TOP > 国内特許検索 > アビジンをコードする人工合成遺伝子
米は小麦、トウモロコシと並ぶ世界の三大穀物の一つであり、日本においては国民の主食として最も重要な位置を占めている。イネの栽培に関しては、様々な害虫による被害を防ぐために農薬の使用が欠かせない。また収穫した米を貯穀害虫の被害から免れるためにも薫蒸剤が使用されている。しかしながら、近年における消費者側の安全性志向の流れ、また環境調和型の農業が求められている中で農薬および薫蒸剤の使用は大きな問題である。農薬の使用は、害虫のみならず益虫も殺傷することにより生態系のバランスを崩し、流出した農薬は環境を汚染し、農薬の散布自体が農業作業者の健康に悪影響を及ぼす可能性が考えられる。また、近年残留農薬の問題が消費者の不安を呼び起こし、安全な農産物が求められている。
これを解決する一つの手段として遺伝子組み換え手法により害虫に対する抵抗性を持たせることが考えられている。代表的な例としてBacillus thuringiensisが産生する毒素であるBt毒素遺伝子をイネに組み込むことによって害虫抵抗性を獲得することが報告されている(Biotechnology (NY),1993; 11(10): 1151-1155)。しかし、Bt毒素は効果を示す害虫に選択性があり、対象となる害虫が限られていることが問題となっている。例えば、あるBt毒素は鱗翅目の害虫に対して効果が認められるが、甲虫類に対しては効果がないなど、作用適性が限られていることが知られている(Microbiological Review 1989; 53(2): 242-255)。また、こうした組み換え体による害虫防除に関しても長期間に渡って同じ種類の遺伝子を導入した作物を栽培し続ければ、害虫の側に耐性が生じる危険性がある。
一方、アビジンは、ビオチンと強固に結合する性質を持つ卵白中の塩基性タンパク質である。アビジンは双翅目であるイエバエの幼虫(非特許文献1)、鱗翅目および鞘翅目の昆虫(非特許文献2)など、広範囲の種類の昆虫に対して殺虫活性があることが報告されている。これらの知見をもとに、アビジン遺伝子が導入されたトウモロコシ(非特許文献3)やタバコ(非特許文献4)が作製され、これらの植物が害虫抵抗性を持つことが報告されている。しかしながら、イネに関してはアビジンを導入した形質転換植物が作製された例は報告されていない。
【非特許文献1】Journal of Insect Physiology 1959; 3: 293-305【非特許文献2】Entomologia Experimentalis Applicata 1993; 69: 97-108【非特許文献3】Nature Biotechnology 2000; 18: 670-674【非特許文献4】Transgenic Research 2002; 11(2): 185-198
本発明は、害虫抵抗性を付与するアビジンをコードする人工合成遺伝子、及び該遺伝子を導入した形質転換イネに関する。
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