TOP > 国内特許検索 > インプリントポリマーおよびその利用
ポストゲノムにおけるタンパク質の解析とその応用は現在の科学技術における最も重要なテーマである。その中で、X線結晶解析等により得られた基礎情報から、タンパク質を医療・工業等の様々な分野で応用していくためには、簡便かつ安価な分離・検出系の構築が非常に重要である。これが可能となれば、医薬を安価で大量に分離するための機能材料化、あるいは簡便な診断法として期待されるプロテインチップへの応用が可能となる。現在、主に開発がなされているのは、抗体や天然のレセプター、目的のタンパク質に対する特異的なリガンドを固定化したチップなどである。しかしながら、これらのリガンドの探索や調製は非常に煩雑で時間を要する作業であり、コストも非常に高くなるため、簡便で汎用性の高い人工の分離・検出系の構築が必須である。すなわち、目的とするタンパク質に対して親和性をもつ非タンパク質・非核酸の人工マテリアルが必要である。
以上のような特定のタンパク質、すなわちポリペプチドと相互作用する分離・検出系が構築・確立されれば、タンパク質の検出や分離だけでなく、あるタンパク質の高次構造を認識・識別したり、特定の高次構造を安定化させるマテリアルの調製が可能となる。また、タンパク質を非共有結合的に固定化する方法としても、重要な技術となる。
タンパク質を構成するアミノ酸には、金属配位しやすい残基がいくつか含まれている。ヒスチジン、トリプトファン、システインといった残基は非共有電子対をもつアミノ酸残基であり、銅・ニッケルなどの遷移金属などに対して効率的な配位結合を形成する。そこで、これらの遷移金属、及びキレート効果により強固に金属を捕捉する配位子の組み合わせによりポリペプチドを認識すればよい。
標的分子を認識する技術として、分子インプリント法と呼ばれる技術が注目されている。分子インプリンティングとは、標的分子と相補的な認識部位を有する高分子を得る方法である。詳細は以下の通りである。まず、標的分子を鋳型分子とし、鋳型分子と、この鋳型分子と結合可能な機能性モノマーとの複合体を形成させる。そして得られた複合体を架橋剤と共に重合させ、架橋高分子を得る。その後、鋳型分子を溶媒等により除去することにより、高分子内に、標的分子に対して相補的な認識部位を構築する。
分子インプリンティングの技術はここ数十年にわたり開発され、この技術によって得られた高分子は、吸着剤や高速液体クロマトグラフィーの分離担体としての利用が検討されている。
従来行われてきた分子インプリント技術は、主に低分子化合物に対して機能するものである。これまで、タンパク質などのように巨大な分子に対して機能した例は少ないが、次のような例がある。
Mosbach らは、金属キレートモノマー N-(4-vinyl)-benzyl iminodiacetic acid とCu(II)との配位結合を利用したリボヌクレアーゼA のインプリンティングを報告している(非特許文献1:M. Kempe, M. Glad, and K. Mosbach, J. Molec. Recogn. 1995, 8, 3539)。具体的には、シリカゲル表面上で、上記金属キレートモノマー、Cu(II)、およびリボヌクレアーゼAの複合体を形成させたところに架橋剤を加えることで、金属キレートモノマー間を重合させている。
また、Minoura らは、同じくシリカゲルをサポートとして用いてグルコースオキシダーゼのインプリンティングを行った(非特許文献2:M. Burow and N. Minoura, Biochem. Biophys. Res. Commun. 1996, 227, 419-422)。正電荷を有する2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、負電荷を有するアクリル酸、およびグルコースオキシダーゼの基質であるグルコースを側鎖に有するグルコシルオキシエチルメタクリレート、電荷を持たないアクリルアミドと4種類の機能性モノマーを用い、主に3種類の相互作用で鋳型分子の認識を行うインプリントポリマーを合成している。
しかしながら、これらのインプリンティング技術では、プロテインチップ・プロテインアレイに応用可能な高い基質特異性を有する高分子を得ることは困難である。すなわち、上記従来の方法で製造されたインプリントポリマーでは、結合選択性や、センサー、センサーアレイ、センサーチップとしての利用可能性の点で問題があった。タンパク質検出素子、分離材料を創製するためには、高い基質選択性を与えるインプリンティング技術が必要となる。
本発明は、上記従来の問題に鑑みたものであり、その目的は、より結合特異性の高いインプリントポリマーを提供すると共に、色素修飾によるインプリントポリマーセンサー、その製造方法、およびその代表的な利用方法であるマイクロアレイ等を提供することにある。また、従来のインプリンティングの欠点であった低い選択性を克服するため、金属錯体特有の多価配位による特異性の向上、及び非特異的相互作用の抑制することを課題とする。
本発明は、標的分子を特異的に認識する分子インプリント技術に関するものであり、特に、タンパク質を認識可能なインプリントポリマーの合成法、およびその利用方法に関するものである。