TOP > 国内特許検索 > 移植魚の作出方法、移植魚、ハイブリッド魚種の作出方法及びハイブリッド魚種
近年、天然漁業資源の漁獲量が漸減傾向を続け、これに伴い総漁獲量に占める養殖生産量の割合が大きく増加してきている。一方、海産魚類の養殖においては、いまだに天然の種苗を商品サイズまで養成する場合も多い。このため、資源管理の重要性の高まりとともに、完全養殖の導入がより強く求められている。
完全養殖とは、対象魚種の受精卵から人工的に種苗を生産し、得られた人工種苗を、商品として流通させること、更にこれに加えて、得られた人工種苗の一部の個体を親魚まで養成し、配偶子を生産し、得られた配偶子を養殖に利用するという、天然資源に依存せずに完結される養殖スタイルを指す。完全養殖を実現するためにはまず、目的の魚類の親魚から、質及び量ともに種苗生産に十分な配偶子を得なくてはならない。種苗生産に十分な配偶子を得るには、親魚の維持に十分な大きさの飼育施設と、適切な飼料による育成及び産卵誘導とが不可欠であり、多くのスペース及び労力を必要とする。そのため、多くの養殖業者が容易に導入できる程度まで種苗生産への利用が確立している魚種は少ないと言える。
この問題点を解決しうる技術として、代理親魚技法(surrogate broodstock technology)が注目されている。本技法は、配偶子を得ようとする目的の魚種をドナーとし、配偶子を生産させようとする魚種をレシピエントとし、ドナーの未分化な生殖細胞をレシピエントに移植して、レシピエントを代理親魚として利用する方法である。ドナーの未分化な生殖細胞としては、始原生殖細胞、精原細胞又は卵原細胞に例示される。本技法は、言い換えれば、ドナーの生殖細胞をレシピエントの生殖腺内で増殖又は分化させることによって、ドナーの配偶子を生産し、次いで、ドナーの次世代個体集団を作出する技法である。魚類の場合、雄の配偶子には運動性があり、精子と呼ばれるのに対し、雌の配偶子には運動性がなく、卵と呼ばれる。代理親魚技法において、精子を得ようとする場合には、雄のレシピエントにドナーの生殖細胞を移植し、一方、卵を得ようとする場合には、雌のレシピエントにドナーの生殖細胞を移植する。
代理親魚技法としては、例えば、特開2003-235558号公報及びFisheries for Global Welfare and Environment, 5th World Fisheries Congress 2008 (2008) p209-219には、ドナーであるヤマメ(masu salmon, Oncorhynchus masaou)の精原細胞を、同科同属のレシピエントである雌雄のニジマス(rainbow trout, Oncorhynchus mykiss)に移植することによってヤマメの卵と精子を得ることを含む、ニジマスを代理親魚とするヤマメの次世代個体の作出を行う方法が記載されている。
Science Vol.317 (2007) p1517には、3倍体のニジマスを作出してニジマス由来の精子及び卵が生産されない不妊の代理親魚を得ること、この不妊の代理親魚にヤマメの生殖細胞を移植することによって効率的にヤマメの精子と卵を得ることを含む、ヤマメの次世代個体を生産する方法が記載されている。また、特開2006-101845号公報には、3倍体のヤマメを作出して、これに、ニジマス由来の始原生殖細胞を移植する方法が開示されている。これらの方法によれば、レシピエント由来の卵及び/又は精子がほとんど形成されることがないので、数多くのレシピエントの配偶子の中からドナーの配偶子を選び取るという煩雑さを軽減でき、効率よくドナーの配偶子を得ることができると記載されている。
Fisheries Science Vol.77(2011)p69-77には、ブリの精原細胞をニベ(nive broaker, Nibea mitsujurrii)に移植した場合、ニベの生殖腺には取り込まれるものの、配偶子の生産には至らなかったことが記載されている。Biology of Reproduction Vol.82(2010)p896-904には、ニベの精原細胞をマサバに移植した場合に、マサバ生殖腺にニベ生殖細胞が取り込まれ、増殖していることも確認されたが、配偶子の生産には至らなかったことが記載されている。
本発明は、移植魚の作出方法、移植魚、ハイブリッド魚種の作出方法及びハイブリッド魚種に関する。