CELLULAR-DISORDER INHIBITOR, MEDICINAL COMPOSITION CONTAINING SAID CELLULAR-DISORDER INHIBITOR FOR PREVENTION OR TREATMENT OF ORGAN DERANGEMENT CAUSED BY HYPOXEMIA, AND MEDICINAL COMPOSITION CONTAINING SAID CELLULAR-DISORDER INHIBITOR FOR PREVENTION OR TREATMENT OF ISCHEMIC CEREBROVASCULAR DISORDER
外国特許コード | F160008792 |
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整理番号 | (S2014-1592-N0,S2015-0263-N0) |
掲載日 | 2016年8月4日 |
出願国 | 世界知的所有権機関(WIPO) |
国際出願番号 | 2015JP079023 |
国際公開番号 | WO 2016060158 |
国際出願日 | 平成27年10月14日(2015.10.14) |
国際公開日 | 平成28年4月21日(2016.4.21) |
優先権データ |
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発明の名称 (英語) | CELLULAR-DISORDER INHIBITOR, MEDICINAL COMPOSITION CONTAINING SAID CELLULAR-DISORDER INHIBITOR FOR PREVENTION OR TREATMENT OF ORGAN DERANGEMENT CAUSED BY HYPOXEMIA, AND MEDICINAL COMPOSITION CONTAINING SAID CELLULAR-DISORDER INHIBITOR FOR PREVENTION OR TREATMENT OF ISCHEMIC CEREBROVASCULAR DISORDER |
発明の概要(英語) | The present invention is a cellular-disorder inhibitor characterized by containing any one of peptides (a) to (g), a derivative thereof, or a salt or ester of these as an active ingredient. |
従来技術、競合技術の概要(英語) |
BACKGROUND ART Hemostatic coagulation factor 9 (F9) is involved in clotting, blood coagulation factors of the long-known and essential fatty acid, a protein known as the cause of hemophilia. F9 Is, in the course of the blood coagulation reaction, clotting factors and clotting factors (F11) 11 (F7) by 7, present between the light and heavy chains of an intermediate portion (Activation peptide (hereinafter, also referred to as F9-AP.) ) Is cut off, is activated. The cut F9-AP is also light and heavy chains connected by a disulfide bond and, as a single molecule of 1 to promote blood coagulation reaction. However, the function of the reports F9-AP not. The present inventors, extension of the cell and cause F9-AP revealed, epithelial and endothelial damage was found to be effective as a therapeutic agent (see Patent Document 1). However, a variety of causes, cell, organ, sufficient oxygen is not supplied to the tissue, cell, organ, subject to tissue is disturbed. Cell, organ, tissue sufficient oxygen is supplied as in the non-, a poorly water-soluble accident, disaster, asphyxiation, anesthesia accident hypoxemia; pneumonia, respiratory diseases and bronchial asthma; shock, myocardial infarction, disseminated intravascular coagulation syndrome such as impaired blood flow by organ failure and the like. Such hypoxia induced by impairment of organs such as methods of treatment include, hypothermia treatment method can be used (see non-patent document 1-2). In addition, causes the death of as Japanese, stroke is a cancer, heart disease, pneumonia 4 then serving as the first. However, the first stroke is the heart of a lying to persist or site of 1, compared with the incidence of myocardial infarction, stroke and the incidence rate of 3-10 times, in regard to the prophylaxis and treatment of stroke is important is in the absence of undoubtedly. Stroke about 12 million deaths a year and, according to the cerebral infarction is 60%. Cerebral infarction exact incidence is unknown, roughly one million 100-200 population in 10, 40 and 10 before and after 600 years of age or older is estimated to be one million. Rapid super senior population in regard to advances, the incidence of cerebral infarction, cerebral infarction total number of patients, the number of fatalities due to cerebral infarction, the number of the person, is increasingly expected to increase. Currently, the most effective treatment of thrombolytic therapy is cerebral infarction. Recombinant tissue plasminogen activator (rt-PA, alteplase) intravenous administration of 4.5 that can be treated within one hour from the onset of ischemic cerebral vascular disease in a patient who has been determined to be carefully adapted to strongly recommended (see non-patent document 3-4). In addition, edaravone is expected brain protective effect for cerebral infarction (thrombosis, embolism) recommended as a method of treating a patient (see non-patent document 5). |
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国際特許分類(IPC) |
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指定国 |
National States: AE AG AL AM AO AT AU AZ BA BB BG BH BN BR BW BY BZ CA CH CL CN CO CR CU CZ DE DK DM DO DZ EC EE EG ES FI GB GD GE GH GM GT HN HR HU ID IL IN IR IS JP KE KG KN KP KR KZ LA LC LK LR LS LU LY MA MD ME MG MK MN MW MX MY MZ NA NG NI NO NZ OM PA PE PG PH PL PT QA RO RS RU RW SA SC SD SE SG SK SL SM ST SV SY TH TJ TM TN TR TT TZ UA UG US UZ VC VN ZA ZM ZW ARIPO: BW GH GM KE LR LS MW MZ NA RW SD SL SZ TZ UG ZM ZW EAPO: AM AZ BY KG KZ RU TJ TM EPO: AL AT BE BG CH CY CZ DE DK EE ES FI FR GB GR HR HU IE IS IT LT LU LV MC MK MT NL NO PL PT RO RS SE SI SK SM TR OAPI: BF BJ CF CG CI CM GA GN GQ GW KM ML MR NE SN ST TD TG |
日本語項目の表示
発明の名称 | 細胞障害抑制剤、前記細胞障害抑制剤を含む低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物、及び前記細胞障害抑制剤を含む虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物 |
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発明の概要 | 本発明は、(a)~(g)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする細胞障害抑制剤である。 |
特許請求の範囲 |
[請求項1] 以下の(a)~(g)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする細胞障害抑制剤。 (a)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチド、 (b)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチド、 (c)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (d)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (e)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (f)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (g)(a)~(f)のいずれかの断片であって、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド。 [請求項2] 前記細胞障害抑制能が低酸素により誘導される細胞障害に対する抑制能である、請求項1に記載の細胞障害抑制剤。 [請求項3] 請求項1又は2に記載の細胞障害抑制剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項4] 請求項1に記載の細胞障害抑制剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項5] 1回の投与におけるペプチドの含有量が、1kg体重当たり0.1mg以上である請求項4に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項6] 1回の投与におけるペプチドの含有量が、1kg体重当たり0.4mg以上1mg以下である請求項4に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項7] 虚血性脳血管障害の発症後、8時間以内に投与される請求項4~6のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項8] 虚血性脳血管障害の発症後、7時間以内に投与される請求項4~7のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項9] 虚血性脳血管障害の発症後、6時間以内に投与される請求項4~8のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [請求項10] 血栓溶解療法と併用して用いられることを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 |
明細書 |
明 細 書 発明の名称 : 細胞障害抑制剤、前記細胞障害抑制剤を含む低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物、及び前記細胞障害抑制剤を含む虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物 技術分野 [0001] 本発明は、細胞障害抑制剤、前記細胞障害抑制剤を含む低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物、及び前記細胞障害抑制剤を含む虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物に関する。 本願は、2014年10月16日に、日本に出願された特願2014-212064号、及び2015年2月18日に、日本に出願された特願2015-029698号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。 背景技術 [0002] 止血凝固に携わる凝固第9因子(F9)は、古くから知られる必須の血液凝固因子であり、血友病の原因タンパク質として周知である。F9は、血液凝固反応の過程において、凝固第11因子(F11)と凝固第7因子(F7)により、軽鎖と重鎖の間に存在する中間部(Activation peptide(以下、F9-APとも言う。))が切断され、活性化される。F9-APが切断後も軽鎖と重鎖はジスルフィド結合によりつながっており、1つの分子として血液凝固反応を促進する。しかしながら、F9-APの機能についての報告はほとんどない。 [0003] 本発明者は、F9-APが細胞の伸展を起こすことを明らかにし、上皮及び内皮損傷の治療薬として有効であることを見出した(特許文献1参照)。 [0004] ところで、様々な原因により、細胞・臓器・組織に十分な酸素が供給されず、細胞・臓器・組織が障害を受ける場合がある。細胞・臓器・組織に十分な酸素が供給されない例としては、水難事故、災害、窒息、麻酔事故等による低酸素血症;肺炎、気管支喘息等の呼吸器疾患;ショック、心筋梗塞、播種性血管内凝固症候群等の血流障害による臓器障害等が挙げられる。 このような低酸素血症によって誘導される臓器等の障害を抑制する治療方法としては、低体温治療法が挙げられる(非特許文献1~2参照)。 [0005] また、日本人の死亡原因として、脳卒中は癌、心疾患、肺炎についで第4位である。しかし、脳卒中は寝たきりになる疾患の第1位であることや、心筋梗塞の発症率と比べても、脳卒中の発症率は3~10倍であり、わが国において脳卒中の予防と治療が重要であることは疑いのないところである。 脳卒中の死亡者数は年約12万人であり、その60%が脳梗塞による。脳梗塞の正確な発症率は不明であるが、大まかに人口10万対100~200、40歳以上では10万対600前後と推定されている。人口の急激な超高齢化が進行するわが国において、脳梗塞の発症数、脳梗塞総患者数、脳梗塞による死亡者数、要介護者数は、今後ますます増加すると予想される。 現在、最も有効な脳梗塞治療は血栓溶解療法である。遺伝子組み換え組織プラスミノゲンアクチベーター(rt-PA、アルテプラーゼ)の静脈内投与は発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害で慎重に適応判断された患者に対して強く推奨されている(非特許文献3~4参照)。 また、脳保護作用が期待されるエダラボンは脳梗塞(血栓症・塞栓症)患者の治療法として推奨されている(非特許文献5参照)。 先行技術文献 特許文献 [0006] 特許文献1 : 国際公開第13/162078号パンフレット 非特許文献 [0007] 非特許文献1 : Hypothermia for neuroprotection after cardiac arrest: systematic review and individual patient data meta-analysis. Holzer M, Bernard SA, Hachimi-Idrissi S, Roine RO, Sterz F, Mullner M; Collaborative Group on Induced Hypothermia for Neuroprotection After Cardiac Arrest. Crit Care Med. 2005 Feb;33(2):414-8. 非特許文献2 : Systematic review of randomized controlled trials of therapeutic hypothermia as a neuroprotectant in post cardiac arrest patients. Cheung KW1, Green RS, Magee KD. CJEM. 2006 Sep;8(5):329-37. 非特許文献3 : 脳卒中治療ガイドライン2009 II.脳梗塞・TIA 1.脳梗塞急性期 1-1.血栓溶解療法(静脈投与) 非特許文献4 : 厚生労働省 「アルテプラーゼの保険適用の変更に伴う診療報酬上の取扱について」 非特許文献5 : 脳卒中治療ガイドライン2009 II.脳梗塞・TIA 1.脳梗塞急性期 1-5.脳保護薬 非特許文献6 : 日薬理誌 梅村和夫 「新しい脳虚血モデルによる治療薬の薬理作用とメカニズム解明」1997年 Vol.109,p.175~185 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0008] しかしながら、非特許文献1~2に記載の低体温治療では、不整脈や感染症といった副作用が懸念され、注意深い管理を必要とするため、未だ改良の余地があった。 [0009] また、非特許文献3~4に記載の血栓溶解療法は、その適用に様々な制限があるため、主流の治療法ではない。まず、発症から4.5時間以内に使用する必要がある。病院についてから診察や検査を受ける時間を考慮すれば、症状が出てから3時間以内に病院に行かなければならない。薬剤を動脈内に投与する場合は6時間まで許容されるが、どの病院でもできる技術ではない。さらに、5~10%の確率で脳内出血という重大な副作用が起こるために適用の制限が多く、実際に血栓溶解療法を受けるのは脳梗塞患者の5%以下といわれている。 また、現在、脳保護作用が期待される薬剤として有効性が報告されているのは、エダラボンであるが、その有効性は国内での知見に限られている。さらに、エダラボンは投与後、感染症の合併、高度な意識障害の存在、腎機能障害や肝機能障害・血液障害など複数の臓器障害が同時に発現したりする症例が報告されている。 [0010] 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、細胞・臓器・組織の障害に対する効果的な治療剤を提供することである。 課題を解決するための手段 [0011] 本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、F9-APが細胞障害を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。 [0012] 本発明は、下記[1]~[10]の態様を含む。 [1]以下の(a)~(g)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有することを特徴とする細胞障害抑制剤。 (a)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチド、 (b)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチド、 (c)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (d)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (e)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (f)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (g)(a)~(f)のいずれかの断片であって、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド。 [2]前記細胞障害抑制能が低酸素により誘導される細胞障害に対する抑制能である、[1]に記載の細胞障害抑制剤。 [3][1]又は[2]に記載の細胞障害抑制剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物。 [4][1]に記載の細胞障害抑制剤、並びに薬学的に許容できる担体及び希釈剤のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [5]1回の投与におけるペプチドの含有量が、1kg体重当たり0.1mg以上である[4]に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [6]1回の投与におけるペプチドの含有量が、1kg体重当たり0.4mg以上1mg以下である[4]に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [7]虚血性脳血管障害の発症後、8時間以内に投与される[4]~[6]のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [8]虚血性脳血管障害の発症後、7時間以内に投与される[4]~[7]のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [9]虚血性脳血管障害の発症後、6時間以内に投与される[4]~[8]のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 [10]血栓溶解療法と併用して用いられることを特徴とする[7]~[9]のいずれか一項に記載の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物。 発明の効果 [0013] 本発明によれば、細胞・臓器・組織の障害に対する効果的な治療剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、細胞・臓器・組織に十分な酸素が供給されない状態により誘導される障害に対する効果的な予防又は治療用医薬組成物を提供することができる。また、本発明によれば、虚血性脳血管障害に対する効果的な予防又は治療用医薬組成物を提供することができる。 図面の簡単な説明 [0014] [図1] 哺乳類におけるF9-APアミノ酸配列のアライメントを示した図である。 [図2] 人体において空気中の酸素が組織に供給されるまでの経路である。 [図3] 試験例1における血管内皮細胞の細胞数の割合を示すグラフである。 [図4] 試験例1におけるアポトーシスのマーカー(C-capse3及びanexin5)が陽性である細胞の割合を示すグラフである。 [図5] 試験例2における細胞内ATP量を示すグラフである。 [図6] 試験例3における肺水腫モデルマウスを用いて、ペプチドの治療効果を評価するためのプロトコールを示した図である。 [図7] 試験例3におけるパルスオキシメーターを用いた測定結果である。 [図8] 試験例3におけるパルスオキシメーターを用いた測定結果に基づき、生死と酸素飽和度との関係を分析した結果である。 [図9] 試験例3におけるパルスオキシメーターを用いた測定結果に基づき、生存日数を分析した結果である。 [図10] 試験例4における脳虚血モデルマウスに対するペプチドの治療効果を評価するためのプロトコールを示した図である。 [図11] 試験例4における脳虚血モデルマウスの脳スライスのTTC染色結果の画像である。 [図12] 試験例4におけるImageJを用いた脳梗塞巣体積の測定結果である。 [図13] 試験例5において、脳虚血モデルマウスに対するペプチドの治療効果を評価するためのプロトコールを示した図である。 [図14] 試験例5におけるImageJを用いた脳梗塞巣体積の測定結果である。 発明を実施するための形態 [0015] [細胞障害抑制剤] 本発明の細胞障害抑制剤は、F9-AP又は成熟型F9由来のペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有するものである。 図1は、哺乳類におけるF9-APアミノ酸配列のアライメントを示した図である。哺乳類においてF9-APのN末端(図1におけるN末端14残基)は、70%以上の同一性で保存されている。また、図1から、F9-APアミノ酸配列において、図1におけるN末端から3番目のトレオニン残基(T)、N末端から5番目のフェニルアラニン残基(F)、N末端から7番目のアスパラギン酸残基(D)又はアスパラギン残基(N)、N末端から12番目のアスパラギン残基(N)、N末端から13番目のセリン残基(S)及びN末端から14番目のトレオニン残基(T)が保存されていることが好ましい。哺乳類におけるF9-APは、挿入配列を有する齧歯類型(マウス、ラット、モルモット)と挿入配列を有しないヒト型に分類される。 本発明において、成熟型F9とは、シグナルペプチド及びプロペプチドを有するF9全長のアミノ酸配列から、当該シグナルペプチド及びプロペプチド部分が除かれたアミノ酸配列からなるペプチドを意味する。 [0016] マウス由来のペプチドに関しては、F9全長のアミノ酸配列は、配列番号1で表される(GenBankアクセッション番号:BAE28840;471アミノ酸残基)。成熟型F9のアミノ酸配列は、配列番号2で表され、F9全長(配列番号1)の47番目~471番目のアミノ酸からなる配列である。 [0017] ヒト由来のペプチドに関しては、F9全長のアミノ酸配列は、配列番号3で表される(GenBankアクセッション番号:CAA01140.1;461アミノ酸残基)。成熟型F9のアミノ酸配列は、配列番号4で表され、F9全長(配列番号3)の29番目~461番目のアミノ酸からなる配列である。 [0018] 本発明の細胞障害抑制剤は、成熟型F9(例えば、配列番号2又は4で表される配列からなるペプチド)における軽鎖と重鎖の間に存在する中間部(F9-AP)由来のペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを有効成分として含有するものである。 本発明において、「有効成分として含有する」とは、治療的に有効量のペプチドを含有することを意味する。 [0019] 本発明の細胞障害抑制剤は、具体的には、下記(a)又は(b)のペプチドを含むものである。 (a)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチド、 (b)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列を含むペプチド。 [0020] 上記(a)における配列番号2、5~10のいずれかに示すアミノ酸配列は、マウス由来のF9の部分断片のアミノ酸配列である。 配列番号5に示されるアミノ酸配列[RAETVFSNM DYENSTEAVFIQDDITDGAILNNVTESSESLNDFTR(45アミノ酸残基)]は、配列番号1で表されるF9全長の192番目~236番目のアミノ酸からなる配列である。 配列番号6に示されるアミノ酸配列[AETVFSNM DYENSTEAVFIQDDITDGAILNNVTESSESLNDFTR(44アミノ酸残基)]は、配列番号5に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸を除いた配列である。 配列番号7に示されるアミノ酸配列[RAETVFSNM DYENSTEAVFIQDDIT(25アミノ酸残基)]は、配列番号1で表されるF9全長の192番目~216番目のアミノ酸からなる配列である。 配列番号8に示されるアミノ酸配列[AETVFSNM DYENSTEAVFIQDDIT(24アミノ酸残基)]は、配列番号7に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸を除いた配列である。 配列番号9に示されるアミノ酸配列[RAETVFSNM DYENST(15アミノ酸残基)]は、配列番号1で表されるF9全長の192番目~206番目のアミノ酸からなる配列である。 配列番号10に示されるアミノ酸配列[AETVFSNM DYENSTEAVFIQDDIT(14アミノ酸残基)]は、配列番号9に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸を除いた配列である。 配列番号17に示されるアミノ酸配列[AETVFSNMDYENSTEAVFIQDDITKKKKKK(30アミノ酸残基)]は、配列番号8に示されるアミノ酸配列のC末端にリジンを6残基付加した配列である。 [0021] 上記(b)における配列番号4、11~16のいずれかに示すアミノ酸配列は、ヒト由来のF9の部分断片のアミノ酸配列である。 配列番号11に示されるアミノ酸配列[RAETVFPDVDYVNSTEAETILDNITQSTQSFNDFTR(36アミノ酸残基)]は、配列番号3で表されるF9全長の191番目~226番目のアミノ酸からなる配列である。 配列番号12に示されるアミノ酸配列[AETVFPDVDYVNSTEAETILDNITQSTQSFNDFTR(35アミノ酸残基)]は、配列番号11に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸を除いた配列である。 配列番号13に示されるアミノ酸配列[RAETVFPDVDYVNSTEAETILDNIT(25アミノ酸残基)]は、配列番号1で表されるF9全長の191番目~215番目のアミノ酸からなる配列である。 配列番号14に示されるアミノ酸配列[AETVFPDVDYVNSTEAETILDNIT(24アミノ酸残基)]は、配列番13に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸を除いた配列である。 配列番号15に示されるアミノ酸配列[RAETVFPDVDYVNST(15アミノ酸残基)]は、配列番号1で表されるF9全長の191番目~205番目のアミノ酸からなる配列である。 配列番号16に示されるアミノ酸配列[AETVFPDVDYVNST(14アミノ酸残基)]は、配列番15に示されるアミノ酸配列のN末端側の1アミノ酸を除いた配列である。 配列番号18に示されるアミノ酸配列[AETVFPDVDYVNSTEAETILDNITKKKKKK(30アミノ酸残基)]は、配列番号14に示されるアミノ酸配列のC末端にリジンを6残基付加した配列である。 [0022] 本発明の細胞障害抑制剤は、前記(a)又は(b)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(c)又は(d)のペプチドを含有する。 (c)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (d)配列番号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド。 [0023] ここで、欠失、置換、若しくは付加されてもよいアミノ酸の数としては、1~15個が好ましく、1~10個がより好ましく、1~5個が特に好ましい。 [0024] 本発明の細胞障害抑制剤は、前記(a)又は(b)のペプチドと機能的に同等なペプチドとして、下記(e)又は(f)のペプチドを含有する。 (e)配列番号2、5~10、17のいずれかに示すアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド、 (f)配列番号号4、11~16、18のいずれかに示すアミノ酸配列と同一性が70%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド。 [0025] 前記(a)又は(b)のペプチドと機能的に同等であるためには70%以上の同一性を有する。係る同一性としては、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましく、95%以上が最も好ましい。 更に、前記(e)又は(f)のペプチドは、細胞障害抑制能を有する。 [0026] 細胞障害とは、酸素が不足した状態又は虚血状態によって、ヒドロキシルラジカル等のフリーラジカルが産生され細胞が傷つけられること、細胞の代謝異常(例えば、ATP産生の抑制等)、正常な細胞増殖の抑制等、細胞及び該細胞を含む組織が正常に機能できない状態をいい、この細胞障害状態の続くと細胞死が誘導される場合がある。 本発明において、細胞障害抑制能とは、例えば、本発明の細胞障害抑制剤を用いることにより、酸素が不足した状態又は虚血(無酸素且つ無栄養)状態でも細胞にATPを産生させること、又は、細胞を正常に増殖させることにより、細胞障害を抑制する能力を意味する。細胞障害抑制能は、後述の実施例において示すように、細胞内のATP産生量、又は、血管内皮細胞の虚血モデルを用いた系において、増殖する細胞数によって評価される。 [0027] 細胞障害抑制能としては、「低酸素により誘導される細胞障害に対する抑制能」又は「虚血状態により誘導される細胞障害に対する抑制能」が好ましい。低酸素により誘導される細胞障害としては、例えば低酸素血症によって生じる臓器障害等が挙げられる。「低酸素血症」とは、動脈血中の酸素が不足した状態をいい、「低酸素」とは、血中酸素飽和度によって評価され、該血中酸素飽和度が95%未満の状態をいい、70%前後が致死に至る境界である。酸素飽和度と並んで、血中酸素濃度を示す指標として臨床でよく使われる指標に酸素分圧がある。この指標だと、飽和度70%が約40mmHgに相当する。 さらに、本発明の細胞障害抑制剤は、低酸素血症によって生じる臓器障害抑制能を有する。低酸素血症によって生じる臓器障害抑制能とは、例えば、ヒドロキシルラジカル等のフリーラジカルが産生されることにより引き起こされる臓器障害を抑制できるペプチドの活性をいう。低酸素血症によって生じる臓器障害抑制能は、実施例において後述する肺水腫モデルマウスを用いた系で評価することができる。臓器障害抑制能は、肺水腫モデルマウスを用いた系において、血中酸素飽和度が70%未満であっても、ペプチド投与により、即死しないマウスが存在するか否か、生存日数が延びるか否かによって評価される。 [0028] また、虚血状態により誘導される細胞障害としては、例えば虚血性脳血管障害等が挙げられる。「虚血性脳血管障害」とは、脳血管の血流が悪くなり、その血管が栄養している部分の脳の機能が障害される状態をいい、この虚血性脳血管障害が24時間以上または半永久的に続くと「脳梗塞」となる。 さらに、本発明の細胞障害抑制剤は、虚血性脳血管障害によって生じる脳梗塞巣縮小効果を有する。虚血性脳血管障害によって生じる脳梗塞巣縮小効果とは、例えば、脳血管内に血栓が産生されることにより引き起こされる脳梗塞巣の拡大を抑制できるペプチドの活性をいう。虚血性脳血管障害によって生じる脳梗塞巣縮小効果は、実施例において後述する脳虚血モデルマウスを用いた系で評価することができる。脳梗塞巣縮小効果は、脳虚血モデルマウスを用いた系において、虚血から24時間後に摘出した脳断面を染色し、ペプチド投与により、脳梗塞巣の体積が縮小するか否かによって評価される(非特許文献4参照)。 脳梗塞巣縮小率とは、ペプチドを投与していない脳梗塞巣の体積に対して、ペプチドを投与することで縮小した脳梗塞巣の体積の比率を意味しており、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、40%以上が特に好ましい。 [0029] 本発明の細胞障害抑制剤は、前記(a)~(f)のいずれかの断片であって、かつ、細胞障害抑制能を有するペプチド(g)を含有する。 [0030] 前記(a)~(g)のペプチドは、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又はこれらの組み合わせからなるものであってもよい。L-アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D-アミノ酸は、L-アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、細胞障害抑制能を増加させるために、又は他の物性を最適化するために化学的修飾を受けていてもよい。 即ち、本発明の細胞障害抑制剤は、前記(a)~(g)のペプチドとともに、又はそれに代えて、前記(a)~(g)の誘導体を含んでいてもよい。 [0031] また、本発明の細胞障害抑制剤は、細胞膜に接触さえすれば所望の効果を発揮するため、細胞内への透過性を有していなくともよい。 [0032] 本発明の細胞障害抑制剤は、前記(a)~(g)のペプチド、及び/又は、前記ペプチドの誘導体とともに、或いは、それに代えて、前記(a)~(g)のペプチドの塩、若しくはエステル、及び/又は、前記ペプチドの誘導体の塩若しくはエステルを含んでいてもよい。 塩としては、医薬として生理学的に許容される酸付加塩又は塩基性塩が好ましい。 酸付加塩としては、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸との塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との塩が挙げられる。 塩基性塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基との塩;カフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩が挙げられる。 エステルとしては、例えば、カルボキシル基を有する場合の当該カルボキシル基における医薬として許容され得る慣用的なものが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等の低級アルキル基とのエステル;アリル基、2-ブテニル基等の低級アルキル基とのエステル;メトキシメチル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基等の低級アルコキシ低級アルキル基とのエステル等が挙げられる。ここで低級アルキル基とは、炭素数1~6のアルキル基を意味する。 [0033] 本発明の細胞障害抑制剤は、他の成分として、PBS、Tris-HCl等の緩衝液;アジ化ナトリウム、グリセロール等の添加剤を含んでいてもよい。 [0034] 本発明においては、本発明の細胞障害抑制剤を用いて、細胞障害に伴う疾患の治療方法を提供することができる。 治療対象として限定はされず、ヒト又は非ヒト動物を含む哺乳動物が挙げられ、ヒトが好ましい。 [0035] [低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物] 本発明の低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物は、治療的に有効量の上記細胞障害抑制剤、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。 また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、ペプチドの生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、例えばポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質等を挙げることができ、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドを効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。 [0036] 本発明の低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。 または、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。 [0037] 錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。 [0038] 注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。 [0039] 油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。 [0040] (投与量) 本発明の低酸素血症によって生じる臓器障害の予防又は治療用医薬組成物の投与量は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。 例えば、注射剤により静脈内注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、30μg~300mgのペプチドの量を投与することが好ましく、100μg~30mgのペプチドの量を投与することがより好ましく、300μg~3mgのペプチドの量を投与することが特に好ましい。投与回数としては、1日平均当たり、1回~数回投与することが好ましい。 本発明の医薬組成物が含有するペプチドの血中濃度としては、0.1pM~1μMが好ましく、0.5pM~10nMがより好ましく、0.1pM~100pMが特に好ましい。 投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などのほか、髄腔内的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射が好ましい。 注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。 [0041] 図2に示すように、空気中の酸素は、各器官を経て、組織に供給される。酸素が組織に供給されるまでのどの経路が遮断されても、低酸素血症は生じる。低酸素血症が生じた際、本発明の医薬組成物を投与することにより、組織を低酸素血症によって生じる障害から守ることができる。例えば、事故等により低酸素血症が生じた際、本発明の医薬組成物を投与することにより、救急隊が来るまでの時間を稼ぐことができる。小規模の医療機関から人工呼吸器等の施設の整っている病院への転送時間を稼ぐことができる。 [0042] (治療方法) また、本発明の一側面は、低酸素血症によって生じる臓器障害の治療のための前記(a)~(g)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを提供する。 また、本発明の一側面は、治療的に有効量の前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステル、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。 また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、細胞障害抑制剤を提供する。 また、本発明の一側面は、細胞障害抑制剤を製造するための前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルの使用を提供する。 また、本発明の一側面は、前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、低酸素血症によって生じる臓器障害の治療方法を提供する。 [0043] [虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物] 本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物は、治療的に有効量の上記細胞障害抑制剤、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。 また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、ペプチドの生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、例えば上述したものと同様のものを挙げることができ、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドを効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。 [0044] 本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。 または、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。更には、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。 [0045] 錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば上述したものと同様の結合剤、賦形剤、膨化剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤等が用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。 [0046] 注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。 [0047] 油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。 [0048] (投与量) 本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物の投与量は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。 例えば、注射剤により静脈内注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、100μg以上のペプチドの量を投与することが好ましく、200μg~3mgのペプチドの量を投与することがより好ましく、400μg~1mgのペプチドの量を投与することが特に好ましい。 投与回数としては、1日平均当たり、1回~数回投与することが好ましい。 投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、髄腔内的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射が好ましい。 注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。 [0049] (投与するタイミング) 本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物を投与するタイミングは、脳梗塞発症後8時間以内が好ましく、脳梗塞発症後7時間以内がより好ましく、脳梗塞発症後6時間以内がさらに好ましい。 [0050] (治療方法) また、本発明の一側面は、虚血性脳血管障害によって生じる脳梗塞の治療のための前記(a)~(g)のいずれかのペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルを提供する。 また、本発明の一側面は、治療的に有効量の前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステル、及び薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物を提供する。 また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、細胞障害抑制剤を提供する。 また、本発明の一側面は、細胞障害抑制剤を製造するための前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルの使用を提供する。 また、本発明の一側面は、前記ペプチド、その誘導体、又はこれらの塩若しくはエステルの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、虚血性脳血管障害の治療方法を提供する。 [0051] 本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物により、これまで血栓溶解療法の適用からもれていた多くの患者に有効な治療を提供できる。 しかしながら、本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物は、血栓を溶解する薬剤ではない。従って、血栓溶解療法との併用効果が期待される。また、患者を最初に診察する医療機関で、本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物を投与することにより血栓溶解療法の有効な時間を4.5時間より延長できる可能性がある。この点は、患者が医療機関にかかるまでの時間的余裕を増やすだけでなく、一般医療機関から血栓溶解療法のできる病院までの移送時間を稼ぐことにつながるので、血栓溶解療法の適用拡大に寄与すると考えられる。 実施例 [0052] 以下、実施例及び比較例等を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。 [0053] [実施例1] (ペプチドの作製) 以下に、示すペプチドを既存のペプチド合成機を用いて作製した。 (1)mF9-AP[AETVFSNMDYENSTEAVFIQDDITKKKKKK(配列番号17)]は、配列番号1に示されるF9全体のアミノ酸配列の193番目~216番目のアミノ酸からなる配列にリジンを6残基付加したものを示す。 [0054] (2)hF9-AP[AETVFPDVDYVNSTEAETILDNITKKKKKK(配列番号18)]は、配列番号3に示されるF9全体のアミノ酸配列の192番目~215番目のアミノ酸からなる配列にリジンを6残基付加したものを示す。 [0055] mF9-AP及びhF9-APのそれぞれにおいて、C末端のリジン6残基を有しないもの(配列番号8、配列番号14)は、いずれも-6の電荷を持ち、等電点は、3.14である。また、これらのペプチド配列(配列番号8、配列番号14)では、酸性アミノ酸の位置が偏っていることから、中性付近のpHでは等電点が急激に変化するため、中性溶液では溶解しにくい。係る酸性ペプチドは、アンモニア水(例えば1% NH4OH)を用いて溶解できる。また、mF9-AP及びhF9-APのように、C末端にリジン残基を付加することによっても可溶化できる。 [0056] [試験例1]血管内皮細胞の虚血モデルを用いた培養試験 HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)を用いた培養試験を行った。コントロールは、hF9-APを添加せずに培養したものである。また、正常条件では、内皮細胞用培地(Endothelial Cell Media)にて1日培養した。虚血モデルでは、無酸素及び無グルコースの培養条件にて1日培養した。結果を図3に示す。正常条件で培養したコントロールの細胞数を1として、その他の条件で培養した場合での細胞数の割合を表している。 [0057] 図3から、hF9-APを添加した細胞では、正常条件、虚血モデル共に、細胞数が増加することが明らかとなった。よって、hF9-APを添加することで個々の細胞について虚血状態に対する耐性が強められることが確かめられた。 [0058] また、それぞれの条件で培養した細胞を、蛍光物質で修飾されたC-capse3抗体及びC3-annexin V(蛍光色素C3と結合したannexin V)で染色した。それぞれの培養細胞全体に対する染色された細胞の割合を図4に示す。 [0059] 図4から、hF9-APを添加した細胞では、アポトーシスが抑制されていることが明らかとなった。 [0060] [試験例2]血管内皮細胞のATP量の比較試験 内皮細胞用培地(Endothelial Cell Media)にて1日培養したHUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)に、hF9-APを添加した。続いて、F9-APを添加してから1時間後のATP量をATP測定試薬(登録商標)(東洋ビーネット社製)を用いて測定した。コントロールは、hF9-APを添加せずに培養したものである。結果を図5に示す。コントロールのATP量を1としたときの、hF9-APを添加して培養した場合でのATP量の割合を表している。 [0061] 図5から、hF9-APを添加した細胞では、ATP量が増加していることが明らかとなった。よって、hF9-APを添加することで、虚血状態においてもATPがあるため、生存することができ、細胞障害が抑制されると推察できる。 [0062] [試験例3]肺水腫モデルマウスを用いたペプチド投与試験 マウスに大腸菌由来内毒素(LPS)を静脈注射すると、敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性異所性血管内凝固症候群(DIC)に共通する病態を生じる。微小血栓形成と肺血管透過性亢進が主たる現象である。そのため、肺血管から肺内に漏出した血液の水分によって肺重量が増加する。この肺水腫モデルマウスを用いて、作製したペプチドの治療効果を確認した。 先ず、45匹全てのマウスに致死量の4倍のLPS(200μg/g体重)を静脈注射し、これらマウスを15匹ずつ、「LPS」投与群、「LPS+mF9-AP」投与群、及び「LPS+hF9-AP」投与群に分けた。 LPS投与から3時間後に、「LPS+mF9-AP」投与群にはmF9-AP3μg/g体重を静脈注射し、「LPS+hF9-AP」投与群にはhF9-AP3μg/g体重を静脈注射し、「LPS」投与群には、コントロールペプチド(mF9-APのN末端からC末端への配列順を逆にした配列のペプチド。ただし、mF9-APのC末端に付加したリジン6残機は、コントロールペプチドにおいても同じようにC末端に付加した。)を3μg/g体重を静脈注射した。 次いで、LPS投与から4時間後に、全てのマウスに体重の20重量%の生理食塩水を静脈注射し、より顕著に肺血管内皮透過性を亢進させた。生理食塩水を静脈注射すると同時にパルスオキシメーターを用いて、30分間血中酸素飽和度を測定した。プロトコールを図6に示す。 パルスオキシメーターを用いた測定結果を図6に示す。図7上段は、血中酸素飽和度の測定結果であり、図7下段は、動脈拍動(いわゆる脈拍)の測定結果である。図7左は、「LPS」投与群の死亡例における測定結果であり、図7真中は、「LPS」投与群の生存例における測定結果であり、図7右は、「LPS+mF9-AP」投与群の生存例における測定結果である。 図7左に示すように、「LPS」投与群の死亡例では、酸素飽和度 が約70%に下がった時点(上段)で、拍動を検知できなくなった(下段)。図7真中に示すように、「LPS」投与群の生存例では、酸素飽和度の低下が約80%程度の為、拍動に大きな変化はなかった。 一方、図7右に示すように、「LPS+mF9-AP」投与群の生存例では、酸素飽和度が50%まで下がっても、拍動が続いていることが確認された。 [0063] 「LPS」投与群、「LPS+mF9-AP」投与群、及び「LPS+hF9-AP」投与群について、生死と酸素飽和度との関係を分析した結果を図8に示す。図8において生存していたマウスは、「生理食塩水注射後4時間以上生きていた」マウスを意味し、それらのマウスにおける酸素飽和度の最小値によって3つのカテゴリ(70%未満、70~94%、95%以上)に分けて、その度数分布を示した。 図8に示すように、「LPS」投与群では、15匹中、酸素飽和度が70~94%のマウス6匹に生存が確認された。「LPS+mF9-AP」投与群では、15匹中、酸素飽和度が致死レベルである70%を切っていた6匹に生存が確認された。「LPS+hF9-AP」投与群では、15匹中、酸素飽和度が致死レベルである70%を切っていた2匹に生存が確認された。 [0064] 「LPS」投与群、「LPS+mF9-AP」投与群、及び「LPS+hF9-AP」投与群について、生存日数を分析した結果を図9に示す。図9での1日生存は、4時間以上24時間以内の生存を意味する。 図9に示すように、「LPS」投与群では、生命予後が、0.5±0.7日であったのに対し、「LPS+mF9-AP」投与群では、1.1±1.0日、「LPS+hF9-AP」投与群では、1.1±1.1日と、ペプチド投与による延命効果が確認された。なお「LPS」投与群の平均生命予後に対して、「LPS+mF9-AP」投与群の平均生命予後および「LPS+hF9-AP」投与群の平均生命予後は、t検定により有意に延命されている(各々のp値は、0.036および0.048)。 [0065] [試験例4]脳虚血モデルマウスを用いたペプチド投与試験(1) 光化学誘導血栓法(PIT法)を用いた脳虚血モデルマウスに対するmF9-APの効果を検証する実験を行った。 まず、光化学誘導血栓法(PIT法)について、以下に説明する。 マウスにローズベンガルを尾静脈注射した後に、中大脳動脈にキセノンランプ(波長ピーク:およそ540nm)を照射する。その時、照射した部位に局所的に、ローズベンガルが励起状態になり、そのエネルギーを酸素に移すことで、活性酸素種である一重項酸素が主に発生し、それが血管内皮細胞を傷害する。その部位に、血小板が多数粘着・凝集し、血栓が形成され、血流が止まり、虚血性脳血管障害が引き起こされる(非特許文献4参照)。この脳虚血モデルマウスを用いて、作製したペプチドの治療効果を確認した。 図10に示したプロトコールのとおり、36匹全てのマウスにローズベンガルを尾静脈注射し、中大脳動脈にキセノンランプで90,000ルクス、10分間照射した。これらマウスを「コントロール」群(ペプチド投与なし)(10匹)、「mF9-AP」投与群I(6匹)、「mF9-AP」投与群II(6匹)、「mF9-AP」投与群III(7匹)、「NC」投与群(7匹)に分けた。 [0066] キセノンランプ照射から0.5時間後に、「mF9-AP」投与群IにはmF9-AP0.3mg/kg体重を静脈注射し、「mF9-AP」投与群IIにはmF9-AP1mg/kg体重を静脈注射し、「mF9-AP」投与群IIIにはmF9-AP3mg/kg体重を静脈注射し、「NC」投与群にはコントロールペプチド(mF9-APのN末端からC末端への配列順を逆にした配列のペプチド。ただし、mF9-APのC末端に付加したリジン6残基は、コントロールペプチドにおいても同じようにC末端に付加した。)1mg/kg体重を静脈注射した。 [0067] 次いで、キセノンランプ照射から24時間後に、全てのマウスの脳スライスを作製し、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)にて染色を行うことで脳梗塞巣体積を評価した。 トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)による染色の原理について、以下に説明する。トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)は水素で還元されて、水に溶けない赤色をしたトリフェニルホルマザン(TPF)となる。ミトコンドリアには好気呼吸に関する酵素群の1つであるコハク酸脱水素酵素が含まれている。TTC試薬の中に動物又は植物組織を入れると、ミトコンドリア内で基質の脱水素反応が起こり、遊離した水素でTTCが還元され、赤色のTPFとなる。したがって、脱水素酵素のはたらきが強いミトコンドリアが染色されることになる。 今回、2%TTC溶液を用いて、37℃、15分間染色し、脳梗塞巣体積については、画像解析フリーソフトImage Jを用いて測定した。 [0068] TTC染色を行った脳スライスの画像を図11に示す。図11左の3枚の画像は、「コントロール」群の同じマウスの拡大倍率を変えた画像である。また、図11右の3枚の画像は、「mF9-AP」投与群IIの同じマウスの拡大倍率を変えた画像である。 図11左に示すように、「コントロール」群の脳スライスでは、脳虚血によりTTC染色で染まらなかった部位が脳スライスの右側約25%程度を占めている。一方、「mF9-AP」投与群IIの脳スライスでは、「コントロール」群の脳スライスと比較すると、脳虚血によりTTC染色で染まらなかった部位が減少していることが認められた。 さらに、画像解析フリーソフトImage Jを用いた脳梗塞巣体積の測定結果を図12に示す。「コントロール」群では、脳梗塞巣体積が65±4.9mm3であるのに対し、「mF9-AP」投与群IIでは39±3.7mm3、「mF9-AP」投与群IIIでは40±4.8mm3と、脳梗塞巣体積の有意な減少が認められた(上記カッコ内の数字はmean±SEMで表記した)。また、「mF9-AP」投与群Iでは51±1.7mm3、「NC」投与群では、脳梗塞巣体積が62±5.5mm3であり、脳梗塞巣の有意な減少は認められなかった。 [0069] [試験例5]脳虚血モデルマウスを用いたペプチド投与試験(2) 試験例4と同様に脳虚血モデルマウスを用いて、mF9-APの投与タイミングの違いによるmF9-APの効果の変化について確認した。 プロトコールは図13に示した通りである。さらに、画像解析フリーソフトImage Jを用いた脳梗塞巣体積の測定結果を図14に示す。図14の「mF9-AP」投与群I~VIのうち、mF9-AP3mgを投与したのは「mF9-AP投与群」III~VIである。このうち、「mF9-AP投与群」III、IVについては、「コントロール」群に対して脳梗塞巣体積の有意な減少が認められた。しかしながら、「mF9-AP投与群」V、VIについては、「コントロール」群に対して脳梗塞巣体積の有意な減少が認められなかった。したがって、0.5時間以上9時間未満において、mF9-AP投与による脳梗塞巣縮小効果があると 推測される。 一方、「NC」投与群I、IIでは、「コントロール」群に対して脳梗塞巣体積の有意な減少が認められなかった。 [0070] 以上の結果から、mF9-AP0.4mg/kg以上3mg/kg以下を、キセノンランプ照射後0.5時間以上9時間未満に投与することにより、脳梗塞巣縮小効果があることが認められた。 [0071] また、本発明の虚血性脳血管障害の治療剤を健康なラットに3日間連続で投与しても、血液生化学検査に特別な以上は生じなかった。よって、本発明の虚血性脳血管障害の治療剤には重篤な副作用を引き起こすような毒性はないと推察される。 産業上の利用可能性 [0072] 本発明によれば、細胞・臓器・組織の障害に対する効果的な治療剤を提供することができる。 さらに、本発明によれば、低酸素環境下に細胞・臓器・組織が曝されることによって生じる障害を抑制できるため、さまざまな原因により、細胞・臓器・組織に十分な酸素が供給されない状態に対する効果的な予防又は治療用医薬組成物を提供できる。 また、本発明によれば、虚血性脳血管障害によって生じる脳梗塞巣を縮小できるため、虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物を提供できる。さらに、本発明の虚血性脳血管障害の予防又は治療用医薬組成物は、副作用がなく、静脈内投与ができるので、時間的制約、設備的制約、副作用のリスクのない治療剤である。 |
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『 CELLULAR-DISORDER INHIBITOR, MEDICINAL COMPOSITION CONTAINING SAID CELLULAR-DISORDER INHIBITOR FOR PREVENTION OR TREATMENT OF ORGAN DERANGEMENT CAUSED BY HYPOXEMIA, AND MEDICINAL COMPOSITION CONTAINING SAID CELLULAR-DISORDER INHIBITOR FOR PREVENTION OR TREATMENT OF ISCHEMIC CEREBROVASCULAR DISORDER 』に関するお問合せ
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