TOP > 国内特許検索 > 胎盤型有機アニオントランスポーターとその遺伝子
腎臓や肝臓は、生体異物や薬物の代謝および体外排出に関して重要な役割を果たしている。腎臓の尿細管細胞は極性を有する上皮細胞であり、側底膜を介して血液と接し、種々の物質の受け渡しを行っている。有機アニオンの一部は、輸送担体(トランスポーター)により側底膜を介して腎臓に取り込まれ、また細胞内で代謝により産生された有機アニオンもトランスポーターにより排出されることがこれまでの生理学的な研究から予測されてきた。
有機アニオンは、薬物や環境毒素、またそれらの代謝物などの多くを含むことから、有機アニオン輸送系は、生体異物排泄系あるいは薬物輸送系としても広く知られてきた。尿細管細胞の有機アニオンの取り込みについては、これまで摘出臓器灌流法や単離細胞膜小胞系などを用いた実験系により研究されてきた。しかし従来の手法では、側底膜を介した有機アニオン輸送系について詳細に解析することは困難であり、トランスポーターそのものを単離して解析することが望まれてきた。
有機アニオン輸送は、腎臓や肝臓以外の組織においても行われている。胎盤は、胎児と母体との間で物質交換を活発におこなっている組織であり、糖やアミノ酸を含む生体必須物質はトランスポーターを介して、母体から効率良く胎児に輸送されている。一方、胎盤は胎児の外部環境に対する組織バリアーとしての役目も担っている。胎盤は、母体が摂取した生体異物の胎児への自由な移行に対して、ある種の制限を与えており、この機能の一部は、異物排泄トランスポーターによる胎児循環からの異物除去によるものと想定される。
さらに、胎児の体内においても種々の代謝反応がおこっており、その結果として有機アニオンが産生されている。胎児の解剖学的な特殊性から、こうした代謝物の排泄は主に胎盤を介している。有機アニオントランスポーターが胎盤に存在してこの役割を果たしていると考えるのは、合目的的である。このように、胎盤における生体異物輸送(特に有機アニオン輸送)は、胎児の発育および遺伝毒性に関して重要な役割を担っていると考えられるにも関わらず、腎臓や肝臓以上にその輸送の詳細は不明である。
本発明者らは、既に腎臓、肝臓、脳などにおいて中心的な役割を果たしている有機アニオントランスポーターOAT1(J. Biol Chem 272巻,18526-9頁、1997)、OAT2(FEBS letter 429、179-182頁、1998)、およびOAT3(J. Biol Chem ,274巻, 13675-13680頁、1999)を単離し報告してきた。また、これらについては、既に特許出願済みである。OAT1、OAT2およびOAT3は化学構造の異なる多くの有機アニオンを輸送することの出来るトランスポーターであり、種々のアニオン性薬物の輸送も行っている。OAT1、OAT2さらにOAT3の単離、同定は有機アニオントランスポーターがファミリーを形成することを示している。このファミリーのメンバーは、腎臓や肝臓など生体異物の体外排泄に中心的な役割を果たしている臓器のみならず、組織関門を形成する脳にもその発現が認められる。
これらの事実から、本発明者らは、組織関門の機能的単位および胎児の代謝物排泄経路として、胎盤における有機アニオントランスポーターの存在を予想し、胎盤に存在する新規な有機アニオントランスポーターを単離した。
本発明は有機アニオン(有機陰イオン)輸送に関与する遺伝子と、その遺伝子がコードするポリペプチドに関する。より詳細には、本発明は、胎盤型有機アニオントランスポーターOAT4、それをコードする遺伝子、当該遺伝子を検出するためのプローブ、及び当該蛋白質を認識し得る抗体に関する。