TOP > 国内特許検索 > レーザー制御型電子ビーム線形加速装置
電子ビーム線形加速装置の分野では、ロングパルス且つ大電流の電子ビームの加速を行うため、一般にマルチバンチビームによる運転が行われている。ここで、マルチバンチビームとは、電子バンチ列すなわち一連の電子の固まりが列状に並んだもので構成される電子ビームのことである。電子ビームのパルス長が加速管のフィーリングタイムすなわち高周波電力が完全に加速管に充電される時間よりも短いマルチバンチビームを、定加速勾配型の加速管で構成した線形加速装置で加速した場合、先頭のバンチから後方のバンチに行くに従って、加速管内での過渡モードにおけるビームローディングにより、エネルギー利得がほぼ線形に減少してしまう。このマルチバンチビーム内のエネルギー差すなわちエネルギーの広がりを補正する方法はいくつかあるが、代表的な方法として、ΔT方式とΔF方式がある。
ΔT方式補正とは、フィーリングタイムの間にビームを入射しかつ加速管に供給する高周波の振幅を変化させることによって、加速高周波電力の傾斜を調整し、ビームローディングによって生じたバンチ列内のエネルギー差を補正するものである。
このΔT方式補正の例として、安定化高周波発振器と、加速用大出力パルス高周波源と、加速管を具備する装置において、更に、高周波を分割する高周波分割手段と、分割された高周波のそれぞれの位相を調整する位相変調器と、各々の高周波を合成する手段と、合成手段から合成高周波を入力して加速用大出力パルス高周波源と加速管に電子ビームを出力するパルス電子源とを設けて、各々の位相変調器に各々の分割高周波毎の位相変調指示を行うことにより、加速用高周波パルスの立ち上がり部分に振幅変調を与えて、電子ビームパルスの立ち上がり部分で発生するビームローディング効果による加速エネルギーの変動を補正するものがある。(例えば、特許文献1参照)。
またΔF方式補正とは、例えば、基本加速周波数(f1)に対してわずかに異なる周波数(f1±Δf)の加速管をf1の加速管で構成される線形加速装置の後に設置して、マルチバンチを周波数(f1±Δf)のゼロクロス付近の位相におくことによって加減速させ、線形加速装置で発生するマルチバンチビームのエネルギーを補正するものである。このΔF方式補正では、加速と補正が線形加速装置中に別々に行われる。この加速と補正を同時に行うようにしたものが、レーザー制御型電子ビーム線形加速装置である。
このような、電子ビームを加速しながらビームローディングによるマルチバンチビームのエネルギー広がりをΔF方式で補正するレーザー制御型電子ビーム線形加速装置の概略図を図4に示す。図4に示すように、このレーザー制御型電子ビーム線形加速装置は、モードロックレーザー11と、フォトカソード高周波電子銃12及びその高周波源13と、高加速勾配型加速管14及びその高周波源15とで構成される。この線形加速装置には、モードロックレーザー11に供給される入力信号の周波数及びフォトカソード高周波電子銃12の周波数及び加速管14の加速周波数を作成するためにタイミングシステム16が設けられている。このタイミングシステム16には、基準信号発生器17から基準信号が供給される。タイミングシステム16は、逓倍器18と、分周器19及び20と、SSB(シングルサイドバンド)ジェネレータ21を有している。ここで、モードロックレーザーとは、レーザーが正常に発振する、非常に接近した波長を持った幾つかの発振モードが同期することによって、ピコ秒のパルス光を発生する機能を持ったレーザーのことである。また、フォトカソード高周波電子銃とは、高周波空洞内の側面に設置されたカソード面にレーザー光を照射し、光電効果によって放出された電子が即座に高周波電界によって加速される構造のものである。
上述したような構成のレーザー制御型電子ビーム線形加速装置において、基準信号発生器17からfR=1428.67646MHzの周波数の基準信号を出力し、その周波数fRを2逓倍した周波数f0=2857.35291MHzを高周波電子銃12に用い、基準信号の4分周信号fR/4=357.16911MHzをモードロックレーザー11の入力信号の周波数fLとして用い、さらに、その4分周信号fR/4を264分周してΔf=1.35291MHzの信号を作り、このΔfと高周波電子銃12の周波数f0とをSSBジェネレータ21を用いて合成して加速管14の加速周波数f1=2856MHzを作る。そして、モードロックレーザー11から出力されたレーザーをフォトカソード高周波電子銃12のカソードに打ち込むことによって、20バンチのマルチバンチビームを発生させる。この高周波電子銃12から出力されるビームの周波数f0=2857.35291MHzを基準加速周波数f1=2856MHzに対してΔf=1.3529MHzだけ変化させることにより、各バンチビームの加速位相をわずかずらし、20バンチビームの後段ほど加速電界が強くなるようにする。これにより、高周波電力を最大限利用した状態で、ビームを加速しながらビームローディングによるエネルギー広がりを補正するものがある(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】 特開平11-45800号公報【非特許文献1】 平野耕一郎他8名「小型高輝度硬X線源開発-(2)Sバンド線形加速器システム-」、Proceedings of the 27th Linear Accelerator Meeting in Japan、京都大学、2002年8月7日、p.130~132
本発明は、レーザー制御型電子ビーム線形加速装置に関し、特に、電子ビームを加速しながらビームローディングによるマルチバンチビームのエネルギー広がりを補正するレーザー制御型電子ビーム線形加速装置に関する。
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