroth-order resonator on ferrite substrate", IEEE Transactions on magnetics, vol. 44, no. 11, pp. 3095-3098, November 2008. 非特許文献6 : S. K. Garakoui et al., "Phased-array antenna beam squinting related to frequency dependency of delay circuits", Proceedings of the 41st European Microwave Conference, pp. 1304-1307, October 2011. 非特許文献7 : M. A. Antoniades et al., "A CPS leaky-wave antenna with reduced beam squinting using NRI-TL metamaterials", IEEE Transactions on antennas and propagation, vol. 56, no. 3, March 2008. 非特許文献8 : H. V. Nguyen et al., "Analog dispersive time delayer for beam-scanning phased-array without beam-squinting", 2008 IEEE AP-S International Symposium, Digital Object Identifier:10.1109/APS.2008.4619097, 2008. 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0010] 可逆な0次共振の漏れ波アンテナにおいては、ビームスクイントの問題は生じない。なぜなら、一方向に伝搬する進行波の分散特性は、反対方向に伝搬する反射波の分散特性により完全に打ち消されるからである。しかしながら、非相反CRLH伝送線路からなる共振タイプの漏れ波アンテナでは、放射角を制御することはできるようになったが、共振器内を伝搬する進行波と反射波との間で位相定数が異なるという結果をもたらした。その結果、前進する場合の位相定数と後退する場合の位相定数の平均値から求められる非相反移相量の周波数分散性がビームスクイントを引き起こす。これまで、ビームスクイントを実質的に発生させないための方法は提案されておらず、有効な手段も見当たらない。 [0011] 本発明の目的は以上の問題点を解決し、動作帯域の中心周波数近傍でビームスクイントを実質的に発生させない非相反伝送線路装置及び当該非相反伝送線路装置を備えたアンテナ装置を提供することにある。 課題を解決するための手段 [0012] 第1の発明に係る非相反伝送線路装置は、マイクロ波の伝送線路部分と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路と、上記伝送線路部分からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む第1及び第2のシャント枝(並列枝)の回路とを有する少なくとも1つの単位セルを、第1と第2のポートの間で縦続接続して構成され、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる非相反伝送線路装置において、 上記各単位セルの伝送線路部分は、上記マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有するか又は外部磁界により磁化され、 上記第1の並列枝の回路は、第1の電気長を有する第1のスタブ導体であり、 上記第2の並列枝の回路は、第1の電気長より短い第2の電気長を有する第2のスタブ導体であり、 上記順方向で伝搬する第1のモードの位相定数をβpとし、上記逆方向で伝搬する第2のモードの位相定数をβmとしたとき、上記第1の電気長及び上記第2の電気長は、位相定数βpと動作角周波数との関係を示す分散曲線と、位相定数βmと動作角周波数との関係を示す分散曲線との交点の近傍において、動作角周波数に対する非相反移相量βNR=(βp-βm)/2の関数が、上記非相反伝送線路装置から放射される電磁波の放射方向が周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントが発生しないときの、動作角周波数に対する非相反移相量βNRの関数に近接するように設定されたことを特徴とする。 [0013] 上記第1の発明に係る非相反伝送線路装置において、上記関数は、動作角周波数に比例する関数であることを特徴とする。 [0014] また、上記第1の発明に係る非相反伝送線路装置において、上記第1のスタブ導体は第1のアドミタンスを有し、上記第2のスタブ導体は第2のアドミタンスを有し、 上記第1及び第2の電気長は、 (a)上記交点における動作角周波数より低い所定の動作角周波数において、上記第1のアドミタンスが上記第2のアドミタンスに実質的に一致し、かつ (b)上記所定の動作角周波数において、上記第1及び第2のアドミタンスの各虚部が負であることを特徴とする。 [0015] さらに、上記第1の発明に係る非相反伝送線路装置において、上記第1のスタブ導体は短絡スタブでありかつ上記第1の電気長は管内波長の1/2より長いように設定され、上記第2のスタブ導体は短絡スタブでありかつ上記第2の電気長は上記管内波長の1/4より短いように設定されたことを特徴とする。 [0016] またさらに、上記第1の発明に係る非相反伝送線路装置において、上記第1のスタブ導体は開放スタブでありかつ上記第1の電気長は管内波長の1/4より長いように設定され、上記第2のスタブ導体は短絡スタブでありかつ上記第2の電気長は上記管内波長の1/4より短いように設定されたことを特徴とする。 [0017] またさらに、上記第1の発明に係る非相反伝送線路装置は、上記各第1のスタブ導体の間に設けられ、上記各第1のスタブ導体間を遮蔽する接地導体をさらに備えたことを特徴とする。 [0018] 第2の発明に係るアンテナ装置は、上記第1又は第2の非相反伝送線路装置を備えたことを特徴とする。 発明の効果 [0019] 本発明に係る非相反伝送線路装置及びアンテナ装置によれば、動作角周波数に対する非相反移相量βNR=(βp-βm)/2の関数が、上記非相反伝送線路装置から放射される電磁波の放射方向が周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントが発生しないときの、動作角周波数に対する非相反移相量βNRの関数に近接するように構成されたので、動作帯域の中心周波数近傍でビームスクイントが実質的に発生しない。 図面の簡単な説明 [0020] [図1] 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第1の例の伝送線路の単位セル60Aの等価回路図である。 [図2] 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第2の例の伝送線路の単位セル60Bの等価回路図である。 [図3] 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第3の例の伝送線路の単位セル60Cの等価回路図である。 [図4] 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における第4の例の伝送線路の単位セル60Dの等価回路図である。 [図5] 従来技術に係る相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 [図6] 従来技術に係る相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 [図7] 実施形態に係る非相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 [図8] 実施形態に係る非相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 [図9] 図1の単位セル60Aを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Aの構成を示すブロック図である。 [図10] 図2の単位セル60Bを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Bの構成を示すブロック図である。 [図11] 図3の単位セル60Cを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Cの構成を示すブロック図である。 [図12] 図4の単位セル60Dを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Dの構成を示すブロック図である。 [図13A] 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eの構成を示す斜視図である。 [図13B] 本発明の実施形態の変形例に係る非相反伝送線路装置70Eの構成を示す斜視図である。 [図14] 図13Aの非可逆な線路部分NRSにおけるフェライト角棒15Aの縦断面図である。 [図15] 比較例に係る非相反伝送線路装置70Gの構成を示す斜視図である。 [図16] 図15の非相反伝送線路装置70Gの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。 [図17] 図13Aの非相反伝送線路装置70Eの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。 [図18] 図13Aの非相反伝送線路装置70Eの具体的な構成を示す平面図である。 [図19] 図13Aの非相反伝送線路装置70Eの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値及び図13Aの非相反伝送線路装置70Eを図18のように形成したときの実験値を示すグラフである。 [図20A] 本発明の実施形態の変形例に係る非相反伝送線路装置70Fの構成を示す斜視図である。 [図20B] 図20Aの非相反伝送線路装置70Fの変形例の構成を示す斜視図である。 [図21] 図20Aの非相反伝送線路装置70Fの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。 [図22] 図21の拡大図である。 [図23] 図20Aのスタブ導体13Aが開放スタブであるときの非相反伝送線路装置70Fの構成を模式的に示す平面図である。 [図24] 図23の非相反伝送線路装置70FにおけるアドミタンスY1及びY2の動作角周波数依存性ならびに非可逆移相量βNRの周波数依存性を示すグラフである。 [図25] 図20Aの非相反伝送線路装置70Fのシミュレーションに用いた具体的な構成を示す平面図である。 [図26] 図25の非相反伝送線路装置70Fの斜視図である。 [図27] 図25の非相反伝送線路装置70Fの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。 [図28] 図25の非相反伝送線路装置70Fの放射特性を示すグラフである。 [図29] 図25の非相反伝送線路装置70Fの放射角θの周波数特性を示すグラフである。 [図30] 図25の非相反伝送線路装置70Fの放射利得の周波数特性を示すグラフである。 [図31A] 図25の非相反伝送線路装置70Fを用いた擬似進行波共振アンテナ装置の構成を示す斜視図である。 [図31B] 図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、給電線Fから擬似進行波共振アンテナ装置を見たときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。 [図31C] 図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、非相反伝送線路装置70Fの長手方向に沿う磁界分布及び電界分布の正規化振幅を示すグラフである。 [図31D] 図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、非相反伝送線路装置70Fの長手方向に沿う磁界分布の位相勾配を示すグラフである。 [図31E] 図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置のブロードサイド方向の放射ビーム角の周波数特性を示すグラフである。 [図31F] 図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置の長手方向と基板の法線を含む面上における放射パターンを示すグラフである。 [図32A] 図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の試作例を示す写真である。 [図32B] 図32Aの試作例に係る擬似進行波共振アンテナ装置の実験結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置のブロードサイド方向の放射ビーム角の周波数特性を示すグラフである。 [図32C] 図32Aの試作例に係る擬似進行波共振アンテナ装置の実験結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置の長手方向と基板の法線を含む面上における放射パターンを示すグラフである。 発明を実施するための形態 [0021] 以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。 [0022] まず始めに、本発明に係る非相反伝送線路装置(非可逆伝送線路装置ともいう。)の基本構成及び動作原理について、図1~図12を参照して説明する。なお、本明細書中で用いた数式については、各式の後に示した丸括弧でくくられた番号を参照する。 [0023] 本発明の各実施形態に係る非相反伝送線路装置70A~70Fは、伝送線路の単位セルを縦続接続して構成される。図1~図4は、本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置における例示的な伝送線路の単位セル60A~60Dの等価回路図である。ここで、各単位セルは、順方向と逆方向の伝搬定数が異なる非相反位相推移特性を有する伝送線路部分を含み、直列枝の回路に容量性素子、並列枝の回路に誘導性素子が等価的に挿入された構成を有する(図1~図4を参照。)。このような本願発明に係る非相反伝送線路装置の構成を適用可能な回路又は装置は、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、スロット線路、コプレーナ線路などマイクロ波、ミリ波、準ミリ波、テラヘルツ波において用いられるプリント基板回路、導波管、誘電体線路を含み、これらだけでなく、プラズモン、ポラリトン、マグノン等を含む導波モードあるいは減衰モードを支える構成全般、あるいはそれらの組み合わせ、さらに等価回路として記述可能な自由空間などの全てを含む。非相反伝送線路装置による伝送する電磁波は、例えばUHF(Ultra High Frequency)バンドの周波数帯以上のマイクロ波、ミリ波,準ミリ波、テラヘルツ波を含み、本明細書では、これらを総称して「マイクロ波」という。 [0024] 非相反位相推移特性を有する伝送線路装置は、上述した伝送線路のうち、特にジャイロ異方性を有する材料を部分的もしくは全体的に含み、かつ電磁波の伝搬方向に対して異なる磁化方向(より好ましくは、伝搬方向に対して直交する方向)で磁化されて、上記伝搬方向と上記磁化方向とにより形成される面に対して非対称性を有する構造の伝送線路を用いて構成される。非相反位相推移特性を有する伝送線路としては、上述した伝送線路以外に、同等の非相反位相推移機能を有する、波長に比べて充分小さな集中定数素子も使用可能である。ジャイロ異方性を有する材料としては、自発磁化もしくは外部より印加した直流もしくは低周波の磁界により誘起された磁化あるいは自由電荷の周回運動により、材料の特性を表す誘電率テンソルもしくは透磁率テンソルあるいはその両方が、ジャイロ異方性を持つ状態として表される場合全てを含む。ジャイロ異方性を有する材料の具体例としては、マイクロ波、ミリ波などで用いられるフェライトなどのフェリ磁性体、強磁性体材料、固体プラズマ(半導体材料など)及び液体、気体プラズマ媒質、さらに微細加工などにより構成された磁性人工媒質などが挙げられる。 [0025] 直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、電気回路でよく用いられるコンデンサ、マイクロ波、ミリ波などで用いられる分布定数型容量素子だけでなく、等価的には、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の値を持つような回路又は回路素子であってもよい。負の実効透磁率を示すためには、直列枝の回路が容量性素子として支配的に動作する線路として等価的に記述される必要があり、負の実効透磁率を示す素子の具体例としては、金属からなるスプリットリング共振器、スパイラル構成などの磁気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは磁気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはフェライト基板マイクロストリップ線路に沿って伝搬するエッジモードのように、負の実効透磁率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路などが使用可能である。さらに、直列枝の回路に挿入される容量性素子としては、上述したもの以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分の素子又は回路が全体として容量性を示すものであってもよい。 [0026] 並列枝の回路に挿入される誘導性素子として、電気回路で用いられるコイルなどの集中定数型素子や、マイクロ波、ミリ波などで用いられる短絡スタブ導体などの分布定数型誘導性素子だけでなく、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の値を持つ回路又は素子を用いることができる。負の実効誘電率を示すためには、並列枝が誘導性素子として支配的に動作する伝送線路として等価的に記述される必要があり、負の実効誘電率を示す素子の具体例としては、金属細線、金属球などの電気的共振器を少なくとも1つ含む空間的配置、あるいは金属だけでなく電気的共振状態にある誘電体共振器の空間的配置、あるいはTEモードが遮断領域にある導波管、平行平板線路など、負の実効誘電率を持つ導波モードもしくは減衰モードで動作するマイクロ波回路などが使用可能である。また、並列枝の回路に挿入される誘導性素子としては、上述したもの以外に、容量性素子と誘導性素子の直列接続、並列接続あるいはそれらの組み合わせであってもよい。挿入されるべき部分が全体として誘導性を示す回路又は素子であってもよい。 [0027] 非相反位相推移特性を有する伝送線路装置において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効透磁率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効透磁率は、直列枝の回路に容量性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非相反位相推移部分と直列容量素子部分の両方を含む。 [0028] 非相反位相推移特性を有する伝送線路装置において、伝送線路中を伝搬する電磁波モードの実効誘電率が負の場合、減衰モードとなりうるが、負の実効誘電率は、並列枝の回路に誘導性素子が挿入された場合に相当することから、同線路の等価回路は、非相反位相推移部分と並列誘導素子部分の両方を含む。 [0029] 図1及び図2は、単位セル60A,60Bが非対称T型構造及び非対称π型構造をそれぞれ有する場合を示している。また、図3及び図4は、より単純な場合として、単位セル60C,60Dが対称T型構造及び対称π型構造をそれぞれ有する場合を示している。以下では原則として、単位セル60A~60Dの線路長(つまり周期長さp=p1+p2)が波長に比べて十分小さい場合を仮定しているので、従来技術に係る右手/左手系複合伝送線路装置における伝送線路の単位セルの取り扱いと同様に、T型構造、π型構造あるいはL型構造の場合であっても、本質的に同様の結果が得られる。実際、L型構造は、パラメータ操作により図1又は図2の場合に含められる。なお、波長に対する単位セル60A~60Dの線路長がここで述べる基本的動作を制約しないことを強調しておく。 [0030] 図1~図4に示す線路構造は単純で、所定の線路長(図1及び図2では線路長p1,p2であり、図3及び図4では線路長p/2である。)をそれぞれ有する2本の伝送線路部分61,62を含む伝送線路の直列枝の回路に容量性素子又は容量性を示す回路網が挿入され、並列枝の回路には誘導性素子又は誘導性回路網が挿入されている。これらの素子をまとめて単純に実効的な大きさ(線路長)を示すために、図1においては、キャパシタC1,C2及びインダクタLをそれぞれ挿入するように図示する。同様に、図2においては、キャパシタC及びインダクタL1,L2をそれぞれ挿入するように図示する。伝送線路部分61,62はそれぞれ、その順方向と逆方向の伝搬定数が異なる非相反位相推移特性を有するように構成されるが、本明細書では、伝搬定数を考察する際に、伝搬定数の虚部、すなわち位相定数を用いる。伝送線路部分61の非相反性を表すパラメータとして、順方向(ポートP11からポートP12に向う方向をいう。)の位相定数及び特性インピーダンスをそれぞれβNp1及びZp1と表し、逆方向(ポートP12からポートP11に向う方向をいう。)のそれらをそれぞれ、βNm1及びZm1と表す。同様に、伝送線路部分62の非相反性を表すパラメータとして、順方向の位相定数及び特性インピーダンスをそれぞれβNp2及びZp2と表し、逆方向のそれらをそれぞれ、βNm2及びZm2と表す。図1及び図2の伝送線路は2つの伝送線路部分61,62が非対称であるが、図3及び図4の伝送線路は2つの伝送線路部分61,62が対称であり、p1=p2=p/2,βNp1=βNp2=βNp,βNm1=βNm2=βNm,Zp1=Zp2=Zp,Zm1=Zm2=Zmを満たし、さらに、T型構造の場合はC1=C2=2Cであり、π型構造の場合はL1=L2=2Lである。具体例として、図3及び図4の伝送線路において、単位セル60A~60Dの両端に周期的境界条件を課すと、次式を得る。 [0031] [数1] [0032] ここで、Δβ及び [数2] は次式で表される。 [0033] [数3] [数4] [0034] ω及びβはそれぞれ、動作角周波数と、周期構造に沿って伝搬する電磁波の位相定数とを表す。式(1)は動作角周波数ωと位相定数βの関係を表していることから、分散関係式(ω-βダイアグラム)となる。 [0035] 式(1)において、相反性(βNp=βNmかつZp=Zm)を仮定すると、従来技術に係る相反伝送線路装置と同じになり、式(1)は次式に簡単化される。 [0036] [数5] [0037] 但し、式(2)中のアドミタンスY及びインピーダンスZはそれぞれ、Y=1/jωL、Z=1/jωCと仮定している。 [0038] 図5は、従来技術に係る相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフであり、図6は、従来技術に係る相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。図5及び図6のグラフは、正規化位相定数β・p/πに対する角周波数ωの特性を示す。式(2)で表されるような従来技術に係る相反伝送線路装置の場合、典型的な分散曲線は図5のように表され、一般に右手系(RH)伝送特性及び左手系(LH)伝送特性を示す帯域の間に禁止帯が現れる。左手系伝送帯域の上限及び右手伝送帯域の下限の周波数は、位相定数β=0の条件を式(2)に課すことにより、角周波数ω2に関する2次方程式の解として得られる。結果として次の2つの解を得る。 [0039] [数6] [数7] [0040] ここで、εp及びμpは、単位セル60A~60Dの伝送線路部分61,62の実効誘電率及び透磁率を表す。従って、禁止帯がゼロとなるように、カットオフ周波数がω1=ω2を満たすためには、式(2)が位相定数β=0の条件に対して重解を持てばよく、結果として次式を得る。 [0041] [数8] [0042] 式(5)の結果は、直列枝の回路に挿入される容量性素子であるキャパシタCと、並列枝の回路に挿入される誘導性素子であるインダクタLとがなすインピーダンス√(L/C)が、挿入先の伝送線路部分61,62の特性インピーダンスZpと同じであれば、ギャップが生じないというものであり、一種のインピーダンス整合条件となっている。その場合の分散曲線を図6に示す。 [0043] 式(1)により与えられる非相反伝送線路装置の場合の分散曲線について説明する。相反伝送線路装置の場合、式(2)によれば、分散曲線は位相定数β=0の直線(ω軸)に対して対称であるが、非相反伝送線路装置の場合、分散曲線の対称軸がβ=0の直線よりもβに関して [数9] だけ正の方向にシフトしていることが、式(1)の左辺から容易にわかる。以下、βNRを、非相反移相量という。従って、図5に対応して、図7を得る。 [0044] 図7は、実施形態に係る非相反伝送線路装置における非平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフであり、図8は、実施形態に係る非相反伝送線路装置における平衡状態の場合の分散曲線を示すグラフである。 [0045] このように、非相反伝送線路装置が、相反伝送線路装置と大きく異なるのは、分散曲線の対称軸がω軸から右側又は左側にシフトすることであり、これは、式(1)から求められる順方向の位相定数β=βpと逆方向の位相定数β=βmがβp≠βm(従って、順方向と逆方向の伝搬定数が互いに異なる)、つまり非相反位相推移の効果による。なお、非相反移相量βNRは、順方向及び逆方向の位相定数βpとβmを用いて式(6)の代わりに [数10] と表すこともできる。結果として、次の5種類の伝送帯域(A)~(E)に分類することができる。 [0046] (A)順方向及び逆方向伝搬共に左手系伝送。但し、伝搬定数の大きさは互いに異なる。 (B)順方向が左手系伝送、逆方向は伝搬定数がゼロで管内波長が無限大となる。 (C)順方向が左手系伝送、逆方向が右手系伝送。 (D)順方向が右手系伝送、逆方向は伝搬定数がゼロで管内波長が無限大となる。 (E)順方向及び逆方向伝搬共に右手系伝送。但し、伝搬定数の大きさは互いに異なる。 [0047] 但し、一般に、伝送帯域(C)では、図7からわかるように中央に阻止帯域(禁止バンド)が現れる。また、特に、図7及び図8においてRH/LHで示している伝送帯域を利用する際には、各ポートに双方向(順方向及び逆方向)でマイクロ波信号を入力しても、位相の流れが所定の同一方向を向く(左手系伝送及び右手系伝送)という特長を有する。 [0048] 比較のため、従来技術の相反伝送線路装置の場合を考えると、電力伝送の方向が正及び負となる2つの同一モードは、式(5)の整合条件が成立している場合に、つまり、図6に示すように、位相定数β=0の点で2つのモードが結合することなく交差することになる。同様に、式(1)により与えられる分散曲線の対称軸線上β=Δβ/2=βNRにおいて、式(1)は角周波数ω2に関する2次方程式となり、バンドギャップを生じさせないために重解の条件を課すと、次式を得る。 [0049] [数11] もしくは [数12] [0050] 但し、εp及びμpは、単位セル60A~60Dの非相反伝送線路部分61,62における順方向の実効誘電率及び透磁率を表し、εm及びμmは逆方向の場合のそれらを表す。式(7)より、2つのモードが交差する付近でギャップを生じさせないための条件は、相反伝送線路装置の式(5)の場合と類似して、インピーダンス整合条件となっている。しかも、順方向もしくは逆方向のどちらかで整合が取れるように、インダクタL及びキャパシタCを挿入すればよく、インピーダンス整合条件が、相反伝送線路装置の場合に比べて、より緩やかであることが特長として挙げられる。 [0051] 図1及び図2に示されているような、2つの伝送線路部分61,62が非対称である、より一般的な場合について、若干説明する。このような非対称の場合であっても、基本的には図7及び図8と同様の分散曲線に従って動作する。分散曲線の対称軸の位置は、図7及び図8の横軸の正規化位相定数β・p/π上で次式の位置に修正される。 [0052] [数13] [0053] また、2つの非相反伝送線路部分61,62が同一の伝搬特性を有している場合、バンドギャップを生じない整合条件は式(7)と同じになる。但し、図1の場合は [数14] であり、図2の場合、 [数15] である。 [0054] 本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置の全体は、図9~図12に示すように、図1~図4の単位セル60A~60Dを少なくとも1つ以上含みかつ縦続接続されて構成される。図9は、図1の単位セル60Aを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Aの構成を示すブロック図である。図9において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Aが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Aを構成している。図10は、図2の単位セル60Bを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Bの構成を示すブロック図である。図10において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Bが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Bを構成している。図11は、図3の単位セル60Cを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Cの構成を示すブロック図である。図11において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Cが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Cを構成している。図12は、図4の単位セル60Dを縦続接続して構成された非相反伝送線路装置70Dの構成を示すブロック図である。図12において、ポートP1とポートP2との間に、複数個の単位セル60Dが縦続接続されることにより、非相反伝送線路装置70Dを構成している。なお、複数個の単位セル60A~60Dが縦続接続される場合においても、必ずしも単位セル60A~60Dのうちの単一タイプのものを用いて構成される必要はなく、異なるタイプの単位セルを組み合わせて縦続接続してもよい。 [0055] 以下、本実施形態及び以下の各実施形態に係る非相反伝送線路装置70A~70Fの分散曲線は、図8に示すような平衡状態の分散曲線である。また、図8の分散曲線において、2つのモードが交差する交点の動作角周波数ωを中心角周波数ωCと定義し、交点における非相反移相量βNRを非相反移相量βNRCと定義する。ただし、図7に示すようなバンドギャップの存在する非平衡状態の分散曲線であっても動作可能である。この場合、図7における中心動作角周波数ωCに相当する角周波数は、伝送線路の両側の終端条件にも依存するが、図8の分散曲線のバンドギャップ端に相当する2つの角周波数ωcU,ωcLもしくはその間のバンドギャップ内の角周波数が該当する。 [0056] 非相反伝送線路装置70A~70Fを誘電体基板上に形成した場合、非相反伝送線路装置70A~70Fを備えた擬似進行波共振器アンテナ装置のビームの方向と、誘電体基板に垂直な方向との間の角度θ(以下、放射角θという。)の、動作角周波数ωについての導関数は、中心角周波数ωCの近傍において、次式で表される(非特許文献1参照)。 [0057] [数16] [0058] ここで、β0は真空中における電磁波の位相定数である。従って、非相反伝送線路装置70A~70Fを備えた擬似進行波共振器アンテナ装置において、中心角周波数ωCの近傍において、非相反伝送線路装置70A~70Bから放射される電波の放射角θが動作周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントを発生させないためには、次式が成り立てばよい。 [0059] [数17] [0060] すなわち、中心角周波数ωCの近傍において、非相反移相量βNRが動作角周波数ωに比例すればよい。本実施形態及び以下の各実施形態に係る非相反伝送線路装置70A~70Fは式(9)を満たすように構成され、これによりビームスクイントの発生を防止できる。 [0061] 図13Aは、本発明の実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eの構成を示す斜視図である。説明のために、図13Aに示すXYZ座標を参照する。図13Aにおいて、非可逆伝送線路装置70Eは、XY面に平行に設けられた接地導体11と、接地導体11上においてY軸に沿って延在するフェライト角棒(フェライトロッド)15Aと、接地導体11上においてフェライト角棒15Aの+X側及び-X側の両方に設けられた誘電体基板10と、ストリップ導体12と、スタブ導体13Aと、スタブ導体13Bと、キャパシタCseとを備えて構成される。また、フェライト角棒15Aと、ストリップ導体12と、スタブ導体13Aと、スタブ導体13Bと、キャパシタCseとは、Y軸に沿ってポートP1,P2間にわたって延在するマイクロストリップ線路12Eを構成する。マイクロ波信号は、ポートP1又はP2から供給される。 [0062] フェライト角棒15Aは、電磁波の伝搬方向とは異なる磁化方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有する。図22では、フェライト角棒15Aの飽和磁化MS及び内部磁界H0を矢印により示す。ここで、磁化方向は、好ましくは電磁波の伝搬方向(Y軸に沿った方向)と直交する方向(例えば、+Z方向)である。なお、自発磁化を有するフェライト角棒15Aに代えて、自発磁化を持たないフェライト角棒を用い、図13Bの外部磁界発生器80によって磁界が印加されてもよい。 [0063] 図13Aにおいて、マイクロストリップ線路12Eは、周期長さpを有する伝送線路の単位セル60Eを縦続接続して構成される。単位セル60Eのうちの1つについて説明する。各単位セル60Eは、フェライト角棒15A上においてY軸に沿って延在するストリップ導体12と、キャパシタCseと、スタブ導体13A及び13Bとを備えて構成される。キャパシタCseはストリップ導体12の+Y側の端部に接続され、キャパシタCseはさらに、単位セル60Aの+Y側に隣接した単位セル60Eのストリップ導体12に接続される。従って、各キャパシタCseは、マイクロストリップ線路12Eに直列に挿入されている。なお、図13Aにおいて、マイクロストリップ線路12Eの両端には、ストリップ導体12間のキャパシタCseの2倍の容量2Cseを有するキャパシタが挿入されている。 [0064] スタブ導体13Aは電気長Laを有し、ストリップ導体12の-X側に延在する。一方、スタブ導体13Bは、電気長Laより短い電気長Lbを有し、ストリップ導体12の+X側に延在する。スタブ導体13A,13Bは、ストリップ導体12からそれぞれ分岐し、図1のインダクタL(並列枝の回路)に対応する2つの並列枝の回路として設けられる。詳しくは、スタブ導体13Aは誘電体基板10上をX軸に沿って-X方向に延在し、その一端はストリップ導体12に接続され、その他端は誘電体基板10の-X側の端部において、接地導体17Aを介して接地導体11に短絡される(短絡スタブ)。同様に、スタブ導体13Bは誘電体基板10上をX軸に沿って+X方向に延在し、その一端はストリップ導体12に接続され、その他端は誘電体基板10の+X側の端部において接地導体17Bを介して接地導体11に短絡される。 [0065] このように、スタブ導体13A,13Bは、マイクロストリップ線路12Eの伝搬方向(例えば+Y方向又は-Y方向:図13Aではマイクロストリップ線路12E上の矢印により示す)と磁化方向(例えば+Z方向)とにより形成される面(YZ面)に対して、互いに異なる側に形成される。スタブ導体13A,13Bは、誘導性素子としてそれぞれ機能する。以上説明したように構成された単位セル60Eの等価回路は、図1の単位セル60Aの等価回路と同様である。 [0066] 図13Aの非相反伝送線路装置70Eは、共振タイプの漏れ波アンテナを実現するために利用される。上述したように、非相反伝送線路装置70Eは、ポートP1とP2との間に設けられかつフェライト角棒15Aが埋め込まれたマイクロストリップ線路12Eからなる。さらに、マイクロストリップ線路12Eに、ストリップ導体であるスタブ導体13A及び13BならびにキャパシタCseが周期長さpで周期的に挿入されている。非相反伝送線路装置70Eの主モードはエッジガイドモードであり、スタブ導体13A及び13Bが線路に対して非対称に挿入されているので、非相反伝送線路装置70Eは非相反伝送特性を示す。 [0067] 具体的には、各スタブ導体13A,13Bのインピーダンス(すなわち電気長)を互いに相違させたとき、非可逆伝送線路装置70Eの構造は、マイクロストリップ線路12Eの伝搬方向と磁化方向とにより形成される面(YZ面)に対して非対称になる。この結果、順方向(ポートP1からP2への向き)の伝搬定数と逆方向(ポートP2からP1への向き)の伝搬定数とが互いに相違し、順方向に右手系モードが伝搬し、逆方向に左手系モードが伝搬する状態を実現することができる。この構成によれば、各スタブ導体13A,13Bの電気長La,Lbを調節することにより、非可逆性の大きさを変化させることができる。詳細は後述するように、各スタブ導体13A,13Bの電気長La,Lbは、非相反伝送線路装置70Eを用いたアンテナ装置においてビームスクイントが実質的に発生しないように、設定される。 [0068] フェライト角棒15Aの埋め込まれたマイクロストリップ線路12Eに沿って伝搬するTEモードの伝搬特性は、マイクロストリップ線路12E両側の各側面の境界条件により変化する。本願の発明者らは、非相反伝送線路装置70Eの一般的な非可逆分散特性を解析した。共振タイプの非相反CRLH漏れ波アンテナにおいて、放射角θは、sinθ=βNR/β0の式から評価できる(例えば、非特許文献1参照。)。ここで、β0は真空中の位相定数を表す。また、非相反移相量βNRは、式(6)のように、電力の流れうる2つの伝搬方向に対する位相定数βpとβmの平均値であり、位相定数βの非可逆性の大きさを表している。ここで、動作角周波数ωが中心角周波数ωCからΔωだけ変化したことによる放射角θの変化量Δθは、非特許文献1において次式のように近似的に与えられている。 [数18] [0069] 従って、非相反伝送線路装置70Eを備えた共振タイプの非相反CRLH漏れ波アンテナにおいて、中心角周波数ωCの近傍においてビームスクイントを発生させないためには、中心角周波数ωCの近傍において、非相反移相量βNRが動作角周波数ωに関して厳密に比例していればよい。 [0070] 次に、図13Aの非相反伝送線路装置70Eの構成における非相反移相量βNRの近似式を導出し、非相反伝送線路装置70Eを用いた共振タイプの漏れ波アンテナにおいて、ビームスクイントを実質的に発生させないためのスタブ導体13A及び13Bの条件を、固有モード解析により導出する。 [0071] 本実施形態では、電磁界解析と伝送線路モデルの組み合わせにより、非相反伝送線路装置70Eを解析する。図13Aにおいて、非相反伝送線路装置70Eを、非特許文献3と同様に、電磁波の伝搬方向(Y軸に沿った方向)に沿って、Y軸方向の電気長LNRを有する非可逆な線路部分(nonreciprocal section:NRS)と、可逆な線路部分(reciprocal section:RS)とに分けて取り扱う。図13Aに示すように、1組の線路部分NR及びNRSは、周期長さpのT型の単位セル60Eとなる。さらに、縦続接続された単位セル60Eの両側の直列枝には、キャパシタンス2Cseを有する集中定数容量がそれぞれ挿入されている。 [0072] 図14は、図13Aの非可逆な線路部分NRSにおけるフェライト角棒15Aの縦断面図である。図14において、非可逆な線路部分NRSでは、ポートP1とP2との間のマイクロストリップ線路12Eに対してスタブ導体13A及び13Bが設けられているので、マイクロストリップ線路12Eの-X側及び+X側の各境界における境界条件は、互いに異なる等価アドミタンスY1及びY2を用いて表される。ここで、アドミタンスY1及びY2は、短絡終端あるいは開放終端の有限長マイクロストリップ線路からなるスタブ導体13A及び13Bによりそれぞれ与えられる。一方、可逆な線路部分RSでは、フェライト角棒15Aが埋め込まれたマイクロストリップ線路12Eに対して、-X方向及び+X方向のいずれにもスタブ導体が設けられていない。このため、マイクロストリップ線路12Eの-X側及び+X側の各境界における境界条件は、いずれも磁気壁(インピーダンスが無限大である。)になる。 [0073] 可逆な線路部分RSにおいて、磁気壁タイプの境界条件を適用すると、非特許文献2に記載されているエッジガイドモードのシンプルな分散関係になる。 [0074] 一方、非特許文献3において提案された固有モード解析により、非可逆な線路部分NRSに対する分散関係は次式のように与えられる。 [0075] [数19] [0076] ただし、ωは動作角周波数を表し、wはフェライト角棒15Aの幅であり、cは真空中の光速であり、εrはフェライト角棒15Aの比誘電率であり、物理量μ及μaはZ軸正方向に磁化されたフェライト角棒15Aのポルダー(Polder)比透磁率テンソル [数20] の対角成分及び非対角成分を表す。 [0077] また、 [数21] である。 [0078] ここで、μ0は真空の透磁率であり、ε0は真空の誘電率である。さらに、式(11)において、横方向の波数を意味するkxは次式で与えられる。 [0079] [数22] [0080] また、複素伝搬定数γは、減衰定数α及び位相定数βを用いてγ=α+jβと書くことができる。 [0081] 可逆な線路部分RS及び非可逆な線路部分NRSの巨視的な特性に関して、特性インピーダンスは、断面におけるポインティングベクトルの積分値と、マイクロストリップ線路12Eに沿った表面電流との比として、電磁界分布から見積もられる。電磁波の電界成分EZと、磁界成分HX及びHYとの間の関係は、マックスウェル方程式から得られる。伝送損失がなければ、特性インピーダンスは可逆である。 [0082] 次に、非相反伝送線路装置70Eに沿って伝搬する固有モードの解析を行う。非相反伝送線路装置70Eの構造の特徴は、単位セル60Eに対するABCD行列FUCにより、求めることができる。なお、単位セル60Eに対するABCD行列FUCは、可逆な線路部分RSに対する行列FRSと、非可逆な線路部分NRSに対する行列FNRSと、キャパシタンス2Cseのキャパシタに対する行列F2Cの積として、FUC=F2CFRSFNRSFRSF2Cと表される。ここで、行列FUCに対して、進行方向に周期的境界条件を適用すると、分散関係は次式で求められる。 [0083] [数23] 但し、γMMは周期構造に沿って伝搬するモードの複素伝搬定数を表す。 [0084] この式は、非可逆な線路部分NRSにおける非相反移相量βNRの大きさを用いて、定式化できる。具体的には、非可逆な線路部分NRSにおける非相反移相量は、μaが小さい値を持つという仮定の下で、摂動法により近似的に表すことができる。非相反CRLHメタマテリアルの分散関係に摂動法を適用することにより、非相反移相量βNRの大きさは、次式により与えられる。 [0085] [数24] [0086] ただし、ωMは(|g|μ0MS)であり、gはジャイロ磁気比である。式(12)からわかるように、非相反伝送線路装置70Eの構造の非相反性は、 [数25] で表される構造の非対称性と、フェライト角棒15Aの磁化の大きさを意味するωM=|g|μ0MSにより引き起こされる。一方、式(12)において、 [数26] の項は、2つのスタブ導体13A及び13BのアドミタンスY1とY2との総和を表す(非特許文献4参照。)。負の誘電率を有する誘導性スタブの総和アドミタンスの虚部は、負の値を取る。無損失の場合、非相反性は、例えば、非特許文献3において指摘されたように、位相定数にのみ現れる。 [0087] 図15は、比較例に係る非相反伝送線路装置70Gの構成を示す斜視図である。図15の非相反伝送線路装置70Gは、本実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eに比較して、単位セル60Eに代えて単位セル60Gを備えた点が異なる。ここで、単位セル60Gは、単位セル60Eに比較して、スタブ導体13Aを備えず、ストリップ導体12の+X側のみにスタブ導体13Bを備えた点が異なる。この結果、マイクロストリップ線路12Eの+X側のみにスタブ導体13Bが周期的に挿入され、誘電率が負となる伝搬特性が得られる。非特許文献3において、誘電率が負となる伝搬特性を与える単純な場合において、非相反伝送線路装置70Gの特性が解析されている。 [0088] 図16は、図15の非相反伝送線路装置70Gの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。また、図17は、図13Aの非相反伝送線路装置70Eの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。上述した式(12)は、マイクロストリップ線路12Eの片側にのみスタブ導体が挿入された図15の非相反伝送線路装置70Gでは、非相反移相量βNRが動作角周波数ωに近似的に反比例することを示している(図16参照。)。一方、図13Aの本実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eのように、マイクロストリップ線路12Eの両側にスタブ導体13A及び13Bが挿入されると、非相反移相量βNRは動作角周波数ωに反比例しなくなる(図17参照。)。 [0089] また、図16に示すように、マイクロストリップ線路12Eの片側のみにスタブ導体13Bを挿入した図15の非相反伝送線路装置70Gにおいて、非相反移相量βNRの動作角周波数ωに関する第1次導関数dβNR(ω)/dωは、dβNR(ω)/dω<0となる(非特許文献1、3及び4参照。)。 [0090] 一方、図17に示すように、マイクロストリップ線路12Eの両側にスタブ導体13A及び13Bを挿入した図13Aの非相反伝送線路装置70Eでは、中心角周波数ωCより低い所定の動作角周波数ωZにおいて非相反移相量βNRがゼロになるとき、非相反移相量βNRの動作角周波数ωに関する第1次導関数dβNR(ω)/dωの符号は逆転して、dβNR(ω)/dω>0となる。その結果、中心角周波数ωCの近傍において非相反移相量βNRが動作角周波数ωに実質的に比例するので、ビームスクイントが実質的に発生しないように非相反伝送線路装置70Eを設計できることがわかる。 [0091] 非相反伝送線路装置70Eを用いた共振タイプの漏れ波アンテナにおいて、ビーム角θが動作周波数に応じて変化するビームスクイントが起こらないようにするために、本実施形態では、アドミタンスY1とY2が周波数に関して変化することを利用する。一般に、アドミタンスY1(ω)とY2(ω)とは、終端に負荷インピーダンスが接続された有限長マイクロストリップ線路において、入力インピーダンスの関係式を用いて表すことができる。一般に、終端が短絡され又は開放されているとき、入力アドミタンスは、cot関数又はtan関数を含むので、所定の周波数で特異点を有し、不連続性を示す。 [0092] 式(12)を参照すると、 [数27] であるとき、すなわち、Y1=Y2であるとき、非相反移相量βNRは0となるが、別の動作角周波数ωでは、かなり大きな非相反移相特性も得られる。挿入したスタブ導体13A及び13BのアドミタンスY1及びY2が有する三角関数の性質から、 [数28] が不連続になる2つの特異点(周波数)の間において、上述したビームスクイントが0となるアドミタンスY1及びY2の条件、すなわち、電気長La及びLbの条件を見つけることができる。 [0093] 図19は、図13Aの非相反伝送線路装置70Eの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値及び図13Aの非相反伝送線路装置70Eを図18(後述する)のように形成したときの実験値を示すグラフである。図19において、伝送電力が順方向(正の方向)であるときの位相定数βpと、逆方向(負の方向)であるときの位相定数-βmと、位相定数βp及び-βmに基づいて算出される非相反移相量βNRとの各シミュレーション計算値を示す。シミュレーションには、有限要素法を用いた。さらに、ビームスクイントが全く発生しないときの非相反移相量βNRZの理論値と、真空中の位相定数β0とを併せて示す。非相反伝送線路装置70Eを用いたアンテナの中心角周波数ωCは、左手系モードと右手系モードの2つの分散曲線の交点の動作角周波数により定義され、図19においては、6.8GHzとなっていることが確認できる。また、中心角周波数ωCの近傍において、非相反移相量βNRはビームスクイントが全く発生しない理想の場合の非相反移相量βNRZに近接しており、実質的にビームスクイントが起きないことがわかる。 [0094] 図18は、図13Aの非相反伝送線路装置70Eの具体的な構成を示す平面図である。図19に示すように、非相反伝送線路装置70Eの実験モデルを試作した。図19の非相反伝送線路装置70Eでは、マイクロストリップ線路12Eの下に、断面寸法0.8mm×0.8mmを有するイットリウム鉄ガーネット(YIG)製のフェライト角棒15Aが埋め込まれている。また、Rexolite(登録商標)2200の誘電体基板10上に、スタブ導体13A及び13Bを形成した。さらに、スタブ導体13Aの電気長Laを25mmに設定し、スタブ導体13Bの電気長Lbを2.5mmに設定し、スタブ導体13A及び13Bの幅を1mmに設定し、単位セル60Eの周期長さpを3mmに設定した。右手系モードと左手系モードの間にバンドギャップがない分散特性となるように、キャパシタCseのキャパシタンスを0.5pFに設定した。また、図18に示すように、隣接するスタブ導体13A間の容量結合を抑制するために、スタブ導体13Aの幅より細い幅を有する接地導体18を、隣接するスタブ13A間に形成した。 [0095] 図13Aの非相反伝送線路装置70Eを図18のように試作したときの位相定数βp及び-βmと、非相反移相量βNRとを図19に示す。図19に示すように、各実験値は、シミュレーション計算値に良く一致している。特に、5.3GHzから7.7GHzの帯域において、非相反移相量βNRの分散特性は、擬似進行波共振器アンテナにおいてビームスクイントが発生しない理想的な場合における非相反移相量βNRZと良く一致している。すなわち、本実施の形態に係る非相反伝送線路装置70Eによれば、動作帯域の中心角周波数ωC近傍でビームスクイントが実質的に発生しない共振タイプのアンテナ装置を実現できる。 [0096] 以上説明したように、非相反伝送線路装置70Eにおける位相定数βp及び-βmの大きさを解析することにより、非相反伝送線路装置70Eを用いたアンテナ装置においてビームスクイントを実質的に発生させないことが可能となることを示した。また、非相反伝送線路装置70Eを試作し、伝送特性を測定したところ、実験値はシミュレーション計算値と良く一致することが確かめられた。従って、非相反伝送線路装置70Eを共振タイプの漏れ波アンテナに適用すれば、ビームスクイントが実質的に発生しないビーム走査アンテナ装置を実現できる。 [0097] 実施形態の変形例. 図20Aは、本発明の実施形態の変形例に係る非相反伝送線路装置70Fの構成を示す斜視図である。図20Aにおいて、非相反伝送線路装置70Fは、実施形態に係る非相反伝送線路装置70Eに比較して、単位セル60Eに代えて単位セル60Fを備えた点が異なる。また、単位セル60Fは、単位セル60Eに比較して、チップキャパシタであるキャパシタCshをさらに備えた点のみが異なる。以下、実施形態との間の相違点のみを説明する。図20Aにおいて、キャパシタCshの一方の電極は、スタブ導体13A及び13Bのうちの長い方のスタブ導体13Aの所定の接続点に接続される一方、キャパシタCshの他方の電極は、ビア導体19を介して接地導体11に接続される。 [0098] 実施形態において説明したように、スタブ導体13A及び13Bの各アドミタンスY1及びY2は、マイクロストリップ線路12Eの-X側の側面及び+X側の側面の境界条件に対して周波数依存性を与える。ここで、マイクロストリップ線路12Eの両側に挿入される互いに異なるアドミタンスY1及びY2をそれぞれ有するスタブ導体13A及び13Bを用いて、中心角周波数ωCより低い所定の動作角周波数ωZにおいてβNR=0とすることが可能である一方で、中心角周波数ωCより高い周波数において非可逆性を大きく確保し、さらに非相反移相量βNR(ω)を増加関数にすることが可能である(図17参照。)。 [0099] 図20Aにおいて、接地された長い方のスタブ導体13Aの等価アドミタンスY1は、スタブ導体13Aを含むマイクロストリップ線路の特性インピーダンスZstと、実効誘電率εstと、スタブ導体13Aの電気長Laとを用いて、次式で表される。 [0100] [数29] [0101] 接地されたスタブ導体13Aと、接地されたスタブ導体13Bとを組み合わせることにより、中心角周波数ωCより低い所定の動作角周波数ωZにおいて、近似的にβNR=0の条件を満たすことができる。ここで、角周波数ω=πc/La√(εst)からからそれほど離れていない角周波数において、上記条件が満たされることが、スタブ導体13AのアドミタンスY1の関数形から類推できる。 [0102] ここで、非相反移相量βNR(ω)が動作角周波数ωの増加関数であることは、ビームスクイントを容易に消失させることができることを意味しているわけではなく、実施形態で述べたように、最大放射ビーム角を劣化させることもある。本変形例では、追加のキャパシタCshを設けることにより、長い方のスタブ導体13AのアドミタンスY1を調整する。これにより、実施形態に比較して、非相反移相量βNR(ω)の制御性を良くすることができる。これにより、非相反移相量βNR(ω)の値がより大きいときに、中心角周波数ωCの近傍で実質的にβNR(ω)∝ωとなるように非相反伝送線路装置70Fを設計できる。このため、実施形態に比較して、容易にビームスクイントの発生を抑制できる。 [0103] なお、自発磁化を有するフェライト角棒15Aに代えて、自発磁化を持たないフェライト角棒を用い、図20Bの外部磁界発生器80によって磁界が印加されてもよい。 [0104] 図21は、図20Aの非相反伝送線路装置70Fの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフであり、図22は図21の拡大図である。シミュレーションには、有限要素法を用いた。マイクロストリップ線路12Eの下に、断面寸法0.8mm×0.8mmを有するイットリウム鉄ガーネット(YIG)製のフェライト角棒15Aを埋め込んだ。また、中心角周波数ωCに対応する周波数より低い5GHzで非相反移相量βNRがゼロになるように、スタブ導体13Aの電気長Laを25.5mmに設定し、スタブ導体13Bの電気長Lbを1.3mmに設定し、スタブ導体13A及び13Bの幅を1mmに設定した。さらに、ビームスクイントが実質的に発生しないように、キャパシタCshのキャパシタンスを0.4pFに設定し、右手系モードと左手系モードの間にバンドギャップがない分散特性となるように、キャパシタCseのキャパシタンスを0.65pFに設定した。さらに、誘電体基板10の比誘電率を2.6に設定した。 [0105] 上述したように、スタブ導体13A及び13Bの各電気長La及びLbは25.5mm及び1.3mmにそれぞれ設定され、非相反伝送線路装置70Fは、マイクロストリップ線路12Eに対して非対称性の強い構造を有する。図21及び図22に示すように、2本の分散曲線の交点における動作周波数ωC/(2π)は、6.0GHzとなった。また、非相反移相量βNRは、動作周波数ωC/(2π)の近傍において周波数に比例し、完全にビームスクイントが発生しないときの非相反移相量βNRZに近接している。さらに、得られた非相反移相量βNRZの大きさを、この構造に基づいて設計されたアンテナ装置の放射ビーム角に換算すると、最大28度までビーム走査可能であることが確認された。 [0106] 以上詳述したように、非相反伝送線路装置70E及び70Fは、ポートP1とP2との間で、単位セル60E又は60Fを縦続接続して構成され、順方向の伝搬定数と逆方向の伝搬定数とが互いに異なる。ここで、各単位セル60E及び各単位セル60Fは、マイクロ波の伝送線路部分12と、容量性素子を等価的に含む直列枝の回路であるキャパシタCseと、伝送線路部分12からそれぞれ分岐して設けられかつ誘導性素子を等価的に含む第1及び第2の並列枝の回路とを有する。また、伝送線路部分12は、マイクロ波の伝搬方向に対して異なる方向に磁化されてジャイロ異方性を有するように自発磁化を有するか又は外部磁化により磁化される。さらに、第1の並列枝の回路は、電気長Laを有するスタブ導体13Aであり、第2の並列枝の回路は、電気長Laより短い電気長Lbを有するスタブ導体13Bである。 [0107] さらに、順方向で伝搬する第1のモードの位相定数をβpとし、逆方向で伝搬する第2のモードの位相定数をβmとしたとき、電気長La及びLbは、位相定数βpと動作角周波数との関係を示す分散曲線と、位相定数βmと動作角周波数との関係を示す分散曲線との交点の近傍において、動作角周波数に対する非相反移相量βNR=(βp-βm)/2の関数が、非相反伝送線路装置から放射される電磁波の放射方向が周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントが発生しないときの、動作角周波数に対する非相反移相量βNRの関数βNRZに近接するように、設定されたことを特徴としている。 [0108] より具体的には、非相反伝送線路装置70E又は70Fを備えたアンテナ装置において、上述した2つの分散曲線の交点の動作角周波数である中心角周波数ωCの近傍においてビームスクイントを実質的に発生させないためには、中心角周波数ωCの近傍において、非相反移相量βNRは動作角周波数ωに比例する必要がある。すなわち、中心角周波数ωCの近傍において、次式が実質的に成立する必要がある。 [数30] [0109] また、この式を成立させるために、スタブ導体13Aの電気長Laと、スタブ導体13Bの電気長Lbとは、スタブ導体13AのアドミタンスY1及びスタブ導体13BのアドミタンスY2が以下の第1及び第2の条件を満たすように設定される。 [0110] 第1の条件:非相反伝送線路装置70Fを備えたアンテナ装置の中心角周波数ωCの近傍かつ中心角周波数ωCより低い所定の動作角周波数ωZにおいて、非相反移相量βNRが0の値を取る。すなわち、動作角周波数ωZにおいて、マイクロストリップ線路12Eの両側に挿入されたスタブ導体13A及び13Bの持つアドミタンスY1及びY2が、Y1=Y2を満たす(式(12)参照。)。 第2の条件:上述した動作角周波数ωZにおいて、アドミタンスY1及びY2はともに誘導的(インダクタンス)でなければならない。すなわち、動作角周波数ωZにおいて、スタブ導体13A及び13Bは負の誘電率を有する誘導性スタブでなければならないので、Im(Y1)=Im(Y2)<0である。 [0111] 非相反伝送線路装置70E及び70Fにおいて、スタブ導体13Aの一端は接地されているが、開放されていてもよい。本願の発明者らは、スタブ導体13Aの一端が接地されているか(短絡スタブ)又は開放されているか(開放スタブ)に応じて、電気長LaとLb(La>Lb)とが以下の追加の第3及び第4の条件を満たすように設定されるべきであることを見いだした。なお、以下の各条件において、λは管内波長である。 [0112] 第1の場合(スタブ導体13Aが短絡スタブである場合): 第3の条件:スタブ導体13Aは、La>λ/2を満たす短絡スタブである。 第4の条件:スタブ導体13Bは、Lb<λ/4を満たす短絡スタブである。 [0113] 第2の場合(スタブ導体13Aが開放スタブである場合): 第3の条件:スタブ導体13Aは、La>λ/4を満たす開放スタブである。 第4の条件:スタブ導体13Bは、Lb<λ/4を満たす短絡スタブである。 [0114] なお、上述したように、第1及び第2の場合において、スタブ導体13Aの所定の接続点に、チップコンデンサ等の集中定数の容量を追加で接続することにより、非相反移相量βNRを大きくできる。従って、放射ビーム角θが大きくなってもビームスクイントの発生を実質的に抑制できる。 [0115] 次に、上述した第2の場合におけるアドミタンスY1及びY2を考察する。図23は、図20Aのスタブ導体13Aが開放スタブであるときの非相反伝送線路装置70Fの構成を模式的に示す平面図である。また、図24は、図23の非相反伝送線路装置70FにおけるアドミタンスY1及びY2の動作角周波数依存性ならびに非可逆移相量βNRの周波数依存性を示すグラフである。 [0116] 図23において、スタブ導体13A及び13Bは、いずれも誘導性スタブ導体として動作する。また、上述したように、電気長LaはLa>λ/4を満たすように設定され、電気長LbはLb<λ/4を満たすように設定される。図24に示すように、スタブ導体13Aが開放スタブであるとき、アドミタンスY1は動作角周波数ωに関する正接関数(tan)になる。また、スタブ導体13Bが短絡スタブであるとき、アドミタンスY2は動作角周波数ωに関する余接関数(cot)になる。図24において、中心角周波数ωCの近傍かつ中心角周波数ωCより低い動作角周波数ωZにおいて、非相反移相量βNRはゼロになる。上述したように、この動作角周波数ωZにおいて、アドミタンスY1及びY2は誘導的(インダクタンス)であり、アドミタンスY1及びY2の各虚部は負の値を取る。 [0117] 上述した式(12)に示したように、非相反移相量βNRは(Y2-Y1)に比例する因子を持っているが、これは、非相反移相量βNRの周波数依存性が(Y2-Y1)の周波数依存性に影響を受けていることを意味している。図24において、アドミタンスY2は動作角周波数に対して非常に緩やかに変化し特異点を有していない。一方、アドミタンスY1は動作角周波数に対してアドミタンスY2より急激に変化し、複数の周期的な特異点を有する。従って、非相反移相量βNRがゼロになる動作角周波数ωZは、アドミタンスY1の特異点に対応する動作角周波数により実質的に決定される。また、アドミタンスY2は、アドミタンスY1より緩やかに変化するので、非相反移相量βNRの計算(すなわち、(Y2-Y1)の計算)においては、非相反移相量βNRの値を増加させて図2において右側にシフトするように作用しているだけである。 [0118] 図24において、動作角周波数ωに関する非相反移相量βNRの勾配dβNR/dωは(Y2-Y1)の動作角周波数依存性により決まるが、この非相反移相量βNRの周波数依存性により、最大放射ビーム角も決まる。具体的には、dβNR/dωの値が大きいほど、最大放射ビーム角も大きくなる。非相反伝送線路装置70Eは、図23に示すように、長い方のスタブ導体13Aの所定の接続点に、キャパシタCshを接続した。これにより、図24において(Y2-Y1)の動作角周波数ωに関する勾配が大きくなり、その結果、dβNR/dωを大きくすることができる。従って、キャパシタCshを設けない非相反伝送線路装置70Eに比較して、ビームスクイント実質的に発生しない状態を維持しながら、最大放射ビーム角を大きく改善できる。 [0119] 上述した第2の場合における非相反伝送線路装置70Eを用いた擬似進行波共振器アンテナの動作を確認するために、高周波3次元電磁界解析ソフトウェアであるANSYS HFSS ver13を用いてシミュレーションを行った。 [0120] 図25は、図23の非相反伝送線路装置70Fのシミュレーションに用いた具体的な構成を示す平面図であり、図26は、図25の非相反伝送線路装置70Fの斜視図である。図25において、ストリップ導体12の幅を0.8mmに設定し、スタブ導体13Aの電気長Laを14mmに設定し、スタブ導体13Bの電気長Lbを1.7mmに設定し、スタブ導体13A及び13Bの各幅を1mmに設定し、ストリップ導体12とキャパシタCshとの間の距離を2.65mmに設定した。また、周期長さpを3mmに設定し、周期数を15に設定し、キャパシタCseのキャパシタンスを0.4pFに設定し、キャパシタCshのキャパシタンスを0.1pFに設定した。なお、図26に示すように、スタブ導体13Aは開放スタブであり、スタブ導体13Bは短絡スタブである。 [0121] さらに、図25において、ポートP1に反射器R1を接続し、ポートP2に反射器R2を接続し、給電線Fを反射器R1に接続した。ここで、反射器R1及びR2のX軸方向の幅を4.5mmにそれぞれ設定した。また、反射器R1のY軸方向の幅を、管内波長の約3/4である19.2mmに設定し、反射器R2のY軸方向の幅を、管内波長の約1/4である6.25mmに設定した。さらに、フェライト角棒15Aの断面寸法を0.8mm×0.8mmに設定した。なお、飽和磁化はμ0MS=160mTとした。また、隣接するスタブ導体13A間の容量結合を抑制するために、スタブ導体13Aの幅より細い幅を有する接地導体50を、隣接するスタブ13A間に形成した。 [0122] 図27は、図25の非相反伝送線路装置70Fの分散曲線及び非相反移相量βNRの周波数特性のシミュレーション計算値を示すグラフである。図27に示すように、非相反移相量βNRのシミュレーション計算値は、ビームスクイントが全く発生しない理想的な場合の非相反移相量βNRZに良く一致していることがわかる。 [0123] 図28は、図25の非相反伝送線路装置70Fの放射特性を示すグラフである。図28において、動作周波数が7.35GHzの場合を示す。図28から、主ビームの放射角θは、0度から傾いて19度となっていることが確認できる。 [0124] 図29は、図25の非相反伝送線路装置70Fの放射角θの周波数特性を示すグラフであり、図30は、図25の非相反伝送線路装置70Fの放射利得の周波数特性を示すグラフである。図29から、放射角θは7.20GHzから7.55GHzに亘りほぼ一定となっていることが確認できる。従って、ビームスクイントが実質的に発生しない4%以上の動作比帯域を実現していることがわかる。すなわち、本実施形態によれば、ビームスクイントが実質的に発生しない動作比帯域を、マイクロストリップ線路12Eのストリップ導体の片側のみにスタブ導体を設けた場合の動作比帯域2%(非特許文献1参照)に比べて大幅に改善できた。 [0125] 図31Aは図25の非相反伝送線路装置70Fを用いた擬似進行波共振アンテナ装置の構成を示す斜視図である。図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置において、2つの反射器R1,R2は非相反伝送線路装置70Fから見てそれぞれポートP1,P2において短絡となるように長さが調整されている。このうち給電線Fに接続された側の反射器R2は、非接続側の反射器R2に比べて、給電線Fの接続部分を確保するために半波長だけ長い構造となっており、その結果不要な放射を引き起こす。この不要放射抑制のため、その反射器R2には金属遮蔽板90による遮蔽構造が採用されている。 [0126] 図31Bは図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、給電線Fから擬似進行波共振アンテナ装置を見たときの反射係数S11の周波数特性を示すグラフである。図31Bのグラフは、反射の小さくなる3つの周波数で同アンテナ装置が共振していることを意味し、その結果このアンテナ装置から電磁波が放射される。3つの共振周波数のうち6.5GHz及び7.4GHz帯での共振では、CRLH線路内で半波長共振となっている。これに対して、6.9GHzでの共振状態は、本実施形態で注目する擬似進行波共振として動作している。 [0127] 図31Cは図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、非相反伝送線路装置70Fの長手方向に沿う磁界分布及び電界分布の正規化振幅を示すグラフである。図31Cから明らかなように、両端短絡共振器の場合、理想的には磁界が支配的な共振となり、電界成分は小さくなる。 [0128] 図31Dは図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、非相反伝送線路装置70Fの長手方向に沿う磁界分布の位相勾配を示すグラフである。図31Dから明らかなように、非相反伝送線路装置70F部分では、長さ30mmに対して70度程度の位相変化が確認される。 [0129] 図31Eは図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置のブロードサイド方向の放射ビーム角の周波数特性を示すグラフである。すなわち、図31Eは、擬似進行波共振アンテナ装置からの放射ビーム角を、ブロードサイド方向を基準に取り、動作周波数の関数として示ている。磁化が4πM=-1600Gの場合、6.85GHzから7.15GHzまでの比帯域4%の範囲で、ビーム方向がほぼ一定となり、ビームスクイントが低減していることが確認される。さらに磁化及び内部磁界の大きさを4πM=0G及び+1600Gと変えた場合についても示している。ビームスクイント抑制の効果が少し劣化しているが、同様の傾向が確認されている。 [0130] 図31Fは図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の数値計算結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置の長手方向に対して垂直な面における放射パターンを示すグラフである。図31Fから明らかなように、印加磁界4πM=+1600Gの場合、動作周波数7GHzの入力信号に対して、8dBiの放射利得を得ている。 [0131] 図32Aは図31Aの擬似進行波共振アンテナ装置の試作例を示す写真であり、図32Bは図32Aの試作例に係る擬似進行波共振アンテナ装置の実験結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置のブロードサイド方向の放射ビーム角の周波数特性を示すグラフである。図32Aから明らかなように、外部印加磁界がHex=-1000、0、+1000Oeの3つの場合を示す。放射ビーム角が周波数により変化しないビームスクイントが厳密に0となる帯域は、図31Eに示す数値計算結果に比べて小さいが、過去に試作したビームスクイント抑制機能のない擬似進行波共振構造の場合に比べて、ビームスクイントが低減されている動作帯域が大幅に改善された。 [0132] 図32Cは図32Aの試作例に係る擬似進行波共振アンテナ装置の実験結果であって、当該擬似進行波共振アンテナ装置の長手方向に対して垂直な面における放射パターンを示すグラフである。ここで、動作周波数は6.63GHz、外部印加磁界Hex=-1000Oeの場合を示している。図32Cから明らかなように、擬似進行波共振アンテナ装置の長手方向の中心からやや後方方向にビームを有していることがわかる。 [0133] なお、実施形態に係る非相反伝送線路装置70Aにおいて、スタブ導体13A及び13Bの各電気長La及びLbを、実施形態及びその変形例で説明したように設定してもよい。 産業上の利用可能性 [0134] 以上詳述したように、本発明に係る非相反伝送線路装置及びアンテナ装置によれば、動作角周波数に対する非相反移相量βNR=(βp-βm)/2の関数が、上記非相反伝送線路装置から放射される電磁波の放射方向が周波数に応じて変化する現象であるビームスクイントが発生しないときの、動作角周波数に対する非相反移相量βNRの関数に近接するように構成されたので、動作帯域の中心周波数近傍でビームスクイントが実質的に発生しない。 [0135] 本発明に係る非相反伝送線路装置70A~70Fは、信号伝送用のデバイス及びアンテナ装置として有用である。 符号の説明 [0136] 10…誘電体基板、 11,18,19,22,23,50…接地導体、 12,21,24…ストリップ導体、 12A…コプレーナ線路、 12E…マイクロストリップ線路、 13A,13B…スタブ導体、 15…フェライト板、 15A…フェライト角棒、 17A,17B…接地導体、 60A~60F…単位セル、 61,62…伝送線路部分、 70A~60F…非相反伝送線路装置、 80…外部磁界発生器、 C,C1,C2,C60,Cse,Csh…キャパシタ、 P1,P2,P11,P12…ポート。 |
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