TOP > 国内特許検索 > イヌ人工誘導胚体外内胚葉細胞様株の作製方法
イヌはヒトと同様、生活習慣病などの自然発症例が多くみられる動物種である。イヌはヒトと同様の環境で生活し、マウスやラットなどの小型の実験動物に比べて大型の実験動物であり、寿命も長いことから、比較的多量の薬物や生物製剤の投与が可能であり、長期間にわたるモニターにも適している。このようなことから、再生医療で最も問題とされている腫瘍化の疾患モデルとしても非常に有用であると考えられている。
胚性幹細胞(embryonic stem cells;ES細胞)は、受精卵である胚盤胞の内部細胞塊から樹立される多能性幹細胞であり、体を構成するすべての細胞になる多能性と、自己複製能力にすぐれているために、目的の細胞への分化誘導により、再生医療への応用が期待されている。ES細胞は多分化能を持つ反面、実際の初期発生を調節する機構については分かっていないことが多いために、その分化を思い通りに誘導するのは簡単ではない。またES細胞は未分化幹細胞であり、移植すると三胚葉からなるテラトーマ(奇形腫)を形成するために、体内に移植する際には腫瘍化の問題が生じる場合がある。一方、XEN細胞は、ES細胞よりも発生が進んだ胚盤胞に存在する内部細胞塊の割腔に面した表面の細胞である原始内胚葉(胚体外内胚葉)から樹立される複能性幹細胞である。発生が進むと、XEN細胞は近位内胚葉及び遠位内胚葉に分化するとされるが、胎子の一部を構成する未分化な細胞も含むことが報告されている。そのため、移植しても腫瘍化のリスクが少ないと考えられ、XEN細胞は再生医療に応用できるものと期待される。
これまでにマウス、ラット及びヒトにおいて、XEN細胞あるいはXEN細胞様の細胞が作製されたとの種々の報告があるが、これらの報告においては、基本培地であるDMEM(Dulbecco's Modified Eagle 培地)あるいはRPMI1640(Roswell Park Memorial Institute 1640培地)にFBS(ウシ胎子血清)などの血清、さらにLIF(白血病阻害因子)やbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)のような分化抑制剤を添加した培養液が用いられていた。例えば、非特許文献1では、基本培地にRPMI1640を用い、FBSとヘパリンとFGF4(線維芽細胞増殖因子4)を混合した培養液が使用されている。また、非特許文献2では、基本培地にDMEMを用い、FBSとLIFを混合した培養液が使用されている。さらに非特許文献3には、基本培地にMEMを用い、FBSとLIFを混合した培養液及び基本培地にRPMI1640を用い、FBSとヘパリンとFGF4を混合した培養液が使用されている。
また、その作製方法に関しては、胚盤胞から作製する方法が一般的であるが、体細胞に核初期化因子を加えることで作製する方法もある。例えば、非特許文献3ではマウス体細胞にレトロウイルスを用いて核初期化因子を加え、XEN細胞を作製することができたとある。これらの文献では得られた細胞はキメラ胚へ寄与し、35代程度継代培養できたとある。
さらに、ラットではXEN細胞のうち一部の細胞が未分化マーカーを発現しており、分化複能性を有していると報告されており、例えば非特許文献2や4では、三胚葉由来細胞への分化能や胚盤胞における胎子部位への寄与などが報告されている。
しかしながら、これまでのところ、イヌを含むラット以外の動物において分化複能性を有したXEN細胞が作製されたとの報告はなく、また、体細胞から作製されたXEN細胞において分化複能性を有しているという報告もない。さらに、FBSなどの血清を使用せずに、組成が明確である無血清培地を用いてXEN細胞を作製・維持できたという報告はない。
本発明はイヌ体細胞からの人工誘導胚体外内胚葉細胞(induced extraembryonic endoderm cell;iXEN細胞)様株の作製方法に関する。
※ 画像をクリックすると拡大します。