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ステロイドホルモンのひとつであるアンドロゲンと、この受容体であるアンドロゲンレセプター(Androgen Receptor;AR、以下、ARと示す場合がある)は、前立腺細胞において、その増殖、さらには癌化に密接に関与していることが知られている。 そこで、前立腺癌の治療法のひとつとして、ARの作用を抑制することにより、前立腺癌の進行を抑制させるアンドロゲン除去療法が行われてきた。しかし、治療が進むに従って、癌化した前立腺細胞の形質が変化するため効果がなくなり、その後の治療が困難であるという問題があった。
また、ARを発現している前立腺癌細胞が、アンドロゲン応答遺伝子の発現を亢進していることから、アンドロゲン応答遺伝子に対し干渉性RNAやアンチセンス核酸を投与して、これらの遺伝子の発現を不安定化することによって前立腺癌を治療する方法や、癌化した細胞に細胞毒性遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを投与することによって前立腺癌を治療する方法等も開示されている(特許文献1~4)。 しかし、干渉性RNAやアンチセンス核酸は生体内で分解され易いため安定性が低く、生体内において細胞毒性遺伝子産物を発現させる方法も必ずしも安全とはいえないため、これらの治療方法は前立腺癌の治療において十分な方法とはいえなかった。
そこで、本発明者らは、前立腺癌の治療に有効であり、かつ、安定で安全な物質を得るために、DNAに配列特異的に結合し、生体内での安定性が高く、組織、細胞への移行性が高いPIポリアミドに着目した(非特許文献1)。PIポリアミドは、芳香族アミノ酸であるN-methylpyrrole(N-メチルピロール、以下、Pyと示す場合がある)、N-methylimidazole(N-メチルイミダゾール、以下、Imと示す場合がある)で構成される物質である。 本発明者らは、アンドロゲン応答遺伝子であるTMPPR2と、転写制御因子であるETS familyのEGR遺伝子との融合遺伝子の発現を抑制するPIポリアミドを開発した(特願2012-106382)。本発明者らが開発したこのPIポリアミドは、TMPRSS2遺伝子とERG遺伝子との融合遺伝子の発現を抑制し、この融合遺伝子の発現に伴って起こるEZH2遺伝子の発現も抑制できるPIポリアミドであることから、前立腺癌の予防、治療等に有用なものであった。
さらに、本発明者らは、網羅的な前立腺癌の予防、治療等を可能とすることを目的として、本発明においてアンドロゲン応答遺伝子の一つであるACSL3遺伝子に対し、有用なPIポリアミドの開発を試みた。ACSL3遺伝子は、長鎖脂肪酸の代謝に関連するアンドロゲン応答遺伝子で、前立腺癌に高発現することが知られているが、本発明者らは、さらに前立腺癌細胞の増殖と遊走能を亢進させることを見出している。 本発明者らは、ACSL3遺伝子の転写開始点上流63Kbに転写調節領域(AR応答領域)が存在し、ARが遺伝子に結合する部位(AR応答配列、以下、AREと示す場合がある)の近傍に転写因子としてOct1遺伝子結合配列およびGATA遺伝子結合配列が存在していることを見出した。そして、このOct1遺伝子結合配列がARの転写活性を正に亢進させる、前立腺癌の予後不良因子であることを見出した(非特許文献2)。 そこで、本発明において、このOct1遺伝子結合配列に特異的に結合するPIポリアミドを開発し、ACSL3遺伝子の発現を抑制することにより、前立腺癌の予防、治療等に有用なPIポリアミドの開発を試みた。
本発明は、新規のピロール-イミダゾール ポリアミド(以下、PIポリアミドと示す場合がある)に関する。さらに詳しくは、アンドロゲン応答遺伝子であるACSL3遺伝子の転写調節領域(AR応答領域)を認識して結合することにより、この遺伝子の発現を抑制する新規のPIポリアミドに関する。